結論
綜研化学は、液晶ディスプレイの偏光板に使うアクリル系粘着剤で稼ぐ会社だ。売上の 65% が粘着剤で、中国の工場からパネル関連メーカーへ供給する。筆者の結論は「やや割高」。事業は堅実だが、利益の伸びは物価並みで、10 年の見返りは資本コストに届かない。
強みは、顧客の工程に合わせて粘着剤を設計する開発力と、中国・タイでの現地生産だ。自己資本比率は 70% を超え、純現金も 128 億円ある。営業利益率は 13% 近くまで上がった。
弱みは、稼ぎが液晶という一つの技術と、中国という一つの市場に寄っていることだ。原料が下がれば値下げを求められ、有機 EL への置き換えが進めば数量が細る。中計は営業利益 75 億円を掲げるが、投資は 270 億円と重く、前の中計では新事業が育たなかった。
もう一つ見ておくべきは、筆頭株主のアクシウムだ。議決権の 2 割台を握り、経営の機能不全を批判している。会社は買収防衛策で応じた。還元が増えれば価値は上振れするが、対立が長引けば経営が止まる。
中立の 10 年後は、時価総額が今の 1.2 倍ほどにとどまる。配当を足しても年率 5% に届かず、資本コスト 7.75% を下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くない事業だが、持ち続けたい事業とは言い切れない」。粘着剤は顧客に必要とされる部品だが、値段は顧客と原料が決める。10 年後も液晶は残るだろう。しかし、その粘着剤が今と同じ利益率で売れるかは、読みにくい。
資本の使い方は、判断の分かれ目だ。稼いだ利益のうち、成長に必要な投資を引いた「株主のものになる利益」は、今は 40 億円ほどだ。この利益で、会社は 270 億円を使おうとしている。投資の目的と見返りが示されない限り、筆者は、増やした資本が新しい価値を生むとは見ない。
安全域は薄い。純現金と厚い自己資本は、会社が傾かないことを示す。ただし、それは価値の下支えであって、割安の理由ではない。10 年の中立の姿で、利益は物価に実質の伸びが少し乗る程度だ。資本コストを上回るには、還元の増加か、買収による決着が要る。
筆者は、アクシウムの働きかけを、価値が動く最大の材料とみる。ただし、それは経営の質が改まる希望であって、事業の稼ぐ力が上がる話ではない。そこに値段を払うのは、安全域を自分から削る行為だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は粘着剤だ。26 年 3 月期の売上 480 億円のうち、粘着剤が 313 億円、65% を占める。主力は、液晶ディスプレイの偏光板を貼り合わせる光学用のアクリル系粘着剤(SK ダイン)で、スマートフォン、テレビ、モニターのパネルに使われる。中国の南京などで作り、現地の偏光板メーカーに売る。
残りのケミカルズは三つある。微粉体は樹脂の微粒子で、電子材料向けの需要拡大を狙う。特殊機能材は、顧客ごとの注文品だ。加工製品は、粘着剤を塗った機能性シートの事業で、液晶スマートフォン向けの需要が減っている。三つを合わせた売上は 125 億円ほどで、利益はまだ薄い。
別枠が装置システムだ。生産設備の販売や熱媒体油の輸入を手がけ、売上は 41 億円。工事の完成時期で売上が振れ、利益はほとんど残らない。会社自身も、この事業への依存から抜ける方針を示している。
利益の偏りは大きい。ケミカルズの営業利益は 60 億円で、全社の 97% にあたる。その大半は粘着剤とみられる。海外売上比率は 63% で、最大の販売先は中国向けの商社経由だ(Sojitz Shanghai が総販売の 12%)。
要するに、この会社の価値は「中国の液晶向け粘着剤を、いつまで、いくらで売れるか」でほぼ決まる。ほかの事業は、その依存を薄めるための挑戦の段階にある。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、「顧客の工程に合わせた設計」と「現地で作って現地で売る体制」にある。粘着剤は偏光板の品質に直結する部品で、一度採用されると、顧客は簡単には切り替えない。会社は前の中計で、液晶向けのトップシェアを取ったと説明している。ただし具体的なシェアは出典で割れ、公表資料からは確かめられない。
資本の効率は並だ。ROE は 10% 前後で、純現金がありながら資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。営業利益率は 2 年続けて 13% 近くまで上がったが、10 年前は 5% 前後だった。この急な改善は、中国での販売増と原料安の追い風が大きい。
