結論
新田ゼラチンは、牛骨や豚皮、魚の副産物から、ゼラチンとコラーゲンペプチドを作る会社だ。売上の7割がゼラチン、2割がペプチドで、薬のカプセル、食品、プロテインに使われる。
筆者の結論は、地味な素材だが利益の質が変わり始めており、今の値段は10年の稼ぐ力に対して低い、というものだ。
2026年3月期の営業利益は46.6億円と、2期連続で過去最高になった。赤字だった北米の工場を2024年1月に止めたこと、利益の厚いペプチドが伸びたことが効いた。
ただし、この会社は長く稼げなかった。営業利益率は2020年代前半まで3〜5%台で、2018年、2020年、2024年は最終赤字だった。今の12%が続くかどうかが、評価の分かれ目になる。
財務は堅い。自己資本比率は57%、純有利子負債は18億円だ。会社は還元の物差しである純資産配当率(DOE)を3%から4%へ引き上げる方針で、株主に報いる姿勢も出てきた。買収の対象になる可能性もある、小さいが落ち着いた素材会社だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「過去に傷んだ素材会社が、構造を直して稼ぎ方を変え始めた」例に見える。事業そのものは平凡だが、赤字工場を閉め、利益の厚いペプチドを伸ばすという資本の使い方は、筋が通っている。
気になるのは、利益の持続性だ。12年のうち営業利益率が10%を超えたのは、直近2年だけである。3回の赤字も記憶に新しい。バリュー投資家は、直近の最高益をそのまま永続させて評価しない。中立の筋書きでは、利益率を11%台に抑えた。
もう1つは、還元の方向だ。DOEの引き上げは、安い資本を株主に戻す意思の表れで、評価できる。ただし、投資に回す額も大きく、自由に使えるお金は限られる。
安全域は、今の値段にある。ためた利益に対して株価が低く、純有利子負債も軽い。利益が半分に戻っても、悲観の筋書きまで下がるのは稀という計算になる。筆者は、持ち続けたい事業ではないが、値段を考えれば検討に値する、と考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、動物の副産物を高い付加価値の素材に変える加工である。製品区分は4つあり、2026年3月期の売上はゼラチン274億円、コラーゲンペプチド73億円、食品材料30億円、バイオメディカル4億円だ。報告セグメントは「コラーゲン事業」の1つだけで、利益は区分ごとに開示されない。
ゼラチンは、ソフトカプセルやハードカプセルの皮、ゼリーやグミ、写真用など用途が広い。カプセル用や食品用は安定した需要がある。ペプチドはゼラチンを細かく分解したもので、肌や関節の健康食品、そして北米で人気のプロテイン飲料に使われる。成長が速く、利益率も高いと筆者はみる。
生産拠点は日本の大阪、インドのバムニ・プロテインズなどにある。北米は2024年1月に自社の生産を止め、いまは販売と提携が中心だ。インドは2025年6月からペプチドの能力を約2倍にし、2027年7月以降はペプチド年1,800トン、ゼラチン年7,500トンを目指す。
顧客は分散しており、売上の1割を超える相手先はない。原料の牛骨や豚皮の相場、食肉の需給、関税が原価に響く。連結の従業員は851人で、会社の規模は中堅だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、安定した品質と認証、そして顧客対応にある。ハラル・コーシャの認証は、イスラム圏やユダヤ教徒向けの食品・カプセルに使う時の入場券になる。薬のカプセルに使う素材は、顧客が品質を変えたがらない。
しかし、堀は深くない。世界のゼラチンはRousselot、Gelita、PB Leinerの3社で約5割を握り、新田ゼラチンは世界の1割に届かない中堅である。汎用の食品用ゼラチンは価格で決まる。2024年3月期の北米工場の停止や、インドの一時操業停止は、現場の運営がぶれやすいことを示した。
収益性は大きく改善した。営業利益率は2023年3月期の5.8%から、2025年が10.1%、2026年が12.3%へ上がった。原因は、赤字工場の停止、ペプチドの比率の上昇、インドの採算改善である。筆者はこれを、景気ではなく構造の変化の側が大きいとみる。
弱みは運転資本だ。在庫を減らしてキャッシュを生む力はまだ道半ばで、情報システム(ERP)の稼働も遅れている。バイオメディカル(コラーゲンマイクロファイバーなど)は計画より遅れ、まだ利益の柱ではない。経営は、2033年3月期に売上800億円、営業利益100億円という長期の目標を掲げる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ゼラチンは成熟した素材だが、世界の市場は調査会社の推計で2026年に約38億ドル、年6〜7%(名目)で伸びる見通しだ。約7割が食品・飲料向けである。日本は少子化でほぼ横ばい、アジアは所得の伸びで拡大、北米・欧州は安定成長と、会社は説明する。
成長の主役はペプチドだ。プロテイン飲料、美容、関節ケアの需要が世界で伸び、北米では人気が高い。筆者は、ペプチドの需要が10年で実質1.5倍ほどになるとみる。中国や欧州の大手との競争はあるが、ハラル認証や日本ブランドの品質で差をつける余地がある。
