結論
コタは、美容室だけに売るヘアケア製品のメーカーだ。ドラッグストアやネットでは売らない。売上は約96億円で、営業利益率は2割ある。
筆者の結論は、今の値段はやや割高ということだ。事業は堅いが、利益の伸びは物価と取引先の拡大で決まり、速くはない。10年後の中立の営業利益率は18%台とみる。この利益で測ると、本質価値は今の時価総額を下回る。
稼ぎの仕組みは独特だ。美容室に経営の助言まで無料で付け、その代わりに全品を使ってもらう。美容室は店販で稼げるので、同社の品を手放しにくい。取引先は約1.2万軒で、全国25万軒の約5%にすぎない。拡大の余地は、まだ国内にある。
弱みは、売り先が美容室ひとつに偏ることだ。美容室の数は減り続け、一人経営の店が増える。ネットでの非正規販売も、専売の看板を傷つける。海外には出ないと会社は明言している。
財務は無借金で、純現金が約36億円ある。還元は厚く、自社株買いも続けている。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額を約3割下回る「やや割高」だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の事業は好ましい。顧客の美容室に深く入り込み、売上が27年ほど増え続けた。資本は少なくて済み、利益の大半を株主に返せる。借金はなく、無理な買収もしない。
問題は値段である。10年後の利益を、物価と取引先の拡大から積み上げると、中立の純利益は約20億円だ。ここに資本コスト7.25%で測った倍率をかけても、今の時価総額は先取りが過ぎる。事業の質が高いことと、払ってよい値段は別の話だ。
堀の持続を見ると、美容室という顧客が一つの業態に偏る。その店の数は減り、一人経営が増える。同社の営業は人に依存するため、人材の確保が堀そのものになる。
安全域は薄い。悲観の筋書きでも、純現金と土地建物があるため破綻はしない。ただ、その場合の価値は今の時価総額の4分の1ほどだ。
筆者はこの会社を、よい事業だが、今の値段では持ち続ける理由が弱い、と見る。
何で稼ぐ会社か
コタは、美容室向けのシャンプー、トリートメント、整髪料、育毛剤を作って売る。売るのは美容室だけで、一般の消費者はサロンの店頭でしか買えない。
売上の約7割はシャンプーとトリートメントなどのトイレタリー、2割強が整髪料だ。育毛剤とカラー剤は小さい。事業は単一で、製品の中身を競う勝負ではなく、売り方の勝負になっている。
販売は直販と代理店が半々だ。中心にあるのは「旬報店システム」という仕組みである。同社の営業が美容室ごとの売上データを分析し、店販の伸ばし方まで助言する。見返りに、その店は同社の製品を全部使う。旬報店は約1,600軒(2021年3月時点)と少ないが、売上の約65%を占める。取引を始めて2年で店販が2倍になる、と会社は説明している。
製造は京都の自社工場に集中し、外部の倉庫に在庫を分けて備える。従業員は約390名で、営業のコンサル人材の育成が成長の速さを決める。
価格はブランドが決める。ネット通販や量販店に出さないことで値崩れを防ぎ、美容室の利益を守る。この約束が、取引先との信頼の土台だ。
優良さと弱いところ
同社の堀は、製品ではなく関係にある。美容室は経営の助言をもらい、店販で稼ぐ。ほかのメーカーの品に替えれば、その助言も実績も失う。この切り替えにくさが、27年ほどの連続増収と2割の営業利益率を支えてきた。
財務の規律も堅い。無借金で、自己資本比率は約76%ある。配当性向は30%を目途とするが、実績は4割を超え、自社株買いも続けている。資本を寝かさない姿勢は評価できる。
ただし筆者は、この堀を「強い堀」とまでは認めない。理由は三つある。
第一に、売り先が美容室という一つの業態に限られる。美容室の数が減れば、同社の市場も細る。第二に、競合が多い。ミルボン、資生堂プロフェッショナル、ウエラ、ルベルなどが同じ美容室に営業をかけている。第三に、ネットでの非正規販売は、売り方の約束そのものを崩しうる。
営業利益率は過去の山の24.8%から下がり、今期は20.8%、来期予想は18.3%だ。人件費と営業の人員が増える局面にあり、過去の高さを前提にはできない。
経営はオーナー色の強い経営から世代交代の時期にあるとみられる。2026年7月の決算短信では社長が吉田茂治氏と記されている。専売の流儀が次の世代でも守られるかは、見ておく点だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のヘアケアは、人口が減る成熟市場だ。数量は増えない。それでも美容室専売の分野は、店販を伸ばした店が生き残るため、一般品より底堅い。
国内の美容室は約25万軒ある。減少は緩やかだが、一人経営の店が増えている。この種の店は店販に使える時間が少なく、同社の営業モデルとは相性がよくない。
