結論
日本触媒は、紙おむつに使う高吸水性樹脂(SAP)で世界首位級の化学会社だ。原料のアクリル酸から樹脂まで自前でつなぐ一貫生産が強みである。筆者の結論は、今の値段は割高。稼ぎがまだ薄いのに、市場は先の改善を先に払っているからだ。
稼ぎの柱は 2 本ある。ひとつはアクリル酸、SAP、酸化エチレンを軸にしたマテリアルズ事業。売上の約 7 割を占めるが、営業利益率は 3〜4% しかない。もうひとつは電池材料、ディスプレイ用樹脂、水処理剤、コンクリート用ポリマーを扱うソリューションズ事業だ。利益率はこちらが高く、会社も利益の柱に育てる方針である。
2026 年 3 月期の営業利益は 175 億円、利益率は 4.4%。過去 10 年でも 5% 前後にとどまり、10% 近くに届いた年は数えるほどだ。中国の増産で、アクリル酸も SAP も値段が上がりにくい。これが最大の重しである。
10 年後の営業利益は、中立で 370 億円前後とみる。インドネシアの増設と電池材料の増産が効き、利益は今の 2 倍ほどになる。それでも資本の稼ぎは資本コストをわずかに下回り、倍率は 10 倍どまりだ。
確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額を 2 割台後半下回る。配当性向 100% の方針は株主に優しい。ただ、利益が倍に戻る前提を値段が先取りしている。ここに安全域はない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は持ち続けたい事業とは言いにくい。
SAP は世界首位でも、製品に差が付けにくく、稼ぎが読みづらい。10 年先に今より強いと言い切れない。続くとみられる強みは、アクリル酸から一貫で作る原価の安さくらいだ。
経営が稼いだ利益を再投資に回しても、その稼ぎは資本コストに届かなかった。過去 10 年の ROE は中央値で 4.9%。株主にとっては、利益を配当で返してもらうほうがよい。配当性向 100% の方針は、この点で筋が通る。
オーナー利益、つまり設備の維持と更新に使う分を引いて株主に残る利益は、純利益よりさらに小さいはずだ。
安全域は財務にある。借金は軽く、格付けは A だ。ただ、安全域を決めるのは払う値段である。今の値段は、利益が倍近くへ戻る前提を先に払っている。わからない部分が大きいので、確信度は高くない。
買うなら、利益がまだ薄い今ではなく、薄い利益に値段が追いつかない局面だ。値段が先に走る銘柄に、バリュー投資は手を出しにくい。
何で稼ぐ会社か
日本触媒は 1941 年創業、本社は大阪だ。事業の背骨は 2 つの原料、アクリル酸と酸化エチレンである。
マテリアルズ事業は売上の約 7 割を占める。主役は SAP で、おむつや生理用品の吸水材に使う。日本、米国、ベルギー、中国、インドネシアの 5 拠点で作り、能力は年 71 万トンだ。アクリル酸は SAP の原料であると同時に、塗料や接着剤向けのエステルとしても外に売る。酸化エチレンは洗剤の原料、溶剤、ガスの吸収剤などに枝分かれする。
ソリューションズ事業は売上の約 3 割。自動車の排ガス触媒、電池に使う材料、液晶用の樹脂、水処理剤、コンクリート混和剤用のポリマーなど、用途の細かい製品が並ぶ。顧客と一緒に作る製品が多く、値段は汎用品より安定する。2025 年には JSR 子会社のイーテックを 72 億円で買い、建築・防水用の樹脂も加えた。
2 つの事業は、稼ぎ方がまるで違う。マテリアルズは設備産業で、原料の値段と市況に利益が振り回される。ソリューションズは規模が小さい代わりに、利益率が高い。会社は 2027 年度に利益の半分超をソリューションズで稼ぐ計画だが、2026 年 3 月期はまだ届いていない。利益の中身を入れ替えられるかが、この会社の分かれ目である。
従業員は連結で約 4,900 人。開発型の会社で、研究費が営業費用の重さにもなっている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、事業ごとにまるで違う。
SAP は世界首位級で、アクリル酸から一貫して作れる。原価で効く本物の強みだ。ただ、おむつ向けの標準品は品質の差が小さい。中国の新規参入が技術を上げ、三洋化成が撤退するほど価格競争は激しい。規模の優位が、値段を決める力にはなっていない。
アクリル酸と酸化エチレンの汎用品は、値段を市況に決められる。ここに堀はほとんどない。あるのは製造の効率と、インドネシアのような低コストの拠点だけだ。
ソリューションズは、顧客と共同で作る製品が中心で、切り替えの手間が堀になる。電池材料は中国勢が値段を下げており、堀は薄い。ディスプレイ用の樹脂や水処理剤は、少量で単価の高いニッチだ。
