結論
ミライアルは、半導体ウェーハを運ぶ樹脂の箱をつくる会社だ。主力は 300mm ウェーハの出荷用容器(FOSB)と工場内搬送用の容器(FOUP)で、売上の約 7 割を占める。FOSB では世界の上位にいる。
結論から言う。筆者は、利益で測った本質価値は今の時価総額の約 8 割で、やや割高と見る。一番の理由は ROE の低さだ。過去 10 年の中央値は 5% で、資本コスト 7.5% に届かない。自己資本比率 86%、有利子負債ゼロの厚い財布に対して、稼ぐ力が小さい。PBR が 0.7 倍でも、割安の根拠にはならない。
事業は悪くない。容器は顧客の認定が要り、ウェーハが増えれば数量も増える。10 年中立では数量が 1.3 倍、売上は物価込みで 1.7 倍になる。ただ、半導体の循環で営業利益は 3 年で 8 割減った。直近の利益率 4% は谷の底で、2023 年 1 月期の 17% が山だ。山を起点にせず、中立は山以下の 11〜12% に置いた。
分かれ目は三つある。AI 需要が容器の数量をどこまで押し上げるか。東北に集約する高機能樹脂が赤字を抜けるか。50 億円超の買収枠が価値を生むか、壊すか。布谷舶用計器工業の買収は、その最初の答えだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社の問いは単純だ。「稼いだお金を、どこに置くと一番よく増えるのか」である。
ミライアルの事業は悪くない。容器は認定に守られ、半導体がある限り要る。無借金で、谷でも黒字を守る。だがオーナーとして持ち続けたいかと問うと、疑問が残る。10 年の平均で ROE は 5% 前後で、資本コストの 8.5% に届かない。稼いだ利益を自社の事業で再投資しても、株主の取り分は増えにくい。
経営が資本の配分を変えようとしている点は、前向きに受け取れる。DOE を導入し、借入を使い、自社株を買う。ただし買収は、割高に買えば価値を壊す。1 号案件の布谷は小さく、様子を見る段階だ。
本質価値は、10 年後の利益に妥当な倍率を掛けて決める。ROE が資本コスト以下なら、ためた利益は額面に満たない価値しかない。安全域は PBR の低さではなく、純現金の厚さと、容器の認定の壁にある。筆者は、今の値段はこの二つにほぼ見合っていて、安全域は薄いと見る。
何で稼ぐ会社か
ミライアルは 1968 年に柿崎製作所として生まれた樹脂成形の会社だ。国産初のウェーハ用 PFA カセットで育ち、1999 年以降は 300mm ウェーハの出荷容器 FOSB をいち早く開発して「FOSB のミライアル」と呼ばれるようになった。
事業は二つある。プラスチック成形事業が売上の約 9 割で、ウェーハ搬送容器、半導体装置や薬液まわりのフッ素樹脂部材(高機能樹脂製品)、電子部品、金型をつくる。成形機事業は約 1 割で、竪型射出成形機やトランスファー成形機を、自動車や医療向けに受注生産する。2026 年 1 月期の売上 125.7 億円のうち、半導体向けは 105 億円ある。
稼ぎの中心は容器だ。FOSB は、ウェーハメーカーがデバイスメーカーへウェーハを出荷する時の箱で、FOUP は工場の中でウェーハを運ぶ箱だ。ウェーハが動けば箱も要る。顧客はウェーハメーカー、半導体メーカー、装置メーカーである。会社は売上の約 7 割を占める容器の比率を、2034 年 1 月期に 4 割まで下げる目標を掲げている。
2026 年 4 月に、舶用航海計器の布谷舶用計器工業を買収した。半導体以外の「第 2、第 3 の柱」を作る最初の一手である。中期成長戦略 2028 の最終年度(2029 年 1 月期)の目標は、売上 239 億円、営業利益 47 億円、ROE 11.1% だ。
優良さと弱いところ
強みは三つある。
一つ目は認定の壁だ。ウェーハの容器は、ウェーハの品質を左右する。顧客は認定を取った容器でないと使わず、切り替えに時間がかかる。ミライアルは金型の設計から精密成形、自動化装置の開発までを社内で行う。二つ目は樹脂の成形技術だ。創業時からフッ素樹脂を扱い、世界最大級の大型射出成形機で、他社がつくれない大きさの成形品を出せる。三つ目は財務で、有利子負債はゼロ、自己資本比率は 86% ある。
弱みは四つある。一つ目は、売上の約 7 割が単一の用途に偏る点。二つ目は、ROE が低い点だ。過去 10 年の中央値は 5% で、財布が厚いぶん自己資本の稼ぐ効率が落ちる。三つ目は価格だ。会社は単価に大きな変動はないと言う。物価が年 3% の世界で単価が横ばいなら、実質では下がる。四つ目は規模で、FOSB・FOUP では Entegris や信越ポリマーのほうが大きい。
