結論
大日精化は、色をつくる化学メーカーだ。顔料や着色剤、プラスチックに色をつける樹脂、合成皮革などに使うウレタン樹脂、印刷インキの三つで食べている。筆者の結論は「やや割高」。理由は、稼ぐ力に比べて抱える資本が重く、利益が伸びても株主に残る価値が増えにくいからだ。
事業の中身は悪くない。液晶ディスプレイ向けの顔料と自動車向けの樹脂は、顧客と一緒に仕様を作るので、簡単には乗り換えられない。借金は少なく、自己資本比率は 67% と厚い。
ただし利益率は低い。営業利益率は 6% 台で、過去 10 年の最高でも 8% にとどかなかった。会社は今期の営業利益を 115 億円と見る。前期の 1.5 倍で、中計の目標 78 億円も超える。上方修正の理由を、筆者は確かめられていない。
自己資本利益率(ROE)は 5.8% と、資本コストに届かない。配当は増えているが、ためた利益は利益を生む形で働いていない。10 年後の中立の ROE も 6% 前後にとどまる。
中立の 10 年後の時価総額は、今の値段をやや下回る。配当を足しても、資本コストに届かない。印刷インキの縮小と、液晶顔料への中国勢の追い上げが、悲観の筋書きを支える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くないが、買い増したいほどではない」。10 年後も、顔料や樹脂の需要はなくならない。ただ、他社に簡単にまねされない強みが、利益率に表れていない。
株主のものになる利益、つまり設備の更新に使う分を引いた後に残る利益は小さい。営業利益率が 6% では、設備投資と運転資金に、稼ぎの多くが吸われる。自己資本が増えても、ROE は上がらない。
安全面は悪くない。借金は少なく、赤字になったのは 2009 年の 1 期だけだ。悲観の筋書きでも、会社が傾くことはない。ただし、安全と割安は別の話である。
気になるのは、資本の使い方だ。前の中計は目標の半分に終わり、今の計画も、修正前は ROE 5% に届くかどうかという低い目標だった。筆者は、経営が資本の効率を本気で上げにいくかを、まだ見極められない。
今期の利益急増は、素直に喜べるが、10 年の価値は一年の利益では決まらない。利益率が 8% 台で定着し、ROE が資本コストを超える形が見えたら、見方を変える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は三つある。いちばん大きいのはカラー&ファンクショナルで、売上の約 56% を占める。顔料や、プラスチック・繊維に色をつける着色剤、車の内装などに使う樹脂コンパウンド、液晶ディスプレイのカラーフィルター用の顔料がここに入る。自動車向けが売上の約 2 割、情報・電子向けが約 16% を占める。
二つめはポリマー&コーティングで、売上の約 2 割。ウレタン樹脂が中心で、合成皮革や自動車の内装、包装の接着剤などに使われる。紫外線で固めるコーティング剤もある。利益率は 1 割を超え、三つの中で最も高い。
三つめがグラフィック&プリンティングで、売上の約 25%。グラビア印刷やフレキソ印刷のインキである。包装向けが中心だが、利益率は 3% に満たない。2024 年 3 月期には約 22 億円の減損を出した、会社の弱い部分である。
海外の売上は約 26% で、タイ、インドネシア、中国に拠点を持つ。利益の大半を稼ぐのは国内で、海外の伸びが 10 年の鍵になる。
三つの事業は、どれも色や素材の「中間材料」である。最終製品の顔は作らず、顧客の工場で使われる。だから、顧客の生産が落ちると数量がすぐ減り、原料が上がると利益率が先に削られる。この構造が、利益率の低さの根っこにある。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねできない強みは、顧客との共同開発にある。液晶の顔料は、色の純度と耐光性が厳しく問われる。自動車用の着色剤も、色合わせと耐久の審査を通って初めて使われる。一度採用されれば、長く使われやすい。
ただし、強みはまだ値段に表れていない。営業利益率は 10 年間、2〜8% の間を行き来してきた。前の中計は、原料高の転嫁が遅れて、利益目標の半分しか届かなかった。顔料やインキは原料の値段に引きずられ、値決めの力は強くない。
資本の効率は低い。ROE は 10 年の中央値で 5.8%、直近も同じだ。自己資本が 1,386 億円と厚く、それに見合うだけ稼げていない。上場株の持ち合いも約 106 億円あり、前期は 29 億円を売った。減らす方向は正しい。
弱い点は二つある。一つは、印刷インキという需要が長く縮む事業を抱えること。もう一つは、液晶用の顔料が、特定の用途の景気に左右されることだ。海外拠点のランサムウェア被害も出ており、管理の甘さは気がかりだ。
競合は国内外に多いが、世界でのシェアは開示されていない。筆者は、強いと言い切れるのはウレタンの一部と自動車向けまでだと見ている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
三つの事業は、顧客の業界がそれぞれ違う。景気より、用途ごとの需要が効く。
