結論
アイカ工業は、メラミン化粧板で国内首位に立つ建材メーカーだ。家具や店舗の壁・カウンターに貼る化粧板、不燃の内装材、洗面化粧台を作る。もう一つの柱は、合板や家具に使う接着剤などの化成品である。筆者の結論は「適正」。良い会社だが、今の値段に安全域はほとんどない。
利益を生むのは国内の建装建材だ。化成品は売上の半分を超えるのに、利益は 3 割に届かない。化粧板は国内シェアが 8 割ほどとされ、原料高の局面でも 10〜30% の値上げを通した。値段を自分で決められる事業は、10 年先も強い。
不安は二つある。国内の新築住宅は縮み、2026 年 3 月期も着工が 7% 近く減った。もう一つは、インドの化粧板大手 Stylam の買収だ。過半の株に最大 355 億円を払う。売上は約 180 億円なので、安い買い物ではない。
10 年後の中立の営業利益は、今の 1.6 倍ほどにとどまる。物価と小さな実質の伸びが乗るだけの姿で、ROE は 10% 前後である。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額とほぼ同じになる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、アイカの建装建材は「持ち続けたい事業」だ。見本帳と施工業者の網は、10 年先も同じ強さで残る。需要が人口で細っても、値段を決められるので利益は守れる。
ただし会社全体では、買いたい値段と合わない。利益の 7 割を生む事業が、売上の半分を占める薄い事業に混ざっている。ROE は 10% 前後で、資本コストを少し上回るだけだ。中立で見ると、10 年後の価値は今の時価総額とほぼ同じになる。安全域は、ない。
資本の使い方は、保守的で堅実だ。配当は減らさず、持ち合い株は減らす。ここは好ましい。ただ、Stylam の買収は別である。値段が高ければ、化成品の薄い利益に、のれんの重さが加わる。
筆者がいちばん見るのは、化成品の利益率だ。6% 台から 8% に上がれば、全社の資本効率が変わる。上がらなければ、アイカは「国内の化粧板」の会社として、物価に合わせて静かに伸びるだけだ。そういう会社は、今より安く買える日を待つ。それが筆者の構えである。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は二つある。利益の 7 割を生む建装建材と、売上の半分を占める化成品だ。
建装建材は売上 1,155 億円、営業利益 248 億円で、利益率は 2 割を超える。主力は、家具・店舗・病院の壁やカウンターに貼るメラミン化粧板(約 350 億円)だ。国内シェアは会社の資料で 8 割ほどとされる。不燃化粧板のセラール(約 260 億円)は、オフィスや店舗で採用が広がった。造作風の洗面台スマートサニタリーなどの住器建材も、約 350 億円に育った。
化成品は売上 1,363 億円で、中心は接着剤(約 940 億円)である。合板や家具を貼り合わせる接着剤、自動車の内装に使うホットメルト、建築用の樹脂が入る。作って売る場所は、タイ・インドネシア・ベトナム・中国・ニュージーランドなど海外が厚く、現地の合板工場や家具工場、自動車部品メーカーが顧客である。ただし営業利益は 93 億円で、利益率は 7% 弱と薄い。
全社の海外売上比率は約 46% だ。建装建材の海外はまだ約 190 億円と小さい。そこへインドの Stylam が加わる。
優良さと弱いところ
アイカの堀、つまり他社がまねできない強みは、化粧板の「選ばれ方」にある。建築家や内装業者は、色や柄を見本帳から選んで指定する。一度アイカの柄で設計されると、施工の段階で他社に替わりにくい。国内シェアが 8 割に及ぶのは、この仕組みがあるからだ。
値段を決める力も確かだ。2026 年の春、中東情勢で石化原料が上がると、化粧板と化粧ボードを 10〜30% 値上げすると発表した。壁装材や住器建材も 8〜30% 上げる。原料高を売値に移せる会社は多くない。
資本の効率は、並みである。ROE は過去 10 年で 7〜10% を行き来し、中央値は 9.7% だ。利益率の高い建装建材を、薄い化成品が薄めているからだ。中計は ROE10% 以上を掲げ、累進配当と自社株買いで応える。26 期連続で減配していない点は評価できる。
弱みは三つある。一つ目は化成品で、中国の不動産不況と価格競争が重い。二つ目は国内の新築で、住宅の着工は 2026 年 3 月期に 7% 近く減った。三つ目は M&A の腕だ。2025 年にフィルム加工会社の買収で合意しながら、条件で折り合わず中止した。筆者は、インドの買収も同じ目で見ている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
アイカの市場は、国内の建材、世界の化粧板、世界の接着剤の三つで、景気よりも人口と建築の動きに左右される。
国内の建装建材は、新築が細り、リフォームが支える構図だ。2026 年 3 月期は、新設住宅が 7% 近く、非住宅の着工面積も 7% ほど減った。一方でリフォーム・リニューアルの受注は、住宅が 9% 近く、非住宅が 2 割超伸びた。人口が年 0.5% ずつ減る国で、市場全体は 10 年で 1 割ほど縮むと見る。アイカは、不燃のセラールや洗面台のような高付加価値品で、その減りを補う。