経営は、2024 年からの中期成長戦略で資本政策を転換した。DOE の導入、借入の活用、買収枠の設定がそれだ。ただ、買収を重ねた実績はまだ薄い。堀は「普通」にとどまると筆者は考える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
容器の需要は、ウェーハの出荷とウェーハ工場の稼働に連動する。2024〜2025 年はウェーハの在庫調整が長引き、会社自身が「二番底」と語る谷になった。FOSB は今も厳しいが、FOUP、工程内容器、高機能樹脂は、装置メーカーの動きが戻るにつれて回復の兆しが出ている。2027 年 1 月期の上期は、売上が前年同期比 26% 増、営業利益が 67% 増となった。
長い目で見ると、SEMI は 2028 年のシリコンウェーハ出荷面積が過去最高を更新すると予測している。AI 向けの先端ロジックとメモリの投資が、需要の中心だ。300mm の FOUP・FOSB の市場は、調査会社の推計で 7 億ドル台、年 6〜8% の名目成長が見込まれる。実質では年 3〜4% になる。
競争の形は、Entegris(米)、信越ポリマー、ミライアル、台湾の Gudeng、韓国の 3S Korea の五社が中心だ。上位 5 社で市場の大半を握る。ミライアルの FOSB 世界シェアは、2021 年の報道で 40% 弱の 2 位とされた。脅威は、中国のウェーハ工場が国産の容器を使い始めること。そして、容器の使い回し(リユース)が広がり、新品の需要が伸びにくくなることだ。半導体の投資は 2〜4 年の周期で山谷を作る。AI 需要があっても循環は消えない。
資本政策と M&A
還元の方針は、2026 年 1 月期から「総還元性向 30%、または DOE(自己資本配当率)2% の高いほう」を下限とする。2026 年 1 月期の配当は前の期より増え、利益が 4 割減る中でも増配した(総額は約 4.4 億円)。自己資本 230 億円の 2% は約 4.6 億円で、利益が谷でも守れる水準だ。自己株式は、中計の期間で発行済みの 3% 程度を取得する意向を示している。
資本構成は、無借金・高い自己資本比率から、有利子負債を活用する方向へ変える。現預金は 47 億円ある。買収で 11 億円が出て、約 36 億円になった。成長投資の枠として 50 億円超を確保している。
M&A は、2026 年 4 月の布谷舶用計器工業が第 1 号だ。売上 21 億円・営業利益 0.75 億円の小さな会社で、のれんは約 8 億円。買収額は非開示だ。会社は半導体、社会インフラ、ライフサイエンス、産業機器の 4 分野を狙うと述べている。筆頭株主はワイエム管財の約 22% で、親会社はいない。PBR が 0.7 倍で現金が厚い会社は、同業や投資家の買収対象になり得る。ただ、その可能性は本質価値の計算には入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ウェーハの出荷は 2028 年に過去最高を更新する。AI の投資が先端ロジックとメモリを押し上げ、容器の数量は確実に増える。ミライアルは増産と自動化の投資をほぼ終えており、固定費は済んでいる。数量が戻れば、利益は大きく跳ねる。2023 年 1 月期は売上 143 億円で営業利益 25 億円だった。今は売上が 126 億円で利益は 5 億円。数量が 2023 年の水準に戻るだけで、利益は 4 倍以上になる。2027 年 1 月期の上期はすでに売上 26% 増、営業利益 67% 増で、回復は数字に出始めた。
東北の高機能樹脂工場が稼働すれば、赤字だった樹脂事業が黒字になる。布谷舶用計器工業は造船の追い風を受け、社会インフラの柱に育つ。
財務は無借金で現金が厚く、DOE 2% が配当の下支えになる。PBR は 0.7 倍で、純現金は時価総額の 2〜3 割ある。事業を無料でもらえる計算だ。経営は ROE 11% と PBR 1 倍超を公約した。目標に近づけば、再評価が起きる。さらに、自動化ラインで人手を減らし、容器 1 個あたりの原価を下げる取り組みも進んでいる。
慎重な見方
ROE は 10 年の中央値で 5% だ。資本コスト 7.5% に届かない会社の PBR は 1 倍を割って当たり前で、割安ではない。高い自己資本比率は財務の強さである一方、資本が眠っているということでもある。
容器の価格は、会社自身が「大きな変動なし」と認めている。物価が年 3% の世界で単価が横ばいなら、実質では毎年下がる。顧客のウェーハメーカーは強く、値下げ要求は続く。使い回しの広がりは新品の数量を食う。
