結論
カネカは、塩ビと変成シリコーンの素材、食品油脂と還元型コエンザイム Q10 の栄養、電子材料と太陽電池の生活品質、医療機器とバイオ医薬の健康の 4 本柱を持つ総合化学会社である。売上は 8,000 億円を超えるが、営業利益は 330 億円と薄い。利益率は 4% 台だ。
筆者の結論は、今の値段は先取りしすぎで割高、である。理由は資本の稼ぎにある。過去 10 年の ROE は 4〜7% で、資本コストを下回り続けてきた。利益を内部にためても、額面どおりの価値にならない。
2027 年 3 月期は営業利益 360 億円の予想で、第 1 四半期は前年から大きく伸びた。会社は 2028 年度に営業利益 680 億円、ROE10% を掲げる。実現すれば評価は一変する。ただ、過去の計画は届いてこなかった。
稼ぎ頭は変成シリコーンの MS ポリマー、栄養、ヘルスケアで、足を引くのは塩ビと全社の研究開発費である。塩ビは中国と米国の増強に挟まれ、価格を決められない。ヘルスケアの M&A が当たれば筆者の見立ては上に動く。外れれば、ためた資本の稼ぎはさらに薄くなる。
バリュー投資の観点から
オーナー利益、つまり事業を維持するための投資を引いた後に株主のものになる利益は、カネカでは薄い。研究開発費と設備投資が利益を食うためだ。
筆者はまず、10 年後もこの事業が残り、強くなっているかを問う。MS ポリマー、栄養、ヘルスケアは残る。塩ビは残るが、強くはならない。
次に、経営が資本をどう使うかを見る。政策保有株の縮減と自社株買いは、資本効率の意識が高まった証拠だ。ただ、過去 10 年の ROE が 6% 前後で止まっていることに変わりはない。会社が掲げる ROE10% は、営業利益を 2 倍に近づける約束で、筆者は半分ほどしか織り込まない。
最後に安全域である。資本コストを下回る事業にためた利益は、帳簿どおりの価値にならない。この会社の本質価値は、純資産ではなく、毎年の稼ぎで測る。稼ぎが回復する筋書きでも、10 年後の価値は今の値段に届かない。払う値段に余裕が無いというのが、筆者の見立てだ。
何で稼ぐ会社か
カネカの事業は 4 つのユニットに分かれる。売上の大きい順に、素材(約 4 割)、栄養(約 25%)、生活品質(約 24%)、健康(約 1 割)だ。
素材は塩化ビニル樹脂と苛性ソーダ、MS ポリマー(変成シリコーン。シーリング材や弾性接着剤の原料)、樹脂の改質剤からなる。塩ビは汎用品で、アジアの市況に利益が左右される。MS ポリマーは世界で初めて企業化した自社の技術で、住宅・建築向けが中心だ。国内関係会社にセメダインがあり、接着剤の川下まで手を伸ばしている。
栄養は食品油脂、酵母、還元型コエンザイム Q10 などを扱う。食品は景気に強く、利益が安定する。還元型 CoQ10 は、結晶化と粉体加工の技術で酸化しにくくした製品だ。会社は米国での拡販を成長の柱に置く。
生活品質は電子材料(ポリイミドなど)、発泡樹脂・断熱材、太陽電池を含む。ペロブスカイト太陽電池は国の基金で開発が進み、2028 年度に製品販売を計画する。
健康は医療機器とバイオ医薬の製造受託を担う。利益率が最も高く、会社は M&A で厚くする考えだ。全社の研究開発費は売上の約 5% あり、セグメント利益に載らず全社費用として残る。2026 年 3 月期はこの分が約 385 億円に達し、4 ユニットの利益 714 億円を連結の 329 億円まで押し下げた。
優良さと弱いところ
カネカの「質」は、事業ごとにまるで違う。
最も堀が深いのは MS ポリマーだ。自社が切り開いた技術で、顧客の配合に組み込まれると替えにくい。栄養の食品と還元型 CoQ10 も、品質と技術で値段を保てる。ヘルスケアは利益率が高く、規制と顧客の認証が参入を防ぐ。
堀が浅いのは塩ビと苛性ソーダだ。汎用品で、値段は市況が決める。2026 年 3 月期にこの分野が不振で、素材の利益は 2 割落ちた。
資本の使い方は、筆者がいちばん厳しく見る点だ。研究開発に売上の約 5% を使い続けるが、それが連結の利益率を押し上げるまでには至っていない。過去 10 年の営業利益率は 4〜7% の間で、ROE の中央値は 5.9% だ。資本コストを超えたことがほとんどない。
良い点もある。政策保有株を縮減し、売却益を還元と投資に回し始めた。自社株の消却も進める。借金は純負債が自己資本の 3 分の 1 で、営業利益の 8 倍が利払いに足りる。財務は傷んでいない。
オーナーとして持ち続けたいかと問われれば、事業の幅が広すぎて、稼ぎの質が見えにくい会社だ。成果が数字に出る前は、安全域を厚く取りたい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
カネカの 4 つの市場は、景気の位相がばらばらである。
