結論
東洋合成工業は、半導体の回路を焼き付けるフォトレジストの心臓部、感光材(PAG=光酸発生剤)で世界首位の化学メーカーである。売上の6割強が感光材、残りが高純度溶剤とタンク貸しの化成品だ。
筆者の結論は、事業は強いが今の値段は先を織り込みすぎている、というものだ。世界シェアは5〜7割あっても、利益率は営業利益で1割に届かない。買い手はレジスト大手5社に限られ、値段を思うように上げられなかった証拠である。
直近はその弱さが数字に出た。2026年3月期は新工場の償却費が膨らみ、増収でも営業利益は1割減った。借入は258億円と時価総額の3分の1ある。増産が軌道に乗れば償却を吸収できるが、10年の利益の伸びは、AI向けの数量と先端品の値上げでどこまで利益率を上げられるかにかかる。
生成AIで先端レジストの数量は伸びる。会社は2027年3月期に営業利益50億円を見込む。筆者は、10年後の営業利益を中立で120億円前後と見る。それでも資本コストは7.8%と高めで、確率で重みづけた価値は約560億円で、今の約740億円を2割半ほど下回り、やや割高と出た。悲観側の確率が3割強あるのは、買い手の強さと半導体の循環、借金の重さがあるからだ。強い会社と割安な株は別物だ、というのが結論である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見るべきは三つだ。堀が利益になっているか、稼いだ利益を株主のものにできているか、払う値段に余裕があるか。
堀は本物だ。全世代のPAGを作れる企業は他にない。ただ、堀が稼ぎにつながっていない。営業利益率が1割前後にとどまる事業を、筆者は優れたオーナー事業とは呼べない。
利益の使い方は成長への再投資で、いま資本は設備に固まっている。償却が年50億円を超えるため、売上が伸びなければ利益は出ない構造だ。逆に、数量が伸びれば固定費が薄まり、利益は大きく跳ねる。事業は強い増産の梃子を内に持つが、その分だけ振れも大きい。
値段は、2026年3月期の純利益に対し27倍と高い。回復を見込む来期の予想でも23倍ほどある。10年の中立で純利益は80億円台まで伸びると置いても、資本コスト8%台の世界では、今の時価総額は先の成功をかなり織り込んでいる。安全域は見えない。事業は応援したいが、この値段では待つのが筋だと筆者は見る。
何で稼ぐ会社か
感光性材料事業が売上の6割強を占める。主力はPAGだ。PAGは露光で酸を出し、レジストの膜を溶けやすく変える成分で、微細な回路の線の細さを左右する。東洋合成はg線・i線からKrF、ArF、EUVまで全世代を作れる唯一のメーカーとされる。顧客は東京応化工業、JSR、信越化学工業、住友化学、富士フイルムなど、世界のレジスト市場の9割を握る大手5社だ。
レジストに入る前の中間体やポリマーも手掛ける。ディスプレイ向けの感光材も柱で、スマートフォンやテレビのパネル生産が安定していれば堅調に出る。認定に年単位かかるため、一度採用されれば簡単には切り替えられない。
化成品事業は売上の4割弱で、利益の安定役だ。中身は高純度溶剤が約7割、香料材料が約2割、東京湾岸の高浜油槽所のタンク貸しが約1割になる。高純度溶剤は半導体の洗浄・塗布工程で使い、生成AIの需要でここ数年伸びている。タンク貸しは輸入品の保管需要が追い風で、賃貸に近い安定収益になる。
工場は千葉(東庄町)、市川、淡路の3拠点。2026年3月期は営業利益36.6億円のうち、化成品が26.1億円を稼ぎ、感光材は10.5億円にとどまった。稼ぐ力の中心は、今は化成品にある。
優良さと弱いところ
優良さの核は、全世代のPAGを作れる品ぞろえと、顧客の認定の壁にある。世界シェアは5〜7割と資料によって幅があるが、首位であることは動かない。PAGは顧客のレジスト配合の中で数%の成分でも、歩留まりを左右するので、顧客は簡単に調達先を変えない。
ただし、それが利益に現れていない。過去10年の営業利益率の最高は14.5%で、直近は8.7%だ。PAGは世界首位でも、買い手が大手5社に絞られ、値段の主導権は買い手が握る。会社自身が今期は「販売価格の見直しも順次進める」と書くほど、値上げは後手だった。堀はあるが、堀の内側で十分な値段を取れていない。筆者はここを最も重く見る。
資本の使い方は、成長優先である。3年で約328億円を投じ、ArF・EUV向けの生産能力を1.8倍にした。需要に先回りする姿勢は技術の信頼につながるが、2023年の半導体不況で需要が1年遅れ、償却と人件費が先にのしかかった。中計の営業利益80億円は50億円にとどまる。
財務は、借入258億円に対し現金が37億円。自己資本比率41%で、営業利益は支払利息の11倍ある。すぐ傷む水準ではないが、2009年・2010年・2014年に赤字を出した前例がある。配当性向は1割台と低く、株主への還元は薄い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