ゼラチン本体は、カプセルと食品が中心で、緩やかに伸びる。ここで効くのは原料の確保だ。牛や豚の副産物の供給は、食肉の消費、動物の疾病、関税で動く。代替肉や培養肉が広がれば、中長期では動物由来の素材の需要を押し下げる可能性がある。
競争の形は、世界の大手3社が規模で優位に立ち、新田ゼラチンのような中堅は、認証、品質、地域密着で戦う。M&Aによる再編は続いており、2019年にはDarling IngredientsがRousselotを買収した。再編の波は、中堅にとって売る側にも買う側にもなりうる。
資本政策と M&A
還元は、配当を軸に引き上げる段階にある。DOEの目標は、2027年3月期に3%、2033年3月期に4%だ。配当は2026年3月期に増やし、2027年3月期は配当性向が約3割になる計画である。自社株買いは、ここ数年ほとんどない。
投資は、インドの増強と新しい生産拠点の検討、大阪工場の改善に向かう。2027年から2032年の6年間で、営業キャッシュフロー410億円のうち、戦略投資に250億円、更新投資に90億円、株主還元に80億円を充てる計画だ。
株主は、アイビーピーが19%、ニッタが4.6%を持ち、安定株主の色が濃い。政策保有株は小さく、資産としての含み益は目立たない。TOBや再編については、規模と業界の再編を考えれば、買われる可能性も除けない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
構造が変わったことを、強気の見方は重く見る。北米の赤字工場を止めて、大きな足かせが消えた。営業利益率は10%を超え、2027年3月期の営業利益は47億円と、中計の目標を上積みして見込む。会社は2033年3月期に営業利益100億円を目指し、売上を800億円にする計画で、10年でその水準に近づくのは不可能ではない。
ペプチドは、プロテインや美容で需要が伸び続ける。インドの能力増強で、供給の制約も外れる。ペプチドの比率が上がれば、会社全体の利益率は押し上げられる。ゼラチンも、ハラル認証を武器に、アジアで売上を広げられる。
還元の方針も強気を後押しする。DOEが2033年3月期に4%まで上がれば、配当は今の約1.7倍に増える。純有利子負債は18億円と軽く、財務の余力が成長投資を支える。
強気の見立てでは、10年後の売上は830億円、営業利益は110億円に達し、時価総額は900億円近くまで育つ。バイオメディカルも売上80億円という会社の構想に近づけば、さらに上の余地がある。
慎重な見方
利益率が12%で安定するという見方に、慎重な見方は疑問を持つ。12年のうち10%を超えたのは2年だけで、それまでは3〜5%台だった。ゼラチンは世界の大手3社が価格を決め、中堅は景気や原料の相場に振り回される。2026年3月期の純利益は、税効果で押し上げられた面もある。
海外は、まだ落ち着いたとは言えない。北米は自社工場を止めて提携に頼る形になり、関税の影響も受ける。インドは2024年に一度止まった。能力を2倍にすれば、稼働が安定するまで固定費が先行し、利益率を押し下げる。
原料は動物の副産物で、疾病や関税、食肉の需給に左右される。代替肉や培養肉が広がれば、動物由来の素材そのものが敬遠されるおそれもある。中国のペプチド勢が価格を崩す可能性もある。
慎重な見立てでは、利益率は再び3〜5%台に戻り、時価総額は200億円を割る。2024年3月期の最終赤字は、北米だけでなくインドの人員整理も重なった結果で、同じことは繰り返し起こりうる。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、構造の変化という点で説得力がある。慎重な見方は、過去の利益率の低さと原料・海外の不安定さで説得力がある。筆者は、利益率を11%台に抑えた中立を最も厚い確率とし、強気側と慎重側をほぼ均等に置いた。慎重側には、やや悲観と悲観を合わせて3割を割り当て、赤字の歴史を反映した。ペプチドの伸びとインドの増強が計画どおりに進むかを、確率の見直しの最初の目印にする。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,057 円557 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 610 円111 億円)。 今の値に割り戻すと 1,908 円348 億円、今との差 +61.8%、 期待の年率 +12.0%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,762 円1,050 億円 | 938 円171 億円 | +468.3% | +19.0% | 670 円122 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,181 円762 億円 | 752 円137 億円 | +318.4% | +15.4% | 1,085 円198 億円 |
