結論
日本曹達は、農薬と機能材で稼ぐ小さな専門化学会社である。売上の約 3 分の 1 は農薬、約 4 分の 1 は機能材、残りを商社・物流と工事・廃棄物処理が占める。石油化学の大型設備を持たないので、中国の過剰生産で価格が崩れる汎用化学の痛みは薄い。筆者の結論は、10 年後の本質価値は今の時価総額をやや下回るというものだ。
理由は資本の使い方にある。自己資本比率は 66% を超え、政策保有株も厚い。これが ROE を押し下げる。2026 年 3 月期の ROE は 9% 弱で、資本コストを超えるかどうかの線上にある。会社は政策保有株の縮減と総還元性向 50% 以上を掲げるが、10 年かけて少しずつ進む計画で、一気に ROE が跳ねる筋書きは置いていない。
成長の柱は 3 つある。2017 年以降に出した新規の農薬 3 剤、二本木工場で増産した医薬品添加剤 HPC、半導体向けの感光材料である。うまくいけば営業利益率は 12% 台に乗り、10 年後の時価総額は今の 2 倍に届く。逆に後発品と値下げ競争に巻き込まれれば、利益率は 3% 台に沈む。
今の値段は、この中間の見立てに対してわずかに高い。割安とは言えないが、財務が厚く、事業の質も悪くない。安全域が足りないだけだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くない会社を、適正に近い値段で買う」話になる。派手な堀はない。農薬の登録と特許、医薬品添加剤の品質管理という、地味な堀の寄せ集めだ。一つ一つは小さいが、10 年たっても事業が消えているとは考えにくい。
オーナーとして見たいのは、稼いだ利益をどう使うかだ。この会社は利益の半分を配当と自社株買いで返し、残りを溜める。溜めた分の使い道が、自己資本比率の高さと政策保有株の厚さに表れている。ROE が資本コストと同じ線上にあるので、溜めた利益は、元手以上の価値を生んでいない。
安全域の面では、財務が堅く、事業が赤字に落ちることは少ない。悲観の筋書きでも、資産の価値が値段の下支えになる。弱点は、農薬の新製品が当たるかどうかという予測の難しさだ。10 年先の利益を正確に読めない事業には、確信度を下げる。
結論として、筆者は、利益が今の水準から名目で緩やかに伸び、資本効率が少し良くなる中立の筋書きを取る。そのうえで、今の値段は適正を少し超えている。割安になるなら、資本政策の変化が見えたときか、値段が下がったときだ。
何で稼ぐ会社か
農薬のアグリビジネスは、売上の約 35%、営業利益の約 36% を稼ぐ中心事業だ。殺菌剤ピシロックは卵菌類(べと病・疫病など)に効く新しい系統で、2017 年に出した。殺ダニ剤ダニオーテと殺菌剤ミギワを加えた 3 剤が、世界展開の主役である。ピシロックのうち水稲向けは、クミアイ化学が販売を担う。インドでは登録を取り、東南アジアと米国で開発を進めている。
ケミカルマテリアルは売上の約 4 分の 1 だが、営業利益は農薬と並ぶ。医薬品添加剤 NISSO HPC は、錠剤の結合剤などに使う素材だ。二本木工場に 100 億円を投じて増設し、2026 年 7 月に動き出した。能力は従来の 1.5 倍になる。感熱紙の顕色剤、樹脂添加剤、半導体の感光材料向けのポリマー、ホスゲンや金属ナトリウムを使う受託製造も、この事業に入る。
トレーディング&ロジスティクスは、日曹商事と三和倉庫による商社・倉庫業で、売上は大きいが利益率は 5% 前後と薄い。自社品の販路を握る役目が大きい。エンジニアリングとエコソリューションは、日曹エンジニアリング・日曹建設のプラント工事と、日曹金属化学の廃棄物処理だ。受注は年ごとに振れる。
全体の営業利益率は 10% 前後で、過去 10 年で最高の水準にある。農薬は天候と季節に左右され、第 1 四半期は利益が薄い。通期でならして見る必要がある。
優良さと弱いところ
事業の質は、化学の中では上位の中ほどである。農薬は登録という参入障壁があり、新系統の殺菌剤は特許に守られて値段を保てる。ただし守られるのは特許が続く間で、旧世代の殺菌剤は後発品の競争にさらされている。新製品が古い製品の落ち込みを埋め続ける、足の速い事業である。
