結論
クミアイ化学工業は、農薬を主力に、半導体向けの化成品を持つ中堅の化学会社だ。国内の水稲向け除草剤では首位級で、売上の6割ほどを海外で稼ぐ。筆者の結論は、10年先の本質価値は今の時価総額を大きく下回る、つまり割高というものだ。最大の理由は、稼ぎ頭の除草剤「アクシーブ」にジェネリック(特許が切れたあとの後発品)が入り始めたことにある。
アクシーブの売上は、今期の会社予想で約670億円と、中計の目標842億円に届かない。会社は今期の営業利益予想を72億円から27億円へ引き下げた。値下がりで在庫の評価損が出たためだ。数量が残っても、値段が戻らない薬は利益を生みにくい。
救いは2つある。新剤のエフィーダなどが育つこと、そして半導体向けの化成品だ。ただ、この2つが穴を埋めても、10年後の営業利益は今と同じ程度にとどまると筆者は見る。物価が年3%で上がる世界では、利益が横ばいなら実質では縮んでいる。
資本の稼ぎも低い。10年後の中立でROE(自己資本利益率)は5%を割り、資本コストの8.8%に遠く届かない。ためた利益が帳簿の値より低く評価される会社だ。純資産倍率が今は1倍を大きく割っているが、それだけでは割安の根拠にならない。
確率は慎重な側に寄せた。ジェネリックの値崩れはすでに起きている事実で、新剤の成功はまだ約束されていないからだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10年後も稼ぎ続けられる事業か」を問う。クミアイ化学は、農薬という必要な産業の中にいる。だが利益の源は単一の薬で、その特許防衛が崩れ始めた。これが最も重い。
次に、残る利益を見る。設備と研究に毎年多くの資金が要り、株主が自由に使えるオーナー利益は、営業利益よりかなり小さい。ROEが資本コストに届かない以上、ためた利益は額面より低くしか評価できない。純資産倍率が1倍を割っていることは、割安の根拠ではなく、稼ぐ力の低さの反映と考える。
経営については、新剤を創り、特許で守り、海外に出る力は評価できる。一方で、アクシーブへの依存度を下げる手を、値崩れの前に打てたとは言いにくい。安全域は、悲観の値が今の値段を割る点で確保されている。ただ、強気の筋書きでも倍率が低く、上振れ幅は限られる。
筆者は、この会社を「持ち続けたい事業」とは見ない。新剤がアクシーブ並みに育つ確かな証拠が出るまでは、判断を保留する。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は農薬だ。2025年10月期の売上1,705億円のうち、農薬及び農業関連が1,357億円を占める。化成品は251億円、その他事業は97億円である。
農薬の中身は大きく3つに分かれる。1つ目は、会社自身が創り出した除草剤アクシーブだ。有効成分はピロキサスルホンで、米国・ブラジル・アルゼンチン・豪州など25カ国で登録されている。大豆やトウモロコシ、麦の畑で使われ、売上は今期予想で約670億円。農薬全体の約半分を占める。2つ目は国内の農薬で、水稲向けの一発処理除草剤では首位を保つ。3つ目が新剤のエフィーダとディザルタだ。エフィーダは日本を含む3カ国で登録され、韓国で伸びている。ディザルタは2023年に韓国で売り始めた。
化成品は半導体向けの高純度COSガスとBMI類が主力だ。会社は売上300億円超を目指している。
会社は2017年にイハラケミカル工業を吸収合併し、今の姿になった。海外売上比率は6割ほどで、アクシーブの米国向けが最も大きい。つまり利益の源は、ほぼ海外の除草剤1品目に集まっている。この集中が、今の評価を左右する最大の点だ。
優良さと弱いところ
堀は薬ごとに強さが違う。国内の水稲向け除草剤は、農家との長い取引と登録の蓄積があり、首位を守っている。ただ、市場は人口と作付面積の減少で細る一方で、利ざやも薄い。
アクシーブは、自社で創った成分だ。かつては高い益率を稼いだ。堀は特許だったが、いまは物質そのものの独占ではなく、中間体と製造工程の特許で守る形になっている。会社は中国で中間体の特許侵害を認めさせ、豪州でも製造工程の特許を得た。それでも米国ではジェネリックが入り、値段が下がっている。特許で時間は稼げても、値下がりを止める力は弱い。
資本の稼ぎは目立たない。ROEは過去10年の中央値で7.5%、直近は3%まで落ちた。自己資本比率は58%と厚く、純有利子負債は293億円と重くない。財務は堅い。堅さは強みだが、使い道が成長投資の少ない薄利の国内農薬に偏れば、資本の稼ぎは上がらない。