顔料・着色剤の市場は、世界でも年 3〜5% の緩やかな成長が見込まれる。汎用の顔料は、中国の増産で値段が物価並みに上がりにくい。伸びるのは、液晶のカラーフィルター用やインクジェット用、自動車の内装向けといった、性能で選ばれる特殊品だ。
インクジェット印刷は、包装や商業印刷の少量多品種化で広がる。顔料を細かく分散させる技術が要り、日本の化学各社は強い。一方で、液晶ディスプレイは有機 EL の台頭で、パネルの数が頭打ちになる。カラーフィルター用の顔料は、中国のパネルメーカーへの供給が増えるが、現地の調達先が育てば置き換えられる恐れがある。
印刷インキは、国内の紙の需要が減り、数量が年 1〜2% ずつ縮む。包装向けのインキは底堅いが、競合の DIC、artience、サカタインクスと価格を競う。業界全体で拠点の統合と値上げが進んでおり、利益率は改善しても低い水準にとどまる。
ウレタン樹脂は、環境規制で溶剤を使わない方式へ移る。対応できる会社に有利だが、設備の更新に金がかかる。自動車の電動化は、内装の軽量化と静粛の素材需要を生む一方、車の生産台数自体は伸びない。
顧客の自動車メーカーや大手の包装会社は、複数の調達先を持ち、値下げを求める力が強い。この力関係が変わらない限り、利益率の改善は小幅にとどまる。
資本政策と M&A
還元は、方針の上では厚い。中計は、総還元性向 50% 以上、配当性向 40% 以上を掲げる。旧川口の工場の土地を売った益から、4 年間の特別配当も出している。自社株買いも続けている。
政策保有株は、2024 年 3 月末から 15% 以上減らす計画で、前期は 29 億円を売った。上場株は 35 銘柄、約 106 億円が残る。
成長投資の枠として、M&A を約 150 億円見込む。狙いは、海外の自動車・情報電子と、アジアの樹脂コンパウンド・着色剤だ。ただし、新技術棟(約 50 億円)とアジア新工場(約 40 億円)は延期された。投資に慎重なのは、前の失敗を引きずっているからだろう。
買う側の M&A に大型の例はない。買収で価値が育つかは未知数で、筆者はここを不確かと見る。買われる側の可能性は、データ上は 10 年以内に 2 割強とされるが、大株主は信託口と従業員持株会が中心で、働きかけの動きは見当たらない。2025 年に監査等委員会設置会社へ移った。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
最近の利益の急回復は、本物の変化だ。今期の営業利益は 115 億円と、前期の 1.5 倍を見込む。第 1 四半期の営業利益も前年同期を 3 割上回った。値上げの浸透と、自動車・情報電子の戦略製品が効き始めている。
液晶の顔料、インクジェットの顔料、自動車用の樹脂は、いずれも需要が実質で伸びる。会社は成長投資に約 150 億円を用意し、海外で M&A を進める。海外売上は 26% にとどまり、伸びしろが大きい。
資本の面でも改善が続く。持ち合い株の売却で、自己資本の効率が上がる。総還元性向 50% 以上の方針で、配当と自社株買いが増える。営業利益率が 8% 台で定着すれば、10 年後の利益は今の 2 倍になる。印刷インキは小さな事業で、全体の足を引っ張る度合いも下がる。
10 年先を見ても、色と素材の需要は消えない。自動車は電動化で内装の素材が増え、包装はインクジェットで少量多品種に向かう。会社が技術で先に動ければ、数量と利益率の両方が上がる。
慎重な見方
今期の営業利益は、修正の理由が見えない。前の中計は目標の半分で終わり、会社自身が計画を外してきた歴史がある。営業利益率は 10 年間、2〜8% の間を動いた。115 億円は、その最高圏を大きく超える。一時的な要因が混じっていれば、来期以降に戻る。
資本の効率は低いままだ。自己資本が 1,386 億円と厚いのに、ROE は 5.8%。配当を増やしても、利益率が上がらなければ、資本コストには届かない。10 年後の ROE を計算しても、6% 前後で、資本コストを下回る。
液晶用の顔料は、中国の調達先が育つと置き換わる。印刷インキは国内で縮み続け、すでに減損を出した。自動車の内装も、車の生産台数が伸びないなかで、価格競争を受ける。大型の M&A は例がなく、失敗すれば自己資本の効率はさらに下がる。
中計の目標は、前回も今回も、実績が大きく上回るか下回るかのどちらかに振れた。計画の読みの精度が低い会社の、1 年の上方修正を、10 年の水準として置くのは危うい。
どちらに重みを置いたか
利益の急回復は事実だが、資本コストを超える稼ぎの形にはなっていない。ROE が資本コスト未満のままなら、利益が伸びても本質価値は増えにくい。確率は、悲観寄りには置かず、中立を厚くした。悪い方に倒れても、借金が少なく会社は傾かない。上振れは、利益率が 8% 台で定着する場合に限られる。 筆者は、この判断の分かれ目を、利益率が 8% 台で何年続くかに置いている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,826 円1,246 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 814 円556 億円)。 今の値に割り戻すと 1,426 円973 億円、今との差 +8.1%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,069 円2,095 億円 | 967 円660 億円 | +206.0% | +11.8% | 323 円220 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,503 円1,709 億円 | 901 円615 億円 | +158.1% | +9.9% | 749 円511 億円 |
