結論
積水化成品工業は、発泡スチロールをはじめとする発泡プラスチックの老舗だ。食品容器、農水産の箱、建材、自動車部材、医療・電子材料まで一貫して手がける。積水化学工業が約22%を持つ。2026年3月期の売上は1,139億円、営業利益は26億円だった。
筆者の結論は「割高」である。欧州の自動車シート事業を2025年に手放して、赤字の源は断った。それでも、純有利子負債は294億円と時価総額と同じ規模で、金利が上がれば利払いが利益を食う。10年後の中立でも、純利益は34億円ほどで、ROEは5%前後にとどまる。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額を4割ほど下回る。
理由は、稼ぐ力が資本コストに届かないことだ。過去10年のROEの中央値は3%に届かず、2度の大きな赤字を出した。会社の中計はROE6%、2030年度に8%を掲げるが、それでも資本コストを下回る。
注目すべきは、保有するエフピコ株だ。上場分で約58億円あり、売却して返済に回せば財務は軽くなる。ただし、最大の顧客との関係もあり、価値には上乗せしない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず10年後も存在し、利益が読める事業かを問う。発泡スチロールは用途が広いが、環境規制や素材の置き換えで、長期の需要は細る可能性がある。予測の確度は高くない。
オーナー利益は、見かけの利益より小さい。設備の更新と、金利の上昇による利払いの増加が毎年かかる。営業利益26億円のうち、株主に残るのはさらに少ない。
堀は、一貫生産と顧客対応の力だが、価格を決める力は弱い。収益力が資本コストを下回る事業は、売上が伸びても価値は増えにくい。
資本の使い方は、欧州のシート事業の失敗が示すとおり、決して上手ではなかった。それでも、撤退の判断を実行し、借入を組み替えた決断力は評価できる。
安全域の点では、純有利子負債が時価総額と同じ規模ある会社は、利益が少し落ちるだけで株主の取り分が大きく減る。バリュー投資家なら、保有するエフピコ株などの資産を認めつつも、この値段では見送ると判断するだろう。
何で稼ぐ会社か
事業は二つの分野に分かれる。ヒューマンライフ分野は売上の約46%で、食品容器に使う発泡ポリスチレンのシート、農水産物の保冷箱、建築・土木資材を手がける。原料の「エスレンビーズ」(発泡の素になる樹脂の粒)を自社で造り、それを成形して製品に仕上げる一貫体制だ。土木では、下水道の推進工事で使うクッション材も作る。
インダストリー分野は売上の約54%で、自動車の軽量部材、車両部品の梱包材、電子部品の材料、医療・健康用の材料を扱う。複合樹脂発泡体「ピオセラン」や、高機能な樹脂の微粒子「テクポリマー」、機能性ゲル「テクノゲル」が主力だ。
最大の顧客はエフピコで、売上の16.2%を占める。食品トレーの国内最大手に、発泡シートを納める。海外の売上は約33%で、アジア、欧州、北米に拠点を持つ。前期は43%だったが、欧州の自動車シート事業(Proseat)の撤退で下がった。
連結の従業員は約2,100人、研究開発費は24億円ほどで、その8割をインダストリーに使う。
生産拠点は国内の各地にあり、海外はアジアと北米、欧州に残る。欧州の自動車シート事業を手放したことで、売上の構成は国内と食品・建材の比重が高まり、事業の振れは小さくなった。
優良さと弱いところ
筆者が評価するのは、発泡プラスチックを樹脂から製品まで一貫して造れる点だ。食品トレーや建材は、注文に合わせて素早く作る力と、全国の工場網が効く。テクポリマーのように、粒の大きさをそろえる高い技術が要る製品もある。
一方で、堀は厚くない。発泡ポリスチレンは、ジェイエスピーやカネカなど競合が多い汎用の素材で、価格は原料のスチレンの市況に引きずられる。最大の顧客エフピコの比率が16%と高く、価格交渉力も限られる。環境規制の強まりで、発泡スチロールの使用を減らす流れも長期の逆風だ。
収益力は弱い。過去10年のROEの中央値は2〜3%で、2022年3月期と2025年3月期は大きな赤字を出した。営業利益率の最高は2017年3月期の5.3%にとどまる。
経営は、欧州の自動車シート事業の撤退という苦渋の決断をした。事業譲渡損は35億円に及んだ。この判断自体は評価できるが、買収で広げた事業の整理に長い時間と資金がかかった点は、資本の使い方の失敗でもある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
発泡プラスチックの需要は、成熟した用途と成長する用途が混在する。食品容器、農水産の箱、建材は、人口の減少と素材の置き換え(紙や他の樹脂)で緩やかに細る。競合は、国内ではジェイエスピーやカネカなど、世界ではBASFなどの大手がいる。環境意識の高まりで、使い捨てのプラスチック容器への風当たりは強い。
自動車は、電動化で軽量化の需要が高まる。バッテリーの周囲を守る発泡部材や、車両の衝撃吸収材が新しい用途になる。ただし、競合の素材メーカーも同じ分野を狙う。
