結論
住友化学は、石化基礎品・合成樹脂を担うエッセンシャル&グリーンマテリアルズ、半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂のICT&モビリティソリューション、農薬とライフサイエンスのアグロ&ライフソリューション、連結子会社・住友ファーマの医薬品事業という4本柱を持つ総合化学会社である。2024年3月期は住友ファーマの大型減損で過去最大の最終赤字(3,118億円)を出し、自己資本比率は30%割れまで悪化したが、ペトロ・ラービグ株式の一部売却や構造改革で2026年3月期は純利益610億円まで回復した。
ここでは4事業を数量×価格で積み上げ、石化は販売トン数×トン単価、半導体材料・農薬・医薬品は対象市場の実質規模×シェアで置いた。倍率は利益ベースの正当化PERで決め、事業全体のROEが資本コストを上回る年だけRONICの式を使い、下回る年は1÷kを上限に会社の質(石化・医薬の弱い堀)で割り引いた。
結果、中立は 10 年後に ROE 7.4%・PER 8.0 倍で時価総額約 9,352 億円(それまでの還元約 3,113 億円は別)。確率で重みづけた本質価値は今の時価総額(約 9,917 億円)より -43.4%、「割高」。資本コストは基本の 7.5% に quality(循環 +1.0・値決め力 0・借金 +1.0・寿命 +0.5 で +2.5%)を足して 10.0% とした。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、住友化学は「良い事業(農薬・半導体材料)」と「構造的に苦しい事業(石化基礎品)」と「当たり外れの大きい事業(医薬品)」が同じ屋根の下にある複合会社で、全社のオーナー利益を見積もるのが難しい典型例である。農薬・半導体材料だけを切り出せば資本コストを上回る安定した収益力があるが、石化基礎品は中国の増設という構造要因で当面価格決定力を取り戻せず、医薬品は新薬の成否に依存する不確実性が大きい。
経営陣は資産売却・持分縮小で構造を単純化しようとしており、この方向性自体は株主価値にかなう判断である。ただし実行には時間がかかり、2024年3月期の医薬品の大型減損のような想定外の損失が今後も起こり得る。安全域の観点では、純有利子負債が時価総額とほぼ同じ規模まで積み上がっており、財務の余裕は乏しい。農薬・半導体材料の質の高さを評価しつつも、会社全体として見れば「わかりやすい優良企業」とは言いがたく、確信度は中程度に留まる。
何で稼ぐ会社か
住友化学は2026年3月期にセグメントを4区分に整理している。エッセンシャル&グリーンマテリアルズ(売上6,788億円)は千葉・愛媛のエチレンセンターを核とする石化基礎品・合成樹脂・無機化学品で、中国の大規模増設による世界的な供給過剰に直撃され、直近まで赤字に近い利益率(2.1%)にとどまる。ICT&モビリティソリューション(売上5,742億円)は半導体用フォトレジスト(世界シェア7〜10%、EUV向けは約10%)やタッチパネル材料・ディスプレイ材料、自動車関連樹脂を含み、半導体材料は底堅いがディスプレイ材料の不振が重荷になっている。
アグロ&ライフソリューション(売上5,193億円)は農薬(世界シェア5.35%で世界6位、バイエル・BASF・コルテバ・シンジェンタの4強に次ぐ準大手)と動物用・飼料添加物などのライフサイエンスを担い、国内の農薬事業売上高では住友化学が首位に立つ。医薬品(売上4,519億円)は連結子会社・住友ファーマが担い、統合失調症治療薬や抗がん剤などの専門薬を中心とするが、2024年3月期に主力薬の減損で1,800億円規模の損失を出した過去がある。2026年春の公募増資で住友化学の保有比率は51.8%から45.8%以上まで下がったが、支配力は維持し連結子会社の位置づけは変わらない。
優良さと弱いところ
住友化学の堀は事業ごとに大きく異なる。農薬は各国の登録制度が参入障壁となり価格決定力があるが、ジェネリック化の進展で価格競争も強まっている。半導体材料(フォトレジスト)は顧客との共同開発と長年の品質実績に支えられるが、世界シェア7〜10%は信越化学・JSR・東京応化などとの激しい競争の中での位置であり、独占的な強さには届かない。これに対しエッセンシャル&グリーンマテリアルズ(石化基礎品)は中国・中東の増設プレーヤーとの価格競争が主で、住友化学に価格決定力はほとんどない。医薬品は新薬開発の当たり外れが大きく、2024年3月期の大型減損がそのリスクを如実に示した。
