結論
南海化学は、和歌山を拠点に苛性ソーダと塩酸を作る化学メーカーだ。苛性ソーダは紙・鉄鋼・洗剤・水処理に欠かせない基礎の薬品で、塩水を電気分解して作る。半導体工場から出る廃硫酸を再生する事業も育てている。2013年に中山製鋼所から経営陣が買い取って独立し、2023年に上場した。親会社はない。
2026年3月期は売上211億円、営業利益17億円。純利益は28億円と大きいが、子会社の土地を売った一回限りの利益が乗ったためで、ふだんの稼ぎは12億円前後と筆者は見る。
筆者の結論は「適正」だ。時価総額は約84億円で、自己資本110億円を下回る。ふだんの利益に対する倍率も低い。ただ、苛性ソーダは市況品で、電力と原料の値段に利益が左右される。10年の稼ぎをならすと、今の値段はほぼ見合うと見る。
会社は営業利益23億円を計画し、配当を増やす。初の自社株買いと株主優待も始めた。株主に向き合う姿勢は変わってきたが、計画が実際の利益になるかは別の話だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、南海化学は「市況品を作る地味な会社だが、値段が資産を下回る」。時価総額は自己資本の7割台で、ふだんの利益の7倍前後だ。この水準は、苛性ソーダの利益が谷に戻ることを織り込んでいる。
オーナー利益は、純利益から設備の更新を引いた額だ。減価償却11億円に対し、設備投資は14億円。更新に手がかかる事業で、利益の全部が株主のものにはならない。ふだんの稼ぎ12億円のうち、自由に使えるのはその半分ほどだと筆者は見る。
経営は株主に向き始めたが、資本の使い方はこれからだ。廃硫酸のリサイクルに投資する計画がある。成功すれば、利益の質が市況品から契約型に移る。失敗すれば、重い設備が残る。
安全域は、自己資本と売れる土地・設備にある。10年の稼ぎにほぼ見合う値段なので、筆者は適正と見るが、大きな安全域があるとは言えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は化学品事業で、売上の8割を占める。苛性ソーダ、合成塩酸、次亜塩素酸ソーダといった基礎化学品が半分ほど。ほかに食品添加物や医薬・農薬の中間体、土壌殺菌剤のクロルピクリン、廃硫酸を再生して売る環境リサイクルがある。
残りの2割は各種塩事業だ。豪州とメキシコから天日塩を輸入し、食品用や道路の融雪用に加工して売る。暖冬の年は融雪塩の出荷が減り、2026年3月期もこれで売上が1割減った。
工場は和歌山県の和歌山工場と青岸工場、高知県の土佐工場、宮城県の石巻に賃借の設備がある。苛性ソーダは重くて運びにくいので、売り先は主に関西圏だ。小ロットのニッチな用途に強いことが、大手と同じ土俵で戦わない理由になっている。
従業員は319名で、技術者と工場の運転員が中心だ。年の設備投資は14億円、減価償却は11億円で、設備に手のかかる事業だ。2026年3月期は子会社の富士アミドケミカルの土地を売り、約19億円の借入を返した。中期経営計画は2027年3月期までで、最終年度に売上217億円、営業利益23億円を掲げている。
優良さと弱いところ
強みは三つある。まず、塩水の電気分解で出る水素と塩素を、自社の製品に使える点だ。次に、小ロットで急ぎの注文に応える関西の地の利。最後に、半導体の廃硫酸を再生する事業が、顧客の工場と長く結びつく点だ。
弱みも明確だ。苛性ソーダは大手の東ソーや大阪ソーダ、トクヤマなどと同じ品を作り、値段は市況で決まる。電気分解は電力を食い、電気代が上がれば利益が削られる。国内の塩素の需要は細り、設備は古くなる。
営業利益率は2021年3月期の4%から2024年の7.8%、2026年の8.1%へ上がってきた。ROEは過去の中央値で14%だが、2026年は土地売却益で押し上げられた。ふだんのROEは10%前後だ。
財務は軽くなった。自己資本比率は57%、純負債は13億円で、利払いの28倍の営業利益がある。経営陣が株を買い取った会社で、新しい上場会社として株主への姿勢を整えている最中だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の苛性ソーダは成熟した市場で、新しい用途は限られ、数量は人口とともに緩やかに縮む。需要先は化学・紙パルプ・鉄鋼・アルミナ・洗剤・水処理などだ。塩素の使い道が塩化ビニルを中心に減っており、塩素と苛性ソーダを同時に作る電気分解の工場は、塩素の売り先に縛られる。
供給側は、東ソーや大阪ソーダなど大手が設備を持ち、中国の過剰設備が汎用の化学品の値段を押し下げる。ただ、苛性ソーダは重くて運びにくく、国内の需要地に近い工場が有利だ。関西の中堅として生きる道はある。
