結論
コーセーは、コスメデコルテと雪肌精を持つ国内化粧品の大手だ。米国のメイクアップブランド tarte を持ち、北米にも柱を築いた。2026 年 1 月に持株会社体制へ移り、3 月には創業家以外から初めて社長が出た。
筆者の結論は、今の値段は稼ぐ力に比べて高いというものだ。売上は 3,300 億円あるのに、営業利益率は 5% 台にとどまる。2020 年に掲げた「利益率 16%・ROE 15%」の目標には、まだ遠い。
会社の強みは、ブランドの数と、売上の 3 割近い純現金だ。コスメデコルテは 3 期連続で過去最高の売上を出し、北米では tarte が Sephora と TikTok で出荷の記録を更新した。
弱みは、稼いだお金を株主に返す力が細いことだ。国内は人口が減り、アルビオンは免税の落ち込み、コスメポートは競争で苦しむ。2026 年の上期は営業利益が 4 割減った。
現金は厚いが、帳簿のうち約 600 億円は事業に要らない分と見る。それでも戻り方は半分しか数えない。純現金は増えてきたのに、自社株買いは 2026 年に初めて 30 億円が出た段階だからだ。
十年後の中立は、営業利益率 8% 台、ROE 8% 前後だ。資本コストを下回るので、倍率は上がらない。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額を大きく下回る。悲観の床は固いが、そこまで下がる確率は 1 割強だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、この会社は「良いブランドを持つが、良い稼ぎ手ではない」。
ブランドは育った。コスメデコルテは 3 期連続で最高売上、tarte は北米で記録を更新している。十年後も事業は残る。
ただし、稼いだ利益のうち株主が自由に使える分は少ない。営業利益率は 5% 台、ROE も 5% 前後で、資本コストを下回る。ためた現金は、事業が必要としない分が約 600 億円ある。しかし戻し方に実績が乏しい。
経営の資本配分は保守的だが、tarte の買収のように大きな買い物をした経験もある。のれんの重さは忘れてはいけない。
安全域の面では、悲観の床が固い。純現金と有価証券で、時価総額の 4 割強が支えられる。ただし今の値段は、稼ぐ力に比べて高い。
筆者なら、この会社を持ち続けたいとは言いにくい。ブランドの数に比べて、一つ一つの稼ぐ力が弱いからだ。安く買える水準まで待つ会社と見る。
何で稼ぐ会社か
コーセーの稼ぎは四つに分かれる。コーセー事業、アルビオン事業、タルト事業、コスメポート事業だ。
コーセー事業は中核で、売上の半分ほどを占める。コスメデコルテ、雪肌精、プレステージ(高級)ブランドを、国内の百貨店・専門店と、アジア・北米の免税店・ネット・小売で売る。コスメデコルテは 3 期連続で過去最高の売上を出した。タイのパンピューリも傘下に入り、アジアでの足がかりになっている。
アルビオンは、百貨店と専門店に絞って売る高級ブランドだ。価格を守る販売のやり方が強みだが、いまは国内免税の落ち込みで減収減益が続く。
タルトは、2014 年に買収した米国のメイクアップブランドだ。Sephora と SNS で伸び、北米売上のほとんどを担う。2026 年上期は Sephora での販売拡大と TikTok の効果で、店頭の消化も出荷も過去最高を更新した。
コスメポートは、ドラッグストアや量販店向けのコスメタリーを売る。クリアターンやソフティモが主力で、日常使いの安い商品が中心だ。競争が厳しく、上期は営業利益が 6 割減った。
地域では、日本が売上の約 6 割、北米が約 2 割、アジアが約 1 割半を占める。国内が弱く、海外が伸びる構図だ。
優良さと弱いところ
ブランドの数は多いが、利益を生む力は強くない。筆者が気にしているのは、この点だ。
コスメデコルテと雪肌精には、国内の百貨店と、アジアの高価格帯での確かな地位がある。値引き競争から計画的に離れ、ブランドの値打ちを守る姿勢も続いている。
それでも営業利益率は 5% 台で、高級化粧品の会社としては低い。主な原因は二つある。一つは販売員と販促にかかる費用が重いこと。もう一つは、アルビオンと tarte の利益が波に洗われてきたことだ。2025 年の営業利益は計画を 7.7% 下回った。原価率の上昇も響いた。
資本の使い方は保守的だ。自己資本比率は 72% と厚く、純現金も 900 億円ある。安全だが、ROE は 5% 台と資本コストを大きく下回る。
経営は創業家が長く握ってきた。2026 年に持株会社になり、創業家以外から初めて社長が出た。変化の兆しだが、まだ実績はない。
堀は並みと見る。ブランドは育っているが、利益率に表れる強さはまだない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の化粧品市場は伸びるが、コーセーの稼ぎ場所は伸びる所と細る所に分かれる。
国内は人口が減り、数量は横ばいから微減だ。訪日客の消費が支えるものの、日中関係の悪化でインバウンドは揺れた。2025 年にはその影響で計画に届かなかった。
中国は免税店の回復が見え始めた。2026 年上期、アジア売上は海南島の免税需要の回復で 24% 増えた。ただし中国本土では現地ブランドが強く、日系は高価格帯に絞る戦いが続く。
北米は、SNS で伸びる新興メイクアップブランドとの競争が激しい。Sephora の棚は有限で、tarte の位置は流行で入れ替わる。ここは伸びる市場だが、安泰ではない。
国内の競合は、資生堂、花王(カネボウ)、ポーラ・オルビスなど。海外勢はロレアルやエスティローダーだ。ドラッグストア向けでは、花王やライオンなど日用品大手も競う。
