結論
ソフト99は、ワックスやガラコなどで知られるカーケア用品の会社だ。もう一つの顔が、子会社アイオンがつくる半導体向けの洗浄スポンジである。2026年3月期の売上は312億円、営業利益は42億円で、筆者の推定ではその約半分を洗浄部材が稼ぐ。
筆者の結論は、事業の本質価値は今の値段を大きく下回る、というものだ。半導体の追い風を受ける中立の筋書きでも、10年後の営業利益は今の1.6倍にとどまる。自己資本の4割が現金のまま眠り、ROE(自己資本に対する利益)が5%前後では、資本コスト7.6%を稼げていない。確率で重みづけた価値は、今の時価総額を4割強下回る。
ただ、いまの値段は本質価値でなく、買い取り額で決まっている。創業家のMBO(経営陣による買収)提案に、ファンドのエフィッシモが高い値で対抗し、いまは同ファンドが過半を握る。2026年9月、株式併合による非公開化が発表された。11月の臨時株主総会で承認されれば12月に上場廃止となり、少数株主には今の時価総額とほぼ同じ約885億円相当の現金が払われる。
本分析は、上場を続ける前提で事業の値打ちを測った。買い取りが実現すれば、その額が少数株主にとっての確定した出口になる。分析との差は、買い手が事業の価値に上乗せして払う分だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず見るのは稼ぐ力だ。アイオンの洗浄部材は、2社寡占で顧客が替えにくい、数少ない強い事業である。ただ、全社の利益の半分は半導体の設備投資の波に乗っており、残る半分のカーケアは堀が浅い。10年先まで利益が続くと言い切れるのは、アイオンの一部にとどまる。
次に、株主のものになる利益、つまり再投資を引いた後の利益を見る。設備投資は重くないが、営業利益42億円に対し、現金がじりじり積み上がってきた。持ち主から見れば、稼いだ利益の半分近くが事業に再投資されず、利息しか生まない現金に化けている。資本の使い方は、点数が高くない。
安全域はどうか。今の値段は、中立の筋書きの10年後でも届かない水準にある。楽観の筋書きでようやく釣り合う。つまり値段は、最良の未来をほぼ織り込んでいる。事業の質に不満はないが、払う値段に安全域は見えない。
非公開化は、少数株主にはむしろ好条件の出口だ。買い手が、事業の価値を超える額を払うからである。ただし、これは事業の優劣とは別の話で、本質価値はそれとは切り離して測るべきだと筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は3つある。
ファインケミカル事業は売上の4割台半ばを占める主力だ。洗車用ワックス、ガラスの撥水剤ガラコ、拭くだけの洗車シートなどのカーケア用品を、カー用品店やホームセンター、業務用、海外へ売る。機能性の薄い被膜をつくる技術が土台で、タイヤ空気圧監視装置の企画開発販売も手がける。家庭用品は苦戦が続き、海外の他社製品を仲介する取引からは手を引いた。営業利益率は1割ほどで、広告費の重さが利益を削っている。
ポーラスマテリアル事業は売上の3割強だが、利益の約半分を稼ぐ。子会社アイオンが、PVA(ポリビニルアルコール)という素材のスポンジをつくる。吸水と洗浄に優れ、半導体やHDDの製造ラインで、基板の表面を洗うローラーとして使われる。最先端の工程向けにこれを供給できるのは、アイオンと米国の1社だけだ。売上の8割弱が産業資材、残りが洗車用タオルなどの生活資材で、海外比率は約5割に及ぶ。
サービス・不動産関連事業は、自動車の整備や板金、教習所の運営、不動産の賃貸、温浴施設の運営などで、売上の2割強を占める。カーケアの本業に付随する事業の位置づけで、利益率は1割に届かない。なお、セグメント別の通期の売上と利益は、中間期と第3四半期の開示から筆者が推定した。
優良さと弱いところ
光るのはアイオンだ。最先端の半導体洗浄用ローラーは、供給できる会社が世界で2社しかない。顧客は工場の歩留まり、つまり良品の取れる割合を守るため、仕入れ先を簡単には替えない。数量は半導体の生産が増えるほど伸び、直近の中間期の売上は12%増えた。
カーケア用品の堀は浅い。ブランドの知名度はあるが、クルマの保有台数は人口とともに細り、売り場では小売店の力が強い。広告費を積んで消費者向けを伸ばした結果、直近の中間期はファインケミカルの売上が5%伸びたのに、営業利益は18%減った。カーケアの稼ぐ力は、まだ試されている最中だ。
資本の使い方は評価が割れる。自己資本比率は88%、純現金は238億円で時価総額の27%にのぼる。借金がなく潰れにくい一方、ROEは5%前後にとどまる。現金が自己資本の4割を占め、事業の稼ぎを薄めている。10年で純現金は2倍に積み上がったが、筆者には安全というより、使い道を決めかねてきた結果に見える。