塩ビは構造的な過剰の中にいる。中国が大規模に増設を続け、米国でも原料の増強投資が発表された。国内では、エチレン設備 12 基のうち 4 基を 2030 年頃までに止める計画が進み、2026 年 1 月には水島の停止方針も出た。日本の塩ビ樹脂は、輸出で稼ぐ力が弱い。カネカは 2012 年に鹿島の塩ビモノマーと電解の出資を引き揚げ、原料を隣の三菱ケミカルから買う形にした。上流の投資負担は軽いが、原料価格を交渉で決める力も弱い。
MS ポリマーは、住宅・建築のシーリング材や接着剤に使われる。2026 年は米国の住宅・建築需要が弱く、利益が重かった。ただし需要は景気の波で戻る。世界で初めて事業化した技術の優位は、すぐには崩れない。
栄養は、人口が減る国内の食品が横ばいで、成長は米国の還元型 CoQ10 が担う。中国の競合との特許訴訟が続く点に注意が要る。
生活品質は、AI やデータセンターの高周波ニーズでポリイミドが伸びる余地がある。太陽電池は、軽くて曲がるペロブスカイトが実用化できれば大きな新市場になる。ただし競合が多く、採算はまだ見えない。
健康は、バイオ医薬の市場が年 10% 超で伸びるという会社の見方が強気に過ぎないか、慎重に見る。確かなのは、高齢化で医療の需要は底堅いことだ。
資本政策と M&A
カネカの資本政策は、変わり始めたところだ。
還元は配当と自社株買いの両輪で、2026 年 3 月期の配当性向は約 32% だった。2028 年度までに 40% 以上へ引き上げる計画で、2027 年 3 月期の配当は大きく増える予想だ。2026 年 5 月には 70 億円を上限とする自社株買いを決めた。300 万株の消却も済ませている。
政策保有株は 2026 年度末までに約半分にする方針で、売却益が 2026 年 3 月期の純利益を押し上げた。これは一度きりの利益で、定常の稼ぎとは別に見る必要がある。
投資は、3 年で設備 2,100 億円、M&A 1,600 億円、合計 3,000 億円規模を見込み、6 割を成長分野に振る。M&A の中心はヘルスケアだ。筆者が気にするのは買収の値段である。成長市場の案件は高く、カネカは買収後に利益率を上げる力が試される。
TOB の対象になる可能性は、時価総額が 3,700 億円で、PBR が 1 倍を下回るため、完全には否定できない。ただし事業が多岐にわたり、買う側に相乗効果が見えにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、カネカが「素材の会社」から「健康と電子の会社」に変わるという筋書きだ。
素材の利益率は、2025 年 3 月期には 9% あった。2026 年は塩ビ市況と米国の住宅需要の弱さで 7.6% に落ちたが、一時的だ。景気が戻れば元に戻り、MS ポリマーの非塩ビ用途が増える。
栄養は、利益が 2022 年 3 月期の 51 億円から 2025 年 3 月期の 131 億円へ 2.5 倍になった。米国の還元型 CoQ10 が伸びれば、さらに積み上がる。ヘルスケアは 2 年で利益が約 15% 増え、バイオ医薬の M&A で規模が倍になりうる。
2027 年 3 月期の第 1 四半期は、営業利益が前年の 1.8 倍になった。会社計画の 2028 年度の営業利益 680 億円、ROE10% は、この延長にある。研究開発費の回収が始まれば、全社費用の 385 億円が相対的に軽くなる。
資本政策の変化も追い風だ。政策保有株の縮減、配当性向 40%、自社株買いで、資本の使い方が変わる。PBR が 1 倍に近づく計画も明記している。
さらにペロブスカイト太陽電池が事業化できれば、現在の予想に入っていない新しい利益の塊が現れる。
慎重な見方
慎重な見方は、過去が未来を語るというものだ。
カネカは過去 10 年、営業利益率が 4〜7% の間で上下し、ROE は中央値 5.9% だった。中期計画の度に高い目標を掲げてきたが、水準を変えるまでには至っていない。2028 年度の 680 億円は、2026 年 3 月期の 2 倍以上である。
塩ビは、中国の増設と米国の原料投資に挟まれ、価格を決める力がない。国内のエチレン再編は上流の整理にすぎず、塩ビの採算を直接は改善しない。素材の利益は 2025 年から 2026 年で 2 割落ちた。
ヘルスケアの M&A は、成長市場ゆえに高値掴みの危険がある。買収額 1,600 億円は、今の時価総額の 4 割強にあたる。失敗すれば、ためた資本の稼ぎはさらに落ちる。
研究開発費は売上の約 5% を使い続けるが、その成果は営業利益率に表れていない。ペロブスカイトは基金で支えられた開発段階で、採算は未知数だ。
2026 年 3 月期の純利益 310 億円は、政策保有株の売却益に支えられている。定常の稼ぎは、営業利益 329 億円の 6 割強、つまり 200 億円前後とみるべきだ。
どちらに重みを置いたか