HPC は高付加価値だが、市場そのものが小さい。調査会社は世界で 2 億ドル前後と見ており、日本曹達が主要な供給元でも、売上を数百億円規模に伸ばす余地は限られる。信越化学が低置換度の HPC を日本とドイツで増強しており、競争は激しくなる。
財務は堅い。自己資本比率は 66% を超え、純有利子負債は自己資本の 15% にすぎない。営業利益は支払利息の 20 倍を超える。赤字の期は過去に見当たらない。借り換えで金利が上がっても、利益への影響は 10 年で数億円にとどまる。
弱いのは資本効率だ。ROE は過去 10 年の中央値で 7% 台、会社が掲げる 10% には届かない。政策保有株は純資産の 1 割を超え、東京応化工業・日産化学・東ソーなどを持つ。会社は 2029 年度までに 6% 未満へ減らす方針だが、売却益で還元を増やせるかは、売却の速さ次第である。筆者は、ここがこの会社の最大の改善余地だと見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
日本曹達は化学の中でも、石油化学の基礎品とは別の場所にいる。農薬は世界で年 700〜800 億ドル前後の市場(筆者の推計)で、数量は年 1〜2% の伸びにとどまる。人口は増えても、耕地は増えない。伸びは単価で出る。一方で、新しい有効成分の開発には 10 年以上かかり、ここで競うのはシンジェンタ・バイエル・コルテバ・住友化学・クミアイ化学などの大手だ。日本曹達は大手と正面からは戦わず、特定の病害に効く系統で席を取っている。
農薬の弱みは後発品である。特許が切れると、中国やインドの会社が同じ有効成分を安く出す。旧世代の殺菌剤では、すでにこの圧力が来ている。新規 3 剤が伸びるかどうかが、10 年の分かれ道だ。
医薬品添加剤の HPC は、国内では日本薬局方に載る材料で、錠剤の結合剤や崩壊剤に使う。世界市場は年 7% 近くで伸びるとの調査もある。日本曹達は欧州に技術支援の拠点を作り、欧州とインドでの販売を強める。需要が増えても、信越化学などの増産で値が崩れると、旨味は薄くなる。
商社と工事は、国内の化学品需要と工場投資の量で動く。人口が減る国内で数量は伸びにくいが、工場投資の増える年は追い風が出る。業種全体で見れば、中国の増設は汎用化学品の価格を押さえ続ける。日本曹達はその領域に大きな設備を持たないので、影響は小さい。
資本政策と M&A
会社は長期ビジョン(2020〜2029 年度)の後半 5 年に、投資枠を置く。成長投資 300 億円、研究開発 400 億円、維持更新 300 億円、経営基盤 100 億円である。累進配当を守り、総還元性向を 50% 以上とする。自社株買いは機動的に行うとする。配当は 2026 年 3 月期に前の期から増え、2027 年 3 月期も同水準の予想だ。
資本効率の目標は 2030 年 3 月期の ROE 10% 以上である。2020 年に 8% で出し、2023 年に 12% へ上げ、のちに 10% へ戻した経緯がある。目標の動きは、達成の難しさを物語る。
政策保有株は、純資産に対する比率を早期に 10% 未満、2029 年度までに 6% 未満へ下げる方針だ。売却益を還元に回せば、ROE を引き上げる材料になる。
買収では、培養・ペプチド応用・フロー合成などの技術を外から取り込むと言う。大型の買収は想定していない。大株主は信託銀行口座が中心で、特定の親会社や支配株主はいない。時価総額は 2,000 億円足らずで、自己資本の厚さを考えると、買収側から見て魅力のある規模である。kabufu の推計では、10 年以内の TOB・買収の確率は 2 割強だ。ただし、ここでは筋書きに入れない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
新規農薬の 3 剤は、まだ世界の広い市場に十分には広がっていない。ピシロックはインドで登録を取り、東南アジアと米国で開発が進む。海外の売上が増えれば、利益率の高い自社品の比率が上がり、全社の利益率は過去最高の 10% を超えて 12% 台へ向かう。後発品の影響が及ぶ旧世代の殺菌剤の落ち込みは、すでに数字に織り込まれており、新製品の分はこれから上乗せされる。
