結論
KIMOTO(きもと)は、光学機器やスマホの部材、電子部品や電池の製造工程で使う機能性フィルムの会社だ。売上は100億円ほど。筆者の結論は、本質価値は今の時価総額を上回る「やや割安」。理由は、時価総額が手元の現金を下回っているのに、本業が資本コストを超える稼ぎを出せる可能性が高いことだ。
まず現金だ。現金同等物は110億円あり、借入はほとんどない。時価総額は100億円ほどで、工場と技術が値段の上でゼロ以下になっている。
次に稼ぐ力だ。営業利益は2025年3月期に13億円、2026年3月期に11億円で、利益率は10%台に乗っている。過去に赤字の期もあったが、工程用・産業用への軸足の移し替えが利益率を押し上げた。
不安は二つある。10年にわたって現金がほぼ動かず、会社が成長投資と新規事業に使う方針であること。デジタルツインが苦戦していること。ただ、配当に自社株買いを足した還元は、直近で利益を上回った。筆者は現金の価値を、戻り方を0.75で割り引いて数えた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、価格が現金の下にある事実が最大の材料になる。時価総額100億円に対し、手元の現金は110億円だ。会社の事業が資本コストを稼げるなら、事業は無料で手に入る。
ただし条件がある。現金が株主に戻るか、少なくとも浪費されないことだ。この会社は10年以上、現金をほとんど動かさなかった。成長投資に60億円を使う計画があり、デジタルツインのような新規事業の成否は読めない。筆者は現金の価値を、戻り方0.75で割り引いて数えた。
本業の稼ぐ力は、見る価値がある。工程用の製品は顧客の工程に入り込み、利益率が10%台に乗った。株主のものになる利益は、年に10億円前後を見込める。
安全域は厚い。悲観の姿でも、現金の半分ほどは価値が残る。わからない点は、経営者が現金をどう使うかだ。ここが変わる兆しが出たら、評価をさらに上げる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ口の中心は、フィルムの表面に特殊な加工をした工業用材料だ。基材のフィルムに塗料を塗り、光を通す・遮る・散らす、貼って剥がす、といった機能をつける。
大きく二つの顔がある。ひとつは光学機器やディスプレイ向けだ。カメラやスマホの内部で光を遮るフィルム、液晶の光を均一にする拡散フィルム、タッチパネルの表面を守るハードコートなどがある。需要はスマホの出荷に左右され、2023年3月期には東アジアのスマホ減産で営業赤字になった。
もうひとつは、工程用・産業用だ。電子部品や半導体、電池を作る工場の中で、部品を貼りつけて運ぶ、保護する、といった使われ方をする。輸送機器の電子部品向けも伸びている。顧客の工場の工程に入り込む製品なので、一度採用されると長く続きやすい。
販売は商社経由が多く、上位2社で売上の約3割を占める。光陽オリエントジャパンが17%、興和江守が12%だ。
第三の柱として、レーザー計測と360度撮影で工場や橋梁の3Dモデルを作るデジタルツイン事業を育てている。売上は全体の5%前後で、統合報告書は苦戦と認めている。
優良さと弱いところ
堀は、塗工の技術と、顧客の工程への入り込みだ。フィルムの表面に精密な層を作る技術は、一朝一夕には真似できない。特に工程用は、顧客の品質基準を通すまでに年単位の評価が要る。ただし、売上の約3割が商社2社に偏り、最終顧客の事情で数量が大きく動く。
収益性は上向いている。営業利益率は2023年3月期の−6.5%から、2025年3月期の11.9%へ戻り、2026年3月期も10%台に乗った。会社は低収益品の統合と高付加価値品の販売で利益率が上がったと説明している。ただし、過去12年で赤字の期は4回あり、安定した高収益とはまだ言えない。
財務は極めて堅い。自己資本比率は8割を超え、借入はほとんどない。
弱点は、資本の使い方が保守的な点だ。現金が長く動かず、政策保有株の解消を2027年までに進める方針を示したのも最近の話だ。海外子会社の北米・欧州は赤字が続いている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
市場は二つに分かれる。光学・ディスプレイ向けは成熟で、スマホとカメラの出荷が横ばいから細る中、中国勢の追い上げが厳しい。遮光フィルムや拡散フィルムは、中国や韓国の大手が汎用品で価格を落としてくる。日本の会社が守れるのは、特殊な加工が要る高付加価値品だけだ。
工程用・産業用は、半導体や電池、電子部品の製造工程で使われる。AIの計算基盤向けの半導体投資や、車の電動化に伴う電池・電子部品の増産が追い風になる。ただし電池は中国と韓国の勢いが強く、日本向けの需要は読みにくい。
原材料のフィルムや塗料は石油化学品だ。2026年は中東情勢でナフサが荒れ、会社は2027年3月期の業績予想を出せていない。原料の高騰を値段に転嫁できるかが利益率を左右する。