| 中立 | 38% | 2,069 円1,412 億円 | 830 円567 億円 | +119.8% | +8.2% | 1,102 円752 億円 |
| やや悲観 | 22% | 829 円566 億円 | 738 円504 億円 | +18.8% | +1.7% | 345 円235 億円 |
| 悲観 | 10% | 609 円416 億円 | 605 円413 億円 | −8.0% | −0.8% | 121 円83 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,826 円1,246 億円 | 814 円556 億円 | +100.1% | +7.2% | 2,640 円1,802 億円 |
今の株価時価総額 1,319 円901 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 三つの戦略製品がそろって育つ 利益 153 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 3,069 円2,095 億円
戦略製品がそろって育つ。液晶のカラーフィルター用顔料はアジアで採用が広がり、インクジェット用の顔料と分散液は、包装の少量多品種化で大きく伸びる。自動車用のコンパウンドは、電動化で内装の素材需要が増え、数量が 3 割ふえる。
海外の M&A も成功し、海外売上が全体の 4 割に近づく。カラー&ファンクショナルの営業利益率は 9% 台に上がり、ウレタンは 13% 台に達する。印刷インキは縮小が止まり、利益率が 5% まで戻る。
営業利益は今の 2.6 倍で、10 年のうちに利益率の壁を破った姿だ。ただ、それでも ROE は資本コスト並みの 8% にとどまる。自己資本が厚いため、倍率は成熟した会社の水準を超えない。
- カラー&ファンクショナル:数量 180(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.00(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,256 億円・営業利益 119 億円。売上 1256 億円・営業利益率 9.5%
- ポリマー&コーティング:数量 52.3(出荷量(千トン・推定))× 価格 8.28(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 433 億円・営業利益 59 億円。売上 433 億円・営業利益率 13.5%
- グラフィック&プリンティング:数量 73.8(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.36(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 396 億円・営業利益 20 億円。売上 396 億円・営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 153 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.07 倍、時価総額 2,000 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:液晶・インクジェット・車載の三つの戦略製品が計画どおり育ち、海外の M&A も成功する場合。会社の過去の目標の外し方を考えると、そろって上振れる確率は低い。
やや楽観 22% 液晶・インクジェット・車載が計画どおり伸びる 利益 125 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,503 円1,709 億円
液晶、インクジェット、車載の三つが計画に近い形で伸びる。数量は、カラー&ファンクショナルが年 2% 前後、ウレタンが年 2% で増える。値段は物価並みに上がり、特殊品の比率が少し上乗せになる。
営業利益率は、カラー&ファンクショナルが 8% 台、ウレタンが 12% に上がる。印刷インキは、拠点の統合で赤字を抜け、4% 台まで戻る。営業利益は今の 2.1 倍になる。
持ち合い株の売却が進み、自社株買いも続く。それでも ROE は 7% 前後で、資本コストに届かない。利益は育つが、株主のものになる価値は、それほど増えない。