競合は大きい。ミルボンは美容室専売の最大手の一つで、海外も伸ばしている。資生堂プロフェッショナル、ウエラ、ルベルも同じ美容室を争う。専売ヘアケアの国内市場を約1,700億円と推定すると、同社のシェアは5〜6%だ(筆者の推定で、公表値ではない)。
追い風は、白髪やダメージ補修への需要、サロンで買う高価格帯への関心だ。物価が3%上がる世界では、専売品は値上げが通りやすい分野でもある。
逆風は、ドラッグストアの高価格帯ヘアケアの強化、ネット通販の非正規品、生活者の節約志向だ。海外はミルボンが米国や韓国で伸びている。同社は海外を「積極的に考えていない」としており、市場は国内だけに限られる。
この業界の分かれ目は、美容室の数と、店販をどれだけ伸ばせるかである。
資本政策と M&A
還元は厚い。配当性向は30%を目途とするが、直近の実績は4割を超え、自社株買いも続けている。2025年3月期は配当が約5.5億円、自社株買いが約6億円で、純利益の約9割を返した。
自己資本は約121億円、うち純現金が約36億円ある。月商の2か月分にあたる約16億円は運転資金に要るとみて、残りの約20億円は事業に要らない現金とみた。この現金は、還元の実績があるので、そのまま株主に戻ると考える。
設備投資は年3億円ほどで、駐車場や空調、ボイラーの更新が中心だ。工場は京都に1か所で、生産が集中している。
M&Aの実績はほとんどない。海外にも出ない方針で、資本の使い道は国内の営業人材と製造設備に絞られる。買われる側の可能性は、10年で約2割という外部の推定がある。ただし創業時からの経営の色が強く、筆者は確かな材料とは見ない。
10年の還元は、純利益の約8割とみた(配当と自社株買い)。利益が減る筋書きでは、還元も減る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
同社の仕組みは、美容室と利益を分け合う形になっている。美容室は店販を伸ばすほど経営が楽になり、同社の品を替えにくくなる。この関係が27年ほど増収を続けた土台だ。
取引先は約1.2万軒で、全国25万軒の約5%にすぎない。旬報店はさらに少なく、約1,600軒だ。ここを一つずつ開拓するだけで、国内だけでも数量は伸びる。物価が3%で続く世界では、専売品の値上げは通りやすい。ネットで売らない約束があるので、値崩れも起きにくい。
財務は無借金で、純現金がある。還元は厚く、自社株買いも続けている。営業利益率は2割と高く、会社の目標である経常利益率15%を大きく上回る。来期の減益予想は、人材や営業への先行投資の面が大きく、将来の成長のための支出だと読める。
海外に出ない方針は、見方を変えれば無駄な投資をしないという規律だ。ミルボンの海外は米国や欧州で赤字が続いている。国内の取りこぼしを拾う方が、利益率の高い成長になる。10年で数量が3割伸び、利益率が2割を保てば、時価総額は今の1.5倍以上になる。
慎重な見方
成長の源である美容室の数が減り続けている。一人経営の小さな店が増え、同社の営業モデルは届きにくくなる。旬報店は売上の約65%を占めるが、約1,600軒に集中している。大口の数軒が離れるだけでも影響は大きい。
営業利益率は24.8%の山から下がり、来期予想は18.3%だ。コンサル人材の採用と、物価で上がる人件費が利益率を押し下げる。これは一時の現象ではなく、構造だ。
ネットでの非正規販売は、専売の約束を崩す。偽造品やフリマの出品は、止めるのが難しい。美容室が店販で稼げなくなれば、同社の仕組みの前提が崩れる。
競合は強い。ミルボンは海外にも展開し、資生堂プロフェッショナルも美容室網を持つ。両社の営業力は同社より大きい。売り先も製造も京都に集中し、リスクの分散が効かない。
今の値段は、利益が物価並みに伸びる前提を先取りしている。10年の中心でも、利益は今の1.4倍ほどにとどまる。筆者は、この値段に見合う成長は見込みにくいと考える。
どちらに重みを置いたか
事業の質では強気の見方が優勢だが、値段の議論では慎重な見方が勝つ。仕組みの強さと無借金の財務は評価できるが、利益の伸びは物価と取引先の拡大に限られる。
中立は、数量が10年で1割5分増え、値段は物価並みに上がり、営業利益率は18.5%とする。倍率は正当化PERの8割強に置いた。確率は中立を軸に、美容室の減少が続く向きを重くみて、やや悲観と悲観に計35%を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,167 円340 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 424 円123 億円)。 今の値に割り戻すと 878 円256 億円、今との差 −21.3%、 期待の年率 +3.6%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,040 円594 億円 | 583 円170 億円 | +135.1% | +8.9% | 210 円61 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,638 円477 億円 | 522 円152 億円 | +93.5% | +6.8% | 432 円126 億円 |
