結論
天昇電気工業は、車の内外装や物流容器をつくる樹脂成形の老舗だ。売上の約6割が自動車向けで、SUBARUとトヨタ紡織だけで3割を超える。筆者の結論は、今の値段は10年の価値に対してやや高い、というものだ。
理由は二つある。一つ目は、資産と稼ぐ力の差だ。自己資本は110億円あるのに、本業の営業利益率は2%台で、ROEは資本コストに届かない。資産が厚いことは、そのまま価値にならない。二つ目は、値決めの弱さだ。完成車メーカーは毎年、原価の引き下げを求める。
一方で、安全域もある。電動化で内外装の樹脂部品がなくなるわけではなく、SUBARUも電動化の計画を後ろへずらした。足元の借金は小さく、赤字に転ぶ危険は低い。
見どころは、非自動車をどこまで育てられるかだ。会社は自動車の比率を35%程度まで下げる方針だが、中期計画の数字は出ていない。大株主の三甲グループが物流容器の販路を持つのは心強い。ただ、その三甲が少数株主に現金を戻すかどうかは別の話だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安く見えるが、安さの中身を見極める」対象だ。
時価総額は約48億円で、自己資本の半分以下だ。ただ、自己資本の中身は、古い設備、賃貸不動産、米国の持分法会社の持分である。設備は償却で目減りし、更新に現金が要る。償却費は年20億円あり、営業利益の3倍近い。
本当に見るべきは、営業利益と投下資本の関係だ。製造業の営業利益は5億円前後で、100億円規模の資産を使って得る稼ぎとしては薄い。資本コストを下回るので、ためた利益は額面より小さい価値しかない。
評価できる点は三つある。賃貸が確実に稼ぐこと、借金が小さいこと、売れる資産が厚いことだ。逆に、顧客が値段を決めること、主力顧客が2社に偏ること、大株主が戻り方を決めることは重い。
筆者は、今の値段を「資産の割安さ」とは読まない。薄い利益に見合う水準より、やや高いと見る。安全域は小さい。もし経営が資本の使い方を変え、配当や自社株買いで現金を戻せば、評価は上に動く。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は射出成形、つまり溶かした樹脂を金型に流して部品を量産する技術だ。2026年3月期の売上は約219億円で、日本の成形事業が96%を占める。
自動車部品が売上の約6割で、SUBARUが2割強、トヨタ紡織が1割強。内外装の樹脂部品を、金型の設計から成形、塗装、納品まで一貫して請け負う。残りは物流容器、家電・OA機器の機構部品、金型の外販、雨水貯留浸透槽といった自社製品だ。
中国に小さな子会社があり、ICトレーなどをつくる。米国は、2025年1月に子会社の増資で持分が下がり、連結から外れた。今は持分法会社として28.5%を持つ。
不動産賃貸も隠れた柱だ。相模原の賃貸物件は、売上2.8億円に対して営業利益2.3億円を出す。製造業の営業利益4.9億円の半分近くを、この賃貸が占める計算になる。老朽化した物件の更新が要るため、収入が伸びるかどうかは別だ。
大株主は三甲グループが33.6%、三井物産が13.8%だ。三甲は物流容器の大手で、天昇の売上の6%強を占める顧客でもある。従業員は連結で約470人と小さく、工場は関東と福島、群馬に点在する。
優良さと弱いところ
優良さは「普通より少し下」と見る。技術と顧客との長い取引は強みだが、利益になって残っていない。
強みは、一貫して請け負える力だ。1936年創業の老舗で、顧客との取引は長い。金型、成形、塗装まで自社でこなし、完成車メーカーの品質認定を通っている。新規の競合が簡単に入れる世界ではない。
弱みは、値決めを顧客が握ること。過去12年の営業利益率は、米国を含めた最盛期で8%、国内だけの足元で2%台だ。ROEの中央値は10%だが、これは米国の好調と一過性の利益で押し上げた数字だ。
財務は健全になった。自己資本比率は52%で、借入は小さい。設備投資は前期に絞りすぎたが、今期は償却並みの20億円台へ戻す計画だ。
資本の使い方は保守的だ。配当性向は1割台半ばで、自己資本は積み上がる。経営は2024年に三井化学出身の社長へ代わった。物言う株主はおらず、経営は2大株主と協調して進む。新しい経営陣が資本の使い方を変えるかが、この会社の評価を左右する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車部品の世界は、完成車メーカーの生産台数と原価低減の要請で動く。国内の自動車生産は人口減とともに緩やかに縮み、海外へ重心が移っている。部品メーカーは、顧客の工場の近くに拠点を構えることが多く、国内の生産が減れば工場の稼働に響く。
