結論
ムトー精工は、プラスチックの部品を金型から作って成形する会社だ。売上は297億円、営業利益は24億円で、過去最高を更新した。売上の約7割は海外の拠点が占める。
筆者の結論は「適正」だ。事業は悪くない。純現金が39億円あり、自己資本比率は64%と堅い。新しい株主還元の方針は、純資産に対する配当(DOE)の下限を設ける形で、配当は増えている。しかし、稼ぐ力はまだ資本コストに届かない。過去10年のROEの中央値は6.9%だ。
2026年7月に、子会社の大英エレクトロニクスを22.9億円で売った。2027年3月期の純利益予想30億円は、この売却益を含む一過性の数字だ。成形だけになった後の力を、筆者は営業利益で30億円台の前半とみる。
上振れは、車載の数量が伸び、自動化で利益率が10%に近づく時に来る。下振れは、カメラの縮小と顧客の値下げ要請が重なる時に来る。確率は慎重な側へ少し寄せた。売却で事業は成形に絞られ、評価の対象も分かりやすくなった。ただし、事業の整理で売上も利益も縮むため、過去最高の24億円という数字は、そのまま続かない。配当と自社株買いの実行が、次の見直しのきっかけになる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず問うのは、10年後もこの事業があるかだ。樹脂の部品は、車でもカメラでも、形を変えて残る。金型から一貫して作る力も、すぐには消えない。事業は続く。
堀は浅い。顧客の大手に価格を握られ、現地企業との競争もある。営業利益率が7%台にとどまるのは、その分だ。株主のものになる利益は、営業利益の7割ほどだ。
経営者の資本配分は、改善の途上にある。ROEは10年間で資本コストに届かなかったが、不採算の子会社を整理し、DOEの下限を決め、配当を増やした。評価できる点だ。ただし、設備140億円が利益率を押し上げるかは、まだ分からない。
安全域は純現金39億円と、自己資本比率64%にある。結論は、事業は良く、値段は価値と釣り合っている。割安になるのは、新工場が稼働率を上げ、ROEが資本コストを超える道筋が見えた時だ。経営者が配当方針を、利益に連動する性向から純資産に連動する形に変えたのは、資本効率を意識した前向きな動きだ。ただ、売却で身軽になった今こそ、投資の規律が試される。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、顧客の工場が必要とする樹脂の部品を、金型の設計から成形、組立まで一貫して作ることだ。2025年3月期の用途別では、自動車関連が31%、デジタルカメラ・ビデオカメラが27%、プリンターが14%、電子ペンが7%を占める。金型そのものの販売は9%だ。
日系の大手メーカー向けが主力だ。製造は日本、ベトナム、タイ、中国の5拠点で行い、売上の地域別では日本が29%、ベトナムが25%、タイが21%だ。顧客の海外工場に近い場所で作るため、納期に強い。
成長の柱は車載だ。ハイブリッドやEVの部品に備え、樹脂成形から組立まで一貫する新工場「テックフォルテ」を2025年3月から順次動かした。総投資は約30億円で、全社の成形能力はフル稼働で約1.5倍になる。新技術のフリーブレンド成形も量産が始まり、2029年3月期に売上10億円を目指す。
事業の整理も進めた。2024年10月に精密プレス部品のタチバナ精機を売り、2026年7月にプリント基板検査の大英エレクトロニクスを売った。後者は売上の3%ほどだが、営業利益の2割近くを稼いでいた。以後は成形の一本足になる。2026年3月期の伸びは、自動車関連が11.5%、カメラ部品が16.4%、金型が7.4%だった。2025年3月期の設備投資は27億円で、うち14億円が新工場に向かった。
優良さと弱いところ
堀は金型から成形までの一貫生産と、顧客の近くに置いた5拠点にある。図面の変更にも拠点内で対応でき、日系メーカーの現地調達の流れに乗れる。競合は中国・台湾・ベトナムの現地企業と中小企業で、上場企業との直接の競合は少ない。
ただし、堀は深くない。成形は顧客に価格を握られやすく、原料のナフサ由来の樹脂が上がると、転嫁の遅れが利益を削る。営業利益率は過去15年で-2%〜8%、ROEの中央値は6.9%と、資本コストに届かなかった。2016年3月期には純損失が22億円出ている。
財務は堅い。純現金は39億円、営業利益は支払利息の33倍だ。自己資本は210億円まで積み上がった。弱点は、利益の大半が車載とカメラの2分野に偏ることと、新工場の償却が重くなることだ。会社は設備に3年で140億円を使う。筆者は、この投資が利益率に出るかを最も気にする。2025年3月期の成形事業の営業利益率は6.8%で、全社の7.4%を下回る。新工場の自動化が、この数字を押し上げるかどうかで、会社の評価は変わる。海外の拠点は円換算の影響も受け、円高になると利益が目減りする。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
成形品の市場は大きく、車載・カメラ・プリンターのどの分野でも、顧客は部品を何社かに分けて発注する。ムトーの規模では、市場全体の動きより、特定の顧客の生産計画に利益が左右される。
車載は、ハイブリッドとEVの普及で電装やセンターパネルの樹脂部品が増える。一方で、エンジン周りの部品は減る。会社は、自動車関連が2026年3月期に11.5%伸び、ハイブリッド向けが好調と述べる。カメラはミラーレスの外装が16.4%伸びたが、市場全体は長期で縮んできた。プリンターは2.9%減、電子ペンは20%減だ。
景気の波は大きい。営業利益は2016年3月期に赤字になり、2019年と2022年にも落ちた。回復は、顧客の生産の戻りと同じ速さだった。
値段は、原料高を顧客へ転嫁できるかで決まる。2026年3月期は転嫁が順調だと会社は話す。物価が年3%続く世界では、この転嫁が続けられるかが、利益率を決める。