HPC は 2026 年 7 月に増産設備が動き、能力が 1.5 倍になった。欧州の技術拠点で顧客に近づき、インドでも販売を強める。医薬品添加剤は一度採用されると、規制の都合で変えにくい。これは強い堀になる。
資本効率も改善する。政策保有株は 2029 年度までに 6% 未満へ下がり、売却で得た資金は還元か成長投資に回る。ROE が 10% に近づけば、倍率は 12〜13 倍に上がる。財務が厚く、借り入れの余力もあるので、小さな買収で新しい技術を取り込む選択もある。10 年で時価総額が今の倍以上になる筋書きは、十分にありうる。
慎重な見方
農薬の新製品も、特許が切れれば旧世代と同じ道をたどる。そのあと中国・インドの後発品が入り、利益率は急速に落ちる。旧世代の殺菌剤で起きたことが、次の世代でも起きる。新製品を出し続けるには、5 年で 400 億円という研究開発の枠を使い続ける必要があり、これが利益を抑える。
HPC は市場が 2 億ドル前後と小さく、会社の期待ほど伸びない。信越化学が増産を進めており、増産設備が稼働率で苦しむ恐れもある。100 億円の投資が回収できない筋書きもある。
資本効率の改善は、10 年がかりの話にすぎない。ROE の 10% は、会社が目標を何度も動かした数字で、達成の見込みは薄い。商社と工事は薄利で、人口が減る国内に縛られる。全体として、利益は物価の分だけ伸びるが、その伸びは資本の積み上がりで薄まる。倍率は 10 倍を超える理由が乏しく、今の値段はすでにその先を織り込んでいる。
政策保有株の売却も、約束どおりに進むとは限らない。持ち合いは取引先との関係に絡み、売れる銘柄から先に売ると、残った銘柄は本当に手放しにくいものになる。売却益で還元を厚くしても、1 回限りの話であり、事業の稼ぐ力は変わらない。
どちらに重みを置いたか
強いのは慎重な見方である。新農薬と HPC は夢のある材料だが、特許の寿命と競合の増産という、10 年の間に必ず向き合う壁がある。資本効率の改善も計画の域を出ない。ただし、財務が堅いので最悪の筋書きでも資産の価値が下値を支える。このため確率は、楽観側を 3 割、悲観側を 3 割半ばに置いた。やや悲観の厚みを、やや楽観より少し重くしている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,903 円2,629 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,884 円1,010 億円)。 今の値に割り戻すと 3,691 円1,979 億円、今との差 +2.4%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 9,358 円5,018 億円 | 2,704 円1,450 億円 | +234.6% | +12.8% | 1,086 円582 億円 |
| やや楽観 | 21% | 7,203 円3,862 億円 | 2,331 円1,250 億円 | +164.5% | +10.2% | 2,002 円1,074 億円 |
| 中立 | 35% | 5,442 円2,918 億円 | 1,958 円1,050 億円 | +105.3% | +7.5% | 2,590 円1,389 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,070 円1,110 億円 | 1,585 円850 億円 | +1.4% | +0.1% | 841 円451 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,398 円750 億円 | 839 円450 億円 | −37.9% | −4.7% | 268 円144 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,903 円2,629 億円 | 1,884 円1,010 億円 | +88.3% | +6.5% | 6,787 円3,639 億円 |
