結論
デンカは、電子材料とヘルスケアという二つの強い事業を、汎用樹脂とゴムという重い祖業が抱えている会社だ。
筆者の結論は「割高寄り」である。いちばんの理由は、稼ぐ力が資本コストに届かない時間が長いことだ。2026年3月期の営業利益は262億円で、同じ時期の純有利子負債は1,864億円ある。借金の重さに対して、利益の厚みが足りない。
稼ぎ頭は電子・先端プロダクツである。利益率は13%を超え、AI向けの放熱材や電池の導電材で伸びている。ライフイノベーション(インフルエンザの検査キットやワクチン)は利益率15%と質が高く、2026年3月にはカイノスを傘下に収めて診断薬を広げた。一方、ポリマー(スチレン樹脂)の利益率は3%を割り、エラストマー・インフラ(クロロプレンゴムなど)はほぼ利益ゼロだ。
会社は2026年2月に新しい計画を出し、営業利益を3年で450億円へ引き上げる目標を掲げた。当初の「2030年に1,000億円」からは大きく後退している。筆者は、その450億円に届くのは数年遅れると見る。届いても、10年後の自己資本利益率(ROE)は7%前後にとどまり、資本コストの8.7%を下回る。
倍率を上げる材料が乏しいため、確率で重みづけた本質価値は今の時価総額を2割ほど下回る。事業の入れ替えが想定より速く進めば評価は変わるが、その分は楽観側の筋書きに入れてある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、デンカは「持ち続けたい会社」とまでは言えない。
オーナー利益、つまり再投資を引いて株主に残る利益で見ると、今の稼ぎは薄い。設備は古い汎用品の維持に食われ、新しい電子材料の設備は償却がかさむ。利益がまとまって残る段階には届いていない。
見るべきは堀と資本の使い方だ。診断薬の堀は信頼できる。電子材料は、競合が多く、堀の広さをまだ確かめられない。汎用品に堀はない。資本の使い方は、先行投資の回収が遅れ、結果は合格点でない。ただ、赤字の事業を止める決断は評価できる。
安全域も薄い。借金が重く、景気の悪い年に利益が大きく振れる事業を持つ。強気の筋書きが当たっても、払ってよい値段は今の時価総額をあまり上回らない。わかりにくい事業の組み合わせで、予測の自信も低い。そのぶん確率を慎重側に寄せた。
何で稼ぐ会社か
デンカは新潟県の青海工場を中心に、電石(カーバイド)から化学品を作ってきた会社だ。今は四つの事業に分かれる。
最大はポリマーソリューション(売上1,242億円)で、ポリスチレン、ABS樹脂などのスチレン系樹脂と食品包装材を担う。家電や包装に使う汎用品で、中国勢との価格競争にさらされる。セメント事業は2025年6月に生産を終えた。2026年3月には、ダイセルが持っていた東洋スチレンの持ち分を取得し、連結子会社にする手続きを進めた。
電子・先端プロダクツ(1,044億円)が稼ぎ頭である。リチウムイオン電池向けのアセチレンブラック(導電材)、半導体の封止材に入る球状シリカ、放熱用の球状アルミナ、窒化ケイ素の基板などを作る。AIサーバーや電気自動車で熱の問題が増えるほど、需要が伸びる領域だ。
エラストマー・インフラソリューション(976億円)は、合成ゴムのクロロプレンゴムと特殊セメント混和材が中心だ。米国子会社DPEの設備は2025年5月に期限を定めず止めた。国内は青海工場の1拠点に絞った。
ライフイノベーション(405億円)は、インフルエンザの迅速検査キット、ワクチン、血液検査の試薬を持つ。医療現場の需要は景気に左右されにくい。2026年3月にカイノスのTOB(株式公開買い付け)が成立し、生化学の検査試薬が加わった。
優良さと弱いところ
質は事業ごとにまるで違う。強いのは診断薬と、電子材料の一部だ。
診断薬は医療機関との取引が続きやすく、値段を落としにくい。球状アルミナやアセチレンブラックは、品質の安定と顧客との共同開発が堀、つまり他社がまねしにくい強みになる。ただし球状アルミナは、レゾナックやアドマテックスなど競合が多く、中国メーカーの追い上げもある。堀は「広い」でなく「中くらい」と筆者は見る。
スチレン樹脂とクロロプレンゴムには堀がほとんどない。需要が減る国内で、設備を持ち続ける負担だけが重い。DPEの暫定停止は、この事業の弱さを会社が認めた形だ。
資本効率は低い。ROEは2026年3月期で5.1%、過去10年の中央値は8.3%である。2021年度と比べて固定費が約150億円増えた。成長のために設備を積んだが、EV向けの需要が遅れ、回収が間に合っていない。
財務は、自己資本比率45.6%と一見堅い。ただ純有利子負債は時価総額の7割にあたる。利払いの重さが、これからの金利上昇で利益を削る。経営は撤退と選択に動いており、その実行力が質を決める。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界は二つに割れている。汎用の側は縮み、先端の側は伸びる。
スチレン樹脂とクロロプレンゴムは、中国の大規模増設で供給過剰が長引く領域だ。国内は需要が人口と産業の縮みで細り、石化設備の統合・停止が10年単位で続く。デンカもスチレン系の事業を分けて、提携の道を探っている。ここでの成長は期待せず、数量は減ると置く。