売上の 7 割が単一の用途で、利益は半導体の循環で 3 年に 8 割減った。AI 需要が長く続く保証はなく、レガシー品の回復は遅い。中国は国産化を急ぎ、台湾の Gudeng は価格で攻める。
中計 2028 の目標は営業利益 47 億円で、今の 9 倍だ。内訳を聞かれた社長は「現時点で難しい」と答えた。足りない分は買収で補うという説明は、割高に買う危険と隣り合わせだ。布谷のような小さな案件で、売上 239 億円の穴は埋まらない。
どちらに重みを置いたか
数量の回復で利益が戻る点は、強気の見方が正しい。ただ、戻った先の利益率は 2023 年 1 月期の 17% が上限で、ROE は 6〜7% にとどまる。資本コストを下回る限り、倍率は 1÷k の 11.8 倍が天井になる。慎重な見方の「ROE が低い」という指摘のほうが、評価を決める力が強い。確率は中立を 34% と厚くし、悲観側の合計を楽観側と同じ 34% に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/01 期)
確率で加重した株価時価総額 3,110 円273 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 692 円61 億円)。 今の値に割り戻すと 1,991 円175 億円、今との差 +10.9%、 期待の年率 +7.8%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 7,167 円629 億円 | 1,066 円94 億円 | +358.7% | +16.5% | 823 円72 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,659 円409 億円 | 836 円73 億円 | +206.1% | +11.8% | 1,209 円106 億円 |
| 中立 | 34% | 3,163 円278 億円 | 683 円60 億円 | +114.3% | +7.9% | 1,308 円115 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,022 円90 億円 | 613 円54 億円 | −8.9% | −0.9% | 360 円32 億円 |
| 悲観 | 12% | 570 円50 億円 | 285 円25 億円 | −52.4% | −7.2% | 103 円9 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,110 円273 億円 | 692 円61 億円 | +111.8% | +7.8% | 3,802 円334 億円 |
今の株価時価総額 1,795 円158 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:AI 需要が続き、容器も第 2 の柱も伸びる 利益 39 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 7,167 円629 億円
AI 向けのデータセンター投資が先端ロジックとメモリの増産を 10 年押し上げ、300mm ウェーハの出荷が実質で年 5% 近く伸びる。熊本で自動化を終えた生産ラインと、需要の戻りに備えた増産体制が一気に埋まる。容器の数量は今の 1.6 倍になり、先端向けの構成が上がって 1 個あたりの売上も物価を上回る 1.40 倍になる。営業利益率は 22.5% と、2023 年 1 月期の山を超える。
高機能樹脂は東北の新工場が満たされ、半導体の後工程やライフサイエンスへ広がって数量が 1.9 倍になる。布谷舶用計器工業は造船の追い風を受け、社会インフラの柱として根づく。
結果、売上は約 325 億円、営業利益は約 54 億円。中計 2028 の目標(売上 239 億円・営業利益 47 億円)に 7 年遅れで届き、上回る。
- ウェーハ搬送容器(FOSB・FOUP・工程内容器):数量 130(容器の出荷数(万個、FOSB 換算。実質の数量))× 価格 1.52(容器 1 個あたりの売上(億円/万個。名目))→ 売上 198 億円・営業利益 45 億円。数量 1.63 倍・1 個の売上 1.40 倍(先端向けの構成と値上げ)、利益率 22.5%