今の株価時価総額 3,605 円1,933 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 9% 新農薬と HPC が当たり、利益率が 12% 台へ 利益 313 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 9,358 円5,018 億円
新規農薬 3 剤が欧州・インド・米国で登録を取り、卵菌類に効く殺菌剤が世界の園芸・野菜向けで広がる。農薬の利益率は 14% へ上がり、後発品に押される旧世代の穴を埋めて余りある。医薬品添加剤の HPC は二本木の増産設備を売り切り、欧州の技術拠点が顧客を呼び込む。半導体向けの感光材料も採用が進み、ケミカルマテリアルの利益率は 18% に乗る。商社とエンジニアリングは横ばいだが、稼ぎ頭が伸びることで全社の営業利益率は 12% 台後半に届く。政策保有株の売却で得た資金は還元と成長投資に回り、ROE は目標の 10% を超える。会社の描く理想形に近いが、10 年間ほぼ計画どおり運ぶ必要があり、確率は低い。
- アグリビジネス(農薬・微生物農薬):数量 4.6(世界の農薬市場(実質・億ドル)× シェア)× 価格 1.40(1 単位あたりの値段の指数(今を 1.0、名目))→ 売上 966 億円・営業利益 135 億円。益率 14.0%
- ケミカルマテリアル(HPC・機能材・化成品):数量 40.0(販売量(千トン、製品群の合計・推定))× 価格 18(1 トンあたりの平均単価(百万円、名目))→ 売上 723 億円・営業利益 130 億円。益率 18.0%
- トレーディング&ロジスティクス(日曹商事・三和倉庫):数量 85.0(取扱量(万トン、推定))× 価格 7.67(1 トンあたりの平均取扱単価(万円、名目))→ 売上 652 億円・営業利益 38 億円。益率 5.8%
- エンジニアリング・エコソリューション(その他):数量 5.0(稼働人月(千人月、推定))× 価格 5.52(1 人月あたりの売上(百万円、資材込み・名目))→ 売上 276 億円・営業利益 30 億円。益率 11.0%
倍率:事業の純利益 313 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.85 倍、時価総額 4,963 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新農薬 3 剤の海外展開と HPC の増産がともに計画どおり進み、感光材料まで当たる姿。ただし農薬は開発から収益化まで長く、これを中心に置くほどの確信はないので 1 割に届かない水準にとどめる。
やや楽観 21% 農薬と添加剤の成長が続き、会社の目標に近づく 利益 259 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 7,203 円3,862 億円
新規農薬が計画のほぼ半分から 7 割の勢いで育ち、HPC は増産分を数年で売り切る。農薬の利益率は 12% 台、ケミカルマテリアルは 17% まで上がる。後発品による旧世代殺菌剤の落ち込みは続くが、新製品が上回る。商社と工事は景気なみに伸びる。全社の営業利益率は 11% 台で、会社が掲げる 10% 以上の目標を超える。還元は総還元性向 50% 超を守り、政策保有株の縮減が進むので、自己資本のふくらみは抑えられて ROE は 9% に近づく。中立との差は、新農薬と HPC の勢いだけだ。商社と工事の動きは中立とほぼ同じで、全社の差は農薬と機能材の 2 つの事業の利益率の差で説明がつく。政策保有株の売却益が出る期は純利益が営業利益を上回るが、10 年後の時点では売却がほぼ終わり、その押し上げは効かない。
- アグリビジネス(農薬・微生物農薬):数量 4.2(世界の農薬市場(実質・億ドル)× シェア)× 価格 1.35(1 単位あたりの値段の指数(今を 1.0、名目))→ 売上 851 億円・営業利益 106 億円。益率 12.5%