資本の稼ぎは弱い。過去 10 年の ROE の中央値は 4.9% で、資本コストに届かない。自己資本比率は 68% と厚く、借金はほぼない。守りは固いが、守りだけでは価値は増えない。経営は配当性向 100% を掲げ、資本効率に向き合い始めた。評価できる。ただ、利益そのものが伸びなければ絵に描いた餅だ。
もうひとつ気になるのは、研究開発の成果が利益に結びつくまでが長いことだ。10 市場に広げた前の計画では、費用が先に出て利益が追いつかなかった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
アクリル酸と SAP は、世界で供給が需要を上回る状態が続く。
SAP の需要は、おむつの普及で年 3〜5% 伸びるとされる。支えるのは新興国の乳幼児と、先進国の大人用おむつだ。国内は少子化で出荷が減り、2023 年は前年比 5% 減だった。需要は伸びているのに、儲かりにくい。理由は中国勢の増産である。プロパンからアクリル酸を作る新工場が中国で相次ぎ、SAP まで一貫で作る例も増えた。
この構図は 10 年続くとみる。日本触媒は、量を追わず、新しい低コストの設備へ入れ替える道を選んだ。インドネシアで 2027 年に SAP を年 5 万トン増やし、国内の古い設備は必要に応じて止める。
酸化エチレン系は、国内のエチレン設備の再編と並行して、需要が緩やかに減る。ナフサ(石油の原料)の値動きに利益が左右される構造も変わらない。2026 年のナフサ供給の混乱は一時の追い風にすぎない。
電池材料は、中国の合弁会社と日本、北米で増産する計画だ。北九州の新工場は 2028 年の稼働を見込む。ただ、中国勢が量産で値段を下げており、利益を確保できるかが問われる。ディスプレイでは、偏光板の保護フィルムが TAC(三酢酸セルロース)からアクリル樹脂へ替わる流れがある。大型の IPS パネルで採用が増え、追い風になる。
最後に、需要の中身を見ておく。おむつの数量は読みやすい。景気に左右されにくく、人口の減る国では減り、人口の増える国では増える。問題は数量ではなく値段だ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、株主に近づく方向へ変わりつつある。
2025〜2027 年度の中期経営計画は、配当性向 100% か純資産配当率(DOE)2% の高い方を下限にする。自社株買いも続ける。配当性向 100% とは、利益をすべて配当に回す水準だ。株主には歓迎でも、利益が落ちれば減配になりうる。
政策保有株は 4 年で半分に減らし、投資と還元の原資にする。格付けは A を保つ方針である。
成長投資は 3 年で 1,550 億円、うち約 6 割が増設と買収だ。ソリューションズに 900 億円を向ける。借入は約 600 億円を見込み、自己資本比率は 60% 近くまで下げる計画になっている。
買収は小粒だ。2025 年にイーテックを 72 億円で、2024 年にライラックファーマ(脂質ナノ粒子の受託製造)を買った。大きな失敗は目立たない。
TOB や再編の可能性は小さくない。10 年以内の確率は 16% という推計がある。SAP とアクリル酸の統合、合弁など、事業単位の再編は十分ありうる。
10年の還元は、方針の配当性向100%か株主資本配当率2%の高い方に自社株買いを足す形どおり(中立で利益の95%)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ソリューションズが利益の柱に変わる。2027 年度に営業利益と持分法を合わせて 350 億円という会社目標は、2026 年 3 月期の 187 億円の倍近い。だが、中身を見れば届く。10 市場に散らしていた事業を、水処理・CO2 吸収剤、半導体・ディスプレイ材料、建設材料、電池の 4 領域に絞った。顧客と共同で開発し、引き合いは国内外から来ていると会社は話す。
SAP は数量が伸びる。需要は年 4% 前後で増え、インドネシアの増設で、アジアの需要を一貫生産の低コストで取れる。前期は数量と、原料との価格差(スプレッド)の両方が良かった。古い設備を止めて新しい設備へ替えるので、利益率は上がる。
イーテックの買収で建設用ポリマーが増え、電池材料は北九州の新工場が 2028 年に動く。配当性向 100% と自社株買いで、還元も厚い。
10 年では、ソリューションズの比率が利益の過半になり、全社の営業利益は 500 億円台へ乗る。資本の稼ぎが資本コストを超えれば、倍率は 12 倍を超える。会社が掲げる 2030 年度の 600 億円は、決して夢物語ではない。
慎重な見方