過去10年のROEは2018年3月期の14.4%から2024年3月期の−32.3%まで激しく振れ、資本コスト8.5%を安定して上回った年は少ない。自己資本比率は2026年3月期で29.6%、純有利子負債は時価総額とほぼ同額の9,429億円とかなり重く、財務の脆さの点検では純負債/自己資本・利払いカバー・自己資本比率のいずれも注意水準に触れる。会社はD/Eレシオ0.7倍程度を目標に資産売却・事業譲渡で有利子負債を圧縮中で、2026年3月期は前期から1,347億円減らした。全体として、農薬・半導体材料という堀のある事業の取り分はまだ利益の過半に届かず、石化の弱い堀と医薬の不確実性が会社全体の質を引き下げている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業種ノート(化学・総合化学・コモディティ樹脂・基礎化学品の節)どおり、石化基礎品・汎用樹脂は中国の大規模増設による構造的な供給過剰が10年単位で続き、日本国内はエチレン設備の統合・停止が進む。2026年の中東情勢に伴うナフサ供給の目詰まりは短期的な価格押し上げ要因だが、構造的な供給過剰という前提は変えない。住友化学はペトロ・ラービグ(サウジの石化合弁)の保有比率を37.5%から15%に下げてアラムコ側に売却し、持分法適用のまま関与を薄める形で石化のリスクを切り出した。
半導体材料・電子材料は業種ノートの「半導体材料・電子材料」の節の見通し(AIデータセンター投資・先端ロジック・メモリの投資サイクルに支えられ、最先端では当面日本・欧米企業の優位が続く)がそのまま当てはまり、住友化学のEUVレジストは次世代機向けでシェア30%を目指すと表明している。農薬は気候変動対応・食料安全保障の観点で底堅い需要が続くが、ジェネリック化による価格競争の強まりも業種ノートどおり。医薬品は住友化学固有の懸念で、住友ファーマの新薬開発の当たり外れが連結業績を大きく揺らす構図が続く。業界再編の動きとして、国内石化の事業統合、ケミカルエンジニアリング子会社の売却(JFEエンジニアリングへ66.6%売却)など、小さな事業の切り出しが続いている。
資本政策と M&A
株主還元は中長期で配当性向30%程度を目安に安定配当を掲げ、2026年3月期は配当性向36.3%・DOE2.31%の配当で、将来的に配当を段階的に引き上げたいとの方針を示している。資本政策の軸は資産売却・事業譲渡によるD/Eレシオ0.7倍程度への圧縮(格付け維持を意識)で、ペトロ・ラービグ株式の一部売却やケミカルエンジニアリング子会社の売却益を負債削減に回している。
住友ファーマは2026年春に最大1,400億円の公募増資を行い、住友化学の保有比率は51.8%から45.8%以上に薄まったが、連結子会社の位置づけは維持された。これは住友ファーマ自身の資本政策で、住友化学からの大型の追加出資ではない。大型M&Aは当面想定しにくく、むしろ非中核事業の切り出し(事業売却・持分縮小)が資本政策の中心である。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
農薬は世界シェア5.35%で世界6位という地位を持ち、気候変動対応・食料安全保障という構造的な需要の後押しを受ける。半導体材料はAIデータセンター投資・先端ロジック投資の拡大を背景に、フォトレジストのシェア拡大余地がまだ大きく、特にEUVレジストで次世代機向けシェア30%の目標が実現すれば、ICT&モビリティソリューションの利益はさらに伸びる。
石化基礎品はペトロ・ラービグの保有比率圧縮や国内エチレン設備の再編が着実に進んでおり、構造改革が計画以上に早く進めば、損失を出し続けてきた事業がようやく身軽になり、全社の利益体質を変える。医薬品についても、2024年3月期の大型減損で損失計上はすでに終わっており、住友ファーマは2026年に入り公募増資と業績回復で「再建フェーズから成長フェーズ」への転換を自ら表明している。これらが同時に進めば、全社の実力ベースの利益率は大きく改善し、ROEが資本コストを安定して上回る会社に変わる可能性がある。負債圧縮も進んでおり、D/Eレシオ0.7倍の目標が実現すれば財務の安全性も高まり、割安に放置された農薬・半導体材料の価値が正しく評価され直す。
慎重な見方
石化基礎品は中国・中東の大規模増設による構造的な供給過剰が10年単位で続く領域で、日本企業に価格決定力はほとんどなく、ペトロ・ラービグの保有比率を下げても完全には関与を断てない。国内エチレン設備の統合・停止が計画通りに進まなければ、低益率の事業がそのまま残り続け、全社利益を恒常的に押し下げる。
医薬品は新薬開発の当たり外れが極めて大きい事業で、2024年3月期の1,800億円規模の減損はその典型例であり、同様の損失が将来再び起きないという保証はない。住友化学は住友ファーマの保有比率を45.8%まで下げており、将来さらに持分を縮小する/切り出す可能性も岩田前社長自身が言及しているほどで、医薬品事業の位置づけ自体が不安定である。財務面では純有利子負債が時価総額とほぼ同規模まで積み上がり、自己資本比率は30%程度と心もとない。構造改革の実行スピードが遅れたまま金利が上昇する環境が続けば、利払い負担が純利益を圧迫し、農薬・半導体材料の伸びだけでは全社の低いROEを資本コスト以上に引き上げるのに時間がかかる。