- ケミカルマテリアル(HPC・機能材・化成品):数量 37.0(販売量(千トン、製品群の合計・推定))× 価格 17(1 トンあたりの平均単価(百万円、名目))→ 売上 646 億円・営業利益 110 億円。益率 17.0%
- トレーディング&ロジスティクス(日曹商事・三和倉庫):数量 83.0(取扱量(万トン、推定))× 価格 7.50(1 トンあたりの平均取扱単価(万円、名目))→ 売上 623 億円・営業利益 34 億円。益率 5.5%
- エンジニアリング・エコソリューション(その他):数量 4.8(稼働人月(千人月、推定))× 価格 5.44(1 人月あたりの売上(百万円、資材込み・名目))→ 売上 261 億円・営業利益 26 億円。益率 10.0%
倍率:事業の純利益 259 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.62 倍、時価総額 3,791 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新農薬の海外登録が進み、HPC が増産分を売り切る姿。会社の掲げる利益率 10% 以上の目標を超える筋書きで、実績がすでに過去最高圏にあることを踏まえ、2 割強を置く。
中立 35% 農薬と機能材が稼ぎ続け、商社と工事は横ばい 利益 212 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 5,442 円2,918 億円
農薬は新規 3 剤が少しずつ伸び、旧世代の殺菌剤は後発品に取られながらも、全体で数量が 1 割台半ば増える。値段は物価を少し下回って上がり、利益率は 11% 台後半。ケミカルマテリアルは HPC の増産で数量が伸び、機能材の価格は物価に沿って上がる。利益率は 15% 前後で今の水準を保つ。商社は取扱量がわずかに減り、利益率は 5% 前後。エンジニアリングとエコソリューションは年ごとの波があるが、均すと 1 割弱の利益率。全社の営業利益率は 10% 強で、会社の目標に合う。還元は純利益の 5 割半ばで、自己資本は積み上がり、ROE は 7% 台にとどまる。
- アグリビジネス(農薬・微生物農薬):数量 4.0(世界の農薬市場(実質・億ドル)× シェア)× 価格 1.30(1 単位あたりの値段の指数(今を 1.0、名目))→ 売上 780 億円・営業利益 90 億円。益率 11.5%
- ケミカルマテリアル(HPC・機能材・化成品):数量 35.0(販売量(千トン、製品群の合計・推定))× 価格 17(1 トンあたりの平均単価(百万円、名目))→ 売上 585 億円・営業利益 88 億円。益率 15.0%
- トレーディング&ロジスティクス(日曹商事・三和倉庫):数量 78.0(取扱量(万トン、推定))× 価格 7.34(1 トンあたりの平均取扱単価(万円、名目))→ 売上 572 億円・営業利益 29 億円。益率 5.0%
- エンジニアリング・エコソリューション(その他):数量 4.5(稼働人月(千人月、推定))× 価格 5.36(1 人月あたりの売上(百万円、資材込み・名目))→ 売上 241 億円・営業利益 21 億円。益率 8.5%
倍率:事業の純利益 212 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 2,830 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:農薬と機能材が物価並みに伸び、商社と工事は横ばいという中心の筋書き。利益率は直近の 10% 前後を保つが、すでに過去最高圏なので上積みは見込まない。
やや悲観 23% 後発品と価格競争で農薬・添加剤の伸びが鈍る 利益 128 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 2,070 円1,110 億円