10年で見れば、光学向けは数量が2割ほど減り、工程用は4分の1ほど増えると筆者は見る。全体の数量はほぼ横ばいで、利益は工程用の比率で決まる。
光学向けの値段は、中国勢との競争で物価に届かず、10年で1割ほどしか上がらないと見る。工程用は顧客の品質基準を通した製品なので、値段を物価並みに上げやすい。この差が、全社の利益率を押し上げる主因になる。
資本政策と M&A
還元は積極的になってきた。配当性向40%を目標にし、2026年3月期は配当に3億円、自社株買いに約3.9億円を払った。合計は純利益の5.65億円を上回る。前年も自社株買いに約3億円を使っている。
資本政策の柱は成長投資だ。第6次中計は、3年で60億円(環境対応22.5億円、新規ビジネス31億円など)を投じる計画を掲げる。金融資産の比率を34%から18%に下げ、現金を事業用の資産へ移す考えだ。
株主は安定している。取引先の親睦会であるきもと共栄会が15%、創業者の一族が合わせて10%ほどを持つ。外部の大口株主は見当たらない。政策保有株は2027年までに解消する方針だ。
買収される側の可能性は、現金の厚さと時価総額の小ささから、無視はできない。ただし安定株主が厚く、敵対的な動きは起こりにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
時価総額は現金を下回り、本業は無料で付いてくる。営業利益率は10%台に乗り、会社は低収益品の統合と高付加価値品への転換で利益率を引き上げている。
工程用・産業用は、半導体と電池、電子部品の製造工程に入り込み、顧客を変えにくい。足元でも輸送機器向けと通信機器向けの増収が出ている。計画の2028年3月期の営業利益21億円に届けば、現金だけでなく本業の稼ぎでも価値は十分になる。
還元も動いている。直近の配当と自社株買いの合計は利益を上回り、政策保有株は2027年までに解消する。安定株主が厚いので、経営は長期の視点で資本を使える。会社が掲げる自己資本利益率8%以上の目標も、現金の使い方次第で十分に届く。株主構成が動かない限り、経営陣は時間をかけて改革を進められる強みもある。市場が現金の下まで売っているのは、悲観が行き過ぎている印と見る。新しい中計が掲げる自己資本利益率の目標も、市場が評価していない。
慎重な見方
現金が安いのではなく、市場が現金の使い道を疑っているだけだ。10年以上、現金はほとんど動かず、利益率が低かった時期は赤字が続いた。過去12年で赤字の期は4回ある。
スマホ・カメラ向けは、中国勢の追い上げと出荷の細りで縮む。2023年3月期に営業赤字へ転じた経験が、再び起こりうる。新規事業のデジタルツインは苦戦し、成長投資60億円の相当部分は回収できない可能性がある。
売上の約3割が商社2社に偏り、最終顧客の事情で数量が動く。原料の石油化学品が中東情勢で荒れ、転嫁できなければ利益率は一気に下がる。安定株主の厚さは、経営の規律を弱める面もある。商社2社に頼る販売の仕組みは、最終顧客の情報が遅れて届く弱さも抱える。現金の厚さは見かけで、経営陣が新規事業に使い切れば、株主の取り分は目減りする。過去の例が、この心配を裏づけている。しかも中計の利益率16%は、過去に一度も届いていない水準だ。前の中計も、中国の景気停滞を理由に未達で終わった。
どちらに重みを置いたか
現金の厚さと稼ぐ力の改善が、新規投資の不安を上回る。確率は中立に厚く、悲観は1割程度に抑えた。強気の見方で説得力があるのは、直近の還元が利益を上回った点。弱気の見方で重いのは、スマホ向けの急減と新規投資の失敗の前例だ。この点を考え、やや悲観は4分の1に置いた。両方の見方を比べると、現金の厚さがあるぶん、下値は浅いと見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 400 円175 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 142 円62 億円)。 今の値に割り戻すと 277 円121 億円、今との差 +20.4%、 期待の年率 +9.0%(資本コスト 8.3%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 807 円352 億円 | 229 円100 億円 | +350.3% | +16.2% | 62 円27 億円 |
| やや楽観 | 20% | 575 円251 億円 | 188 円82 億円 | +231.8% | +12.7% | 153 円67 億円 |
| 中立 | 37% | 456 円199 億円 | 160 円70 億円 | +167.9% | +10.4% | 228 円100 億円 |
| やや悲観 | 26% | 193 円84 億円 | 103 円45 億円 | +28.7% | +2.6% | 77 円34 億円 |
| 悲観 | 11% | 161 円70 億円 | 46 円20 億円 | −10.1% | −1.1% | 23 円10 億円 |