強気の見方に根拠はあるが、10 年という長さでは慎重な見方が重い。会社が掲げる ROE10% は、過去 10 年に一度も届いたことのない水準だからだ。中立より悲観側に重みを置いたのは、塩ビの構造と M&A の失敗という、外れた時の傷が深いためである。一方、栄養とヘルスケアの安定した稼ぎ、政策保有株の縮減と還元の強化という強気の材料も本物だ。これは楽観側の確率に反映した。結論は、事業は悪くないが、10 年後の稼ぎに比べて、今の値段は先を見すぎているという見立てだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,290 円4,374 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,097 円1,258 億円)。 今の値に割り戻すと 4,998 円2,999 億円、今との差 −17.5%、 期待の年率 +4.5%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 15,898 円9,538 億円 | 3,603 円2,162 億円 | +221.9% | +12.4% | 1,560 円936 億円 |
| やや楽観 | 20% | 11,286 円6,772 億円 | 2,828 円1,697 億円 | +133.0% | +8.8% | 2,823 円1,694 億円 |
| 中立 | 34% | 8,109 円4,865 億円 | 2,217 円1,330 億円 | +70.5% | +5.5% | 3,511 円2,106 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,900 円1,740 億円 | 1,773 円1,064 億円 | −22.9% | −2.6% | 1,168 円701 億円 |
| 悲観 | 13% | 2,144 円1,287 億円 | 357 円214 億円 | −58.7% | −8.5% | 325 円195 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,290 円4,374 億円 | 2,097 円1,258 億円 | +55.0% | +4.5% | 9,387 円5,632 億円 |
今の株価時価総額 6,058 円3,635 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 会社計画が実現し、健康と電子が稼ぎを引っ張る 利益 661 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 15,898 円9,538 億円
素材は景気の回復と非塩ビ用途の拡大で、MS ポリマーが利益の柱になる。塩ビは縮小しつつ採算を保つ。栄養は米国の還元型 CoQ10 が定着し、乳酸菌の内製化で食品も高付加価値に移る。生活品質はポリイミドが AI 向けで伸び、ペロブスカイト太陽電池が 2030 年代前半に黒字事業になる。健康は M&A が複数当たり、バイオ医薬の製造受託と医療機器が全社の利益の 4 分の 1 を超える。全社の営業利益率は 9% に近づき、ROE は資本コストを上回る。政策保有株の縮減と自社株買いで資本の効率も上がる。会社の計画がほぼそのまま実現し、その先も続く姿だ。
- 素材(塩ビ・苛性ソーダ・MS ポリマー・改質剤):数量 108(素材の販売重量(万トン。塩ビ・苛性ソーダ・樹脂・MS ポリマーの推定合計。実質))× 価格 40(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 4,370 億円・営業利益 437 億円。利益率 10.0%
- 栄養(食品油脂・酵母・還元型 CoQ10):数量 52.0(栄養の販売重量(万トン。食品油脂・酵母・機能食品素材の推定合計。実質))× 価格 63(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 3,285 億円・営業利益 328 億円。利益率 10.0%
- 生活品質(電子材料・発泡樹脂・太陽電池):数量 34.0(生活品質の販売重量(万トン。電子材料・発泡樹脂・断熱材などの推定合計。実質))× 価格 104(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 3,541 億円・営業利益 460 億円。利益率 13.0%
- 健康(医療機器・バイオ医薬の製造受託):数量 600(対象市場の実質規模(億ドル。バイオ医薬の製造受託・医療機器。2026 年の物価で))× 価格 2.5%(カネカの取り分(シェア。ドル建て名目、150 円/ドルで億円に))→ 売上 2,231 億円・営業利益 424 億円。利益率 19.0%