10年の標準像は、車載が数量で伸び、カメラが横ばい、プリンターと電子ペンが縮む形だ。価格は物価並みに上がる。新工場の稼働率が上がるかが、もうひとつの分かれ目だ。会社は、原料高の転嫁が順調と話すが、顧客の大手は値下げ要請も出す。両者の力関係が、利益率の天井を決める。
資本政策と M&A
株主還元の方針が2026年5月に変わった。それまでの配当性向40%から、純資産に対する配当(DOE)4.8%以上へだ。配当は2026年3月期に前の期から約2割増え、2027年3月期も増配の予定だ。PBR1倍割れを意識し、自社株買いも機動的に検討するとしている。
新しい中期計画は2027年3月期からの3年で、設備投資は累計140億円だ。ROE10%以上と営業利益率10%程度を目標にし、D/Eレシオは1倍以下に保つ。売却した大英エレクトロニクスの代金22.9億円は、この投資の財源になる。
過去の資本配分には、うまくいかなかった例もある。タチバナ精機は売却し、シンガポール子会社や香港子会社は清算や解散で整理した。筆者は、設備140億円が利益率に出るかを、資本配分で最も警戒している。
大株主は個人7.2%、大垣共立銀行4.7%、十六銀行3.9%、名古屋中小企業投資育成3.6%と続く。上場銘柄の政策保有は4件だ。2025年3月期の設備投資は27億円で、うち14億円が新工場の建設だった。2024年5月に第一精工舎と提携し、製造受託と共同開発を進めている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
稼ぐ力は上向いている。営業利益は2026年3月期に過去最高の24億円になった。成形だけで見た2027年3月期の利益は、会社が4割近い増加を見込む。車載は電動化で部品が増え、成形能力は1.5倍になる。配当は厚く、DOEの下限もあり、PBR1倍割れの是正にも前向きだ。2026年3月期は営業利益が14%、2025年3月期は12%増え、増益の流れが2年続いた。株価は利益の8倍ほどで、仮に営業利益率が10%に届けば、割安の領域に入る。事業を絞り込み、成形に集中する方針も、利益率の底上げに向く。さらに、純現金39億円と大英エレクトロニクスの譲渡代金があるので、設備投資を借金に頼らず進められる。これまで利益が伸びても評価が低かった会社に、資本政策という新しい材料が加わった。成形能力が1.5倍になる新工場は、稼働率が上がるほど1個あたりの原価を下げる。原料高の転嫁が進んでいる点も、利益率の下支えになる。海外で作る比率が高く、顧客の現地調達の流れにも乗れている。営業利益は10年前の水準から大きく切り上がり、底は固まりつつある。
慎重な見方
稼ぐ力は、まだ資本コストに届いていない。ROEの中央値は7%を下回り、過去15年で純損失や赤字の期が2度ある。利益は車載とカメラに偏り、カメラは長期で縮む市場だ。会社の目標は、前の計画でも達成が遅れてきた。2027年3月期の純利益30億円は売却益を含み、成形だけの力ではない。設備を3年で140億円使えば、償却が利益を削り、配当にも響く。顧客の大手は価格に強く、原料高の転嫁が遅れる局面では、利益率が数ポイント動きうる。配当を増やしても、利益が伴わなければ純資産の積み上がりに負け、ROEは上がらない。売却で身軽になったという見方もできるが、売った事業は営業利益の2割近くを稼いでいた。縮んだ利益の穴を、成形だけで埋める必要がある。海外の拠点は、為替が円高に振れると円換算の利益が減る。顧客も同じ海外の競争にさらされており、価格の転嫁が続く保証はない。営業利益率が8%に届いた期は、過去20年でも数えるほどしかない。
どちらに重みを置いたか
車載の伸びと自動化の効果は、強気の見方が正しい。しかし、利益率が10%に届くかは、過去の実績が慎重に見るよう促す。結論は、利益率が7%台半ばに乗る標準像を中心に置いた。強気の見方は車載の数量に、弱気の見方は利益率の天井に、それぞれ根拠がある。確率は後者に少し寄せた。新計画は3年の目標なので、最初の1〜2期の営業利益率で、強気と弱気のどちらが近いかが分かる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,607 円251 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,568 円109 億円)。 今の値に割り戻すと 2,738 円190 億円、今との差 +19.9%、 期待の年率 +8.5%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 7,252 円504 億円 | 2,160 円150 億円 | +312.0% | +15.2% | 565 円39 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,436 円378 億円 | 1,944 円135 億円 | +223.1% | +12.4% | 1,476 円103 億円 |
| 中立 | 40% | 4,031 円280 億円 | 1,728 円120 億円 | +152.1% | +9.7% | 2,303 円160 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,736 円121 億円 | 1,224 円85 億円 | +29.6% | +2.6% | 710 円49 億円 |
| 悲観 | 10% | 561 円39 億円 | 648 円45 億円 | −47.1% | −6.2% | 121 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,607 円251 億円 | 1,568 円109 億円 | +126.6% | +8.5% | 5,175 円359 億円 |