| 中立 | 38% | 3,305 円602 億円 | 620 円113 億円 | +232.9% | +12.8% | 1,491 円272 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,315 円240 億円 | 422 円77 億円 | +47.4% | +4.0% | 348 円63 億円 |
| 悲観 | 10% | 417 円76 億円 | 307 円56 億円 | −38.6% | −4.8% | 72 円13 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,057 円557 億円 | 610 円111 億円 | +211.0% | +12.0% | 3,667 円668 億円 |
今の株価時価総額 1,179 円215 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% ペプチドの比率が上がり、会社の目標に近づく 利益 62 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 5,762 円1,050 億円
プロテインと美容向けのペプチド需要が世界で伸び、インドの増強も計画どおり稼働する。ペプチドの市場は今の2倍になり、シェアは5%へ上がる。ゼラチンもアジアで市場を広げ、世界の市場は1.3倍、シェアは5.2%になる。
バイオメディカルは新素材(コラーゲンマイクロファイバー)が立ち上がり、食品材料と合わせた売上は78億円になる。営業利益率はペプチドの比率が3割まで上がり、全体で13%台に乗る。会社の長期目標の12.5%を少し上回る。
DOEは4%を超え、配当は大きく増える。10年後の自己資本は500億円ほどになる。
- ゼラチン:数量 7,300(世界のゼラチン市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 7.0%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 509 億円・営業利益 56 億円。世界のゼラチン市場7300億円(実質)× シェア5.2%、営業利益率11.0%
- コラーゲンペプチド:数量 3,600(世界のコラーゲンペプチド市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 6.7%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 241 億円・営業利益 48 億円。世界のペプチド市場3600億円(実質)× シェア5.0%、営業利益率20.0%
- 食品材料・バイオメディカル:数量 1,950(食品素材・バイオ関連の当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 4.0%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 78 億円・営業利益 8 億円。食品素材・バイオ市場1950億円(実質)× シェア3.0%、営業利益率10.0%
倍率:事業の純利益 62 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.05 倍、時価総額 1,050 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ペプチドの成長、インド増強、バイオの立ち上がりが全部そろう必要がある。会社の長期目標(2033年3月期に営業利益100億円)に近い水準で、条件が多いので1割にとどめた。
やや楽観 22% ペプチドと認証を武器に、利益率12%台を保つ 利益 48 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 4,181 円762 億円
インドの増強が計画どおり進み、ペプチドは市場が1.7倍に、シェアは4.8%に上がる。ゼラチンはカプセルと食品で緩やかに伸び、世界の市場は1.2倍、シェアは4.9%を保つ。
営業利益率は12%台前半に落ち着き、2026年3月期の12.3%とほぼ並ぶ。ペプチドの比率が上がる分、利益率は少し上がるが、原料と人件費の上昇が相殺する。
DOEは3.5%前後で推移し、配当性向は4割近くになる。10年後の自己資本は470億円ほどになる。
食品材料は市場が1.2倍に伸びてシェアを少し上げ、バイオメディカルも小さな黒字を出す。
- ゼラチン:数量 6,900(世界のゼラチン市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 6.6%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 453 億円・営業利益 46 億円。世界のゼラチン市場6900億円(実質)× シェア4.9%、営業利益率10.2%