経営の規律が上がるのか、長期投資の名のもとに利益を後回しにするのかは、非公開化後にならないと判断がつかない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
二つの市場は、まるで性格が違う。
半導体の洗浄部材は、追い風の市場だ。AIの計算を支える先端ロジックとメモリの工場が世界で増え、先端の工程ほど洗浄の回数が増えるとされる。日経は2026年4〜12月期について、台湾や韓国からの引き合いが増えたと報じた。競合は米国の1社が先行し、中国の素材メーカーも追い上げる。最先端は2社の寡占でも、中位の品は追い上げを受けやすい。
カーケア用品は、成熟した市場だ。国内のクルマの台数は増えず、若い世代は洗車に手間をかけない。競争相手には、コーティング施工に強いKeePer技研、カー用品ブランドのプロスタッフやシーシーアイなどがある。KeePer技研は2025年3月にソフト99の株式12.38%を取得した。コーティング剤では競合するため、協業は洗車用品などに限られるとみられる。
成長の芽は、キャッシュレスの洗車場ALAUDAY、海外向けの自社製品、タイヤ空気圧監視装置の3つだ。海外向けの自社製品は2023年3月期の約10億円から2025年3月期の約14億円に伸び、アフリカと米国の開拓を進める。ただ、会社全体の規模から見れば、まだ小さい。
整備や教習所のサービス事業は、国内の人手と人口に縛られる。数量は横ばいから微減とみる。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、純利益の4割ほどを払ってきた。それでも純現金は10年で121億円から238億円に倍増した。第7次中期経営計画(2023年4月〜2026年3月)の最終年度の目標は、一度引き下げられたが、半導体向けが伸びて実績は営業利益42億円と、下げた目標も上回った。
いま最大の話題は、持ち主の交代だ。2025年8月、創業家の田中秀明氏がMBOを提案し、価格を引き上げたが、9月にエフィッシモが高い値で対抗の公開買い付けを始め、MBOは不成立となった。同ファンドは2026年1月からの第2回でも買い付け、過半を握った。両者は2026年7月ごろ非公開化で合意し、9月に株式併合を発表した。総会で承認されれば12月17日に上場廃止となり、端数となる一般株主には現金が払われる。
非公開化の後、ファンドは経営に原則関与せず、事業を検証する諮問の委員会を置く見込みだ。デジタル投資や人材への配分を、短期の株価を気にせず進めると会社は説明している。増資の必要は当面ないという。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体の洗浄部材は、最先端の工程で世界2社しか供給できない。AI向けの先端工場が増えれば、洗浄の回数も使う部材の数量も増える。アイオンは直近の中間期に売上が12%、営業利益が3割増えた。この事業だけで、10年後に営業利益は今の3倍以上になりうる。
カーケア用品は、広告費の山を越えれば利益率が戻る。消費者向けの伸びが続き、海外の自社製品とタイヤ空気圧監視装置が加われば、営業利益率は1割台後半まで上がる余地がある。会社は非公開化で短期の業績から解放され、デジタル投資や人材の処遇に力を入れられる。
さらに、純現金は238億円ある。新しい大株主が資本効率に厳しいファンドなら、余った現金は配当や自社株買いで戻り、ROEは上がる。利益の伸びと現金の還元が重なれば、10年後の価値は今の値段に並ぶ。ファンドが高い値で買い付けたことが、その見立ての裏づけだ。
国内のカーケアも、洗車場のキャッシュレス化やコーティング剤との組み合わせで、客単価を物価以上に上げられる余地がある。
慎重な見方
利益の半分は、半導体の設備投資の波に乗っているだけかもしれない。投資は景気と顧客の工場計画で大きく振れ、回復は永遠には続かない。中国の素材メーカーが中位の品から追い上げ、最先端でも米国の競合が価格で攻めれば、2社寡占の値決め力は崩れる。
カーケアは、どう見ても縮む市場だ。クルマの台数は増えず、若い世代は洗車に手をかけない。広告費を積んだ消費者向けの販売は、売上は増やしても利益を削った。家庭用品は苦戦が続いている。海外の自社製品も、まだ14億円規模にすぎない。
現金も当てにならない。10年かけて純現金を積み上げてきた経営が、非公開化で急に還元に動くとは限らない。ファンドは経営に関与しない方針で、現金は投資の名のもとに事業へ吸われるおそれがある。ROEが5%前後の会社に、資本コストを上回る価値は付かない。今の値段は、買い手が払う上乗せ分を含んだ額にすぎない。