| 加重平均 | 100% | 400 円175 億円 | 142 円62 億円 | +135.9% | +9.0% | 543 円237 億円 |
今の株価時価総額 230 円100 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 6% 工程用フィルムが半導体・電池で伸び、新規事業も立つ 利益 21 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 807 円352 億円
工程用・産業用のフィルムが、半導体の製造工程と電池の製造工程で採用を広げる。数量は10年で6割増え、値段は物価並みに上がる。営業利益率は15%台後半まで上がる。会社が掲げる16%に近い姿だ。
光学・ディスプレイ向けは縮小がゆるやかで、利益率は11%を保つ。デジタルツインは橋や工場の3Dモデルの管理が定着し、売上が3倍になって黒字化する。
営業利益は28億円近くに達する。還元は配当に加えて自社株買いも続き、毎年の利益の7割を超える。筆者は、この姿が実現するには新製品の寄与が計画どおり立ち上がることが前提と見る。足元の利益率は10%で、前の中計は未達に終わった。確率は低く置く。
- 光学・ディスプレイ向けフィルム:数量 3.2(フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定))× 価格 13(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 4 億円。3.15×12.65、営業利益率 11.0%
- 工程用・産業用フィルム:数量 8.8(フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定))× 価格 15(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 130 億円・営業利益 21 億円。8.8×14.74、営業利益率 16.0%
- デジタルツイン・その他:数量 195(案件数(件・年、推定))× 価格 0.13(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 26 億円・営業利益 3 億円。195.0×0.134、営業利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 19 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.8% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 15 倍、時価総額 352 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画どおりに高機能品の比率が上がり、デジタルツインも黒字化する必要がある。前の中計が未達だった会社なので、確度は低い。
やや楽観 20% 工程用が堅調に伸び、光学向けは緩やかに縮む 利益 15 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 575 円251 億円
工程用・産業用のフィルムが、輸送機器の電子部品と電池の製造工程を中心に伸び、数量は10年で4割増える。値段は物価並みに上がり、営業利益率は14%台に上がる。
光学・ディスプレイ向けは、スマホとカメラの出荷が減る中で、数量が15%ほど縮む。値段は競争で物価に届かない。デジタルツインは小さく育つが、利益は薄い。
全社の営業利益は18億円台で、会社の計画の21億円に近づく。還元は配当性向4割を守り、自社株買いも出る。財務の安全度は高いまま、資本効率が資本コストを上回る姿だ。値段は工程用が物価並みに上がり、光学向けは競争で伸び悩む。筆者は、これを現実に近い上振れと見る。
- 光学・ディスプレイ向けフィルム:数量 3.0(フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定))× 価格 12(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 4 億円。2.975×12.32、営業利益率 10.0%
- 工程用・産業用フィルム:数量 7.7(フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定))× 価格 15(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 114 億円・営業利益 16 億円。7.7×14.74、営業利益率 14.0%