どちらに重みを置いたか
農薬・半導体材料の底堅さは認めつつも、売上の3割を占める石化基礎品の構造的な供給過剰と、医薬品の当たり外れの大きさという2つの重い荷物が全社のROEを資本コスト近辺に押し留めている現実を重く見た。構造改革の実行には時間がかかるという慎重な見方に、より説得力があると判断し、中立をやや悲観側に寄せた確率配分(やや悲観・悲観を合わせて10年計32%程度)とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 942 円1.56 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 177 円2,916 億円)。 今の値に割り戻すと 513 円8,469 億円、今との差 −11.7%、 期待の年率 +6.8%(資本コスト 9.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 2,073 円3.42 兆円 | 340 円5,609 億円 | +315.6% | +15.3% | 241 円3,984 億円 |
| やや楽観 | 22% | 1,372 円2.27 兆円 | 249 円4,116 億円 | +179.4% | +10.8% | 357 円5,892 億円 |
| 中立 | 36% | 958 円1.58 兆円 | 189 円3,113 億円 | +97.5% | +7.0% | 413 円6,815 億円 |
| やや悲観 | 21% | 344 円5,682 億円 | 82 円1,359 億円 | −26.6% | −3.0% | 90 円1,479 億円 |
| 悲観 | 11% | 145 円2,401 億円 | 24 円400 億円 | −70.8% | −11.6% | 19 円308 億円 |
| 加重平均 | 100% | 942 円1.56 兆円 | 177 円2,916 億円 | +92.7% | +6.8% | 1,119 円1.85 兆円 |
今の株価時価総額 581 円9,586 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:農薬・半導体材料が全社利益の柱に育ち、石化・医薬も立て直る 利益 2,595 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,073 円3.42 兆円
石化基礎品は構造改革が完了し国内設備が身軽になり、ケミカルリサイクル技術の事業化も進んで益率8%まで改善する。半導体材料はEUVレジストのシェア拡大目標(30%)にほぼ届き、AI投資の恩恵を最大限に取り込んで益率14%に達する。農薬は気候変動対応の需要拡大とシェア拡大が続き益率19%、医薬品は新薬の継続的な成功と構造改革で益率17%まで改善し、全社利益の柱に育つ。無借金に近い財務体質(D/Eレシオ0.55倍)を保ちながら、4つの事業がすべて差別化できる構造に転換した、会社にとって最も理想的な10年になる。
- エッセンシャル&グリーンマテリアルズ(石化基礎品・合成樹脂・無機化学品):数量 226(石化基礎品・樹脂等の販売量(万トン、実質))× 価格 42(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 9,465 億円・営業利益 757 億円。益率8.0%、構造改革完了・リサイクル事業化
- ICT&モビリティソリューション(半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂):数量 650(対象市場の実質規模(億ドル、半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂の合計、2026年の物価で))× 価格 14.0%(住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に))→ 売上 13,650 億円・営業利益 1,911 億円。益率14.0%、EUVレジストのシェア拡大目標に近づく
- アグロ&ライフソリューション(農薬・ライフサイエンス):数量 900(対象市場の実質規模(億ドル、世界の農薬・ライフサイエンス市場、2026年の物価で))× 価格 6.5%(住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に))→ 売上 8,775 億円・営業利益 1,667 億円。益率19.0%、気候変動需要とシェア拡大
