結論
第一工業製薬は、1909 年創業の京都の化学メーカーだ。石鹸の原料から始まり、いまは界面活性剤(水と油をなじませる薬剤)の技術を元手に、電子材料と電池材料へ軸足を移している。筆者の結論は「割高」。事業の質は上がったが、今の値段は 10 年先の好調まで払い込んでいる。
転機は 2 年前に訪れた。ハイエンドサーバー向けの低誘電樹脂(信号の損失を抑える基板用の樹脂)が立ち上がり、2026 年 3 月期の営業利益は前の期の 2 倍近い 101 億円になった。今期は 125 億円の予想で、第 1 四半期だけで 51 億円を稼いでいる。電池の負極に使う接着剤も加わった。
伸びの質は悪くない。低誘電樹脂は生産がフル稼働で、会社は約 100 億円の増強を決めた。ただし第 1 四半期には、中東情勢による一時的な需要も含まれる。年換算でそのまま続くとは見ない。
弱いところもはっきりしている。利益の柱が AI サーバーという一つの流れに寄っていて、顧客も製品の中身も開示が乏しい。過去 10 年の営業利益率は 7% 前後が普通で、今の 12% は異例の高さだ。
10 年後の中立の時価総額は、配当を足しても今の 1.3 倍ほどにとどまる。資本コスト 8% を稼ぐには足りない。確率で重みづけた本質価値は、今の値段を 4 割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業は良くなったが、払ってよい値段ではない。判断はこの 1 点に尽きる。
良くなった点ははっきりしている。低誘電樹脂は顧客と作り込んだ素材で、需要の追い風も強い。借金は軽く、利払いの余裕も大きい。10 年後もこの事業は存在し、今より大きいだろう。
気になるのは、利益が 1 つの流れに寄りすぎていることだ。営業利益率は過去 10 年の中央値の 7% 前後から 12% に跳ねた。10 年待てば、物価で売上は 3 割以上ふえる。それでも、利益率が今の水準にとどまる中立の姿でも、今の値段を 10 年かけて正当化するには足りない。
株主のものになる利益は、設備投資が重いので今は小さい。還元は配当性向 2 割にとどまり、残りは約 130 億円の新設備に回る。これが 10 年で期待どおりの稼ぎになれば報われるが、稼ぎになる保証は、顧客の継続にかかっている。
筆者の構えは、いまは見送ること。利益が今の水準のまま 3 年続き、顧客が増えて調達先が分散した姿を確かめられれば、見方は変わる。値段が半分になっても事業の質は変わらないので、その時に改めて見ればよい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は 4 つの事業に分かれる。いま利益の中心にいるのは電子・情報で、売上は全体の 3 分の 1 強、営業利益は 6 割を占める。ハイエンドサーバー向けの低誘電樹脂が主役で、ディスプレイのフレームに使う難燃剤、モニター用の特殊界面活性剤も入る。
次が環境・エネルギーだ。リチウムイオン電池の負極に使う水系の複合接着剤は、前の期の終わりに立ち上がったばかりである。シリコンを混ぜた負極が増えるほど、接着剤の役割は大きくなる。太陽電池用の導電ペースト、車載基板の封止剤、フロン規制に合わせた合成潤滑油もこの事業だ。
3 つめのライフ・ウェルネスは、ショ糖脂肪酸エステルという乳化剤が中心になる。食品、化粧品、洗剤に使われる。会社のもとの姿に近く、売上は横ばいで、利益率は 5% ほどと低い。
最後のコア・マテリアルは、汎用の界面活性剤やウレタン材料を扱う。会社の土台だが、中国の増産に押されて利益はほとんど出ていない。
利益を出しているのは 2 つの新しい事業に限られる。残りの 2 つは、売上は大きくても稼ぎが薄い。ここが他の化学会社と違い、1 つの会社の中に、AI 向けの高収益の素材と、昔ながらの汎用品が同居している。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねできない強みは、顧客と一緒に素材を作り込む力にある。低誘電樹脂は、基板メーカーの工程に合わせて性能を詰める製品で、一度採用されると簡単には入れ替わらない。会社が掲げる「規模を追わず、独自性でトップになる」という方針は、ここでは現実と合っている。
堀の深さは、まだ十分に確かめられていない。顧客名もシェアも開示がなく、数年前まで利益が出ていなかった事業が急に伸びた段階だからだ。AI サーバーの投資が続く間は強いが、顧客が第 2 の調達先を作った時に、値段を守れるかはわからない。
資本の効率は急に良くなった。ROE は 12% 近くまで上がったが、過去 10 年の中央値は 7% ほどである。2023 年 3 月期には営業利益が 12 億円まで落ち、赤字になった。原材料の高騰を値段に移せなかったのが原因だ。今の好調は、この弱さを消した結果ではなく、需要の追い風を受けた結果と見るほうが自然だ。