電動化は、部品の中身を入れ替える。エンジンまわりの樹脂部品は要らなくなるが、内外装は電気自動車でも要る。軽量化のために樹脂の使用が増える面もある。SUBARUは2026年5月に自社開発の電気自動車の投入を延期し、エンジン車への開発を厚くする方針を示した。足元では内燃機関の長い寿命が追い風だ。
値下げ要請は構造的に続く。完成車メーカーは調達先に毎年の原価低減を迫る。樹脂の値上がりは遅れて転嫁されるので、利益は薄く、景気で振れやすい。
物流容器と雨水貯留槽の分野では、三甲という大手が親会社筋にいる。協業は心強い反面、三甲の販路が成長の天井にもなりうる。
小型の成形メーカーは再編の候補になりやすく、10年以内の買収の確率は3割ほどと試算されている。大株主が決まっているため、買収が起きるなら三甲グループ主導になる。少数株主にとっては、条件次第で価値が実現する可能性もある。
資本政策と M&A
資本政策は守りだ。配当は2024年3月期から据え置かれ、性向は1割台半ばにとどまる。株主優待はない。
米国子会社の増資で、持分は55.9%から41.4%、さらに28.5%へ下がり、連結から外れた。この過程で、会計上の利益と損失が出たが、現金の動きはない。
2大株主は三甲グループと三井物産で、あわせて約47%だ。ほかに大きな持分を持つ株主はいない。三甲は取引先でもあり、親会社に近い立場だ。このため、手元に現金がたまっても、少数株主へ厚く戻る保証は弱いとみて、余った現金の戻り方は0.5で見る。
中期経営計画は公表されていない。更新投資の再開と、非自動車の拡大が当面の方針だ。省人化と自動化を進める生産革新のチームを置き、人手不足に備える。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
資産の厚さが最大の根拠だ。賃貸の収入は景気に左右されず、毎年2億円台の営業利益を出す。時価総額は自己資本の半分以下で、賃貸不動産と売れる資産だけでも、時価総額に近い価値がある。事業が赤字になっても、純有利子負債は小さく、下値は固い。
電動化の影響は思われているより小さい。内外装は電気自動車でも要り、SUBARUは電動化の計画を延ばした。SUBARUとトヨタ紡織という安定した顧客を持ち、品質認定を通った立場は簡単に崩れない。
成長余地もある。雨水貯留浸透槽、塗装、物流容器の三つで、非自動車を伸ばす計画が進む。自動車比率を35%程度に下げれば、景気の波が小さくなり、利益率の改善と倍率の見直しが同時に起きる。三甲という物流容器の大手が筆頭株主にいることも、販路の面では大きな武器になる。
更新投資が再開されれば、人手を減らせる省人化が進む。三井化学出身の新社長の下で、資本の使い方が前向きに変わる可能性がある。また、賃貸収入は景気に左右されず、利益の下支えになる。
慎重な見方
資産が厚いことは、株主の取り分が厚いことを意味しない。時価総額が自己資本を下回るのは、市場がその資産の稼ぐ力を認めていないからだ。自己資本110億円に対し、製造業の営業利益は5億円前後で、ROEは資本コストを大きく下回る。ためた利益は額面より小さくしか評価できない。
値決めは完成車メーカーが握る。毎年の原価低減の要請で、物価が3%で上がる世界でも、単価は物価に追いつかない。人件費と金型代は上がり、償却費は更新で膨らむ。
主力顧客はSUBARUとトヨタ紡織で、3割を超える。どちらかの調達方針が変われば、工場の稼働が一気に落ちる。国内の自動車生産は縮み続け、顧客は海外の現地調達へ移る。
2大株主が47%を持ち、少数株主に戻る現金は限られる。中期計画がなく、資本の使い方も見えない。株主優待もなく、還元の姿勢は弱い。非自動車の拡大も、会社がこれまで示した数字は乏しい。米国の持分法会社も、拡大投資の成否で評価が揺れる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方がやや強い。資産の厚さは下値を支えるが、10年の価値を押し上げるのは稼ぐ力だけで、その稼ぐ力は薄い。電動化の影響は思われるほど悪くないので、悲観の確率は低めに抑えた。結果は、今の値段を少し下回る水準になる。強気の見方が当たるには、非自動車の自社製品が実績を出し、資本政策が変わる必要がある。その条件が揃うまでは、慎重な見方を上に置く。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 539 円92 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 70 円12 億円)。 今の値に割り戻すと 291 円50 億円、今との差 +3.0%、 期待の年率 +8.0%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 962 円164 億円 | 147 円25 億円 | +291.7% | +14.6% | 55 円9 億円 |