- 医薬品(住友ファーマ、連結子会社):数量 420(対象市場の実質規模(億ドル、専門薬市場、2026年の物価で))× 価格 13.5%(住友ファーマの取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に。米国の薬価抑制で指数は物価をやや下回る))→ 売上 8,505 億円・営業利益 1,446 億円。益率17.0%、新薬の継続的な成功
倍率:事業の純利益 2,595 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.0% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 32,438 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年間で石化の構造改革完了・半導体材料のシェア拡大・医薬品の安定成長という3つの変化がすべて実現する必要があり、実現すれば非常に強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 22% やや楽観:半導体材料・農薬が育ち、石化・医薬もじわり改善 利益 1,742 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,372 円2.27 兆円
半導体材料はAI投資の恩恵を長く取り込み益率12%まで改善し、農薬も気候変動需要の取り込みで益率17%に達する。石化基礎品は構造改革が着実に進み、国内設備の再編が一巡して益率6.5%まで戻すが、中国の供給過剰は依然として残り、価格決定力の完全な回復には至らない。医薬品は新薬の着実な成長と構造改革の効果が重なり益率14%まで改善するが、大型M&Aによる飛躍的な成長は実現しない。全社として半導体材料・農薬が利益の柱として育ち、石化・医薬の弱さを上回る10年になる。住友ファーマは公募増資後も連結子会社の位置づけを保ち、新薬の着実な積み上げで経営の安定感を取り戻す。資産売却によるD/Eレシオの改善も緩やかに進み、財務の安全性もじわりと高まる10年になる。
- エッセンシャル&グリーンマテリアルズ(石化基礎品・合成樹脂・無機化学品):数量 204(石化基礎品・樹脂等の販売量(万トン、実質))× 価格 39(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 7,961 億円・営業利益 517 億円。益率6.5%、構造改革が着実に進む
- ICT&モビリティソリューション(半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂):数量 580(対象市場の実質規模(億ドル、半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂の合計、2026年の物価で))× 価格 12.5%(住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に))→ 売上 10,875 億円・営業利益 1,305 億円。益率12.0%、AI投資の恩恵を長く取り込む
- アグロ&ライフソリューション(農薬・ライフサイエンス):数量 860(対象市場の実質規模(億ドル、世界の農薬・ライフサイエンス市場、2026年の物価で))× 価格 5.9%(住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に))→ 売上 7,611 億円・営業利益 1,294 億円。益率17.0%、気候変動需要の取り込み
- 医薬品(住友ファーマ、連結子会社):数量 390(対象市場の実質規模(億ドル、専門薬市場、2026年の物価で))× 価格 12.0%(住友ファーマの取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に。米国の薬価抑制で指数は物価をやや下回る))→ 売上 7,020 億円・営業利益 983 億円。益率14.0%、新薬の着実な成長
倍率:事業の純利益 1,742 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.79 倍、時価総額 20,538 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの中立シナリオの上振れとして、半導体材料・農薬の成長が石化の縮小を上回って全社の実質成長を押し上げる筋書き。
