結論
日本精化は、化粧品や医薬品の原料を作る会社だ。脂肪酸と油脂の化学が出発点で、化粧品用の機能性油剤、医薬用の高純度リン脂質、羊毛脂から作るラノリン誘導体が稼ぎの中心になる。
筆者の結論は、今の値段はほぼ妥当で、割安とも割高とも言い切れない、というものだ。理由は二つある。一つは、海外の化粧品向け油剤と医薬用の脂質で、利益が10年で5割前後伸びる芽があること。もう一つは、会社が小さく、顧客の在庫調整や競合の値下げで利益が揺れやすいことだ。
2026年3月期は減収だったが、営業利益は53億円と過去最高になった。商社子会社を手放して利益率が上がり、営業利益率は15.8%に乗った。実質無借金で、自己資本比率は78%と厚い。化粧品用油剤の新プラント(約86億円)が2029年に動き、生産力は2倍超になる。
一方で、会社は今期の予想をすべて外した。純利益には持ち合い株の売却益も入っており、その分は繰り返さない。筆者は、10年後の中立の営業利益を90億円弱、ROEを9%弱と見る。資本コスト7%を少し上回る程度で、割高に買えば報われにくい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は『小さいが、堅実で、わかりやすい』原料メーカーだ。事業の本質は、顧客が手放しにくい指定原料を、無借金で淡々と売ることにある。利益の質は悪くない。営業利益率は16%に近く、実質無借金で、配当は10期連続で増えた。
筆者がいちばん気にしているのは、オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益の厚さだ。営業利益の大半が、新プラントの投資と、売上の増加に必要な運転資金に回る。2029年までは、稼ぎが増えても株主に回る分は増えにくい。
堀の持続は、広くない。油剤では大手が分散して競い、医薬の脂質でも世界の専業が追ってくる。値決めの主導権は弱い。ROEは今9%に届かず、資本コストを大きく超えていないため、利益が増えても価値はそれほど膨らまない。
経営の資本配分は、持ち合い株の削減と増配で評価できる。ただし新プラントの86億円は、会社の規模に対して大きな賭けだ。稼働率が上がるまでの2〜3年は、償却費が利益を重くする。
安全域は、実質無借金と、持ち合い株、工場・土地の資産にある。事業が悪化しても、値段が大きく崩れにくい。反対に、楽観の筋書きでも、今の値段を大きく超えるのは医薬用の脂質が当たった場合だけだ。確度は高くない。
何で稼ぐ会社か
ビューティケア分野は、化粧品メーカーに原料を売る事業で、利益の最大の柱だ。主力は機能性油剤(肌になじませる油の成分)で、海外の売上が全体の4割に達した。ほかにリン脂質素材、天然の多糖類、生理活性物質がある。顧客は国内外の化粧品メーカーで、欧米ブランド向けは環境に配慮した原料の売上が伸びている。
ヘルスケア分野は、医薬品の原料だ。注射剤やリポソーム(脂質でできた薬の入れ物)に使う高純度リン脂質が柱で、海外向けが好調だ。核酸医薬や脂質ナノ粒子の需要が将来の伸びしろになる。ただし世界には専業の競合がいて、会社自身も海外競合の参入を危険として挙げている。
ファインケミカル分野は、羊毛脂から作るラノリン誘導体と樟脳が中心で、昔からの得意分野だ。成熟していて伸びは小さいが、安定して稼ぐ。ペロブスカイト太陽電池用の素材は2027年ごろから数億円の売上を見込む。
ハイジーン分野は、手指消毒剤などの環境衛生製品だ。感染症の流行で膨らんだ需要が去り、市場は縮んだ。会社は2026年度の売上を当初の119億円から99億円へ下げ、今期予想は79億円まで落とした。利益率は一桁で、全社の利益にはほとんど効かない。
全社の売上の中には、商社的な取引(トレーディング)もあり、こちらは薄利だ。会社はこの部門の整理を進め、子会社1社を外した。それで売上は5%減ったが、利益率は上がった。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、顧客の工場に入り込んだ『指定の原料』であることだ。化粧品も医薬品も、一度処方に採用された原料は簡単に替えられない。切り替えには試験と許可が要るからだ。筆者はこの点を、堀、つまり他社がまねしにくい強みとして評価する。
ただし堀は狭い。化粧品用のエステル油は世界に多くの作り手がいる。KLKオレオ、クローダ、BASF、日光ケミカルズ、日油などが並び、日本精化はその次の層にいる。国内でも日清オイリオが50年以上この分野にいる。市場が分散していて、シェアで値段を決める立場にはない。
医薬用リン脂質も同じだ。世界の専業と日油が相手で、会社は『海外競合の参入』を自ら危険に挙げる。伸びる市場ほど、強い相手が来る。
資本の使い方は堅実だ。営業利益率は13年前の8%から16%近くまで上がり、実質無借金を保つ。配当は10期連続で増え、2027年3月期も増配を予定する。DOE(純資産に対する配当の割合)4.3%を目安に、総還元性向50%以上を掲げる。
弱点は二つある。会社の予想はたびたび外れる。今期も売上・利益ともに予想に届かなかった。もう一つは規模だ。売上338億円は、顧客の在庫調整や為替で利益がすぐ揺れる大きさだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
