結論
群栄化学工業は、フェノール樹脂を軸に、半導体のフォトレジスト原料や鋳物用の樹脂、高機能繊維、さらに水あめなどの糖を手がける化学会社だ。売上の約85%は化学品で、海外の比率は3割を超える。2026年3月期は売上313億円、営業利益26億円だった。
筆者の結論は「やや割高」である。株価は自己資本の半分ほどに見えるが、安さは根拠にならない。純現金107億円と厚い有価証券を持ち、価値の下支えにはなる。それでも、確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額を2割ほど下回る。
一方で、資本効率は低い。自己資本は546億円と厚く、ROEは4%前後で、資本コストを大きく下回る。10年後の中立でも、ROEは4%台にとどまる。資産が厚いこと自体は株主の価値にならず、それを事業で生かせるかが問われる。
分かれ目は、電子材料と海外の拠点が、国内の鋳物・工業用の細りを埋められるかだ。経営は慎重で、財務は鉄壁だが、攻めには欠ける。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず10年後も存在する事業かを問う。フェノール樹脂は、電子材料から鋳物まで広い用途を持ち、需要はなくならない。予測の確度は高めだ。
オーナー利益は、営業利益26億円から、設備更新と研究の投資を引いた分である。群馬とインドの新設備への投資が続くため、当面は見かけの利益より小さい。
堀は、電子材料の品質と顧客との関係だが、鋳物や食品には堀は薄い。全体で見れば堀は普通だ。
資本の使い方は、この会社の最大の論点になる。自己資本546億円のうち、現金と有価証券が大きな割合を占め、稼ぐ力は4%前後で、資本コストを下回る。長年この状態が続いたのは、経営が株主への還元を急がなかったためだ。
安全域の点では、財務の安全は十分にあるが、資産の厚さは株主のものとして戻る確度が低い。バリュー投資家なら、事業の質を認めつつ、資本の使い方に慎重な見方を残すだろう。
何で稼ぐ会社か
化学品が売上の約85%、利益の9割強を占める。主力は、フェノールとホルマリンから作る合成樹脂だ。工業用のフェノール樹脂は、耐熱性と接着力を生かして、砥石、摩擦材、積層板、耐火物などに使う。鋳物用の粘結剤は、砂の型を固めるための樹脂で、自動車のエンジン部品などの鋳造に欠かせない。電子材料向けは、半導体のフォトレジストの原料で、会社の開示では大きな市場シェアを持つとされる。高機能繊維「カイノール」は燃えにくい繊維で、防護服や断熱材に使う。
食品事業は売上の約15%で、とうもろこしなどから作る異性化糖、ブドウ糖、水あめ、オリゴ糖を造る。化粧品原料への展開も進めるが、利益はほぼゼロに近い。不動産活用業は、保有する土地建物の賃貸で、売上は小さいが利益率が高く、利益全体の約6%を稼ぐ。
海外は、タイ、インド、台湾、米国に拠点があり、日本の売上は約66%だ。10%を超える顧客はいない。連結従業員は約540人で、研究開発費は14億円、新製品の売上比率は約1割である。
海外の子会社は、タイとインドで現地の自動車・電子向けに樹脂を造り、日本から技術と品質管理を移している。製品の用途が広いぶん、一つの顧客や一つの用途に利益が偏りにくい点は、この会社の守りになっている。
優良さと弱いところ
筆者が評価するのは、電子材料と特殊樹脂での地位だ。フォトレジストの原料は、顧客の工程に合わせた品質の作り込みが必要で、一度採用されると簡単には切り替えられない。大株主に、フォトレジストの大手である東京応化工業や信越化学工業が並ぶ点も、この関係の深さを示す。
一方、鋳物用や工業用の樹脂は、品質の差が付きにくく、価格は原料のフェノールの市況に左右される。国内の需要は、自動車の電動化と製造業の海外移管で細る。食品は、とうもろこしの相場と国の糖価の制度に縛られ、価格を決める力が弱い。
資本効率はこの会社の弱みだ。過去10年のROEは3〜4%台で、自己資本が381億円から546億円まで増えても、利益は同じ水準にとどまった。営業利益率も、5〜9%の間を動いている。
経営は堅実だが、攻めの規律には欠ける。群馬工場とインド工場への投資は評価できる。ただ、純現金107億円と有価証券を積んだまま、資本コストを下回る稼ぎで長年やってきた事実は重い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
フェノール樹脂は、成熟した用途と成長する用途が混在する。鋳物用や工業用は、自動車と建設の需要に連動して、国内では緩やかに細る。電子材料は、半導体の増産に連動して伸びる。世界の競合には、住友ベークライトなどの国内の大手や、中国・韓国の樹脂メーカーがある。
電子材料の中でも、フォトレジスト用の樹脂は、先端の半導体で品質の要求が厳しく、日本企業の強い分野だ。ただし、用途ごとの売上比率は開示されていない。AIによる半導体の増産が追い風になる一方、顧客の切り替えや材料の変更で一変する危険もある。
海外では、タイとインドで自動車や電子の需要が伸びる。会社は、インドに工場を新設中で、2027年の稼働を予定している。中国の樹脂メーカーとの価格競争は、アジアでの最大の課題だ。