経営は動きが速い。2025 年には自己株を処分して約 57 億円を集め、電池接着剤と低誘電樹脂の設備に回した。事業本部制への組織替えも終えている。ただし、強みが一部の製品に偏っているため、守りの事業の収益力を上げられるかが次の課題になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
第一工業製薬の稼ぎは、界面活性剤の世界市場の伸びより、AI サーバーと電池という 2 つの需要に左右される。界面活性剤の世界市場は 2030 年にかけて年 4〜6% 伸びる見通しで、特殊品はそれより速い。ただ、この会社の利益の大半は、その枠の外にある素材から来ている。
低誘電樹脂は、データセンターと高速通信の拡大で需要が強い。会社は現状フル稼働で、既存設備の改造と協力会社で足りない分をまかなっている。約 100 億円の増強は 2027 年度以降の稼働になる。ここが 10 年の数量を決める。他社の増産が重なれば、値段が崩れる局面もありうる。
電池向けは様子が違う。会社は負極用の接着剤で新規の顧客を取り始めたが、数量はまだ少ないと説明している。電池の市場は中国の勢いが強く、日本の素材メーカーが価格で押される場面が多い。シリコン負極の採用が広がるかが分かれ目になる。
一方、汎用の界面活性剤は、中国の過剰な生産能力で物価並みの値上げも難しい。ライフ・ウェルネスは国内の成熟した需要で、数量は伸びない。
景気の位置としては、電子材料が山にあり、汎用品が谷にある。同じ会社の中で位相が逆なので、全体の利益は振れにくい。ただ、山が崩れた時に支えてくれる谷の事業の利益は、小さい。
資本政策と M&A
還元は薄い。今期の配当性向は 2 割ほどで、自社株買いはしていない。利益の多くは設備投資に回す方針だ。低誘電樹脂に約 100 億円、電池接着剤に約 30 億円を投じる。中計の見直しで、還元の方針がどう変わるかは未確認である。
2025 年 9 月には、保有していた自己株 100 万株を売って約 57 億円を調達した。買い戻しではなく放出で、設備の資金を市場から得た形だ。これで自己資本は厚くなり、ROE は一時的に薄まった。
株主には、個人投資家の片山晃氏が 7.7% を持つと大量保有報告書に出ている(純投資)。会社の経営に口を出す姿勢かどうかは、報告書からは読めない。
M&A は大型のものがなく、内部で育てる姿勢が中心である。買われる側になる可能性は、データ上は 10 年以内に 16% ほどとされる。ただし、いまの時価総額は 1,500 億円を超え、売り手に有利な局面だ。政策保有株の方針は確かめられなかった。
新リース会計基準の影響は、工場が主力の会社なので小さいと見ているが、リース負債の額は確かめていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
低誘電樹脂はまだ入口にいる。AI サーバーの投資は 10 年続く構造的な流れで、基板の高速化が進むほど、信号の損失を抑える樹脂の性能要求は厳しくなる。会社は現在フル稼働で、約 100 億円の増強が 2027 年度以降に動き出す。この能力が埋まれば、電子・情報だけで営業利益は今の 3 倍に届く。
電池向けも伸びしろが大きい。負極用の水系接着剤は、シリコン負極の採用が増えるほど使う量が増える。新規顧客の数量はまだ小さいが、立ち上がりから 1 年で売上は 1.8 倍になった。ここが軌道に乗れば、環境・エネルギーは第 2 の柱に育つ。
中計の最終年度の目標は、前倒しで達成した。会社は新しい目標を準備している。利益率が 12% を超える水準が定着し、守りの事業の採算も改善すれば、10 年後の営業利益は今の 3 倍を超える。そこでは ROE が 15% に達し、倍率も今より上がる。配当性向 2 割の薄い還元は、設備投資が終われば引き上げられる。
慎重な見方
今の利益は異例の高さにある。営業利益率は過去 10 年の中央値の 7% 前後から 12% に跳ねた。しかも第 1 四半期の増益には、中東情勢による一時的な需要が含まれている。これが剥がれた時に、本当の稼ぐ力が見える。
電子・情報は、顧客の名前もシェアも開示されていない。AI サーバー向けの樹脂は、顧客が第 2 の調達先を作った時点で値段が下がる。他社も同じ市場に増産を急いでいて、約 100 億円の増強が動く頃には、供給は足りているかもしれない。
電池は、中国勢の価格が強く、日本の素材メーカーは押されやすい。太陽電池用のペーストは、海外がすでに大きく落ち込んでいる。ライフ・ウェルネスとコア・マテリアルは、売上が大きいのに利益率は 5% 以下で、設備を回すだけで精一杯だ。
過去を見ると、2023 年 3 月期には営業利益が 12 億円まで落ち、赤字になった。原材料の高騰を値段に移せなかったからだ。好調が終われば、同じことが起こりうる。値段は 10 年先まで払い込み済みで、少しの失望で崩れる。