化粧品原料の市場は、最終製品の化粧品市場に連動する。世界の化粧品市場は年7%前後で伸びるとされ、メイクアップ分野はさらに速い。名目の話なので、物価3%を引くと実質で4%前後になる。日本精化はこの伸びに乗る立場だが、日本の人口は減るため、国内向けの数量はほぼ横ばいと見る。成長は海外が担う。
海外のうち、中国は難しい。現地ブランドの台頭と景気の低迷で、日系の化粧品向けリン脂質が減った。会社は欧米の最終顧客向けの油剤へ重心を移し、海外売上の比率を24%から40%へ上げた。この移動は筆者も正しいと見る。
油剤の競争は、素材そのものの性能より、環境対応・安全性・安定供給で決まる。パーム油などの原料価格の変動も効く。ハラール認証を取った原料9品目は、イスラム圏の需要を取りにいく一手だ。
医薬の脂質は、核酸医薬やワクチンに使う脂質ナノ粒子の需要が将来を決める。数量の見通しは明るいが、量産の主導権は大手に寄りやすい。
ハイジーンは縮んだ市場に残る分野で、伸びは期待できない。中東情勢でナフサ由来の原料が高騰すると、原料価格の上昇を値上げで転嫁できるかが問われる。
資本政策と M&A
資本政策は、株主に厳しい方向へ動いている。2026年3月期は20億円の自社株買いをし、155万株を消却した。配当は10期連続で増やし、総還元性向は4年平均で50%以上を目標にする。今期の総還元性向は94%と高いが、自社株買いと持ち合い株の売却益が重なった特殊な形だ。
持ち合い株の縮減は進んでいる。純資産に対する比率を21%から17%以下へ落とす計画で、売却益が利益を押し上げた。ただしこの益は毎年は出ない。筆者はこれを一回きりの益として扱う。
投資の重さは見落とせない。化粧品用油剤の新プラントに約86億円を投じ、2029年度の上期に動く。会社の営業キャッシュフローの1年以上の額に当たる。設備投資は4年間で当初の160億円から135億円に絞った。この間、自社株買いに回せるお金は細る。
買収の歴史はほぼなく、大型の買収に出る気配もない。逆に、会社が小さく株主構成も落ち着いているため、他社から買われる可能性は残る。ただし根拠のある話は見つからなかった。
点検済み:中立の営業利益率16.3%が過去の山(15.8%)を超え、会社は目標を毎回少し外してきたため、ビューティケアとハイジーンを今の水準に置き直した(全社16.0%)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
油剤は欧米の最終顧客で伸び、海外売上比率は2年で24%から40%に上がった。新プラントが動けば生産力は2倍を超え、需要は先に積まれている。環境対応の原料とハラール認証は、成長市場への入口を広げる。
医薬用の高純度リン脂質は、核酸医薬やワクチンの量産が進むほど需要が積み上がる。参入できる会社は少なく、品質で採用が決まる。会社が2030年に掲げる営業利益82億円、営業利益率17%以上は、新プラントの稼働と医薬の伸びで届く数字だ。
財務は実質無借金で、自己資本比率は78%。持ち合い株の売却益と営業のキャッシュで投資も配当も賄える。配当は10期連続で増え、総還元性向は50%以上を保つ。
利益率の改善も続いている。商社的な取引を手放し、利益の質を上げた。今期は売上が減っても営業利益は9%増えた。数量が戻れば、利益は大きく伸びる。
小さな会社の業績は、一つの当たりで大きく変わる。油剤と医薬の二つが当たる10年なら、全社の営業利益は今の2倍を超え、ROEも12%台に上がる。
慎重な見方
会社は今期の予想をすべて外した。ビューティケアは顧客の流通在庫の調整で減収減益だった。欧米の顧客に売る油剤の数量は、化粧品メーカーの在庫の増減で簡単に振れる。伸びが続く前提は強すぎる。
油剤の市場は分散しており、KLKオレオ、クローダ、日光ケミカルズ、日清オイリオなどが競う。韓国のメーカーも安い品を出している。値段を決める力は日本精化にない。新プラントで生産力が2倍になれば、売る側が値引きして埋めることになりやすい。
医薬の脂質は、会社自身が『海外競合の参入による競争激化』を危険に挙げた。リン脂質は中国の景気低迷でも減った。量産の主導権は大手に寄り、伸びを取り込めない恐れがある。
新プラントの86億円は、営業利益53億円の会社には重い。稼働率が上がらなければ、償却費が利益率を押し下げる。ペロブスカイト太陽電池の素材はまだ数億円で、成否は見えない。
今期の純利益には持ち合い株の売却益が入っており、繰り返さない。ROEは9%弱で、資本コストを大きく上回らない。この水準で成長の期待を値段に乗せるのは、割高だ。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、海外の油剤と医薬の脂質に具体的な成長の芽を示している。慎重な見方は、会社の予想が外れ続けている点、市場が分散して値決めの力が弱い点、新プラントが重い点を突く。筆者は、事業の伸びは認めるが、値段を決める力が弱くROEも資本コストをわずかに上回る程度なので、価値の伸びは限られると判断した。
確率は慎重な見方にやや寄せ、中立を中心に、やや悲観を厚く置いた。楽観は、二つの当たりが同時に起きる必要があるため1割に届かせなかった。悲観は、無借金と持ち合い株が床になるため1割にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,557 円989 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,413 円307 億円)。 今の値に割り戻すと 3,324 円721 億円、今との差 +21.3%、 期待の年率 +8.1%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 8,814 円1,912 億円 | 1,936 円420 億円 | +292.2% | +14.6% | 860 円187 億円 |