- カラー&ファンクショナル:数量 169(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.80(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,146 億円・営業利益 97 億円。売上 1146 億円・営業利益率 8.5%
- ポリマー&コーティング:数量 48.3(出荷量(千トン・推定))× 価格 8.16(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 394 億円・営業利益 47 億円。売上 394 億円・営業利益率 12.0%
- グラフィック&プリンティング:数量 69.9(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.36(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 375 億円・営業利益 16 億円。売上 375 億円・営業利益率 4.2%
倍率:事業の純利益 125 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 1,612 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:今期の上方修正は、利益率が上がり始めた実績の裏付けになる。ただし、過去の中計の未達を考え、計画どおりに進む筋書きは 2 割強にとどめた。
中立 38% 中立:物価の上昇に小さな実質の伸びが乗る 利益 102 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,069 円1,412 億円
物価の上昇に、小さな実質の伸びが乗る。カラー&ファンクショナルは、数量が年 1.5% 弱で増え、値段は物価並みに上がる。営業利益率は 7.5% へ上がるが、10 年前の最高圏を少し超える程度だ。ウレタンは、数量が年 1% で増え、利益率は 11% を保つ。
印刷インキは、国内の縮小を海外で補いきれず、数量が 15% 減る。利益率は 3.5% に上がる。営業利益は今の 1.7 倍。年 5% ほどの伸びで、ほぼ物価と実質の小さな成長を足した形になる。
配当と自社株買いで利益の 6 割を返しても、自己資本は 1,700 億円台へふくらむ。ROE は 6% 前後で変わらず、資本コストに届かない。堅い会社だが、株主にとって魅力のある資本の形ではない。
- カラー&ファンクショナル:数量 159(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.70(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,064 億円・営業利益 80 億円。売上 1064 億円・営業利益率 7.5%
- ポリマー&コーティング:数量 44.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 8.04(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 355 億円・営業利益 39 億円。売上 355 億円・営業利益率 11.0%
- グラフィック&プリンティング:数量 66.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.36(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 354 億円・営業利益 12 億円。売上 354 億円・営業利益率 3.5%
倍率:事業の純利益 102 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 1,316 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率は上がるが、過去の最高圏を少し超える程度にとどまる。三つの事業が市場並みに伸び、インキは縮む。会社の計画を、やや保守的に置く。
やや悲観 22% 液晶は中国勢に押され、インキは縮む 利益 68 億円 · PER 6.4 倍 · 株価時価総額 829 円566 億円
利益率の改善が、今期の水準で止まる。液晶向けの顔料は、中国のパネルメーカーが現地の調達先を育て、数量の伸びが止まる。自動車用のコンパウンドは、車の生産台数が伸びず、価格競争を受ける。カラー&ファンクショナルの営業利益率は 6% にとどまる。
印刷インキは数量が 2 割強縮み、値上げも物価に届かない。営業利益率は 1.5% 台に落ちる。営業利益は今の 1.2 倍にとどまり、ROE は 4% 台になる。
持ち合い株を売っても、稼ぐ力が上がらなければ、自己資本が重くなるだけだ。倍率は縮み、時価総額は今を大きく下回る。
- カラー&ファンクショナル:数量 145(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.50(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 942 億円・営業利益 57 億円。売上 942 億円・営業利益率 6.0%