加えて、広告費で消費者向けを伸ばす戦略は、売上を買う代わりに利益率を犠牲にする。同じ手が10年続けば、カーケアは大きい割に稼げない事業になる。
どちらに重みを置いたか
半導体洗浄部材の強さでは強気の見方が正しいが、全社の稼ぐ力と資本の使い方では慎重な見方が勝つ。中立の筋書きでも10年後の価値は今の時価総額に届かず、楽観でようやく釣り合う。確率は中立に3割台半ばを置き、構造的に崩れる悲観より、利益が伸び悩むやや悲観を厚くした。カーケアの縮小が確かな一方、半導体の追い風は不確かで、上振れの幅は限られると見たからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,255 円703 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 995 円215 億円)。 今の値に割り戻すと 2,254 円487 億円、今との差 −44.4%、 期待の年率 +0.5%(資本コスト 7.6%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,331 円1,367 億円 | 1,519 円328 億円 | +93.6% | +6.8% | 785 円170 億円 |
| やや楽観 | 21% | 4,042 円873 億円 | 1,153 円249 億円 | +28.1% | +2.5% | 1,091 円236 億円 |
| 中立 | 36% | 3,340 円721 億円 | 1,033 円223 億円 | +7.8% | +0.8% | 1,574 円340 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,898 円410 億円 | 880 円190 億円 | −31.5% | −3.7% | 611 円132 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,389 円300 億円 | 324 円70 億円 | −57.7% | −8.3% | 188 円41 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,255 円703 億円 | 995 円215 億円 | +4.8% | +0.5% | 4,250 円918 億円 |
今の株価時価総額 4,055 円876 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.6% を下回るほど割高。
楽観 10% 半導体が会社を引っぱり、カーケアも利益率が戻る 利益 90 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 6,331 円1,367 億円
半導体の洗浄部材が、10年を通じて会社の成長を引っぱる。AI向けの先端ロジックとHBMなどのメモリの工場が増え、アイオンは洗浄の工程が増える先端向けの数量を2.5倍にする。米国の競合に並ぶ供給力を保ち、値段も物価並みに上がる。カーケアは広告の効率が上がり、営業利益率が1割台後半に戻る。海外の自社製品とタイヤ空気圧監視装置が育ち、数量の減りを補う。非公開化の後、余った現金は配当や自社株買いに回って戻り、ROEは今より高まる。営業利益は10年で3倍弱に膨らむが、10年の資本コストで割り引くと、価値は今の値段にようやく並ぶ。この筋書きは、半導体の追い風、カーケアの利益率の回復、現金の還元という三つの好材料がすべてそろった場合にだけ起きる、最も恵まれた10年である。
- ファインケミカル(カーケア・家庭用・業務用・海外):数量 4,532(販売個数(万個、推定。実質の数量))× 価格 444(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 201 億円・営業利益 34 億円。営業利益率17.0%
- ポーラスマテリアル:産業資材(半導体・HDD洗浄ローラーなど):数量 100(出荷点数(万点、推定。実質の数量))× 価格 26,130(1点あたりの平均単価(円、名目。ローラーと小物の平均))→ 売上 261 億円・営業利益 76 億円。営業利益率29.0%
- ポーラスマテリアル:生活資材(洗車用・スポーツ用タオルなど):数量 462(出荷点数(万点、推定。実質の数量))× 価格 670(1点あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 31 億円・営業利益 2 億円。営業利益率6.0%