| やや楽観 | 19% | 6,481 円1,406 億円 | 1,660 円360 億円 | +197.0% | +11.5% | 1,547 円336 億円 |
| 中立 | 37% | 4,915 円1,066 億円 | 1,503 円326 億円 | +134.2% | +8.9% | 2,375 円515 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,639 円573 億円 | 1,245 円270 億円 | +41.7% | +3.5% | 971 円211 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,291 円280 億円 | 691 円150 億円 | −27.7% | −3.2% | 218 円47 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,557 円989 億円 | 1,413 円307 億円 | +117.8% | +8.1% | 5,971 円1,295 億円 |
今の株価時価総額 2,741 円595 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 海外の油剤と医薬用の脂質が同時に伸びる 利益 105 億円 · PER 18.2 倍 · 株価時価総額 8,814 円1,912 億円
化粧品用の機能性油剤は、欧米ブランドの環境対応の流れに乗って海外の売上が年々厚くなる。2029年に動く新プラントで生産力が2倍を超え、増えた分も売り切る。医薬用の高純度リン脂質は、核酸医薬やワクチン用の脂質ナノ粒子が量産段階に入り、数量が10年で2倍を超える。ペロブスカイト太陽電池向けの素材も数十億円の事業になる。会社が掲げる営業利益率17%の目標を大きく超え、全社で19%台に乗る。利益が増えるので配当と自社株買いも厚くなるが、自己資本は利益ほど膨らまず、ROEは12%台に上がる。小さな会社が、原料の世界で『なくてはならない取引先』に格上げされる10年だ。
- ビューティケア(化粧品用の油剤・リン脂質・多糖類):数量 1.1(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 212(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 229 億円・営業利益 55 億円。営業利益率24.0%
- ヘルスケア(医薬用の高純度リン脂質・DDS素材):数量 0.3(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 747(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 206 億円・営業利益 47 億円。営業利益率23.0%。世界の競合が増え、単価は物価ほど上がらない(量が増えると単価が下がる)
- ファインケミカル(ラノリン誘導体・樟脳・産業用素材):数量 2.7(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 48(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 128 億円・営業利益 24 億円。営業利益率18.5%
- ハイジーン(手指消毒剤などの環境衛生製品):数量 2.4(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 40(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 97 億円・営業利益 9 億円。営業利益率9.5%
- トレーディング・その他:数量 3.3(取扱量(万トン、推定・実質))× 価格 19(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 62 億円・営業利益 2 億円。営業利益率2.5%
倍率:事業の純利益 105 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.2 倍。全体の PER 18.21 倍、時価総額 1,912 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:油剤の新プラントが満床になり、医薬用の脂質も核酸医薬の量産に乗る、という二つの当たりが10年のうちに重なる必要がある。会社は今期の予想をすべて外しており、確度は高くない。
やや楽観 19% 新プラントが動き、油剤は堅調、医薬用も育つ 利益 83 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 6,481 円1,406 億円