- 高機能樹脂製品(半導体装置・薬液向けフッ素樹脂部材ほか):数量 45.6(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 134(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 61 億円・営業利益 10 億円。数量 1.9 倍(後工程・医療に広がる)、利益率 17%
- 成形機(竪型射出成形機・トランスファー成形機・金型):数量 63.7(販売台数(台、金型・付属装置込みの推定))× 価格 0.40(1 台あたりの売上(億円/台。名目))→ 売上 26 億円・営業利益 3 億円。台数 1.3 倍、利益率 11%
- 舶用・鉄道機器(布谷舶用計器工業。2026 年 4 月 30 日に連結化):数量 30.0(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 134(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 40 億円・営業利益 4 億円。造船・鉄道の追い風で 1.4 倍、利益率 11%
倍率:事業の純利益 39 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)11 億円。全体の PER 15.85 倍、時価総額 629 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI 需要の持続と中計の達成がそろう上振れ。実績の営業利益率が 2023 年 1 月期の 17% 止まりで、20% 超は未経験なので 1 割にとどめた。
やや楽観 22% やや楽観:谷をはさみつつ容器が伸び、東北の統合が実る 利益 28 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 4,659 円409 億円
半導体の需要は強いが、AI 一本足ではなく、循環の谷を 1〜2 回はさみながら伸びる。ウェーハ出荷は実質で年 4% 前後。FOSB のシェアは守り、FOUP と工程内容器で少し取り戻す。容器の数量は今の 1.45 倍、単価は物価並みの 1.34 倍になる。
東北の新工場への集約が進み、高機能樹脂は赤字を脱して利益率 13.5% 前後まで上がる。成形機は EV 向けの封止用トランスファー成形機が少しずつ売れる。
売上は約 277 億円、営業利益は約 39 億円(利益率 14.1%)。中計の目標には届かないが、2023 年 1 月期の山の利益を 5 割ほど上回る。
- ウェーハ搬送容器(FOSB・FOUP・工程内容器):数量 116(容器の出荷数(万個、FOSB 換算。実質の数量))× 価格 1.46(容器 1 個あたりの売上(億円/万個。名目))→ 売上 169 億円・営業利益 34 億円。数量 1.45 倍・単価は物価並みの 1.34 倍、利益率 20%
- 高機能樹脂製品(半導体装置・薬液向けフッ素樹脂部材ほか):数量 37.2(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 134(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 50 億円・営業利益 7 億円。数量 1.55 倍、利益率 13.5%
- 成形機(竪型射出成形機・トランスファー成形機・金型):数量 56.4(販売台数(台、金型・付属装置込みの推定))× 価格 0.40(1 台あたりの売上(億円/台。名目))→ 売上 23 億円・営業利益 2 億円。台数 1.15 倍、利益率 10%
- 舶用・鉄道機器(布谷舶用計器工業。2026 年 4 月 30 日に連結化):数量 26.8(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 134(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 36 億円・営業利益 4 億円。1.25 倍、利益率 10%
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)11 億円。全体の PER 14.21 倍、時価総額 409 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ウェーハ出荷の回復が続き、東北の統合が計画どおり進む筋書き。会社の 2027 年 1 月期の回復(上期の営業利益 +67%)が土台にある。