この会社は、稼ぐ力の計画を何度も下回ってきた。前の中期経営計画でも 10 市場に手を広げ、利益は伸びなかった。今回の 350 億円は、営業利益に持分法利益(中国の電池材料の合弁会社など)を足した数字で、見た目より底上げされている。2027 年 3 月期の会社予想は営業利益 210 億円で、ここから目標までの距離は遠い。
マテリアルズは構造が悪い。SAP は世界首位でも、中国の新規参入が値段を下げ、三洋化成のように撤退する会社も出た。アクリル酸のエステルは市況が低迷し、前期の減益の原因になった。インドネシアの増設は、完成した初年度は減益要因だと会社自身が述べている。
電池材料は、中国勢が量産で値段を下げる。ここで利益が出る保証はなく、増産の投資だけが先に出る。借入 600 億円と自己資本比率の引き下げは、利益が出なければ重荷になる。
配当性向 100% は、利益が落ちれば減配になる。株価が配当だけで支えられる構造ではない。今の値段は、利益が 2 倍へ戻ることを前提にしている。前提が外れたとき、下げは大きい。
どちらに重みを置いたか
ソリューションズの計画は筋が通る。ただ、会社は過去に同じ型の目標を外している。マテリアルズは構造的に、厚い利益を出しにくい。強気の論点は「実現すれば」という条件付きで、慎重な論点は過去の実績という事実に基づく。そこで確率は、慎重側へ半歩寄せた。
楽観 8%、やや楽観 22%、中立 35%、やや悲観 24%、悲観 11%。悲観には、価格競争の激化と電池の失敗が同時に起きる構図まで入れた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,657 円3,927 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,422 円2,102 億円)。 今の値に割り戻すと 2,199 円3,250 億円、今との差 −14.5%、 期待の年率 +4.7%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,986 円8,846 億円 | 2,321 円3,430 億円 | +223.1% | +12.4% | 665 円982 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,116 円6,083 億円 | 1,898 円2,805 億円 | +133.9% | +8.9% | 1,323 円1,955 億円 |
| 中立 | 35% | 2,834 円4,188 億円 | 1,611 円2,380 億円 | +72.8% | +5.6% | 1,555 円2,299 億円 |
| やや悲観 | 24% | 892 円1,318 億円 | 941 円1,390 億円 | −28.8% | −3.3% | 440 円650 億円 |
| 悲観 | 11% | 609 円900 億円 | 271 円400 億円 | −65.8% | −10.2% | 97 円143 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,657 円3,927 億円 | 1,422 円2,102 億円 | +58.7% | +4.7% | 4,080 円6,029 億円 |
今の株価時価総額 2,572 円3,800 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 電池・電子材が立ち上がり、全社の利益の 6 割をソリューションズが稼ぐ 利益 570 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 5,986 円8,846 億円
ソリューションズが 4 つの領域で立ち上がり、全社の利益の 6 割近くを稼ぐ。電池材料は北九州の工場を含めて量が伸び、利益率は 13% に届く。ディスプレイ用の樹脂は大型パネルでの採用が広がり、水処理剤と CO2 吸収剤も新興国で伸びる。
SAP は市場の伸びに歩調を合わせ、シェアを守る。インドネシアの新工場が動き、国内の古い設備は計画どおり止まる。アクリル酸は一貫生産の強みで、中国勢との差を保つ。
10 年後の営業利益は 650 億円台になり、2030 年度の会社目標 600 億円を超える。資本の稼ぎは資本コストを大きく上回る。配当性向は高いまま、自社株買いも続く。
- 高吸水性樹脂(SAP):数量 760(SAP の販売量(千トン))× 価格 0.23(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 1,778 億円・営業利益 160 億円。利益率 9%、シェア維持で量が伸びる