筆者が最も気にするのは、利益の大半が単一の薬に依存する点だ。1つの成分の特許が切れたあと、次の稼ぎ頭が育つかどうかが、会社の質を決める。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
農薬業界は、世界の大手と、特許切れ後の薬を作るジェネリック勢の二層に分かれる。ジェネリックの上位には、インドのUPL、シンジェンタ傘下のADAMA、豪州のNufarm、住友化学などが並ぶ。ADAMAはクミアイ化学の豪州の特許に異議を申し立てた会社でもある。
新しい成分を創れる会社は限られる。新剤の開発には10年ほどかかり、登録も国ごとに必要になる。これが参入障壁だ。ただし、特許が切れた成分は別で、中国やインドの製造コストの低い会社が参入し、値段は急に下がる。除草剤は特に、この動きが速い。
国内は人口と農家の減少で、作付面積が細る。農薬メーカーは海外展開か新剤で成長を探るしかない。海外は、米国の大豆・トウモロコシ、ブラジルの大豆が主戦場だ。ここでは農産物市況が悪いと農家が薬剤費を削り、値下げ圧力が強まる。
半導体向けの化成品は別の業界で、顧客は半導体メーカーだ。AI向けの投資で需要は強いが、競合の化学会社も多く、価格を自分で決められる領域は限られる。クミアイ化学の化成品は、この中では小さな存在である。農薬との共通点は、顧客との長い取引と品質の信頼が価格を支える点で、ここは農薬の国内部門とも通じる。
資本政策と M&A
資本の使い方は、いまのところ守りに傾いている。配当性向は30%以上を目標とし、2025年10月期は37.5%だった。自社株買いは目立たない。
中計の3年間では、約900億円の資金を見込む。営業のキャッシュフローで約600億円、借入で約300億円だ。使い道は設備に約280億円、研究開発に約220億円、戦略投資に約130億円。配当に約120億円、借入返済に約150億円を充てる。ただ、アクシーブの値崩れで、この資金計画の前提は崩れた。会社自身が、2026年10月期の営業利益を当初目標より約88億円少なくなると示している。
筆者が見るのは戦略投資の中身だ。会社はM&Aの実施を中計に掲げる。アクシーブを補う新たな柱を買うなら、値段しだいで株主の価値を高めることも壊すこともある。大株主や政策保有株の状況は、確認できる資料がなかったため、ここでは評価しない。時価総額が小さい会社の1割強という買収の確率は、参考値にとどまる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
アクシーブは、ジェネリックが入っても簡単には崩れない。会社は中国で中間体の特許侵害を認めさせ、差止めの命令を得た。豪州では製造工程の特許が2040年まで有効で、ADAMAの異議も退けた。原体の安定供給を押さえる限り、ジェネリックは同じ品質と値段で作りにくい。今期の営業利益が小さいのは、在庫の評価損という一過性の費用が大きい。
新剤の層も厚くなる。エフィーダは韓国で伸び、米国・アジア・中南米へ広がる準備が進む。ディザルタも韓国で立ち上がった。国内でも豆つぶ剤など新製品を毎年出しており、会社は世界中の農家に薬を届ける販売網と登録の経験を持つ。新剤1つがアクシーブの半分に育つだけで、利益の穴は埋まる。
化成品も追い風だ。半導体向けのCOSガスとBMI類は、AI投資で需要が伸びる。会社は売上300億円超を目指しており、益率は農薬より高くなる見込みがある。自己資本比率が58%と厚い財務は、値崩れの期間を耐える体力だ。物価が年3%で上がる世界で、農業資材は食料の必需品であり、需要は景気に左右されにくい。株価はすでに、これらの回復の余地をほとんど織り込んでいない。
慎重な見方
アクシーブは、すでに値崩れが始まっている。米国でジェネリックが入り、アルゼンチンと豪州でも競争が激しい。会社は今期の営業利益予想を72億円から27億円へ下げ、在庫評価損を出した。一度下がった除草剤の値段は、ほとんど戻らない。会社の中計が掲げた営業利益160億円は、もう届かない数字だ。
特許の防衛も万能ではない。会社が守るのは中間体と製造工程で、物質そのものの特許ではない。迂回する製法を作られれば、防衛線は破られる。中国での勝訴も、中国国内での話だ。新剤は、アクシーブの穴を埋めるには小さすぎる。エフィーダの今期予想は約105億円で、アクシーブの6分の1にすぎない。新剤の登録と販売拡大には、年単位の時間がかかる。