食品は、異性化糖の需要が人口とともに細る成熟した分野で、とうもろこしの相場と国の糖の価格調整の制度に影響される。化粧品原料などへの展開は、今のところ小さい。
原料のフェノールは石油化学の市況に連動し、転嫁に時間差が出る。ナフサの供給不安の局面では、原料の調達も課題になる。
資本政策と M&A
還元の方針は、配当性向40%を目安とした安定配当だ。2026年3月期の配当総額は約6.6億円で、純利益の約3割にとどまった。2027年3月期は記念配当を含めて増やす予定だが、自社株買いは確認できなかった。株主優待は確認できなかった。
設備投資は、群馬工場の合成樹脂設備に約33億円、同工場の追加設備に約10億円、インド工場に約12億円で、いずれも今後の稼働を予定している。
政策保有株は、東京応化工業、群馬銀行、オイレス工業、横浜フィナンシャルグループ、三井化学などで、取引先の売却に応じて縮減してきた。賃貸不動産の帳簿価額は約11億円で、含み益は開示されていない。
大株主は個人が2人、信託口、信越化学工業、群馬銀行などで、単独の支配株主はいない。三井化学が2024年に6%台を保有した報告もある。筆者は、買収を期待して価値を上乗せしない。余った現金は、積み上がる一方だった実績から、株主に戻る確度を半分で見ている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
自己資本比率80%、純現金107億円という財務は、10年の景気の波を越えるのに十分だ。電子材料は、半導体の増産と先端化で伸びる分野で、フォトレジスト原料に大きなシェアを持つ。大株主に東京応化工業や信越化学工業が並ぶのは、この分野での深い取引関係を物語る。
直近の営業利益は前年から12%増え、経常利益は会社予想を18%上回った。設備投資は年36億円と、10年の間では最大規模で、群馬の合成樹脂設備とインドの新工場が順に稼働する。会社は2030年度に売上400億円、営業利益率10%を掲げ、足元の8.2%から上げる道筋を示した。
海外の売上は3割を超え、タイ、インド、台湾の拠点が現地の自動車と電子の需要を取り込む。配当は増配の方向で、2027年3月期は記念配当を含めて増配を予定する。
しかも、時価総額は自己資本の半分ほどにとどまる。有価証券だけでも、開示された上位5銘柄で帳簿価額が約85億円あり、資本効率の改善や株主還元の強化が始まれば、価値の見直しは大きい。
慎重な見方
ROEは過去10年間、3〜4%台で、資本コストをはるかに下回ってきた。自己資本が381億円から546億円まで増えても、利益は同じ水準にとどまった。つまり、ためたお金は稼いでいない。時価総額が自己資本の半分なのは、市場が資本効率の低さを織り込んでいるだけだ。
会社の中期方針の2030年度のROE目標は6%で、資本コストにも届かない。目標自体が低く、積極的に資本を使う意思は見えない。純現金107億円と有価証券は積み上がる一方で、自社株買いは確認できない。大株主に、個人が2人と信託口が並び、物言う株主の圧力も弱い。
鋳物用や工業用の樹脂は、自動車の電動化で縮み、中国の価格競争にもさらされる。食品は利益がほぼゼロで、不動産が利益を支えているという構図だ。2027年3月期の純利益予想は17億円と、今期より減る。
フェノールなどの原料価格の転嫁には時間差が出て、利益率は5〜9%の間を行き来してきた。電子材料の伸びは魅力的でも、全社の利益に占める比率は開示されておらず、確かめようがない。
どちらに重みを置いたか
財務の安全と電子材料の地位では、前者に分がある。だが、価値の計算では、後者が突く資本効率の低さと、現金が株主に戻らない可能性が重い。中立の筋書きでは、ROEは4%前後にとどまり、倍率は低く抑えられる。厚い純現金と有価証券は価値の下支えになるが、戻り方を半分で見るため、今の値段には届かない。確率は、中立を最も厚くし、楽観とやや楽観に相応の重みを置いた。事業の質が高い一方、現金が戻らない危うさは、戻り方を半分とすることで織り込んだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,163 円409 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,327 円88 億円)。 今の値に割り戻すと 3,835 円255 億円、今との差 −4.8%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 10,162 円675 億円 | 1,785 円119 億円 | +196.5% | +11.5% | 956 円63 億円 |
| やや楽観 | 22% | 8,279 円550 億円 | 1,568 円104 億円 | +144.3% | +9.3% | 2,166 円144 億円 |
| 中立 | 38% | 6,861 円456 億円 | 1,395 円93 億円 | +104.9% | +7.4% | 3,137 円208 億円 |