- コラーゲンペプチド:数量 3,100(世界のコラーゲンペプチド市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 6.4%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 199 億円・営業利益 38 億円。世界のペプチド市場3100億円(実質)× シェア4.8%、営業利益率19.0%
- 食品材料・バイオメディカル:数量 1,850(食品素材・バイオ関連の当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 3.5%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 65 億円・営業利益 6 億円。食品素材・バイオ市場1850億円(実質)× シェア2.6%、営業利益率9.0%
倍率:事業の純利益 48 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍。全体の PER 15.78 倍、時価総額 762 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米の撤退後に利益率が上がった実績があり、会社の2027年3月期の予想とも整合する。ただし利益率の過去の低さを考え、中立を超える確率にはしない。
中立 38% 利益率は11%台にとどまり、売上は6割ほど増える 利益 39 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 3,305 円602 億円
ペプチドは世界の需要が1.5倍、シェアは4.5%に上がる。ゼラチンは世界の市場が1.1倍に伸び、シェアは4.9%を保つ。物価の分、売上は10年で約1.65倍の630億円になる。
営業利益率は11%台で、2026年3月期の12.3%を下回る。原料と人件費の上昇を、価格転嫁だけでは完全には吸収できず、減価償却の負担も増える。会社の長期目標(12.5%)には届かない。
DOEは3.5%前後で、配当性向は36%ほどになる。10年後の自己資本は440億円ほどで、ROEは9%近くに落ち着く。
食品材料とバイオメディカルは、売上が物価並みに伸びる程度で、利益の柱にはならない。ERPの遅れも解消し、在庫の圧縮が少しずつ進む。
- ゼラチン:数量 6,300(世界のゼラチン市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 6.6%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 414 億円・営業利益 39 億円。世界のゼラチン市場6300億円(実質)× シェア4.9%、営業利益率9.5%
- コラーゲンペプチド:数量 2,700(世界のコラーゲンペプチド市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 6.0%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 163 億円・営業利益 29 億円。世界のペプチド市場2700億円(実質)× シェア4.5%、営業利益率18.0%
- 食品材料・バイオメディカル:数量 1,725(食品素材・バイオ関連の当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 3.1%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 53 億円・営業利益 4 億円。食品素材・バイオ市場1725億円(実質)× シェア2.3%、営業利益率8.0%
倍率:事業の純利益 39 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍。全体の PER 15.01 倍、時価総額 585 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米撤退とペプチドの伸びという構造の変化と、過去12年の低収益という実績の両方を重く見て、確率を最も厚くした。
やや悲観 20% 関税と原料高で利益率が8%に戻る 利益 20 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,315 円240 億円
世界の関税の応酬と、動物由来の原料の高騰で、ゼラチンの採算が悪化する。ゼラチンは世界の市場が横ばいで、シェアも4.4%へ下がる。ペプチドは中国勢との価格競争で、シェアが3.8%にとどまる。
インドの増強は稼働が遅れ、固定費だけが先行する。営業利益率は8%に落ちる。2025年3月期の10.1%を割り、2023年3月期の5.8%に近づく。
配当は利益の35%を保つが、投資が重く、現金は積み上がらない。10年後の自己資本は380億円ほどになる。
食品材料は競争で横ばい、バイオメディカルも黒字化が遅れ、全体の利益を支える力はない。