国内の農薬は、人口と農家の減少で縮み、利ざやも薄い。化成品は競争の厳しい領域で、売上の規模が小さく、利益の下支えにはならない。資本の稼ぎ(ROE)は直近で3%まで落ちており、資本コストを下回る状態が続く。ためた利益は、帳簿の値より低く評価されるだけだ。単一の薬に依存した会社の利益が、物価の伸びにも追いつかない構図は、割安ではなく、割高を意味する。
どちらに重みを置いたか
特許による防衛と新剤の層について、強気の言い分には根拠がある。だが、値崩れはすでに起きている事実で、会社自身が営業利益を大きく下方修正した。新剤の立ち上がりは未確定で、数字もアクシーブの6分の1にとどまる。慎重な言い分が、いま確かめられる事実に沿っている。
確率は慎重側に寄せた。中立を34%と最も厚くし、やや悲観に28%、悲観に16%を置いた。楽観は6%にとどめた。ROEが資本コストに届かないため、強気の筋書きでも倍率は低い。結果は本質価値が今の値段を下回る形になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/10 期)
確率で加重した株価時価総額 733 円883 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 196 円236 億円)。 今の値に割り戻すと 454 円547 億円、今との差 −30.9%、 期待の年率 +3.5%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 1,861 円2,242 億円 | 377 円454 億円 | +240.6% | +13.0% | 134 円162 億円 |
| やや楽観 | 16% | 1,247 円1,503 億円 | 277 円334 億円 | +132.0% | +8.8% | 244 円294 億円 |
| 中立 | 34% | 818 円985 億円 | 204 円246 億円 | +55.6% | +4.5% | 347 円419 億円 |
| やや悲観 | 28% | 368 円443 億円 | 164 円198 億円 | −19.0% | −2.1% | 149 円180 億円 |
| 悲観 | 16% | 252 円303 億円 | 83 円100 億円 | −49.0% | −6.5% | 54 円65 億円 |
| 加重平均 | 100% | 733 円883 億円 | 196 円236 億円 | +41.3% | +3.5% | 928 円1,118 億円 |
今の株価時価総額 657 円791 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 新剤と半導体材料が育ち、アクシーブの値崩れも限られる 利益 187 億円 · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 1,861 円2,242 億円
アクシーブはジェネリックの参入後も、会社が押さえる中間体と製造工程の特許が効き、原体の供給でも優位を保つ。実質の値段は1割ほど下がるだけで、数量は主要市場で今の水準を保つ。新剤のエフィーダとディザルタは韓国に続いて米国・アジア・中南米で登録が進み、国内の水稲用の新剤も広がる。その他農薬の益率は6.5%まで上がる。
化成品は半導体向けの高純度COSガスとBMI類が伸び、売上は今の倍になる。益率も11%まで改善する。合計の営業利益は今の2倍を超え、中計が描いた姿に近づく。ただ、これは値崩れを特許で止める難しい勝負に勝ち続けた場合の話だ。
- 除草剤アクシーブ(ピロキサスルホン剤・海外が中心):数量 2,000(アクシーブ剤の処理のべ面積(万 ha、実質))× 価格 3,618(1ha あたり売上(円、名目))→ 売上 724 億円・営業利益 116 億円。益率16%、特許で防衛
- その他の農薬・農業関連(国内水稲・野菜果樹向け、エフィーダ・ディザルタなど新剤、海外のその他):数量 1,250(農薬の処理のべ面積(万 ha、実質))× 価格 10,500(1ha あたり売上(円、名目))→ 売上 1,312 億円・営業利益 85 億円。益率6.5%、新剤が拡大