| やや悲観 | 22% | 3,709 円246 億円 | 1,133 円75 億円 | +20.1% | +1.9% | 1,065 円71 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,054 円70 億円 | 598 円40 億円 | −59.0% | −8.5% | 165 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,163 円409 億円 | 1,327 円88 億円 | +85.9% | +6.4% | 7,490 円497 億円 |
今の株価時価総額 4,030 円268 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 半導体向けと海外が伸び、利益率が10%を超える 利益 47 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 10,162 円675 億円
フォトレジスト原料などの電子材料が半導体の増産で伸び、国内の化学品の数量は10年で1.1倍を超える。タイ・インド・台湾の拠点は、現地の自動車と電子産業の成長を取り込み、海外の化学品は1.7倍になる。新しい工場の稼働が早く、付加価値の高い特殊樹脂の比率が上がって、価格は物価を上回る。営業利益率は10%を超え、2005年3月期の12.3%に近づく。食品は横ばいを保つ。現金は積み上がるが、設備投資に回る分が大きく、余り資金は限られる。配当性向は4割を保つ。ただし、ROEは自己資本が厚いため、この筋書きでも6%台にとどまる。
- 化学品(国内):数量 4.5(国内向けフェノール樹脂等の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 55(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 246 億円・営業利益 27 億円。数量1.12倍×価格1.38倍、利益率11.0%
- 化学品(海外):数量 6.0(海外向け樹脂の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 42(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 252 億円・営業利益 30 億円。数量1.70倍×価格1.40倍、利益率12.0%
- 食品・不動産活用:数量 4.6(糖類の出荷量(万トン・年、推定。不動産の賃料は1トンあたりに含めた))× 価格 14(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 65 億円・営業利益 3 億円。数量1.00倍×価格1.34倍、利益率5.0%
倍率:事業の純利益 45 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)97 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 675 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体向け樹脂とアジアの拠点が同時に伸び続ける姿。会社の2030年目標(営業利益率10%)を超える水準で、実現の確度は低い。
やや楽観 22% 中期方針どおり、売上と利益率が目標に近づく 利益 37 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 8,279 円550 億円
電子材料と特殊樹脂が伸び、国内の化学品の数量は10年で1.07倍になる。インドとタイの拠点が伸び、海外の化学品は1.5倍になる。群馬工場の新設備が稼働し、原料価格の上昇も製品価格に転嫁できる。営業利益率は9%台後半と、会社の目標10%に迫る。食品は糖の価格が原料のとうもろこし相場に連動して、売上は伸びても利益は小さい。現金は積み上がり、設備と研究の投資で一部を使う。配当性向は4割を保つ。ROEは5%台で、資本コストには届かない。会社が掲げる2030年度のROE目標6%は、この筋書きでほぼ達成される。ただし、それでも資本コストには届かず、価値の増え方は緩やかだ。
- 化学品(国内):数量 4.3(国内向けフェノール樹脂等の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 54(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 230 億円・営業利益 23 億円。数量1.07倍×価格1.35倍、利益率9.8%
- 化学品(海外):数量 5.3(海外向け樹脂の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 41(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 218 億円・営業利益 24 億円。数量1.50倍×価格1.37倍、利益率11.0%