電子材料は、AIデータセンターと電気自動車、再生可能エネルギーが需要を支える。半導体の封止材や放熱材は、チップの発熱が増えるほど要る量が増える。ただデンカ自身が認めるとおり、半導体やEV向けの需要は2024〜2025年に変調し、先行投資の回収が遅れた。筆者は、需要の方向は変わらないが、道筋はなだらかでないと見る。
クロロプレンゴムは、東ソーやランクセスなどと世界で競う。自動車のホースや接着剤が主な用途で、世界の需要が後退している。デンカは米国を止めて、日本の1拠点で採算を取る方針に変えた。
診断薬は、感染症の流行に左右される。2026年3月期はライフイノベーションの売上が6%減り、利益は3割以上減った。ただ長い目では、高齢化と医療の需要が数量を支える。カイノスの取り込みは、診断薬の再編に加わる一歩である。
資本政策と M&A
資本政策は、資産を売って借金を抑え、還元は据え置きの配当で支える形だ。
還元の方針は、計画の8年間で総還元性向50%を目安にする。配当は年約86億円で据え置く。2024年3月に政策保有株を23銘柄売り、2026年3月期には大船工場の土地を売った。譲渡益は約80億円と開示されている。
M&Aは買う側と売る側の両方に動く。買う側は、カイノスの完全子会社化と東洋スチレンの連結化だ。売る側は、溶解アセチレンの3社を高圧ガス工業へ譲り、セメント事業を終え、DPEを止めた。今後はスチレン系の事業を分けて、他社との提携を探る方針も出ている。
問題は借金である。DPE関連の特別損失と先行投資が重なり、純有利子負債は1,864億円まで膨らんだ。自己資本に対する比率は0.6倍で、計画の目標は0.7倍以下だ。借り換えのたびに金利が上がり、利払いは10年で約50億円増える見込みだ。筆者は、還元を増やすより先に借金を減らす局面だと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電子・先端プロダクツは、需要の向きがはっきりしている。AIサーバーの発熱は世代ごとに増え、放熱材の球状アルミナや窒化ケイ素の基板は使う量が増え続ける。デンカはこの分野で生産能力も実績も上位にいる。2026年3月期は同事業の営業利益が5割伸び、利益率は13%を超えた。先行投資の償却が重いうちは利益が出にくいが、設備が埋まれば利益率は一気に上がる。
ヘルスケアは景気に強い。診断薬は医療機関との取引が長く続き、2026年3月にはカイノスが加わって生化学の試薬も売れるようになった。クロスセルと原料の共同調達で、利益率は戻る。診断薬の再編は続くので、デンカが次の買い手になる余地もある。
汎用品は整理が進む。DPEの停止で赤字の源は止まり、エラストマー・インフラは黒字に転じた。セメントは撤退し、溶解アセチレンも手放した。残るスチレン系を分けて他社と組めば、重荷はさらに軽くなる。計画の営業利益450億円は、ピークだった2022年3月期の401億円に少し上乗せする程度で、手が届く。
その結果、自己資本の薄い今の姿が変わる。借金は減り、ROEは10%を超え、倍率も上がる。時価総額が今の水準から大きく動いてよい理由が、事業の中にそろっている。
慎重な見方
計画が当たったことが、この会社にはほとんどない。2023年度から3年の計画では、2030年に営業利益1,000億円を掲げながら、2025年度に250億円の見込みへ後退した。新しい計画の450億円も、AIとEVの需要が元に戻る前提を置いている。外れた前提を、少し小さくして置き直しただけにも見える。
電子材料は競合が多い。球状アルミナにはレゾナックやアドマテックスがおり、中国メーカーも中位の品から追い上げる。値段が物価に届かなければ、数量が伸びても利益は伸びない。先行投資の償却は消えず、利益率が上がるとは限らない。
汎用品は止めたからといって健全にはならない。スチレン系は利益率が3%を割り、クロロプレンゴムは世界の需要が後退している。DPEの設備を止めても、国内の青海1拠点で採算が取れるかは未知数だ。事業を分けて売る話は、買い手がつく値段で売れて初めて意味を持つ。
一番の問題は借金だ。純有利子負債は1,864億円で、時価総額の7割にあたる。借り換えのたびに金利が上がり、利益の底が上がらない。設備投資を続ければ還元は増やせず、減らせば成長が止まる。この両方の板挟みが10年続く。
どちらに重みを置いたか