- サービス・不動産関連(整備・板金・教習所・不動産賃貸・温浴):数量 35.0(利用件数(万件、推定。整備の入庫・教習の受講・施設の利用の合計))× 価格 26,800(1件あたりの売上(円、名目))→ 売上 94 億円・営業利益 10 億円。営業利益率11.0%
倍率:事業のROE 12.2%(現金を除く)。RONIC=k 7.6%+残る割合1/2×(12.2−7.6)=9.9%、長期の成長率g 4.0%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=16.6倍。半導体の追い風を前提にした筋書きだが、利益の半分が設備投資の波に乗るため、上限の約9割に置いた。
確率:半導体の追い風が長く続き、カーケアの利益率も戻る二つの条件が重なる必要がある。実現すれば大きいが、重なる確度は高くない。
やや楽観 21% 半導体は堅調、カーケアは横ばいで持ちこたえる 利益 61 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 4,042 円873 億円
半導体の追い風は続くが、最良ではない。アイオンの数量は10年で1.75倍に伸び、価格は物価並みに上がる。営業利益率は2割台半ばで安定する。カーケアは数量が横ばいにとどまり、広告費の使い方を絞ることで営業利益率が1割台前半まで戻る。サービス事業は教習所と整備の需要が人口の減少をなんとか持ちこたえる。非公開化の後も、現金の多くは事業の投資や備えに回るが、配当の水準は保たれる。営業利益は今の2倍弱になるが、ROEは9%台どまりで、倍率が大きく上がる展開にはならない。会社は堅実に伸びるが、驚くような成長には届かない。値段が今に釣り合うには、現金の還元が加わる必要がある。
- ファインケミカル(カーケア・家庭用・業務用・海外):数量 4,400(販売個数(万個、推定。実質の数量))× 価格 432(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 190 億円・営業利益 24 億円。営業利益率12.5%
- ポーラスマテリアル:産業資材(半導体・HDD洗浄ローラーなど):数量 70.0(出荷点数(万点、推定。実質の数量))× 価格 26,130(1点あたりの平均単価(円、名目。ローラーと小物の平均))→ 売上 183 億円・営業利益 48 億円。営業利益率26.0%
- ポーラスマテリアル:生活資材(洗車用・スポーツ用タオルなど):数量 440(出荷点数(万点、推定。実質の数量))× 価格 670(1点あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 30 億円・営業利益 2 億円。営業利益率5.0%
- サービス・不動産関連(整備・板金・教習所・不動産賃貸・温浴):数量 35.0(利用件数(万件、推定。整備の入庫・教習の受講・施設の利用の合計))× 価格 26,800(1件あたりの売上(円、名目))→ 売上 94 億円・営業利益 9 億円。営業利益率9.8%
倍率:事業のROE 9.0%(現金を除く)。RONIC=k 7.6%+残る割合1/2×(9.0−7.6)=8.3%、長期の成長率g 4.0%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=14.4倍。ROEはkを上回るが差が小さく、1÷kの13.2倍に近い13.6倍に置いた。
確率:半導体の追い風が続き、カーケアが横ばいで持ちこたえる。AI向けの投資が続くという前提で、中心よりやや強気の筋書き。
中立 36% 中立:半導体が伸びるが、カーケアが足を引っぱる 利益 51 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 3,340 円721 億円
半導体は伸びるが、カーケアが足を引っぱる。アイオンの数量は10年で1.5倍、価格は物価並みの1.34倍で、営業利益率は24%と今より少し下がる。ファインケミカルは、国内の数量が3%ほど減り、海外の自社製品が減少の一部を補う。値段は物価並みに上げられるが、広告費の重さは残り、営業利益率は11.5%にとどまる。サービス事業は教習所の受講者が減り、数量は5%減る。全社の営業利益は10年で1.6倍の68億円になる。現金は積み上がり続け、ROEは7%台後半に上がるが、資本コストをわずかに超えるだけだ。半導体の恩恵は確かに利益を押し上げるが、カーケアと眠る現金が、その効果をほぼ相殺する。10年かけて、堅実だが特別でもない会社になる。
- ファインケミカル(カーケア・家庭用・業務用・海外):数量 4,268(販売個数(万個、推定。実質の数量))× 価格 432(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 184 億円・営業利益 21 億円。営業利益率11.5%
