結論
日本高純度化学は、電子部品の接点に使う金とパラジウムのめっき薬品に絞った会社だ。AIサーバー向けの追い風は本物だが、筆者は今の値段を割高寄りとみる。
理由は二つある。第一に、時価総額268億円の中身だ。保有株と現金は、税金を引いても時価総額の約7割を占める。本業の営業利益は6億円に届かない。第二に、保有株は取得原価がほぼゼロで、売ればおよそ3割が税金に消える。帳簿の純資産223億円は、その税金を引いたあとの値になっている。
本業の姿は悪くない。固定資産は1億円で、工場を持たずに回る。ただ、売上181億円の大半は顧客に渡す金の地金代である。売上は金価格で大きく振れ、利益を決めるのは薬品の加工料だ。その加工料は、10年前から増えていない。営業利益は2015年3月期の11億円から6億円へ縮んだ。
10年後を中立で置くと、基板向けの出荷量は1.9倍、営業利益は16億円前後になる。これに保有株の売却とDOE5%下限の還元が乗る。それでも、確率で重みづけた価値は今の時価総額を2割余り下回る。保有株が下がらず、AI向けの採用も一段広がる楽観では、大きく上に外れる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を二つに分けて見る。一つは固定資産のほぼない薬品会社、もう一つは取得原価ゼロの株式ポートフォリオと現金の束だ。
薬品会社としては、手元に残る利益(営業利益から税を引き、運転資金を差し引いたもの)が年4億円前後と小さい。AI向けの数量が伸びても、加工料の交渉力が弱く、10年間利益が増えなかった実績を軽くは見られない。会社が成長投資としてM&Aを掲げる点は、資本を雑に使う危うさと背中合わせだ。
保有株と現金は、税金を引いた約170億円が時価総額の過半にあたる。これが本物の価値で、安全域になる。ただ、時価が3か月で7割動くような株は、評価の根拠にはならない。払う値段のうち、約7割は他社の株価で決まる。値が戻れば価値は増えるが、それは日本高純度化学の稼ぐ力ではない。
経営は、DOE下限と縮減方針で資本の規律を示した。この点は評価する。だが、売却益で配当を払う姿は、本業の稼ぎが追いついてからでなければ長続きしない。長く持ちたいかと問われれば、本業の加工料が増え始めた証拠を見てからにしたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、無電解の金めっき液である。基板やコネクタ、リードフレーム(半導体チップを載せる金属の台)の表面に、電気を流さずに薄い金の膜をつくる。金は錆びず電気をよく通す。だから最先端の半導体ほど、接点の金が欠かせない。パラジウムを使う下地めっきも手がける。
売上の約5割は、プリント基板と半導体パッケージ基板向けだ。AI用のGPUやサーバーのCPUが載る基板に使われる。残りはコネクタ向けと、リードフレーム向け。取引先には基板大手のイビデンなどが挙がる。製造は大きな自社工場を持たない「ファブライト」で、固定資産は1億円にすぎない。
売上の数字には癖がある。薬品に金やパラジウムの地金を付けて売ると、地金代がそのまま売上に載る。2026年3月期の売上は前期比43%増の181億円だが、粗利益は19億円で、粗利益率は約1割しかない。金の月平均価格が1グラム1.56万円(2025年6月)から2.50万円(2026年3月)へ上がった年に、売上が膨らんだ面が大きい。
本当の稼ぎは、薬品の加工料から販売費と研究費を引いた営業利益だ。2026年3月期は5.8億円。2027年3月期予想も6.1億円で、売上が3割伸びても営業利益はほぼ動かない。人を増やし、研究に投じているからだ。
純利益18億円のうち、保有株の売却益が16.6億円を占める点にも注意が要る。本業の稼ぎの3倍に当たる額が、毎年の看板として出ている。
優良さと弱いところ
優良さには二つの顔がある。技術の面では強い。50年にわたり貴金属のめっきに絞り、業界トップクラスと自称する。顧客の基板ラインに入るには品質の試験に年単位がかかり、一度入れば簡単には外されない。金を減らしても性能を保てる処方が売りで、金が高いほど価値が増す。
数字の面では強さが見えない。営業利益は2015年3月期の11億円から6億円へ縮んだ。「世界シェアトップ」は会社の自己評価で、市場調査に基づく数字は開示されていない。
値決め力は中ぐらいだ。顧客の基板メーカーは大手が少数で、加工料の交渉力は買い手に近い。会社自身が、金の高騰で汎用品は金を使わない動きが進むと認める。コネクタのような汎用寄りの領域では、金の使用量が減り続ける公算が大きい。
資本効率は、本業だけ見れば優れている。固定資産が1億円で、設備投資がほとんど要らない。弱いのは余った資金の使い道だ。純資産の8割を保有株と現金が占め、ROEはその分薄まる。経営は、DOE5%の下限と保有株の縮減を掲げ、外部の専門家を交えた会議を月に1回開く。資本コストを意識する姿勢は評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の中心は、AIサーバー向けの半導体パッケージだ。会社が引く富士キメラ総研などの予測では、2024年度から2027年度の年平均成長率はAIサーバーが約3割、メモリが約7%、プリント基板が約4%、コネクタが約7%。スマートフォンは約2%にとどまる。成長はAI向けに偏る。
足もとでは、2027年3月期第1四半期の売上が前年同期比で8割増え、AIサーバーやメモリ向けが好調だった。一方で、メモリ価格の高騰でパソコンやスマートフォンの回復は鈍い。この期間に金が1グラム2.5万円から2.2万円へ下がり、在庫の評価損で営業利益は0.3億円まで落ちた。金の相場は、利益を直接揺らす。