強気の見方が示す方向は正しい。電子材料と診断薬は、長期の追い風を持つ質のよい事業だ。ただ、その事業が稼ぐ力を発揮するまでの間に、借金と汎用品の重さが利益を削り続ける。過去の計画が外れてきた実績も重い。確率は中立を中心に置き、やや悲観を厚く、悲観を12%とした。楽観は7%に抑えた。強気の筋書きが当たっても、10年後のROEは11%前後で、倍率は上限の近くまでしか置けないと見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,009 円3,456 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,367 円1,179 億円)。 今の値に割り戻すと 2,745 円2,366 億円、今との差 −5.8%、 期待の年率 +6.3%(資本コスト 8.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 8,549 円7,370 億円 | 1,972 円1,700 億円 | +261.3% | +13.7% | 737 円635 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,149 円5,300 億円 | 1,682 円1,450 億円 | +168.9% | +10.4% | 1,566 円1,350 億円 |
| 中立 | 35% | 4,578 円3,946 億円 | 1,450 円1,250 億円 | +107.0% | +7.5% | 2,110 円1,819 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,636 円1,410 億円 | 1,160 円1,000 億円 | −4.0% | −0.4% | 727 円627 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,276 円1,100 億円 | 696 円600 億円 | −32.3% | −3.8% | 237 円204 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,009 円3,456 億円 | 1,367 円1,179 億円 | +84.6% | +6.3% | 5,376 円4,634 億円 |
今の株価時価総額 2,913 円2,511 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.2% を下回るほど割高。
楽観 7% 電子材料が伸び続け、汎用品の整理も終わる 利益 530 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 8,549 円7,370 億円
電子・先端プロダクツは、AIサーバーと電池の需要が続き、対象市場が実質で1.75倍になる。デンカは取り分7%を守り、設備が埋まって利益率は19%まで上がる。ポリマーはスチレン系の事業を分けて他社と組み、赤字の設備を畳んで利益率6%になる。エラストマー・インフラは青海1拠点で採算が整い、利益率8%に届く。診断薬はカイノスの統合が進み、利益率17%に上がる。
借金は10年で大きく減り、自己資本が厚みを取り戻す。会社の言う「異なる成長の二本柱」がほぼ形になった姿だ。当初に掲げた2030年の営業利益1,000億円には届かないが、2036年3月期に830億円台まで伸びる。
- ポリマーソリューション(スチレン樹脂・食品包装・化学品):数量 125(販売重量(万トン、推定の合計。実質の数量))× 価格 17(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 2,080 億円・営業利益 125 億円。スチレン分離と提携で6%
- 電子・先端プロダクツ(アセチレンブラック・球状シリカ/アルミナ・窒化ケイ素・電子包装):数量 175(対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価))× 価格 9.3%(デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に))→ 売上 2,451 億円・営業利益 466 億円。設備が埋まり19%
- エラストマー・インフラソリューション(クロロプレンゴム・特殊混和材):数量 70.0(販売重量(万トン、推定。セメント分を含む今期の実質数量))× 価格 18(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,281 億円・営業利益 102 億円。青海1拠点で8%
- ライフイノベーション(診断薬・ワクチン):数量 42.0(対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価。国内の診断薬・ワクチン・検査試薬))× 価格 12.1%(デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に))→ 売上 760 億円・営業利益 129 億円。統合が進み17%
倍率:事業の純利益 530 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 8.20% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.9 倍、時価総額 7,367 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIの放熱需要の拡大、汎用品の整理、診断薬の再編が10年そろって当たる必要がある。計画が外れてきた実績から、5%を上回る最低限の確率にとどめた。