- デジタルツイン・その他:数量 130(案件数(件・年、推定))× 価格 0.13(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 17 億円・営業利益 1 億円。130.0×0.134、営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 14 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.7% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 13.58 倍、時価総額 251 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:工程用・電池向けの増収は足元で出ている。光学向けの縮小が緩やかなら、現実的な範囲だ。
中立 37% 工程用は伸びるが、光学向けは縮み、利益率は10%台前半 利益 12 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 456 円199 億円
工程用・産業用のフィルムは、電子部品と電池の製造工程で使われ、数量は10年で25%増える。値段は物価並みに上がるが、利益率は13%に留まる。足元の最高水準に届かず、原材料の石油化学品の値上がりを転嫁しきれない。
光学・ディスプレイ向けは、数量が2割減り、値段は競争で物価に届かない。デジタルツインは数量が5割増えるが、利益は薄い。
全社では、売上が150億円弱、営業利益が15億円前後になる。中計の2028年3月期の21億円は、10年のうちに届く姿ではなく、前の中計の未達を考えれば妥当と見る。
設備の償却は、既存分は取得時の値段のままで、新規の成長投資の分だけ新しい値段で上乗せされる。還元は配当性向4割を保ち、自社株買いは小さく続く。
- 光学・ディスプレイ向けフィルム:数量 2.8(フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定))× 価格 12(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 3 億円。2.8×12.1、営業利益率 9.0%
- 工程用・産業用フィルム:数量 6.9(フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定))× 価格 15(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 101 億円・営業利益 13 億円。6.875×14.74、営業利益率 13.0%
- デジタルツイン・その他:数量 97.5(案件数(件・年、推定))× 価格 0.13(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 1 億円。97.5×0.134、営業利益率 5.0%
倍率:事業の ROE 8.7%(余った現金を除く)。k 8.25%、残る割合 1/2 で RONIC=8.5%+1/2×(8.7%−8.5%)=8.6%、g 4% から正当化 PER=(1−4%÷8.6%)÷(8.5%−4%)=11.9 倍。ROE が k を超えるので下限は 1÷k の 12.33 倍。堀は普通で、利益の質を見て式の値と同じ 12.33 倍に置いた。
確率:工程用の需要は足元で増え、光学向けの縮小も見えている。利益率は過去の最高水準を下回る10%台前半に置く。この会社の歴史と最も近いため、厚く置いた。
やや悲観 26% 光学向けが急減し、新規投資も実らない 利益 6 億円 · PER 6.8 倍 · 株価時価総額 193 円84 億円
光学・ディスプレイ向けが、スマホとカメラの出荷減と中国勢の追い上げで3分の1以上縮む。値段は上がらず、利益率は5%に落ちる。工程用は値段を物価の分取り切れず、利益率は9%にとどまる。
新規事業と成長投資の一部は実らない。デジタルツインは黒字にならず、損失が続く。数十億円の成長投資は、利益に結びつかない。
全社の営業利益は6億円前後に落ち、純利益も小さくなる。余った現金は、投資と赤字の穴埋めで目減りする。配当は性向の方針を保てず、自社株買いも止まる。会社は2023年3月期にも同じ状況を経験しており、現実味は低くない。海外子会社の赤字が長引けば、負担はさらに重くなる。
- 光学・ディスプレイ向けフィルム:数量 2.3(フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定))× 価格 11(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 25 億円・営業利益 1 億円。2.275×11.0、営業利益率 5.0%
- 工程用・産業用フィルム:数量 5.5(フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定))× 価格 14(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 76 億円・営業利益 7 億円。5.5×13.75、営業利益率 9.0%