競争は、ニッチな専業が並ぶ形だ。基板向けの表面処理薬品では上村工業、JCU、メックなどが並び、貴金属の地金から薬品まで持つ田中貴金属工業もいる。海外では米MKS傘下のアトテックや台湾・中国の地場メーカーも入る。電子部品向けの金・パラジウム系めっき薬品の世界市場は、地金を除いた加工料ベースで500億〜700億円と推定する。会社の加工料売上は約50億円とみられ、シェアは1割弱だ。
技術の分かれ目は三つある。ニッケルを使わないめっきへの移行、基板の微細化、金の使用量を減らす流れだ。いずれも金めっき液の需要は減らさないが、金の売上換算の数量には響く。
資本政策と M&A
株主還元は手厚い。DOE(自己資本配当率)の下限を5%に置き、2026年3月期の配当は総額約12億円、配当性向64%。2027年3月期は総額約13億円の予想だ。ただ、利益の大半は保有株の売却益であり、本業の稼ぎだけでは配当を賄えていない。
保有株は、方針として中期経営計画の期間(2027年度まで)に純資産の20%未満へ縮める。2022年3月期末の83億円から2025年3月期末の60億円まで減ったが、株価の上昇で2026年6月末の時価は180億円となり、純資産比は80%に上がった。2026年3月期の売却額17億円に対し益が16.6億円で、取得原価はほぼゼロとみてよい。2027年3月期の売却益は21億円を見込む。
成長投資は、金の前後のめっき工程や半導体顧客を持つ会社とのM&A、技術提携、海外拠点の獲得を掲げる。複数社との協議を明かしているが、中身は開示していない。半導体の新興企業に投資するVCファンドにも出資した。
大株主の動きも見ておきたい。投資ファンドのひびき・パース・アドバイザーズが、2026年2月に共同保有を含め議決権の21%を超えて主要株主になり、7月には9%台に下がった。買収の提案は確認できないが、資本政策に株主の目が向かい続けている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIサーバー向けの需要は、まだ入り口にいる。富士キメラ総研などの予測を引く会社の資料でも、AIサーバーは年3割超の伸びで、プリント基板の4%やメモリの7%と桁が違う。日本高純度化学の薬品は、そのAI向けの基板に使われる。ここで採用が広がれば、基板向けの出荷量は10年で3倍を超える。
会社は自社を「金の卓越したノウハウ」を持つ業界トップクラスと位置づけ、省金属の処方を強みにする。金が1グラム2.2万円を超えた今、顧客は金を減らしたい。減らしながら性能を保てる薬品の価値は、金が高いほど増す。営業利益率が基板向けで6%台に乗れば、全社の営業利益は30億円を超える。
資本政策も追い風になる。保有株の縮減方針に加え、DOEの下限5%を掲げる。金の前後の工程を持つ会社を買えば、薬品の一括提案ができる。固定資産が1億円の会社が、買収で工程の厚みを足せば、いまの営業利益率の低さは「入口の姿」にすぎなくなる。
慎重な見方
営業利益は、10年前の11億円から6億円へ縮んだ。この10年で売上は2倍近くになったのに、だ。AIの追い風を言う前に、この事実が重い。売上が膨らんでいるのは金の地金代で、会社自身も「売上は金価格で大きく変わる」と断る。粗利益率は1割しかなく、薬品の加工料は増えていない。
AI向けの需要は強いが、基板メーカーは少数で、加工料の交渉力は買い手にある。会社は「金の高騰で汎用品は金を使わない動きが進む」と認める。最先端のパッケージでも、金を減らす設計は進む。競合は上村工業、JCU、メックなど、同じ基板メーカーに薬品を売る先が並ぶ。台湾や中国の地場メーカーも安さで入ってくる。
株の価値の大半は、取得原価がほぼゼロの保有株にある。時価は3か月で107億円から180億円へ跳ね、純資産に占める割合が6割から8割に上がった。同じ勢いで下がれば、買値の根拠が消える。売却益で払う配当は、本業の稼ぎで払えていない。M&Aの協議が進むとも言うが、買う側が高値をつかむ危うさは残る。
どちらに重みを置いたか
AI向けの数量が伸びる点は、強気の見方が正しい。ただし、数量が伸びても本業の利益が増えなかった10年の実績が、慎重な見方を支える。中立は、基板向けを1.9倍、営業利益を16億円前後に置いた。それでも、本業と現金・保有株を合わせた価値の10年後は、今の時価総額を2割余り下回る。保有株が値上がりし続ける楽観は1割弱、構造的に負ける悲観は1割半ばに置き、確率はやや慎重な側に寄せた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,011 円291 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,410 円140 億円)。 今の値に割り戻すと 4,250 円247 億円、今との差 −0.2%、 期待の年率 +5.7%(資本コスト 7.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 10,801 円628 億円 | 3,044 円177 億円 | +225.0% | +12.5% | 1,246 円72 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,507 円437 億円 | 2,786 円162 億円 | +141.6% | +9.2% | 2,059 円120 億円 |