追い風は二つある。ひとつは半導体工場の増加で、廃硫酸の再生や高純度の薬品に需要が出ること。もうひとつは、水処理や食品の用途で安定した引き合いが続くことだ。向かい風は、電力と原料塩の高騰と、環境規制の費用の増加だ。
電気分解は電力を食う。会社は電解設備の稼働を最適化し、原料の調達先を増やす計画で、2027年3月期の増益の柱もここにある。南海トラフ地震の被害想定地域に工場があることも、事業の前提として頭に置く必要がある。
人手不足による賃上げも、工場の運転員の確保を難しくしている。
資本政策と M&A
還元は強まっている。2026年3月期は増配で、2027年3月期もさらに増やす予定だ。会社は配当性向を段階的に上げる方針だ。2026年2月からは初の自社株買いに入り、5月末までに約1.5億円を取得した。
株主優待も始めた。100株以上の株主に、大阪・和歌山・高知の特産品を贈る。保有1年以上で3千円相当、3年以上で5千円相当だ。株主数は開示を確認できなかったため、1,500人、1人あたり原価2千5百円と推定すると費用は年0.4億円になる。10年の還元に、中立で4億円を足した。
親会社も支配株主も見当たらず、余った現金はない(純負債)。土地売却の代金は借入の返済に使った。政策保有株の含み益は確認できなかった。
大株主の構成は確かめられなかった。TOBの可能性は試算で10年以内に32%と高めだが、これは価値に足していない。次の中期計画は2027年度以降に出る見込みだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
利益率の改善は始まったばかりだ。営業利益率は4%から8%へ上がり、会社は2027年3月期に10%を目指す。電解設備の運転を最適化し、原料の調達先を増やせば、コストは下がる。第1四半期の営業利益は前年の1.8倍に増えた。
廃硫酸の再生は、半導体工場の増加が追い風になる。顧客の工場と結びついた契約型の収益で、市況品の振れが小さくなる。排水処理設備の増強も決まり、来年に動き出す。
財務は軽くなった。土地を売って借入を減らし、純負債は13億円まで下がった。配当は増える予定で、自社株買いと優待も加わる。配当性向が段階的に上がる方針なので、株主の取り分は増える。
時価総額が自己資本を下回る会社が、利益率を10%に乗せれば、評価は大きく変わる。
苛性ソーダの値上げが通りやすい局面も、増益を後押しする。小さな会社なので、大手が採算に合わないとする小ロットの注文でも利益が出る。
営業の相手も長年の取引先が多く、関西圏の化学・食品・水処理の顧客に密着している。
慎重な見方
2026年3月期の純利益28億円は、土地売却益の一回限りだ。2027年3月期の純利益計画は13億円に戻る。営業利益23億円の計画も、電力と原料の値段が落ち着くことが前提で、外れれば簡単に届かない。
苛性ソーダは市況品で、値段は需要と電力・原料で決まる。国内の塩素の需要は細り、電気分解の工場は塩素の売り先に縛られる。大手と中国の汎用品に挟まれ、値上げの力は弱い。
設備は重い。減価償却は11億円、設備投資は14億円で、利益の半分は設備の更新に消える。物価で更新費が膨らむ一方、償却は取得時の値段のまま増えにくいので、会計上の利益は実力より良く見える。
工場は南海トラフ地震の被害想定地域にある。大きな地震が来れば、止まる期間の損失と復旧費で、数年分の利益が飛ぶ。新しい上場会社として実績も短く、経営陣の資本の使い方は見極めの途中だ。
苛性ソーダは大手の値決めに従う側で、市況が崩れれば価格を守れない。
どちらに重みを置いたか
利益率の改善と財務の軽さは強気の見方が正しい。一方、市況品であることと設備の重さ、土地売却益の一回性は慎重な見方が勝る。そこで中立を38%に置き、やや悲観を24%と厚めにした。
結果として、10年の価値は今の時価総額をわずかに上回る。割安というほどの安全域はなく、適正と筆者は見る。電力と原料の値段、廃硫酸リサイクルの伸びが、確率を動かす材料になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 8,726 円174 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,576 円32 億円)。 今の値に割り戻すと 5,115 円102 億円、今との差 +17.4%、 期待の年率 +9.0%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 18,393 円368 億円 | 2,302 円46 億円 | +375.2% | +16.9% | 1,656 円33 億円 |
