結論
日本化学工業は、クロム化合物やりん製品を作る基礎素材と、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の誘電体材料を作る電子材料の二本立てだ。筆者の結論は「割高」。電子材料の伸びは本物だが、それを払っても資本が厚すぎて株主の取り分が増えにくい。
いちばんの強みは、クロム化合物の国内唯一のメーカーという立場だ。使用済みの廃液を回収して再生する仕組みも持つ。だがこの事業は伸びず、利益率も 5% 前後と薄い。
成長を担うのは、MLCC 向けのチタン酸バリウムだ。AI サーバーと車載で MLCC の使用量は増える。福島第一工場の増強と TDK との合弁も、方向としては正しい。ただ過去 10 年の営業利益率は 3〜11% で、この会社が高収益だった時期はない。
問題は資本だ。自己資本は 500 億円を超え、ROE は 5〜6% にとどまる。資本コスト 7.75% に届かない会社の自己資本は、帳簿の値では評価されない。
10 年後の中立の営業利益は今の 2.3 倍ほどで、会社の目標をやや下回る。それでも倍率は ROE が縛り、確率で重みづけた本質価値は今の時価総額より 3 割強低い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、これは「持ち続けたい事業」とは言いにくい。クロムとりんの基礎素材は、利益率が薄く、輸入品の影響を受ける。電子材料は伸びるが、大手顧客の言い値に近い世界で、堀は深くない。
払う値段に見合う利益を、会社が資本から生めるかという問いでは、厳しい答えになる。自己資本 500 億円に対して、過去 10 年の純利益は年 20 億円前後。ROE は 5〜6% で、資本コストの 8% 台を下回る。この状態では、会社が内部に溜める利益は、額面より小さな価値しか持たなくなる。
株主のものになる利益、つまり設備の維持と更新に使う分を引いた後の利益は、さらに小さい。装置産業なので、減価償却に近い額の投資が毎年要る。
良い点は、倒産の心配が小さいことだ。借金は軽く、財務は健全。10 年後に会社がなくなるシナリオは見えにくい。
ただ、会社が良いことと、株が割安なことは別だ。筆者が許容できる値段は、今より 3 割ほど低い水準になる。電子材料が思った以上に上振れしたときの上振れを待つ、という構えである。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は二つあり、売上はほぼ半々だ。
一つめは化学品事業。クロム化合物(めっきや顔料、皮革なめしに使う)、りん製品(半導体向け高純度りん酸、食品添加物、ガラス用)、珪酸ソーダを作る。クロム化合物は国内で唯一、廃液を回収して再生する工程も徳山工場で持つ。景気に近い基礎素材で、利益率は薄い。
二つめは機能品事業。中心は電子セラミック材料のチタン酸バリウムで、MLCC の誘電体層の原料になる。福島第一と徳山の 2 拠点で作る。ほかに高純度ホスフィンや赤燐(半導体のドーパントや化合物半導体の原料)、量子ドット向けのりん原料、回路材料も扱う。顧客は村田製作所、TDK などの部品メーカーと半導体メーカーだ。
利益の重心は機能品に移っている。今期は 24 億円の営業利益のうち、機能品がおよそ 8 割を稼いだとみる(セグメント別の細かい数字は開示から筆者が推定した)。生産拠点の集約や関連会社の整理も、この 2 年で進めた。
売上の伸びは数量より値段の改定に頼る部分が大きく、基礎分野の採算の改善が続く限り、機能品の増強が全社の利益に効く構図が強まる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、狭く部分的だ。クロム化合物は国内唯一でも、市場そのものが小さく、安い輸入品がいつでも入ってくる。唯一であることは値上げの力になっていない。
機能品のチタン酸バリウムは、顧客が村田製作所や TDK のような世界の大手に限られ、品質の認定を受けると長く使われる。ただ競合は堺化学、共立マテリアル、富士チタン工業と石原産業の連合(村田との合弁を計画)など複数おり、大手顧客は内製もできる。値決めの主導権は顧客側にある。
資本の効率は低い。ROE は過去 10 年の中央値で 5.7%、最良の年でも 9% に届かなかった。営業利益率の最高は 11%。会社も中計の ROE 目標を 6% とし、2030 年度でも 8% と、資本コストに届く計画を掲げていない。筆者はこの目標の低さを、誠実さとも、野心の薄さとも読む。
財務は堅い。自己資本比率は 64%、純有利子負債は自己資本の 0.13 倍。倒れる会社ではない。ただ、守りの厚さが ROE を押し下げているのも事実だ。