| 中立 | 31% | 5,149 円299 億円 | 2,563 円149 億円 | +81.0% | +6.1% | 2,391 円139 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,662 円155 億円 | 2,236 円130 億円 | +15.0% | +1.4% | 1,176 円68 億円 |
| 悲観 | 16% | 1,892 円110 億円 | 1,548 円90 億円 | −19.3% | −2.1% | 550 円32 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,011 円291 億円 | 2,410 円140 億円 | +74.2% | +5.7% | 7,421 円432 億円 |
今の株価時価総額 4,260 円248 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 9% 楽観:AIの先端パッケージで採用が広がり、M&Aも当たる 利益 24 億円 · PER 20.2 倍 · 株価時価総額 10,801 円628 億円
半導体パッケージ基板の金めっきで、日本高純度化学の薬品が先端品の標準に近づく。AIサーバー向けの基板は計画を超えて増え、10年後の基板向け出荷量は今の3倍を超える。省金属の処方が評価され、金が高くなっても採用が減らない。リードフレームもデータセンターの電源部品向けが伸びる。M&Aで金の前後のめっき工程を手に入れ、薬品の一括提案が通る。基板向けの営業利益率は6%台に乗り、全社の営業利益は30億円を超える。保有株は売却を進めながらも値上がりが続き、還元の合計は180億円近くになる。ただしこの姿でも、本業は固定資産の軽い小さな事業であり、倍率は式の上限の9割に置く。
- プリント基板・半導体パッケージ基板用めっき薬品:数量 1,261(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 31,900(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 402 億円・営業利益 26 億円。出荷量3.2倍。AIの先端パッケージで採用拡大、営業利益率6.5%
- コネクタ・マイクロスイッチ用ほか:数量 148(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 31,900(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 47 億円・営業利益 2 億円。出荷量横ばい、金の省略で伸びず。営業利益率3.5%
- リードフレーム用めっき薬品:数量 955(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 13,050(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 125 億円・営業利益 4 億円。出荷量1.4倍。データセンター向けパワー部品。営業利益率3.5%
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.3% が k 7.05% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)190 億円。全体の PER 20.24 倍、時価総額 628 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けの基板が計画を超え、M&Aも当たる姿。会社の過去10年は営業利益が減ってきたので、1割弱にとどめた。
やや楽観 20% やや楽観:AI向けが計画どおり伸び、本業の稼ぎが4倍に近づく 利益 17 億円 · PER 18.8 倍 · 株価時価総額 7,507 円437 億円
AI向けの需要が計画どおり伸び、基板向けの出荷量は10年で2.5倍になる。金価格は物価を少し上回って上がり、売上は膨らむが、利益の増え方は売上より緩やかだ。基板メーカーとの関係は深まり、新製品の採用も進む。コネクタは横ばい、リードフレームは回復して緩やかに伸びる。M&Aは小さな買収が当たる程度にとどまる。営業利益は22億円ほどで、今の4倍に近い。保有株は縮減の方針どおり売り進めるが、売却益は税金を引いて還元と戦略投資に回る。中立よりも一段、AI向けが強く出る筋書きだ。基板向けの営業利益率は6%近くまで上がるが、買い手の交渉力は残り、10年前の水準に戻るわけではない。DOE5%の下限は守られ、還元は160億円ほどに達する。
- プリント基板・半導体パッケージ基板用めっき薬品:数量 985(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 30,800(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 303 億円・営業利益 18 億円。出荷量2.5倍。AI向けが計画どおり伸びる。営業利益率5.8%
- コネクタ・マイクロスイッチ用ほか:数量 145(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 30,800(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 45 億円・営業利益 1 億円。出荷量0.98倍。営業利益率3.2%