| 中立 | 37% | 1,336 円389 億円 | 474 円138 億円 | +62.1% | +5.0% | 670 円195 億円 |
| やや悲観 | 23% | 640 円187 億円 | 343 円100 億円 | −11.9% | −1.3% | 226 円66 億円 |
| 悲観 | 12% | 291 円85 億円 | 154 円45 億円 | −60.1% | −8.8% | 53 円16 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,167 円340 億円 | 424 円123 億円 | +42.6% | +3.6% | 1,591 円464 億円 |
今の株価時価総額 1,116 円325 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 旬報店が広がり、専売の値段も通る 利益 28 億円 · PER 20.6 倍 · 株価時価総額 2,040 円594 億円
旬報店、つまり同社が経営助言まで付けて深く組む美容室が増え続ける。取引先は今の約1.2万軒から大きく広がり、国内シェアは1割に近づく。美容室は店販で稼ぐほど同社の品を手放せなくなり、値上げも通る。営業利益率は2割強を保つ。海外は手を出さないままだが、国内だけで10年間の数量が3割半伸びる。ネットでの非正規販売は取り締まりが進み、ブランドの傷にならない。コンサル人材の採用と育成も計画どおりに進み、人件費の上昇は値上げで吸収できる。同社の仕組みが、ほぼ理想の形で成熟する10年だ。会社の目標である経常利益率15%を、10年間ずっと大きく上回り続ける。取引先の美容室は店販で稼ぎ、同社の営業が出す提案を信頼して他社に移らない。営業人材の育成が計画を上回る速さで進み、旬報店の新規開拓が毎年積み上がる。京都の工場も増産に追いつく。ただ、これは全部が揃った場合の姿である。
- 美容室専売ヘアケア(シャンプー・トリートメント・整髪料など):数量 864(出荷本数(万本・推定))× 価格 2,100(1本あたりの出荷単価(円))→ 売上 181 億円・営業利益 39 億円。営業利益率21.5%
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.5% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)20 億円。全体の PER 20.57 倍、時価総額 594 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内で旬報店が増え続け、値上げも通り、ネット販売も抑える全部が揃う必要があり、実現すれば大きいが確率は低い。業界の楽観の幅(名目年6〜8%)に近い。
やや楽観 20% 旬報店の開拓が続き、利益率は2割を保つ 利益 24 億円 · PER 19.6 倍 · 株価時価総額 1,638 円477 億円
旬報店の新規開拓が毎年続き、数量は10年で2割5分伸びる。美容室の総数が減る中でも、店販に力を入れる店が同社に集まる。値段は物価並みに上げられ、利益率は2割前後を保つ。会社が掲げる経常利益率15%という目標を、大きく上回る水準だ。人件費は物価で増えるが、コンサル営業の質が落ちない限り顧客は離れない。ネット転売への対策も一定の効果を上げる。拡大は中期の計画どおりに進むが、一気に取引先が倍になるほどではなく、確かな成長が続く10年になる。物価で上がる人件費は値上げで吸収でき、利益率は大きく崩れない。還元も続くので、自己資本は膨らまず、ROEは1割台半ばで保たれる。
- 美容室専売ヘアケア(シャンプー・トリートメント・整髪料など):数量 800(出荷本数(万本・推定))× 価格 2,040(1本あたりの出荷単価(円))→ 売上 163 億円・営業利益 33 億円。営業利益率20.0%
倍率:事業の純利益 23 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)20 億円。全体の PER 19.61 倍、時価総額 477 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去27年ほど増収を続けた実績に近い筋書き。数量が年2%強伸びる前提で、過去の増収ペースが続けばこの形になる。