| やや楽観 | 15% | 779 円133 億円 | 106 円18 億円 | +212.7% | +12.1% | 133 円23 億円 |
| 中立 | 38% | 696 円118 億円 | 76 円13 億円 | +173.1% | +10.6% | 294 円50 億円 |
| やや悲観 | 28% | 305 円52 億円 | 50 円9 億円 | +25.5% | +2.3% | 99 円17 億円 |
| 悲観 | 14% | 175 円30 億円 | 29 円5 億円 | −27.9% | −3.2% | 29 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 539 円92 億円 | 70 円12 億円 | +115.5% | +8.0% | 610 円104 億円 |
今の株価時価総額 283 円48 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 5% 非自動車が育ち、自動車の利益率も戻る 利益 14 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 962 円164 億円
非自動車の自社製品が柱になる。雨水貯留浸透槽は自治体の治水投資に乗り、物流容器は三甲の販路を使って数量が4割増える。自動車は国内生産が落ちず、塗装まで請ける部品が増えて、単価が物価に近い速さで上がる。
会社が掲げる「自動車比率を35%程度まで下げる」ところに近づき、景気の波の影響が薄まる。営業利益率は過去最高の8%には届かないが、全体で6%台に乗る。賃貸収入は契約更新で物価の半分ほどしか上がらない。
配当性向は2割台まで上がり、ためた現金を設備更新と自社製品の開発に回す姿を置いた。三甲と三井物産という2大株主が、経営に口を出して資本の使い方を変えるほどの動きは見込まない。
- 自動車部品(内外装の樹脂成形・塗装):数量 267(納入部品の車1台相当数(万台相当、推定))× 価格 0.64(1台相当あたり売上(万円/台相当、名目))→ 売上 171 億円・営業利益 7 億円。自動車 営業利益率4.0%
- 物流・産業資材・機構品・金型(非自動車と中国):数量 23.8(成形品の出荷量(千トン、推定))× 価格 6.69(1千トンあたり売上(億円/千トン、名目))→ 売上 159 億円・営業利益 8 億円。非自動車 営業利益率5.0%
- 不動産賃貸(相模原):数量 1.0(賃貸物件(件))× 価格 3.40(1件あたり賃貸収入(億円/年、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 3 億円。賃貸 利益率82%
倍率:事業の純利益 14 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 164 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:雨水貯留槽や塗装が計画どおり伸び、主力顧客の生産も落ちない二つが重なる必要がある。会社は中期計画を出しておらず、実績の裏づけが薄いので5%に置いた。
やや楽観 15% 非自動車が少し伸び、自動車は堅調 利益 10 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 779 円133 億円
自動車は国内生産が横ばいで、SUBARUとトヨタ紡織の受注が続く。単価は毎年の原価低減の要請を受けながらも、樹脂価格の転嫁と省人化で物価の7割ほどの速さで上がる。
非自動車は雨水貯留槽や物流容器が伸び、数量が2割増える。三甲との取引は広がるが、依存が深まるほどの規模ではない。自動車でも、トヨタ紡織経由の内装部品が少し増える。自動車では、トヨタ紡織を通じた内装部品の受注が増える。
営業利益率は全体で4.7%になる。持分法の利益は米国の拡大投資が実って緩やかに増える。賃貸収入は契約更新で物価の半分ほどしか上がらず、成長の源にはならない。償却費は更新投資で2割ほど膨らむが、数量の伸びで吸収できる。株主還元は配当性向を2割弱へ引き上げる程度にとどまる。