倍率:事業の純利益 661 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.43 倍、時価総額 9,538 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社計画(FY28 営業利益 680 億円・ROE10%)が実現し、さらにペロブスカイトも立ち上がる必要がある。過去 10 年の ROE は 4〜7% にとどまるため、確率は低く置く。
やや楽観 20% 計画に近づくが、ROE は資本コストに届かない 利益 508 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 11,286 円6,772 億円
会社計画の ROE10% には届かないが、計画の 8 割を超えて進む。ヘルスケアの M&A は 1 件が当たり、他は並みの成果にとどまる。栄養は CoQ10 の米国拡販が続き、利益率が 9% 近くまで上がる。素材は塩ビの採算が戻り、MS ポリマーの比率が高まる。ペロブスカイトは小さな事業にとどまるが、赤字は解消する。研究開発費の回収が遅れ、全社費用は売上と同じ速さで増える。営業利益は 800 億円台に乗り、ROE は 7% 前後、資本コストにわずかに届かない。資本政策の変化は進み、配当性向は 40% を超えて維持される。
- 素材(塩ビ・苛性ソーダ・MS ポリマー・改質剤):数量 106(素材の販売重量(万トン。塩ビ・苛性ソーダ・樹脂・MS ポリマーの推定合計。実質))× 価格 40(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 4,226 億円・営業利益 380 億円。利益率 9.0%
- 栄養(食品油脂・酵母・還元型 CoQ10):数量 50.0(栄養の販売重量(万トン。食品油脂・酵母・機能食品素材の推定合計。実質))× 価格 62(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 3,113 億円・営業利益 271 億円。利益率 8.7%
- 生活品質(電子材料・発泡樹脂・太陽電池):数量 31.5(生活品質の販売重量(万トン。電子材料・発泡樹脂・断熱材などの推定合計。実質))× 価格 103(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 3,232 億円・営業利益 381 億円。利益率 11.8%
- 健康(医療機器・バイオ医薬の製造受託):数量 560(対象市場の実質規模(億ドル。バイオ医薬の製造受託・医療機器。2026 年の物価で))× 価格 2.3%(カネカの取り分(シェア。ドル建て名目、150 円/ドルで億円に))→ 売上 1,970 億円・営業利益 351 億円。利益率 17.8%
倍率:事業の純利益 508 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.9% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 6,772 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:栄養とヘルスケアの安定した稼ぎ、資本政策の変化で、計画に近づく筋書き。強気の材料はそろうが、実現には M&A の成功が要る。
中立 34% 中立:各ユニットが今の延長で進み、資本の稼ぎは k を下回る 利益 365 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 8,109 円4,865 億円
4 つのユニットが、それぞれ今の延長で進む。素材は塩ビの比率が下がり、MS ポリマーなど非塩ビ用途が伸びるが、数量は全体で 5% 減る。価格は物価より少し弱く上がる。栄養は米国の CoQ10 で数量が伸び、利益率は 7.5% 前後に定着する。生活品質はポリイミドと断熱で堅く、太陽電池は事業化するが小さい。健康は M&A が並みの成果で、利益率はやや下がる。全社費用は売上とともに増え、営業利益は 630 億円前後になる。会社計画の 680 億円には届かないが、今の 2 倍に近い。ROE は 5% 台にとどまり、資本コストを下回る。
- 素材(塩ビ・苛性ソーダ・MS ポリマー・改質剤):数量 104(素材の販売重量(万トン。塩ビ・苛性ソーダ・樹脂・MS ポリマーの推定合計。実質))× 価格 39(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 4,084 億円・営業利益 319 億円。利益率 7.8%
- 栄養(食品油脂・酵母・還元型 CoQ10):数量 48.0(栄養の販売重量(万トン。食品油脂・酵母・機能食品素材の推定合計。実質))× 価格 61(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 2,945 億円・営業利益 221 億円。利益率 7.5%