弱いところははっきりしている。値段を自分で決められない。中国の偏光板向けでは、原料が下がると値下げを求められ、26 年 3 月期にも実際にあった。加工製品は価格競争が激しく、利益が出ていない。
もう一つは経営の質だ。前の中計は売上目標に届かず、新事業は収益化に至らなかった。ランサムウェアの被害でシステムの復旧も遅れた。次の中計は投資 270 億円と過去最大だが、筆頭株主は目的とリターンの説明が足りないと批判している。筆者も、資本をどう使う会社なのかは、まだ見えていないと見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
液晶は成熟した市場だが、すぐには消えない。偏光板の世界生産は 2025 年で 6 億 m2 台、前年比 3% ほどの増加が見込まれている。調査会社は、液晶の需要が 2029 年にかけて年 4% 増える一方、生産能力は年 1% ほどしか増えないとみている。大型テレビとモニターは、当面液晶が主役だ。
逆風は二つある。一つは有機 EL だ。スマートフォンでは有機 EL が主流になり、液晶のスマホ向けは細っている。会社の加工製品が減っているのもこのためだ。もう一つは中国勢の内製化と値下げ競争である。パネル産業は中国に集中し、顧客が少数に絞られるほど、粘着剤メーカーの交渉力は弱くなる。
粘着剤の値段は、原料のアクリル系モノマーの動きに連動して決まる。原料が下がれば値下げを求められ、上がれば転嫁が遅れる。26 年 3 月期は、原料安が営業利益を 6 億円押し上げ、中国の値下げが 1 億円削った。中東情勢による原料の不安定さは、来期の見通しに入っていない。
成長の余地は、インドと東南アジアにある。インドでは溶剤型の粘着剤の需要が伸びるとされ、会社は販売体制を強める。ただし、液晶向けの粘着剤そのものの競合や市場シェアは、公表資料から確かめられない。筆者は、この市場を「小さく伸び、価格は物価に届かない」ものと置く。
資本政策と M&A
還元は、これから厚くなる段階だ。新しい中計は、配当の目安を純資産配当率(DOE)に改め、2028 年度までに 4% へ引き上げる。3 年で 90 億円の還元を見込み、自社株買いも「機動的に」行うとする。これまでの配当性向は 30% 台だった。
一方、使い道の大きさが気になる。3 年間の投資は 270 億円で、国内の拠点の新設・再編に 120 億円、タイに 35 億円が入る。27 年 3 月期の設備投資は 68 億円と、営業キャッシュフローの 56 億円を超える。純現金 128 億円は、この計画に食われていく。
いちばんの変数は、筆頭株主のアクシウムだ。2025 年 11 月に 6.7% で姿を現し、2026 年 7 月までに 22.6% に上げた(報道では 23〜24% とも)。会社は 7 月 24 日に買収防衛策を導入し、アクシウムは 9 月に「保身」と異議を唱えた。争点は、純現金が滞留しているのに還元が薄いこと、投資の説明が足りないことである。
この対立には、二つの結末がある。還元と資本の使い方が改まれば、価値は上振れする。会社が買われる展開もある。逆に、対立が長引けば、投資も人材も止まる。筆者は、どちらにも一定の確率を置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社は、まだ伸びる余地を残している。液晶は、テレビもモニターも大型化が続き、需要は年 4% ほど増える。それに対して供給能力は年 1% しか増えない。需給が締まれば、粘着剤の値下げ圧力は和らぐ。中国ではトップクラスのシェアと現地工場を持ち、新規参入が難しい。南京の増強で、供給力は備わった。
微粉体と特殊機能材も、電子材料向けに伸ばせる。中計では、この二つを含む粘着剤以外の売上を、今の 1.2 倍へ引き上げる。加工製品が黒字になれば、全社の利益率は 15% に届く。インドの溶剤型粘着剤も、まだ小さな種だ。
何より、資本政策が変わる可能性が高い。アクシウムは議決権の 2 割台を持ち、経営に圧力をかけている。純現金は 128 億円あり、自己資本比率は 70% を超える。DOE 4% の目標も、これを機にもっと厚くなる。買収で非公開化されれば、中立の水準を大きく上回る価格が付く。
この三つが重なる筋書きでは、営業利益は今の 2.4 倍になり、還元も増える。
慎重な見方
