結論
川口化学工業は、ゴムを丈夫にする薬品を作る小さな化学会社だ。タイヤや自動車の部品、医療用のゴムに使われる。筆者の結論は、今の値段はやや高いというものだ。利益は戻ってきたが、資本コストを超えて稼ぐ力は弱いからだ。
埼玉県川口市の工場1か所で、加硫促進剤や老化防止剤を作る。売上は90億円前後で、2026年11月期は営業利益5億円と過去20年で最も高い水準に届く見込みだ。配当も増やした。
ただ、これは追い風の年の数字だ。過去12年の営業利益率は平均で3%台にとどまる。中国やインドの安い薬品が入り込み、特殊品の値段を押さえている。工場の更新には償却を上回るお金が要り、借金も時価総額と同じくらいある。
見落とせないのは、川口市の工場の土地だ。帳簿では0.3億円だが、時価は数十億円に上るはずだ。ただ工場を動かし続ける限り、その値打ちは株主に届かない。筆者は、土地の含みを買う理由にはしない。
10年の中立では、営業利益は5億円台で足踏みし、借り換えの利息がそれを少し削る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、真面目だが資本をあまり増やせない事業だ。
タイヤが走る限り、ゴム薬品は要る。客の配合に入り込めば、簡単には切られない。この点は評価できる。80年以上続いてきた会社には、それなりの理由がある。
しかし、オーナーとして手元に残る利益は細い。営業利益の多くは工場の更新に消え、株主に戻るのは純利益の2〜3割だけだ。会計の利益は物価で膨らんで見えるが、設備の入れ替えの値段も上がるので、自由に使える現金は増えにくい。
安全域の候補は川口市の土地だ。ただ、それは工場を閉じた時にしか現金にならない。工場を閉じる会社に、高い値段は付かない。筆者は、払う値段に見合う安全域は薄いと考える。利益が過去の天井を破り続けるなら、見方は変わる。
もし持つなら、事業の伸びではなく、土地の使い方が変わる日を待つことになる。それは経営が決めることで、株主が待つ時間の長さは読めない。
何で稼ぐ会社か
1935年創業の、ゴム薬品の専業メーカーだ。ゴムは生のままでは弱く、硫黄で橋をかけて弾力と強さを出す。この反応を速めるのが加硫促進剤で、ゴムが熱や酸素で劣化するのを防ぐのが老化防止剤だ。川口化学はこの2つを柱にしている。
売上の56%がゴム薬品だ。最大の用途はタイヤで、ほかにホースやベルト、防振ゴムなどの自動車部品、医療用の手袋や栓、合成ゴムの製造に使われる。残りは樹脂の添加剤、医薬や農薬の原料になる中間体、受託の化学品などだ。
売り先は国内のタイヤ・ゴム製品の会社が中心で、商社を通すことも多い。化学品の商社の山田化成が売上の2割を占め、同時に最大の株主でもある。輸出は売上の2割で、ほぼアジア向けだ。
生産は埼玉県川口市の工場研究所1か所に集まる。約3万㎡の敷地で作り、隣の土地は貸して地代を得ている。社員は160人ほどの小さな所帯だ。
儲けの仕組みは、原料の石油化学品を仕入れ、合成して売る差額だ。原料の値上がりは、半年ほど遅れて販売価格に乗せていく。
地代は年0.4億円弱と小さいが、景気に左右されない安定した収入だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、狭く浅い。
強みは品ぞろえと、客ごとの細かな注文に応える力だ。タイヤやゴム部品の配合は会社ごとに違い、薬品を替えると試験をやり直す手間がかかる。一度採用されれば、簡単には切り替えられない。この切り替えの手間が、細い堀になっている。
弱みも多い。国内のゴム薬品は大内新興化学工業や三新化学工業と分け合う狭い市場だ。汎用の促進剤は中国やインドの大手が安く大量に作り、特殊品の値段まで押さえにくる。会社自身も、海外の安価品を懸念として挙げている。
数字が実力を語る。過去12年の営業利益率は0〜5%台で、ROEの中央値は9%台にとどまる。資本コストと同じくらいで、それを大きく超えたことは無い。
工場が1か所しかないことも弱みだ。事故や災害で止まれば、代わりは無い。一方で、経営は堅実だ。借金は増やしすぎず、配当も少しずつ増やしてきた。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ゴム薬品の需要は、タイヤと自動車の生産で決まる。
世界のタイヤの本数は、新車の生産と走る車の数に沿って年1〜2%ずつ伸びる。電気自動車は車体が重く、タイヤの減りが早い。走行の静かさや燃費の要求も高く、薬品の配合は難しくなる。量より質で稼ぐ余地は広がる。
一方で、国内の需要は伸びない。国内の自動車生産は年800万台前後で頭打ちだ。ホースや防振ゴムなどの部品も、車の数に沿って横ばいか少し減る。2025年は国内の自動車生産の失速で、工業用品向けが落ち込んだ。