中計は、2026 年度の売上 490 億円・営業利益 33 億円という目標を、MLCC と半導体の回復の遅れで達成できない見込みだ。計画を外す癖があることは、数字に織り込んでおく。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社は、二つの別々の市場の合成で動く。
基礎化学品(クロム・りん・珪酸ソーダ)は、国内の成熟した需要だ。数量は人口と製造業の動きで横ばいから微減。安い輸入品の流入が、値上げの天井を決める。業種ノートが言う汎用品の見方(中国との価格競争で名目 2〜3%)がそのまま当てはまる。
電子材料は、別の景気で動く。MLCC は、スマートフォン、車載、AI サーバーで使用量が増え続ける部品だ。サーバー 1 台あたりの MLCC 数は、一般のサーバーより大幅に多い。世界の電子材料の成長は名目で年 5〜7%(業種ノート)。この会社はその中で、福島第一の増強(2027 年度に能力が約 1.5 倍)で追う。
半導体向けの高純度赤燐や、量子ドット向けのりん原料も伸びる分野だが、規模はまだ小さい。
循環の位置は、MLCC が数年の調整を終えて回復に向かう途中だ。半導体は先端が好調で、中位は弱い。
この領域の分かれ目は、電子材料の採用拡大のペースと、顧客の内製化が進むかどうかだ。TDK との合弁(TDK 51%・日本化学工業 49%、2026 年 4 月設立)は、顧客と一緒に開発を進める布石だが、価格交渉力まで強めるとは限らない。
資本政策と M&A
還元の方針は、総還元性向 40% または純資産配当率(DOE)2% の高い方だ。直近の配当は 配当を毎年増やす水準で、自社株買いも続けている(2026 年 7 月の枠は上限 5 億円)。総額は純利益の 4〜5 割に当たる。
政策保有株、つまり取引先の株式は、純資産の 10% 以下を 2030 年度に目指す。売却で得た資金は、設備と還元に回る。
設備投資は 3 年で約 200 億円の計画で、半導体向けの一部は後ろ倒しにした。福島第一・福島第二の増強は 2027 年度の稼働を予定する。投資の元が取れるかは、電子材料の需要次第だ。
再編では、関東珪曹硝子と東邦顔料工業の解散、書店事業の撤退を済ませた。身軽にはなったが、今の資本の厚さを減らす手は打っていない。
買われる側の可能性は、データ上は 10 年以内に 23% ほどとされる。株主構成の詳細は確認できていないので、買収を前提にした見方はしない。自己資本が厚く時価総額が小さいため、資本の使い方を問う株主が現れても不思議ではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
MLCC の需要は構造的に増えている。AI サーバーは一般のサーバーよりはるかに多くの MLCC を使い、車載も電動化で 1 台あたりの数が増える。誘電体材料の世界は、品質の認定を受けた会社に長く仕事が来る。日本化学工業はその認定を村田や TDK から受け、TDK とは合弁まで組んだ。福島第一の増強で能力は約 1.5 倍になる。
高純度赤燐とホスフィン誘導体も、化合物半導体と量子ドットの用途で新しく立ち上がる。これらは数量が少ない代わりに利益率が高く、機能品全体の利益率を押し上げる。
化学品は、クロム唯一のメーカーとして、廃液の回収で循環型の仕組みを持つ。環境規制が厳しくなるほど、この立場は強くなる。身軽になった今は、会社の 2030 年度の目標(営業利益 60 億円)が射程に入る。配当を大きく増やし、総還元性向 40% 以上を掲げる会社の変化は本物で、ROE も 8% の目標に向けて動き始めた。
慎重な見方
この会社に高収益の時期はなかった。過去 12 年の営業利益率は最高でも 11%、最悪は赤字だ。計画も繰り返し外れている。2026 年度の目標(営業利益 33 億円)は届かない見込みで、今期は営業利益が前期から 3 割近く減った。
チタン酸バリウムは、堺化学、共立マテリアル、富士チタンと石原産業、そして大手顧客自身の内製と競う。値段を決めるのは顧客だ。福島の増強は、需要が外れれば重い固定費として残る。AI の設備投資に頼る需要は、反動も大きい。
基礎化学品は、輸入品に押され、クロムの国内唯一という立場は値上げにつながっていない。自動車のめっき需要も、電動化や規制の変化で細る可能性がある。
そして資本だ。ROE が資本コストを下回る会社が、さらに設備を増やし、自己資本を積み上げれば、1 株あたりの価値はほとんど増えない。10 年後に利益が 2 倍強になっても、倍率は 10 倍強が上限で、今の時価総額を大きく超えにくい。
どちらに重みを置いたか