- 化成品・その他(高純度COSガス・BMI類など半導体向け材料、その他事業):数量 13.0(出荷量(万トン、推定。実質))× 価格 54(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 697 億円・営業利益 77 億円。益率11%、半導体向けが倍増
倍率:事業の純利益 187 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.9 倍。全体の PER 11.94 倍、時価総額 2,233 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中計が描く新剤の拡販と、特許によるアクシーブの防衛が両方うまくいく必要がある。値崩れがすでに始まっているため、実現の確度は低く 6% にとどめた。
やや楽観 16% 新剤が穴を埋め、アクシーブは半分近くまで値を下げて踏みとどまる 利益 127 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,247 円1,503 億円
アクシーブはジェネリックで実質の値段を2割近く下げるが、数量は今の水準を保つ。益率は12%に下がる。新剤のエフィーダとディザルタが国内外で伸び、その他農薬の益率は5%まで上がって穴を埋める。
化成品は半導体向けが伸び、売上は今の1.7倍になる。益率は9.5%に上がる。全体の営業利益は今の5割増しになる。これはアクシーブの失った分を新剤と半導体材料が上回る場合だ。会社の中計の筋書きに最も近い。それでもROEは資本コストに届かず、倍率は低いままとなる。農家との取引と登録の蓄積が、新剤の展開を後押しする。
- 除草剤アクシーブ(ピロキサスルホン剤・海外が中心):数量 1,900(アクシーブ剤の処理のべ面積(万 ha、実質))× 価格 3,296(1ha あたり売上(円、名目))→ 売上 626 億円・営業利益 75 億円。益率12%
- その他の農薬・農業関連(国内水稲・野菜果樹向け、エフィーダ・ディザルタなど新剤、海外のその他):数量 1,150(農薬の処理のべ面積(万 ha、実質))× 価格 10,200(1ha あたり売上(円、名目))→ 売上 1,173 億円・営業利益 59 億円。益率5%
- 化成品・その他(高純度COSガス・BMI類など半導体向け材料、その他事業):数量 11.3(出荷量(万トン、推定。実質))× 価格 54(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 606 億円・営業利益 58 億円。益率9.5%
倍率:事業の純利益 127 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 1,494 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新剤(エフィーダ・ディザルタ)と半導体向け化成品が順調に育つが、アクシーブの値下がりは止まらない筋書き。会社の中計の延長線で、楽観の手前に置く。
中立 34% 中立:ジェネリックで稼ぎ頭が痩せ、他の事業が穴を埋めて横ばい 利益 83 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 818 円985 億円
ジェネリックの参入で、アクシーブの数量は今の8割、実質の価格は2割下がる。物価で名目の値段は上がるが、実質の下げが勝ち、売上は今の85%ほどになる。益率も13%台から8%へ下がる。
新剤と国内農薬は物価並みに上がり、その他農薬の売上は今より4割増える。益率は4%で、国内の薄い利ざやからは抜け出せない。化成品は半導体向けが実質で伸び、益率は8.5%まで上がる。
結局、営業利益は今と同じ100億円前後にとどまる。物価が3%で上がる世界では、これは実質で3割近い目減りだ。自己資本は純利益のためこみで増えるが、稼ぐ力は変わらず、ROEは5%を割る。
- 除草剤アクシーブ(ピロキサスルホン剤・海外が中心):数量 1,600(アクシーブ剤の処理のべ面積(万 ha、実質))× 価格 3,216(1ha あたり売上(円、名目))→ 売上 515 億円・営業利益 41 億円。益率8%