- 自動車部品(内外装の樹脂成形・塗装):数量 257(納入部品の車1台相当数(万台相当、推定))× 価格 0.63(1台相当あたり売上(万円/台相当、名目))→ 売上 161 億円・営業利益 5 億円。自動車 営業利益率3.2%
- 物流・産業資材・機構品・金型(非自動車と中国):数量 20.4(成形品の出荷量(千トン、推定))× 価格 6.54(1千トンあたり売上(億円/千トン、名目))→ 売上 134 億円・営業利益 5 億円。非自動車 営業利益率3.8%
- 不動産賃貸(相模原):数量 1.0(賃貸物件(件))× 価格 3.30(1件あたり賃貸収入(億円/年、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 3 億円。賃貸 利益率82%
倍率:事業の純利益 10 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 124 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:主力顧客の受注が底堅く、自社製品が計画の半分ほど育つ姿。国内の自動車生産は横ばいという前提で、15%に置いた。
中立 38% 自動車は横ばい、非自動車が緩やかに伸びる 利益 9 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 696 円118 億円
稼ぎの形は今と変わらない。自動車の数量は国内の生産がじわじわ減る分だけ縮み、10年で5%減る。単価は毎年の原価低減の要請を樹脂価格の転嫁と省人化で受け止め、物価の7割ほどの速さで上がる。
非自動車は雨水貯留浸透槽と物流容器が支え、数量は8%増える。賃貸は契約更新で物価の半分ほどしか収入が上がらない。営業利益は10億円台に乗るが、利益率は4%に届かない。
償却費は今の20億円が新しい設備の分だけ膨らんで24億円ほどになる。更新投資は建築費と金型の値上がりで膨らむので、償却を上回る現金が出ていく。会計上の利益は伸びても、手元に残る現金はその分細る。
株主還元は配当性向の1割台後半にとどまり、自己資本は積み上がる。
- 自動車部品(内外装の樹脂成形・塗装):数量 249(納入部品の車1台相当数(万台相当、推定))× 価格 0.61(1台相当あたり売上(万円/台相当、名目))→ 売上 152 億円・営業利益 4 億円。自動車 営業利益率2.8%
- 物流・産業資材・機構品・金型(非自動車と中国):数量 18.4(成形品の出荷量(千トン、推定))× 価格 6.39(1千トンあたり売上(億円/千トン、名目))→ 売上 117 億円・営業利益 4 億円。非自動車 営業利益率3.2%
- 不動産賃貸(相模原):数量 1.0(賃貸物件(件))× 価格 3.27(1件あたり賃貸収入(億円/年、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 3 億円。賃貸 契約更新で物価の半分ほどの上昇、利益率82%
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.6% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 103 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:内外装の樹脂部品は電動化でも要り、主力顧客の受注は底堅い。一方で値決めは顧客が握り、利益率は薄いまま。もっとも重みを置く筋書きで、慎重な見方がやや強いので残りは悲観側に寄せた。
やや悲観 28% 主力顧客の生産が減り、値下げで利益が薄くなる 利益 5 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 305 円52 億円
国内生産の縮小とSUBARUの海外シフトで、自動車向けの数量が2割減る。トヨタ紡織向けも、車種の終了で受注が細る。完成車メーカーの原価低減の要請が続き、単価は物価の半分ほどしか上がらない。
非自動車は伸びず、物流容器は三甲向けも含めて横ばい。固定費の重い工場が稼働率を落とし、償却費が利益を押し下げる。営業利益率は2%台まで落ちる。
米国の持分法会社の利益は伸びず、配当は据え置きの水準を保つのがやっと。更新投資を絞るため、設備が古びて競争力がさらに落ちる循環に入る。賃貸収入は底堅いが、製造業の赤字を埋めるには小さい。三甲との関係は変わらず、容器の受託も縮む。