- ゼラチン:数量 5,600(世界のゼラチン市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 5.9%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 330 億円・営業利益 23 億円。世界のゼラチン市場5600億円(実質)× シェア4.4%、営業利益率7.0%
- コラーゲンペプチド:数量 2,250(世界のコラーゲンペプチド市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 5.1%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 115 億円・営業利益 16 億円。世界のペプチド市場2250億円(実質)× シェア3.8%、営業利益率14.0%
- 食品材料・バイオメディカル:数量 1,500(食品素材・バイオ関連の当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 2.7%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 40 億円・営業利益 2 億円。食品素材・バイオ市場1500億円(実質)× シェア2.0%、営業利益率6.0%
倍率:ROE 5.2% は k の 7.75% を下回り、PER の上限は 1÷k = 12.9 倍。利益が薄く不安定な会社で、上限の約8割の 10.5 倍とした。
確率:12年のうち9年は営業利益率が5.8%以下だった。北米・インドで再び問題が出る、原料が高騰するなどで、8%前後に戻る形は十分ありうる。
悲観 10% 原料と競争で、過去の低収益に逆戻りする 利益 8 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 417 円76 億円
動物由来の素材への逆風(疾病・代替肉・規制)と中国勢の安値攻勢が重なり、ゼラチンの市場は縮み、シェアも4%まで下がる。ペプチドも価格が崩れ、3.2%にとどまる。
インドの増強が裏目に出て、稼働率が上がらない。営業利益率は4%に落ち、2018年から2024年の水準に戻る。固定費が重い中で、最終赤字の年も出る。物価の分だけ人件費や電力費も上がり、値上げが通らなければ利益は削られる。
配当は半減に近い水準に抑えられる。減損もあり、10年後の自己資本は350億円ほどになる。
それでも借金は軽く、倒産には至らないが、株主にとっては長く配当の少ない会社になる。
- ゼラチン:数量 5,040(世界のゼラチン市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア)× 価格 5.4%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 270 億円・営業利益 11 億円。世界のゼラチン市場5040億円(実質)× シェア4.0%、営業利益率4.0%
- コラーゲンペプチド:数量 1,800(世界のコラーゲンペプチド市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 4.3%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 77 億円・営業利益 6 億円。世界のペプチド市場1800億円(実質)× シェア3.2%、営業利益率8.0%
- 食品材料・バイオメディカル:数量 1,300(食品素材・バイオ関連の当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア)× 価格 2.3%(当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍))→ 売上 30 億円・営業利益 1 億円。食品素材・バイオ市場1300億円(実質)× シェア1.7%、営業利益率3.0%
倍率:事業の利益が薄く、ROE は k を大きく下回る。稼ぐ力は低く、構造的に負けた会社として、やや悲観よりさらに低い 9.5 倍とした。時価総額は今の自己資本の約3割。
確率:2018年、2020年、2024年と過去12年に3回の最終赤字がある。再び工場の問題や原料・規制の変化が重なる形は、頻度は低いが現実的にありうる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ゼラチン
カプセル・食品・写真などに使う牛骨・豚皮由来のゼラチン。日本・インド・北米向け。
| 数量世界のゼラチン市場(億円、今の値段で測った実質)× 当社シェア | 価格当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,600 | 4.9% | 274 | 27 |
| 10 年後 中立 | 6,300 | 6.6% | 414 | 39 |
取り方:世界のゼラチン市場を調査会社の推計約37.6億ドル(2026年)×150円で5,600億円とし、当社のゼラチン売上274億円(開示)を割ってシェア4.9%を得た。営業利益は区分別に非開示のため、全社の営業利益率12.3%のうちゼラチンを10%と筆者が推定した。