コスメポートは値上げが通りにくい領域だ。クリアターンは上期に市場の競争激化で減収となった。コーセーにとっては、利益を削る部門になっている。
分かれ目は、免税とインバウンドの持続性、tarte の北米での位置、国内の値上げの浸透度だ。
資本政策と M&A
資本政策は守りが中心だ。配当は増配が続き、配当性向は 5 割を超える。自社株買いは長く行われず、2026 年 2 月に上限 30 億円を初めて発表した。
純現金は 900 億円、自己資本比率は 72% と厚い。ただしこの現金が資本効率に響いている。過去 5 年、純現金は積み上がり、ROE は 5% 前後にとどまった。
M&A は tarte の買収(2014 年)が大きな成果だ。ただし買収後、のれんの重さと利益の波が課題になった。
2026 年 1 月に持株会社体制へ移り、3 月から創業家以外の社長が就いた。資本配分の考え方が変わるかどうかが、次の評価の分かれ目になる。
TOB や再編の可能性は、確かな材料がない。外部の推計では十年以内の買収の確率は約 14% とされる。
【実行済み分の扱い】2026 年 2 月発表の上限 30 億円の自社株買い(実行分は株数に反映ずみ)は 10 年の還元には入れていない(還元は配当性向 5 割超の配当の範囲で、自社株買いを別に積んでいない)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
コスメデコルテと雪肌精は、中国・アジアの高価格帯で確かなブランドになった。コスメデコルテは 3 期連続で最高売上を出している。中国の免税需要が戻れば、利益率の回復は速い。
tarte は北米の Sephora と TikTok で出荷が過去最高だ。メイクアップは SNS で伸びる市場で、tarte は先行者としてその波に乗っている。北米が柱になれば、コーセーは国内の人口減から抜け出せる。
VISION2026 は、利益率 16% を掲げた。2018 年にはそれに近い利益率が出ていた。いまの 5% 台は、免税の落ち込みや構造改革の費用を含む谷だ。
現金も厚い。純現金 900 億円が、投資の余力になる。持株会社になり、新しい社長が資本配分を変えれば、ROE の改善余地は大きい。
自社株買いも始まった。30 億円は小さいが、方針が変わる合図になりうる。国内の人口減は事実でも、海外の数量が全体を押し上げる。十年で営業利益が 2 倍以上になる姿は、十分に描ける。
慎重な見方
利益率が 5% 台に沈んでいるのは、一時の谷ではなく、構造の結果だ。2020 年の「利益率 16%」の目標は、六年たっても遠いままだ。原価率の上昇と販売費の重さは、簡単には変わらない。
国内は人口が減る。アルビオンは国内免税の落ち込みで減益が続き、コスメポートはクリアターンの競争で営業利益が 6 割減った。2026 年上期の営業利益は 4 割減で、再建の道筋はまだ見えない。
tarte は SNS で伸びたブランドだ。流行は変わりやすく、新興ブランドが次々に出る。買収時の期待を保てるかは、わからない。
中国は、現地ブランドの台頭が進む。日系の高価格帯でさえ、いつまで通用するかは疑わしい。
現金が厚いことは、強みではなく、使い道がない証拠でもある。純現金は積み上がったのに、ROE は 5% にとどまっている。自社株買いの 30 億円は、時価総額の 1% にも満たない。
創業家主導の経営は、変化が遅い。持株会社化も、形が変わっただけで、中身が変わった証拠はまだない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが、数字の裏づけが強い。利益率の改善は 6 年続けて実現しておらず、2026 年上期にはさらに悪化した。現金は厚いが、戻し方に実績が乏しい。
強気の見方の中で最も根拠が強いのは tarte の北米での伸びだ。この部分は筋書きに生かし、中立でも北米の個数を今の 3 割増に置いた。
その上で、確率は中立に 34%、やや悲観に 23% と、悲観側に厚めに置いた。楽観は 10% にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 8,880 円5,039 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,056 円1,167 億円)。 今の値に割り戻すと 5,859 円3,325 億円、今との差 −0.5%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 19,309 円1.10 兆円 | 2,996 円1,700 億円 | +278.6% | +14.2% | 2,230 円1,266 億円 |
| やや楽観 | 21% | 13,363 円7,584 億円 | 2,423 円1,375 億円 | +168.0% | +10.4% | 3,315 円1,881 億円 |
| 中立 | 34% | 8,819 円5,005 億円 | 2,026 円1,150 億円 | +84.1% | +6.3% | 3,688 円2,093 億円 |
| やや悲観 | 23% | 3,589 円2,037 億円 | 1,833 円1,040 億円 | −8.0% | −0.8% | 1,247 円708 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,654 円1,506 億円 | 1,145 円650 億円 | −35.5% | −4.3% | 456 円259 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,880 円5,039 億円 | 2,056 円1,167 億円 | +85.6% | +6.4% | 10,936 円6,206 億円 |