中立 36% 中立:構造改革は進むが、石化・医薬の弱さが成長を半分打ち消す 利益 1,169 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 958 円1.58 兆円
石化基礎品は構造改革が進み数量は実質的に縮小するが単価・益率は改善し益率5%になる。半導体材料はAI投資とシェア拡大で益率11%まで伸び、農薬は気候変動需要とシェア拡大で益率15.5%を維持するが、ジェネリック化による価格競争も同時に強まる。医薬品は構造改革の効果が出て益率11%まで回復するが、新薬の大きな上振れはなく既存薬中心の成長にとどまる。全社としては農薬・半導体材料の成長が石化の縮小と医薬品の不安定さを半分程度打ち消す10年になり、コングロマリット・ディスカウントは緩やかに縮むものの大きくは解消しない。
- エッセンシャル&グリーンマテリアルズ(石化基礎品・合成樹脂・無機化学品):数量 185(石化基礎品・樹脂等の販売量(万トン、実質))× 価格 36(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 6,741 億円・営業利益 337 億円。益率5.0%、数量は縮小するが単価・益率は改善
- ICT&モビリティソリューション(半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂):数量 520(対象市場の実質規模(億ドル、半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂の合計、2026年の物価で))× 価格 11.0%(住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に))→ 売上 8,580 億円・営業利益 944 億円。益率11.0%、AI投資とシェア拡大
- アグロ&ライフソリューション(農薬・ライフサイエンス):数量 820(対象市場の実質規模(億ドル、世界の農薬・ライフサイエンス市場、2026年の物価で))× 価格 5.3%(住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に))→ 売上 6,519 億円・営業利益 1,010 億円。益率15.5%、気候変動需要とシェア拡大
- 医薬品(住友ファーマ、連結子会社):数量 365(対象市場の実質規模(億ドル、専門薬市場、2026年の物価で))× 価格 10.5%(住友ファーマの取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に。米国の薬価抑制で指数は物価をやや下回る))→ 売上 5,749 億円・営業利益 632 億円。益率11.0%、構造改革の効果
倍率:事業の純利益 1,169 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 12,988 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの中立シナリオ(構造改革の進展で全社の実質成長率は年率2〜4%程度)と、住友化学固有の進捗ペースを組み合わせた、最も重みを置く筋書き。
やや悲観 21% やや悲観:構造改革が遅れ、医薬品も伸びず成長がほぼ止まる 利益 361 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 344 円5,682 億円
石化基礎品は構造改革が計画より遅れ、中国の増設も続くため益率1.5%にとどまる。半導体材料はディスプレイ材料の不振と中位グレードでの中国企業の追随が進み益率6%、農薬は底堅さを保つが価格競争の強まりで益率11%にとどまる。医薬品は新薬の伸びが乏しく構造改革の効果も限定的で益率5%にとどまり、一時的な減損が複数回発生する可能性も残る。全社としては農薬だけが安定し、他の3事業が低迷したまま10年が過ぎ、中期経営計画が掲げた成長軌道への回帰は実現しない。住友ファーマは新薬の伸び悩みに加えて保有比率のさらなる縮小も検討され、連結上の位置づけが不安定なまま10年を終える可能性がある。D/Eレシオの改善も計画より遅れ、財務の余裕が乏しい状態が続く。
- エッセンシャル&グリーンマテリアルズ(石化基礎品・合成樹脂・無機化学品):数量 167(石化基礎品・樹脂等の販売量(万トン、実質))× 価格 34(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 5,581 億円・営業利益 84 億円。益率1.5%、構造改革の遅れ