- 自動車部品(内外装の樹脂成形・塗装):数量 210(納入部品の車1台相当数(万台相当、推定))× 価格 0.56(1台相当あたり売上(万円/台相当、名目))→ 売上 117 億円・営業利益 1 億円。自動車 営業利益率1.2%
- 物流・産業資材・機構品・金型(非自動車と中国):数量 16.2(成形品の出荷量(千トン、推定))× 価格 5.99(1千トンあたり売上(億円/千トン、名目))→ 売上 97 億円・営業利益 2 億円。非自動車 営業利益率2.0%
- 不動産賃貸(相模原):数量 1.0(賃貸物件(件))× 価格 3.00(1件あたり賃貸収入(億円/年、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 2 億円。賃貸 利益率80%
倍率:事業のROEは3.4%でkに届かず、上限は1÷k=11.4倍。構造的に縮む筋書きなので、上限の7割の8.0倍に置いた。
確率:国内の自動車生産が構造的に細り、SUBARU向けが減る姿。過去20年で営業利益率が1%台まで落ちた期が複数あり、顧客への依存の高さを踏まえて悲観側全体を4割強とした。
悲観 14% 主力顧客を失い、工場を畳みながら縮む 利益 −2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 175 円30 億円
SUBARUが国内の部品調達を絞るか、海外の現地調達に移して、自動車向けが半分近くに落ちる。残った受注も単価を叩かれ、工場の稼働が落ちて赤字になる。
非自動車は物流容器の値下げに押され、利益が出ない。会社は工場の統合と金型投資の凍結に動くが、減損と再編費用がかさむ。配当は大きく削る。三甲が持つ物流容器の販路にも限りがあり、自社製品が育つ保証はない。
価値の拠りどころは、事業の稼ぐ力でなく売れる資産になる。賃貸不動産、上場株式、米国の持分法会社の持分、工場用地が主な中身だ。清算を迫る大株主がいない限り、これらが少数株主に戻る保証はない。2大株主が追加の出資や買い取りに動けば、少数株主の持分は薄まるか、安い値段で買い取られる恐れもある。
- 自動車部品(内外装の樹脂成形・塗装):数量 144(納入部品の車1台相当数(万台相当、推定))× 価格 0.53(1台相当あたり売上(万円/台相当、名目))→ 売上 76 億円・営業利益 −2 億円。自動車 営業利益率-3.0%
- 物流・産業資材・機構品・金型(非自動車と中国):数量 14.5(成形品の出荷量(千トン、推定))× 価格 5.49(1千トンあたり売上(億円/千トン、名目))→ 売上 79 億円・営業利益 0 億円。非自動車 営業利益率0%
- 不動産賃貸(相模原):数量 1.0(賃貸物件(件))× 価格 2.10(1件あたり賃貸収入(億円/年、名目))→ 売上 2 億円・営業利益 2 億円。賃貸 利益率75%
倍率:赤字で稼ぐ力はない。床は売れる資産の税後で、今の自己資本110億円に0.27倍を置いた。
確率:主力顧客の調達方針の変更で受注が半減し、赤字が続く姿。2大株主が支えるなら清算にはならないが、少数株主に戻る価値は限られる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車部品(内外装の樹脂成形・塗装)
SUBARU、トヨタ紡織などに納める内外装の樹脂部品。射出成形から塗装、組み立てまでを担う。
| 数量納入部品の車1台相当数(万台相当、推定) | 価格1台相当あたり売上(万円/台相当、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 262 | 0.50 | 131 | 3 |
| 10 年後 中立 | 249 | 0.61 | 152 | 4 |
取り方:売上の約6割が自動車向け(FISCO)として全社売上218.8億円から131億円と推定した。SUBARU向け21.6%(約47億円)、トヨタ紡織向け11.2%(約24.5億円)はそれだけで約72億円ある。車1台相当の数と単価は、納入先の生産規模から逆算した推定で、開示ではない。利益は日本成形関連の営業利益4.8億円を自動車と非自動車に割った推定。
物流・産業資材・機構品・金型(非自動車と中国)
物流容器(通い箱など)、家電・OA機器の機構部品、金型の販売、雨水貯留浸透槽などの自社製品。中国子会社のICトレーなどを含む。
| 数量成形品の出荷量(千トン、推定) | 価格1千トンあたり売上(億円/千トン、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 17.0 | 4.99 | 85 | 2 |