- リードフレーム用めっき薬品:数量 852(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 12,600(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 107 億円・営業利益 3 億円。出荷量1.25倍。営業利益率3.2%
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.7% が k 7.05% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)154 億円。全体の PER 18.78 倍、時価総額 436 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けが計画どおり伸びる、中立の隣の姿。基板向けは確かに強く、2割を置いた。
中立 31% 中立:基板向けは倍近くに伸びるが、本業の稼ぎは2.7倍どまり 利益 12 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 5,149 円299 億円
AI向けの基板需要は伸びるが、市場の伸びは10年で1.5倍ほどにとどまる。日本高純度化学は先端品で強く、シェアを少し上げて基板向けの出荷量は1.9倍になる。コネクタは金を使わない方向へ動き、緩やかに縮む。リードフレームはデータセンター向けで少し伸びる。金価格は物価並みに上がり、売上は倍増する。営業利益は16億円前後で、2022年3月期の水準に物価を掛けた程度だ。人件費と研究費が重く、利益率は5%に届かない。保有株は縮減の方針で売りが進み、売却後の資金の4割ほどが還元に回る。DOE5%の下限が守られ、還元は10年で150億円ほど。
- プリント基板・半導体パッケージ基板用めっき薬品:数量 749(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 29,480(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 221 億円・営業利益 11 億円。出荷量1.9倍(市場1.5倍×シェア1.27倍)、単価1.34倍。営業利益率5.2%
- コネクタ・マイクロスイッチ用ほか:数量 141(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 29,480(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 41 億円・営業利益 1 億円。出荷量0.95倍、金の省略が進む。営業利益率3.0%
- リードフレーム用めっき薬品:数量 784(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 12,060(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 95 億円・営業利益 3 億円。出荷量1.15倍。営業利益率3.0%
倍率:事業の純利益 10 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 7.05% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)124 億円。全体の PER 16.92 倍、時価総額 299 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場の伸びを取り込みつつ、人件費と研究費が利益を食う、最も起こりやすい姿。本業の利益は10年増えなかった実績もあり、3割強にとどめた。
やや悲観 24% やや悲観:金の省略と値引きで、数量が伸びても利益が増えない 利益 6 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,662 円155 億円
AI向けの需要自体は続くが、基板メーカーが金の使用量を減らし、薬品の値引きを求める。基板向けの出荷量は1.3倍にとどまり、金価格も上昇が止まって戻る。コネクタは銅やニッケルへの置き換えで縮み、リードフレームは民生の弱さで伸びない。営業利益は8億円弱で、今から3割ほど増える程度。人を増やした固定費が重く、売上が増えても利益が付いてこない。M&Aは高値づかみに近く、収益に寄与しない。保有株は縮減の途中で価格が緩み、還元は130億円ほど。ROEは1桁前半にとどまり、時価総額は純資産を割る水準になる。AI向けの需要という追い風があっても、薬品の加工料が増えない10年の延長になる、最も現実に近い悪い姿だ。
- プリント基板・半導体パッケージ基板用めっき薬品:数量 512(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 25,300(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 130 億円・営業利益 5 億円。出荷量1.3倍、単価は金の戻りで1.15倍。営業利益率4.0%
- コネクタ・マイクロスイッチ用ほか:数量 126(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 25,300(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 32 億円・営業利益 1 億円。出荷量0.85倍。営業利益率2.6%