新プラントは計画より少し遅れて立ち上がり、海外向けの機能性油剤が10年で6割増える。国内の化粧品向けは横ばいに近いが、環境対応品とハラール認証を取った原料が海外で広がる。医薬用リン脂質は数量が8割増える一方、世界の競合が増えて値段は物価ほど上がらない。ファインケミカルはラノリン誘導体が堅調で、太陽電池素材が上積みになる。ハイジーンは消毒剤の縮小が底を打ち、横ばいで落ち着く。営業利益率は15〜16%台、会社が2030年に置く目標にはあと一歩届かない。それでも利益は10年で5割超増え、還元も続く。会社は営業利益率の目標を毎回少しずつ外してきた。その癖が残る分、楽観の筋書きのような一気の跳ね上がりは起きず、堅実な増益が長く続く、という形がこの筋書きだ。
- ビューティケア(化粧品用の油剤・リン脂質・多糖類):数量 1.0(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 205(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 197 億円・営業利益 45 億円。営業利益率23.0%
- ヘルスケア(医薬用の高純度リン脂質・DDS素材):数量 0.2(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 735(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 159 億円・営業利益 33 億円。営業利益率21.0%。世界の競合が増え、単価は物価ほど上がらない(量が増えると単価が下がる)
- ファインケミカル(ラノリン誘導体・樟脳・産業用素材):数量 2.3(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 46(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 108 億円・営業利益 19 億円。営業利益率17.5%
- ハイジーン(手指消毒剤などの環境衛生製品):数量 2.4(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 40(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 95 億円・営業利益 8 億円。営業利益率8.8%
- トレーディング・その他:数量 3.2(取扱量(万トン、推定・実質))× 価格 19(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 59 億円・営業利益 1 億円。営業利益率2.0%
倍率:事業の純利益 83 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.94 倍、時価総額 1,406 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の化粧品需要は実質で年4%前後伸びる前提で、新プラントの稼働も計画から1〜2年遅れで済む想定。医薬用の脂質は伸びるが、競争で値段が物価ほど上がらない。
中立 37% 中立:海外の油剤が支え、国内の消毒剤は縮む 利益 68 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 4,915 円1,066 億円
海外向けの機能性油剤が柱であり続け、数量は10年で4割強伸びる。新プラントは遅れず立ち上がるが、増えた生産力を埋めるのに時間がかかり、償却費が利益率を重くする。医薬用リン脂質は数量こそ増えるが、世界の競合が増えて値段は物価の伸びに届かない。ファインケミカルとハイジーンは数量が横ばいで、物価分だけ売上が伸びる。商社子会社を手放した後のトレーディングは薄利のまま残る。全社の売上は年5%弱で伸び、営業利益率は16%台に乗る。会社が掲げる2030年の営業利益82億円は、中立ではやや遅れて届く。配当は増え続けるが、自社株買いは新プラントの投資期に細る。
- ビューティケア(化粧品用の油剤・リン脂質・多糖類):数量 0.9(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 205(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 179 億円・営業利益 39 億円。営業利益率21.5%
- ヘルスケア(医薬用の高純度リン脂質・DDS素材):数量 0.2(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 729(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 122 億円・営業利益 23 億円。営業利益率19.0%。世界の競合が増え、単価は物価ほど上がらない(量が増えると単価が下がる)
- ファインケミカル(ラノリン誘導体・樟脳・産業用素材):数量 2.1(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 46(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 96 億円・営業利益 16 億円。営業利益率17.0%
