結論
イサム塗料は、事故で傷んだ車を塗り直すための自動車補修用塗料を主力にする大阪の塗料メーカーだ。筆者の結論は「適正」に近い。事業は小さいが堅く、そのうえ現金と有価証券を合わせて約150億円、時価総額の2倍の金融資産を抱える。ただ、その資産は長年ほとんど株主に戻っておらず、値打ちを額面どおりには数えられない。
本業の塗料は、売上84億円で営業利益9億円と、ここ数年で最も稼いだ。原材料の値上がりを販売価格に移し、利益率は11%に戻った。自動車の修理工場という、景気に左右されにくい顧客を持つのが強みだ。
一方で、長い目で見ると逆風もある。自動ブレーキなどの安全装置が広がり、事故そのものが減っていく。修理の件数が減れば、塗り直す塗料の量も減る。筆者は、国内の補修用塗料の量は10年で1割5分ほど細ると見る。
株主の構成も大事だ。創業家と見られる個人3名で54%を持ち、配当性向は15%にとどまる。自社株買いの実績も無い。金融資産は積み上がる一方で、少数株主がその使い道を決める力は無い。この会社の価値は、本業の稼ぐ力に、眠った資産の半分ほどを足した額だと筆者は考える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、イサム塗料は「良い小さな事業と、使われない大きな金庫を持つ会社」だ。
本業は悪くない。修理工場という固い顧客と、色を合わせる配合の蓄積を持ち、値上げも通る。設備はほとんど要らず、利益の多くが現金で残る。本業に使う資本だけで見れば、利回りは資本コストの2倍近い。
問題は金庫の中身だ。150億円の金融資産は、債券や預金で年に1〜2%しか回らない。株主に戻せば、株主自身がもっと良い使い道を選べる。だが、創業家が過半を握るこの会社では、戻る時期も額も読めない。オーナーとして持つなら、この資産は半分ほどの値打ちと見るのが筆者の考えだ。
安全域は確かにある。今の時価総額は金融資産の半分にすぎない。ただし、その安全域は少数株主の手の届かない所にある。事故の減少で本業が細る中、資産が眠り続ければ、時間は味方にならない。
何で稼ぐ会社か
事業は塗料の製造販売が中心で、売上の99%を占める。残りは子会社のイサム土地建物が大阪市北区に持つビルの賃貸だ。
主力は自動車補修用塗料だ。板金塗装工場は、事故車のへこみを直したあと、元の車体の色にぴったり合わせて塗り直す。そのためには、車種ごと、色番号ごとの調色の配合データと、それを現場で再現する塗料の体系が要る。イサム塗料は長年この配合と販売網を整え、自社では国内首位級と説明している。
このほか、建物の外壁や鉄部に塗る建築用塗料、機械や部品に塗る工業用塗料、家庭や工場で使うスプレー缶のエアゾールも手がける。工場は国内にあり、東南アジアには技術を供与している。
売り先は塗料の販売店と、その先の板金塗装工場、建設会社、工場だ。修理の需要は車の保有台数と事故の件数で決まり、新車の販売ほど景気に振れない。最近は水性の塗料に力を入れ、乾かす手間を省いた新しい塗料も出している。
従業員は連結で213名、平均の勤続は17年と長い。2026年3月期は値上げが浸透し、営業利益は前期の1.5倍になった。会社は2028年3月期まで増収増益を見込む。
優良さと弱いところ
強みは、補修用塗料という専門の領域に長く居続けたことだ。色を合わせる配合のデータと、修理工場との付き合いは、一朝一夕にはまねできない。塗料の代金は修理代の一部にすぎず、修理工場は値段よりも色の合いやすさと乾きの速さを重んじる。だから値上げが通りやすい。
実際、原材料が高騰した2022〜2023年に利益率は7%まで落ちたが、値上げで2026年3月期には11%に戻した。これは過去12年の山と同じ水準だ。
弱みは規模と資本の使い方にある。世界では関西ペイント、日本ペイント、アクサルタ、BASFなどの大手が補修用塗料を手がけ、研究開発の厚みで差がある。水性化や新しい車体の素材への対応で後れを取れば、色を合わせる力の強みも薄れる。
そして資本が稼いでいない。自己資本185億円のうち8割近くが金融資産で、ROEは過去10年の中央値で3.5%だ。本業だけなら資本コストを大きく上回るのに、眠った資産が全体の効率を下げている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の自動車補修用塗料の需要は、車の保有台数と事故の件数で決まる。保有台数は約8,000万台でほぼ横ばいだが、事故は減り続けている。自動ブレーキの義務化と高齢者の免許返納で、交通事故の件数は20年前の半分以下になった。
筆者は、この流れが10年続くと見る。運転支援の装置が古い車と入れ替わり、修理の件数は年に1〜2%ずつ細る。一方で、修理1件あたりの塗料の量は大きくは変わらない。センサーを積んだ部品の塗り直しは手間がかかり、修理代は上がるが、塗料の量は増えない。
電気自動車の増加も効く。車体にアルミや樹脂が増えれば、下地の処理と塗料の種類が変わる。新しい素材に合う塗料を早く出した会社が、修理工場の棚を押さえる。