値段の主導権は中国にある。汎用の加硫促進剤や老化防止剤は、中国の大手が世界の生産の大半を握る。中国の環境規制で工場が止まると値段が跳ね、再開すると下がる。日本の会社は、特殊品と品質の安定で生き残っている。
医療用のゴムは明るい材料だ。手袋や注射の栓には不純物の少ない薬品が要り、安い品では代わりにくい。
筆者は、川口化学が扱う数量は10年で横ばいに近いと見る。伸びるのは単価で、それも原料の値上がりを追いかける形になる。
ゴム薬品の再編は進んでおらず、国内の中小の会社が細かく分け合う形が続いている。
資本政策と M&A
還元は配当だけで、配当性向は2〜3割と控えめだ。2026年11月期は1株の配当を増やす予定だが、総額は年1億円に届かない。自社株買いの実績は無い。
稼いだお金の多くは、工場の更新に回っている。設備投資は年7億円前後で、減価償却の4億円を大きく上回る。古い化学工場は配管や設備の入れ替えが続き、環境の規制にも対応が要る。その分を借入で賄い、純負債は20億円台で高止まりしている。
大株主には商社の山田化成が並ぶ。取引先が株主でもある、昔ながらの安定した株主の構成だ。
買収や再編は見えない。時価総額は20億円ほどで、国内のゴム薬品の再編の受け皿になる可能性はある。ただ、筆者は確度の高い話とは見ない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
利益の質が変わり始めた。2026年11月期の営業利益は5億円と、過去20年で最も高い。会社は第3四半期で予想を引き上げ、配当も増やした。原料高を値段に乗せる交渉が、以前より通るようになっている。
医療用のゴムは伸びている。手袋や注射の栓には不純物の少ない薬品が要り、安い中国品では代わりにくい。電気自動車のタイヤも、重さと静かさに合わせた配合が要る。量でなく質で稼ぐ流れは、専業の会社に向く。
工場の更新が終われば、投資は償却並みに落ち着く。その時、借金は減り、還元を厚くする余地が出る。
そして川口市の土地がある。帳簿の100倍近い値打ちがあるかもしれない。賃貸に回す土地を広げるだけでも、利益は安定する。今の時価総額は、この土地の値打ちにも届かない。
今のPERは一桁で、増配の利回りも悪くない。地味な会社ほど、改善が続けば見直される余地は大きい。
80年続いた専業の知見は、新しい会社がすぐにはまねできない。
慎重な見方
今年の利益は山の利益だ。過去12年の営業利益率は平均で3%台で、5%を超えた年は数えるほどしか無い。原料の値段が下がる局面で一時的に利ざやが広がっただけで、続く保証は無い。
値段の主導権は中国にある。汎用の促進剤は中国の大手が安く大量に作る。会社自身が、特殊品も海外の安価品に押されたと書いている。国内の自動車生産は頭打ちで、工業用品の需要は細る。
工場の更新は終わらない。古い化学工場は、配管も排水も入れ替えが続く。設備投資は償却を毎年上回り、借金は減らない。会計の利益は増えても、株主に戻る現金は増えない。
土地の含みは、工場を閉じない限り現金にならない。閉じれば土壌の処理と退職金がかかる。少数株主がその値打ちを受け取れる日は来ない。
今期の増益も、売上はほとんど伸びていない。数量が増えない会社が、利ざやだけで10年稼ぎ続けるのは難しい。
品質で勝つと言っても、その差は年々縮んでいる。中国の工場も年々、品質を上げているからだ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方がやや強い。今期の利益の改善は確かだが、過去12年の利益率の天井と中国品の圧力は変わっていない。土地の含みは事業を閉じない限り届かない。確率は中立に4割を置き、やや楽観をやや悲観と同じくらいに置いた。土地の含みは悲観の筋書きで床として数え、悲観の確率を1割にとどめる理由にした。楽観は1割に満たない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/11 期)
確率で加重した株価時価総額 2,953 円36 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 619 円8 億円)。 今の値に割り戻すと 1,684 円20 億円、今との差 −1.7%、 期待の年率 +7.6%(資本コスト 8.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,495 円67 億円 | 1,068 円13 億円 | +283.1% | +14.4% | 525 円6 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,153 円51 億円 | 821 円10 億円 | +190.4% | +11.2% | 1,094 円13 億円 |