- デジタルツイン・その他:数量 65.0(案件数(件・年、推定))× 価格 0.12(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 8 億円・営業利益 0 億円。65.0×0.12、営業利益率 0.0%
倍率:事業の ROE は3%台で k 8.25% を下回る。RONIC=8.5%+1/2×(3.5%−8.5%)=6.0%、g 4% から正当化 PER=(1−4%÷6.0%)÷(8.5%−4%)=7.4 倍。稼ぐ力が資本コストに届かない分を見て6.8倍に置いた。余った現金は谷で食うとみて今の額の0.75倍を、戻り方0.75で足している。
確率:スマホ・カメラ向けは2023年3月期に実際に急減して赤字になった経験がある。中国勢の追い上げと、新規投資の失敗が重なる素地は小さくない。
悲観 11% 遮光・拡散の需要が消え、現金も新規投資で溶ける 利益 −3 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 161 円70 億円
光学・ディスプレイ向けが半分以下に縮み、価格競争で赤字になる。工程用も中国勢と顧客の内製化で数量が2割減り、利益率は3%に落ちる。デジタルツインは損失が膨らみ、撤退に追い込まれる。
全社の営業利益は赤字になり、成長投資の数十億円は回収できない。会社は現金を新規事業の穴埋めに使い続け、毎年の赤字が手元の現金を削る。配当は止まる。
この姿では、稼ぐ力は価値にならず、手元の現金と売れる資産が価値を決める。筆者は、現金がすべて株主に返るとは考えず、半分程度の価値と置く。清算されない限り、少数株主が現金の使い方を決められないためだ。過去の赤字期と同じ姿が長く続くことが前提になる。
- 光学・ディスプレイ向けフィルム:数量 1.6(フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定))× 価格 9.90(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 16 億円・営業利益 0 億円。1.575×9.9、営業利益率 -2.0%
- 工程用・産業用フィルム:数量 4.4(フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定))× 価格 12(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 53 億円・営業利益 2 億円。4.4×12.1、営業利益率 3.0%
- デジタルツイン・その他:数量 32.5(案件数(件・年、推定))× 価格 0.10(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。32.5×0.1、営業利益率 -10.0%
倍率:稼ぐ力は赤字で、価値は手元の現金と売れる資産の税後で決まる。現金同等物110億円に戻り方0.5を掛けて約55億円、売れる資産(投資有価証券・遊休地)の税後約15億円を足した約70億円を床にし、今の自己資本190億円に0.37倍を掛けた。事業に要る運転資金と将来の成長投資は、すでに床の外で見ている。
確率:2023年3月期の営業赤字の経験が、より深く長く続く姿だ。確度は低いが、赤字の期が過去12年で4回ある。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
光学・ディスプレイ向けフィルム
光学機器の遮光フィルム、拡散フィルム、タッチパネル用ハードコートなど。スマホ・カメラ・車載ディスプレイ向け。
| 数量フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定) | 価格1 百万㎡あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.5 | 11 | 39 | 5 |
| 10 年後 中立 | 2.8 | 12 | 34 | 3 |
取り方:製品別の売上は開示されていない。2025年3月期の売上の95%がフィルムで、用途は通信機器・電子部品・輸送機器・バッテリー・産業機器(有報)。光学・ディスプレイ向けを約4割と推定し、1㎡あたり0.1万円強とみて年約350万㎡とした。利益は日本セグメントの営業利益14億円、北米・欧州の赤字と本社費から配分した推定。価格は中立で10年1.10倍に置く(物価の1.34倍に届かない)。理由は、遮光・拡散フィルムが中国・韓国勢との価格競争にあり、値上げを通しにくいため。
工程用・産業用フィルム
電子部品・半導体・電池の製造工程で使う粘着・離型フィルムと、輸送機器向けの電子部品用フィルム。