どちらに重みを置いたか
電子・情報の需要の強さは本物だが、その利益の厚みは、顧客と値段の情報が乏しいことと裏表になっている。上振れは大きく、下振れも大きい。確率は上と下をほぼ対称に置いたが、利益率が過去の 2 倍近い高さにある点を重く見て、悲観にわずかに寄せた。
ただし上に振れた場合でも、10 年後の時価総額は今の 2 倍にとどまり、資本コストを稼ぐには届かない。値段が先に走りすぎている点が、確率の置き方より結論に効いている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 17,845 円1,894 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,155 円335 億円)。 今の値に割り戻すと 10,413 円1,105 億円、今との差 −16.1%、 期待の年率 +5.4%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 36,714 円3,896 億円 | 5,908 円627 億円 | +243.4% | +13.1% | 3,410 円362 億円 |
| やや楽観 | 22% | 27,044 円2,870 億円 | 4,127 円438 億円 | +151.2% | +9.6% | 6,858 円728 億円 |
| 中立 | 38% | 19,165 円2,034 億円 | 3,109 円330 億円 | +79.5% | +6.0% | 8,464 円898 億円 |
| やや悲観 | 21% | 6,925 円735 億円 | 2,035 円216 億円 | −27.8% | −3.2% | 1,882 円200 億円 |
| 悲観 | 11% | 2,009 円213 億円 | 1,508 円160 億円 | −71.7% | −11.8% | 387 円41 億円 |
| 加重平均 | 100% | 17,845 円1,894 億円 | 3,155 円335 億円 | +69.2% | +5.4% | 21,000 円2,229 億円 |
今の株価時価総額 12,410 円1,317 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% AI 樹脂と電池が両方当たり、利益率も保つ 利益 237 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 36,714 円3,896 億円
低誘電樹脂が AI サーバーの投資とともに伸び、約 100 億円の増強が計画どおりに埋まる。電子・情報の売上は今の 4 倍になり、営業利益率は 20% を保つ。顧客が増え、第 2 の調達先が出ても、作り込みの深さで値段を守る。
電池向けの負極用接着剤は、シリコン負極の普及で数量が 2 倍を超える。環境・エネルギーの営業利益率は 13% 台に乗る。ライフ・ウェルネスとコア・マテリアルも、中計の取り組みで利益率が少し上がる。
営業利益は今の 3.6 倍で、ROE は 15% を超える。規模を追わず独自性で勝つという会社の姿が、全面的に実った筋書きだ。それでも倍率は、成熟した化学会社の水準にとどまる。成長の先まで払いすぎないのが、この会社の見方である。
- 電子・情報:数量 891(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 1,206 億円・営業利益 241 億円。売上 1206 億円・営業利益率 20.0%
- 環境・エネルギー:数量 516(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 697 億円・営業利益 94 億円。売上 697 億円・営業利益率 13.5%
- ライフ・ウェルネス:数量 163(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 222 億円・営業利益 18 億円。売上 222 億円・営業利益率 8.0%
- コア・マテリアル:数量 150(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 204 億円・営業利益 11 億円。売上 204 億円・営業利益率 5.5%
倍率:事業の純利益 237 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.44 倍、時価総額 3,896 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:低誘電樹脂の増強と電池接着剤の新規顧客がともに順調に進み、利益率が 15% を超えて定着する必要がある。10 年なら起こりうるが、二つがそろう確率は低い。