- ICT&モビリティソリューション(半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂):数量 450(対象市場の実質規模(億ドル、半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂の合計、2026年の物価で))× 価格 9.0%(住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に))→ 売上 6,075 億円・営業利益 364 億円。益率6.0%、中位グレードで中国の追随
- アグロ&ライフソリューション(農薬・ライフサイエンス):数量 760(対象市場の実質規模(億ドル、世界の農薬・ライフサイエンス市場、2026年の物価で))× 価格 4.6%(住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に))→ 売上 5,244 億円・営業利益 577 億円。益率11.0%、農薬だけ底堅い
- 医薬品(住友ファーマ、連結子会社):数量 330(対象市場の実質規模(億ドル、専門薬市場、2026年の物価で))× 価格 8.5%(住友ファーマの取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に。米国の薬価抑制で指数は物価をやや下回る))→ 売上 4,208 億円・営業利益 210 億円。益率5.0%、新薬の伸び乏しい
倍率:事業の ROE 2.7% が k 9% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 10.0 倍(ためた利益は額面未満)。利益が薄い谷の筋書きなので、PBR で自己資本を床にせず稼ぐ力(純利益 ÷ k)で測った。上限の 8 割の 9.44 倍に置いた。
確率:業種ノートの悲観シナリオ(構造改革が遅れたまま中国の供給過剰がさらに激化し、実質的な成長はゼロ近辺)に、医薬品の伸び悩みが重なる筋書き。
悲観 11% 悲観:構造改革が頓挫し、石化・医薬が構造的に負ける 利益 −300 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 145 円2,401 億円
石化基礎品は構造改革が頓挫し、中国の増設継続で国内エチレンセンターの多くが停止に追い込まれ、残った設備も益率マイナス8%の損失事業になる。半導体材料は中位グレードで中国企業の追随が進み、ディスプレイ材料も完全にシェアを失い益率2%まで落ち込む。農薬はジェネリック化の進展でシェアを一部失い益率4%まで低下する。医薬品は新薬開発が長期にわたって振るわず、想定外の減損も再発して益率マイナス10%の損失が続く。全社として構造改革前の低迷期に近い状態が10年続き、配当は資産売却や資産処分で最低限を維持するにとどまる。
- エッセンシャル&グリーンマテリアルズ(石化基礎品・合成樹脂・無機化学品):数量 120(石化基礎品・樹脂等の販売量(万トン、実質))× 価格 22(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 2,622 億円・営業利益 −210 億円。益率-8.0%、構造改革頓挫・設備停止が続く
- ICT&モビリティソリューション(半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂):数量 380(対象市場の実質規模(億ドル、半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂の合計、2026年の物価で))× 価格 7.0%(住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に))→ 売上 3,990 億円・営業利益 80 億円。益率2.0%、中国追随とディスプレイのシェア失い
- アグロ&ライフソリューション(農薬・ライフサイエンス):数量 600(対象市場の実質規模(億ドル、世界の農薬・ライフサイエンス市場、2026年の物価で))× 価格 3.5%(住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に))→ 売上 3,150 億円・営業利益 126 億円。益率4.0%、ジェネリック化でシェア一部失う
- 医薬品(住友ファーマ、連結子会社):数量 280(対象市場の実質規模(億ドル、専門薬市場、2026年の物価で))× 価格 6.0%(住友ファーマの取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に。米国の薬価抑制で指数は物価をやや下回る))→ 売上 2,520 億円・営業利益 −252 億円。益率-10.0%、新薬不振・減損再発が続く