この会社の稼ぎは、液晶と中国の二つの賭けに乗っている。液晶は成熟しており、スマートフォンから有機 EL に移った流れは、いずれテレビやモニターにも及ぶ。偏光板の需要が細れば、粘着剤の数量はそのまま減る。中国のパネルメーカーは、偏光板も粘着剤も内製か現地調達へ寄せている。値下げが続けば、営業利益率は今の水準を保てない。
26 年 3 月期の営業利益は、原料安の 6 億円に支えられていた。この追い風が止まれば、利益は減る。加工製品は価格競争で利益が出ておらず、微粉体と特殊機能材は 30 億円規模で、粘着剤の代わりにはならない。前の中計では、新事業が収益化できなかった。
投資 270 億円は、過去最大である。目的も見返りも示されないまま、純現金が消える。さらに、筆頭株主との対立が続き、買収防衛策は株主の信頼を損ねた。経営が防衛に追われれば、投資の質も下がる。
最悪の場合、顧客の内製化と値下げで、粘着剤の利益率は 7% まで落ちる。それでも固定費は残る。
どちらに重みを置いたか
どちらにも根拠があるが、筆者は慎重な見方がやや強いとみる。上振れの材料は、事業の力ではなく、株主との交渉に依存している。しかも会社は、対話でなく防衛策で応じた。
事業の面では、液晶の需給の締まりは追い風だが、中国の値下げと内製化は構造的だ。このため、確率は上に 3 割弱、下に 3 割強とし、中立を 38% に置いた。強気の見方が当たる場合の上げ幅は大きいが、確率の重みでは、慎重な見方が上回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,684 円944 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,693 円281 億円)。 今の値に割り戻すと 3,861 円641 億円、今との差 −10.9%、 期待の年率 +5.5%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 11,332 円1,881 億円 | 2,710 円450 億円 | +223.9% | +12.5% | 1,123 円187 億円 |
| やや楽観 | 21% | 8,531 円1,416 億円 | 2,229 円370 億円 | +148.2% | +9.5% | 2,260 円375 億円 |
| 中立 | 38% | 6,081 円1,010 億円 | 1,747 円290 億円 | +80.6% | +6.1% | 2,975 円494 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,570 円427 億円 | 1,205 円200 億円 | −12.9% | −1.4% | 830 円138 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,000 円166 億円 | 723 円120 億円 | −60.3% | −8.8% | 189 円31 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,684 円944 億円 | 1,693 円281 億円 | +70.2% | +5.5% | 7,378 円1,225 億円 |
今の株価時価総額 4,335 円720 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 資本政策の転換と粘着剤の需給の締まり 利益 108 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 11,332 円1,881 億円
液晶の需給が締まり、粘着剤の数量は今の 1.45 倍に増える。製品の組み合わせが上がり、単価は物価をやや下回る程度にとどまる。営業利益率は 19%、粘着剤の利益は 112 億円まで伸びる。
微粉体と特殊機能材は電子材料向けに広がり、加工製品も黒字になる。粘着剤以外の売上は 290 億円ほどになる。
資本政策も変わる。筆頭株主の働きかけで、純現金と利益の大半が株主に戻り、総還元性向は 8 割近くに上がる。あるいは買収で非公開化され、高い価格が付く。営業利益は今の 2.4 倍で、ROE は 15% を超える。ただし、これは三つの賭けがすべて当たった姿だ。