主力の殺菌剤の後発品が広がり、新規農薬も登録の遅れで伸びが細る。農薬の数量は今と同じで、値段は物価に届かず、利益率は 8% 台に下がる。HPC は信越化学など競合の増産で値崩れし、増産設備の稼働率が上がらない。ケミカルマテリアルの利益率は 11% まで下がる。商社は取扱量が減り、工事は受注が細る。全社の営業利益率は 7% 台に落ちる。会社は累進配当を守ろうとするが、負担は重くなり、自社株買いは細る。自己資本が増える割に利益が伸びず、ROE は 5% 前後になる。全社が赤字に落ちるほどではなく、財務の厚みも保たれるが、優良な専門化学会社という見方は弱まり、堀の薄い中堅化学として扱われる。政策保有株の売却は進むが、売却益の多くは減った利益の穴埋めに回る。
- アグリビジネス(農薬・微生物農薬):数量 3.5(世界の農薬市場(実質・億ドル)× シェア)× 価格 1.20(1 単位あたりの値段の指数(今を 1.0、名目))→ 売上 630 億円・営業利益 54 億円。益率 8.5%
- ケミカルマテリアル(HPC・機能材・化成品):数量 31.0(販売量(千トン、製品群の合計・推定))× 価格 16(1 トンあたりの平均単価(百万円、名目))→ 売上 483 億円・営業利益 53 億円。益率 11.0%
- トレーディング&ロジスティクス(日曹商事・三和倉庫):数量 72.0(取扱量(万トン、推定))× 価格 7.12(1 トンあたりの平均取扱単価(万円、名目))→ 売上 513 億円・営業利益 22 億円。益率 4.2%
- エンジニアリング・エコソリューション(その他):数量 4.0(稼働人月(千人月、推定))× 価格 5.20(1 人月あたりの売上(百万円、資材込み・名目))→ 売上 208 億円・営業利益 14 億円。益率 6.5%
倍率:ROE 4.9%。RONIC = 8.0% + 1/2 ×(4.9 − 8.0)= 6.45%、g 3.5% で正当化 PER = 10.2 倍。後発品と値下げ競争で利益が細る筋書きなので、上限の 7 割の 7.1 倍に置いた(7 割へ引き上げない)。
確率:主力の殺菌剤の後発品が増え、HPC も信越化学などの増産で値が崩れる姿。小さな会社が複数の製品で同時に競争を受けるのは珍しくなく、中立より少し軽い 2 割強を置く。
悲観 12% 新農薬が伸びず、HPC は値下げ競争に巻き込まれる 利益 42 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,398 円750 億円
新規農薬は海外の登録が遅れ、開発費を回収できない。旧世代の殺菌剤は後発品に市場を奪われる。農薬の数量は今の 8 割に減り、利益率は 4% まで落ちる。HPC は増産が裏目に出て、競合と中国勢との値下げ競争になり、ケミカルマテリアルの利益率は 5% に沈む。商社は取扱量が 2 割減り、工事も受注が細る。全社の営業利益率は 3% 台まで落ち、配当は減らさざるを得ない。減損も出る。それでも財務は厚く、政策保有株や遊休資産を売れば、資産としての価値が下支えになる。優良企業の評価は外れ、資産の価値で測られる会社になる。
- アグリビジネス(農薬・微生物農薬):数量 2.8(世界の農薬市場(実質・億ドル)× シェア)× 価格 1.05(1 単位あたりの値段の指数(今を 1.0、名目))→ 売上 441 億円・営業利益 18 億円。益率 4.0%
- ケミカルマテリアル(HPC・機能材・化成品):数量 26.0(販売量(千トン、製品群の合計・推定))× 価格 14(1 トンあたりの平均単価(百万円、名目))→ 売上 357 億円・営業利益 18 億円。益率 5.0%
- トレーディング&ロジスティクス(日曹商事・三和倉庫):数量 62.0(取扱量(万トン、推定))× 価格 6.57(1 トンあたりの平均取扱単価(万円、名目))→ 売上 407 億円・営業利益 12 億円。益率 3.0%
- エンジニアリング・エコソリューション(その他):数量 3.2(稼働人月(千人月、推定))× 価格 4.80(1 人月あたりの売上(百万円、資材込み・名目))→ 売上 154 億円・営業利益 5 億円。益率 3.0%