追い風は明確だ。生成AIの学習・推論用チップは先端ロジックとHBMメモリに集まり、これを作る露光工程で、EUVとArFのレジストの数量が伸びる。会社が引く資料では、KrF・ArF・EUVのレジスト出荷量は、2026年以降も年々増える見通しだ。EUVは1枚あたりに使う感光材の価値が高く、数量の伸び以上に売上が伸びやすい。
ただし半導体は循環産業である。2023年の不況で需要は1年遅れ、東洋合成も中計の目標を落とした。10年のなかで大きな谷が1〜2回は来ると見ておくのが現実的だ。
競争の形は、顧客のレジスト大手が5社に固まっていることが特徴だ。PAGの競合には三洋化成子会社のサンアプロ、ADEKA、欧州のHeraeus、中国の新興メーカーが挙がる。サンアプロはディスプレイ寄りだが、市場の25%を目指すと報じられた。大手の顧客が調達先を分散したいと考えれば、シェアは削られる。
中国も気になる。国産の露光装置の試作・量産が報じられ、材料の国産化が続く。最先端は当面、日本の材料に頼るとされるが、KrFなど中位のグレードは10年のうちに侵食される恐れがある。
数量は世界のウエハー出荷が年6%台で伸びる見込みで、レジストも同じ流れにある。10年の中立では、数量は実質で1.5倍前後、価格は物価で1.3倍強に、先端品への切り替えで少し上積みと置く。
資本政策と M&A
資本政策は、成長投資で終始してきた。3年間で約328億円の設備投資を終え、2026年3月期は営業CFが75億円、フリーキャッシュフローは26億円の黒字になった。借入は19億円減っており、回収期に入った。
還元は薄い。配当は2026年3月期が前期の記念配当込みの水準から減配し、2027年3月期は増配する計画だが、配当性向は1割台のままだ。自社株買いの実績は確認できなかった。投資の山を越えたいま、配当を増やせるかが次の焦点になる。
大株主は木村有仁氏の13.8%を筆頭に、木村姓の3名で約24%を持つ。信託口が約11%で続く。経営者の持ち分が厚く、買収や再編は起きにくい。会社は新しい感光材工場の建設と事業用地の取得に動いており、次の投資の波は近い。
M&Aの実績は目立たない。自前の工場に積み上げる会社なので、買収で価値を壊すリスクは小さいが、増設のたびに借入が膨らむ癖がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIの投資はまだ序盤だ。最先端のロジックとHBMは、露光の回数が増えるほどレジストの使用量が増える。EUVの層数は世代ごとに増え、High-NAが入ればレジストも感光材も一段高い品質を求められる。東洋合成はEUV用PAGでも高いシェアを持ち、ArF・EUV向けの能力を1.8倍に増やしたばかりだ。この設備が埋まれば、償却を吸収して利益率は大きく上がる。
今期の下期は営業利益27億円で、4四半期目は15.9億円と過去最高だった。この水準が通年で出れば、年間の営業利益は60億円を超える。設備を新設せずに売上を2割伸ばせるので、増分の利益率は3割に迫る。化成品も、AI向けの高純度溶剤とタンク貸しで安定して伸びる。
さらに会社は値上げに動き始めた。世界首位で全世代を扱うのは自社だけで、顧客も安定供給を最優先にする。顧客が値上げを受け入れれば、利益率は2割に届く。10年で営業利益は200億円に迫り、PERは14倍に乗る。
慎重な見方
まず、利益率が示す通りで、強いのは地位であって稼ぎではない。過去10年で営業利益率は最高でも14.5%、直近は8.7%だ。世界首位のシェアを持ちながらこの数字なのは、買い手のレジスト大手が値段を握っているからだ。
次に、設備の回収は保証されない。3年で約328億円を投じ、償却は年50億円を超えた。中計の営業利益80億円は50億円にとどまり、目標の6割強だ。半導体が次の谷に入れば、固定費が利益を食う。
さらに、競合と顧客の動きがある。サンアプロやADEKAが先端向けに入れば、顧客は調達先を分けたがる。中国は露光装置から国産化に動いており、PAGも時間をかけて追いつく。顧客のレジスト大手が内製に動く可能性も残る。
財務も軽くない。純有利子負債は221億円で、時価総額の3割に当たる。金利が上がる世界では、新しい借り換えのたびに負担が増す。株価は27倍で、これらを織り込んでいない。さらに、増産の効果は会社の予想どおりに出るとは限らない。2027年3月期の予想は、下期の好調が続くことを前提にしている。1年遅れるだけで、利益は予想を大きく下回る。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、増産と値上げの両方がそろった時の利益の跳ね方を正しく見ている。ただ、過去10年で営業利益率が15%を超えたことは一度もなく、値上げが定着した前例がない。慎重な見方は、利益率と借金という確かな数字に立っている。