今の株価時価総額 2,284 円159 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 6% HEV向けとカメラが伸び、自動化で利益率が10%に迫る 利益 35 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 7,252 円504 億円
会社の新中期計画がほぼそのまま実現し、その先も利益率が上がる筋書きだ。ハイブリッド向けの成形品が増え、テックフォルテ工場の自動化が人手の増加を抑える。カメラ部品はミラーレス向けの外装が堅調に続く。フリーブレンド成形も育つ。営業利益率は10%に迫り、10年で売上は約490億円、営業利益は約48億円になる。配当はDOEの下限を上回って続き、10年で150億円を還元する。価格は物価を少し上回って通る。海外の売上比率が高く、為替も追い風になりうる。純現金は設備の資金に回りつつ、自己資本は335億円まで積み上がる。ROEは10%を超え、資本コストを上回る会社として見直される。会社の計画が、遅れなく進んだ場合の姿だ。
- 自動車関連部品:数量 2.1(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 86(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 183 億円・営業利益 18 億円。営業利益率10.0%
- デジタルカメラ部品:数量 2.4(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 58(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 142 億円・営業利益 13 億円。営業利益率9.5%
- その他の成形品と金型:数量 2.8(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 60(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 167 億円・営業利益 16 億円。営業利益率9.5%
倍率:事業の純利益 35 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍。全体の PER 14.23 倍、時価総額 504 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載の伸び、カメラ需要の持続、自動化による利益率の上昇、原料高の転嫁が全部そろう必要がある。会社の計画に近い道筋だが、過去の営業利益率は8%に届かなかった。
やや楽観 20% 計画の大半を実現し、利益率は8%台後半に上がる 利益 29 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 5,436 円378 億円
新計画の大半を達成し、その後も緩やかに改善する筋書きだ。車載は電動化の波に乗って数量が3割ほど増え、カメラも1割強伸びる。プリンターと電子ペンの縮小は、金型と新技術が補う。営業利益率は8%台後半に乗り、10年で営業利益は約39億円になる。成形能力が1.5倍になる設備は、稼働率が上がれば利益に効く。配当はDOEに沿って増え、10年の還元は135億円になる。自己資本は316億円まで積み上がり、ROEは9%で資本コストをわずかに上回る。計画の遅れは多少あるが、方向は変わらない。プリンターと電子ペンの縮小は、金型の外販やフリーブレンド成形の新しい受注が一部を補う。
- 自動車関連部品:数量 2.0(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 85(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 168 億円・営業利益 14 億円。営業利益率8.5%
- デジタルカメラ部品:数量 2.2(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 58(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 129 億円・営業利益 11 億円。営業利益率8.8%
- その他の成形品と金型:数量 2.7(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 59(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 157 億円・営業利益 13 億円。営業利益率8.5%
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.25 倍、時価総額 378 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新計画の営業利益率10%は、これまでの実績より高い。ただし2026年3月期に過去最高を更新した勢いはあり、大半の達成は見込める範囲にある。
中立 40% 数量は車載が支え、利益率は7%台半ばへ少し上がる 利益 22 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 4,031 円280 億円
車載が数量で伸び、カメラは横ばい、プリンターと電子ペンは縮む標準の筋書きだ。大英エレクトロニクスの譲渡後は、成形の一本足になる。会社の見通しでは、2027年3月期の営業利益は27億円だ。自動化と価格転嫁で利益率は7%台半ばに上がるが、人件費と減価償却がそれを削る。10年で売上は約420億円、営業利益は約31億円になる。純利益は営業利益の7割ほどで、配当はDOEに沿って年12億円前後だ。ROEは7%台半ばで、資本コストには届かない。自己資本は300億円まで積み上がり、利益のうち配当に回らない分が資本の厚みになる。車載の伸びが、カメラとプリンターの縮小を補う形だ。計画の達成は遅れるが、赤字の期は出ない前提を置いた。価格は物価並みに通り、数量の増減が利益率の差になる。