やや楽観 22% AI 樹脂が増強どおりに伸び、電池は一部で定着 利益 182 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 27,044 円2,870 億円
低誘電樹脂は、増強の能力が計画どおりに埋まり、電子・情報の売上は今の 3.4 倍になる。顧客が増えて値段は物価並みに上がり、営業利益率は 18% を保つ。ディスプレイ向けの難燃剤は縮むが、サーバー向けが十分に穴を埋める。
電池向けは、負極用接着剤の新規顧客が一部で定着し、数量が今の 1.9 倍になる。導電ペーストは弱いままで、環境・エネルギーの営業利益率は 12% に上がる。
営業利益は今の 2.8 倍になる。数量は電子・情報で年 10% 近く、環境・エネルギーで年 7% 台で伸び、値段は物価並みに上がる。ROE は 13% 台で、配当と設備投資の両立もできる。強気の姿だが、守りの 2 事業は大きく改善しない前提を含んでいる。
- 電子・情報:数量 762(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 1,031 億円・営業利益 186 億円。売上 1031 億円・営業利益率 18.0%
- 環境・エネルギー:数量 446(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 603 億円・営業利益 72 億円。売上 603 億円・営業利益率 12.0%
- ライフ・ウェルネス:数量 153(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 208 億円・営業利益 16 億円。売上 208 億円・営業利益率 7.5%
- コア・マテリアル:数量 148(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 201 億円・営業利益 10 億円。売上 201 億円・営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 182 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍。全体の PER 15.77 倍、時価総額 2,870 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社は増強を決めており、需要の追い風も強く、上に振れる材料が比較的はっきりしている。ただし利益率が過去の 2 倍近い高さにあり、そのまま 10 年続くとは言いきれない。
中立 38% 中立:AI 樹脂が伸び、利益率は今の水準に落ち着く 利益 136 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 19,165 円2,034 億円
低誘電樹脂は、増強で能力が今の 2 倍に近づき、電子・情報の売上は今の 2.9 倍になる。値段は物価並みで、営業利益率は 16% と、今の 20% から少し縮む。顧客が調達先を分けるためだ。
電池向けは、数量が今の 1.6 倍で、営業利益率は 11% 前後に落ち着く。ライフ・ウェルネスは横ばい、コア・マテリアルは中国との競争で、数量が少し減る。守りの 2 事業は、10 年で営業利益が 2 倍にならない。
全社の営業利益は今の 2.1 倍で、年 8% 前後の伸びになる。うち物価が年 3%、数量の伸びが年 5% ほどだ。ROE は 11% 台で、配当性向は 3 割台に上げると置く。優良になったが、成長株ではない会社に落ち着く。
- 電子・情報:数量 634(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 858 億円・営業利益 137 億円。売上 858 億円・営業利益率 16.0%
- 環境・エネルギー:数量 377(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 510 億円・営業利益 56 億円。売上 510 億円・営業利益率 11.0%
- ライフ・ウェルネス:数量 146(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 198 億円・営業利益 14 億円。売上 198 億円・営業利益率 7.0%
- コア・マテリアル:数量 145(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 197 億円・営業利益 9 億円。売上 197 億円・営業利益率 4.5%