電子材料の需要の強さは確かで、悲観が全面的に正しいわけではない。ただ強気の主張は、需要が伸びることを言うだけで、その利益が株主に残ることを示していない。ROE が資本コストを下回る事実と、計画を外してきた実績が重い。確率は中立を厚くし、悲観側(やや悲観と悲観で 3 割)に少し寄せた。上振れ側(楽観とやや楽観で 3 割)も残してあるのは、MLCC の需要が実際に増えているからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,845 円508 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,688 円147 億円)。 今の値に割り戻すと 3,933 円342 億円、今との差 −16.4%、 期待の年率 +4.8%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 11,065 円961 億円 | 2,648 円230 億円 | +191.4% | +11.3% | 1,234 円107 億円 |
| やや楽観 | 22% | 8,020 円697 億円 | 2,187 円190 億円 | +116.9% | +8.1% | 2,246 円195 億円 |
| 中立 | 38% | 6,089 円529 億円 | 1,727 円150 億円 | +66.1% | +5.2% | 2,970 円258 億円 |
| やや悲観 | 21% | 2,625 円228 億円 | 1,266 円110 億円 | −17.3% | −1.9% | 817 円71 億円 |
| 悲観 | 10% | 2,199 円191 億円 | 461 円40 億円 | −43.5% | −5.5% | 266 円23 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,845 円508 億円 | 1,688 円147 億円 | +60.1% | +4.8% | 7,533 円654 億円 |
今の株価時価総額 4,705 円409 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 9% AI サーバー向けが伸び切り、電子材料が主役になる 利益 70 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 11,065 円961 億円
AI サーバーと車載で積層セラミックコンデンサ(MLCC)の使用量が増え続け、高性能品向けの誘電体材料の需要が実質で 2 倍近くになる。日本化学工業は TDK との共同開発で顧客の要求を先取りし、福島第一の増強も満員で動く。高純度赤燐や量子ドット原料も、半導体と表示装置の用途で定着する。
化学品は、クロムの国内唯一という立場とりんの高付加価値品で、値上げを定着させる。機能品の営業利益率は 14% まで上がり、全社でも過去の山に並ぶ。
それでも利益の質は、装置産業の中堅素材メーカーにとどまる。自己資本の厚さが利益の伸びに追いつかず、ROE は 9% 台に乗る程度だ。成長の果実を払いすぎない見方がここでも効く。
- 化学品事業:数量 190(国内の無機基礎化学品市場(実質・億円)× シェア)× 価格 138.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 262 億円・営業利益 18 億円。売上 262 億円・営業利益率 7.0%
- 機能品事業:数量 420(電子セラミック・半導体向け高純度材料の市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34 が基準。顧客の値下げ圧力で下回りうる))→ 売上 563 億円・営業利益 79 億円。売上 562 億円・営業利益率 14.0%
倍率:事業の純利益 70 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.73 倍、時価総額 961 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:MLCC の高性能化とホスフィン系の新用途がそろって実を結ぶ場合。会社自身が中計を達成できていないので、確率は 1 割に届かせない。
やや楽観 22% MLCC 材料が市場並みに伸び、利益率が緩やかに戻る 利益 54 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 8,020 円697 億円
機能品が、MLCC と半導体材料の回復で実質 1.75 倍ほどに伸びる。TDK との合弁会社が開発の速度を上げ、福島第一の増強分が顧客に受け入れられる。営業利益率は 12〜13% に戻り、会社が 2030 年度に掲げる営業利益 60 億円に、10 年かけて届く姿だ。
化学品は、数量が横ばいで、値上げが物価にほぼ追いつく。りんの高付加価値品が少し効く。