- 自動車関連部品:数量 1.8(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 84(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 153 億円・営業利益 11 億円。営業利益率7.2%
- デジタルカメラ部品:数量 2.0(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 57(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 117 億円・営業利益 9 億円。営業利益率7.8%
- その他の成形品と金型:数量 2.5(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 59(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 147 億円・営業利益 11 億円。営業利益率7.4%
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 280 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載の数量は堅く、価格は物価並みに通る。ただし利益率は、会社の目標10%ではなく、過去15年の山7.8%を超えない7%台半ばに置いた。成形の実績は7%前後で、その少し上だ。最も確度が高く、厚く置いた。
やや悲観 24% カメラが縮み、車載の単価も押される 利益 12 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,736 円121 億円
カメラ部品の数量が15%ほど減り、車載は顧客の値下げ要請で伸びが止まる筋書きだ。プリンターや電子ペンの縮小も止まらない。海外の拠点は円高で円換算の利益も減る。価格は物価より遅れて上がる。成形能力を1.5倍にした設備の稼働率が上がらず、減価償却が利益を削る。営業利益率は5%へ戻り、10年で営業利益は約17億円になる。配当はDOEの下限を保てず、10年の還元は85億円にとどまる。事業は赤字にならないが、資本コストを稼げない。ROEは4%台にとどまり、自己資本は284億円まで積み上がるのに、利益が付いてこない。顧客の工場が海外へ移ると、数量と価格の両方で押される。アジアの拠点は残るが、現地企業との競争が激しくなり、値引きで受注を保つしかなくなる。
- 自動車関連部品:数量 1.6(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 80(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 126 億円・営業利益 6 億円。営業利益率5.0%
- デジタルカメラ部品:数量 1.7(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 55(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 93 億円・営業利益 5 億円。営業利益率5.0%
- その他の成形品と金型:数量 2.3(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 56(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 126 億円・営業利益 6 億円。営業利益率5.0%
倍率:事業のROEは4.3%と資本コスト8%を大きく下回る。稼ぐ力に対して自己資本が積み上がるため、PERの上限1÷k=11.8倍から3割強引いた8.0倍に置いた。
確率:カメラ市場の縮小は長期の流れで、車載も顧客の値下げ要請が続く。成形は海外の中小企業との競争があり、過去にも営業利益率が3%台に落ちた期があった。
悲観 10% カメラと車載が崩れ、構造的に負ける 利益 3 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 561 円39 億円
カメラ部品が半減に近づき、車載もEV化と内製化で数量が2割減る筋書きだ。価格は物価に追いつかず、利益率は2%まで下がる。成形能力を増やした設備が重荷になる。営業利益は約4億円、純利益は約3億円。配当は4割以下になり、10年の還元は45億円にとどまる。価値の中身は、純現金と譲渡代金の税引き後に近い。それでも、売上は220億円台を保ち、事業が消えるわけではない。2016年3月期の純損失22億円のように、減損や構造改革で一度に利益が吹き飛ぶ年も、この筋書きでは起こりうる。金型から成形までの一貫生産と、アジアの拠点網は残り、顧客の工場が続く限り、受注は完全には途切れない。
- 自動車関連部品:数量 1.2(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 72(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 86 億円・営業利益 2 億円。営業利益率2.0%
- デジタルカメラ部品:数量 1.1(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 47(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 52 億円・営業利益 0 億円。営業利益率0.5%