| やや楽観 | 22% | 12,276 円245 億円 | 1,952 円39 億円 | +226.7% | +12.6% | 3,130 円63 億円 |
| 中立 | 38% | 9,626 円192 億円 | 1,702 円34 億円 | +160.1% | +10.0% | 4,304 円86 億円 |
| やや悲観 | 24% | 3,065 円61 億円 | 1,151 円23 億円 | −3.2% | −0.3% | 1,012 円20 億円 |
| 悲観 | 8% | 2,002 円40 億円 | 500 円10 億円 | −42.5% | −5.4% | 200 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,726 円174 億円 | 1,576 円32 億円 | +136.6% | +9.0% | 10,302 円206 億円 |
今の株価時価総額 4,355 円87 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:環境リサイクルが育ち、利益率は17%台 利益 22 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 18,393 円368 億円
半導体工場の増加で廃硫酸の再生と高純度の薬品が伸び、化学品事業の数量は実質で6%増える。環境リサイクルが契約型の収益として積み上がり、市況品の振れが小さくなる。
電解設備の最適化と原料調達の多様化が実り、セグメント利益率は17%台に乗る。値上げは物価を少し上回って通る。
配当性向は段階的に上がり、自社株買いも続く。優待は年0.4億円ほどで続く。自己資本は250億円台まで積み上がり、ROEは資本コストを少し上回る。
余った現金は設備と新規事業に回る。ただ、市況品の土台は変わらず、倍率は上限の8割台にとどめた。
- 化学品事業:数量 255(出荷数量(千トン換算。売上÷平均単価の推定))× 価格 1.00(1千トン換算あたりの売上(億円、名目))→ 売上 254 億円・営業利益 45 億円。化学品 255千t相当 × 1千tあたり0.997億円、セグメント利益率17.5%
- 各種塩事業:数量 100(出荷数量(千トン換算。推定))× 価格 0.55(1千トン換算あたりの売上(億円、名目))→ 売上 55 億円・営業利益 4 億円。各種塩 100千t相当 × 0.549億円、利益率8%
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍。全体の PER 15.47 倍、時価総額 340 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:廃硫酸リサイクルと高純度薬品が育ち、国内の苛性ソーダも値が通る筋書き。
やや楽観 22% やや楽観:電解の効率化が進み、利益率は今の山を保つ 利益 16 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 12,276 円245 億円
電解設備の効率化が進み、2027年3月期の計画に近い利益率が定着する。化学品の数量は実質で2%増え、廃硫酸の再生が少しずつ積み上がる。
値上げは物価並みに通り、セグメント利益率は15%台半ば。各種塩は暖冬の影響を平均で受けるが、利益は小さく安定する。
配当は性向を上げながら増え、優待も続く。設備の更新費は建築費・機械価格の上昇で膨らみ、償却を超える分は現金が出る。
自己資本は220億円台になる。
特別な追い風は置かず、会社の計画が達成される筋書きだ。
電力代が落ち着き、原料塩の調達も安定する前提を置いている。
- 化学品事業:数量 245(出荷数量(千トン換算。売上÷平均単価の推定))× 価格 0.97(1千トン換算あたりの売上(億円、名目))→ 売上 237 億円・営業利益 37 億円。化学品 245千t相当 × 0.968億円、利益率15.5%
- 各種塩事業:数量 97.0(出荷数量(千トン換算。推定))× 価格 0.55(1千トン換算あたりの売上(億円、名目))→ 売上 53 億円・営業利益 4 億円。各種塩 97千t相当 × 0.549億円、利益率7.5%
倍率:事業の純利益 16 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.89 倍、時価総額 222 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電解設備の最適化と環境リサイクルが計画どおり進み、利益率が今の山を保つ筋書き。