やや楽観 20% 計画がほぼ達成され、電子材料が柱として定着する 利益 415 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 6,149 円5,300 億円
電子・先端プロダクツは、市場が実質1.6倍になり、利益率は16.5%まで上がる。球状アルミナと窒化ケイ素がAI向けで稼ぎ、アセチレンブラックも電池向けで戻る。診断薬は利益率15%を保ち、カイノスのクロスセルが効く。ポリマーは利益率5%、エラストマー・インフラは6.5%に整う。
営業利益は670億円近くになり、10年後のROEは9%に届く。借金は減るが、設備投資の手を緩めないので還元は配当が中心になる。会社の計画の延長線上で、特別によい筋書きではない。中国勢の追い上げも、診療報酬の抑制も、ほどほどに収まる前提だ。事業の入れ替えは、スチレン系の分離が数年かけて終わり、汎用品の赤字は消える。
- ポリマーソリューション(スチレン樹脂・食品包装・化学品):数量 122(販売重量(万トン、推定の合計。実質の数量))× 価格 17(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 2,030 億円・営業利益 102 億円。利益率5%
- 電子・先端プロダクツ(アセチレンブラック・球状シリカ/アルミナ・窒化ケイ素・電子包装):数量 160(対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価))× 価格 9.3%(デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に))→ 売上 2,241 億円・営業利益 370 億円。AI向けで16.5%
- エラストマー・インフラソリューション(クロロプレンゴム・特殊混和材):数量 68.0(販売重量(万トン、推定。セメント分を含む今期の実質数量))× 価格 18(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,210 億円・営業利益 79 億円。青海で6.5%
- ライフイノベーション(診断薬・ワクチン):数量 40.0(対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価。国内の診断薬・ワクチン・検査試薬))× 価格 12.1%(デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に))→ 売上 724 億円・営業利益 109 億円。利益率15%
倍率:事業の純利益 415 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 8.20% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.74 倍、時価総額 5,287 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2028年度の営業利益450億円が数年遅れで達成され、AIの需要が続く筋書き。会社の新計画に近く、強気の見方に一定の根拠がある。
中立 35% 計画は遅れて届き、資本効率は資本コストに届かない 利益 322 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 4,578 円3,946 億円
電子・先端プロダクツは、市場が実質1.5倍になるが、中位グレードで中国勢が値段を押さえ、価格は物価を下回る。利益率は14.5%で、計画の目標に数年遅れて届く。診断薬はカイノスが加わって数量が増えるが、診療報酬の抑制で価格は物価に届かず、利益率は14%にとどまる。
ポリマーは東洋スチレンの連結で数量が増える一方、国内の需要が縮み、利益率は4%にとどまる。エラストマー・インフラは青海1拠点で5%に整う。営業利益は530億円ほどになる。
借金は少しずつ減るが、自己資本が増えるぶん、ROEは7%台の前半にとどまる。資本コストの8.7%に届かない状態が10年続く。
- ポリマーソリューション(スチレン樹脂・食品包装・化学品):数量 118(販売重量(万トン、推定の合計。実質の数量))× 価格 16(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,906 億円・営業利益 76 億円。利益率4%
- 電子・先端プロダクツ(アセチレンブラック・球状シリカ/アルミナ・窒化ケイ素・電子包装):数量 150(対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価))× 価格 9.0%(デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に))→ 売上 2,036 億円・営業利益 295 億円。利益率14.5%