- アクリル酸・アクリル酸エステル・特殊エステル:数量 520(外販量(千トン))× 価格 0.26(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 1,368 億円・営業利益 68 億円。利益率 5%
- 酸化エチレン・誘導品:数量 360(販売量(千トン換算))× 価格 0.26(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 932 億円・営業利益 65 億円。利益率 7%
- ソリューションズ(電池・電子・水処理・建設・触媒):数量 330(販売量(千トン相当・製品群の合算の推定))× 価格 0.84(1 トンあたり平均単価(百万円/トン・名目))→ 売上 2,772 億円・営業利益 360 億円。利益率 13%、電池・電子が立ち上がる
倍率:事業の純利益 570 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍。全体の PER 15.52 倍、時価総額 8,846 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電池・ディスプレイ・水処理の 3 つが同時に立ち上がり、SAP の価格競争も耐える必要がある。過去の計画の実績から見て、実現には全部の歯車が噛み合うことが要る。5〜10% が妥当。
やや楽観 22% ソリューションズが柱になり、SAP は低コスト拠点で踏みとどまる 利益 437 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 4,116 円6,083 億円
ソリューションズは 4 領域へ絞った効果が出て、利益率は 11% に上がる。イーテックの買収で建設用ポリマーが厚くなり、電池材料は中国との競争の中でも採算を確保する。
SAP は市場の伸びを取り込むが、中国勢の安値で値上げは物価に届かない。インドネシアの新設備で原価を下げ、利益率は 7% 台に乗る。アクリル酸とエステルは、需給が締まる局面で薄い利益が出る。
10 年後の営業利益は 480 億円台。会社の 2030 年度の目標には届かないが、今の 2.8 倍にはなる。還元は純利益の 9 割弱で続く。
- 高吸水性樹脂(SAP):数量 700(SAP の販売量(千トン))× 価格 0.22(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 1,505 億円・営業利益 113 億円。利益率 7.5%
- アクリル酸・アクリル酸エステル・特殊エステル:数量 500(外販量(千トン))× 価格 0.24(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 1,200 億円・営業利益 48 億円。利益率 4%
- 酸化エチレン・誘導品:数量 345(販売量(千トン換算))× 価格 0.25(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 845 億円・営業利益 51 億円。利益率 6%
- ソリューションズ(電池・電子・水処理・建設・触媒):数量 310(販売量(千トン相当・製品群の合算の推定))× 価格 0.80(1 トンあたり平均単価(百万円/トン・名目))→ 売上 2,480 億円・営業利益 273 億円。利益率 11%
倍率:事業の純利益 437 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.92 倍、時価総額 6,083 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画に近い道筋。ソリューションズへの資源集中は筋が通るが、過去に同型の目標を外した実績があるため、確率は中立より低い 2 割強に置く。
中立 35% 中立:ソリューションズは伸びるが、マテリアルズの重さが残る 利益 335 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,834 円4,188 億円
ソリューションズの利益率は 9% まで上がる。電池・電子の量は伸びるが、価格は中国勢に押されて物価並みに届かない。
SAP は数量が 1 割増える。新興国の需要を取るが、シェアは中国勢に少し削られる。価格は 10 年で 15% 上がる程度で、物価の 34% には遠い。利益率は 6.5% まで戻る。
アクリル酸のエステルと酸化エチレン系は、需給が締まる年にだけ利益が出る。国内の再編で量は細る。
10 年後の営業利益は 370 億円前後。今の 2 倍だが、物価で名目が 1.3 倍に膨らむ分を除くと、実質の伸びは 5 割程度にとどまる。資本の稼ぎは資本コストをわずかに下回る。