中立 37% 数量は緩やかに伸び、人件費の上昇で利益率はやや下がる 利益 20 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 1,336 円389 億円
国内のヘアケア市場は数量が伸びない。同社が伸びるのは、取引美容室を少しずつ増やして市場より速く育つからだ。10年で数量は1割5分増え、値段は物価並みの1.34倍になる。人件費が物価で増え、コンサル営業の人員も増えるため、営業利益率は今期予想の18%台に近い水準で落ち着く。過去の山である24%台には戻らない。美容室の数は減り続けるが、店販に熱心な店は残る。会社は還元を厚く続け、自己資本は膨らみすぎない。派手さはないが、毎年着実に増収を重ねる10年だ。京都の工場は設備の更新で対応でき、生産の支障は出ない。営業人員の増加と賃上げが利益率を押し下げる一方、値上げは通り続ける。こうして利益は名目で年3%前後伸び、数量は年1.4%ほど伸びる。
- 美容室専売ヘアケア(シャンプー・トリートメント・整髪料など):数量 736(出荷本数(万本・推定))× 価格 2,010(1本あたりの出荷単価(円))→ 売上 148 億円・営業利益 27 億円。営業利益率18.5%
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.5% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)20 億円。全体の PER 18.72 倍、時価総額 389 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内市場は数量が伸びず、同社は開拓で市場より少し速く育つ。今期予想の減益から読む利益率の低下も織り込んだ中心の筋書き。
やや悲観 23% 美容室の減少と非正規販売で、数量が伸びず値上げも通りにくい 利益 13 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 640 円187 億円
美容室の数が減り、一人経営の小さな店が増える。同社は大口の旬報店を軸にした仕組みなので、小さな店には営業の手間がかけにくく、新規開拓が鈍る。数量は10年でほぼ横ばいになる。ネットやフリマでの非正規販売も増え、値上げが通りにくくなる。価格は物価に追いつかず、10年で1.28倍にとどまる。一方で人件費や原材料は物価どおり上がり、営業利益率は14%台まで下がる。会社は還元を絞りつつも配当は続ける。専売の強みは残るが、成長が止まり、利益が減る10年だ。ミルボンなど大手は海外の成長で規模を増し、国内の提案力でも同社を上回り始める。同社の旬報店は数が増えず、既存の取引先の深掘りだけで成長を支えようとするが、限界がある。
- 美容室専売ヘアケア(シャンプー・トリートメント・整髪料など):数量 640(出荷本数(万本・推定))× 価格 1,920(1本あたりの出荷単価(円))→ 売上 123 億円・営業利益 18 億円。営業利益率14.5%
倍率:ROE 8.1% で k 7.25% をわずかに上回る。ROE が k を上回る間は PER の下限が 1÷k なので、下限の 13.79 倍に置いた。正当化 PER の上限は約 14 倍で、ほぼ同じ水準になる。
確率:美容室の減少は統計で確かな向きの変化で、一人経営の店は同社の営業が届きにくい。業界の弱めのレンジに当たる。
悲観 12% 専売の仕組みが崩れ、サロン離れで負ける 利益 4 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 291 円85 億円
専売の仕組みが崩れる。ネットでの非正規販売が止まらず、美容室は店販で稼げなくなり、同社の品を店頭に置く理由を失う。ミルボンや資生堂プロフェッショナルなど大手が旬報店のような深い提案を広げ、同社の美容室は他社に流れる。数量は10年で2割減り、値上げも通らず、価格は1.15倍にとどまる。固定費の重い営業人員と京都工場の稼働低下で、営業利益率は6%まで落ちる。配当は縮むが、純現金と土地建物があるため経営は続く。ブランドは残るが、もう優良な専売メーカーではない。配当を縮めても、無借金の財務のため経営は揺るがない。ただ、利益の質はもう優良とは言えず、事業の価値は稼ぐ力ではなく、持っている現金と資産で測られるようになる。
- 美容室専売ヘアケア(シャンプー・トリートメント・整髪料など):数量 512(出荷本数(万本・推定))× 価格 1,725(1本あたりの出荷単価(円))→ 売上 88 億円・営業利益 5 億円。営業利益率6.0%