- 粘着剤:数量 64.8(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.10(1 千トンあたり売上(億円)。物価と原料価格を含む名目)→ 売上 590 億円・営業利益 112 億円。数量 1.45 倍・単価 1.30 倍・営業利益率 19%
- 微粉体・特殊機能材・加工製品:数量 14.2(出荷量(千トン相当・推定))× 価格 20(1 千トンあたり売上(億円)。物価と製品の組み合わせを含む名目)→ 売上 286 億円・営業利益 37 億円。数量 1.7 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 13%
- 装置システム:数量 49.4(完工案件(件相当・推定))× 価格 1.07(1 件あたり売上(億円)。物価を含む名目)→ 売上 53 億円・営業利益 3 億円。数量 0.95 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 5%
倍率:事業の純利益 108 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.4 倍。全体の PER 17.42 倍、時価総額 1,881 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:液晶の需給の締まり、微粉体の立ち上がり、資本政策の転換または買収の三つが重なる筋書き。筆頭株主が動いている分、起こりうるが、全部が揃う必要がある。
やや楽観 21% 需給の締まりと還元の拡大 利益 87 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 8,531 円1,416 億円
粘着剤の数量は今の 1.32 倍、売上は 530 億円ほどに増える。液晶の需給は締まり、原料安の追い風も一部残る。営業利益率は 17.5% を保つ。
粘着剤以外は、微粉体と特殊機能材が伸び、加工製品の赤字も縮む。売上は 250 億円、利益率は 11.5% になる。
営業利益は今の 2 倍となり、ROE は 13% 近くに上がる。筆頭株主との対立は、増配と自社株買いで和らぐ。DOE 4% の目標は守られ、総還元性向は 6 割に近づく。ただし中計の 560 億円という売上は、10 年かけて届く程度とみる。
- 粘着剤:数量 59.0(出荷量(千トン・推定))× 価格 8.96(1 千トンあたり売上(億円)。物価と原料価格を含む名目)→ 売上 529 億円・営業利益 93 億円。数量 1.32 倍・単価 1.28 倍・営業利益率 17.5%
- 微粉体・特殊機能材・加工製品:数量 12.5(出荷量(千トン相当・推定))× 価格 20(1 千トンあたり売上(億円)。物価と製品の組み合わせを含む名目)→ 売上 252 億円・営業利益 29 億円。数量 1.5 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 11.5%
- 装置システム:数量 46.8(完工案件(件相当・推定))× 価格 1.07(1 件あたり売上(億円)。物価を含む名目)→ 売上 50 億円・営業利益 2 億円。数量 0.9 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 4.5%
倍率:事業の純利益 87 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.28 倍、時価総額 1,416 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:液晶の需給が締まり、中計の目標に近い成長が続く筋書き。会社は前の中計で利益目標を大きく超えた実績があり、上振れの根拠は比較的はっきりしている。
中立 38% 中立:物価並みの伸びで、利益率は今の水準 利益 67 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 6,081 円1,010 億円
粘着剤の数量は、液晶の需要の伸びとインド・東南アジアの拡大で 1.2 倍になる。値段は 10 年で 1.25 倍。物価の 1.34 倍には届かない。中国の値下げ圧力と原料連動の価格決定が理由だ。営業利益率は 16% で、今の水準を保つ。
粘着剤以外は、微粉体と特殊機能材の立ち上がりで数量が 1.35 倍に増える。利益率は 9% へ上がるが、加工製品の価格競争が足を引っ張る。装置システムは数量が 1 割減り、利益はほぼ出ない。