コラーゲンペプチド
ゼラチンを分解した健康食品・プロテイン向けの素材。日本・北米・アジア向け、インドで増強中。
| 数量世界のコラーゲンペプチド市場(億円、実質)× 当社シェア | 価格当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,800 | 4.0% | 73 | 16 |
| 10 年後 中立 | 2,700 | 6.0% | 163 | 29 |
取り方:ペプチドの世界市場は開示が乏しく、約1,800億円と筆者が推定した。当社の売上72.65億円(開示、前期比+12%)を割って、シェアは約4.0%。営業利益率は全社より高いとみて22%と推定した。
食品材料・バイオメディカル
食品用の素材(ゲル化・安定剤など)と、研究試薬・医療材料。
| 数量食品素材・バイオ関連の当社が狙える市場(億円、実質)× 当社シェア | 価格当社のシェア × 物価の倍率(今は1、10年で1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,500 | 2.3% | 34 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1,725 | 3.1% | 53 | 4 |
取り方:食品材料30.0億円とバイオメディカル3.7億円の合計33.7億円。狙える市場を約1,500億円と筆者が推定し、シェア約2.2%とした。営業利益率は低めの9%と推定した。
リスクと懸念
利益率が過去の低水準へ戻る
営業利益率は2023年3月期まで3〜5%台で、直近2年の10〜12%が例外的に高い。原料や関税、海外工場の稼働でぶれやすい。2018年、2020年、2024年の3回、最終赤字になっている。
海外の生産拠点の不安定さ
北米の自社工場は生産性の悪化で2024年1月に止め、インドも同年に一時操業を止めて人員を94人削減した。インドの能力を2倍にする投資は、稼働の遅れが固定費に直結する。
動物由来の原料の調達
牛骨や豚皮の供給は、食肉の消費、動物の疾病、関税で動く。調達先の多様化を進めるが、相場の急変は原価を押し上げる。代替肉や培養肉の広がりは、中長期で需要の逆風になる。
世界大手との競争
ゼラチンはRousselot、Gelita、PB Leinerの3社で約5割を占め、規模で優位にある。中国勢のペプチド攻勢も強まり、価格競争が利益を削る可能性がある。
在庫と運転資本の重さ
在庫の削減とキャッシュ・コンバージョン・サイクルの改善は道半ばで、情報システム(ERP)の稼働も遅れている。運転資本が重いと、還元の原資が細る。
新規事業の遅れ
バイオメディカルは海外販売が伸びる一方、計画より遅れている。目標の売上80億円に届かなければ、投資の回収が長引く。
今後の分かれ目
- ペプチドの売上が2桁増を続け、営業利益率が12%を超えて定着したら
- 中立から楽観寄りへ確率を移してよい。インドの増強がフル稼働に入るかが分かれ目になる。
- インドの増強で稼働が遅れ、営業利益率が2期連続で下がったら
- やや悲観側に重みを移す。固定費の先行が続くかを四半期ごとに確認する。
- DOEを4%に前倒しで引き上げる、または自社株買いを始めたら
- 還元の厚みが増し、価値を押し上げる。資本効率の改善の裏づけにもなる。
- 原料(牛骨・豚皮)の価格が急騰し、価格転嫁が遅れたら
- 利益率の下振れ要因になる。やや悲観の確率を上げる。
- 世界の大手が買収や統合に動き、新田ゼラチンにも提案が届いたら
- TOBの確率は上げてよい。ただし提案価格が10年の稼ぐ力に見合うかは別に確かめる。
見ておくもの
- 四半期ごとの営業利益率と、ペプチドの売上の伸び
- インドの増強の稼働状況
- DOEと配当、自社株買いの方針
- 原料(牛骨・豚皮)の価格
- 北米の関税とプロテイン向けの需要
倍率と資本コストの決め方
ゼラチン・ペプチド・食品材料の3つで、世界の市場×シェアを積み上げ、10年後の利益と倍率を式から決めた。今の株価は見ていない。2026年3月期の12.3%は過去12年の最高なので、中立では11%台に抑えた。強気は会社の長期目標(12.5%)を少し超える13%台だが、ペプチドの比率が上がる構造を理由に置いた。倍率は、ROEがkを上回る前提で、式の上限の8〜9割に置いた。今の時価総額(219億円)を基準にした調整はしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.5→17.05 倍・やや楽観 PER 13→15.78 倍・中立 PER 12→15.01 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% + quality 0.25% = 7.75%。北米・インドの運営の不安定さは k に足さず、悲観側の確率と利益率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.50%。