倍率:構造的な負けで赤字が続くので稼ぐ力では値が付かない。売れる資産の税後 2,400 億円(今の自己資本 10,086 億円の約 2 割 4 分)に置いた。純負債が重く、自己資本の多くは回収できない前提。
確率:10年の構造的な負け筋。構造改革の遅れと中国の増設継続で石化事業の損失が続き、医薬品も新薬開発が振るわず、もう優良企業ではなくなっている筋書き。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
エッセンシャル&グリーンマテリアルズ(石化基礎品・合成樹脂・無機化学品)
千葉・愛媛のエチレンセンターを核とする石化基礎品・汎用樹脂・無機化学品。中国・中東の大規模増設による世界的な供給過剰にさらされるコモディティ事業。
| 数量石化基礎品・樹脂等の販売量(万トン、実質) | 価格1トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 250 | 27 | 6,788 | 144 |
| 10 年後 中立 | 185 | 36 | 6,741 | 337 |
取り方:会社開示のエッセンシャル&グリーンマテリアルズの売上6,788億円を、千葉・愛媛のエチレン系基礎品・樹脂の販売量合計約250万トンと推定して割った平均単価を価格とした。ペトロ・ラービグの保有比率圧縮や国内エチレン設備の再編で数量は実質的に減少が続く。
ICT&モビリティソリューション(半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂)
半導体用フォトレジスト(世界シェア7〜10%、EUV向け約10%)、タッチパネル材料・ディスプレイ材料、自動車関連樹脂を含む。
| 数量対象市場の実質規模(億ドル、半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂の合計、2026年の物価で) | 価格住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 380 | 10.1% | 5,742 | 459 |
| 10 年後 中立 | 520 | 11.0% | 8,580 | 944 |
取り方:半導体材料・ディスプレイ材料・モビリティ関連樹脂が戦う市場を合計約380億ドル(2026年の物価、実質)と置き、ICT&モビリティソリューションの売上がその約10.1%に当たるとした。AIデータセンター投資・先端ロジック投資で市場は実質的に伸びるが、ディスプレイ材料の不振がシェアの重荷になっている。
アグロ&ライフソリューション(農薬・ライフサイエンス)
農薬(世界シェア5.35%、世界6位)と動物用・飼料添加物などのライフサイエンス事業。
| 数量対象市場の実質規模(億ドル、世界の農薬・ライフサイエンス市場、2026年の物価で) | 価格住友化学の取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 700 | 4.9% | 5,187 | 779 |
| 10 年後 中立 | 820 | 5.3% | 6,519 | 1,010 |
取り方:世界の農薬・ライフサイエンス市場を合計約700億ドル(2026年の物価、実質)と置き、アグロ&ライフソリューションの売上がその約4.9%に当たるとした。気候変動対応・食料安全保障で市場は実質的に緩やかに伸びるが、ジェネリック化による価格競争も進む。
医薬品(住友ファーマ、連結子会社)
統合失調症治療薬・抗がん剤など専門薬を中心とする医薬品事業。2026年春の公募増資で住友化学の保有比率は45.8%以上に下がったが連結子会社の位置づけを維持。
| 数量対象市場の実質規模(億ドル、専門薬市場、2026年の物価で) | 価格住友ファーマの取り分(シェア×物価の指数、150円/ドルで億円に。米国の薬価抑制で指数は物価をやや下回る) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 300 | 10.0% | 4,519 | 271 |
| 10 年後 中立 | 365 | 10.5% | 5,749 | 632 |
取り方:統合失調症治療薬・抗がん剤等が戦う専門薬市場を合計約300億ドル(2026年の物価、実質)と置き、医薬品事業の売上がその約10.0%に当たるとした。2024年3月期の大型減損(1,800億円規模)の後、構造改革と新薬の伸びで益率は回復基調にあるが、米国の薬価抑制で価格は物価をやや下回る。
リスクと懸念
石化基礎品の構造改革の実行リスク
エッセンシャル&グリーンマテリアルズは中国・中東の大規模増設による構造的な供給過剰にさらされ、ペトロ・ラービグの保有比率圧縮や国内エチレン設備の再編を進めているが、実行には時間がかかり、途中で頓挫すれば低益率が長期化する。