医療・健康用材料や電子部品の材料は、小さいが利益率の高い分野で、テクポリマーなどが中心だ。会社は、この領域とモビリティを成長の柱に据えている。
原料のスチレンモノマーは、石油化学の市況に連動する。価格転嫁には時間差があり、原料高の局面で利益が圧縮される。2026年はナフサの供給不安もあり、調達コストの振れが大きい。
同じ領域のジェイエスピーは、北米の自動車向けで発泡ポリプロピレンを展開して稼ぐ。当社には、そのような独自の稼ぎ頭が見当たらない点が、収益力の差になっている。
資本政策と M&A
還元の方針は、連結配当性向30〜40%を目安にしている。2026年3月期の配当総額は約7億円で、純利益(税の戻りを含む)の約3割だった。中間配当は無配で、期末に払う形だ。株主優待は確認できなかった。
欧州のシート事業を手放すため、200億円のシンジケートローンを2025年8月に組成した。借入には、純資産を一定水準以上に保つこと、2期連続で当期損失を出さないことという財務特約が付く。
保有するエフピコ株は、2,480千株(帳簿約58億円)で、前期の2,865千株から減らした。別に、退職給付信託に1,200千株(約35億円)がある。2026年4月にも固定資産を譲渡した。資産の圧縮で返済に充てる方針とみられるが、売却額の方針は開示されていない。
大株主は積水化学工業で21.7%を持つ。筆者は、積水化学による完全子会社化などの再編を期待して価値を上乗せしない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
最大の重荷だった欧州の自動車シート事業を、2025年9月に手放した。これで赤字の源が断たれ、2026年3月期は営業利益26億円と、前期の6億円から大きく回復した。会社は2027年3月期の営業利益を31億円、中計の最終年度に45億円と見込み、利益は着実に上がる。
残る事業は、地味だが堅い。食品容器や農水産の箱、建材は、人口が減っても一定の需要がある。テクポリマー、医療・健康、モビリティは、成長の柱として育てている分野で、研究開発費は24億円と、売上の2%を使う。
財務の整理も進んでいる。保有するエフピコ株は上場分だけで約58億円あり、売却すれば返済に回せる。実際、前期に385千株を減らした。固定資産の譲渡も2026年4月に実行し、自己資本比率は41%と、前期の36%から改善した。
積水化学工業が21.7%を持つ筆頭株主であり、必要な場合の支援や再編の可能性もある。しかも、時価総額は自己資本の5割強で、資産価値に対して十分に低い。利益率が中計の目標の4.5%に届けば、見直しの余地は大きい。
慎重な見方
営業利益率の最高は5.3%で、過去10年のROEの中央値は2〜3%にとどまる。2022年3月期と2025年3月期は大きな赤字で、純損失は59億円と63億円に達した。欧州事業の失敗は、買収で事業を広げた経営の規律の弱さを表す。
純有利子負債は294億円で、時価総額と同じ規模だ。営業利益に対する支払利息の倍率は3倍台しかなく、金利が上がれば利益が食われる。2期連続の当期損失を避けるという財務特約も付き、赤字になれば銀行との交渉を迫られる。
収益力は弱い。ヒューマンライフは、環境規制と素材の置き換えで長期に細る。最大の顧客エフピコ向けが16%を占め、価格交渉力は限られる。インダストリーも、欧州事業を手放した後の残りで、規模が小さくなった。ジェイエスピーのように北米で独自の稼ぎ頭を持つ競合と比べて、当社には決め手がない。
保有するエフピコ株は、最大の顧客との関係上、売りにくい。会社の中計のROE目標6%は、資本コストにも届かない。株価が自己資本の5割強なのは、その低い収益力を市場が織り込んでいるだけだ。
どちらに重みを置いたか
欧州事業の撤退と財務の改善には説得力があり、足元の回復は本物だ。だが、価値の計算では、後者が突く収益力の低さと借入の重さが効く。中立の筋書きでも、ROEは5%前後で、資本コストを大きく下回る。本質価値は今の値段の6割弱にとどまる。確率は、中立を最も厚くし、やや悲観に楽観より重みを寄せた。純有利子負債が営業利益の10倍を超える点と、過去の赤字の多さを考えたためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 767 円350 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 186 円85 億円)。 今の値に割り戻すと 453 円207 億円、今との差 −22.2%、 期待の年率 +5.0%(資本コスト 8.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 1,629 円744 億円 | 324 円148 億円 | +234.9% | +12.8% | 117 円54 億円 |