- 生活品質(電子材料・発泡樹脂・太陽電池):数量 29.0(生活品質の販売重量(万トン。電子材料・発泡樹脂・断熱材などの推定合計。実質))× 価格 101(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 2,930 億円・営業利益 308 億円。利益率 10.5%
- 健康(医療機器・バイオ医薬の製造受託):数量 520(対象市場の実質規模(億ドル。バイオ医薬の製造受託・医療機器。2026 年の物価で))× 価格 2.2%(カネカの取り分(シェア。ドル建て名目、150 円/ドルで億円に))→ 売上 1,725 億円・営業利益 285 億円。利益率 16.5%
倍率:事業の純利益 365 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.2% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 4,865 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:各ユニットが今の延長で進み、会社計画には届かない筋書き。過去の実績と業種ノートの中立の見通し(コモディティの低成長・機能材シフトの部分的成功)に最も近い。
やや悲観 25% 塩ビ低迷が長引き、M&A も並み以下 利益 232 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 2,900 円1,740 億円
塩ビは中国の増設と米国の原料投資で、市況が低位のまま続く。素材の利益率は 7% にとどまり、MS ポリマーの伸びでも埋められない。ヘルスケアの M&A は高値で買ったため、利益率が思ったほど上がらない。栄養は中国の競合と特許訴訟に悩まされ、CoQ10 の拡販が鈍る。生活品質はポリイミドの価格が下がり、太陽電池は事業化に時間がかかる。営業利益は 400 億円前後と、今から少し増える程度。ROE は 3% 台にとどまり、ためた利益は帳簿どおりの価値にならない。会社が掲げる 10% の ROE は夢に終わる。
- 素材(塩ビ・苛性ソーダ・MS ポリマー・改質剤):数量 100(素材の販売重量(万トン。塩ビ・苛性ソーダ・樹脂・MS ポリマーの推定合計。実質))× 価格 38(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 3,808 億円・営業利益 267 億円。利益率 7.0%
- 栄養(食品油脂・酵母・還元型 CoQ10):数量 47.0(栄養の販売重量(万トン。食品油脂・酵母・機能食品素材の推定合計。実質))× 価格 60(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 2,840 億円・営業利益 199 億円。利益率 7.0%
- 生活品質(電子材料・発泡樹脂・太陽電池):数量 27.5(生活品質の販売重量(万トン。電子材料・発泡樹脂・断熱材などの推定合計。実質))× 価格 97(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 2,672 億円・営業利益 240 億円。利益率 9.0%
- 健康(医療機器・バイオ医薬の製造受託):数量 460(対象市場の実質規模(億ドル。バイオ医薬の製造受託・医療機器。2026 年の物価で))× 価格 2.0%(カネカの取り分(シェア。ドル建て名目、150 円/ドルで億円に))→ 売上 1,412 億円・営業利益 212 億円。利益率 15.0%
倍率:事業の ROE 3.5% が k 7.5% を大きく下回る。RONIC = 8.25% + 1/2 ×(3.5 − 8.25)= 5.89%、g 4%。正当化 PER = (1 − 4÷5.89)÷(8.25 − 4)= 7.5 倍。構造的な負けの筋書きなので引き上げず式のままの 7.5 倍に置く。
確率:塩ビの低迷が長く、M&A の成果が並以下に終わる筋書き。過去 10 年の ROE 低迷の延長線上にあり、慎重な見方が強いため中立に近い重さを置く。
悲観 13% 塩ビの不採算化と減損が重なる 利益 −86 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 2,144 円1,287 億円