- エラストマー・インフラソリューション(クロロプレンゴム・特殊混和材):数量 64.0(販売重量(万トン、推定。セメント分を含む今期の実質数量))× 価格 17(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,107 億円・営業利益 55 億円。青海で5%
- ライフイノベーション(診断薬・ワクチン):数量 38.0(対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価。国内の診断薬・ワクチン・検査試薬))× 価格 11.7%(デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に))→ 売上 667 億円・営業利益 93 億円。利益率14%
倍率:事業の純利益 322 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.20% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍。全体の PER 12.2 倍、時価総額 3,928 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子材料の伸びと汎用品の縮みが相殺し、2036年3月期の営業利益がピークの2022年3月期を名目で3割ほど上回る程度という、最もありそうな姿。
やや悲観 26% 電子材料の値崩れと汎用品の赤字が重なる 利益 180 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 1,636 円1,410 億円
電子・先端プロダクツは、中国勢が中位グレードを侵食し、価格が物価に届かない。市場は実質1.35倍にとどまり、利益率は11%になる。ポリマーは国内の需要減に価格競争が重なり、利益率は2%に落ちる。エラストマー・インフラは青海1拠点でも採算が薄く、利益率は2.5%だ。診断薬は診療報酬の抑制と競合で利益率12%になる。
営業利益は320億円ほどで頭打ちになり、借金の返済を優先するため、配当は据え置きにとどまる。純利益は180億円前後で、ROEは5%を下回る。計画で描いた「稼ぐ力の再構築」が、10年たっても半分しか進まなかった姿である。事業の価値は、この稼ぐ力で決まる。
- ポリマーソリューション(スチレン樹脂・食品包装・化学品):数量 105(販売重量(万トン、推定の合計。実質の数量))× 価格 15(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,575 億円・営業利益 32 億円。利益率2%
- 電子・先端プロダクツ(アセチレンブラック・球状シリカ/アルミナ・窒化ケイ素・電子包装):数量 135(対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価))× 価格 8.7%(デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に))→ 売上 1,762 億円・営業利益 194 億円。値崩れで11%
- エラストマー・インフラソリューション(クロロプレンゴム・特殊混和材):数量 56.0(販売重量(万トン、推定。セメント分を含む今期の実質数量))× 価格 16(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 913 億円・営業利益 23 億円。利益率2.5%
- ライフイノベーション(診断薬・ワクチン):数量 34.0(対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価。国内の診断薬・ワクチン・検査試薬))× 価格 10.8%(デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に))→ 売上 551 億円・営業利益 66 億円。利益率12%
倍率:事業の ROE 4.8% が k 8.2% 以下なので、伸びても価値は増えず、稼ぐ力に見合う倍率になる。電子の値崩れと汎用品の赤字で堀と伸びを低く見て、1÷k = 11.5 倍の約 65% の 7.5 倍に置いた。
確率:電子材料の値崩れと汎用品の不振は、計画が過去に外れた原因そのもの。会社の実績から、中立よりやや軽い確率を置いた。
悲観 12% 電子材料も汎用品も構造的に負け、借金が重くのしかかる 利益 30 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,276 円1,100 億円
電子・先端プロダクツは、中国勢の中位品が市場を取り、価格が物価の半分程度しか上がらず、利益率は8%に落ちる。ポリマーは東洋スチレンの設備を抱えたまま赤字に近づき、営業利益がほぼゼロになる。エラストマー・インフラは世界の需要後退で赤字に戻る。診断薬は利益率8%に落ちる。