倍率:低収益で、稼ぐ力(純利益 ÷ k = 約 520 億円)より売れる資産の税後のほうが大きい。今の自己資本 2,048 億円の約 3 割 7 分、750 億円を床として PBR 0.366 倍に置いた(資産の内訳から置いた)。純有利子負債 304 億円を今の値で足した EV ÷ 営業利益は 20 倍を超えるが、この筋書きは利益でなく資産で測っており、借金は資産側で引いてある。
確率:新農薬の海外展開が遅れ、旧世代の殺菌剤は後発品に取られ、HPC は増産が裏目に出る姿。少数の製品に利益が偏る事業の弱さを反映し、1 割強を置く(寿命の不安は k の quality にも入れたので、ここでは確率をさらに上げ下げしていない)。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
アグリビジネス(農薬・微生物農薬)
殺菌剤ピシロック、殺ダニ剤ダニオーテ、殺菌剤ミギワなどの農薬を自社で開発して売る。水稲向けのピシロックはクミアイ化学が販売する。
| 数量世界の農薬市場(実質・億ドル)× シェア | 価格1 単位あたりの値段の指数(今を 1.0、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.5 | 1.00 | 525 | 55 |
| 10 年後 中立 | 4.0 | 1.30 | 780 | 90 |
取り方:世界の農薬市場は年 700〜800 億ドル前後と推定(要確認)し、会社の農薬売上 525 億円(為替 150 円)から約 0.47% をシェアとして、数量は 3.5 億ドル相当(750 億ドル × 0.47%)と置く。価格は今を 1.0 とする指数。新規 3 剤が伸び、旧世代殺菌剤は後発品に取られる。
ケミカルマテリアル(HPC・機能材・化成品)
医薬品添加剤の HPC、樹脂添加剤、液状ポリブタジエン、感熱紙の顕色剤、殺菌剤・光触媒などの機能材と、ホスゲンや金属ナトリウムを使う受託製造を含む。
| 数量販売量(千トン、製品群の合計・推定) | 価格1 トンあたりの平均単価(百万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.0 | 12 | 374 | 57 |
| 10 年後 中立 | 35.0 | 17 | 585 | 88 |
取り方:開示がないので、高付加価値の機能材と少量の化成品が混ざる前提で平均単価を 1 トン 1,250 万円前後と推定し、売上 374 億円から販売量を約 3 万トンと置く。HPC の増産は数量に、機能材の値上げは単価に出る。
トレーディング&ロジスティクス(日曹商事・三和倉庫)
日曹商事が化学品の国内販売と輸出入を、三和倉庫が運輸・倉庫を担う。グループ製品の販路と物流を支える。
| 数量取扱量(万トン、推定) | 価格1 トンあたりの平均取扱単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 5.48 | 438 | 23 |
| 10 年後 中立 | 78.0 | 7.34 | 572 | 29 |
取り方:開示がないので、化学品の商社と倉庫の売上 438 億円を 1 トン 5.5 万円前後の平均単価で割り、取扱量を約 80 万トンと推定する。国内の化学品需要は人口とともに減る前提。
エンジニアリング・エコソリューション(その他)
日曹エンジニアリング・日曹建設がプラント建設・土木を、日曹金属化学が産業廃棄物処理を担う。受注には年ごとの波がある。
| 数量稼働人月(千人月、推定) | 価格1 人月あたりの売上(百万円、資材込み・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.6 | 4.00 | 184 | 17 |
| 10 年後 中立 | 4.5 | 5.36 | 241 | 21 |
取り方:開示がないので、工事・処理の売上 184 億円を資材込みで 1 人月 400 万円前後と推定し、稼働を約 4,600 人月と置く。大口工事の有無で年ごとに大きく振れる。
リスクと懸念
新農薬の特許切れと後発品
新規農薬も、特許が切れれば中国・インドの後発品が入り、利益率が急に落ちる。旧世代の殺菌剤ではすでにこの圧力が来ており、新製品を切れ目なく出し続けられるかが問われる。