中立 34% 中立:容器は物価並みに稼ぎ、第 2 の柱は計画より遅れる 利益 20 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 3,163 円278 億円
ウェーハの出荷は実質で年 3% 弱の伸びで、途中に 2 度ほど在庫調整の谷が来る。容器の数量は 10 年で 1.31 倍。ミライアルは FOSB で世界の上位を守るが、使い回しの広がりと顧客の値下げ要求で、1 個の売上は物価(1.34 倍)をやや下回る 1.30 倍にとどまる。
工場はすでに建ててあるので、数量が戻れば稼働率が上がり、容器の営業利益率は 10% から 17.5% まで戻る。ただ償却費は新しい投資の分だけ増え、人件費と材料は物価で膨らむ。高機能樹脂は利益率 11%、成形機は 9%、布谷は 9%。のれんの償却と本社費で約 7 億円を差し引く。
売上は約 241 億円、営業利益は約 28 億円(利益率 11.7%)。中計 2028 の売上 239 億円には届くが、営業利益 47 億円には遠い。買収は価値を壊さず増やしもしない(払った分に見合う利益)と置き、筋書きの売上には入れない。
- ウェーハ搬送容器(FOSB・FOUP・工程内容器):数量 105(容器の出荷数(万個、FOSB 換算。実質の数量))× 価格 1.41(容器 1 個あたりの売上(億円/万個。名目))→ 売上 148 億円・営業利益 26 億円。数量 1.31 倍・単価 1.30 倍(物価をやや下回る)、利益率 17.5%
- 高機能樹脂製品(半導体装置・薬液向けフッ素樹脂部材ほか):数量 30.0(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 134(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 40 億円・営業利益 4 億円。数量 1.25 倍、利益率 11%
- 成形機(竪型射出成形機・トランスファー成形機・金型):数量 49.0(販売台数(台、金型・付属装置込みの推定))× 価格 0.40(1 台あたりの売上(億円/台。名目))→ 売上 20 億円・営業利益 2 億円。台数は横ばい・単価 1.34 倍、利益率 9%
- 舶用・鉄道機器(布谷舶用計器工業。2026 年 4 月 30 日に連結化):数量 24.6(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 134(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 33 億円・営業利益 3 億円。1.15 倍、利益率 9%(のれん償却は本社側)
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)11 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 278 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ウェーハ出荷の緩やかな伸びと循環の谷が混じる、最も起きやすい姿。業界ノートの数量(実質で年 3〜5%)の低めの側に置いた。
やや悲観 22% やや悲観:回復が遅れ、価格競争で利益率が戻らない 利益 9 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,022 円90 億円
AI 向け以外のレガシー品の回復が遅く、ウェーハの出荷は実質で年 1.5% 程度にとどまる。台湾の Gudeng などが FOUP と FOSB の価格を下げ、顧客の値下げ要求も強まって、容器のシェアが 1 割ほど落ちる。容器の数量は今の 1.12 倍、単価は 1.22 倍。
東北の統合工場は低い稼働が続き、高機能樹脂の利益率は 6% どまり。成形機は自動車の不振が尾を引く。布谷は造船の山を越えて伸びが止まる。償却費は重いまま、人件費と材料だけが物価で上がる。
売上は約 198 億円、営業利益は約 14 億円(利益率 6.8%)。今の谷の水準よりは上だが、中計の目標とは別世界の姿になる。
- ウェーハ搬送容器(FOSB・FOUP・工程内容器):数量 89.6(容器の出荷数(万個、FOSB 換算。実質の数量))× 価格 1.33(容器 1 個あたりの売上(億円/万個。名目))→ 売上 119 億円・営業利益 16 億円。数量 1.12 倍・単価 1.22 倍、利益率 13%