- その他の農薬・農業関連(国内水稲・野菜果樹向け、エフィーダ・ディザルタなど新剤、海外のその他):数量 1,060(農薬の処理のべ面積(万 ha、実質))× 価格 10,050(1ha あたり売上(円、名目))→ 売上 1,065 億円・営業利益 43 億円。益率4%
- 化成品・その他(高純度COSガス・BMI類など半導体向け材料、その他事業):数量 10.0(出荷量(万トン、推定。実質))× 価格 54(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 536 億円・営業利益 46 億円。益率8.5%
倍率:事業の純利益 83 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.6% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 976 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値崩れを前提に、アクシーブが数量・価格とも縮み、新剤・国内農薬・化成品が名目の伸びで補う筋書き。強気と慎重の言い分の落としどころとして最も厚く置く。
やや悲観 28% アクシーブの値崩れが米国以外にも広がり、新剤の立ち上がりも遅れる 利益 39 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 368 円443 億円
アクシーブの値崩れが米国だけでなく、アルゼンチン・豪州・ブラジルにも広がる。数量は今の6割、実質の価格は4割安まで落ち、益率は2%に沈む。会社が頼る中間体の特許も、完全には防げない。
新剤は登録に時間がかかり、立ち上がりが遅れる。エフィーダの韓国での伸びも、他国へ広がる前に競合剤に押される。その他農薬の益率は3%に下がる。化成品は半導体向けの伸びが鈍り、益率は6%にとどまる。
営業利益は今の3分の1に減る。配当を維持するために、自己資本を取り崩す年も出る。経営は中計の目標を下げ、在庫と設備の整理に追われる。ROEは2%前後で、資本コストに遠く及ばない。ただ事業は黒字を保ち、国内の水稲向けと化成品が下支えとなる。
- 除草剤アクシーブ(ピロキサスルホン剤・海外が中心):数量 1,200(アクシーブ剤の処理のべ面積(万 ha、実質))× 価格 2,412(1ha あたり売上(円、名目))→ 売上 289 億円・営業利益 9 億円。益率2%
- その他の農薬・農業関連(国内水稲・野菜果樹向け、エフィーダ・ディザルタなど新剤、海外のその他):数量 1,000(農薬の処理のべ面積(万 ha、実質))× 価格 9,750(1ha あたり売上(円、名目))→ 売上 975 億円・営業利益 29 億円。益率2.5%
- 化成品・その他(高純度COSガス・BMI類など半導体向け材料、その他事業):数量 9.2(出荷量(万トン、推定。実質))× 価格 52(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 478 億円・営業利益 29 億円。益率6%
倍率:事業の ROE 2.4% が k 8.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.4 倍。稼ぎ頭が縮み続ける会社で、堀の持ちを低く見て、上限の 8 割弱の 9.0 倍に置いた(稼ぎは細っても、国内農薬と化成品が残る)。
確率:ジェネリックの値下げが米国だけでなくアルゼンチン・豪州にも広がっており、すでに起きている事実の延長にある。新剤が立ち上がる前に利益が削られる形で、慎重側に厚く置く。
悲観 16% アクシーブが総崩れになり、新剤も育たず減損に追われる 利益 −60 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 252 円303 億円
アクシーブの特許防衛が崩れ、中国・豪州でも低価格品が出回る。数量は今の3分の1、実質の価格は半値以下になり、益率は赤字に落ちる。会社は在庫評価損と減損を重ねる。
新剤は登録の遅れや競合剤の出現で売上が育たない。その他農薬も国内の縮小と原価高で益率がゼロ近辺に沈む。化成品だけが細く黒字を保つ。
営業利益は赤字となり、配当は最低限に絞られる。株主資本は減損で削られ、事業の値打ちは稼ぐ力ではなく、持っている工場・土地・投資有価証券の売却額で測られる。会社は規模の縮小と事業の売却に踏み出さざるをえなくなり、他社による買収や再編の対象になる可能性も高まる。