- 食品・不動産活用:数量 4.4(糖類の出荷量(万トン・年、推定。不動産の賃料は1トンあたりに含めた))× 価格 14(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 61 億円・営業利益 3 億円。数量0.96倍×価格1.32倍、利益率4.5%
倍率:事業の純利益 36 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.1% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)88 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 550 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の2030年目標(売上400億円、営業利益率10%)に近い姿。直近の営業利益は計画を上回り、新工場の稼働も具体的に進んでいるので、中立に次ぐ重みを置いた。
中立 38% 売上は物価並みに伸び、利益率は8%台で定着する 利益 31 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 6,861 円456 億円
国内の化学品は、鋳物用の樹脂が自動車の電動化で細る一方、電子材料が伸びて、数量はほぼ横ばいを保つ。海外の化学品は、タイとインドの拠点が現地の需要を取り込み、数量が1.35倍になる。原料のフェノールの値上がりは製品価格に転嫁するが、時間差が出る。食品は国内の糖の需要が人口とともに細り、数量は0.92倍にとどまる。営業利益率は8%台後半と、今期の水準を保つ。留保した利益は設備投資と現金に分かれ、純現金は今より増える。配当性向は4割で、自己資本が積み上がるため、ROEは4%前後にとどまる。堅実だが、資本効率の低い10年だ。
- 化学品(国内):数量 4.1(国内向けフェノール樹脂等の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 53(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 218 億円・営業利益 19 億円。数量1.03倍×価格1.33倍、利益率8.8%
- 化学品(海外):数量 4.8(海外向け樹脂の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 40(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 192 億円・営業利益 19 億円。数量1.35倍×価格1.34倍、利益率10.0%
- 食品・不動産活用:数量 4.2(糖類の出荷量(万トン・年、推定。不動産の賃料は1トンあたりに含めた))× 価格 14(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 58 億円・営業利益 2 億円。数量0.92倍×価格1.30倍、利益率4.0%
倍率:事業の純利益 29 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.0% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)82 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 456 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:長期の実績は営業利益率5〜9%の中で動き、今期の8.2%は平均より高い。海外の伸びが国内の細りを上回る、という落としどころを最も重く見た。
やや悲観 22% 国内の需要が細り、値上げが通らず利益率が過去の平均に戻る 利益 21 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 3,709 円246 億円
国内の自動車向けの鋳物用樹脂や工業用樹脂が縮み、数量は10年で0.95倍に落ちる。中国の樹脂メーカーが東アジアで値下げを仕掛け、海外の利益率は8%に下がる。原料価格の転嫁も遅れる。食品は糖の消費の減少で赤字に近づく。群馬工場やインド工場の新設備は稼働が遅れ、減価償却の負担が先に出る。営業利益率は7%に下がり、ROEは3%台で、自己資本の厚さが重荷になる。配当性向は4割を保つため、純現金の積み上がりは鈍い。事業は壊れないが、新規投資の回収が遅れる10年になる。電子材料の伸びは続くものの、鋳物・工業用の縮小と海外の値下げを埋めるには足りない。経営は慎重なまま、現金を積み上げていく。
- 化学品(国内):数量 3.8(国内向けフェノール樹脂等の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 51(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 193 億円・営業利益 15 億円。数量0.95倍×価格1.28倍、利益率7.5%