- 高機能樹脂製品(半導体装置・薬液向けフッ素樹脂部材ほか):数量 25.2(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 130(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 33 億円・営業利益 2 億円。数量 1.05 倍、利益率 6%
- 成形機(竪型射出成形機・トランスファー成形機・金型):数量 44.1(販売台数(台、金型・付属装置込みの推定))× 価格 0.39(1 台あたりの売上(億円/台。名目))→ 売上 17 億円・営業利益 1 億円。台数 0.9 倍、利益率 6%
- 舶用・鉄道機器(布谷舶用計器工業。2026 年 4 月 30 日に連結化):数量 22.5(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 130(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 29 億円・営業利益 2 億円。1.05 倍、利益率 7%
倍率:事業の ROE は約 3.6% と低く、k を大きく下回る。利益が回復の途中にあり、固定費の重さで下振れしやすいため、1÷k=11.8 倍の 75% の 8.8 倍に置いた。余った現金は 0.75 倍の 11 億円(谷で食う)に戻り方 0.5 を掛けて足した。
確率:レガシー品の回復遅れと価格競争で、利益率が戻りきらない筋書き。2 年連続で利益が減った直近の実績が重い。
悲観 12% 悲観:中国の国産化と値下げで容器が構造的に負ける 利益 0 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 570 円50 億円
構造的に負ける筋書き。中国の半導体メーカーが国産の容器へ切り替え、中国と台湾の安い FOSB・FOUP が世界で価格を崩す。大手の Entegris と信越ポリマーは規模で値段を下げ、ミライアルは単一の用途への依存が裏目に出る。容器のシェアは 3 割落ち、市場の伸びを入れても数量は今の 0.85 倍、単価は物価どころか 1.05 倍にとどまる。
償却の重い工場は稼働が落ちて赤字に近づき、東北の統合工場と買収したのれん(約 8 億円)の減損が出る。物価で上がる人件費と材料を価格に転嫁できず、容器の利益率は 6% まで落ちる。
売上は約 141 億円、営業利益はほぼゼロ。配当は DOE 2% の方針を保てず削られる。価値は稼ぐ力ではなく、純現金と売れる設備の税後で支えられる姿になる。
- ウェーハ搬送容器(FOSB・FOUP・工程内容器):数量 68.0(容器の出荷数(万個、FOSB 換算。実質の数量))× 価格 1.14(容器 1 個あたりの売上(億円/万個。名目))→ 売上 78 億円・営業利益 5 億円。数量 0.85 倍・単価 1.05 倍(値下げ圧力)、利益率 6%
- 高機能樹脂製品(半導体装置・薬液向けフッ素樹脂部材ほか):数量 21.6(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 120(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 26 億円・営業利益 0 億円。数量 0.9 倍・単価 1.2 倍、利益率 0%
- 成形機(竪型射出成形機・トランスファー成形機・金型):数量 34.3(販売台数(台、金型・付属装置込みの推定))× 価格 0.36(1 台あたりの売上(億円/台。名目))→ 売上 12 億円・営業利益 0 億円。台数 0.7 倍、利益率 3%
- 舶用・鉄道機器(布谷舶用計器工業。2026 年 4 月 30 日に連結化):数量 20.3(対象市場の実質規模(億円)× シェア)× 価格 125(値段の指数(今 100。名目))→ 売上 25 億円・営業利益 1 億円。造船の反動で 0.95 倍、利益率 5%
倍率:稼ぐ力はほぼゼロで、価値は床の資産で測る。純現金(買収後で約 36 億円)に戻り方 0.5、設備・在庫・土地の売却額の税後 約 32 億円を足した約 50 億円(floor_assets_oku)。今の自己資本 230 億円に対する PBR にして 0.22 倍。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.2315 倍・時価総額 50 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:中国の国産化と大手の値下げで構造的に負ける筋書き。小型・単一用途・顧客集中の会社なので、業界ノートの標準(12% 前後)をそのまま置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ウェーハ搬送容器(FOSB・FOUP・工程内容器)