世界の化粧板は、都市化と家具・内装の需要で伸びる。特にインドは、家具の工場生産と店舗の内装が増え、化粧板の大手が育っている。Stylam のほか、Greenlam や Merino といった国内勢が競う。実質で年 5% 前後の伸びを見てよい。ただし値段で競る世界でもあり、国内のような利益率が保てるとは限らない。
接着剤は、業界の前提どおり、汎用品が中国の追い上げで物価並みにとどまり、特殊品だけが伸びる。合板用は中国の需要が弱く、アイカも海外の接着剤が減収になった。自動車向けのホットメルトや 3 次元加飾フィルムは伸びるが、規模はまだ小さい。
石化原料の高騰は、どちらの事業にも共通の逆風だ。値上げが効くかどうかが、当面の利益を決める。
資本政策と M&A
還元の姿勢は一貫している。中計は減配をしない累進配当を基本とし、配当性向は 46% 前後だ。2025 年には上限 60 億円の自社株買いも決めた。ただ、純現金は 2026 年 3 月期末で 70 億円と、前の期の 342 億円から大きく減った。Stylam の取得に現金が出たとみられる。
政策保有株、つまり取引先の持ち合い株は、減らす方針だ。2024 年 9 月には、東京海上日動・三菱UFJ銀行・名古屋銀行が株式を売り出した。大株主は信託銀行が中心で、特定の支配株主はいない。
M&A は、成長を海外で買う姿勢が強い。台湾のエバモア、タイの樹脂会社、ベトナムの販売会社に続き、Stylam が過去最大の案件になる。自己資本比率は 58% と厚いが、Stylam には少数株主が残る。価格も安くない。成否は、のれんの償却と、買った事業の稼ぐ力で決まる。
買われる側になる確率は、データ上 10 年で 19% ほどだ。ただ、国内の化粧板で 8 割を握る会社を、外資が買う姿は描きにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
アイカの化粧板は、国内で値段を決められる数少ない建材だ。原料高の局面でも 10〜30% の値上げが通り、建装建材の利益率は 2 割を超えた。新築が減っても、リフォームと非住宅が伸びる。不燃のセラールや洗面台のような高付加価値品が、利益を押し上げる。
本命はインドだ。Stylam は売上が約 180 億円で、利益率も 16% と高い。化粧板の生産は 3 倍になる見込みだ。家具の工場生産が増えるインドでは、市場が 10 年で 2 倍近くになる。アイカの国内の技術を移せば、利益率はさらに上がる。
化成品も底を打つ。中国の不動産不況は永遠には続かず、ベトナムやニュージーランドは伸びている。自動車向けの 3 次元加飾フィルムは、2031 年度に 50 億円規模を目指す。
資本の面でも伸びしろがある。中計は ROE10% 以上と累進配当を掲げ、持ち合い株を売って成長と還元に回す。化成品の利益率が 8% に届けば、ROE は 12% 台まで上がる。10 年後の営業利益が今の 2 倍になる姿は、無理のない上振れである。
慎重な見方
化成品が、会社全体の足を引っ張り続ける。売上の半分を占めながら、利益率は 7% 弱で、資本コストを稼げていない。中国の価格競争は終わらず、国内の木材需要は人口とともに細る。構造改革を進めても、利益率は前期並みのままだ。
建装建材も、利益率が高い水準にある。新築の着工は減り続け、値上げが通ったのは、原料高で売り手が足並みをそろえたからだ。原料が落ち着けば、競争が値段を押し戻す。化粧板は、紙や樹脂シートなど安い代替の内装材と競る。セラールの優位も永遠ではない。
Stylam は高い買い物だった。過半の株に最大 355 億円を払い、のれんを抱える。インドの化粧板は参入が多く、Greenlam や Merino と値段で争う。ルピー安は、円換算の利益も削る。伸びが思い通りでなければ、のれんの減損が出る。
実績もある。フィルム加工会社の買収は、条件がまとまらず中止された。M&A で成長を買う戦略は、まだ成果が見えていない。建装建材の利益率が 2 割を割れば、営業利益は今の水準に戻るだけだ。
どちらに重みを置いたか
建装建材の堀は本物で、値上げが通った事実は重い。ただ、全社の ROE は 10% 前後と資本コストをわずかに上回るだけで、化成品が薄める構図は 10 年では変わりにくい。強い側を選ぶと、慎重な見方がやや勝つ。
Stylam は上振れも下振れも大きい。買い値が高いぶん、成功しても全社の資本効率は大きく上がらず、失敗すれば減損が効く。確率はほぼ対称に置き、悲観をやや厚めにした。悲観は、国内の化粧板の優位が崩れ、化成品の赤字とのれんの減損が重なる場合を見ている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,942 円4,393 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,144 円1,357 億円)。 今の値に割り戻すと 5,263 円3,331 億円、今との差 +20.2%、 期待の年率 +7.6%(資本コスト 6.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 11,337 円7,175 億円 | 2,549 円1,613 億円 | +217.1% | +12.2% | 1,111 円703 億円 |
| やや楽観 | 22% | 9,003 円5,698 億円 | 2,334 円1,477 億円 | +158.9% | +10.0% | 2,494 円1,578 億円 |