倍率:利益が大きく細る筋書きで ROE は k を大きく下回る。稼ぐ力(純利益 3.8 億円÷k≒52 億円+余った現金)でなく、純現金と売れる資産の税後を床とし、今の自己資本 121 億円に 0.70 倍を掛けた約 85 億円で測る。
確率:専売の仕組みが崩れる負け方は一度始まると戻りにくい。同社は海外や他の販路を持たず、単一事業の脆さがあるので1割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
美容室専売ヘアケア(シャンプー・トリートメント・整髪料など)
美容室だけに売る頭髪用化粧品と医薬部外品。直販と代理店で半々。
| 数量出荷本数(万本・推定) | 価格1本あたりの出荷単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 640 | 1,500 | 96 | 20 |
| 10 年後 中立 | 736 | 2,010 | 148 | 27 |
取り方:本数は開示されない。国内の専売ヘアケア市場を約1,700億円と推定し、そのうち同社のシェアを5〜6%として、売上96億円と、店頭価格の約半分とみた出荷単価から出荷本数を約640万本と推定した。市場は実質(今の値段のまま)で置き、数量は取引先の美容室の増減とシェアで動く。価格は物価3%の名目で、10年で1.34倍が基本。
リスクと懸念
美容室の数が減り、一人経営が増える
国内の美容室は約25万軒で、緩やかに減っている。一人経営の店は店販に使える時間が少なく、同社の営業モデルと合いにくい。取引先の数が伸び悩めば、数量の成長の源が細る。
ネット・フリマでの非正規販売
同社は美容室専売をうたい、ネットやドラッグストアでは売らない。偽造品や転売品が広がると、美容室は店販で稼げなくなり、専売の約束が崩れる。取り締まりに終わりはなく、費用もかかる。
旬報店への集中
旬報店は約1,600軒で、売上の約65%を占める(2021年3月時点)。大口の数軒が他社に移るだけで影響が大きい。顧客の集中は、安定の裏返しでもある。
利益率の低下とコンサル人材
営業利益率は24.8%から下がり、来期予想は18.3%だ。営業のコンサル人材は育成に年数がかかり、人件費は物価で上がる。採用と教育が思うように進まなければ、拡大が止まる。
京都の工場への生産集中
製造は京都の自社工場に集中している。災害や設備の事故で止まれば、供給が途切れる。外部の倉庫に在庫を分散して備えるが、生産地そのものの分散はできていない。
経営の世代交代
2026年7月の決算短信では社長が吉田茂治氏と記されている。専売と旬報店の流儀は、創業以来の経営の思想に根ざす。世代交代の中で、その流儀が薄れる恐れがある。
今後の分かれ目
- 旬報店の数が年100軒以上のペースで増え、売上の伸びが5%を超えて続いたら
- 取引先の拡大が加速しているサイン。楽観・やや楽観側の確率を上げてよい。
- 営業利益率が16%を割り込み、2期以上続いたら
- 人件費と営業人員の重さが利益を削る構造とみて、やや悲観側の確率を上げる。
- 非正規販売の摘発が進まず、ネットの流通が目に見えて増えたら
- 専売の約束の前提が崩れる前触れとみて、悲観の確率を引き上げる。
- 海外展開や他の販路への進出を打ち出したら
- 単一事業の弱みを補う動きだが、実行の力は未知数。慎重に見る。
- 自社株買いや増配が続き、総還元性向が8割を超えて続いたら
- 資本を寝かさない姿勢の表れで、余った現金は株主に戻るとみてよい。
見ておくもの
- 旬報店の数と、売上に占める比率
- 営業利益率の四半期の推移(16%台を割るか)
- 非正規販売への対応と、美容室の店販比率
- 総還元性向と自社株買いの継続
- 美容室数の統計と、一人経営の店の増減
倍率と資本コストの決め方
数量と値段から10年後の利益を積み、倍率は正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限に対する8〜8.6割に置いた(k 7.25%、g 3.75%、堀は普通で残る割合 1/2)。やや悲観はROEがkをわずかに上回るので1÷kの下限13.79倍、悲観は稼ぐ力でなく純現金と売れる資産の税後で測り、過去のPBRの底からは置いていない。今のPERやPBRと同業の倍率は最後に比べただけで、寄せていない。決算の形は今と同じ(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17→20.57 倍・やや楽観 PER 16→19.61 倍・中立 PER 15→18.72 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.25% を足して 7.25%。同じ領域のミルボン(−0.25%)と同じ幅にした。売り先の偏りは寿命で見て、ブランドの傷や経営の世代交代は k に足さず、筋書きと確率で表した。