中立の利益は、数量が1.5倍弱で価格が物価並み、利益率は14%台と置いた。過去の最高並みまで戻る想定で、強気にも慎重にも寄りすぎていない。確率は慎重な側にやや寄せ、やや悲観と悲観の合計を3割強とした。理由は、買い手が5社に限られる値決めの弱さと、半導体の循環、借金の重さである。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 17,069 円1,355 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,564 円124 億円)。 今の値に割り戻すと 9,129 円725 億円、今との差 +5.8%、 期待の年率 +8.0%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 35,494 円2,817 億円 | 2,898 円230 億円 | +344.9% | +16.1% | 4,607 円366 億円 |
| やや楽観 | 22% | 25,705 円2,040 億円 | 2,142 円170 億円 | +222.7% | +12.4% | 6,126 円486 億円 |
| 中立 | 34% | 17,021 円1,351 億円 | 1,638 円130 億円 | +116.2% | +8.0% | 6,344 円504 億円 |
| やや悲観 | 20% | 6,152 円488 億円 | 882 円70 億円 | −18.5% | −2.0% | 1,407 円112 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,139 円90 億円 | 101 円8 億円 | −85.6% | −17.6% | 149 円12 億円 |
| 加重平均 | 100% | 17,069 円1,355 億円 | 1,564 円124 億円 | +115.9% | +8.0% | 18,633 円1,479 億円 |
今の株価時価総額 8,630 円685 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 12% AIが続き、値上げが通る 利益 155 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 35,494 円2,817 億円
AIの設備投資が10年間ほぼ途切れず、EUVの層数とHigh-NAの採用でレジストの数量は世界で1.9倍近くになる。東洋合成はArF・EUV向けの新設備を満たし、顧客の安定供給の要請を背景に先端品の値上げを通す。感光材の営業利益率は2割に乗り、償却を吸収して利益が大きく跳ねる。化成品も高純度溶剤とタンク貸しで伸びる。投資は新しい感光材工場を含めて自己資金で回り、配当は利益の3割前後まで引き上がる。会社は中計で目指した16%の営業利益率を超え、世界首位の地位が稼ぎにも表れた10年になる。顧客は安定供給を優先し、ArFとEUVの両方で東洋合成から調達する構図が強まる。サンアプロなど競合は入るが、全世代をそろえる強みで認定を守る。
- 感光性材料(PAG・感光材・ポリマー):数量 2,365(世界のKrF・ArF・EUVレジスト出荷量(千ガロン)× 当社の感光材シェア)× 価格 0.31(当社相当1千ガロンあたりの感光性材料の売上(億円、名目))→ 売上 741 億円・営業利益 156 億円。世界出荷1.87倍×シェア0.55、価格1.50倍(先端品の上積み12%)、営業利益率21%
- 化成品(高純度溶剤・香料材料・タンク貸し):数量 24.0(販売・取扱量(万トン、推定))× 価格 13(1万トンあたりの売上(億円、名目))→ 売上 312 億円・営業利益 53 億円。数量1.5倍、価格1.34倍、営業利益率17%
倍率:事業の純利益 155 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.8% が k 7.80% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.8 倍。全体の PER 17.75 倍、時価総額 2,751 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI投資の継続・値上げの定着・競合の参入なし、の3つがそろう必要があり、買い手が5社で値上げが通った前例がないため1割強にとどめた。
やや楽観 22% 増産が埋まり、利益率が2割弱に 利益 117 億円 · PER 17.0 倍 · 株価時価総額 25,705 円2,040 億円