今の株価時価総額 5,891 円3,343 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 10% 北米と中国で二つの柱が立ち、利益率が戻る 利益 555 億円 · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 19,309 円1.10 兆円
2036 年までに tarte は北米のメイクアップで確かな地位を築き、北米がコーセーの利益を引っ張る。Sephora での棚と TikTok を使った発信が定着し、ブランドは流行で終わらない。
コスメデコルテと雪肌精は中国・アジアの高価格帯で伸び、コーセー事業の営業利益率は 15% に乗る。アルビオンも国内免税の落ち込みから抜け、百貨店の高級ブランドの値付け力を取り戻す。
コスメポートは値上げが通り、クリアターンの競争を乗り切る。全社の営業利益率は 12% 台、純利益は今の 4 倍以上になる。
自己資本の厚い会社なので、利益が増えても還元が追いつけば ROE は 13% 前後で止まる。それでも、2018 年の 16% に近い収益力が戻ることになる。
- コーセー事業(コスメデコルテ・雪肌精ほか):数量 1.1(出荷した化粧品・スキンケアの個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,800(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 3,080 億円・営業利益 462 億円。営業利益率 15%
- アルビオン事業:数量 0.2(出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,700(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 594 億円・営業利益 83 億円。営業利益率 14%
- タルト事業(北米):数量 0.5(出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 3,100(1個あたりの平均出荷単価(円、名目。1 ドル 150 円換算))→ 売上 1,395 億円・営業利益 181 億円。営業利益率 13%
- コーセーコスメポート事業:数量 1.6(出荷した商品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 560(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 896 億円・営業利益 72 億円。営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 547 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)600 億円。全体の PER 18.95 倍、時価総額 10,958 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:十年のあいだ tarte が北米で伸び続け、中国免税とアジアも戻り、国内の値崩れも起きない、という好転がそろう必要がある。VISION2026 の利益率 16% も届かなかった実績があり、重ねて当たる確率は低い。
やや楽観 21% 北米は伸びるが、国内の利益は戻りきらない 利益 410 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 13,363 円7,584 億円
tarte は北米で伸び、全体の稼ぎ頭になる。コスメデコルテは 3 期連続で過去最高を更新した勢いを保ち、雪肌精もアジアと北米で出荷を増やす。
一方、アルビオンは国内免税が戻り切らず、利益率は 11% で止まる。コスメポートは競争を押し返すが、原価の上昇を値上げで吸収しきれない年が続く。
全社の営業利益率は 10% 台に乗り、純利益は今の 3 倍強。2020 年に掲げた「売上 5,000 億円・利益率 16%」には届かないが、会社は北米という新しい稼ぎの柱を手に入れる。
この筋書きでは、国内の化粧品が人口減で伸びなくても、海外の数量が全体を押し上げる。
- コーセー事業(コスメデコルテ・雪肌精ほか):数量 1.0(出荷した化粧品・スキンケアの個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,740(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 2,795 億円・営業利益 363 億円。営業利益率 13%
- アルビオン事業:数量 0.2(出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,640(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 528 億円・営業利益 58 億円。営業利益率 11%
- タルト事業(北米):数量 0.4(出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 3,060(1個あたりの平均出荷単価(円、名目。1 ドル 150 円換算))→ 売上 1,163 億円・営業利益 116 億円。営業利益率 10%
- コーセーコスメポート事業:数量 1.5(出荷した商品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 540(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 821 億円・営業利益 58 億円。営業利益率 7%