300mm シリコンウェーハを出荷・工場内搬送するための樹脂容器。全社売上の約 7 割を稼ぐ主力で、世界トップクラスの地位にある。
| 数量容器の出荷数(万個、FOSB 換算。実質の数量) | 価格容器 1 個あたりの売上(億円/万個。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 80.0 | 1.09 | 87 | 9 |
| 10 年後 中立 | 105 | 1.41 | 148 | 26 |
取り方:会社は容器の数量・単価を開示していない。世界の 300mm ウェーハ出荷(月 1,000 万枚強)を 25 枚入りの箱で割った輸送需要のうち、使い回しを除いた新規の容器需要を年 200 万個前後と推定し、FOSB 換算で 3〜4 割の 80 万個を持つと置いた。売上 87 億円(2024/01 期の構成比 71% を当期の売上に当てはめた推定)をこれで割った 1 個約 1.1 万円が価格。営業利益 9 億円はプラスチック成形事業の利益(推定 8 億円台)に合わせた推定で、償却費の増加と稼働率の低下で薄い。
高機能樹脂製品(半導体装置・薬液向けフッ素樹脂部材ほか)
フッ素樹脂の大型射出成形などで、半導体の装置・薬液まわりの部材、フルイドシステム製品、電子部品、金型をつくる。東北の新工場に生産を集約中。
| 数量対象市場の実質規模(億円)× シェア | 価格値段の指数(今 100。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 24.0 | 100 | 24 | −1 |
| 10 年後 中立 | 30.0 | 134 | 40 | 4 |
取り方:開示は無い。市場別売上(半導体 105 億円のうち容器以外)とプラスチック成形事業の売上 112.5 億円から容器を引いた約 24 億円を、対象市場 900 億円前後(半導体装置・薬液向けのフッ素樹脂成形品などの推定)× シェア 2.7% と置いた。営業利益は、熊本・山口・東北の統合費用と低い稼働で赤字に近いと推定(−1 億円)。
成形機(竪型射出成形機・トランスファー成形機・金型)
自動車・医療などで使う成形機と金型、自動化装置を受注生産する。EV 向けの封止用トランスファー成形機を開発中。
| 数量販売台数(台、金型・付属装置込みの推定) | 価格1 台あたりの売上(億円/台。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 49.0 | 0.30 | 15 | 2 |
| 10 年後 中立 | 49.0 | 0.40 | 20 | 2 |
取り方:成形機事業の売上は 15.6 億円(セグメント間の内部取引を除くと約 14.7 億円)。オーダーメードで 1 台(金型・付属装置込み)約 3,000 万円と仮定して台数に直した推定。営業利益は自動車向けの低迷で薄い(利益率 11% 前後と推定)。
舶用・鉄道機器(布谷舶用計器工業。2026 年 4 月 30 日に連結化)
磁気コンパスなど舶用航海計器と鉄道車両用機器をつくる大阪の会社。社会インフラ分野の第 2 の柱として買収した。
| 数量対象市場の実質規模(億円)× シェア | 価格値段の指数(今 100。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 21.4 | 100 | 21 | 1 |
| 10 年後 中立 | 24.6 | 134 | 33 | 3 |
取り方:2026/01 期の決算には入っていないため、買収前の最後の通期(2025/03 期の売上 21.4 億円・営業利益 0.75 億円、報道)を年換算の参考値として置いた。対象市場は推定 250 億円前後 × シェア 8.6%。買収価格は非開示(中間期にのれん約 8 億円・取得の支出約 11 億円と報じられた)。
リスクと懸念
半導体の循環と ウェーハ在庫調整の長期化
容器の数量はウェーハの出荷に連動する。利益は 2023 年 1 月期から 3 年で約 8 割減った。AI 向け以外のレガシー品の回復が遅れると、稼働率が上がらず、重い償却費が利益を圧迫し続ける。