半導体市場は年7%前後で伸び、EUVとArFの数量は1.7倍になる。シェアは0.54とほぼ守り、価格は物価並みに先端品の上積みを少し乗せる。新設備の償却は売上に薄まり、感光材の営業利益率は17%台に上がる。化成品もAI向けの高純度溶剤で堅調に伸びる。途中に一度は半導体の調整局面があるが、設備はすでにあり、増産の余力で戻りは早い。配当は利益の25%前後まで上がり、借入は大きく減る。新しい感光材工場も借入に頼らず自己資金で建てられ、投資と還元の両立ができる。10年を通じ、先端品の比率が上がるほど利益率が上がる好循環になる。
- 感光性材料(PAG・感光材・ポリマー):数量 2,106(世界のKrF・ArF・EUVレジスト出荷量(千ガロン)× 当社の感光材シェア)× 価格 0.31(当社相当1千ガロンあたりの感光性材料の売上(億円、名目))→ 売上 645 億円・営業利益 113 億円。世界出荷1.70倍×シェア0.54、価格1.47倍、営業利益率17.5%
- 化成品(高純度溶剤・香料材料・タンク貸し):数量 22.4(販売・取扱量(万トン、推定))× 価格 13(1万トンあたりの売上(億円、名目))→ 売上 291 億円・営業利益 47 億円。数量1.4倍、価格1.34倍、営業利益率16%
倍率:事業の純利益 117 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 7.80% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.0 倍。全体の PER 16.99 倍、時価総額 1,988 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体市場が年7%前後で伸び、新設備が埋まる流れは現実的で、会社の来期予想もこの方向にある。
中立 34% 数量は市場なみ、利益率は過去最高並み 利益 84 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 17,021 円1,351 億円
世界のレジスト出荷は実質で年4.6%伸び、10年で1.57倍になる。競合の参入で東洋合成のシェアはわずかに下がり、0.52になる。価格は物価並みの1.34倍に先端品への切り替えを7%足した。償却は売上に薄まり、感光材の営業利益率は14%、化成品は15%に戻る。会社全体の営業利益率は14%台で、過去の最高並みだ。中計の目標だった16%には届かない。途中の半導体の谷は1回ほどあるが、利益は新しい水準で定着する。配当は利益の2割弱から3割へ上がり、借入は着実に減る。化成品は半導体向け溶剤とタンク貸しで安定して伸び、全社の利益を下支えする。顧客が調達先を分ける動きは一部に出るが、全世代を作れる強みでシェアは5割強を保つ。
- 感光性材料(PAG・感光材・ポリマー):数量 1,872(世界のKrF・ArF・EUVレジスト出荷量(千ガロン)× 当社の感光材シェア)× 価格 0.30(当社相当1千ガロンあたりの感光性材料の売上(億円、名目))→ 売上 561 億円・営業利益 79 億円。世界出荷1.57倍×シェア0.52、価格1.43倍、営業利益率14%
- 化成品(高純度溶剤・香料材料・タンク貸し):数量 20.8(販売・取扱量(万トン、推定))× 価格 13(1万トンあたりの売上(億円、名目))→ 売上 271 億円・営業利益 41 億円。数量1.3倍、価格1.34倍、営業利益率15%
倍率:事業の純利益 84 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 7.80% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.65 倍、時価総額 1,315 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は市場なみに伸び、利益率は過去最高並みまで戻る、最も無理のない筋書き。
やや悲観 20% 競合が入り、利益率は1割止まり 利益 46 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 6,152 円488 億円
半導体の投資が思ったほど続かず、数量は1.4倍にとどまる。サンアプロやADEKAが先端向けに入り、顧客が調達先を分けて、東洋合成のシェアは0.48に下がる。価格は物価に届かず、先端品の上積みもわずかだ。感光材の営業利益率は9%で止まり、償却が重いまま利益が伸びない。化成品は競合の参入で値段が緩む。借入の返済は進むが、配当は増やせず、新しい設備投資を抑える。営業利益は70億円で、ROEは資本コストの近くに低下する。強いとされた世界首位の地位が、稼ぐ力としては中位にとどまる10年だ。借入は返せるが、投資の果実は乏しい。