| 中立 | 40% | 3,403 円41 億円 | 698 円9 億円 | +139.4% | +9.1% | 1,641 円20 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,069 円13 億円 | 329 円4 億円 | −18.4% | −2.0% | 280 円3 億円 |
| 悲観 | 10% | 246 円3 億円 | 82 円1 億円 | −80.8% | −15.2% | 33 円0 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,953 円36 億円 | 619 円8 億円 | +108.5% | +7.6% | 3,572 円43 億円 |
今の株価時価総額 1,713 円21 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 医療用と特殊品で利ざやが広がる 利益 6 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 5,495 円67 億円
医療用ゴムと電気自動車のタイヤ向けで、不純物の少ない特殊な薬品の需要が伸びる。川口化学は品質の安定を武器に、国内外のゴム会社に採用を広げる。販売量は10年で1割増える。
中国の環境規制が厳しくなり、汎用品の値段も底上げされる。原料高を値段に乗せる交渉が通りやすくなり、営業利益率は6%前後で定着する。
工場の更新が一巡し、設備投資は償却並みに落ち着く。借金は減り、配当を厚くする余地が生まれる。それでも利益率は化学の中では平凡で、ROEは資本コストをわずかに超える程度にとどまる。
それでも、工場が1か所の小さな会社であることは変わらない。強みは品質と客との近さにある。
- ゴム薬品:数量 6,809(販売量(トン))× 価格 110(1トンあたりの平均売上(万円))→ 売上 75 億円・営業利益 5 億円。販売量1.10倍・単価1.38倍・利益率6%
- 樹脂薬品・中間体・その他の化学品:数量 4,393(販売量(トン))× 価格 138(1トンあたりの平均売上(万円))→ 売上 61 億円・営業利益 4 億円。販売量1.15倍・単価1.38倍・利益率6%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.6 倍。全体の PER 11.57 倍、時価総額 67 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率6%を10年保つ必要があり、過去12年の天井4.8%を大きく上回る。医療用ゴムと電気自動車向けの配合が両方育ち、中国品の圧力が和らぐ姿で、確度は低い。
やや楽観 22% 今期の利益水準がほぼ続く 利益 4 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 4,153 円51 億円
今期の改善が一時的でなく、半分ほど定着する。タイヤ向けの主力品は堅調で、医療用ゴム向けも伸びる。販売量はタイヤ向けが横ばいを保ち、樹脂薬品と中間体が少し増える。
値段は物価並みに上がる。原料の値上がりは半年ほど遅れて乗せる形が続き、利益率は5%強で落ち着く。
工場の更新は続き、設備投資は償却を上回る。借金は減らないが増えもしない。利払いは借り換えで少しずつ重くなる。配当は利益に合わせて増える。地味だが安定した会社として、10年後も続いている。
土地はこれまでどおり工場と賃貸に使われ、含みは眠ったままだ。株主にとっては配当の積み上げが主な取り分になる。
- ゴム薬品:数量 6,314(販売量(トン))× 価格 107(1トンあたりの平均売上(万円))→ 売上 68 億円・営業利益 4 億円。販売量1.02倍・単価1.34倍・利益率5.3%
- 樹脂薬品・中間体・その他の化学品:数量 4,087(販売量(トン))× 価格 134(1トンあたりの平均売上(万円))→ 売上 55 億円・営業利益 3 億円。販売量1.07倍・単価1.34倍・利益率5.3%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 50 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2026年11月期に営業利益率5%台に届いた実績があり、原料高の転嫁も進んだ。その水準をやや下回る程度で保つ姿で、中立より一段上。
中立 40% 数量は横ばい、利益率は過去の天井まで 利益 3 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 3,403 円41 億円