単一用途への偏りと顧客の交渉力
売上の約 7 割がウェーハ搬送容器だ。顧客はウェーハメーカーや半導体メーカーで、値下げ要求が強い。会社は単価に大きな変動はないと述べるが、物価 3% の世界で単価が横ばいなら実質では下がる。
中国の国産化と台湾・韓国勢との価格競争
中国のウェーハ工場が国産の容器へ切り替えれば、数量と価格の両方に響く。台湾の Gudeng、韓国の 3S Korea は価格で攻める。Entegris と信越ポリマーは規模で優位にある。
買収の失敗とのれん
50 億円超の買収枠を設け、半導体以外の柱を買う方針だ。経験は薄く、割高に買えば価値を壊す。1 号の布谷でも、のれん約 8 億円が先に積み上がっており、利益が伸びなければ減損になる。
資本政策の転換のリスク
借入を使って ROE を上げる方針は、半導体の循環と相性が悪い。利益が谷の時に固定の利払いと配当(DOE 2%)が重なると、財布が一気に細る。
東北への生産集約と償却費
熊本・山口・東北の高機能樹脂の生産を東北の新工場に統合している。稼働率が上がるまでは赤字が続き、償却費は増え続ける。償却は取得時の値段のままだが、更新の投資は物価で膨らむ。
成形機事業の自動車依存
成形機は自動車向けの受注が不振で、2026 年 1 月期は売上が 18% 減った。EV の減速が長引けば、新しい成形機の開発も採算に乗りにくい。
今後の分かれ目
- SEMI のウェーハ出荷面積の予測が上方修正され続けたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げる。容器の数量は面積に近く連動するが、使い回しの比率が上がると新品の数量は伸びにくい点は別に確認する。
- FOSB の数量が戻らないまま FOUP と高機能樹脂だけが回復したら
- 容器の中身が主力の FOSB から外れ、利益率の回復は遅れる。やや悲観の確率を上げる。
- 東北の統合工場の稼働が上がり、高機能樹脂が黒字化したら
- 樹脂の利益率が 10% を超える筋書きが現実味を帯びる。やや楽観の確率を上げる。
- 50 億円超の買収枠で、利益に見合わない高値の買収を発表したら
- のれんの減損と ROE の低下を通じて、悲観側の確率を上げる。布谷のような小型で適正な値段の買収が続くなら、中立のままとする。
- 中国のウェーハメーカーが国産の FOSB・FOUP の採用を公表したら
- 悲観の確率を上げる。シェアの低下と値下げの両方を通じて、容器の利益率が 10% 前後に落ちる姿を想定する。
- 借入を使った大型の自社株買いが公表されたら
- ROE は上がるが、循環の谷での財務の余裕は減る。k の借金の評価を上げ、利益の質は据え置く。
見ておくもの
- ウェーハメーカー各社の出荷面積と四半期の在庫調整の動き(SEMI の予測更新)
- 全社の営業利益率(2027 年 1 月期の上期は 7%)
- 東北の統合工場の稼働率と高機能樹脂事業の黒字化の時期
- M&A の次の案件の分野・価格・のれん、および布谷舶用計器工業の通期の利益
- DOE 2% の維持、自社株買いの実施額と、借入の活用の開始時期
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(PBR 0.7 倍・PER 28 倍)から置いていない。事業の ROE が資本コスト 7.5% を下回るので、正当化 PER の上限は 1÷k の 11.8 倍で、中立は 85% の 10.0 倍、楽観のみ ROE が k を超えて式から約 12.7 倍に置いた。中立の営業利益率 11.7% は過去 12 年の山 17.2% より低い。会社の中期目標(営業利益率 20%)は筋書きの根拠に使っていない。PBR が低いことは割安の根拠にしていない。純現金(約 36 億円)は余った現金 15 億円に分け、戻り方は 0.5 とした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.3→15.85 倍・やや楽観 PER 11→14.21 倍・中立 PER 10→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5%+quality+1.0%=8.5%。同じ領域の信越化学(7.0%)、東京応化(7.5%)より高く、有沢製作所・レゾナック(8.5%)と並ぶ。小型で単一用途に頼る点を寿命でなく循環に含めた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.50%。