- 感光性材料(PAG・感光材・ポリマー):数量 1,584(世界のKrF・ArF・EUVレジスト出荷量(千ガロン)× 当社の感光材シェア)× 価格 0.29(当社相当1千ガロンあたりの感光性材料の売上(億円、名目))→ 売上 456 億円・営業利益 41 億円。世界出荷1.43倍×シェア0.48、価格1.38倍、営業利益率9%
- 化成品(高純度溶剤・香料材料・タンク貸し):数量 18.4(販売・取扱量(万トン、推定))× 価格 13(1万トンあたりの売上(億円、名目))→ 売上 232 億円・営業利益 28 億円。数量1.15倍、価格1.30倍、営業利益率12%
倍率:ROE 8.0%で資本コストの8.3%を割る。正当化PERの上限は1÷k=12.0倍で、さらに利益が谷寄りで質も低いため10倍に置いた。
確率:競合の参入と半導体の調整で利益率が1割にとどまる筋書き。2023年にも需要の遅れが起きており、起きやすい。
悲観 12% 国産化と内製で優位を失う 利益 −2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,139 円90 億円
中国の国産化とレジスト大手の内製が進み、ArFとEUV向けのシェアは0.3に落ちる。感光材の売上は今の水準に戻り、償却だけが残って赤字になる。化成品の高純度溶剤にも中国勢が入り、利益は薄い。設備は先端専用が多く、他に転用しにくい。減損を出し、借入の返済のために設備と土地を売る。配当は最低限に絞り、売却した資産の一部で賄う。世界首位の看板は残るが、顧客の側が主導権を握り直し、値段は物価に届かない。世界首位の看板は残るが、稼ぐ力は失われ、投じた設備は回収できなかった10年になる。顧客は調達の主導権を取り戻し、残った高純度溶剤とタンク貸しの利益で細く事業を続ける。
- 感光性材料(PAG・感光材・ポリマー):数量 870(世界のKrF・ArF・EUVレジスト出荷量(千ガロン)× 当社の感光材シェア)× 価格 0.27(当社相当1千ガロンあたりの感光性材料の売上(億円、名目))→ 売上 231 億円・営業利益 −9 億円。シェア0.30に低下、価格1.27倍、償却が残り営業赤字
- 化成品(高純度溶剤・香料材料・タンク貸し):数量 16.0(販売・取扱量(万トン、推定))× 価格 12(1万トンあたりの売上(億円、名目))→ 売上 194 億円・営業利益 18 億円。数量横ばい、価格1.25倍、営業利益率9%
倍率:赤字の構造的な負けなので稼ぐ力でなく売れる資産で測る。設備・運転資本・現金の売却価値から借入を引いた約90億円を床とし、今の自己資本274億円に0.33倍を掛けた。EV ÷ 営業利益は今の値で約38倍あるが、この筋書きは営業利益がほぼ無く倍率が意味を持たないため、EVでも見たうえで売却価値で測った。
確率:中国の国産化と顧客の内製で構造的に負ける筋書き。10年で最先端のシェアを失う可能性は低くないが、全世代を作れる品ぞろえの壁があるので1割強にとどめた。構造は業種の循環とは別に見た。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
感光性材料(PAG・感光材・ポリマー)
半導体のフォトレジスト向けPAGと、ディスプレイ向け感光材などを作る中核事業。
| 数量世界のKrF・ArF・EUVレジスト出荷量(千ガロン)× 当社の感光材シェア | 価格当社相当1千ガロンあたりの感光性材料の売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,265 | 0.21 | 264 | 11 |
| 10 年後 中立 | 1,872 | 0.30 | 561 | 79 |
取り方:世界のレジスト出荷量を富士経済・富士キメラ総研の見通し(会社資料のグラフ)から約2,300千ガロンと推定し、感光材の世界シェアを報道の5〜7割の中ほどの0.55とみて1,265とした。感光性材料の売上264.1億円をこれで割った0.2088を価格とする。数量は実質、価格は物価3%込みの名目。EUVやArFなど先端品への切り替えは価格を押し上げる。
化成品(高純度溶剤・香料材料・タンク貸し)
半導体向けの高純度溶剤、香料の原料、高浜油槽所のタンク貸しからなる安定収益の事業。
| 数量販売・取扱量(万トン、推定) | 価格1万トンあたりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 16.0 | 9.71 | 155 | 26 |
| 10 年後 中立 | 20.8 | 13 | 271 | 41 |
取り方:会社は数量を開示していない。高純度溶剤が売上の約7割(約109億円)、香料材料が約2割、タンク貸しが約1割という内訳から、取扱量を約16万トンと推定し、売上155.3億円を割って1万トンあたり9.71億円とした(桁の推定)。数量は半導体・生成AI向け溶剤とタンクで実質年2〜3%伸び、価格は物価並みとみる。
リスクと懸念