- 除草剤アクシーブ(ピロキサスルホン剤・海外が中心):数量 700(アクシーブ剤の処理のべ面積(万 ha、実質))× 価格 1,809(1ha あたり売上(円、名目))→ 売上 127 億円・営業利益 −8 億円。営業赤字
- その他の農薬・農業関連(国内水稲・野菜果樹向け、エフィーダ・ディザルタなど新剤、海外のその他):数量 880(農薬の処理のべ面積(万 ha、実質))× 価格 9,000(1ha あたり売上(円、名目))→ 売上 792 億円・営業利益 −8 億円。益率−1%
- 化成品・その他(高純度COSガス・BMI類など半導体向け材料、その他事業):数量 8.0(出荷量(万トン、推定。実質))× 価格 48(1 トンあたり平均単価(万円、名目))→ 売上 384 億円・営業利益 12 億円。益率3%
倍率:赤字なので稼ぐ力では値が付かない。売れる資産の税後 300 億円(今の自己資本 1,445 億円の約 2 割)に置いた。
確率:アクシーブの特許防衛(中国の中間体特許・豪州の製造工程特許)が崩れ、新剤も育たない最悪の組み合わせ。単剤依存の度合いが高いので、他の領域より悲観を厚く 16% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
除草剤アクシーブ(ピロキサスルホン剤・海外が中心)
会社が創り出した除草剤で、米国・ブラジル・アルゼンチン・豪州など 25 カ国で登録。大豆・トウモロコシ・麦の畑で使われ、売上の 3 分の 1 強、利益の過半を稼ぐ。
| 数量アクシーブ剤の処理のべ面積(万 ha、実質) | 価格1ha あたり売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 2,000 | 3,000 | 600 | 80 |
| 10 年後 中立 | 1,600 | 3,216 | 515 | 41 |
取り方:会社はアクシーブの売上を個別に開示している(2026 年 10 月期の予想 673 億円、中計目標 842 億円)。2025 年 10 月期は前年から 44 億円伸びたとの開示をもとに約 600 億円と推定した。米国の大豆・トウモロコシ・ブラジルの大豆などで合計 2,000 万 ha ののべ面積に、1ha あたり薬剤費を 3 千円前後と置いた(推定)。中立の価格は物価の 1.34 倍に対し、ジェネリックによる実質 2 割安を織り込み 1.07 倍とした。営業利益は農薬事業の 106 億円を、アクシーブ 80 億円・その他農薬 26 億円に配分した推定。
その他の農薬・農業関連(国内水稲・野菜果樹向け、エフィーダ・ディザルタなど新剤、海外のその他)
国内の水稲向け除草剤(一発処理剤で首位級)・殺虫剤・殺菌剤、豆つぶ剤、新剤のエフィーダ・ディザルタ、肥料や農業資材の販売など。
| 数量農薬の処理のべ面積(万 ha、実質) | 価格1ha あたり売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 1,010 | 7,500 | 757 | 26 |
| 10 年後 中立 | 1,060 | 10,050 | 1,065 | 43 |
取り方:農薬及び農業関連事業の売上 1,357 億円からアクシーブの約 600 億円を引いた約 757 億円を、国内外ののべ処理面積約 1,010 万 ha(推定。国内の水稲 130 万 ha 強と野菜・果樹・畑作、海外の新剤の面積の合計)で割り、1ha あたり 7 千 5 百円前後と置いた。国内は面積が減り、新剤と海外が補う。
化成品・その他(高純度COSガス・BMI類など半導体向け材料、その他事業)
半導体向けの高純度COSガスとBMI類を主力とする化成品事業と、その他事業の合計。
| 数量出荷量(万トン、推定。実質) | 価格1 トンあたり平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 8.7 | 40 | 348 | 24 |
| 10 年後 中立 | 10.0 | 54 | 536 | 46 |
取り方:化成品事業の売上 251 億円とその他事業の 97 億円(営業利益は 15 億円と 9 億円)の合計 348 億円を、出荷量約 8.7 万トン(推定)で割り、平均単価約 40 万円/トンと置いた。半導体向けの高単価品の比率が上がるので、単価は物価にやや上乗せして伸びる。