タイヤ向けの主力品は堅調だが、国内の工業用品向けは自動車生産の頭打ちで細る。医療用の伸びがそれを埋め、ゴム薬品の販売量は10年で少し減る程度だ。樹脂薬品と中間体は横ばいで推移する。
値段は原料高を追いかけて上がるが、中国品の圧力で物価にわずかに届かない。営業利益率は4%台後半で、過去の天井とほぼ同じだ。
設備の更新に毎年償却を上回るお金が出ていき、借金は20億円台のまま残る。借り換えのたびに金利が上がり、利払いは年1億円近く増える。配当は控えめに増える。会社は堅実に続くが、資本コストを超えて稼ぐ力は戻らない。
- ゴム薬品:数量 5,881(販売量(トン))× 価格 104(1トンあたりの平均売上(万円))→ 売上 61 億円・営業利益 3 億円。販売量0.95倍・単価1.30倍・利益率4.6%
- 樹脂薬品・中間体・その他の化学品:数量 3,820(販売量(トン))× 価格 130(1トンあたりの平均売上(万円))→ 売上 50 億円・営業利益 2 億円。販売量横ばい・単価1.30倍・利益率4.6%
倍率:事業の純利益 3 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 38 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の自動車生産は頭打ちで、利益率は過去12年で4.8%を超えて続いたことが無い。今期の改善を半分ほど残し、天井は破れない姿を中心に置いた。
やや悲観 20% 中国品に押され、利ざやが細る 利益 1 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,069 円13 億円
中国とインドの大手が特殊品にも手を広げ、国内のゴム会社は安い薬品に切り替え始める。国内の自動車生産も減り、ゴム薬品の販売量は10年で2割減る。
値段は物価に届かず、利益率は2%台に落ちる。工場の固定費と更新投資は減らないので、利益の多くが消える。
借金は減らず、利払いが重くなる。配当は細り、自己資本の伸びも止まる。会社は続くが、株主に残る利益は年1億円に届かない。土地の含みは手つかずのままだ。
売上は今と同じくらいでも、手元に残る利益は今の3分の1になる。地味な会社が、さらに地味になる姿だ。配当は細く続く。
- ゴム薬品:数量 4,952(販売量(トン))× 価格 98(1トンあたりの平均売上(万円))→ 売上 48 億円・営業利益 1 億円。販売量0.80倍・単価1.22倍・利益率2.5%
- 樹脂薬品・中間体・その他の化学品:数量 3,247(販売量(トン))× 価格 122(1トンあたりの平均売上(万円))→ 売上 40 億円・営業利益 1 億円。販売量0.85倍・単価1.22倍・利益率2.5%
倍率:ROE約1.9%でkを大きく下回る。稼ぐ力(純利益0.86億円÷k)は約9.6億円だが、利益が細り更新投資も残るので、その約7割の8.0倍に置いた。土地を売る筋書きではないので、含みは足さない。PBRは約0.16倍と低いが、工場の土地は事業に使い続ける資産で、売る筋書きではない。含みを数えるのは工場を畳む悲観だけにした。
確率:特殊品が海外の安価品に押されたことは会社自身が開示している。国内の自動車生産の減少と重なれば、数量と利ざやが同時に細る。過去に利益率1〜2%の年が続いた前例もある。
悲観 10% 赤字が続き、工場を畳む 利益 −2 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 246 円3 億円
中国の大手が汎用品も特殊品も安く売り、国内のゴム会社は次々に切り替える。電気自動車への移行で国内の部品の生産も減る。販売量は10年で4割減る。
工場の固定費が重く、毎年赤字が出る。更新投資を続けられず、設備の事故の不安も高まる。会社はやがて生産の縮小を決め、川口市の土地を売って借金を返す。
土地は帳簿の何十倍で売れるが、土壌の処理と退職金に多くが消える。借金を返した残りは少なく、その使い道を少数株主が決めることもできない。
株主に残るのは、土地を売った後のわずかな値打ちと、それまでの細い配当だけだ。
- ゴム薬品:数量 3,714(販売量(トン))× 価格 88(1トンあたりの平均売上(万円))→ 売上 33 億円・営業利益 −1 億円。販売量0.60倍・単価1.10倍・赤字
- 樹脂薬品・中間体・その他の化学品:数量 2,483(販売量(トン))× 価格 110(1トンあたりの平均売上(万円))→ 売上 27 億円・営業利益 −1 億円。販売量0.65倍・単価1.10倍・赤字