倍率:事業の純利益 402 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)600 億円。全体の PER 17.39 倍、時価総額 7,584 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:tarte の成長と中国免税の回復は十分ありうる。ただしアルビオンとコスメポートが同時に立ち直るには、国内の競争と免税の逆風が収まる必要があり、半分程度の好転にとどまる姿を厚めに置いた。
中立 34% 中立:北米は育つが、国内は人口減で利益率は 8% 台どまり 利益 295 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 8,819 円5,005 億円
十年後も、コーセーは国内の化粧品大手で、北米にもう一つの柱を持つ会社になっている。ただし利益率は 8% 台どまりと筆者は見る。
国内は人口が減り、コスメデコルテや雪肌精の個数は横ばいに近い。伸びを担うのは北米の tarte とアジアで、個数は今の 3 割ほど増える。価格は物価並みに上がる。
アルビオンは免税の波が戻り切らずに低めの利益率が続き、コスメポートはドラッグストアでの競争と原価の上昇で薄い利益のままだ。
本社費も重く、全社の営業利益は今の 2 倍強にとどまる。それでも自己資本が厚いので、財務は揺れない。売上は今の 1.5 倍ほどに増えるが、利益率が上がらない限り、株主の取り分は薄いままだ。
- コーセー事業(コスメデコルテ・雪肌精ほか):数量 1.0(出荷した化粧品・スキンケアの個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,720(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 2,584 億円・営業利益 284 億円。営業利益率 11%
- アルビオン事業:数量 0.2(出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,613(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 496 億円・営業利益 40 億円。営業利益率 8%
- タルト事業(北米):数量 0.3(出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 3,042(1個あたりの平均出荷単価(円、名目。1 ドル 150 円換算))→ 売上 1,034 億円・営業利益 72 億円。営業利益率 7%
- コーセーコスメポート事業:数量 1.5(出荷した商品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 537(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 806 億円・営業利益 48 億円。営業利益率 6%
倍率:事業の純利益 287 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)600 億円。全体の PER 15.37 倍、時価総額 5,005 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の人口減と免税の波は構造として残り、tarte と中国は伸びる、という中心の見方。強気と慎重の言い分の落としどころとして最も多く当てはまる姿に最大の確率を置いた。
やや悲観 23% 国内の値崩れと中国の失速が重なり、利益率は今の水準にとどまる 利益 165 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 3,589 円2,037 億円
国内は人口減に加えて、クリアターンのような主力品の競争で値上げが通らず、個数が落ちる。アルビオンは国内免税の縮小が続き、営業利益率は 5% まで下がる。
tarte は北米で新興ブランドとの競争に押され、個数の伸びが止まる。中国のコスメデコルテも現地ブランドとの競争で伸びを失う。
全社の営業利益率は今の水準 5% 台のまま十年を過ごす。ブランドの価値は残るが、その利益を株主へ戻す力は細い。
自己資本は積み上がるが、事業で稼ぐ力は上がらない。ROE は 5% 前後にとどまり、資本コストを下回る。
そのため株主は、利益の増加でなく、現金と配当に頼ることになる。倍率も上がらず、市場は「ブランドはあるが稼げない会社」として扱い続ける。
- コーセー事業(コスメデコルテ・雪肌精ほか):数量 0.9(出荷した化粧品・スキンケアの個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,600(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 2,340 億円・営業利益 176 億円。営業利益率 7.5%
- アルビオン事業:数量 0.2(出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,500(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 400 億円・営業利益 20 億円。営業利益率 5%
- タルト事業(北米):数量 0.3(出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,900(1個あたりの平均出荷単価(円、名目。1 ドル 150 円換算))→ 売上 812 億円・営業利益 32 億円。営業利益率 4%