中立 38% 中立:数量は横ばい、値上げは物価並み、利益率は7%台 利益 13 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 9,626 円192 億円
化学品の数量は実質で横ばいを保つ。国内の苛性ソーダは細るが、廃硫酸の再生と機能化学品が穴を埋める。値上げは物価並み(1.34倍)で通る。
セグメント利益率は14%。2027年3月期の計画は、電力と原料の安定が前提で、中立はそこから少し落とす。各種塩は暖冬と寒波が混じり、利益率は7%前後。
減価償却は、今ある設備では取得時の値段のまま11億円ほど。ここに新しい設備の償却が加わり、10年後は18億円ほどに増える。更新の投資は物価で膨らみ、償却を超える分は現金が出る。
配当は性向を上げ、優待は年0.4億円で続く。自己資本は200億円台に増える。
- 化学品事業:数量 240(出荷数量(千トン換算。売上÷平均単価の推定))× 価格 0.95(1千トン換算あたりの売上(億円、名目))→ 売上 228 億円・営業利益 32 億円。化学品 240千t相当 × 0.949億円(物価1.34倍)、利益率14%
- 各種塩事業:数量 95.0(出荷数量(千トン換算。推定))× 価格 0.55(1千トン換算あたりの売上(億円、名目))→ 売上 52 億円・営業利益 4 億円。各種塩 95千t相当 × 0.549億円、利益率7%
倍率:事業の純利益 13 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 12.98 倍、時価総額 173 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は横ばい、利益率は今の山から少し下げた普通の筋書き。
やや悲観 24% やや悲観:国内需要が細り、利益率は5%台 利益 6 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 3,065 円61 億円
国内の苛性ソーダ需要が細り、塩素の売り先も減る。数量は実質で6%縮み、値上げは電力と原料の上昇に追いつかず、価格は物価に届かない。
セグメント利益率は10%台前半に下がり、各種塩も暖冬が続いて薄い利益になる。償却は新しい設備の分が加わって重い。
配当は据え置きに近く、優待は縮小する。借入が増えれば、利払いが3.5%で積み上がる。自己資本は170億円ほどにとどまる。
廃硫酸の再生は伸びるが、市況品の落ち込みを埋めるほどではない。
電気代の上昇が続き、設備の更新費も重くのしかかる。
人手不足による賃上げも原価を押し上げ、利益率は伸び悩む。
- 化学品事業:数量 225(出荷数量(千トン換算。売上÷平均単価の推定))× 価格 0.80(1千トン換算あたりの売上(億円、名目))→ 売上 180 億円・営業利益 19 億円。化学品 225千t相当 × 0.80億円(値上げが物価に届かない)、利益率10.5%
- 各種塩事業:数量 88.0(出荷数量(千トン換算。推定))× 価格 0.50(1千トン換算あたりの売上(億円、名目))→ 売上 44 億円・営業利益 2 億円。各種塩 88千t相当 × 0.50億円、利益率5%
倍率:ROE 約3.5%で k を大きく下回る。中立の8.5倍より下げて7.5倍に置いた。
確率:国内の苛性ソーダ需要が細り、値上げが原料・電力の上昇に追いつかない筋書き。
悲観 8% 悲観:電解の競争力を失い、ほぼ収支均衡 利益 −1 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 2,002 円40 億円
電解の競争力を失い、大手と中国の汎用品に押される。数量は実質で2割減り、値上げは通らない。電力代の上昇を転嫁できず、化学品の利益率は3%まで落ちる。
設備の減損が出て、自己資本は100億円に減る。地震や火災で工場が止まる損失が重なる可能性もある。
配当は縮み、優待は廃止される。価値は稼ぐ力でなく、土地と設備、在庫の売却値に頼る。
清算されない限り、少数株主は現金の使い方を決められず、株価は純資産を下回ったまま買い手が付かない。
従業員の削減と事業の縮小で、固定費を落とす局面に入る。
新しい設備への投資は止まり、更新を先送りして設備の老朽化が進む。
- 化学品事業:数量 190(出荷数量(千トン換算。売上÷平均単価の推定))× 価格 0.72(1千トン換算あたりの売上(億円、名目))→ 売上 137 億円・営業利益 4 億円。化学品 190千t相当 × 0.72億円、利益率3%
- 各種塩事業:数量 75.0(出荷数量(千トン換算。推定))× 価格 0.45(1千トン換算あたりの売上(億円、名目))→ 売上 34 億円・営業利益 1 億円。各種塩 75千t相当 × 0.45億円、利益率2%