| 中立 | 38% | 7,907 円5,004 億円 | 2,260 円1,430 億円 | +132.2% | +8.8% | 3,863 円2,445 億円 |
| やや悲観 | 22% | 4,190 円2,652 億円 | 1,863 円1,179 億円 | +38.2% | +3.3% | 1,332 円843 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,280 円810 億円 | 1,579 円999 億円 | −34.7% | −4.2% | 286 円181 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,942 円4,393 億円 | 2,144 円1,357 億円 | +107.5% | +7.6% | 9,086 円5,750 億円 |
今の株価時価総額 4,379 円2,771 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.5% を下回るほど割高。
楽観 8% インドが大きく開き、化成品も改善する 利益 371 億円 · PER 19.3 倍 · 株価時価総額 11,337 円7,175 億円
インドと東南アジアの化粧板が、実質で年 8% 近く伸びる。Stylam は中東や米国にも販路を広げ、アイカは残りの株を買い増して取り込む。海外の建装建材は売上が 1,000 億円を超え、全社の営業利益の 3 割近くを稼ぐ。
国内は、セラールと洗面台のような高付加価値品で新築の減りを補い、利益率は 23% 台に上がる。化成品は、自動車向けの特殊品と 3 次元加飾フィルムが育ち、中国の価格競争も収まって、利益率が 9% 近くに届く。
営業利益は今の 2 倍を超え、ROE は 12% に乗る。三つの事業がそろって良く回る、うまくいきすぎた姿である。
- 化成品:数量 486(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.69(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 2,279 億円・営業利益 201 億円。売上 2,279 億円・営業利益率 8.8%
- 国内建装建材:数量 12.4(出荷量(百万㎡相当・推定))× 価格 107(1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,330 億円・営業利益 313 億円。売上 1,330 億円・営業利益率 23.5%
- 海外建装建材:数量 62.9(出荷量(百万㎡相当・推定))× 価格 16(1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,012 億円・営業利益 172 億円。売上 1,012 億円・営業利益率 17.0%
倍率:事業の純利益 371 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 6.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.3 倍。全体の PER 19.34 倍、時価総額 7,175 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:インド・東南アジアの化粧板、化成品の改善、国内の高付加価値化が同時にそろう必要がある。起こりうるが、一つ欠ければ届かない。
やや楽観 22% 値上げが定着し、Stylam が計画どおり育つ 利益 307 億円 · PER 18.6 倍 · 株価時価総額 9,003 円5,698 億円
インドは実質で年 5% 前後、東南アジアは 3〜4% で伸び、Stylam は計画に近い形でアイカの海外の柱になる。国内は着工の減りをリフォームと非住宅が吸収し、数量はほぼ横ばいだ。値上げは定着し、利益率は 22〜23% を保つ。
化成品は、特殊品の比率が上がり、利益率が 8% 近くまで改善する。中国は戻らないが、ベトナムなど東南アジアが補う。営業利益は今の 1.7 倍ほどで、ROE は 10% を少し超える。
強気ではあるが、のれんの償却と少数株主の取り分があり、売上ほどには純利益が伸びない。会社が掲げる ROE10% 以上は、安定して守られる。
- 化成品:数量 459(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.69(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 2,153 億円・営業利益 168 億円。売上 2,153 億円・営業利益率 7.8%
- 国内建装建材:数量 11.9(出荷量(百万㎡相当・推定))× 価格 107(1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,279 億円・営業利益 288 億円。売上 1,279 億円・営業利益率 22.5%
- 海外建装建材:数量 51.5(出荷量(百万㎡相当・推定))× 価格 16(1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 828 億円・営業利益 128 億円。売上 828 億円・営業利益率 15.5%