営業利益は今の 1.6 倍で、年 4.5% の伸びだ。物価 3% に実質 1〜2% が乗る姿である。ROE は 10% 台で、還元は純利益の 4 割強を保つ。堅実だが、成長株ではない会社に落ち着く。
- 粘着剤:数量 53.6(出荷量(千トン・推定))× 価格 8.75(1 千トンあたり売上(億円)。物価と原料価格を含む名目)→ 売上 469 億円・営業利益 75 億円。数量 1.2 倍・単価 1.25 倍・営業利益率 16%
- 微粉体・特殊機能材・加工製品:数量 11.3(出荷量(千トン相当・推定))× 価格 20(1 千トンあたり売上(億円)。物価と製品の組み合わせを含む名目)→ 売上 227 億円・営業利益 20 億円。数量 1.35 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 9%
- 装置システム:数量 46.8(完工案件(件相当・推定))× 価格 1.07(1 件あたり売上(億円)。物価を含む名目)→ 売上 50 億円・営業利益 2 億円。数量 0.9 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 4%
倍率:事業の純利益 67 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.89 倍、時価総額 998 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:粘着剤が物価に届かない値段で、数量は液晶需要の伸びと中国・インドの拡大で小さく増える。中計の目標より控えめに置く。
やや悲観 22% 中国の値下げと内製化で利益率が下がる 利益 38 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 2,570 円427 億円
中国のパネル・偏光板メーカーが調達先を絞り、粘着剤の値下げが続く。単価は 10 年で 1.1 倍にとどまり、数量も 1.05 倍と伸びない。有機 EL への置き換えで、液晶向けの加工製品は縮む。営業利益率は 12.5% に下がる。
粘着剤以外は、新事業が思うように立ち上がらず、利益率は 5% にとどまる。投資 270 億円の償却が重くのしかかる。
営業利益は今の 9 割にとどまり、ROE は 6% 台に下がる。会社は配当を守るが、中計の営業利益 75 億円には 10 年かけても届かない。ためた利益の価値が帳簿を下回る状態になり、倍率も縮む。還元は増えるが、投資が先行して余力は小さい。時価総額は今を下回る。
- 粘着剤:数量 46.9(出荷量(千トン・推定))× 価格 7.70(1 千トンあたり売上(億円)。物価と原料価格を含む名目)→ 売上 361 億円・営業利益 45 億円。数量 1.05 倍・単価 1.10 倍・営業利益率 12.5%
- 微粉体・特殊機能材・加工製品:数量 9.6(出荷量(千トン相当・推定))× 価格 19(1 千トンあたり売上(億円)。物価と製品の組み合わせを含む名目)→ 売上 180 億円・営業利益 9 億円。数量 1.15 倍・単価 1.25 倍・営業利益率 5%
- 装置システム:数量 41.6(完工案件(件相当・推定))× 価格 1.00(1 件あたり売上(億円)。物価を含む名目)→ 売上 42 億円・営業利益 1 億円。数量 0.8 倍・単価 1.25 倍・営業利益率 3%
倍率:ROE 6.3%は k 7.75%に届かず、ためた利益は帳簿の額より低く評価される。この場合の PER の上限は 1÷k の 12.1 倍だが、利益が縮み続ける構造を重く見て、稼ぐ力の 7 割ほどの 9.5 倍に置いた。
確率:中国の偏光板向けの値下げと内製化は、すでに起きている。投資 270 億円の回収が遅れる現実的な筋書きで、10 年なら現実味がある。
悲観 11% 構造的な負け:液晶の置き換えと中国の内製化が重なる 利益 10 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,000 円166 億円
液晶の需要が細り、中国の偏光板メーカーが粘着剤を内製か現地調達へ切り替える。粘着剤の数量は今の 8 割に減り、単価も 0.9 倍に落ちる。営業利益率は 7% まで下がり、粘着剤の利益は 16 億円にとどまる。
投資 270 億円は回収できず、減損が出る。微粉体と特殊機能材も育たず、粘着剤以外は営業利益がほぼ消える。経営は買収防衛策と株主対応に追われ、手が回らない。