倍率:稼ぐ力がほぼ無いので、床は今の自己資本110億円に掛ける。電解設備・工場・土地の売却価値を簿価の約4割として0.4倍。中立の PBR(約0.5倍)より低い。
確率:電解の競争力を失い、南海トラフ級の災害や環境規制の費用も重なる構造的な負け。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
化学品事業
苛性ソーダ・合成塩酸・次亜塩素酸ソーダなどの基礎化学品、機能化学品(食品添加物・医農薬中間体)、農業(土壌殺菌剤)、環境リサイクル(廃硫酸の再生)。
| 数量出荷数量(千トン換算。売上÷平均単価の推定) | 価格1千トン換算あたりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 240 | 0.71 | 170 | 25 |
| 10 年後 中立 | 240 | 0.95 | 228 | 32 |
取り方:化学品事業の売上169.8億円を、製品の幅(市況品の苛性ソーダと高単価の機能品の混在)を均した平均単価1トン約7万円で割り、240千トン相当と置いた推定。数量は開示されていない。セグメント利益24.7億円は決算短信の値。
各種塩事業
豪州・メキシコから輸入した天日塩を加工し、食品用・融雪用などに販売する。
| 数量出荷数量(千トン換算。推定) | 価格1千トン換算あたりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.41 | 41 | 3 |
| 10 年後 中立 | 95.0 | 0.55 | 52 | 4 |
取り方:各種塩事業の売上40.8億円を、平均単価1トン約4万円で割り100千トン相当と置いた推定。暖冬で融雪塩の出荷が減った年。数量は開示されていない。セグメント利益3.1億円は決算短信の値。
リスクと懸念
電力・原料塩の価格
苛性ソーダは電気分解で電力を大量に使う。電気代が上がり、値上げが遅れると利益が大きく削られる。原料の天日塩は輸入で、為替と海上運賃にも左右される。
国内の苛性ソーダ・塩素需要の縮み
塩素の使い道が減ると、電気分解の稼働が塩素の売り先に縛られる。人口減で国内の数量は緩やかに縮む。
南海トラフ地震
工場が被害想定地域にある。大きな地震や台風が来れば、操業停止の損失と復旧費で数年分の利益が飛ぶ。
設備の更新負担
減価償却11億円に対し設備投資は14億円。建築費と機械の値上がりで、更新費は償却を超えて膨らむ。
土地売却益の一回性
2026年3月期の純利益は子会社の土地売却益で膨らんだ。ふだんの稼ぎは12億円前後で、売却益は繰り返せない。
廃硫酸再生の投資回収
環境リサイクルを第2の柱にする計画だ。排水処理設備の増強に投資するが、金額は開示されていない。顧客の工場の稼働にも左右される。
今後の分かれ目
- 電解設備の最適化で営業利益率が10%に乗り、定着したら
- やや楽観の筋書きに確率を寄せてよい。
- 電力や原料の高騰で営業利益が15億円を割ったら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 廃硫酸の再生が契約型の収益として増え、売上構成が開示されたら
- 市況の振れが小さくなり、k の循環の項を下げる余地が出る。
- 次の中期計画で配当性向の目標が引き上げられたら
- 還元が増え、10年の価値を押し上げる。
- 大手化学会社などによるTOBが発表されたら
- プレミアムが付く可能性がある。条件次第で価値は大きく動く。
見ておくもの
- 営業利益率(10%への到達)
- 電力・原料塩のコストと値上げの通り
- 廃硫酸リサイクルの取扱量と設備投資額
- 配当性向と自社株買いの方針
- 次期中期経営計画(2027年度以降)
倍率と資本コストの決め方
倍率は ROE が k 8%を下回る筋書きが中心なので、上限 1÷k(11.8倍)の7〜9割に置いた。今の株価(ふだんの利益の約7倍・PBR 約0.76倍)や同業の倍率は根拠にしていない。営業利益率は過去の山(8.1%)の水準を中立の7%台に置いた。減価償却は物価で増やさず、新しい設備の償却だけを足している。新リース会計基準の影響は小さく、今の形で揃えた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→15.47 倍・やや楽観 PER 9.5→13.89 倍・中立 PER 8.5→12.98 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。