- ハイジーン(手指消毒剤などの環境衛生製品):数量 2.3(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 40(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 92 億円・営業利益 7 億円。営業利益率7.9%
- トレーディング・その他:数量 3.0(取扱量(万トン、推定・実質))× 価格 19(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 56 億円・営業利益 1 億円。営業利益率1.7%
倍率:事業の純利益 68 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍。全体の PER 15.75 倍、時価総額 1,066 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界の化粧品市場の伸びを日本の原料メーカーがほぼ取り込み、医薬用は競争で値段が伸びにくい、という中心の見立て。会社の目標は毎回少し未達なので、中立は目標より低く置いた。
やや悲観 25% 海外の値下げ圧力と顧客の在庫調整が続く 利益 47 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 2,639 円573 億円
海外向けの油剤は数量こそ伸びるが、韓国や欧州のメーカーとの競争で値段が物価ほど上がらない。新プラントは立ち上がるものの、稼働率が上がらず償却費が利益を押し下げる。医薬用リン脂質は世界の競合が増え、数量の伸びが小さく値段も上がらない。ハイジーンは感染症の需要が去った後の縮小が続き、利益率が7%まで下がる。営業利益は今から2割ほど増える程度で、ROEは資本コストを下回る。増配は続けるが、自社株買いはほぼ止まる。経営は堅実で赤字にはならないが、『成長する素材会社』の見立ては崩れる。株主に戻るお金も、新プラントの投資に食われて伸びない。配当の水準は守るが、自社株買いで株数を減らして一株の価値を上げる道は、この間ほぼ閉じる。
- ビューティケア(化粧品用の油剤・リン脂質・多糖類):数量 0.7(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 199(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 144 億円・営業利益 27 億円。営業利益率19.0%
- ヘルスケア(医薬用の高純度リン脂質・DDS素材):数量 0.1(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 671(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 89 億円・営業利益 14 億円。営業利益率16.0%。世界の競合が増え、単価は物価ほど上がらない(量が増えると単価が下がる)
- ファインケミカル(ラノリン誘導体・樟脳・産業用素材):数量 1.8(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 45(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 81 億円・営業利益 11 億円。営業利益率14.0%
- ハイジーン(手指消毒剤などの環境衛生製品):数量 2.0(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 39(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 80 億円・営業利益 6 億円。営業利益率7.0%
- トレーディング・その他:数量 2.9(取扱量(万トン、推定・実質))× 価格 18(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 52 億円・営業利益 1 億円。営業利益率1.5%
倍率:ROE 6.4%はkに届かないので、RONIC=7.75%+1/2×(6.4−7.75)=7.1%、g 4.0%から正当化PER=11.6倍。さらに利益の質が落ちる筋書きなので、12.18倍に置いた(1÷k=12.9倍の下限は使えない)。
確率:韓国・欧州の油剤メーカーとの値下げ競争、中国景気の低迷、手指消毒剤の縮小が重なる、中立の少し下の筋書き。今期も顧客の在庫調整で減収になっており、起こりやすい。
悲観 11% 構造的に競争力を失う 利益 13 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,291 円280 億円
海外の化粧品原料は、中国・韓国・欧州の大手が品質を追い上げ、機能性油剤が汎用品の値段まで下がる。新プラントは稼働率が上がらず、償却費だけが残る。医薬用リン脂質は日油や欧州の専業との競争で数量が減り、値段も下がる。ハイジーンは感染症後の需要の縮小が続き、利益がほぼ消える。営業利益は今の3分の1以下になる。ただし財務は無借金で、現金と持ち合い株の売却余力、工場と土地があるため、配当を減らしながら続ける。事業の稼ぐ力ではなく、持っている資産が値段の床になる。会社は小さく、売上が3割落ちるだけで固定費の重さが利益を吹き飛ばす。この筋書きでは、新プラントを造ったこと自体が、経営の最も重い判断ミスとして残る。