営業利益は今の 3 割以下に落ち、ROE は 2% 台になる。もう優良な会社とは見られず、今の自己資本の 0.4 倍で測る。それでも、純現金の一部と工場・土地の価値は残り、会社が傾くわけではない。
- 粘着剤:数量 35.8(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.30(1 千トンあたり売上(億円)。物価と原料価格を含む名目)→ 売上 225 億円・営業利益 16 億円。数量 0.8 倍・単価 0.9 倍・営業利益率 7%
- 微粉体・特殊機能材・加工製品:数量 7.1(出荷量(千トン相当・推定))× 価格 17(1 千トンあたり売上(億円)。物価と製品の組み合わせを含む名目)→ 売上 123 億円・営業利益 1 億円。数量 0.85 倍・単価 1.15 倍・営業利益率 1%
- 装置システム:数量 31.2(完工案件(件相当・推定))× 価格 0.92(1 件あたり売上(億円)。物価を含む名目)→ 売上 29 億円・営業利益 0 億円。数量 0.6 倍・単価 1.15 倍・営業利益率 0%
倍率:構造的な負けで優良ではなくなる姿。稼ぐ力(純利益 10 億円÷k)は約 120 億円と小さいので、純現金と売れる資産の税後を床に、今の自己資本 415 億円に 0.4 倍を掛けた。
確率:有機 EL への置き換え、中国の内製化、投資の失敗が重なる場合。優良ではなくなる姿で、10 年なら起こりうる。筆頭株主との対立で経営が止まる場合も含む。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
粘着剤
液晶偏光板用の光学アクリル系粘着剤(SK ダイン)が中心。中国・タイ・インドなどに供給する。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価と原料価格を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 44.7 | 7.00 | 313 | 53 |
| 10 年後 中立 | 53.6 | 8.75 | 469 | 75 |
取り方:開示は金額(313 億円)のみ。1 キログラム 0.7 千円と置いて割り、出荷量を約 4.5 万トンと推定した。営業利益は、ケミカルズ全体の 59.7 億円から、ほかの三事業の推定を引いて粘着剤に配分した(利益率 17%)。
微粉体・特殊機能材・加工製品
樹脂微粒子、顧客ごとの注文品、粘着シートの加工品。電子材料向けの新事業を含む。
| 数量出荷量(千トン相当・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価と製品の組み合わせを含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.4 | 15 | 125 | 7 |
| 10 年後 中立 | 11.3 | 20 | 227 | 20 |
取り方:微粉体 29.8 億円、特殊機能材 30.7 億円、加工製品 64.9 億円の合計。平均で 1 キログラム 1.5 千円と置いて出荷量を推定した。利益は 5% 台と推定(加工製品は赤字に近く、微粉体・特殊機能材は 1 割強)。
装置システム
生産設備の販売、エンジニアリング、プラント保守、熱媒体油の輸入販売。工事の完成時期で売上が振れる。
| 数量完工案件(件相当・推定) | 価格1 件あたり売上(億円)。物価を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 52.0 | 0.80 | 42 | 2 |
| 10 年後 中立 | 46.8 | 1.07 | 50 | 2 |
取り方:売上 41.6 億円と営業利益 1.8 億円は有価証券報告書の値。件数は 1 件約 0.8 億円と置いて推定した。前期は大型工事の完成で売上が増えた。
リスクと懸念
液晶という一つの技術に依存する
粘着剤の売上は全社の 65% で、その大半が液晶の偏光板向けだ。スマートフォンでは有機 EL への置き換えが進み、液晶向けの加工製品がすでに減っている。テレビやモニターでも置き換えが進めば、数量が細り、設備の稼働も落ちる。10 年の悲観では、粘着剤の数量が 2 割減ると置いた。
中国での値下げと内製化