| 数量フィルムの販売面積(百万㎡・年、推定) | 価格1 百万㎡あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.5 | 11 | 61 | 9 |
| 10 年後 中立 | 6.9 | 15 | 101 | 13 |
取り方:製品別の売上は開示されていない。統合報告書は、輸送機器向け電子部品・通信機器部材・工程材料が増収に効いたと説明している。フィルムの残り約6割を工程用・産業用と推定し、年約550万㎡とした。利益率は日本の営業利益率14.6%を基に推定。
デジタルツイン・その他
レーザー計測や360度撮影で工場・橋梁の3Dモデルを作り、管理を支援する。高機能性液、農業もここに含める。
| 数量案件数(件・年、推定) | 価格1 件あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 65.0 | 0.10 | 7 | −1 |
| 10 年後 中立 | 97.5 | 0.13 | 13 | 1 |
取り方:売上は全体の5%前後(2025年3月期でデジタルツイン4.6%、高機能性液0.4%)。1件あたり約1,000万円とみて年65件相当と推定した。統合報告書は「事業全体としては苦戦」と書いており、営業損失は推定。第6次中計の2028年3月期の売上目標は10億円。
リスクと懸念
スマホ・カメラ向けの急減
光学向けは出荷の細りと中国勢の追い上げで縮む。2023年3月期に東アジアのスマホ減産で営業赤字へ転じた。同じことが起これば、利益の半分が消える。
新規事業と成長投資の失敗
デジタルツインは苦戦し、中計は3年で60億円の成長投資を掲げる。回収できなければ、現金が目減りし、株主に戻る価値も減る。
商社2社への偏り
上位2社で売上の約3割を占める。最終顧客の在庫調整や内製化の影響が、商社経由で大きく出る。
原材料の高騰
基材のフィルムと塗料は石油化学品。中東情勢でナフサが荒れており、会社は2027年3月期の業績予想を出せていない。転嫁が遅れれば、利益率は下がる。
現金の使い道
10年以上、現金が動かず、会社は金融資産を事業用資産へ移す方針だ。買収や新規投資の失敗で、現金が目減りするおそれがある。
海外子会社の赤字
北米・欧州の子会社は赤字が続く。東アジアも赤字で、全社の利益を数億円削っている。立て直しか撤退の判断が遅れれば負担が続く。
今後の分かれ目
- 政策保有株の解消に続き、現金の使い道(還元・投資の上限)を数字つきで開示したら
- 余った現金の戻り方を1.0に引き上げる根拠になる。価値は大きく上がる。
- 工程用・産業用の売上が2期続けて前年を上回り、営業利益率が12%を超えたら
- 中立の利益率を上げてよい。楽観・やや楽観の確率を上げる。
- 光学向けの売上が前年比2割以上落ち込み、営業赤字になったら
- 2023年3月期の再来を疑う。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 成長投資の総額が60億円を超えたのに、売上・利益の目標が下方修正されたら
- 資本の使い方に疑問が出る。余った現金の戻り方を0.5へ下げる。
- 外部の大口株主が現れ、株主提案や面談の公表に動いたら
- 資本政策が変わる可能性がある。戻り方を上げる方向で見直す。
- デジタルツイン事業が2期続けて営業黒字になったら
- 新規事業が実を結んでいる。中立の同事業の利益率を上げてよい。
見ておくもの
- 工程用・産業用の売上と営業利益率
- 光学向けの出荷と受注
- 成長投資の実行額と回収
- 自社株買いと配当の総額
- 現金同等物と長期預金の推移
倍率と資本コストの決め方
倍率は、k 8.25%と長期の成長率4%から、利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)で決めた。事業のROEが約9%で k を超えるので、中立のPERは下限の1÷k(11.8倍)に近い11.8倍とした。今の株価や過去のPER・PBRは使っていない。時価総額が現金を下回る事実は、結果として割安に出ているだけで、倍率の根拠にはしていない。余った現金は、事業に要る運転資金と将来の更新分を差し引いた80億円とし、戻り方は直近の還元実績を見て0.75とした。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得時の値段のまま(年5.5億円)、成長投資の分だけ新しい値段で足した(10年後は年8億円台と推定)。純利益÷営業利益は、金利収入の増加(現金の運用)を入れ、過去の中央値に近づけた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.4→15 倍・やや楽観 PER 12.2→13.58 倍・中立 PER 11.8→12.33 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。