ROE は 7% 台まで回復するが、資本コストにはまだ届かない。自己資本が利益に比べて厚いままなので、数字の割に株主の取り分は増えにくい。
内製化と輸入品の圧力は、この筋書きでは部分的にしか起きない。顧客との共同開発が値段の下落を抑え、基礎化学品は縮小せず横ばいで踏みとどまる。
- 化学品事業:数量 185(国内の無機基礎化学品市場(実質・億円)× シェア)× 価格 136.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 252 億円・営業利益 16 億円。売上 251 億円・営業利益率 6.2%
- 機能品事業:数量 375(電子セラミック・半導体向け高純度材料の市場(実質・億円)× シェア)× 価格 131.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34 が基準。顧客の値下げ圧力で下回りうる))→ 売上 491 億円・営業利益 63 億円。売上 491 億円・営業利益率 12.8%
倍率:事業の純利益 54 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 697 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:MLCC と半導体の需要回復は業界の共通認識で、増強投資の方向も定まっている。ただ会社の目標が続けて未達なので、確率は中立より低く置く。
中立 38% 中立:MLCC 材料が実質で伸び、基礎化学品は物価並み 利益 41 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 6,089 円529 億円
機能品は、MLCC 向けの誘電体材料が市場とともに実質で伸び、10 年で 1.5 倍強になる。値段は、顧客からの値下げ圧力で物価を少し下回る 10 年 1.28 倍とする。営業利益率は 11% 台で、過去最高の水準に届かない。
化学品は、クロム・りん・珪酸ソーダの国内需要が横ばいから微減で、値段は物価並みに上がる。安い輸入品の流入があるので、利益率は 5% 台にとどまる。
営業利益は今の 2.3 倍で、会社の 2030 年度の目標(60 億円)を 6 年遅れで下回る。ROE は 5% 台後半。自己資本が 700 億円まで積み上がり、稼ぐ力に比べて資本が余る姿が続く。
- 化学品事業:数量 180(国内の無機基礎化学品市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 241 億円・営業利益 13 億円。売上 241 億円・営業利益率 5.5%
- 機能品事業:数量 332(電子セラミック・半導体向け高純度材料の市場(実質・億円)× シェア)× 価格 128.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34 が基準。顧客の値下げ圧力で下回りうる))→ 売上 425 億円・営業利益 49 億円。売上 424 億円・営業利益率 11.5%
倍率:事業の純利益 41 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 529 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子材料の伸びは確かだが、会社の計画が毎回遅れている実績と、ROE が資本コストを下回る事実を重く見て、会社目標より低めの中立に置く。
やや悲観 21% 輸入品と内製化に押され、電子材料の優位が薄れる 利益 24 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 2,625 円228 億円
MLCC 材料で、競合の増強と大手顧客の内製化が進み、日本化学工業の数量は実質で 1.3 倍ほどにとどまる。値段は物価に届かず、営業利益率は 9% 台に下がる。TDK との合弁は開発の速度こそ上げるが、価格交渉力までは高めない。
化学品は、クロムやりんの汎用品で輸入品に押され、数量が減り、値上げも物価に届かない。利益率は 4% 台。
営業利益は今の 1.5 倍にとどまり、ROE は 4% 前後。倍率は縮み、時価総額は今を下回る。会社が傾くわけではないが、株主には何も残らない 10 年である。
電子材料の数量はなんとか伸びるが、値段の下落が利益を食う。物価の分だけ売上は増えても、実質の稼ぎは今より少ししか増えない。
- 化学品事業:数量 170(国内の無機基礎化学品市場(実質・億円)× シェア)× 価格 128.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 218 億円・営業利益 10 億円。売上 217 億円・営業利益率 4.5%