- リードフレーム用めっき薬品:数量 648(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 10,350(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 67 億円・営業利益 2 億円。出荷量0.95倍。営業利益率2.5%
倍率:事業分のROEは6.3%でkの8.3%に届かず、ためた利益は額面を下回る価値なので、PERの上限は1÷k=12.05倍。数量は伸びても利益が付いてこない姿なので、これより低い12.52倍に置いた。余った現金92億円は戻り方1.0で足す。
確率:数量は伸びても、金の省略と値引きで利益が付いてこない姿。過去10年の実績に最も近く、2割強を置いた。
悲観 16% 悲観:構造的に負け、M&Aも外れ、保有株も崩れる 利益 2 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,892 円110 億円
構造的に負ける筋書きだ。台湾や中国の地場メーカーが安いめっき液で基板向けを取り、日本高純度化学は先端品でも値引きを迫られる。基板メーカーの金の省略が進み、出荷量は今の4分の3に減る。金価格も下がり、売上は3割減る。コネクタとリードフレームも利益がほとんど出ない。営業利益は2億円を切り、固定費の重さだけが残る。成長を求めたM&Aが外れて、数十億円の減損が出る。保有株は10年を通じた下落で大きく目減りする。それでも本業の固定資産は軽く、現金と売れる保有株が残るため、価値は純現金と売れる資産の税引き後で決まる。
- プリント基板・半導体パッケージ基板用めっき薬品:数量 296(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 19,800(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 59 億円・営業利益 1 億円。出荷量0.75倍、単価0.9倍。値引きと固定費で営業利益率2.0%
- コネクタ・マイクロスイッチ用ほか:数量 104(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 19,800(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 21 億円・営業利益 0 億円。出荷量0.7倍。営業利益率1.0%
- リードフレーム用めっき薬品:数量 546(金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質))× 価格 8,100(出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目))→ 売上 44 億円・営業利益 0 億円。出荷量0.8倍。営業利益率0.8%
倍率:構造的な負けで、本業の純利益はほぼ出ない(1億円台)。ROEはkに届かないので、稼ぐ力(事業の純利益÷k)は小さく、価値は売れる資産の側で決める。現金と売れる保有株の税引き後に事業の残りを足した約110億円を、今の自己資本(2026年3月末の180億円)に約0.61倍を掛けた形で置いた。
確率:地場メーカーの台頭、顧客の少数集中、M&Aの失敗、保有株の下落が重なる姿。小さな会社で顧客が少なく、1割半ばを置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
プリント基板・半導体パッケージ基板用めっき薬品
AIサーバーやパソコンのCPU・GPUを載せる基板の表面に、無電解の金・パラジウムを付ける薬品。置換金・還元金・還元パラジウムが中心で、全社の約5割。
| 数量金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質) | 価格出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 394 | 22,000 | 87 | 3 |
| 10 年後 中立 | 749 | 29,480 | 221 | 11 |
取り方:売上の約48%(会社開示)で約87億円。2025年6月から2026年3月の金の月平均価格(1.56万〜2.50万円/g)を平均して、地金と加工料を含む売上単価を約2.2万円/gとみた。87億円÷2.2万円で金・パラジウム換算の出荷量は約390kg(推定)。営業利益は全社5.8億円を、AI向けで稼ぐ基板向けに厚めに3.4億円と割り振った(推定)。
コネクタ・マイクロスイッチ用ほか
スマートフォンや車載・産業機械のコネクタ向けの電解金めっき(硬質金・純金)と、その他の用途。金の省略が進みやすい汎用寄りの領域。
| 数量金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質) | 価格出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 148 | 22,000 | 33 | 1 |
| 10 年後 中立 | 141 | 29,480 | 41 | 1 |
取り方:売上の約18%(四半期の構成から推定)で約33億円。売上単価は基板向けと同じ約2.2万円/gとみて、出荷量は約150kg。営業利益は0.9億円と割り振った(推定)。
リードフレーム用めっき薬品