| やや楽観 | 18% | 1,222 円558 億円 | 273 円125 億円 | +156.4% | +9.9% | 269 円123 億円 |
| 中立 | 38% | 935 円427 億円 | 211 円96 億円 | +96.6% | +7.0% | 436 円199 億円 |
| やや悲観 | 26% | 310 円141 億円 | 120 円55 億円 | −26.3% | −3.0% | 112 円51 億円 |
| 悲観 | 12% | 109 円50 億円 | 49 円23 億円 | −72.8% | −12.2% | 19 円9 億円 |
| 加重平均 | 100% | 767 円350 億円 | 186 円85 億円 | +63.4% | +5.0% | 952 円435 億円 |
今の株価時価総額 583 円266 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 6% テクポリマーと医療・モビリティが育ち、利益率が過去最高圏に乗る 利益 65 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,629 円744 億円
テクポリマー(高機能な樹脂の微粒子)や、医療・健康用材料、自動車向けの軽量部材が伸び、インダストリーの数量は欧州の撤退分を除いて10年で1.5倍近くになる。ヒューマンライフは食品容器向けの発泡シートで最大の顧客エフピコとの関係を保ち、数量は微増にとどまる。原料のスチレンの値上がりは価格に転嫁でき、高付加価値品の比率が上がって利益率は改善する。本社費は効率化で物価ほどには増えない。営業利益率は6%近くと、過去最高の5.3%を上回る。借入は返済が進み、金利負担も軽くなる。ただし、ROEは8%台と資本コストに届かず、価値の増え方は限られる。会社が掲げる2030年度のROE8%は、この筋書きでようやく達成される。
- ヒューマンライフ分野:数量 11.0(発泡ポリスチレン等の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 68(1トンあたり売上(万円・名目、成形品を含む))→ 売上 748 億円・営業利益 56 億円。数量1.05倍×価格1.36倍、セグメント利益率7.5%
- インダストリー分野:数量 7.5(出荷量(万トン換算・年、推定。欧州の撤退前の規模))× 価格 138(1トンあたり売上(万円・名目、高機能品を含む))→ 売上 1,035 億円・営業利益 85 億円。数量1.22倍×価格1.38倍、セグメント利益率8.2%
倍率:事業の純利益 65 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 744 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:微粒子や医療・モビリティ向けの高付加価値品が計画を上回って伸び、同時に借入の返済も進む姿。会社は構造改革の途上にあり、確度は低い。
やや楽観 18% 中期計画が達成され、利益率が過去の山に近づく 利益 48 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,222 円558 億円
欧州の自動車シート事業を手放した後の事業が、中計の筋書きどおり利益を積み上げる。テクポリマーや医療・健康、モビリティ向けの数量は10年で1割強伸び、国内の食品容器と建材は横ばいを保つ。価格改定が定着し、原料の転嫁の遅れも小さくなる。営業利益率は5%近くと、過去の山5.3%の手前まで戻る。借入は返済が進むが、金利が上がるため、純利益の伸びは営業利益より遅い。配当性向は3〜4割を保ち、ROEは7%台に乗る。会社の2030年度の目標8%には届かないが、近づく10年になる。スチレンの市況が落ち着き、価格改定が受け入れられる前提だ。エフピコ株などの売却益は、返済に回って金利負担を軽くする。
- ヒューマンライフ分野:数量 10.7(発泡ポリスチレン等の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 67(1トンあたり売上(万円・名目、成形品を含む))→ 売上 716 億円・営業利益 49 億円。数量1.02倍×価格1.34倍、セグメント利益率6.8%
- インダストリー分野:数量 6.8(出荷量(万トン換算・年、推定。欧州の撤退前の規模))× 価格 136(1トンあたり売上(万円・名目、高機能品を含む))→ 売上 920 億円・営業利益 69 億円。数量1.10倍×価格1.36倍、セグメント利益率7.5%
倍率:事業の純利益 48 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 553 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の2027年度目標(営業利益45億円、ROE6%)と2030年度のROE8%に近い姿。2026年3月期に黒字へ戻した実績はあるが、構造改革の途上であり確度は中程度とみた。