HPC の増産と競合の動き
100 億円で二本木の能力を 1.5 倍にしたが、市場は世界で 2 億ドル前後と小さい。信越化学が低置換度の HPC を日独で増強するなど、競合も動く。需要が追いつかなければ稼働率が上がらず、減価償却だけが増える。
農薬の天候・季節性
農薬は季節の売り物で、天候不順や病害虫の発生の少なさで売上が振れる。2027 年 3 月期の第 1 四半期は利益が薄い。通期でならして見ないと、ある年だけ利益が大きく振れるように見える。
資本効率の改善が進まない
ROE の目標 10% は、会社が 8%、12%、10% と動かしてきた数字である。政策保有株の売却が遅れ、還元が細れば、自己資本が積み上がり ROE は 7% 台にとどまる。倍率も上がらない。
国内の化学品需要の縮み
商社と工事は、国内の化学品需要と工場投資に頼る。人口減で取扱量は減り、大口工事の有無で利益が振れる。利益率が低く、増えても全社の利益への貢献は小さいが、減ったときは全社の利益率を下げる。
外部技術の取り込みの失敗と減損
培養・ペプチド・フロー合成などの技術を外から取り込む方針で、外部の技術への投資や小口の買収が続く。失敗すれば減損が出る。大型買収を想定していない点は安心材料だが、小口でも当たりはずれは起きる。
今後の分かれ目
- 新規農薬 3 剤の海外売上が、会社の目標の 100 億円を超えたら
- 農薬の利益率が 12% を超える筋書きへ確率を移してよい。楽観とやや楽観の重みを上げる。
- HPC の増産設備の稼働率が 8 割を超え、欧州・インドの顧客が増えたら
- ケミカルマテリアルの利益率 17% 以上の筋書きに寄せてよい。HPC の価格が下がり始めたら逆に下げる。
- 政策保有株の比率が 6% 未満に下がり、売却益が自社株買いに回ったら
- ROE が 9% に近づき、倍率を上げる材料になる。売却益が内部にたまるだけなら、中立のままにする。
- 主力殺菌剤の後発品が国内外で広がり、農薬の利益率が 8% を割ったら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。新規 3 剤の伸びが追いつくかを確認する。
- 大口工事の受注が続き、エンジニアリングの利益が 2 年連続で伸びたら
- その他事業の利益率を上げる余地があるが、全社への効果は小さい。農薬と機能材の動きのほうを優先して見る。
- 大型買収の発表で、有利子負債が大きく増えたら
- 買収の対象が既存事業と近いかを確認する。遠い分野なら悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 新規農薬 3 剤の海外売上と登録の進み方
- HPC の増産設備の稼働率と価格
- 政策保有株の比率と売却益の使い道
- 農薬セグメントの通期の利益率
- 商社・エンジニアリングの受注と利益率
倍率と資本コストの決め方
農薬は世界市場 × シェア、機能材と商社と工事は販売量(推定)× 単価で 4 つのセグメントを積み、数量は実質、価格は物価 3% 込みの名目(中立で 10 年 1.30〜1.34 倍)で置いた。k は基本 7.5% に quality +0.5%(循環 +0.5・値決め力 −0.25・借金 0・寿命 +0.25)を足した 8.0%。倍率は利益ベースの正当化 PER を上限に、楽観 9 割、やや楽観 8.5 割、中立 9 割弱、やや悲観 7 割に置いた。悲観は稼ぐ力より売れる資産の税後が大きいので、資産の内訳から 750 億円と置いた。今の株価・今の PER・過去の PBR は参照していない。今の時価総額と比べるのは最後。新リース会計基準は店舗を借りる事業ではないので影響は小さく、10 年後の数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.8→15.85 倍・やや楽観 PER 11.2→14.62 倍・中立 PER 11→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。