業界の大きな流れは水性化だ。溶剤の揮発を抑える規制で、欧州はすでに水性が主流で、日本も大手の修理工場から切り替えが進む。イサム塗料も水性のベースコートを出しているが、関西ペイントや日本ペイント、外資のアクサルタも同じ市場を狙う。
建築用と工業用は、住宅の塗り替えや設備投資で振れる。ここは大手の量と価格の勝負で、イサム塗料の存在感は小さい。世界の塗料市場は新興国の都市化で伸びるが、国内の売上が中心のイサム塗料には、その伸びはほとんど届かない。
資本政策と M&A
資本政策は極めて保守的だ。配当は年2回の安定配当で、2026年3月期の配当性向は15%にすぎない。自社株買いの実績は無い。借入金も無い。
その結果、現金預金45億円、有価証券と投資有価証券84億円、長期預金19億円と、金融資産は約150億円に積み上がった。時価総額の2倍にあたる。自己資本は2015年の126億円から185億円に増えたが、その多くは配られずに残った利益だ。
株主は創業家と見られる個人3名で54%を持つ。経営の判断は創業家の意向で決まり、少数株主が還元を求める道は細い。買収の歴史も無い。
一方で、この構成はMBOや同業による買収の可能性も残す。金融資産の厚い会社は、ファンドや大株主にとって非公開化の対象になりやすい。だが、起きるかどうかも値段も読めないので、筆者は価値の計算に入れない。株主優待は無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
時価総額75億円で、金融資産は約150億円ある。借金は無い。本業の営業利益9億円をただでもらえる勘定だ。こんな値段は、どんな筋書きでも長くは続かない。
本業も強くなっている。値上げが通り、営業利益率は過去12年の山の11%に戻った。会社は来期以降も増益を見込む。修理工場は色の合いやすさで塗料を選ぶので、一度根づいた銘柄は簡単には替わらない。水性の新しい塗料も出し、環境の規制にも対応している。
事故の減少は確かだが、車の修理代は上がっている。センサー付きの部品は塗り直しに手間がかかり、高い塗料が使われる。量が少し減っても、単価で補える。
そして、この資産の厚さは非公開化や買収を呼び込む。創業家の世代交代や東証の要請で、還元を厚くするか、MBOに踏み切る可能性は十分ある。どちらでも少数株主に値段が付く。
待つ間も、本業は毎年数億円の現金を生み、資産はさらに厚くなる。下値の支えがこれほど厚い会社は珍しい。最悪でも、資産の一部が戻るだけで今の値段は報われる。
慎重な見方
金融資産が厚いのは事実だが、それが株主のものになる保証は無い。配当性向は15%、自社株買いはゼロだ。創業家が54%を握り、何十年も資産を溜め込んできた。この先10年も同じことが続くと見るのが自然だ。
本業は長い目で細る。自動ブレーキで事故が減り、修理の件数は毎年減る。電気自動車の新しい素材や水性化では、研究開発の厚い関西ペイントや日本ペイント、外資のアクサルタが有利だ。売上84億円の会社が、大手と同じ速さで新しい塗料を出し続けるのは難しい。
直近の利益率11%は値上げが一巡した山で、原材料がまた上がれば7%台に戻る。建築用と工業用は大手の価格の勝負で、利益の支えにならない。
帳簿の上で安く見える会社は、安いまま何十年も過ごすことがある。少数株主には、資産を引き出す手段が無い。
しかも資産の中身は株式や債券で、運用の損が出れば目減りする。金利が上がれば債券の値も下がる。本業が細り、資産も戻らないなら、時間は少数株主の敵になる。
どちらに重みを置いたか
どちらも事実に基づく。決め手は、資産が株主に戻るかどうかだ。過去の実績を見る限り、戻る見込みは小さい。そこで資産は半分の値打ちで数え、本業は事故の減少で量が細る形を中立にした。資産の厚さが下支えになるので悲観の確率は1割にとどめ、還元が厚くなる楽観は創業家の判断次第として低めに置いた。MBOの可能性は値段が読めないので確率には入れていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 8,902 円170 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 743 円14 億円)。 今の値に割り戻すと 4,837 円92 億円、今との差 +22.8%、 期待の年率 +9.4%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 13,146 円250 億円 | 1,312 円25 億円 | +267.0% | +13.9% | 1,157 円22 億円 |
| やや楽観 | 22% | 11,514 円219 億円 | 945 円18 億円 | +216.2% | +12.2% | 2,741 円52 億円 |
| 中立 | 40% | 9,928 円189 億円 | 682 円13 億円 | +169.3% | +10.4% | 4,244 円81 億円 |