中立 38% 構造改革は進むが、利益率は4%台にとどまる 利益 34 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 935 円427 億円
ヒューマンライフは、食品容器や農水産資材、建材で国内の需要が人口とともに緩やかに細り、数量は10年で0.98倍にとどまる。価格は原料の転嫁で物価並みに近づくが、遅れが出る。インダストリーは、欧州のシート事業の譲渡で数量が2割弱減った後、テクポリマーと医療・健康が伸びて、全体では0.93倍に収まる。本社費は物価と人件費で膨らみ、セグメント利益の伸びを食う。営業利益率は4%台で、会社の中計の目標4.5%に近い。借入の金利が3%台後半に上がり、純利益の比率は低めに出る。配当性向は3割で、ROEは5%前後にとどまる。
- ヒューマンライフ分野:数量 10.3(発泡ポリスチレン等の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 66(1トンあたり売上(万円・名目、成形品を含む))→ 売上 673 億円・営業利益 44 億円。数量0.98倍×価格1.31倍、セグメント利益率6.5%
- インダストリー分野:数量 5.8(出荷量(万トン換算・年、推定。欧州の撤退前の規模))× 価格 133(1トンあたり売上(万円・名目、高機能品を含む))→ 売上 765 億円・営業利益 54 億円。数量0.94倍×価格1.33倍、セグメント利益率7.0%
倍率:事業の純利益 34 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.1% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 386 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:欧州事業の撤退で赤字の源は断たれたが、金利の上昇と国内の需要の細りが利益を押さえる。会社自身の計画も、2028年3月期の営業利益率で4%台前半だ。この落としどころを最も重く見た。
やや悲観 26% 需要の細りと金利負担で、利益が過去10年の平均に戻る 利益 13 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 310 円141 億円
国内の食品容器と建材の需要が細り、エフピコの調達先の見直しも重なって、ヒューマンライフの数量は10年で0.92倍に落ちる。原料の転嫁が遅れて価格は物価に届かない。インダストリーは、欧州撤退後の残りの事業の成長が計画に届かず、規模が小さくなる。借入の金利が上がり、営業利益の多くが支払利息に消える。営業利益率は2%台と、2021年3月期の1.8%に近づく。財務特約の2期連続の当期損失を避けるため、投資を絞る。ROEは2%台に落ち、配当は最低限にとどまる。エフピコ株や不動産の売却は返済に回るものの、事業の立て直しには時間がかかる。成長分野への投資も絞られ、会社は守りの姿勢を続ける。
- ヒューマンライフ分野:数量 9.6(発泡ポリスチレン等の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 64(1トンあたり売上(万円・名目、成形品を含む))→ 売上 612 億円・営業利益 31 億円。数量0.92倍×価格1.27倍、セグメント利益率5.0%
- インダストリー分野:数量 4.8(出荷量(万トン換算・年、推定。欧州の撤退前の規模))× 価格 128(1トンあたり売上(万円・名目、高機能品を含む))→ 売上 614 億円・営業利益 34 億円。数量0.78倍×価格1.28倍、セグメント利益率5.5%
倍率:ROE 2.0% と k を大きく下回り、PER の上限は 1÷k=10.5 倍。稼ぐ力が弱い姿なので、上限の 0.7 割の 7.0 倍に置いた。EV÷営業利益で見ると13倍台で、自己資本に対する低い PBR は借入の重さによる。
確率:過去10年は営業利益率が1%前後で動いた年が多く、今期の改善は構造改革の効果が本物かどうかの途上にある。純有利子負債が営業利益の10倍を超える点も重く、無視できない確率を置いた。
悲観 12% 欧州に続き国内も縮み、借入の返済が最優先になる 利益 0 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 109 円50 億円
国内の需要が急速に細り、食品容器の最大の顧客エフピコが調達先を分散して、ヒューマンライフの数量は2割近く減る。インダストリーでは、残った自動車部材と電子材料の事業が中国勢や代替素材に押され、数量は4割減る。借入の金利が上がり、営業利益は支払利息を賄えなくなる。2期連続の当期損失が財務特約に触れ、銀行との協議のもとで保有するエフピコ株や不動産を売って返済に充てる。減損も出て、自己資本は今より減る。配当はほぼ止まり、事業の再編を迫られる。積水化学工業の関与が強まるか、他社との統合が議論される局面もありうる。