- 高吸水性樹脂(SAP):数量 660(SAP の販売量(千トン))× 価格 0.21(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 1,366 億円・営業利益 89 億円。利益率 6.5%
- アクリル酸・アクリル酸エステル・特殊エステル:数量 480(外販量(千トン))× 価格 0.23(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 1,114 億円・営業利益 33 億円。利益率 3%
- 酸化エチレン・誘導品:数量 340(販売量(千トン換算))× 価格 0.24(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 813 億円・営業利益 45 億円。利益率 5.5%
- ソリューションズ(電池・電子・水処理・建設・触媒):数量 290(販売量(千トン相当・製品群の合算の推定))× 価格 0.79(1 トンあたり平均単価(百万円/トン・名目))→ 売上 2,282 億円・営業利益 205 億円。利益率 9%
倍率:事業の純利益 335 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 4,188 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ソリューションズの伸びとマテリアルズの低迷が、ともに 10 年続く道筋。業種ノートの中立(年 2〜4% 成長、構造改革は半分進む)と合う。強気・慎重のどちらの論点も条件付きで通るため最大の確率を置く。
やや悲観 24% 中国の安値と電池の価格下落で、利益は名目で横ばい 利益 155 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 892 円1,318 億円
中国の増産が続き、SAP とアクリル酸の値段は 10 年たっても名目で上がらない。数量は新興国で売れても、シェアは 13% 前後まで下がる。インドネシアの増設は稼働率が上がらず、減価償却が重荷になる。
電池材料は中国勢の量産で値段が落ち、投資に見合う利益が出ない。ソリューションズの利益率は 6.5% にとどまる。
10 年後の営業利益は 180 億円弱で、今とほぼ同じだ。物価で名目が上がる世界では、実質では 3 割近い減益になる。配当性向 100% は守れず、還元は純利益の 85% 程度に落ちる。
- 高吸水性樹脂(SAP):数量 600(SAP の販売量(千トン))× 価格 0.18(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 1,080 億円・営業利益 38 億円。利益率 3.5%、価格は上がらない
- アクリル酸・アクリル酸エステル・特殊エステル:数量 440(外販量(千トン))× 価格 0.20(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 889 億円・営業利益 9 億円。利益率 1%
- 酸化エチレン・誘導品:数量 320(販売量(千トン換算))× 価格 0.22(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 701 億円・営業利益 28 億円。利益率 4%
- ソリューションズ(電池・電子・水処理・建設・触媒):数量 245(販売量(千トン相当・製品群の合算の推定))× 価格 0.70(1 トンあたり平均単価(百万円/トン・名目))→ 売上 1,715 億円・営業利益 111 億円。利益率 6.5%
倍率:事業の ROE 3.7% は k 8% を大きく下回る。この場合、伸びた分の価値は薄く、PER の上限は 1÷k の 11.8 倍。新しく投じるお金の稼ぎが k 未満なので、その 7 割強に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.5 倍・時価総額 1,318 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:中国の SAP・アクリル酸の増産と、電池材料の値下がりは、すでに起きている流れの延長線上にある。会社は過去に目標を外している。これらを重くみて、やや悲観を 2 割台半ばに置く。
悲観 11% 構造的な負け:SAP とアクリル酸が赤字になり、電池の投資も回収できない 利益 −120 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 609 円900 億円