倍率:事業の純利益 136 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍。全体の PER 14.84 倍、時価総額 2,018 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:低誘電樹脂が増強どおりに動き、電池の新規顧客も少しずつ増える。利益率は今の水準を保つが、上振れも下振れも同じ幅で考えた筋書き。会社の予想よりは保守的に置く。
やや悲観 21% AI 樹脂の値下がりと電池の伸び悩み 利益 72 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 6,925 円735 億円
低誘電樹脂は、他社の増産で値段が物価に追いつかず、10 年で今の 1.2 倍にとどまる。電子・情報の営業利益率は 11% 台に下がる。ディスプレイ向けの難燃剤は縮み、サーバー向けの伸びでようやく補う。
電池向けは、負極用接着剤の新規顧客が少なく、数量が今の 1.3 倍で止まる。太陽電池用の導電ペーストは海外で大きく落ち、環境・エネルギーの営業利益率は 8% 台に下がる。
営業利益は今の 1.1 倍にとどまり、物価で水増しされた売上に対して実質では減る。ROE は 7% に下がり、資本コストを下回る。倍率も縮み、時価総額は今の 4 割台に下がる。好調の中身が一時的な需要だったという、現実的な弱気の姿である。
- 電子・情報:数量 465(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 120.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 564 億円・営業利益 65 億円。売上 564 億円・営業利益率 11.5%
- 環境・エネルギー:数量 297(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 401 億円・営業利益 34 億円。売上 401 億円・営業利益率 8.5%
- ライフ・ウェルネス:数量 140(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 190 億円・営業利益 10 億円。売上 190 億円・営業利益率 5.5%
- コア・マテリアル:数量 138(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 130.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 182 億円・営業利益 6 億円。売上 182 億円・営業利益率 3.5%
倍率:ROE 6.9%で k 8% を下回る。RONIC=k+1/2×(6.9−8.5)=7.7%、成長率を 3% に落として正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=11.0 倍。ROE が k に届かないため上限の 1÷k=11.8 倍を超えず、利益が停滞し先で稼げない前提から 9.5 倍に置いた。
確率:他社の増産と顧客の調達先の分散は、AI 向けの素材で実際に起きやすい。電池も中国勢の価格が強く、10 年では現実味がある。
悲観 11% 構造的な負け:AI 樹脂は置き換えられ、電池は押し出される 利益 23 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 2,009 円213 億円
AI サーバー向けの樹脂は、顧客が別の素材や調達先に切り替え、数量が今を下回る。値段は物価に追いつかず、営業利益率は 6% まで落ちる。約 100 億円の増強は能力が余り、減損が出る。
電池向けは、中国勢の価格に押されて新規顧客を取り切れない。導電ペーストの落ち込みも続き、環境・エネルギーは利益がほとんど出なくなる。ライフ・ウェルネスとコア・マテリアルは今の薄い利益のままだ。
営業利益は今の 3 分の 1 にとどまり、ROE は 3% に下がる。もう成長する素材会社の評価は付かず、今の自己資本の 0.45 倍で測る。それでも借金は軽く、会社が傾くわけではない。株主には、10 年を使って価値が増えない、つらい展開である。
- 電子・情報:数量 257(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 105.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 273 億円・営業利益 16 億円。売上 273 億円・営業利益率 6.0%
- 環境・エネルギー:数量 188(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 120.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 228 億円・営業利益 7 億円。売上 228 億円・営業利益率 3.0%