倍率:事業の純利益 307 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 6.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.6 倍。全体の PER 18.56 倍、時価総額 5,698 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げの定着と Stylam の立ち上がりは、実績と計画ですでに見えている。上に振れる材料は具体的だが、のれんと国内の新築減が重しになる。
中立 38% 中立:物価に小さな実質の伸びが乗る 利益 276 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 7,907 円5,004 億円
物価に実質の伸びが少し乗る、地味な姿になる。国内の建装建材は、新築の減りとリフォームの増加が打ち消し合い、数量は今の 9 割台後半に落ち着く。値段は物価並みに上がり、利益率は 22% を守る。
海外の建装建材は、インドが実質で年 4〜5% の伸びを保つ。Stylam は今の規模から 6 割ほど伸び、東南アジアなど既存の事業は 3 割台の増加にとどまる。利益率は 15% 前後で、国内より低い。
化成品は、中国の弱さが続き、数量は 1 割強の増加だ。利益率は 7% で、ほとんど動かない。
営業利益は今の 1.6 倍で、年 4〜5% の伸びだ。物価の 3% に、実質の 1〜2% が乗っただけの会社である。ROE は 10% 前後で、配当と自社株買いで利益の 6 割強を返す。
- 化成品:数量 436(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.69(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 2,045 億円・営業利益 143 億円。売上 2,045 億円・営業利益率 7.0%
- 国内建装建材:数量 11.7(出荷量(百万㎡相当・推定))× 価格 107(1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,253 億円・営業利益 276 億円。売上 1,253 億円・営業利益率 22.0%
- 海外建装建材:数量 48.0(出荷量(百万㎡相当・推定))× 価格 16(1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 772 億円・営業利益 116 億円。売上 772 億円・営業利益率 15.0%
倍率:事業の純利益 276 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 6.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍。全体の PER 18.13 倍、時価総額 5,004 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の縮みを高付加価値品が補い、海外が市場並みに伸びる筋書き。化成品は動かない前提で、会社の目標よりやや保守的に置く。
やや悲観 22% 新築の縮みとインドの競争で、資本効率が落ちる 利益 183 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 4,190 円2,652 億円
国内の新築が想定より早く縮み、非住宅の更新も伸びない。数量は今の 9 割を割る。原料高が収まると値上げの一部が戻り、値段は物価に届かない。国内の建装建材の利益率は 19% 台まで下がる。
インドでは Greenlam や Merino との値下げ競争になり、Stylam の伸びは想定を下回る。のれんの償却も重く、海外の建装建材の利益率は 12% にとどまる。化成品は、中国と東南アジアの汎用品で値段を取れず、利益率が 5% 台に落ちる。
営業利益は今の 1.1 倍ほどで、物価で水増しされた売上のわりに、実質では減っている。ROE は 7% 前後まで下がり、資本コストにわずかに届かない。配当は守るが、自社株買いは細る。
- 化成品:数量 389(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.55(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,770 億円・営業利益 97 億円。売上 1,770 億円・営業利益率 5.5%
- 国内建装建材:数量 10.6(出荷量(百万㎡相当・推定))× 価格 104(1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,102 億円・営業利益 215 億円。売上 1,102 億円・営業利益率 19.5%
- 海外建装建材:数量 39.5(出荷量(百万㎡相当・推定))× 価格 16(1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 616 億円・営業利益 74 億円。売上 616 億円・営業利益率 12.0%