中国の SAP・アクリル酸の増産が止まらず、日本触媒は世界首位の座を守るために値下げを重ねる。SAP とアクリル酸はともに赤字になり、インドネシアと米国・欧州の設備で減損が出る。
電池材料は中国勢との値下げ競争に負け、北九州の新工場は稼働率が上がらない。ソリューションズの利益率も 3% まで落ちる。
営業利益は 10 億円に満たず、減損で最終赤字になる。配当は最初の 2 年は守るが、その後は大きく削られ、10 年の還元は 400 億円ほどにとどまる。借入 600 億円の返済も重い。このとき評価の底は、稼ぐ力ではなく、売れる資産の価値になる。国内の古い設備は止まり、海外拠点の売却や撤退の話が出る。
- 高吸水性樹脂(SAP):数量 520(SAP の販売量(千トン))× 価格 0.15(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 796 億円・営業利益 −16 億円。赤字
- アクリル酸・アクリル酸エステル・特殊エステル:数量 380(外販量(千トン))× 価格 0.18(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 684 億円・営業利益 −14 億円。赤字
- 酸化エチレン・誘導品:数量 280(販売量(千トン換算))× 価格 0.20(1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目))→ 売上 560 億円・営業利益 11 億円。利益率 2%
- ソリューションズ(電池・電子・水処理・建設・触媒):数量 200(販売量(千トン相当・製品群の合算の推定))× 価格 0.62(1 トンあたり平均単価(百万円/トン・名目))→ 売上 1,240 億円・営業利益 37 億円。利益率 3%
倍率:赤字で稼ぐ力から値が付かないので、売れる資産の税引き後の額に置く。今の自己資本に対する倍率はこの水準になる。
確率:SAP の価格競争の激化と電池材料の失敗が同時に起きる複合の筋書き。会社の財務は強く、10 年で完全に崩れる確率は高くないが、素材の構造的な負けは十分起こりうる。1 割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
高吸水性樹脂(SAP)
紙おむつ・生理用品の吸水材。日本・米国・ベルギー・中国・インドネシアの 5 拠点で、アクリル酸から一貫生産する。
| 数量SAP の販売量(千トン) | 価格1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 0.18 | 1,080 | 60 |
| 10 年後 中立 | 660 | 0.21 | 1,366 | 89 |
取り方:グループ能力は年 71 万トン。稼働を 85% 前後と置き約 60 万トン、1 トン 18 万円前後で 1,080 億円と推定(開示はマテリアルズ全体のみ)。世界シェアは約 17〜20%。営業利益 60 億円はマテリアルズ 102 億円の配分推定。
アクリル酸・アクリル酸エステル・特殊エステル
SAP に使う分を除いて外販するアクリル酸、塗料・接着剤・粘着剤向けのエステル類。
| 数量外販量(千トン) | 価格1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 500 | 0.20 | 1,010 | 5 |
| 10 年後 中立 | 480 | 0.23 | 1,114 | 33 |
取り方:マテリアルズ売上 2,788 億円から SAP と酸化エチレン系を引いた残りを 1,010 億円と推定。市況低迷で前期は利益が薄く、5 億円と置いた。
酸化エチレン・誘導品
酸化エチレン、エチレングリコール、エタノールアミン、界面活性剤原料、溶剤など。
| 数量販売量(千トン換算) | 価格1 トンあたり販売単価(百万円/トン・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 350 | 0.20 | 698 | 37 |
| 10 年後 中立 | 340 | 0.24 | 813 | 45 |
取り方:マテリアルズの残りを推定。国内のエチレン再編で量は細る方向。営業利益 37 億円は配分推定。
ソリューションズ(電池・電子・水処理・建設・触媒)
電池向け材料、ディスプレイ用樹脂、水処理剤・CO2 吸収剤、コンクリート混和剤用ポリマー、排ガス触媒。
| 数量販売量(千トン相当・製品群の合算の推定) | 価格1 トンあたり平均単価(百万円/トン・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 0.61 | 1,211 | 65 |