- ポリマー&コーティング:数量 40.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.80(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 314 億円・営業利益 28 億円。売上 314 億円・営業利益率 9.0%
- グラフィック&プリンティング:数量 60.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.12(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 310 億円・営業利益 5 億円。売上 310 億円・営業利益率 1.5%
倍率:ROE 4.1%。RONIC=k 7.75%+残る割合 1/2×(ROE−k)=6.1%、g 4%から正当化 PER=8.5 倍。稼ぐ力が資本コストを下回り、新しく投じたお金が価値を壊す筋書きなので、上限の 7.5 割の 6.36 倍に置いた(7 割へは引き上げない)。
確率:液晶の顔料への中国勢の追い上げと、インキの縮小は、すでに起きている流れだ。10 年で利益率の改善が止まる筋書きは、現実味がある。
悲観 10% 構造的な負け:主力の顔料が置いていかれる 利益 31 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 609 円416 億円
主力の顔料が置いていかれる。液晶のパネルは中国で現地調達が進み、日本製の顔料の数量が減る。自動車用の着色剤も、海外の大手や中国勢との価格競争で、利益率が 4% に落ちる。
印刷インキは、紙の縮小が早まり、数量が 4 割減る。拠点の統合を進めても、利益が出ない。ウレタンも、環境規制への設備投資が重くて、利益率が 6% に下がる。
営業利益は今の 5 割を切り、ROE は 2% 前後になる。もう優良な会社の評価は付かない。それでも借金は少なく、持ち合い株と工場の資産が残るので、会社が傾くわけではない。ただ、株主にとっては、10 年かけて価値が減る展開である。
- カラー&ファンクショナル:数量 124(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.00(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 746 億円・営業利益 30 億円。売上 746 億円・営業利益率 4.0%
- ポリマー&コーティング:数量 34.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.20(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 246 億円・営業利益 15 億円。売上 246 億円・営業利益率 6.0%
- グラフィック&プリンティング:数量 46.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.60(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 214 億円・営業利益 −2 億円。売上 214 億円・営業利益率 -1.0%
倍率:主力の顔料の置き換えとインキの縮小が重なる構造的な負けで、稼ぐ力(純利益÷k)は小さい。純現金と売れる資産の税後を床に、今の自己資本に 0.3 倍を掛けた。高い倍率は置かず、資産の回収額から置いた。
確率:液晶顔料の置き換え、車載の価格競争、インキの縮小が同時に起きる場合で、もう優良な会社ではなくなる姿。借金が少なく傾くことはないので、1 割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
カラー&ファンクショナル
顔料、プラスチック・繊維用の着色剤、樹脂コンパウンド、液晶のカラーフィルター用顔料、インクジェット用顔料など。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 138 | 5.00 | 691 | 41 |
| 10 年後 中立 | 159 | 6.70 | 1,064 | 80 |
取り方:開示は金額だけなので、平均単価を 1 千トンあたり 5 億円(顔料・着色剤・コンパウンドの混合)と仮置きし、売上 690.5 億円から出荷量を約 14 万トンと推定した。特殊品の比率が上がれば単価は上がる。
ポリマー&コーティング
ウレタン樹脂(合成皮革・自動車内装・包装用)、紫外線・電子線で固めるコーティング剤。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.2 | 6.00 | 241 | 26 |
| 10 年後 中立 | 44.2 | 8.04 | 355 | 39 |
取り方:開示は金額だけなので、平均単価を 1 千トンあたり 6 億円(ウレタン樹脂とコーティング剤の混合)と仮置きし、売上 241.3 億円から出荷量を約 4 万トンと推定した。