- コーセーコスメポート事業:数量 1.4(出荷した商品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 500(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 700 億円・営業利益 28 億円。営業利益率 4%
倍率:ROE 4.9%は k 7.25%を下回り、ためた利益は帳簿より低い価値になるので、PER の上限は 1÷k=12.5 倍。やや悲観は構造の悪化を織り込み、その 8 割の 10 倍に置いた(7 割へ引き上げない)。
確率:国内の競争激化と免税の細りは、すでに 2026 年上期の減益として表れている。tarte の成長も止まりやすく、十年のあいだに一度は大きな谷が来る可能性が高いと見て、この筋書きに厚めに置いた。
悲観 12% 北米も中国も失速し、ブランドの値打ちが崩れる 利益 10 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 2,654 円1,506 億円
tarte は SNS で伸びたブランドの宿命として、次の流行に押し出され、買収時の期待を下回る。のれんの減損が出て、北米は赤字に沈む。
アルビオンは免税の細りで赤字、コスメポートは薄利のまま。コーセー事業も中国・アジアでの現地ブランドとの競争で利益率が 3% まで下がる。
配当は減らされ、全社の営業利益はほぼゼロになる。会社の価値は、現金と持っている不動産・株式の売却価値が支えるだけの姿に近づく。
一方で日本の化粧品は必需品の側面もあり、事業は続く。純現金が大きいので、倒れることはない。
ただし株主の取り分は、現金と不動産・株式の売却価値の範囲にとどまる。利益で評価される会社ではなくなり、資産で評価される会社になる。
- コーセー事業(コスメデコルテ・雪肌精ほか):数量 0.8(出荷した化粧品・スキンケアの個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,450(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 1,960 億円・営業利益 59 億円。営業利益率 3%
- アルビオン事業:数量 0.1(出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,300(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 276 億円・営業利益 −6 億円。営業赤字
- タルト事業(北米):数量 0.2(出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 2,600(1個あたりの平均出荷単価(円、名目。1 ドル 150 円換算))→ 売上 572 億円・営業利益 −17 億円。営業赤字(のれんの減損を除く)
- コーセーコスメポート事業:数量 1.3(出荷した商品の個数(億個、推定。実質の数量))× 価格 460(1個あたりの平均出荷単価(円、名目))→ 売上 598 億円・営業利益 6 億円。営業利益率 1%
倍率:優良さを失い利益が細る筋書きなので、稼ぐ力(事業の純利益÷k)でなく売れる資産で測る。純現金と売れる不動産・株式の売却価値(税後)を床とし、今の自己資本 2,842 億円に 0.53 倍を掛けた。
確率:tarte が流行の入れ替わりで失速し、中国と国内免税も細り、買収の簿価が傷む、という複合の負け筋。創業家主導の会社で、投資の判断が裏目に出ると取り戻しにくい面があり、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
コーセー事業(コスメデコルテ・雪肌精ほか)
コスメデコルテ、雪肌精、プレステージブランドを国内の百貨店・専門店と、アジア・北米の免税・EC・小売で売る中核事業。タイのパンピューリなどアジアの現地ブランドを含む。
| 数量出荷した化粧品・スキンケアの個数(億個、推定。実質の数量) | 価格1個あたりの平均出荷単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.9 | 2,000 | 1,700 | 130 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 2,720 | 2,584 | 284 |
取り方:化粧品事業の売上(2025/12 期の年換算で約 2,690 億円)からアルビオンと tarte の推定を除いた約 1,700 億円を、平均出荷単価を 2 千円前後として割って約 0.85 億個とした推定。開示は個数でなく金額なので、百貨店・免税向けの高価格帯が中心という前提で単価を置いた。
アルビオン事業
百貨店と専門店に絞って売る高級ブランド。国内免税の落ち込みで減益が続く。
| 数量出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量) | 価格1個あたりの平均出荷単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.2 | 1,950 | 390 | 30 |
| 10 年後 中立 | 0.2 | 2,613 | 496 | 40 |
取り方:売上を約 390 億円と推定し、高価格のスキンケアが中心なので平均出荷単価を 2 千円弱とみて個数を逆算した推定。開示は事業の金額のみ。
タルト事業(北米)