先端材料の需要と新設備の稼働が遅れる
半導体投資が2023年のように調整すれば、償却が年50億円を超える固定費が利益を直撃する。会社は2027年3月期に営業利益50億円を見込むが、販売の増加が1年遅れるだけで、数十億円の利益が飛ぶ構造だ。
買い手が5社に限られ値段を上げにくい
感光材の買い手は東京応化・JSR・信越化学・住友化学・富士フイルムの5社で、世界のレジストの9割を占める。世界首位でも営業利益率が1割前後にとどまったのは、値決めの主導権が買い手にあるからだ。値上げが通らなければ、利益率の回復は鈍る。
競合と中国の追随
サンアプロ、ADEKA、欧州Heraeus、中国の新興メーカーなど、PAGの競合は複数いる。顧客が調達先の分散を進めればシェアは落ちる。中国は露光装置から国産化を進めており、KrFなど中位グレードの感光材は10年のうちに侵食される恐れがある。
借入の重さと金利の上昇
借入は258億円で、現金は37億円しかない。純有利子負債は時価総額の3割に当たる。借り換えのたびに金利が上がると、営業利益は増えても純利益の伸びが鈍る。新しい工場を建てるたびに借入が増える癖もある。
顧客がPAGを内製する可能性
レジスト大手は、PAGの設計を自社の配合の中核と考えている。調達先の分散や一部の内製化が進めば、東洋合成の売上と値決めに響く。顧客と競合が同じ会社になりうる点は、この事業の根本的な弱さである。
拠点と原料の集中
千葉・市川・淡路の3拠点に集中し、事故や災害で止まれば代替が利かない。市川工場は過去にベンゼンの排出量で批判を受けた。中東情勢による原燃料・物流費の上昇も、今期の予想に織り込まれている。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が50億円を上回り、下期の四半期の営業利益が16億円台を保てば
- 増産で償却を吸収できるサインで、楽観・やや楽観の確率を上げる。利益率が1割を超えて定着するかを次に見る。
- 会社が販売価格の引き上げを実施し、感光材の営業利益率が10%を超えたら
- 値決めの主導権が動いた証拠で、中立の利益率の前提を上げてよい。強い堀への見直しも視野に入る。
- 新しい感光材工場の建設や用地取得を発表し、借入が再び増えたら
- 投資の回収が遅れ、利益より借金が先に増える。やや悲観側の確率を上げる。
- レジスト大手がPAGの調達先を分けると公表するか、競合が先端向けで認定を取ったら
- シェアの低下が始まったサイン。やや悲観・悲観の筋書きに重みを移す。
- 半導体の設備投資が急減し、EUV・ArFのレジスト出荷が前年を割り込んだら
- 償却の重い構造が利益を食う。まず今期の予想の達成度を疑い、中立の数量の前提を下げる。
- 配当性向を引き上げる、または自社株買いを始めたら
- 資本を回収に回す姿勢の表れで、評価を上げる材料になる。
見ておくもの
- 四半期ごとの感光性材料の営業利益と下期の営業利益率
- EUV・ArFレジストの世界出荷量(富士経済・SEMIの見通し)
- 販売価格の見直しの進み方(決算説明会のコメント)
- 新感光材工場・用地取得の発表と借入残高
- サンアプロ・ADEKAなど競合のPAG増産・認定の報道
倍率と資本コストの決め方
数量は世界のレジスト出荷量×当社シェア(0.55)、価格は物価3%込みの名目(中立で10年1.34倍に先端品への切り替え7%を足した)で積み、利益率は固定費の大きい構造から、今の4%(下期9%)が数量の伸びで14%まで戻ると置いた。倍率は利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)(k 7.8%、g 4%、RONIC=k+1/2×(ROE−k))の上限13.6倍に対し、中立は12.6倍に置いた。ROEが11%で資本コストを少し上回る程度で、利益の質も循環と買い手の強さで中位とみたからだ。悲観は過去のPBRの底でなく、設備・運転資本・現金の売却価値から借入を引いた額(約90億円)で測った。今の株価と今のPER27倍は最後に比べただけで、倍率はそこに寄せていない。リースは借入が中心で影響が小さく、新リース会計は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→17.75 倍・やや楽観 PER 12.8→16.99 倍・中立 PER 12.6→15.65 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.8% を足して 8.3%。半導体の循環と借入の重さを見て上げ、PAG の値決めの余地を少し見て下げた。堀と寿命は残る割合で別に見る。個別の懸念は k でなく筋書きと確率に入れた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.30% → 7.80%。