グラフィック&プリンティング
グラビア・フレキソ・オフセットの印刷インキ。包装向けが中心。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 77.7 | 4.00 | 311 | 9 |
| 10 年後 中立 | 66.0 | 5.36 | 354 | 12 |
取り方:開示は金額だけなので、平均単価を 1 千トンあたり 4 億円と仮置きし、売上 310.6 億円から出荷量を約 7.8 万トンと推定した。国内は紙の需要の減少で数量が縮み、インドネシアなど海外で補う。
リスクと懸念
今期の利益が一時的に高い可能性
今期の営業利益は 115 億円と、前期の 1.5 倍の予想だ。修正の理由は、筆者は確かめられていない。値上げの浸透や在庫の評価など、続かない要因が混じっていれば、来期以降に利益が戻る。営業利益率は 10 年間 2〜8% の間にあり、8.7% は過去の最高圏を超える。
資本の効率が資本コストに届かない
自己資本は 1,386 億円と厚く、ROE は 5.8%。資本コストの 8% を下回っている。利益が伸びても、ためた資本が同じ割合で稼がなければ、本質価値は増えにくい。持ち合い株の売却や還元の増加で改善する余地はあるが、会社の目標も ROE 5% 台と低く置かれてきた。
印刷インキの縮小
売上の約 25% を占めるインキは、国内の紙の需要が減り、数量が縮む。前の中計では約 22 億円の減損も出した。拠点の統合と値上げで利益率は上がるが、成長には戻らない。縮む速さが想定を超えれば、全社の利益を押し下げる。
液晶向け顔料の置き換え
情報・電子向けは売上の約 16%。液晶は有機 EL に押され、パネルの数は頭打ちだ。顧客のパネルメーカーが現地の調達先を育てれば、日本製の顔料が置き換わる恐れがある。特定の用途への依存が強いので、需要が落ちた時の影響は大きい。
原料高の転嫁の遅れ
顔料・インキ・樹脂は石油化学の原料に左右される。前の中計では、ウクライナ情勢後の原料高の転嫁が遅れ、目標の半分しか届かなかった。値決めの力が弱いと、原料が上がる局面で利益率が先に落ちる。
M&A の実行と海外拠点の管理
成長投資として約 150 億円の M&A を見込むが、大型の買収の実績はない。買収先の統合に失敗すれば、減損で資本の効率がさらに下がる。海外拠点ではランサムウェアの被害も出ており、拠点が増えるほど管理の負担が大きくなる。
今後の分かれ目
- 営業利益率が 8% 台で 2〜3 年続いたら
- 利益率の前提を上げ、楽観・やや楽観の確率を引き上げる。
- 今期の利益の急増が、一時的な要因だったとわかったら
- 中立の利益率を下げ、やや悲観に確率を寄せる。
- 持ち合い株の売却と大きな自社株買いで、ROE が 8% に近づいたら
- 倍率の前提を上げる。ROE が資本コストを超える形になれば、見方を変える。
- 液晶向けの顔料で、中国の調達先への切り替えが公表されたら
- 情報・電子向けの数量と利益率を下げ、悲観側に寄せる。
- 大型の M&A が発表されたら
- 買収額と買収先の利益率を確認し、資本の効率が下がる形なら悲観側に寄せる。
- 印刷インキの営業利益率が 5% を超えて定着したら
- インキの前提を上げ、中立の利益を少し上方修正する。
見ておくもの
- カラー&ファンクショナルの営業利益率(今期 6% 台から 8% 台へ上がるか)
- ポリマー&コーティングの売上と利益率
- 印刷インキの数量と営業利益率
- ROE と総還元性向(自社株買いの実績)
- 政策保有株の残高
- M&A の発表と海外売上比率
倍率と資本コストの決め方
三つの事業を、推定の出荷量(千トン)と物価込みの単価で積み上げ、事業ごとの営業利益率から営業利益を出した。資本コストは基本 7.5%+quality+0.5%(業種の循環+0.25、値決め力の弱さ+0.25)の 8.0%。倍率は g 4%、RONIC=k+残る割合 1/2×(ROE−k) から出した正当化 PER の 8 割(中立)に置き、今の株価や PER、過去の PBR には寄せていない。ROE が資本コスト未満なので PER は 10 倍前後となり、今の時価総額を下回る。自己資本の流れは「今+純利益の合計−還元」で出した。悲観は PBR を今の自己資本に掛け、過去の PBR の底からは置いていない。リースは本社・工場の賃借が中心で小さいと見て、新リース会計基準の影響は限定的と置き、数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.21→13.07 倍・やや楽観 PER 9.78→12.9 倍・中立 PER 8.39→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5%(業種の循環 +0.25、値決め力の弱さ +0.25)を足して 8.0%。M&A の実行や海外拠点の管理は k に足さず、筋書きで見た。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.75%。