26 年 3 月期にも、中国の偏光板向けで原料安に伴う値下げがあった。顧客のパネル産業は中国に集中し、少数の取引先に交渉力が偏る。中国メーカーが粘着剤を内製するか現地調達へ寄せれば、数量も単価も落ちる。最大の販売先の一つは中国向けの商社経由で、12% を占める。
新中計の投資が回収できない
3 年間で 270 億円と、過去最大の投資を計画している。27 年 3 月期の設備投資 68 億円は、営業キャッシュフローの 56 億円を超える。前の中計では、投資の遅れで新事業が収益化できなかった。目的と見返りの説明が足りない、という筆頭株主の批判には、一理ある。
筆頭株主との対立
アクシウムは議決権の 2 割台を持つ。会社は 2026 年 7 月に買収防衛策を導入し、アクシウムは異議を唱えた。防衛策の発動条件は 23% 以上で、法定の 30% より低いと批判されている。対立が長引けば、経営判断が止まる。逆に、決着が株主還元の拡大か買収なら、価値は上振れする。
原料価格と調達の不安定
粘着剤の原料はアクリル系のモノマーで、石油化学品の価格に連動する。中東情勢で調達が不安定になる可能性は、27 年 3 月期の見通しに織り込まれていない。原料が上がれば、転嫁が遅れて利益率が先に下がる。原料が下がれば、値下げを求められる。どちらも利益を削る。
装置システムとシステム障害
装置システムは、工事の完成時期で売上が振れ(前期は 14 億円増)、利益はほとんど出ない。需要の変動が大きい事業のため、会社も依存を抜ける方針だ。またランサムウェアの被害で、社内システムの復旧と DX が遅れた。経営の基盤の弱さが表に出た出来事だ。
今後の分かれ目
- 液晶パネルの稼働が上がり、偏光板の出荷面積が年 4% 以上で増え続けたら
- 粘着剤の数量の前提を上げ、楽観・やや楽観の確率を引き上げる。
- 中国の主要パネル・偏光板メーカーが粘着剤を内製か他社へ切り替えたら
- 粘着剤の数量と単価の前提を下げ、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 会社がアクシウムと合意し、配当と自社株買いを大きく増やしたら
- 還元の前提を上げる。ただし利益は変わらず、価値の上がり幅は還元の分にとどまる。
- 買収の提案が出て、非公開化や他社との統合が決まったら
- 買収価格が本質価値を上回るかを見る。上回るなら、楽観の筋書きに寄せる。
- 加工製品と微粉体の営業利益率が 10% を超えて定着したら
- 粘着剤以外の利益率の前提を上げ、中立の利益を 1 割ほど上方修正する。
- 270 億円の投資のうち、新拠点の稼働が遅れたり、償却費だけが先に増えたりしたら
- 利益率の前提を下げ、やや悲観に寄せる。
見ておくもの
- 粘着剤の売上と、中国向けの値下げの有無(四半期の決算説明)
- 偏光板の世界の出荷面積と、液晶と有機 EL の比率
- 微粉体・特殊機能材・加工製品の売上と営業利益率
- アクシウムの保有比率と、会社との合意・対立の動き
- 配当(DOE)と自社株買いの実績、中計の還元 90 億円の進み具合
- 設備投資の実行額と、営業キャッシュフローとの差(純現金の減り方)
倍率と資本コストの決め方
3 つのセグメントを、出荷量の推定(粘着剤・微粉体ほか)と件数の推定(装置)に、名目の単価を掛けて積み上げ、利益率から営業利益を出した。単価は、中国の値下げと原料連動を理由に、粘着剤を物価 1.34 倍より低い 1.25 倍に置いた。資本コストは基本 7.5%+quality +0.75%(循環 +0.25、値決め +0.25、寿命 +0.25)の 8.25%。倍率は g 4%・ROE 10% 台から出した正当化 PER の 9 割台に置き、今の PER や過去・同業の倍率には寄せていない。純現金 128 億円は、運転資金と 270 億円の投資に回るとみて分けていない。借り換えと受取利息は純利益に 1.4 億円ほど入れた。新リース会計は賃借が少なく影響が小さいため、今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→17.42 倍・やや楽観 PER 12.4→16.28 倍・中立 PER 12.5→14.89 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足して 8.25%。筆頭株主との対立や中計の投資の質は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。