| やや悲観 | 20% | 5,643 円108 億円 | 577 円11 億円 | +57.9% | +4.7% | 1,244 円24 億円 |
| 悲観 | 10% | 2,178 円42 億円 | 420 円8 億円 | −34.1% | −4.1% | 260 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,902 円170 億円 | 743 円14 億円 | +144.8% | +9.4% | 9,645 円184 億円 |
今の株価時価総額 3,940 円75 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:新しい塗料で修理工場を押さえ、還元も厚くなる 利益 13 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 13,146 円250 億円
水性と新素材向けの補修用塗料が修理工場に広く採用され、事故の減少による量の目減りをほぼ埋める。東南アジアへの技術供与も実を結び、出荷量は10年で5%減にとどまる。
修理1件あたりの手間と単価が上がり、塗料の値段は物価を少し上回る。営業利益率は12.5%に上がる。賃料も物価に沿って上がる。
東証の要請と世代交代を受けて、配当性向は3割台に上がる。それでも金融資産の大半は手元に残り、株主に戻るのは一部だ。本業の稼ぐ力は資本コストを大きく上回る。
修理工場との結びつきと色の配合の蓄積が、大手に対する防波堤として働き続ける。新しい塗料の採用が増えるほど、乗り換えの手間が堀になる。
- 塗料(自動車補修用・建築用・工業用・エアゾール):数量 9.5(出荷量(千トン。推定))× 価格 12(千トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 110 億円・営業利益 14 億円。9.5 千トン × 11.62 億(物価をやや上回る 1.40 倍)、利益率 12.5%
- 不動産賃貸(イサム土地建物):数量 1.0(賃貸の床(今を 1.0 とした指数))× 価格 1.37(年の賃料(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。賃料は物価 1.34 倍、利益率 45%
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)68 億円。全体の PER 15.94 倍、時価総額 237 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:本業の量がほぼ保たれ、還元も厚くなる筋書き。創業家の判断次第なので 1 割未満。
やや楽観 22% やや楽観:値上げが定着し、利益率11%台を保つ 利益 11 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 11,514 円219 億円
事故の減少は続くが、修理1件あたりの塗料の使用は保たれ、出荷量は10年で1割減る。値上げは物価並みに通り、営業利益率は11.5%を保つ。
水性の塗料への切り替えで、修理工場との関係はかえって深まる。大手との競争は続くが、補修用の専門メーカーとしての地位は揺らがない。
配当は少しずつ増えるが、配当性向は2割に届かない。金融資産はさらに積み上がり、少数株主の取り分は資産の半分ほどの値打ちにとどまる。
本業は地味だが、毎年10億円を超える現金を生み続ける。会社が見込む増益の道筋が、そのまま10年続く形だ。
- 塗料(自動車補修用・建築用・工業用・エアゾール):数量 9.0(出荷量(千トン。推定))× 価格 11(千トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 100 億円・営業利益 12 億円。9 千トン × 11.12 億(物価 1.34 倍)、利益率 11.5%
- 不動産賃貸(イサム土地建物):数量 1.0(賃貸の床(今を 1.0 とした指数))× 価格 1.37(年の賃料(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。賃料は物価 1.34 倍、利益率 45%
倍率:事業の純利益 9 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)68 億円。全体の PER 15.54 倍、時価総額 204 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直近の値上げの成果が定着し、量の減少が緩やかな筋書き。会社も増益を見込むので中立に次ぐ重さ。
中立 40% 中立:事故の減少で量は1割5分細り、利益は物価並み 利益 9 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 9,928 円189 億円