半導体チップを載せる金属の台(リードフレーム)にパラジウムなどを付ける薬品。パソコン・サーバー・車載の半導体パッケージ向けで、データセンター向けが増えている。
| 数量金・パラジウム換算の出荷量(kg、実質) | 価格出荷1gあたりの売上(円、地金+加工料込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 682 | 9,000 | 61 | 1 |
| 10 年後 中立 | 784 | 12,060 | 95 | 3 |
取り方:売上の約34%(同上)で約61億円。パラジウムの比重が高く(薄膜Pd下地めっき)、売上単価は金より低い約0.9万円/gとみて、出荷量は約680kg。営業利益は1.46億円と割り振った(推定)。
リスクと懸念
保有株の価格が崩れる
時価総額の約7割(税引き後)は取得原価ゼロの保有株と現金にあり、保有株の時価は3か月で107億円から180億円へ動いた。同じ幅で下がれば、純資産は一気に痩せる。縮減が進む前に相場が反転する危うさがある。
金の相場が利益を揺らす
金やパラジウムの価格が下がると在庫の評価損が出て、利益が減る。2027年3月期の第1四半期は、売上が8割増えたのに営業利益は3分の1に減った。地金代は売上に載るが利益は薄く、相場の下落だけ損が出る形だ。
顧客が少数で、値引きを迫られる
基板向けは少数の大手メーカーが主な取引先で、加工料の交渉力は買い手にある。AI向けの基板が増えても、薬品の単価は上がらず、数量の伸びが利益に届かないことが10年続いた。
金を使わない設計が広がる
金の高騰で、汎用品は金を使わない方向へ進むと会社自身が認める。コネクタなどで銅やニッケルへの置き換えが続けば、金換算の出荷量が減る。先端品でも金の層を薄くする設計が進めば、数量の伸びが鈍る。
M&Aの失敗
非連続な成長を掲げ、複数社と協議中だ。固定資産の軽い小さな会社が、のれんを抱える買収に踏み切ると、減損で純資産が傷む。余った資金を使う先として最も大きなリスクになる。
本業の利益が見えにくい
純利益の大半が保有株の売却益で、毎年の利益が本業の実力を映していない。売却が終われば純利益は5億円前後に戻る。配当は売却益で賄われており、DOE下限を維持する源泉が尽きる時期が来る。
大株主の動き
投資ファンドが2026年に議決権の21%を超えたのち9%台まで下げた。ブラックロックの保有割合も下がっている。大口の売りが続けば株価が重くなり、逆に提案が出れば経営方針が変わる。
今後の分かれ目
- 基板向けの出荷量が前年比で2割以上伸び、営業利益が増え始める
- 加工料が増える証拠になる。中立から楽観へ確率を移してよい。
- 金の相場が高止まりしても営業利益率が3%を割る
- 地金代だけが膨らむ構造が続いている。数量が伸びても利益は付いてこないとみて、やや悲観側に寄せる。
- 保有株の売却が進み、純資産比20%未満の目標が達成される
- 保有株の価格リスクが小さくなり、価値の下振れが減る。一方、売却益が消えた後の純利益を確認する。
- 協議中のM&Aが大型の買収として発表される
- 買収額と対象の収益性を確かめる。のれんが厚ければ悲観側に寄せ、金の前後の工程を持つ小型なら中立のままにする。
- 基板大手が金めっきの使用量を減らす新方式を採用する
- 金換算の出荷量に響く。基板向けの数量を引き下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 大株主が資本政策の提案や株主還元の強化を求める
- 余った資金の戻りが早まるので、還元の確率を上げる。買収の動きなら、TOBの可能性も見る。
見ておくもの
- プリント基板・半導体パッケージ基板向けの売上と営業利益の四半期の動き
- 金・パラジウムの価格と在庫評価損
- 政策保有株の時価と売却額(純資産比20%未満の進み具合)
- M&Aと技術提携の開示
- 主要基板メーカーの設備投資と金の使用量の方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から置いた。事業分のROE(余った現金を除く)からRONICとgを出し、正当化PERの上限に対する比で決めた。今の株価やPBR、同業の倍率は使っていない。数量は金・パラジウム換算の出荷量(実質)、価格は売上単価の名目(中立で10年1.34倍)で、金の相場は価格に含めた。新リース会計は、借りる資産が小さいため影響は軽い。自己資本は、保有株の値上がり(中立で年6%)が評価差額金として加わるため、純利益と還元だけの流れより高く置いた。本業の利益は、売上の大半が金の素通しなので、営業利益率を3〜5%に置き、上限は過去の高い水準の下に収めた。保有株は、売却実績と縮減の目標があるため余り資産として足し、その受取配当は倍率を掛ける利益から外し(二重に数えない)、取得原価ゼロで売却益に約3割の税がかかる点を入れた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.39→20.24 倍・やや楽観 PER 13.02→18.78 倍・中立 PER 12.22→16.92 倍・やや悲観 PER 10.5→12.52 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityの+0.8%を足して8.3%。保有株の価格や経営の個別リスクはkに入れず、筋書きと確率に反映した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.30% → 7.05%。