- ビューティケア(化粧品用の油剤・リン脂質・多糖類):数量 0.5(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 176(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 95 億円・営業利益 10 億円。営業利益率10.0%
- ヘルスケア(医薬用の高純度リン脂質・DDS素材):数量 0.1(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 525(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 44 億円・営業利益 2 億円。営業利益率5.0%。世界の競合が増え、単価は物価ほど上がらない(量が増えると単価が下がる)
- ファインケミカル(ラノリン誘導体・樟脳・産業用素材):数量 1.4(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 40(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 57 億円・営業利益 3 億円。営業利益率6.0%
- ハイジーン(手指消毒剤などの環境衛生製品):数量 1.7(販売量(万トン、推定・実質))× 価格 35(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 58 億円・営業利益 2 億円。営業利益率3.0%
- トレーディング・その他:数量 2.4(取扱量(万トン、推定・実質))× 価格 16(1トンあたり単価(万円、名目))→ 売上 39 億円・営業利益 0 億円。営業利益率0.5%
倍率:利益は大きく落ちるので、稼ぐ力(純利益13億円÷k≒170億円)でなく売れる資産で測る。今の自己資本514億円に0.545倍を掛けた(純現金と持ち合い株、工場・土地の売却価値の税後が床)。
確率:油剤が価格競争に飲まれ、医薬用リン脂質では大手に押し出され、新プラントが重荷になる、という複合の負け筋。小さな原料会社の負け方として十分ありうるので、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ビューティケア(化粧品用の油剤・リン脂質・多糖類)
化粧品メーカーに売る機能性油剤、リン脂質素材、天然多糖類など。海外売上が4割を超え、利益の最大の柱。
| 数量販売量(万トン、推定・実質) | 価格1トンあたり単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 153 | 92 | 20 |
| 10 年後 中立 | 0.9 | 205 | 179 | 39 |
取り方:売上は2027/03期の会社予想(100億円)から逆算し、2026/03期を約92億円と推定した。販売量は約6,000トンと置いた。数量は海外の化粧品需要と新プラントで伸び、単価は物価並みに上がる。個別の数量は非開示のため推定。
ヘルスケア(医薬用の高純度リン脂質・DDS素材)
注射剤や核酸医薬・脂質ナノ粒子の原料になる高純度リン脂質と、医薬中間体。
| 数量販売量(万トン、推定・実質) | 価格1トンあたり単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.1 | 583 | 70 | 15 |
| 10 年後 中立 | 0.2 | 729 | 122 | 23 |
取り方:2027/03期予想(売上76億円)から逆算し、2026/03期を約70億円と推定した。販売量は約1,200トンと置いた。単価は医薬グレードで高いが、世界の競合が増えて物価ほど上がらないと見る。
ファインケミカル(ラノリン誘導体・樟脳・産業用素材)
羊毛脂(ウールグリース)から作るラノリン誘導体、樟脳、ペロブスカイト太陽電池用の素材など。
| 数量販売量(万トン、推定・実質) | 価格1トンあたり単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.8 | 34 | 62 | 11 |
| 10 年後 中立 | 2.1 | 46 | 96 | 16 |
取り方:2027/03期予想(売上65.5億円)から逆算し、2026/03期を約62億円と推定した。販売量は約1.8万トンと置いた。数量は成熟で横ばい、単価は物価並み。太陽電池素材の売上は2027年ごろから数億円の見込み。
ハイジーン(手指消毒剤などの環境衛生製品)
手指消毒剤、環境衛生用の薬剤。感染症の需要が一巡し、利益率が低い。
| 数量販売量(万トン、推定・実質) | 価格1トンあたり単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.4 | 30 | 72 | 6 |
| 10 年後 中立 | 2.3 | 40 | 92 | 7 |
取り方:2026/03期の開示(売上72.1億円・営業利益5.7億円)をそのまま使った。販売量は約2.4万トンと置いた。消毒剤の市場は縮小し、数量は横ばいから微減と見る。
トレーディング・その他
機能性製品の中の商社的な取引と、その他。商社子会社1社の離脱で縮んだ。
| 数量取扱量(万トン、推定・実質) | 価格1トンあたり単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 14 | 42 | 1 |