自動ブレーキの普及で事故は年に1〜2%ずつ減り、補修用塗料の出荷量は10年で1割5分減る。建築用と工業用は横ばいだ。値段は物価並みに上がり、売上は95億円前後になる。
営業利益率は10%と、直近の山よりやや低い所に落ち着く。原材料の値上がりは時間差で転嫁できるが、大手との競争で山の利益率は保てない。
配当性向は15%前後のままで、利益の大半は金融資産として積み上がる。自己資本は250億円を超え、ROEは3%台にとどまる。資産は眠ったままで、少数株主に戻るのは配当だけだ。
本業そのものは崩れない。修理工場との関係と色の配合が守りになり、量の目減りを値上げで埋め続ける。
- 塗料(自動車補修用・建築用・工業用・エアゾール):数量 8.5(出荷量(千トン。推定))× 価格 11(千トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 95 億円・営業利益 9 億円。8.5 千トン × 11.12 億(物価 1.34 倍)、利益率 10%
- 不動産賃貸(イサム土地建物):数量 1.0(賃貸の床(今を 1.0 とした指数))× 価格 1.37(年の賃料(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。賃料は物価 1.34 倍、利益率 45%
倍率:事業の純利益 7 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)68 億円。全体の PER 14.79 倍、時価総額 172 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:事故の減少で量が細り、値上げで金額を保つ、もっとも起こりやすい形。
やや悲観 20% やや悲観:新素材と水性化で後れ、利益率7% 利益 5 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 5,643 円108 億円
電気自動車の新素材と水性化の波で、研究開発の厚い大手が修理工場の棚を押さえる。イサム塗料の出荷量は10年で4分の1減る。
値上げは物価に届かず、10年で1.2倍にとどまる。営業利益率は原材料高を吸収しきれず7%に下がる。賃料も古いビルで伸びない。
配当は細り、金融資産の一部は本業の立て直しと設備に使われる。少数株主にとって、資産の値打ちはさらに遠のく。
建築用と工業用も、大手の値下げに押されて利益が出にくくなる。会社は本業の縮小を、手元の資産で耐える形になる。資本の効率はさらに下がる。株主への還元も増えない。
- 塗料(自動車補修用・建築用・工業用・エアゾール):数量 7.5(出荷量(千トン。推定))× 価格 9.96(千トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 75 億円・営業利益 5 億円。7.5 千トン × 9.96 億(1.20 倍)、利益率 7%
- 不動産賃貸(イサム土地建物):数量 1.0(賃貸の床(今を 1.0 とした指数))× 価格 1.10(年の賃料(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。賃料は 1.08 倍、利益率 45%
倍率:本業の稼ぐ力が落ちた筋書きとして、中立の 12 倍より下の 10.76 倍。余った現金は今の額の 0.75 倍に戻り方 0.5 を掛けて足した。
確率:大手との技術の競争で後れを取り、量と値段が同時に落ちる筋書き。
悲観 10% 悲観:補修用の地位を失い、本業はほぼ稼がない 利益 2 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 2,178 円42 億円
新素材と水性化への対応が決定的に遅れ、大手の修理工場から順に関西ペイントや外資に切り替わる。事故の減少も重なり、出荷量は10年でほぼ半分になる。
値段は上がらず、工場の固定費が重くのしかかる。営業利益率は2%まで下がり、本業はほとんど稼がない。賃料が細々と利益を支える。
金融資産は残るが、創業家の下で使い道は決まらず、一部は本業の赤字の穴埋めや失敗した投資に消える。少数株主に戻るのは、残った資産の半分ほどの値打ちにすぎない。会社は存続するが、優良な会社ではなくなる。人員の削減と工場の集約が避けられない。
- 塗料(自動車補修用・建築用・工業用・エアゾール):数量 5.5(出荷量(千トン。推定))× 価格 9.13(千トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 50 億円・営業利益 1 億円。5.5 千トン × 9.13 億(1.10 倍)、利益率 2%