- 化学品(海外):数量 4.1(海外向け樹脂の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 38(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 156 億円・営業利益 13 億円。数量1.15倍×価格1.28倍、利益率8.0%
- 食品・不動産活用:数量 3.9(糖類の出荷量(万トン・年、推定。不動産の賃料は1トンあたりに含めた))× 価格 13(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 51 億円・営業利益 1 億円。数量0.85倍×価格1.25倍、利益率2.0%
倍率:ROE 2.9% と k を大きく下回り、PER の上限は 1÷k=12.5 倍。稼ぐ力が弱い姿なので、上限の 7.2 割の 9.0 倍に置いた。余った現金 96 億円は戻り方 0.5 を掛けて足した。
確率:過去の営業利益率は5%台まで落ちた年が複数ある。中国勢との競合と国内の自動車向けの縮小を考え、無視できない重みを置いた。
悲観 10% 主要用途を失い、新規投資も回収できない 利益 7 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 1,054 円70 億円
半導体向けの電子材料で、顧客が別の素材や中国の供給元に切り替え、シェアを失う。自動車の電動化で鋳物用樹脂が急減し、工業用の需要も縮む。海外では中国勢の低価格品に押されて、新設したインド工場の稼働率が上がらず、減損が出る。食品は糖の制度が変わり、事業の採算が崩れる。営業利益率は3〜4%まで落ちる。自己資本の厚さと純現金は残るため、財務が危うくなることはないが、優良な化学会社という評価は外れる。配当は大きく減らして続ける。海外の新工場の減損と、国内の設備の縮小が重なり、利益は今の3割ほどまで細る。純現金と有価証券は手つかずで残り、財務が危うくなることはない。ただし、事業の稼ぐ力に対して資産が過大な会社として、価値は資産の売却や清算に近い水準で測られる。
- 化学品(国内):数量 3.2(国内向けフェノール樹脂等の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 46(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 146 億円・営業利益 6 億円。数量0.80倍×価格1.15倍、利益率4.0%
- 化学品(海外):数量 3.0(海外向け樹脂の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 35(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 104 億円・営業利益 4 億円。数量0.85倍×価格1.15倍、利益率4.0%
- 食品・不動産活用:数量 3.2(糖類の出荷量(万トン・年、推定。不動産の賃料は1トンあたりに含めた))× 価格 12(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 0 億円。数量0.70倍×価格1.10倍、利益率0.0%
倍率:稼ぐ力(純利益÷k)では約64億円だが、純現金と売れる資産の床(70億円)のほうが大きいので、今の自己資本546億円に掛ける PBR で床を置いた。現金や有価証券は清算されない限り少数株主の自由にならないので、帳簿の半分以下で見ている。市場の倍率は使っていない。
確率:電子材料のシェア喪失、鋳物の急減、食品の制度変更が重なる複合の姿。低頻度だが、新工場への投資が裏目に出る危険は無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
化学品(国内)
工業用・特殊フェノール樹脂、鋳物用粘結剤、電子材料用樹脂、高機能繊維などを国内の顧客に販売する。
| 数量国内向けフェノール樹脂等の出荷量(万トン・年、推定) | 価格1トンあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 40 | 159 | 14 |
| 10 年後 中立 | 4.1 | 53 | 218 | 19 |
取り方:化学品の売上265億円から、タイ・台湾・その他アジアなどの海外向け約106億円を引いて、国内向け約159億円と置いた。出荷量は約4万トン、1トン約40万円(電子材料などの高単価品を含む平均)と推定した。数量は実質の出荷量、物価3%は価格に入れる。化学品の利益23.8億円のうち、国内を13.5億円(利益率8.5%)、海外を10.3億円(9.7%)と推定した。
化学品(海外)
タイ・インド・台湾・米国などの拠点と輸出で、アジアを中心に樹脂を販売する。
| 数量海外向け樹脂の出荷量(万トン・年、推定) | 価格1トンあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.5 | 30 | 106 | 10 |