- ライフ・ウェルネス:数量 133(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 181 億円・営業利益 7 億円。売上 181 億円・営業利益率 4.0%
- コア・マテリアル:数量 133(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 125.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34))→ 売上 168 億円・営業利益 4 億円。売上 168 億円・営業利益率 2.5%
倍率:AI 樹脂の置き換えと新設備の余りが同時に起きる構造的な負けで、優良ではなくなる姿。稼ぐ力(純利益 22 億円÷k)は約 260 億円で、売れる資産を足しても今の自己資本を下回るとみて、今の自己資本 520 億円に 0.41 倍を掛けた(やや悲観の PER 9.5 倍を超えないよう、床の根拠が無いので PBR を 0.45 から 0.41 に下げた)。
確率:顧客が樹脂を置き換え、電池接着剤が価格競争に巻き込まれ、新設備が余る場合。優良ではなくなる姿で、数年前まで赤字だった事業の足場の薄さを反映して 1 割強に置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子・情報
ハイエンドサーバー向けの低誘電樹脂、ディスプレイ用の難燃剤、モニター用の特殊界面活性剤。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 297 | 100.0% | 300 | 60 |
| 10 年後 中立 | 634 | 134.0% | 858 | 137 |
取り方:低誘電樹脂・ディスプレイ材料・特殊界面活性剤の関連市場を今の値段で約 4,000 億円、シェアを約 7.4% と置いた(開示は金額のみで、市場もシェアも推定)。2026/03 期の売上 300 億円・営業利益 60 億円は、9 か月累計(221.7 億円・45.6 億円)と全社の第 4 四半期の増分から割り戻した推定。物価の分は価格指数に入れ、シェアは数量の側に置いた。 数量の増は低誘電樹脂の増強(能力が約 2 倍)による実物の増。物価は価格の指数に別に入れている。
環境・エネルギー
リチウムイオン電池の負極用水系複合接着剤、太陽電池用の導電ペースト、基板用封止剤、環境配慮型の合成潤滑油。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 230 | 100.0% | 232 | 28 |
| 10 年後 中立 | 377 | 134.0% | 510 | 56 |
取り方:電池用バインダー・導電ペースト・封止剤・合成潤滑油の関連市場を今の値段で約 3,500 億円、シェアを約 6.6% と置いた(推定)。2026/03 期の売上 232 億円・営業利益 28 億円は、9 か月累計(160.4 億円・17.7 億円)と全社の第 4 四半期の増分からの推定。負極用接着剤は前期末に立ち上がったばかりで、今期の第 1 四半期は売上が前年の 1.8 倍に増えている。 数量は市場(今の値段・実質)× シェア。負極用接着剤の立ち上がりが加わる。物価は価格の指数に別に入れている。
ライフ・ウェルネス
ショ糖脂肪酸エステル(食品・化粧品・洗剤向けの乳化剤)、石鹸・洗剤の原料。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 140 | 100.0% | 142 | 8 |
| 10 年後 中立 | 146 | 134.0% | 198 | 14 |
取り方:ショ糖脂肪酸エステルと洗剤原料の関連市場を今の値段で約 2,000 億円、シェアを約 7.0% と置いた(推定)。売上 142 億円・営業利益 7.5 億円は 9 か月累計(105.6 億円・5.2 億円)からの推定。国内の成熟した需要で、数量は人口とともに横ばいに近い。
コア・マテリアル
汎用の界面活性剤、ウレタン材料、樹脂添加剤など、会社の基盤になる素材。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 153 | 100.0% | 155 | 6 |
| 10 年後 中立 | 145 | 134.0% | 197 | 9 |
取り方:汎用界面活性剤・ウレタン材料・樹脂添加剤の関連市場を今の値段で約 3,000 億円、シェアを約 5.1% と置いた(推定)。売上 155 億円・営業利益 5.5 億円は 9 か月累計(約 114 億円・約 2 億円)からの推定。中国の増産で値段を市場に決められる品が多い。
リスクと懸念
利益が AI サーバー向けに寄っている