倍率:ROE 7.1%で資本コスト 6.5% にわずかに届かない。投じたお金が資本コスト並みしか稼がない会社の PER は 1÷k の 13.8 倍が上限で、ためた利益が額面より小さい価値になる分と、のれん・少数株主の重さを引いて、それより低い 14.49 倍に置いた。
確率:新築の縮み、原料高の反動、インドの競争は、いずれも現に起きている。買収の実行力にも実績の傷があり、現実味がある。
悲観 10% 構造的な負け:化粧板の優位が崩れ、のれんが減損する 利益 81 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,280 円810 億円
化粧板の優位が崩れる。国内の新築は半減に近づき、紙や樹脂シートなど安い代替の内装材と、輸入の化粧板が、公共・商業の内装に入り込む。数量は今の 7 割台に落ち、値段は物価に追いつかず、国内の建装建材の利益率は 14% に下がる。
インドは参入が多く、Stylam は思うように伸びない。値下げ競争とルピー安で円換算の利益が削られ、買収で積んだのれんの一部を減損する。化成品は、中国との価格競争に押されて利益率が 3% 台になり、赤字の年も混じる。
営業利益は今の半分ほどになる。ROE は 4% 前後に落ち、もう優良会社とは見られない。それでも借金は小さく、会社が傾くわけではない。配当を守る分だけ自己資本は目減りし、株主にとっては、10 年かけて価値が減る展開である。
- 化成品:数量 330(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.20(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,386 億円・営業利益 49 億円。売上 1,386 億円・営業利益率 3.5%
- 国内建装建材:数量 9.0(出荷量(百万㎡相当・推定))× 価格 96(1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 868 億円・営業利益 122 億円。売上 868 億円・営業利益率 14.0%
- 海外建装建材:数量 31.3(出荷量(百万㎡相当・推定))× 価格 14(1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 451 億円・営業利益 36 億円。売上 451 億円・営業利益率 8.0%
倍率:ROE 4.1%で資本コストを大きく下回る。投じたお金が資本コスト以下しか稼がず、ためた利益が額面より小さい価値になるため、1÷k の 13.8 倍を下回る 10.0 倍に置いた。稼ぐ力(純利益÷k)より低い水準で、10 年の悲観の時価総額と還元の合計は今の時価総額を下回る。
確率:国内の優位の崩れ、化成品の赤字化、のれんの減損が重なる姿で、優良ではなくなる。一つずつは起きうるが、同時には起きにくい。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
化成品
木材・家具用の接着剤、自動車向けホットメルト、建築用の樹脂、機能材料。国内と海外(タイ・インドネシア・ベトナム・中国・ニュージーランドなど)で作って売る。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 389 | 3.50 | 1,363 | 93 |
| 10 年後 中立 | 436 | 4.69 | 2,045 | 143 |
取り方:開示は金額だけなので、売上 1,363 億円を、接着剤・樹脂・機能材料の混合の平均単価(1 千トンあたり約 3.5 億円)で割り、出荷量を約 39 万トンと推定した。営業利益 93 億円は開示の配賦前の値。
国内建装建材
メラミン化粧板・不燃化粧板セラール・不燃建材・化粧ボード・壁装材・洗面台などの住器建材。家具・店舗・住宅・オフィスの内装に使われる。
| 数量出荷量(百万㎡相当・推定) | 価格1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.1 | 80 | 964 | 219 |
| 10 年後 中立 | 11.7 | 107 | 1,253 | 276 |
取り方:建装建材の売上 1,155 億円から海外 191 億円を引いて国内の売上を 964 億円とした。開示は金額だけなので、化粧板・不燃建材・洗面台などの混合の平均を 1 百万㎡相当あたり売上 80 億円と置き、出荷量を約 1,200 万㎡相当と推定した(洗面台などは面積に換算した目安)。市場の側からは、化粧板が会社資料のシェア約 8 割で市場約 440 億円、国内の対象市場全体は約 6,000 億円・シェア約 16% と見た。営業利益は建装建材の 248 億円から海外の約 29 億円(利益率 15% 程度と推定)を引いた。
海外建装建材
東南アジア(タイ・インドネシア・ベトナム・シンガポール)、中国などの化粧板・建装材。2026 年にインドの Stylam を子会社化し、ここに加わる。
| 数量出荷量(百万㎡相当・推定) | 価格1 百万㎡相当あたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.9 | 12 | 191 | 29 |