| 10 年後 中立 | 290 | 0.79 | 2,282 | 205 |
取り方:開示は売上 1,211 億円・営業利益 65 億円。製品が細かいので、平均 60 万円前後のトン単価で 20 万トン相当と推定。イーテックは 2025/04 取得のため今の数字には入らず、増える量に含めた。
リスクと懸念
中国の SAP・アクリル酸の増産
プロパンからアクリル酸を作る中国の新工場が相次ぎ、SAP まで一貫で作る会社も増えた。三洋化成の撤退が示すように、標準品の値段は上がりにくい。日本触媒は量で戦わず、設備の入れ替えで原価を下げるが、価格が下がり続ければ追いつかない。
電池材料の値下がりと投資の回収
電池材料は中国勢が量産で値段を落とす分野だ。北九州の新工場は 2028 年稼働予定で、先に投資が出る。増産が需要より早ければ稼働率が上がらず、減損もありうる。会社は低コストの製法で採算を確保すると説明している。
インドネシア増設の初年度負担
2027 年 7 月に SAP が年 5 万トン増える。会社自身が、初年度は減価償却などで減益要因になると述べている。需要の取り込みが遅れれば、負担は長引く。
配当性向 100% の維持
2027 年度まで配当性向 100% を掲げる。利益が落ちれば減配になる。株価が還元を前提にしている場合、減配は株価への打撃が大きい。借入 600 億円も重なると、資金のやり繰りが窮屈になる。
中計目標の達成力
2027 年度の利益目標は 350 億円(営業利益と持分法の合計)。2027 年 3 月期の会社予想の営業利益は 210 億円で、距離がある。前の中計では 10 市場に分散し、利益が伸びなかった。今回の絞り込みが実を結ぶかは未確認だ。
自動車用触媒の減損
2026 年 3 月期に排ガス触媒の子会社で減損 21 億円を出した。電動化で排ガス触媒の需要は長期で細る。事業の出口をどう描くかが問われる。
今後の分かれ目
- インドネシアの SAP 新設備が計画どおり 2027 年 7 月に動き、稼働率が早く上がったとき
- やや楽観以上の筋書きの確率を上げる。SAP の利益率が 7% を超えるかを見る。
- ソリューションズの営業利益が 2028 年 3 月期に 150 億円を超えたとき
- 会社の目標が現実味を帯びる。やや楽観の確率を上げ、利益率 11% の道筋を重くみる。
- 中国の SAP・アクリル酸の価格がさらに下がり、国内の古い設備の停止が加速したとき
- やや悲観の確率を上げる。設備の停止は減損を伴うので、利益が一時的に落ちる。
- 電池材料の北九州工場の稼働が遅れる、または減損が出たとき
- ソリューションズの利益率 9% の前提が崩れる。悲観の確率を上げる。
- 利益が落ちて減配に追い込まれたとき
- 配当性向 100% の信頼が崩れる。株価の支えが外れるので、見通しをやや悲観側へ寄せる。
- SAP・アクリル酸事業の統合や合弁、売却が発表されたとき
- マテリアルズの重さが外れるので、ソリューションズ中心の会社として再評価できる。条件次第で上振れる。
見ておくもの
- ソリューションズの営業利益(四半期)
- SAP の数量とスプレッド
- インドネシア新設備の稼働率(2027 年 7 月〜)
- 北九州の電池材料工場の稼働(2028 年)
- 中国のアクリル酸・SAP の新設と価格
- 配当性向と自社株買いの実績
- 政策保有株の売却額
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE と成長率 4%、資本コスト 8%(基本 7.5% に quality +1.0%)から式で出した。今の株価や過去の倍率は見ていない。中立は ROE が k をわずかに下回るため、PER の上限 1÷k の 8.5 割に置いた。10 年後の営業利益 372 億円は、ソリューションズ 205 億円とマテリアルズ 167 億円を積んだ値で、今の利益の 2.1 倍。今の株価が割高でも割安でも、この積み上げは変わらない。同じ領域の旭化成(k 8.0%)より高い k を置いたのは、アクリル酸・SAP の値決めが市況頼みだから。リース会計の新基準(2028 年 3 月期から)で営業利益と負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→15.52 倍・やや楽観 PER 11→13.92 倍・中立 PER 10→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した。個別のリスクは k に足さず、筋書きの確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。