- 不動産賃貸(イサム土地建物):数量 1.0(賃貸の床(今を 1.0 とした指数))× 価格 0.90(年の賃料(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。古いビルで賃料は下がる、利益率 40%
倍率:本業はほぼ稼がず ROE は k を大きく下回るので、PER は 1÷k の 12.5 倍より下の 8.82 倍。価値の大半は余った現金(今の額の 0.5 倍)に戻り方 0.5 を掛けた分。
確率:補修用の地位を失う構造的な負け。金融資産が下支えになるので 1 割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
塗料(自動車補修用・建築用・工業用・エアゾール)
自動車補修用塗料を主力に、建築・工業用塗料とエアゾールを製造販売。
| 数量出荷量(千トン。推定) | 価格千トンあたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.0 | 8.30 | 83 | 9 |
| 10 年後 中立 | 8.5 | 11 | 95 | 9 |
取り方:セグメント売上 83 億を、補修用(単価の高い調色品)と建築・工業用(単価の低い汎用品)を混ぜた平均単価をトンあたり 80 万円台と推定して約 1 万トン相当と置いた。数量の開示は無い。営業利益はセグメント利益 8.69 億。
不動産賃貸(イサム土地建物)
大阪市北区のビルの賃貸。
| 数量賃貸の床(今を 1.0 とした指数) | 価格年の賃料(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 1.02 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 1.37 | 1 | 1 |
取り方:その他セグメントの売上 1.02 億と利益 0.46 億。床は増減しない前提で指数 1.0。賃料は利益に残すので、建物の含み益は価値に別に足さない。
リスクと懸念
事故の減少
自動ブレーキの義務化と運転支援の普及で、交通事故の件数は減り続ける。修理の件数が減れば補修用塗料の量も減る。筆者は年に1〜2%の目減りを見込むが、普及が速ければ減少も速まる。
大手との技術競争
関西ペイント、日本ペイント、アクサルタ、BASFなどの大手は研究開発の厚みで勝る。電気自動車の新素材や水性化への対応で後れを取れば、修理工場の採用を失う。
資産が株主に戻らない
金融資産は時価総額の2倍あるが、配当性向は15%、自社株買いは無い。創業家が54%を握り、使い道は少数株主には決められない。帳簿の上の安さが何十年も続く恐れがある。
原材料の値上がり
樹脂、顔料、溶剤は石油化学の市況で動く。2022〜2023年のように急に上がると、転嫁までの間に利益率が7%台に落ちる。
国内依存
売上の大半は国内で、世界の塗料市場の伸びは届かない。人口の減少と車の保有台数の頭打ちが、そのまま需要の天井になる。
運用資産の損失
金融資産には株式や債券が含まれる。金利の上昇や株価の下落で評価が下がれば、自己資本と資産の値打ちが目減りする。
今後の分かれ目
- 配当性向の大幅な引き上げや自社株買いが発表されたら
- 眠った資産が株主に戻り始めた証拠で、戻り方を引き上げる。価値は大きく上に動く。
- 創業家によるMBOや同業による買収が提案されたら
- 少数株主に値段が付く。金融資産の厚さから、今の時価総額を大きく上回る値段になりうる。
- 営業利益率が2期続けて8%を割ったら
- 値上げの力が弱まった証拠で、やや悲観に寄せる。
- 水性や新素材向けの塗料で大手の修理チェーンに採用されたら
- 量の目減りを埋める力が見え、やや楽観に寄せる。
- 金融資産を本業と関係の薄い投資に回したら
- 資産の値打ちがさらに下がる。戻り方を引き下げる材料になる。
見ておくもの
- 配当性向と自社株買いの有無
- 営業利益率(10%の維持)
- 交通事故の件数と修理の需要
- 水性・新素材向け塗料の採用
- 金融資産の残高と運用の中身
- 創業家の持株の変化
倍率と資本コストの決め方
本業の倍率は正当化 PER の式(k 7.5%・残る割合 1/2・g 3%)から置き、金融資産の利息を除いた純利益に掛けた。金融資産約 152 億のうち 135 億を余った現金とし、創業家支配と低い還元から戻り方 0.5 で足した。今の PBR 0.4 倍や同業の値付けは根拠にしていない。facts の純現金が現金預金だけで金融資産を取りこぼしている点は BS で確かめて直した。リースは小さく新基準の影響は軽微。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→15.94 倍・やや楽観 PER 12.5→15.54 倍・中立 PER 12→14.79 倍・やや悲観 PER 10→10.76 倍・悲観 PER 8→8.82 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。