営業利益の 6 割を電子・情報が稼ぎ、その中心は低誘電樹脂だ。顧客名も市場の規模も開示が乏しい。AI の設備投資が減速するか、顧客が樹脂を置き換えれば、利益が急に細る。数年前は赤字だった事業の延長にある利益で、足場は厚くない。
今の利益率が異例に高い
営業利益率は 12% で、過去 10 年の中央値は 7% 前後だ。今期の第 1 四半期には中東情勢による一時的な需要も含まれる。これが剥がれた時に、本当の稼ぐ力が見える。2023 年 3 月期には営業利益が 12 億円まで落ち、赤字になった例がある。
約 130 億円の設備投資が空振りする
低誘電樹脂に約 100 億円、電池接着剤に約 30 億円を投じる。稼働は 2027 年度以降で、そこで需要が落ちていれば能力が余る。減損が出れば、自己資本と利益の両方に響く。還元が薄いのは、この投資を優先しているためでもある。
電池接着剤で中国勢と競う
負極用の水系接着剤は、新規の顧客向けの数量がまだ少ないと会社自身が説明している。電池の市場は中国勢の価格が強く、日本の素材メーカーは押されやすい。シリコン負極の採用が広がるまでは、先行投資の負担だけが先に来る。
守りの事業の収益力が低い
ライフ・ウェルネスとコア・マテリアルは、合わせて売上の 3 分の 1 強を占めるが、営業利益率は 5% 以下だ。汎用の界面活性剤は中国の増産で値段が上がりにくい。この 2 事業が重しになり、全社の利益率の伸びを抑える。
大株主の動き
個人投資家の片山晃氏が 7.7% を持つと大量保有報告書に出ている(純投資)。経営に口を出すかどうかは報告書から読めない。保有が動けば、需給で株価が大きく動くことはありうるが、事業の価値そのものは変わらない。
今後の分かれ目
- 低誘電樹脂の主要顧客が第 2 の調達先を採用した、または増産の他社が現れた
- 電子・情報の値段と利益率の前提を下げ、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 電子・情報の営業利益率が 20% を超えたまま 2〜3 年続いた
- 中立の利益率の前提を引き上げ、楽観側の確率を上げる。利益率の高さが一時的でないことの証拠になる。
- 負極用水系接着剤が複数の新規顧客に採用され、数量が目に見えて増えた
- 環境・エネルギーの数量の前提を上げ、やや楽観の確率を上げる。
- 約 100 億円の増強の稼働が遅れた、または減損が出た
- 設備の回収を見直し、中立の利益と ROE の前提を下げる。
- 中計の見直しで、配当性向や自社株買いなど還元の方針が大きく引き上げられた
- 還元の前提を上げる。ただし利益そのものは変わらず、本質価値の変化は小さい。
- 太陽電池用ペーストの海外の落ち込みが、ほかの用途にも広がった
- 環境・エネルギーの数量と利益率の前提を下げる。
見ておくもの
- 電子・情報の売上と営業利益率(低誘電樹脂の寄与、中東の一時需要を除いた動き)
- 低誘電樹脂の増強の稼働時期と、約 100 億円の投資先
- 負極用水系接着剤の新規顧客の採用と数量
- 中計の見直し後の目標と、還元の方針
- 営業利益率の推移(12% が 7% 台へ戻るか)
- 大株主の保有割合の変化
倍率と資本コストの決め方
4 つの事業を、関連市場(実質)× シェアで積み上げ、物価の分は価格指数 1.34 に分けた。電子・情報と環境・エネルギーは今の増強計画と顧客の動きから、守りの 2 事業は横ばいに近い数量から置いた。資本コストは基本 7.5%+quality +1.0%(循環 +0.5、寿命 +0.5)の 8.5%。倍率は g 4.0%・ROE から出した正当化 PER の 9 割強に置き、今の PER 25 倍(今期予想で 20 倍)には寄せていない。結果は、中立の 10 年が今の 1.3 倍ほどで、総合は割高に出た。これは今の利益率と値段が先に走っているため。悲観は稼ぐ力より低い今の自己資本の PBR で測り、過去の PBR の底からは置いていない。純現金はなく、余った現金は立てなかった。新リース会計基準の影響は工場が主力で小さいと見て、数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.6→16.44 倍・やや楽観 PER 12.8→15.77 倍・中立 PER 12.2→14.84 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0%(業種の循環 +0.5、寿命 +0.5)を足して 8.5%。電子材料と電池は設備投資の波が大きい。利益の柱が AI サーバー向けの 1 つの流れに寄る点は寿命で見た。借金は軽く 0、値決めは普通で 0。顧客依存と技術の置き換えは k に足さず、悲観の筋書きで厚く見た。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。