倍率:赤字で稼ぐ力の床は無い。工場と賃貸用の土地を売った税後の額と投資有価証券から、赤字で膨らんだ純負債を返した残りに戻り方0.5を掛けた約3億円を床とし、今の自己資本31.3億円の0.096倍に置いた。
確率:2009年と2015年に赤字の前例があり、工場は1か所しか無い。汎用品が中国に奪われ、国内の需要も細れば、事業を続けられなくなる。土地の含みが床になるので1割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ゴム薬品
加硫促進剤・老化防止剤など、タイヤや自動車部品、医療用ゴムの配合に使う薬品。
| 数量販売量(トン) | 価格1トンあたりの平均売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 6,190 | 80 | 50 | 2 |
| 10 年後 中立 | 5,881 | 104 | 61 | 3 |
取り方:販売量は未開示。ゴム薬品の売上49.5億円を、汎用と特殊を均した1トン80万円で割った推定。営業利益は単一セグメントのため全社の化学品の利益率約4.8%で按分。
樹脂薬品・中間体・その他の化学品
樹脂の添加剤、医薬や農薬の原料になる中間体、受託で作る化学品。
| 数量販売量(トン) | 価格1トンあたりの平均売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 3,820 | 100 | 38 | 2 |
| 10 年後 中立 | 3,820 | 130 | 50 | 2 |
取り方:販売量は未開示。樹脂薬品・中間体・その他の売上38.2億円を、1トン100万円で割った推定。営業利益は全社の化学品の利益率で按分。地代0.38億円(利益約0.3億円)は調整に入れた。
リスクと懸念
中国の安い薬品
汎用の加硫促進剤や老化防止剤は、中国の大手が世界の生産の大半を握る。会社自身が、特殊品も海外の安価品に押されたと開示している。値段の主導権が向こうにある限り、利ざやは広がりにくい。
自動車の生産
ゴム薬品の需要は、タイヤと自動車部品の生産で決まる。国内の自動車生産は頭打ちで、2025年は失速の影響で工業用品向けが落ち込んだ。生産の海外移転が進めば、国内の需要はさらに細る。
原料の値段
原料は石油化学品で、ナフサの値段と為替で上下する。値上がりを販売価格に乗せるまで半年ほどかかり、その間の利益は削られる。値下がりの局面では一時的に利益が膨らむので、今期のような利益を実力と見誤りやすい。
工場が1か所
生産は川口市の工場研究所1か所に集まる。火災や爆発、地震で止まれば、代わりの工場は無い。古い化学工場で、設備の更新と環境の対応に償却を上回るお金がかかり続ける。
借金と金利
純負債は約23億円で、時価総額と同じくらいある。更新投資を借入で賄うので、借り換えのたびに金利が上がり、利払いは10年で年1億円ほど増える。利益の薄い年には重くのしかかる。
今後の分かれ目
- 営業利益率が3期続けて5%を超えたら
- やや楽観の確率を厚くし、中立の利益率を上げる。原料の値下がりによる一時の利ざやでないかは、売上総利益率の推移で確かめる。
- 設備投資が償却並みに落ち着き、純負債が10億円台に減ったら
- 借金の上乗せを外し、還元の拡大を見込む。
- 工場の一部の移転や、土地の売却・賃貸の拡大が決まったら
- 土地の含みが株主に届く道が開くので、価値に足す方法を見直す。
- 特殊品の売上が2期続けて減ったら
- やや悲観の確率を厚くし、ゴム薬品の利益率を下げる。
- 配当性向を4割以上に上げる、または自社株買いを始めたら
- 溜まる現金の戻り方を1.0に上げる。
見ておくもの
- 営業利益率と売上総利益率
- ゴム薬品の売上(タイヤ向け・工業用品向け・医療用)
- 設備投資と減価償却の差
- 純負債と支払利息
- 配当性向
- 川口市の土地の使い方
倍率と資本コストの決め方
今の株価は見ずに、ゴム薬品とその他の化学品の販売量(推定)と単価、利益率から10年後の営業利益を積み、借り換えの利払いを引いた。中立のROEは資本コスト8.75%を下回るので、PERは1÷k(約11.1倍)を上限に利益の質で8〜9割に置いた。川口市の土地の含みは、工場を閉じる悲観の筋書きの床にだけ数え、中立には足していない。賃貸の地代は利益に入っているので土地の値打ちとして二重に足していない。今のPERが一桁なのは見たが、倍率の根拠にはしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→11.57 倍・やや楽観 PER 9.5→11.43 倍・中立 PER 9→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。