営業利益は120億円ほどにとどまり、金利の上がった借金の利払いで純利益は30億円ほどに減る。設備の減損が出て自己資本は減り、配当は大幅に削る。それでも還元が純利益の合計を上回る期間は、遊休資産や事業の一部の売却で払う。価値は稼ぐ力ではなく、売れる資産から借金を引いた残りで決まる。会社の「A格維持」の方針は守れず、格付けも下がる。
- ポリマーソリューション(スチレン樹脂・食品包装・化学品):数量 95.0(販売重量(万トン、推定の合計。実質の数量))× 価格 14(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 1,330 億円・営業利益 0 億円。赤字寸前
- 電子・先端プロダクツ(アセチレンブラック・球状シリカ/アルミナ・窒化ケイ素・電子包装):数量 115(対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価))× 価格 8.0%(デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に))→ 売上 1,380 億円・営業利益 110 億円。値崩れで8%
- エラストマー・インフラソリューション(クロロプレンゴム・特殊混和材):数量 48.0(販売重量(万トン、推定。セメント分を含む今期の実質数量))× 価格 15(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 720 億円・営業利益 −22 億円。赤字に戻る
- ライフイノベーション(診断薬・ワクチン):数量 31.0(対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価。国内の診断薬・ワクチン・検査試薬))× 価格 10.0%(デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に))→ 売上 465 億円・営業利益 37 億円。利益率8%
倍率:純有利子負債 1,864 億円を足した EV ÷ 営業利益は 25 倍を超え、利益の倍率では値が付かない。稼ぐ力は純利益 30 億円 ÷ k で 350 億円ほど。売れる資産の税後から借金を引いた 1,100 億円(今の自己資本 3,107 億円の約 35%)を床とし、今の自己資本に掛けた。
確率:電子の中位品が中国に取られ、スチレン・ゴムが赤字に落ち、借金の返済で配当も削る複合の筋書き。過去3年で営業利益が1桁台の率まで落ちた実例があり、無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ポリマーソリューション(スチレン樹脂・食品包装・化学品)
ポリスチレン、ABS などのスチレン系樹脂と食品包装材、化学品。家電・包装向けの汎用品が中心。
| 数量販売重量(万トン、推定の合計。実質の数量) | 価格1トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 12 | 1,242 | 36 |
| 10 年後 中立 | 118 | 16 | 1,906 | 76 |
取り方:開示に販売重量はない。売上 1,242 億円を、スチレン系樹脂・包装材・化学品の平均単価 12 万円台で割り、約 100 万トンと置いた(推定)。国内の需要は減り、設備の整理が進む。東洋スチレンの連結化で数量は増えるが、利益はほとんど増えない。
電子・先端プロダクツ(アセチレンブラック・球状シリカ/アルミナ・窒化ケイ素・電子包装)
電池向け導電材、半導体封止材用のシリカ、放熱用のアルミナ、基板用の窒化ケイ素など。AI・EV・再エネ向け。
| 数量対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価) | 価格デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 7.0% | 1,044 | 139 |
| 10 年後 中立 | 150 | 9.0% | 2,036 | 295 |
取り方:対象とする市場(導電カーボン、半導体・放熱用フィラー、セラミック基板、電子包装を合わせた規模)を、競合の売上から約 100 億ドルと推定した。デンカの売上 1,044 億円は、その約 7% に当たる。市場は AI の発熱対策と電池で実質年 3〜4% 伸び、価格は物価の指数で上がる。数量は実質(市場の伸び 3〜4% は物価を除いた値)。名目の市場の伸びを数量に置いてはいない。
エラストマー・インフラソリューション(クロロプレンゴム・特殊混和材)
合成ゴムのクロロプレンゴムと、トンネル・橋などに使う特殊混和材。セメントは2025年6月に終了。
| 数量販売重量(万トン、推定。セメント分を含む今期の実質数量) | 価格1トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 12 | 976 | 1 |
| 10 年後 中立 | 64.0 | 17 | 1,107 | 55 |