- ポーラスマテリアル:産業資材(半導体・HDD洗浄ローラーなど):数量 60.0(出荷点数(万点、推定。実質の数量))× 価格 26,130(1点あたりの平均単価(円、名目。ローラーと小物の平均))→ 売上 157 億円・営業利益 38 億円。営業利益率24.0%
- ポーラスマテリアル:生活資材(洗車用・スポーツ用タオルなど):数量 440(出荷点数(万点、推定。実質の数量))× 価格 670(1点あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 30 億円・営業利益 1 億円。営業利益率4.5%
- サービス・不動産関連(整備・板金・教習所・不動産賃貸・温浴):数量 33.0(利用件数(万件、推定。整備の入庫・教習の受講・施設の利用の合計))× 価格 26,800(1件あたりの売上(円、名目))→ 売上 88 億円・営業利益 8 億円。営業利益率9.3%
倍率:事業のROE 7.8%(現金を除く)。RONIC=k 7.6%+残る割合1/2×(7.8−7.6)=7.7%、長期の成長率g 4.0%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=13.4倍。ROEがkをわずかに上回るだけなので、1÷kの下限に近い13.2倍が中立になる。利益の質を理由に下げたくても、ROEがk以上の下限は1÷k。
確率:半導体の洗浄部材は伸びるが、カーケアの縮小と広告費の重さが全社の利益を抑える。事業の構造から素直に出る中心の筋書き。
やや悲観 22% 価格競争で利益が伸び悩み、現金だけが積み上がる 利益 34 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,898 円410 億円
半導体は伸びるが、価格競争が利益を削る。中国の素材メーカーが中位の品から追い上げ、アイオンの数量は1.2倍、価格は物価に届かず1.25倍にとどまり、営業利益率は2割まで下がる。カーケアは、若い世代の洗車離れと小売の価格交渉で数量が1割近く減り、広告費をかけても営業利益率は9%まで落ちる。サービス事業も教習所の受講者が細り、利益率が下がる。営業利益は今とほぼ同じ水準に伸び悩み、現金だけが積み上がってROEは5%台にとどまる。資本コストを稼げない、いわば眠った会社になる。非公開化が実現しても、経営の姿勢が変わらないまま、10年が過ぎていく筋書きだ。
- ファインケミカル(カーケア・家庭用・業務用・海外):数量 4,004(販売個数(万個、推定。実質の数量))× 価格 419(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 168 億円・営業利益 15 億円。営業利益率9.0%
- ポーラスマテリアル:産業資材(半導体・HDD洗浄ローラーなど):数量 48.0(出荷点数(万点、推定。実質の数量))× 価格 24,375(1点あたりの平均単価(円、名目。ローラーと小物の平均))→ 売上 117 億円・営業利益 23 億円。営業利益率20.0%
- ポーラスマテリアル:生活資材(洗車用・スポーツ用タオルなど):数量 418(出荷点数(万点、推定。実質の数量))× 価格 650(1点あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。営業利益率2.0%
- サービス・不動産関連(整備・板金・教習所・不動産賃貸・温浴):数量 32.0(利用件数(万件、推定。整備の入庫・教習の受講・施設の利用の合計))× 価格 25,000(1件あたりの売上(円、名目))→ 売上 80 億円・営業利益 6 億円。営業利益率7.0%
倍率:事業のROE 5.3%がkを下回るので、PERの上限は1÷k=13.2倍。ためた利益は額面より低い価値だ。ROEがkを下回るので、上限の13.2倍から利益の質で2割ほど下げ、11.0倍に置いた。
確率:中国勢の追い上げと国内の洗車離れが重なる。半導体の追い風は続いても価格が崩れる筋書きで、現金の眠りも解けない。
悲観 11% 洗浄部材もカーケアも構造的に負ける 利益 10 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,389 円300 億円
構造的に負ける10年になる。中国勢が洗浄ローラーの最先端にも手を伸ばし、顧客が供給元を分散して、アイオンの数量は今を割り、価格も上げられない。営業利益率は1割強まで落ちる。カーケアはクルマの台数減と新興ブランドに押されて数量が2割以上減り、営業利益は薄い黒字にとどまる。生活資材は赤字に沈む。営業利益は今の3分の1以下になり、不動産や設備の減損で自己資本は削られる。値段を支えるのは稼ぐ力ではなく、積み上がった純現金と、売れる不動産などの資産になる。ブランドと堀が崩れた会社は、事業の収益力でなく、持っている資産で評価される。