2014 年に買収した米国のメイクアップブランド tarte。Sephora とネット販売、TikTok での発信で売る。北米売上の大半を占める。
| 数量出荷した化粧品の個数(億個、推定。実質の数量) | 価格1個あたりの平均出荷単価(円、名目。1 ドル 150 円換算) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.3 | 2,270 | 590 | 20 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 3,042 | 1,034 | 72 |
取り方:北米売上 618 億円(2025/12 期)の大半を tarte とみて約 590 億円、卸価格を 1 個 15 ドル前後(約 2.3 千円)として個数を逆算した推定。ドル円は 150 円で固定。
コーセーコスメポート事業
クリアターン、ソフティモなど、ドラッグストア・量販店向けのコスメタリー(日常使いの化粧品)。
| 数量出荷した商品の個数(億個、推定。実質の数量) | 価格1個あたりの平均出荷単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1.6 | 401 | 622 | 40 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 537 | 806 | 48 |
取り方:コスメタリー事業の売上(上期 302 億円の年換算で約 620 億円)を平均出荷単価を 4 百円ほどとして割って約 1.55 億個とした推定。マスクやシートなど安価な品が多い前提。
リスクと懸念
利益率が 5% 台から上がらない
2020 年に掲げた利益率 16% は遠く、2025 年も計画を 7.7% 下回った。原価率と販促費の重さが続けば、数量が伸びても利益は増えない。ここが最大の論点だ。
国内免税とインバウンドの波
アルビオンの減益は国内免税の落ち込みが原因だ。日中関係の悪化でインバウンドは揺れる。免税が戻らなければ、国内の高級ブランドは収益を失う。
tarte の流行の入れ替わり
SNS で伸びたブランドは、次の流行に押し出されやすい。北米の売上の大半を担うので、失速すればのれんの減損と赤字が出る。買収の判断が試されている。
中国での現地ブランドの台頭
コスメデコルテと雪肌精はアジアの高価格帯で伸びたが、中国本土では現地ブランドが強まっている。免税店の需要が戻らなければ、中国の伸びは止まる。
コスメポートの競争と原価上昇
クリアターンは競争激化で減収となり、上期の営業利益は 6 割減った。ドラッグストア向けは値上げが通りにくく、原価の上昇が利益を直接削る。
資本配分の遅れ
純現金は 900 億円あるが、自社株買いは 2026 年に 30 億円が出ただけだ。現金を使う方針が示されなければ、ROE は資本コストを下回り続ける。
今後の分かれ目
- コスメデコルテと雪肌精の中国・アジア売上が 2 年続けて 2 桁成長したら
- コーセー事業の利益率が上がる道が開く。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- tarte の営業利益率が北米で 2 桁に戻ったら
- 北米の柱が固まったとみて、中立から楽観側へ確率を寄せる。
- アルビオンが国内免税の落ち込みから抜けずに赤字に落ちたら
- 国内の高級ブランドの強さに疑いが出る。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 新社長のもとで、自社株買いが数百億円の規模で示されたら
- 余った現金の戻り方を 1.0 に近づけてよい。資本効率の改善は価値を押し上げる。
- tarte で数百億円の減損が出たら
- 買収の失敗が確定したとみて、悲観の確率を上げる。現金の厚みは床になる。
- クリアターンが値上げを通して、コスメポートの利益率が 8% を超えたら
- コスメタリーの競争を乗り切った証拠として、全社の利益率の上振れ余地を見直す。
見ておくもの
- アルビオン事業の国内免税の売上と営業利益の推移
- tarte の北米での店頭消化(Sephora)と営業利益率
- 中国免税(海南島)での売上の回復
- コスメポート事業の原価率と販促費
- 新社長のもとでの自社株買いと配当方針、新しい中期経営計画の目標
倍率と資本コストの決め方
数量は個数、価格は物価 3% 込みの名目で積んだ。倍率は利益ベースの正当化 PER(RONIC=k+1/2×(事業の ROE−k)、g は 4%)で上限を出し、その上限と、ROE が k を下回る時の 1÷k の天井を見て置いた。今の PER や PBR、過去の倍率は根拠にしていない。k は基本 7.5% に quality +0.5%(高級化粧品の循環)の 8.0%。余った現金 600 億円は別に足し、戻り方は半分とした。店頭の家賃は販売員を置く百貨店の売り場が中心で固定の約束は大きくないが、新リース会計基準で数字の形が変わる点は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.3→18.95 倍・やや楽観 PER 12.5→17.39 倍・中立 PER 12.5→15.37 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5%(免税・インバウンドで揺れる高級化粧品)を足して 8.0%。ガバナンスや tarte の失敗は k に足さず、筋書きと確率で表した。同じ領域の資生堂(+0.5%)と並べた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.25%。