- 機能品事業:数量 285(電子セラミック・半導体向け高純度材料の市場(実質・億円)× シェア)× 価格 122.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34 が基準。顧客の値下げ圧力で下回りうる))→ 売上 348 億円・営業利益 33 億円。売上 347 億円・営業利益率 9.5%
倍率:ROE 3.9%で k 7.75%を大きく下回る。RONIC=k+1/2×(3.9−8.25)=6.1%、g 3%から正当化 PER は 9.6 倍。資本コスト割れの稼ぎなので、上限 12.1 倍より低い 9.5 倍に置いた。
確率:チタン酸バリウムは参入が多く、顧客の内製化も進む領域。基礎化学品の安い輸入品の流入は実際に起きていて、10 年では現実味がある。
悲観 10% 電子材料で負け、基礎化学品も縮む 利益 3 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 2,199 円191 億円
AI 向けの設備増強が過剰になり、MLCC 材料が値崩れする。大手顧客は内製を広げ、日本化学工業は汎用グレードしか受けられなくなる。福島の増強設備は稼働が上がらず、減損が出る。
化学品も、クロムめっき向けの需要が自動車の変化(電動化・規制)で細り、りんは輸入品に押される。両セグメントとも利益率が 1 桁前半まで下がる。
営業利益はほぼ残らず、稼ぐ力だけでは会社を支えきれない。価値は工場・土地・在庫・投資有価証券など売れる資産で測る。それも負債を引けば帳簿の自己資本の 4 割弱で、株主には厳しい展開だ。
- 化学品事業:数量 150(国内の無機基礎化学品市場(実質・億円)× シェア)× 価格 115.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 173 億円・営業利益 3 億円。売上 172 億円・営業利益率 1.5%
- 機能品事業:数量 190(電子セラミック・半導体向け高純度材料の市場(実質・億円)× シェア)× 価格 105.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34 が基準。顧客の値下げ圧力で下回りうる))→ 売上 200 億円・営業利益 8 億円。売上 199 億円・営業利益率 4.0%
倍率:稼ぐ力(純利益÷k)は数億円で床にならない。売れる資産の税後(floor_assets_oku)が支えるので、今の自己資本 503 億円に 0.38 倍を掛けた。ためた利益には掛けない。EV÷営業利益は 49 倍と高いが、営業利益がほぼ残らない筋書きで利益の倍率は意味を持たず、売れる資産で測る。
確率:MLCC 材料の価格競争と顧客の内製化、AI 投資の反動、基礎化学品の輸入品の流入が重なった場合。優良ではなくなる姿として 1 割置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
化学品事業
クロム化合物(国内唯一)、りん製品(半導体用りん酸・食品添加物)、珪酸ソーダなどの基礎無機化学品。
| 数量国内の無機基礎化学品市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 188 | 100.0% | 188 | 9 |
| 10 年後 中立 | 180 | 134.0% | 241 | 13 |
取り方:クロム化合物・りん製品・珪酸ソーダの国内市場を、今の値段で約 2,000 億円と推定し、日本化学工業のシェアを約 9.4%と置いた(売上 188 億円は事業区分の民間集計に近い値で、市場規模は競合の開示が乏しく幅がある)。物価の分は価格指数に入れ、シェアは数量の側に置いた。営業利益 9 億円は生産拠点の集約費用を含む筆者の推定で、セグメント別の開示は確認できていない。
機能品事業
MLCC 向けチタン酸バリウム、高純度ホスフィン・赤燐、量子ドット用りん原料、回路材料。
| 数量電子セラミック・半導体向け高純度材料の市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34 が基準。顧客の値下げ圧力で下回りうる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 214 | 100.0% | 214 | 19 |
| 10 年後 中立 | 332 | 128.0% | 425 | 49 |
取り方:MLCC 向け誘電体材料と半導体向け高純度材料の世界市場を、今の値段で約 3,500 億円と推定し、日本化学工業のシェアを約 6.1%と置いた(売上 214 億円)。堺化学・共立マテリアル・富士チタン工業などの競合と、大手顧客の内製があり、シェアは幅を持つ。営業利益 19 億円は全社 24 億円から化学品と調整を引いた推定。