取り方:開示に販売重量はない。売上 976 億円を平均単価 12 万円台で割り、約 80 万トンと置いた(推定。セメント終了前の分を含む)。セメントの撤退と DPE の停止で数量は減るが、単価の低いセメントが抜けるので平均単価は物価より上がる。
ライフイノベーション(診断薬・ワクチン)
インフルエンザ等の迅速検査キット、ワクチン、血液検査の試薬。2026 年 3 月にカイノスを子会社化。
| 数量対象市場の実質規模(億ドル、2026 年の物価。国内の診断薬・ワクチン・検査試薬) | 価格デンカの取り分(シェア × 物価の指数。150 円/ドルで億円に) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.0 | 9.0% | 405 | 62 |
| 10 年後 中立 | 38.0 | 11.7% | 667 | 93 |
取り方:対象とする市場(感染症の迅速診断、ワクチン、生化学・免疫の検査試薬)を約 30 億ドルと推定した。売上 405 億円はその約 9%。高齢化で市場は実質年 1〜2% 伸びる。診療報酬の抑制があり、価格は物価をやや下回る。
リスクと懸念
借金の重さと金利上昇
純有利子負債は1,864億円で、時価総額の7割に当たる。借り換えのたびに金利が上がり、利払いは10年で約50億円増える見込みだ。景気が悪い年は設備投資と還元の両方を絞らざるをえず、成長の足も止まる。
先行投資の回収遅れ
電子材料の設備は、2021年度に比べて固定費を約150億円押し上げた。需要の戻りが遅れれば償却だけが残り、利益率は上がらない。会社が掲げてきた営業利益の目標は2回後退しており、新しい450億円にも同じ危うさがある。
電子材料での中国勢の追い上げ
球状アルミナやアセチレンブラックは、中位グレードから中国メーカーが追う。値段が物価に届かなければ、数量が伸びても利益が増えない。最先端の品で堀を保てるかが分かれ目になる。
汎用品の構造不況
スチレン樹脂は利益率が3%を割り、クロロプレンゴムは世界の需要が後退している。DPEの停止で赤字の源は止まったが、青海1拠点だけで採算が取れる保証はない。国内の石化設備の統合が進めば、供給の相手も減る。
診断薬の需要と価格の不安定さ
インフルエンザの検査キットやワクチンは、流行の大きさで年ごとに売上が振れる。2026年3月期はライフイノベーションの利益が3割以上減った。診療報酬の抑制が続けば、価格は物価に届かない。
M&Aと再編の実行
カイノスの統合、東洋スチレンの連結、スチレン系事業の分離と、同時に動く案件が多い。統合の費用や買い手探しが長引くと、資本の使い道が定まらない。DPEに続く減損が出るおそれも残る。
今後の分かれ目
- 電子・先端プロダクツの営業利益率が15%を超えて安定したら
- 設備が埋まった証拠であり、やや楽観・楽観の確率を上げてよい。
- スチレン系事業を他社と統合し、赤字の設備を畳む合意が出たら
- 汎用品の重荷が軽くなる。中立の利益率を上げ、やや悲観の確率を下げる。
- 中国メーカーが球状アルミナの中位品で大幅な値下げに動いたら
- 電子材料の価格を物価の半分以下に置き直し、やや悲観側の確率を上げる。
- 純有利子負債が時価総額の5割を下回るほど借金が減ったら
- 財務の底が上がるので、悲観の確率を下げ、還元の増額余地も上げる。
- 2027〜2028年度の営業利益が計画の350億円・400億円を連続で下回ったら
- 計画の外れが続くことになり、中立から外れて悲観側に確率を寄せる。
- 診断薬でさらに大きな買収を発表し、価格が高かったら
- 資本の使い方を低く見て、悲観側に寄せる。安く買えて利益率が保たれるなら、やや楽観側に寄せる。
見ておくもの
- 電子・先端プロダクツの四半期の営業利益率と、設備の稼働率
- ポリマー(スチレン)の分離・提携の発表
- DPEの停止後の費用と、青海のクロロプレンゴムの採算
- 純有利子負債とD/Eレシオ(目標は0.7倍以下)
- カイノス統合後のライフイノベーションの利益率
- Mission 2030フェーズ2の営業利益(350億・400億・450億円)の進捗
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとに数量(実質)と価格(物価3%込みの名目)で10年を積んだ。電子とライフは市場×取り分、ポリマーとエラストマーは販売重量の推定で、いずれも開示がないため根拠をhowに書いた。資本コストは基本7.5%にquality+1.2%を足した8.7%で、同じ領域のダイセルと並べた。倍率は式の上限に対して、楽観95%・やや楽観ほぼ全部・中立8割・やや悲観の約65%に置き、今の株価・今のPER・過去のPBRは参照していない。最後に今の時価総額と比べた結果は、-20%台のやや割高である。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12→13.9 倍・やや楽観 PER 11.5→12.74 倍・中立 PER 9.2→12.2 倍)。
資本コスト 8.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。