| 10 年後 中立 | 18.4 | 6.39 | 117 | 4 |
取り方:全社売上から自動車と不動産を引いた残りを84.9億円とした。出荷量は成形品の平均単価を1トンあたり約50万円と仮定した推定で、開示ではない。三甲向け13.5億円(売上の6.2%)を含む。利益は日本成形関連と中国の営業利益の残り。
不動産賃貸(相模原)
相模原市の賃貸用の土地・建物。
| 数量賃貸物件(件) | 価格1件あたり賃貸収入(億円/年、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 2.84 | 3 | 2 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 3.27 | 3 | 3 |
取り方:決算短信のセグメント数字(売上2.84億円、利益2.34億円)。帳簿価額は約2.2億円、時価は開示がない。
リスクと懸念
主力顧客への偏り
SUBARUが売上の2割強、トヨタ紡織が1割強で、2社で3割を超える。どちらかが調達先を見直す、または車種の生産を終えると、工場の稼働が一気に落ちる。SUBARUは米国の関税の影響を受けやすく、国内生産の水準も揺れる。
値下げ要請と利益率の薄さ
完成車メーカーは毎年、原価低減を求める。樹脂の値上がりの転嫁は遅れ、人件費も上がる。製造業の営業利益率は2%台で、少しの値下げや稼働の落ちで赤字に近づく。
電動化と部品の入れ替え
内外装は電気自動車でも要るが、車種ごとの部品点数や材質は変わる。エンジンまわりの樹脂部品があれば縮む。SUBARUは電動化の計画を延ばしたが、10年の間には中身の入れ替えが起きる。
設備更新の負担
償却費は年20億円で、営業利益の3倍近い。前期は設備投資を償却の半分ほどに絞ったが、今期は倍に戻す計画だ。金型や建築費の値上がりで、更新の現金は会計の償却より重くなる。
大株主と少数株主の距離
三甲グループと三井物産で約47%を持つ。三甲は取引先でもあり、取引の条件や資本の使い方が少数株主に不利になる余地がある。余った現金が戻るかどうかは、この2社の判断に左右される。
米国の持分法会社
28.5%を持つ米国の成形会社は、拡大投資の途中にある。持分法の利益は1億円台で、当面は黒字だが、投資が実らなければ持分の評価損が出る。2期続けて持分変動の損益で純利益が揺れた。
今後の分かれ目
- 非自動車の売上が2期続けて2桁成長し、営業利益率が4%を超えたら
- 非自動車の数量と利益率を引き上げ、楽観側へ確率を移す。
- SUBARUの国内生産が大きく減る、または調達方針の変更が表に出たら
- 自動車の数量を下げ、悲観側へ確率を寄せる。
- 中期経営計画で総還元性向や自社株買いの方針が示されたら
- 余った現金の戻り方を上げ、価値を見直す。
- 設備投資が償却を継続して下回り、設備の老朽化が進んだら
- 稼ぐ力を下げ、中立の利益率を引き下げる。
- 三甲グループが追加で持分を増やす、または経営再編の動きが出たら
- 買収の確率が高まる一方、少数株主への戻りは条件次第で、悲観と楽観の両側を見直す。
見ておくもの
- SUBARU・トヨタ紡織向けの売上比率
- 日本成形関連の営業利益率
- 設備投資と償却費の比較
- 非自動車(雨水貯留槽・塗装)の売上
- 米国持分法会社の損益
- 大株主の持分と中期経営計画
倍率と資本コストの決め方
倍率は式の上限(ROE が k 以下の筋書きは 1÷k=11.4 倍)の7〜9割に置いた。今の株価や同業の PER・PBR は使っていない。悲観は売れる資産の税後を今の自己資本に掛けた。10年の償却費は現状の約20億円から約24億円へ増え、更新投資が償却を上回る分は現金が出ていくと見た。新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は今と同じ形でそろえた。結果は今の値段よりやや低い側に出たが、計算を株価に寄せる調整はしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.3→12.12 倍・やや楽観 PER 9.7→12.12 倍・中立 PER 9.1→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityの+1.25%を足した8.75%。顧客集中や経営の資本配分は、k に足さず筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.25%。