リスクと懸念
アクシーブの値崩れが深く、長く続く
米国に続き、アルゼンチン・豪州でもジェネリックとの競争が激しくなっている。値下がりが実質で半分になれば、売上と利益の柱が同時に細る。会社は在庫評価損を出し、今期の営業利益予想を72億円から27億円へ下げた。この傾向は、今期で終わらない可能性が高い。
特許の防衛線が破られる
会社が守る特許は、中間体と製造工程のものだ。中国の裁判所は侵害を認めて差止めを命じたが、迂回する製法を作られれば効力は弱まる。豪州の製造工程特許は2040年10月まで有効とされるが、無効審判や異議申立ては繰り返される。単一成分への依存が最大の弱点だ。
新剤の立ち上がりが遅れる
エフィーダやディザルタは、登録と販売拡大に年単位の時間がかかる。アクシーブの穴を埋める規模に育つ前に、利益が削られる期間が生じる。エフィーダの今期予想は約105億円で、アクシーブの6分の1にとどまる。
国内農薬市場の縮小と薄い利ざや
国内は人口と農家の減少で作付面積が細る。全体の売上の約半分を占める農薬の国内部門は、利ざやも薄い。新剤で単価を上げられなければ、物価の分を転嫁できず、益率が下がる。
戦略投資・M&Aの失敗
中計はM&Aの実施を掲げ、戦略投資に約130億円を見込む。アクシーブを補う柱を買う動機が強い分、高値で買うリスクもある。のれんの減損が出れば、資本の稼ぎ(ROE)はさらに下がる。
農産物市況の悪化と農家の薬剤費削減
米国の大豆・トウモロコシ価格が下がると、農家は薬剤費を削る。ジェネリックの値下げ圧力が強まる局面と重なれば、数量と価格の両方が下がる。
今後の分かれ目
- アクシーブの米国での価格と数量が、ジェネリック参入後も底打ちしたら
- 中立の価格の前提(実質2割安)を上方修正し、やや楽観側の確率を上げてよい。底打ちの確認には、複数の四半期の売上と在庫評価損の有無を見る。
- 中国や豪州で、会社の特許が無効にされるか、迂回する製法が認められたら
- アクシーブの防衛線が崩れたとみて、やや悲観・悲観の確率を上げる。値下がりは世界へ広がる。
- エフィーダ・ディザルタが米国や中南米で登録され、売上が大きく伸び始めたら
- 穴埋めの確度が上がる。その他農薬の益率と売上の前提を上げ、楽観側へ重みを移す。
- 会社が大型のM&Aを高値で実施したら
- のれんの減損と資本効率の悪化に備え、やや悲観側へ重みを移す。割安な買収で新しい柱を得た場合は、逆に上方に動かす。
- 半導体向けの高純度COSガス・BMI類の売上が300億円を超え、益率も上がったら
- 化成品の益率と数量の前提を上げ、やや楽観の確率を上げてよい。
- 農産物市況が悪化し、米国・ブラジルの農家が薬剤費を削ったら
- 数量と価格の両方を引き下げ、やや悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- アクシーブの地域別売上(米国・アルゼンチン・豪州・ブラジル)と在庫評価損の有無
- 中国・豪州・米国での特許の判断(無効審判・異議申立て・侵害訴訟)
- エフィーダ・ディザルタの登録国数と売上
- 中期経営計画の目標(営業利益160億円・ROE11%)の修正の有無
- 半導体向けの化成品(高純度COSガス・BMI類)の売上と益率
- M&Aの実施と、のれんの減損の有無
倍率と資本コストの決め方
数量は実質(処理のべ面積・出荷量)、価格は物価3%込みの名目で、3つの事業に分けて積んだ。アクシーブの実質価格は、中立でジェネリックによる2割安を置き、悲観は半値以下まで下げた。資本コストは基本7.5%に quality +1.3%(値決め力 +0.5%・寿命 +0.8%)を足した8.8%。倍率は利益ベースの正当化PERを上限に、楽観9割・やや楽観8.5割・中立7.5割に置いた。今の株価・今のPER・過去のPBRの底は参照していない。最後に今の時価総額と比べた。形が変わる新リース会計基準は、今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.2→11.94 倍・やや楽観 PER 9.7→11.76 倍・中立 PER 8.5→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。