医薬品(住友ファーマ)の新薬開発・減損リスク
2024年3月期に主力薬の価値見直しで1,800億円規模の減損を計上し、住友化学の連結最終損益を過去最大の赤字に落とし込んだ。新薬開発の当たり外れは今後も連結業績を大きく揺らす可能性があり、承認の遅れや競合薬の登場で収益化の時期が読みにくい。
住友ファーマの持分縮小・位置づけの不安定さ
2026年春の公募増資で住友化学の保有比率は51.8%から45.8%以上に下がった。経営陣は持分のさらなる縮小も選択肢として言及しており、医薬品事業の連結上の位置づけ自体が変わる可能性があり、連結対象から外れれば全社の利益構成が大きく変わる。
中国の供給過剰による石化・中位半導体材料の価格低迷
石化基礎品は技術の完成度が高く資本さえあれば増設できる領域で、中国メーカーの規模拡大が続く。半導体材料も中位グレードでは中国企業の追随が徐々に進み、長期的に価格決定力が侵食される可能性があり、高付加価値品への入れ替えの速度が問われる。
財務の脆さ・金利上昇の影響
純有利子負債は9,429億円と時価総額とほぼ同額で、自己資本比率は29.6%にとどまる。借金の借り換えが進むにつれて金利上昇の影響が純利益を圧迫し、D/Eレシオ0.7倍程度の目標達成が遅れれば、格付けや資金調達の柔軟性にも影響が及ぶ。
農薬のジェネリック化による価格競争
農薬は世界シェア5.35%で世界6位の地位を持つが、各国でのジェネリック化が進み、登録制度による参入障壁があっても価格競争が強まる可能性がある。中国・インド勢の追随が進む中位グレードでは、シェアの一部侵食も避けられない。
今後の分かれ目
- ペトロ・ラービグの持分圧縮や国内エチレン設備の再編が計画より早く進み、石化基礎品の益率が明確に改善し始めたら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。構造改革の進捗(売却・再編の件数や規模)を確認する。
- 住友ファーマで新薬開発の失敗や想定外の減損が再発したら
- やや悲観・悲観の筋書きの確率を上げてよい。減損の規模と、住友化学の連結最終損益への影響を確認する。
- 半導体材料でEUVレジストの次世代機向けシェアが30%の目標に近づいたら
- ICT&モビリティソリューションの利益の伸びを確認し、楽観・やや楽観側に重みを移してよい。
- 住友化学が住友ファーマの保有比率をさらに下げ、連結対象から外す決定をしたら
- 医薬品事業の損益が連結業績から外れることで、残る3事業(石化・半導体材料・農薬)のROE・利益率で評価し直す必要がある。
- D/Eレシオが目標の0.7倍程度まで順調に下がり、自己資本比率が明確に改善したら
- 財務の安全性の高まりを踏まえ、やや楽観側に重みを移してよい。
- 中国の石化・中位半導体材料の増設がさらに加速し、国内エチレンセンターの停止が相次いだら
- やや悲観・悲観の筋書きの確率を上げてよい。停止の規模と、構造改革の遅れの程度を確認する。
見ておくもの
- エッセンシャル&グリーンマテリアルズのコア営業利益・益率の推移
- ペトロ・ラービグ保有比率・国内エチレン設備再編の進捗
- 住友ファーマの業績・保有比率・新薬開発の進捗
- 半導体材料(フォトレジスト・EUVレジスト)の世界シェア
- 農薬事業の売上・世界シェアの推移
- D/Eレシオ・有利子負債・自己資本比率の推移
- 1株当たり配当の段階的な引き上げペース
倍率と資本コストの決め方
4 事業を市場規模×シェア(石化はトン数×単価)で積み、数量は実質・価格は物価 3% 込みの名目で置いた。資本コストは基本 7.5% に quality(+2.5%)を足した 10.0%。倍率は利益ベースの正当化 PER(弱い堀・残る割合 1/3)を上限に、石化・医薬の質の低さから中立を 8 割、やや楽観・楽観を 8.5 割に置いた。やや悲観は純利益 ÷ k の稼ぎの 8.5 割、悲観は赤字なので売れる資産の税後(概算)から置き、過去の PBR の底や谷の PBR は使っていない。今の PBR・PER は最後に比べただけで、筋書きの組み立てには使っていない。総合の差は -43.4%(割高)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9→12.5 倍・やや楽観 PER 8.5→11.79 倍・中立 PER 8→11.11 倍・やや悲観 PER 8.5→9.44 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。
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