中国と米国の増強で塩ビは赤字が定着し、素材は構造的な不採算事業に変わる。ヘルスケアの M&A は買収額が重く、のれんの減損で 700 億円の損失を出す。栄養は CoQ10 の特許紛争で優位を失い、食品も値上げが難しい。生活品質は新しい用途が育たず、研究開発費だけが残る。全社の営業利益は赤字に近づき、配当を減らす。会社は事業の入れ替えに追われ、経営への信頼が揺らぐ。塩ビの赤字は国内の設備停止でも止まらず、撤退の費用までかかる。赤字の年が続くので、配当は純利益でなく内部留保の取り崩し、つまり資産の売却で、細らせながら払う(払う214億円は下の売れる資産から引き、二重には数えない)。株の価値は稼ぐ力ではなく、売れる資産の価値で測る局面になる。
- 素材(塩ビ・苛性ソーダ・MS ポリマー・改質剤):数量 85.0(素材の販売重量(万トン。塩ビ・苛性ソーダ・樹脂・MS ポリマーの推定合計。実質))× 価格 34(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 2,908 億円・営業利益 73 億円。利益率 2.5%
- 栄養(食品油脂・酵母・還元型 CoQ10):数量 42.0(栄養の販売重量(万トン。食品油脂・酵母・機能食品素材の推定合計。実質))× 価格 55(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 2,307 億円・営業利益 104 億円。利益率 4.5%
- 生活品質(電子材料・発泡樹脂・太陽電池):数量 22.0(生活品質の販売重量(万トン。電子材料・発泡樹脂・断熱材などの推定合計。実質))× 価格 86(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 1,881 億円・営業利益 94 億円。利益率 5.0%
- 健康(医療機器・バイオ医薬の製造受託):数量 380(対象市場の実質規模(億ドル。バイオ医薬の製造受託・医療機器。2026 年の物価で))× 価格 1.6%(カネカの取り分(シェア。ドル建て名目、150 円/ドルで億円に))→ 売上 889 億円・営業利益 71 億円。利益率 8.0%
倍率:赤字で稼ぐ力では値が付かない。売れる資産の税後 1,500 億円(今の自己資本 4,987 億円の約 3 割)から、取り崩し(売却)で払う配当 214 億円を引いた 1,286 億円を、今の自己資本 4,987 億円で割った(PBR 0.26)。
確率:塩ビの不採算化、M&A の減損、CoQ10 の優位喪失が重なる複合の筋書き。会社の財務は健全なので、確率は 1 割強にとどめる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
素材(塩ビ・苛性ソーダ・MS ポリマー・改質剤)
塩ビ・苛性ソーダの汎用品と、世界で初めて事業化した MS ポリマー、樹脂改質剤。
| 数量素材の販売重量(万トン。塩ビ・苛性ソーダ・樹脂・MS ポリマーの推定合計。実質) | 価格1 トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 110 | 30 | 3,272 | 249 |
| 10 年後 中立 | 104 | 39 | 4,084 | 319 |
取り方:素材の売上 3,272 億円を、推定販売量 約 110 万トンで割った単価。塩ビ・苛性ソーダの汎用品と MS ポリマーの混合で、トン数は開示が無く推定。
栄養(食品油脂・酵母・還元型 CoQ10)
食品油脂・酵母と、結晶化技術で酸化しにくくした還元型コエンザイム Q10。
| 数量栄養の販売重量(万トン。食品油脂・酵母・機能食品素材の推定合計。実質) | 価格1 トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 45.0 | 46 | 2,060 | 137 |
| 10 年後 中立 | 48.0 | 61 | 2,945 | 221 |
取り方:栄養の売上 2,060 億円を、食品油脂・酵母などの推定販売量 約 45 万トンで割った単価。トン数は開示が無く推定。
生活品質(電子材料・発泡樹脂・太陽電池)
ポリイミドなどの電子材料、発泡樹脂・断熱材、ペロブスカイト太陽電池。
| 数量生活品質の販売重量(万トン。電子材料・発泡樹脂・断熱材などの推定合計。実質) | 価格1 トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.0 | 78 | 1,943 | 180 |
| 10 年後 中立 | 29.0 | 101 | 2,930 | 308 |
取り方:生活品質の売上 1,943 億円を、推定販売量 約 25 万トンで割った単価。電子材料や断熱材は単価が高い。トン数は推定。
健康(医療機器・バイオ医薬の製造受託)
医療機器とバイオ医薬の製造受託。利益率が最も高い。
| 数量対象市場の実質規模(億ドル。バイオ医薬の製造受託・医療機器。2026 年の物価で) | 価格カネカの取り分(シェア。ドル建て名目、150 円/ドルで億円に) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 350 | 1.6% | 830 | 148 |