- ファインケミカル(カーケア・家庭用・業務用・海外):数量 3,388(販売個数(万個、推定。実質の数量))× 価格 370(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 126 億円・営業利益 4 億円。営業利益率3.0%
- ポーラスマテリアル:産業資材(半導体・HDD洗浄ローラーなど):数量 36.0(出荷点数(万点、推定。実質の数量))× 価格 19,500(1点あたりの平均単価(円、名目。ローラーと小物の平均))→ 売上 70 億円・営業利益 8 億円。営業利益率12.0%
- ポーラスマテリアル:生活資材(洗車用・スポーツ用タオルなど):数量 378(出荷点数(万点、推定。実質の数量))× 価格 550(1点あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 21 億円・営業利益 0 億円。営業利益率-2.0%
- サービス・不動産関連(整備・板金・教習所・不動産賃貸・温浴):数量 28.0(利用件数(万件、推定。整備の入庫・教習の受講・施設の利用の合計))× 価格 22,000(1件あたりの売上(円、名目))→ 売上 62 億円・営業利益 2 億円。営業利益率3.0%
倍率:構造的に負け、利益が細る筋書きなので、稼ぐ力(純利益10億円÷k≒130億円)でなく売れる資産で測る。純現金と、不動産・設備・在庫の売却価値(税後)を床とし、今の自己資本588億円に0.51倍を掛けた。
確率:洗浄部材が置き換えられ、カーケアも縮む複合の筋書き。起きれば深いが、最先端の2社寡占を考えると確率は1割ほどに抑えた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ファインケミカル(カーケア・家庭用・業務用・海外)
ワックス、ガラコ、洗車シートなどのカーケア用品と家庭用品、業務用、海外向け、タイヤ空気圧監視装置。
| 数量販売個数(万個、推定。実質の数量) | 価格1個あたりの出荷単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,400 | 322 | 142 | 15 |
| 10 年後 中立 | 4,268 | 432 | 184 | 21 |
取り方:中間期の売上69.6億円と第3四半期累計の108.1億円から通期を約142億円と推定した。個数は、小売価格の5〜6割にあたる出荷単価を平均で小売価格の5割台と見て逆算した推定。営業利益は中間期の7.2億円(前年比18%減)から約15億円とした。国内は車の台数減で数量が細る一方、海外の自社製品とタイヤ空気圧監視装置が下支えする。
ポーラスマテリアル:産業資材(半導体・HDD洗浄ローラーなど)
子会社アイオンがつくるPVAスポンジの洗浄ローラーや吸水材。最先端の半導体向けは米国の1社と2社で供給する。
| 数量出荷点数(万点、推定。実質の数量) | 価格1点あたりの平均単価(円、名目。ローラーと小物の平均) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 19,500 | 78 | 20 |
| 10 年後 中立 | 60.0 | 26,130 | 157 | 38 |
取り方:ポーラス全体の売上は通期で約100億円と推定(中間期48.3億円、前年比12%増)。2024年3月期の産業資材比率79%から約78億円を産業資材とした。営業利益は中間期の9.0億円から通期約20.5億円と推定し、生活資材に1億円を割り、残りの19.5億円を産業資材とした。点数と単価は、先端用ローラーの高単価と小物の混合から置いた推定。
ポーラスマテリアル:生活資材(洗車用・スポーツ用タオルなど)
PVAスポンジのタオルなど、一般消費者向けの吸水用品。
| 数量出荷点数(万点、推定。実質の数量) | 価格1点あたりの平均単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 440 | 500 | 22 | 1 |
| 10 年後 中立 | 440 | 670 | 30 | 1 |
取り方:産業資材の残り約22億円(2024年3月期の構成比22%)。タオルの店頭価格の約半値にあたる出荷単価で個数を逆算した推定。営業利益は開示がなく、低利益率の事業として約1億円と置いた。
サービス・不動産関連(整備・板金・教習所・不動産賃貸・温浴)