| 10 年後 中立 | 4.8 | 40 | 192 | 19 |
取り方:地域別売上のタイ39億円、台湾32億円、その他アジア28億円、その他6億円の合計106億円を、1トン約30万円(鋳物用など汎用品が中心で国内より安い)、年約3.5万トンと推定した。数量は実質、物価は価格に入れる。
食品・不動産活用
異性化糖・ブドウ糖・水あめ・オリゴ糖などの糖類と、保有不動産の賃貸。
| 数量糖類の出荷量(万トン・年、推定。不動産の賃料は1トンあたりに含めた) | 価格1トンあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.6 | 11 | 48 | 2 |
| 10 年後 中立 | 4.2 | 14 | 58 | 2 |
取り方:食品の売上45.6億円と不動産の賃料2.5億円の合計48.1億円を、糖類は1トン約10万円、年約4.6万トンと推定して置いた。数量は実質の出荷量、物価は価格に入れる。利益は食品0.35億円と不動産1.55億円の合計1.9億円。
リスクと懸念
資本効率の低さ
ROEは過去10年3〜4%台で、資本コストを下回り続けてきた。自己資本が積み上がっても利益は伸びず、中期方針の2030年度のROE目標も6%にとどまる。現金や有価証券が株主に還元される保証は弱い。
電子材料の顧客依存
フォトレジスト原料などの電子材料は、半導体の顧客の工程に合わせて作り込む。顧客が別の素材や供給元へ切り替えれば、シェアを短期間で失う恐れがある。用途別の売上比率が開示されておらず、全社の利益に占める割合も確かめにくい。
自動車の電動化と国内需要の縮小
鋳物用の粘結剤は、エンジン部品の鋳造に使う。電動化でエンジン部品が減れば、需要が細る。国内の製造業の海外移管も重なり、鋳物・工業用の数量は長期で下がる可能性が高い。
中国勢との価格競争
アジアでは、中国の樹脂メーカーが価格を下げて攻めている。タイやインドの拠点も例外ではなく、新設備の稼働率が上がらなければ、減価償却の負担が先に出る。
原料価格の変動
フェノールなど石油化学の原料は、市況で価格が大きく変わる。製品価格への転嫁に時間差があり、原料高の局面で利益率が圧縮される。過去の営業利益率は5〜9%の間を動いた。
大型設備投資の回収
群馬工場に約33億円と約10億円、インド工場に約12億円を投じる。稼働が遅れたり需要が想定を下回ったりすれば、投資の回収が遅れ、減損の対象になる。
食品事業の制度依存
異性化糖は、とうもろこし相場と国の糖の価格調整の制度に左右される。制度が変われば、薄い利益が消える可能性がある。化粧品原料などの新分野は、まだ小さい。
今後の分かれ目
- 会社が自社株買いや配当性向の引き上げを発表したら
- 余った現金の戻り方を0.5から引き上げて見直す。価値は厚い現金の分だけ上がる。
- 電子材料の売上が開示され、利益の3割以上を占めると分かったら
- 数量と利益率の前提を引き上げ、楽観・やや楽観の確率を上げる。
- 群馬工場とインド工場の稼働が計画どおり進み、稼働率が早期に上がったら
- 海外の数量を上方修正する。ただし、投資の回収を利益で確かめる。
- 政策保有株の売却を進め、売却益を還元に回す方針が示されたら
- 有価証券の価値の一部を余り資産として足せるか、実績を見て判断する。
- 国内の鋳物用・工業用樹脂の出荷量が2年連続で前年を下回ったら
- 国内化学品の数量を下方修正し、やや悲観に寄せる。
- 中国勢の低価格品が、半導体向けの特殊樹脂にまで及んだら
- 電子材料のシェア低下を想定し、悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 電子材料向けの売上動向と開示
- 群馬工場・インド工場の稼働開始時期と稼働率
- 配当性向・自社株買いの実績
- 営業利益率(会社目標2030年度10%)
- 純現金と有価証券の残高の推移
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(ROEがk以下なので上限は1÷k)から決め、今の株価やPBRは使っていない。自己資本が厚く、資本効率が資本コストを下回る会社なので、PBR1倍割れは割安の根拠にしていない。余った現金は、戻り方0.5を掛けて別に足した。有価証券と賃貸不動産は、配当と賃料が純利益に入っているため、余り資産として二重には足していない(売却方針と実績が確認できれば別に足す)。売上は数量(出荷トン数)×価格(物価並み1.34倍に近い1.28〜1.40)で積み、利益率は過去の山12.3%以下の8.7%に置いた。現金の利息増(約2億円)は純利益の比率0.75に織り込んだ。悲観は稼ぐ力から出した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→12.9 倍・やや楽観 PER 11→12.9 倍・中立 PER 10.5→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。