| 10 年後 中立 | 520 | 2.2% | 1,725 | 285 |
取り方:健康の売上 830 億円を、バイオ医薬の製造受託と医療機器の対象市場 約 350 億ドル(推定)× シェア 約 1.6% で積んだ。市場規模は 2026 年の物価の実質値なので、数量は実質。価格欄は取り分(シェア × 物価)で、名目の市場の伸びを数量に置いてはいない。
リスクと懸念
塩ビ・苛性ソーダの構造的な不採算
中国の増設と米国の原料投資で、汎用の塩ビは長く供給過剰が続く。カネカは価格を決める力がなく、国内の設備再編も採算を直接は改善しない。素材の利益は 2026 年 3 月期に 2 割落ちた。非塩ビ用途への移行が遅れれば、全社の利益率の足を引き続ける。
ヘルスケア M&A の高値掴み
会社は 3 年で M&A に 1,600 億円を使う計画で、中心はバイオ医薬などのヘルスケアだ。成長市場の案件は高く、買収後に利益率を上げられなければ、資本の稼ぎがさらに薄まる。減損になれば、自己資本と配当の余力が削られる。
全社の研究開発費が稼ぎにつながらない
研究開発費は売上の約 5% あり、セグメント利益に載らず全社費用として残る。2026 年 3 月期は約 385 億円で、4 ユニットの利益 714 億円を半分近く食った。ペロブスカイトなどの新事業が採算に乗らなければ、投資の重さだけが残る。
還元型 CoQ10 の特許紛争
米国での拡販が成長の柱だが、中国の競合などと特許訴訟が続いている(有価証券報告書の要約による)。敗訴や和解条件の悪化で、米国の優位が揺らぐ可能性がある。結果の時期と影響額は読みにくい。
米国の住宅・建築需要の低迷
MS ポリマーは、米国の住宅・建築向けのシーリング材などに多く使われる。2026 年 3 月期は米国の需要が弱く、素材の利益を押し下げた。金利が高止まりすれば、回復がずれ込み、堀の深い事業の利益が一時的に弱く見える。
経営計画の未達が続くこと
過去 10 年の ROE は 4〜7% で、中期計画の目標に水準が届いてこなかった。2028 年度の営業利益 680 億円は、2026 年 3 月期の 2 倍以上である。再び未達なら、資本政策の変化を織り込んだ評価も崩れうる。
今後の分かれ目
- 2028 年度の営業利益が 600 億円を超える勢いで進み、ROE が 8% に近づいたら
- 楽観・やや楽観に確率を移す。資本の稼ぎが資本コストに届く目処が立ち、倍率の前提も上がる。
- ヘルスケアで 1,000 億円規模の M&A が決まったら
- 買収額と買収後の利益率目標を確認する。割安なら やや楽観、高値ならやや悲観に寄せる。
- 塩ビの事業売却や設備停止が具体的に決まったら
- 素材の利益率の下振れが減り、悲観の確率を下げる。損失処理は一度きりで、筋書きは改善とみる。
- 還元型 CoQ10 の特許訴訟で不利な判決が出たら
- 栄養の成長前提を下げ、やや悲観側に確率を寄せる。
- ペロブスカイト太陽電池の製品販売が 2028 年度に始まり、採算が見えてきたら
- 生活品質の利益率を上方修正し、楽観側の確率を上げる。
- 政策保有株の縮減が計画を超えて進み、自社株買いが拡大したら
- 資本の効率が上がる証拠で、中立の ROE の前提を引き上げる。
見ておくもの
- 素材(塩ビ・MS ポリマー)の四半期の利益率
- ヘルスケアの M&A の発表と買収額
- 全社費用(研究開発費など)と営業利益の差
- 還元型 CoQ10 の米国の売上と特許訴訟の行方
- ペロブスカイト太陽電池の製品化の進み具合
- 2028 年度の営業利益 680 億円・ROE10% の進捗
- 政策保有株の売却と自社株買いの実績
倍率と資本コストの決め方
数量は実質、価格は物価 3% 込みの名目で、4 ユニットごとに積んだ。倍率は式(正当化 PER)だけで置き、今の株価・過去の PER・同業の倍率は見ていない。結果は割高と出たが、その原因は ROE が資本コストを下回ることにあり、株価に合わせて直していない。会社計画の ROE10% は楽観側の入り口に置いた。2026 年 3 月期の純利益は政策保有株の売却益を含むため、基準にしていない。新リース会計基準の影響は、今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.8→14.43 倍・やや楽観 PER 10→13.33 倍・中立 PER 8.6→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% + quality 0.75%。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.50%。