| 10 年後 中立 | 48.0 | 16 | 772 | 116 |
取り方:建装建材の海外売上高 190.9 億円(2026/03、前期比 −4.1%)。開示は金額だけなので、アジアの化粧板の平均を 1 百万㎡相当あたり売上 12 億円と置き、出荷量を約 1,600 万㎡相当と推定した。Stylam(売上約 180 億円)は今の数字に入っておらず、10 年の筋書きで同じ単価の約 1,600 万㎡相当(実質約 195 億円)を足して置く。営業利益率は 15% 程度と推定した。 数量 3.02 倍の内訳は、買収した Stylam の加算分(約 1,600 万㎡相当)と、全体の実質の伸び(約 1.5 倍)。名目の市場の伸びではない。
リスクと懸念
Stylam の買収が割高になる
取得額は最大 355 億円で、Stylam の売上(約 180 億円)の 2 倍近い。成長が計画に届かなければ、のれんの償却が利益を削り、減損も出る。インドは競争が激しく、ルピー安の影響も受ける。アイカは 2025 年に別のフィルム加工会社の買収を中止した経緯があり、実行力は検証の途中である。
化成品の利益が薄いまま
化成品は売上の半分以上を占めるが、営業利益は 93 億円、利益率は 7% 弱だ。中国の不動産不況と価格競争が続くと、海外の接着剤が減収になる。構造改革の効果が出ない限り、全社の ROE は 10% 前後から上がりにくい。
国内の新築の縮み
新設住宅の着工は 2026 年 3 月期に 7% 近く減り、非住宅の着工面積も減った。人口が減る国で、新築向けの化粧板・建材の数量は長く細る。リフォームと非住宅の更新が穴を埋められるかが、国内の建装建材の利益を決める。
原料高と値上げの反動
石化原料の高騰を受けた 10〜30% の値上げは、原料が落ち着けば、競争で押し戻される恐れがある。利益率の高い建装建材が崩れると、全社の利益への影響が大きい。値上げ前の駆け込みの反動にも注意がいる。
見本帳の優位が崩れる
化粧板の強みは、設計者が柄を指定する仕組みにある。安い代替の内装材や、輸入の化粧板が公共・商業の内装に入ると、国内 8 割とされるシェアと値決めの力がゆるむ。不燃のセラールも、他社が追いつけば優位が薄れる。
海外の景気と為替
海外売上が約 46% あり、中国・インド・東南アジアの景気と為替に左右される。10 年ビジョンに入る見込みの中東・北米への進出は、未知の市場への投資で、空振りに終わる恐れがある。
今後の分かれ目
- Stylam の売上が計画どおり伸び、利益率が 16% 前後を保ったら
- 海外の建装建材の前提を上げ、楽観・やや楽観の確率を引き上げてよい。
- Stylam の売上が減るか、のれんの減損が出たら
- 海外の前提を下げ、やや悲観・悲観に寄せる。
- 化成品の営業利益率が 8% を超えて定着したら
- 全社の資本効率の前提を上げ、楽観側の確率を引き上げる。
- 国内の建装建材の営業利益率が 20% を割ったら
- 値決め力の前提を下げ、悲観側の確率を上げる。
- 国内の新設住宅の着工が年 10% 超の減少に入ったら
- 国内の数量の前提を下げ、中立の利益を 1 割ほど下方修正する。
- 政策保有株の売却資金で大きな自社株買いが行われたら
- 還元の前提を上げる。ただし利益そのものは変わらず、本質価値の変化は小さい。
見ておくもの
- 建装建材の営業利益率(値上げ後も 20% 超を保てるか)
- Stylam の連結売上と営業利益率、のれんの償却額
- 化成品の営業利益率(7% を超えて上がるか)と海外の接着剤の売上
- 国内の新設住宅の着工戸数と、リフォーム・リニューアルの受注
- 石化原料の価格と、値上げの浸透
- 総還元性向と自社株買いの実績、政策保有株の売却
倍率と資本コストの決め方
3 つのセグメント(化成品・国内建装建材・海外建装建材)を、出荷量と市場×シェア(物価は価格指数に分離)で積み上げ、利益率から営業利益を出した。資本コストは基本 7.5%+quality −0.25% の 7.25%。倍率は g 3.75%・ROE 10% 前後から出した正当化 PER の 8.8 割に置き、1÷k の下限を守った。今の株価・今の PER には寄せていない。結果は、10 年の価値が今の時価総額とほぼ同じで、適正に出た。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)より低い PER で測り、過去の PBR の底からは置いていない。純現金は 70 億円で時価総額の 3% 弱のため、余った現金は分けていない。借金と店舗の賃借は小さいと見て、新リース会計基準(2028/03 期から)の影響は限定的とした。数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.7→19.34 倍・やや楽観 PER 14.9→18.56 倍・中立 PER 14.2→18.13 倍・やや悲観 PER 12.5→14.49 倍)。
資本コスト 6.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.25%(循環 +0.25、値決め力 −0.5)を足して 7.25%。Stylam の買収の成否と化成品の薄い利益は k に足さず、筋書きと確率で見た。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 6.50%。