自動車の整備・板金、教習所の運営、不動産の賃貸、温浴施設の運営。
| 数量利用件数(万件、推定。整備の入庫・教習の受講・施設の利用の合計) | 価格1件あたりの売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 35.0 | 20,000 | 70 | 7 |
| 10 年後 中立 | 33.0 | 26,800 | 88 | 8 |
取り方:第3四半期累計のサービス売上43.4億円と、中間期の不動産関連6.5億円(営業利益1.6億円)から通期を約70億円、営業利益を約6.5億円と推定した。件数は、整備の入庫と教習の受講、施設の利用の合計を35万件と見て、1件あたり約2万円と置いた推定。
リスクと懸念
非公開化の行方
臨時株主総会で株式併合が否決されれば、買い取りの前提が崩れる。賛成の意向を示す株主で議決権の約73%を持つため可能性は低いが、延期や条件変更があれば、少数株主が受け取る額も時期もずれる。納得できない株主は、裁判所に価格の決定を申し立てられる。
利益の半分が半導体の波に乗る
アイオンの洗浄部材は、先端工場の投資計画と顧客の在庫調整に数量が左右される。AI向け投資が鈍れば、会社全体の利益が一気に細る。2社寡占でも、特定の顧客や地域に偏れば、その影響は一段と大きくなる。
中国勢の追い上げ
最先端は2社寡占でも、中位の品では中国の素材メーカーが技術を追い上げている。顧客が供給元の分散を求めれば、数量と価格の両方を失う。国産化政策が進めば、台湾や韓国向けの引き合いにも影を落とす。
カーケアの縮小
国内のクルマの台数は増えず、若い世代は洗車に手間をかけない。ファインケミカルは広告費をかけても利益が減った。KeePer技研のコーティングや、新興ブランドの値下げ攻勢で、ブランド力が薄れる懸念がある。
眠る現金の使い道
純現金は238億円と時価総額の27%に及ぶ。非公開化の後に大株主がどう扱うかで、ROEと価値が変わる。還元に回らず、デジタル投資や買収に消えれば、資本コストを稼げない現金が増えるだけになる。
新しい経営体制の規律
非公開化の後は、市場の目が届かなくなる。ファンドは経営に関与しない方針で、事業を検証する委員会は諮問にとどまる。経営の緩みを止める仕組みが働くかどうかは、外から見えにくくなる。
今後の分かれ目
- 臨時株主総会で株式併合が承認され、上場廃止の日程が確定したら
- 少数株主の出口が確定し、本質価値の分析は上場の前提を離れた参考値になる。
- アイオンの売上が前年比2桁増を数期続けたら
- 半導体の追い風が数量に出ているサインで、楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- ファインケミカルの営業利益率が12%を超えて定着したら
- 広告費の重さが解消したとみて、カーケアの利益率の前提を上方修正する。
- 非公開化の後に大型の配当や自社株買いが出たら
- 眠る現金が戻るとみて、余った現金の戻り方を見直す。
- 中国の洗浄部材メーカーが先端の工程で採用されたら
- 2社寡占が崩れるサインとみて、やや悲観・悲観に重みを移す。
- 非公開化の後に大きな買収が出たら
- 眠る現金が事業に消えるとみて、資本の使い方の評価を下げる。
見ておくもの
- 臨時株主総会(2026年11月26日予定)の採決
- アイオンの売上と営業利益の伸び率
- ファインケミカルの営業利益率と広告費
- 純現金の水準と配当・自社株買い
- 海外向け自社製品の売上と、洗浄部材の海外比率
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE(現金を除く)と資本コスト 7.6% から、正当化 PER の式で上限を出して置いた。ROE が資本コストをわずかに上回るだけなので、中立は 1÷k の下限近くになり、残る割合は堀が普通(1/2)とした。今の株価や買い取り額は、最後に比べただけで、倍率にも筋書きにも寄せていない。買い取り額が事業の価値を上回ることは、分析の結果として出た。数量は実質、価格は物価3%込みの名目で積み、セグメントの売上と利益の内訳は開示から推定した。店舗を借りて営む会社ではなく、家賃が筋書きを左右しない。新リース会計で数字の形が変わっても、家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。
資本コスト 7.6% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality+0.1%を足して7.6%。非公開化の行方や大株主の方針は、kに足さず、筋書きと確率で表した。堀は普通(残る割合1/2)とした。