| 10 年後 中立 | 3.0 | 19 | 56 | 1 |
取り方:機能性製品の売上263.5億円から3事業の推定を引いた残りと、調整分をまとめた。取扱量は約3万トンと置いた。薄利で、利益への寄与はほとんどない。
リスクと懸念
顧客の在庫調整で数量が振れる
油剤は化粧品メーカーの在庫の増減で、注文が大きく変わる。2026年3月期は海外向けの油剤の流通在庫の調整で、ビューティケアが減収減益になった。会社の予想がすべて未達になったのも、この読みの難しさが理由だ。小さな会社には、この揺れを吸収する余力が小さい。
新プラントの稼働率
約86億円の新プラントは、2029年度上期に動く。生産力は2倍超になるが、需要が追いつかなければ償却費だけが残る。営業利益53億円の会社には重い投資で、稼働が1〜2年遅れるだけで利益率が下がる。数量の読みが外れた時の傷が大きい。
医薬用リン脂質の競争
会社自身が、海外競合の参入による競争激化を危険に挙げている。世界の専業や日油との競争で、数量も値段も思ったほど伸びない恐れがある。脂質ナノ粒子の需要は先が見えにくく、量産の主導権は大手に寄りやすい。
化粧品原料の値下げ競争
化粧品用エステル油は世界で分散した市場で、KLKオレオ、クローダ、BASFなどが競う。韓国の安い品も出ている。値段は市場が決める部分が大きく、物価ほど値上げできない可能性がある。環境対応の強みも、同じ方向に動く他社に追いつかれやすい。
原料価格と中東情勢
原料の脂肪酸やナフサ由来の化学品の価格は、中東の情勢で振れる。会社は2027年3月期の予想に、この影響を織り込んでいない。値上げで転嫁できるかは、顧客との力関係で決まる。転嫁が遅れる期は、利益率が落ちる。
売却益の剥落と持ち合い株の価格
2026年3月期の純利益44億円には、持ち合い株の売却益約9億円が入る。この益は繰り返さない。残る持ち合い株は純資産の約2割で、株価が下がると自己資本が目減りする。会社は17%以下まで減らす計画だが、売却の時期は株価次第になる。
ハイジーンの縮小
手指消毒剤の需要は感染症の流行後に細り、会社は2026年度の売上目標を当初の119億円から99億円、さらに79億円まで下げた。利益率は一桁で、伸びは見込めない。この部門が重しになる局面では、全社の売上の伸びを引き下げる。
今後の分かれ目
- 新プラントが予定どおり2029年度上期に動き、半年以内に稼働率が7割を超えたら
- 油剤の数量の見通しに根拠が付くので、中立のビューティケアの数量を上方に直し、楽観側へ確率を移す。
- ビューティケアの海外売上が、在庫調整を挟んでも3年続けて増えたら
- 海外の油剤が構造的に伸びている証拠になる。ROEが10%に近づく筋書きの確率を上げる。
- 医薬用リン脂質で、核酸医薬の量産向けの大型契約が発表されたら
- ヘルスケアの数量を大きく上げる材料になる。楽観の筋書きの確率を上げる。
- 2027年度も会社の営業利益予想を下回ったら
- 予想の精度の問題が続いているとして、中立の利益率を下げ、やや悲観側に確率を寄せる。
- 韓国や欧州の同業が、日本精化の主力の油剤と同じ品質で明確に安い品を出し始めたら
- 値決めの力が弱いという慎重な見方が当たったことになる。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 第三者による買収や資本提携の話が出たら
- 小さく無借金で持ち合い株が厚い会社なので、本質価値を意識した価格が示されるかを見る。筋書きの上限は今の確率のままにする。
見ておくもの
- ビューティケアの四半期の売上と海外比率
- 新プラントの建設進捗と稼働開始の時期
- 医薬用リン脂質の海外売上と大型契約の発表
- 営業利益率が17%に近づくか(会社の2030年目標)
- 持ち合い株の売却額と残りの比率
- 原料価格(脂肪酸・ナフサ由来品)と為替の想定の変化
倍率と資本コストの決め方
数量は実質(販売量)、価格は物価3%込みの名目で積んだ。個別の数量は非開示なので、売上と2027/03期の会社予想から逆算した推定を使い、市場全体の見通しは業種ノートに合わせた。k は基本7.5%+quality +0.25%の7.75%。倍率は利益ベースの正当化PERで決め、中立はROEがkをわずかに上回るため1÷kの下限と上限の間に置いた。やや悲観はROEがkを割るので式から11倍にした。悲観は純現金・持ち合い株・工場土地の売却価値の税後で測り、過去のPBRからは置いていない。今のPER約14倍・PBR約1.2倍は最後に見ただけで、倍率には使っていない。新リース会計基準で数字の形が変わるが、本社・工場の賃借は小さく、10年後の数字は今と同じ形にそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.2→18.21 倍・やや楽観 PER 14→16.94 倍・中立 PER 13.1→15.75 倍・やや悲観 PER 11→12.18 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.25% を足して7.75%。小さな原料メーカーの在庫調整による振れを cycle で見た。個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.00%。