- その他の成形品と金型:数量 1.8(出荷する成形品の数(億個・年、推定))× 価格 49(1個あたり売上(円・名目))→ 売上 86 億円・営業利益 2 億円。営業利益率2.0%
倍率:事業の稼ぐ力はROE1%未満と弱い。稼ぐ力(純利益2.5億円×6.5倍=約16億円)より、現金などの床のほうが大きいので、価値は床に置いた。今の自己資本210億円に掛けるPBR0.19倍。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.186 倍・時価総額 39 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:カメラの急減、車載の内製化や電動化での受注減、原料高の転嫁失敗が重なる必要がある。ただし過去にも赤字の期が2度あり、無視はできない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車関連部品
ハイブリッド・EV向けの電装ケース、センターパネルなどの樹脂成形品と金型。
| 数量出荷する成形品の数(億個・年、推定) | 価格1個あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.5 | 62 | 94 | 6 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 84 | 153 | 11 |
取り方:2025年3月期の用途別売上84億円に、2026年3月期の伸び11.5%を掛けて93.6億円。個数は推定で1.5億個とし、単価は売上を個数で割った。営業利益は会社が分野別に開示しないため、成形全体の利益率6.8%から6.5%と置いた(推定)。
デジタルカメラ部品
ミラーレスなどカメラの外装・内部の樹脂成形品。
| 数量出荷する成形品の数(億個・年、推定) | 価格1個あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.0 | 43 | 85 | 6 |
| 10 年後 中立 | 2.0 | 57 | 117 | 9 |
取り方:2025年3月期の用途別売上73億円に、2026年3月期の伸び16.4%を掛けて85.3億円。個数は推定で2.0億個とし、単価は売上を個数で割った。営業利益は成形全体の利益率6.8%から7.5%と置いた(推定)。
その他の成形品と金型
プリンター部品、電子ペン、住宅設備などの成形品と、金型の外販。
| 数量出荷する成形品の数(億個・年、推定) | 価格1個あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.5 | 44 | 110 | 7 |
| 10 年後 中立 | 2.5 | 59 | 147 | 11 |
取り方:成形の売上288.6億円(連結297億円から、譲渡した大英エレクトロニクスの約8億円を除く)から、自動車とカメラを引いた109.7億円。個数は推定で2.5億個、単価は売上を個数で割った。営業利益は、成形の約19.5億円(2027年3月期に4割増という会社の見通しから逆算)から、自動車とカメラを引いた7.0億円。
リスクと懸念
車載とカメラへの偏りと顧客の値下げ
利益の大半は自動車とカメラの2分野から出る。カメラは長期で縮む市場で、車載もEV化や顧客の内製化で数量が変わる。顧客の大手は価格に強く、値下げ要請が続けば利益率が崩れる。
原料高と設備投資の重さ
ナフサ由来の樹脂、シンナー、梱包資材が上がっている。転嫁は順調だが、遅れれば利益を削る。3年で140億円の設備は、稼働率が上がらなければ償却が重くなる。
売却益の一過性と一本足
2027年3月期の純利益30億円は、大英エレクトロニクスの売却益を含む。この会社は営業利益の2割近くを稼いでおり、成形だけになると、利益の波がそのまま全体に出る。
今後の分かれ目
- 成形の営業利益率が9%を超え、テックフォルテ工場の稼働率が上がったら
- 自動化の効果が利益に出ている。楽観・やや楽観の確率を上げ、中立の利益率も見直す。
- 2028年3月期の営業利益が、会社の見通しの28億円を下回ったら
- 新計画の達成が遅れる、前と同じパターンだ。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- DOEの下限を超えた増配や、自社株買いが実際に出たら
- 資本政策が本気だと分かる。中立のPERと確率を上へ見直す。
見ておくもの
- 成形の営業利益率と、テックフォルテ工場の稼働率
- 自動車関連・カメラ別の売上の伸び
- 配当(DOE)と自社株買いの実行
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業のROEと資本コスト8%の関係から式で出した。中立は事業のROEが7.5%でkを下回るため、PERの上限は1÷k=11.8倍。そこから、顧客に価格を握られやすい構造と海外の税負担で1割強引いた10.0倍に置いた。今の株価や過去のPER、同業の倍率は使っていない。会社の新計画(営業利益率10%程度)は、前の計画でも達成が遅れた実績を考え、中立には7%台半ばしか織り込んでいない(過去15年の山7.8%以下)。2027年3月期の純利益30億円は、売却益を含む一過性なので土台に入れていない。10年後の数字は、大英エレクトロニクスを除いた成形だけの姿で置いた。純利益÷営業利益は過去の中央値0.70に近い0.7で置いた。減価償却は取得時の値段のままで物価では増やさず、設備投資の新しい分だけを足す前提で利益率を置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→14.23 倍・やや楽観 PER 12→13.25 倍・中立 PER 10→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。