リスクと懸念
計画を外し続ける実績
2026 年度の営業利益 33 億円・ROE 6% という中計の目標は、MLCC と半導体の回復の遅れで達成できない見込みだ。設備投資の一部も後ろ倒しにした。電子材料の伸びを前提に増強した設備が、需要の遅れで固定費として重くのしかかる恐れがある。
チタン酸バリウムの価格競争と内製化
競合は堺化学、共立マテリアル、富士チタン工業と石原産業の連合などで、村田製作所は合弁の形で材料の確保を進める。大手顧客は材料を自ら作ることもでき、値段の主導権は顧客側にある。シェアを守っても利益率は上がりにくい。
AI 投資の反動
AI サーバー向けの MLCC 需要は期待が先行している。設備投資が一巡すると、在庫調整と増強の過剰が同時に来る。2027 年度に増強設備が稼働するタイミングと重なれば、稼働率の低下が利益を直撃する。
基礎化学品の輸入品と規制
クロム化合物は国内唯一でも、安い輸入品が入り、値上げの天井を決める。六価クロムは環境・健康の規制の対象で、規制が強まれば需要が細る。自動車のめっき向けの変化も読みにくい。廃液の再生で優位を保てるかが分かれ目だ。
資本の厚さと低い ROE
ROE は 5〜6% で資本コストを下回る。自己資本比率が 64% と厚く、利益を内部に積み上げるほど、1 株あたりの価値は増えにくい。還元を増やす方針はあるが、中計の ROE 目標も 8% どまりで、資本の使い方を変える強い意志はまだ見えない。
TDK との合弁の見えにくさ
TDK が 51%、日本化学工業が 49% の合弁は、開発の速度を上げる狙いだ。ただ、技術やノウハウが合弁の中で TDK 側に寄り、日本化学工業の独自の強みが薄れる可能性がある。収益への寄与は開示がまだ乏しい。
今後の分かれ目
- 福島第一の増強設備が 2027 年度に高稼働で立ち上がり、機能品の営業利益率が 13% を超えて定着したら
- 中立の機能品の利益率を上げ、楽観・やや楽観の確率を引き上げる。
- MLCC 材料で大手顧客の内製化が進み、値下げ要求が強まったら
- 機能品の価格と利益率を下げ、やや悲観・悲観へ確率を寄せる。
- TDK との合弁が新しい高付加価値品の量産につながったら
- 電子材料の数量と値段の前提を上げる。
- クロム化合物に対する環境規制が強化され、需要が細ったら
- 化学品の数量を下げ、悲観側の確率を上げる。
- 政策保有株の売却資金で、大きな自社株買いか増配が発表されたら
- 還元の前提を上げる。資本効率の改善で倍率の上限も少し上がる。
- 会社が自己資本の水準(ROE 目標)を引き上げ、資本の使い方を変えたら
- ROE の前提が上がり、倍率の上限が動くので、本質価値を見直す。
見ておくもの
- 機能品事業の営業利益率と、福島第一の増強設備の稼働率
- MLCC の需要(出荷額)と、村田製作所・TDK の投資姿勢
- TDK-NCI アドバンスドマテリアルズの成果(新製品の量産)
- 化学品事業の利益率と、クロム・りんの輸入品の動向
- 総還元性向(40% 以上の方針)と、政策保有株の縮減
- 中計の見直しと、ROE 目標の水準
倍率と資本コストの決め方
二つのセグメントを、市場(実質)×シェアと価格指数で 10 年積み上げ、営業利益率を過去の山(11%)以下に置いた。資本コストは基本 7.5%+quality+0.75%の 8.25%。中立の ROE は 5% 台で k を下回るので、倍率は 1÷k の 12.1 倍を上限に、正当化 PER の約 10.5 倍に置いた。今の PER(約 15.7 倍)や過去の PBR には寄せていない。結果は総合が約 −35% の割高。これは今の ROE の低さと計画の未達の実績から出た結論で、今の株価に合わせて動かしていない。悲観は、稼ぐ力ではなく売れる資産の床(今の自己資本に 0.38 倍)で測った。セグメントの売上・利益は事業区分の民間集計と全社の営業利益から筆者が推定した。リースは小さいと見て、数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.3→13.73 倍・やや楽観 PER 11→12.9 倍・中立 PER 10.5→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5%に quality+0.75%(循環+0.5、値決め+0.25)を足して 8.25%。同じ領域の堺化学(+1.0)、住友精化(+0.8)と比べ、借金が軽い分だけ低く置いた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。