- ヒューマンライフ分野:数量 8.6(発泡ポリスチレン等の出荷量(万トン・年、推定))× 価格 58(1トンあたり売上(万円・名目、成形品を含む))→ 売上 494 億円・営業利益 17 億円。数量0.82倍×価格1.15倍、セグメント利益率3.5%
- インダストリー分野:数量 3.7(出荷量(万トン換算・年、推定。欧州の撤退前の規模))× 価格 115(1トンあたり売上(万円・名目、高機能品を含む))→ 売上 424 億円・営業利益 15 億円。数量0.60倍×価格1.15倍、セグメント利益率3.5%
倍率:稼ぐ力はほぼゼロで、純有利子負債も重い。床は、エフピコ株(上場分の帳簿58億円の税後約41億円)と、売れる不動産などの税後約9億円の合計約50億円とし、今の自己資本502億円に掛ける PBR で置いた。借入の返済は事業のキャッシュと別の資産売却で賄う想定で、市場の倍率は使っていない。
確率:欧州の自動車シート事業で巨額の損失を出した前例があり、純有利子負債が時価総額と同じ規模で、財務特約もある。国内の需要が急に細り、金利も重なる複合の姿として1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ヒューマンライフ分野
食品容器用の発泡シート、農水産の保冷箱、建築・土木資材(エスレンビーズ・エスレンシート・ESダンマット等)。
| 数量発泡ポリスチレン等の出荷量(万トン・年、推定) | 価格1トンあたり売上(万円・名目、成形品を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.5 | 50 | 524 | 30 |
| 10 年後 中立 | 10.3 | 66 | 673 | 44 |
取り方:セグメントの外部売上524億円を、1トンあたり約50万円(原料の樹脂より加工した製品が中心)、年約10.5万トンと推定した。数量は実質の出荷量で、物価3%とスチレンの値動きは価格に入れる。利益はセグメント利益30.3億円。
インダストリー分野
自動車の軽量部材、車両部品の梱包材、電子部品の材料、医療・健康用材料(ピオセラン、テクポリマー、テクノゲル等)。欧州のProseatは2025年9月に譲渡した。
| 数量出荷量(万トン換算・年、推定。欧州の撤退前の規模) | 価格1トンあたり売上(万円・名目、高機能品を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.2 | 100 | 615 | 25 |
| 10 年後 中立 | 5.8 | 133 | 765 | 54 |
取り方:セグメントの外部売上615億円を、1トンあたり約100万円(テクポリマーなど高単価品と自動車部材を含む平均)、年約6.2万トンと推定した。2026年3月期にはProseatの約5か月分(約115億円と推定)が入っており、10年後の数量はその分(約19%)を除いた規模から出発する。利益はセグメント利益25.3億円。全社費用-30.1億円は調整額に入れる。
リスクと懸念
借入の重さと金利
純有利子負債は294億円と時価総額と同じ規模で、営業利益の10倍を超える。金利が上がると、利払いが営業利益を大きく食う。欧州撤退の資金で組んだ200億円のシンジケートローンには財務特約が付く。
財務特約への抵触
純資産を一定水準以上に保つことと、2期連続で当期損失を出さないことが求められる。2022年3月期と2025年3月期に大きな赤字を出した実績があり、需要が崩れれば再び抵触する可能性がある。
最大顧客エフピコへの依存
エフピコ向けが売上の16.2%を占める。同社が調達先を分散したり、素材を変えたりすれば、ヒューマンライフの数量が急に落ちる。保有するエフピコ株も、関係上は売りにくい。
原料価格の転嫁遅れ
スチレンモノマーなどの原料は石油化学の市況で動く。製品価格に転嫁する方針だが、遅れた局面では利益が圧縮される。過去の営業利益率は1%台から5%台まで大きく動いた。
環境規制と素材の置き換え
使い捨てのプラスチック容器への規制や、紙・他の樹脂への置き換えが進めば、発泡スチロールの需要は長期に細る。食品容器と農水産の箱が、ヒューマンライフの中心だ。
成長分野の立ち上がり
テクポリマー、医療・健康、モビリティは、計画の柱だが、売上は小さい。立ち上がりが遅れれば、欧州事業を失った穴を埋められず、中計の営業利益45億円に届かない。
為替と海外事業
欧州の撤退後も、アジア、北米、欧州に拠点が残る。為替差損が出る年があり、現地の景気と規制の変化が利益を振らす。海外売上は約33%に下がった。
今後の分かれ目
- エフピコ株の売却や固定資産の譲渡が進み、借入が大きく減ったら
- 金利負担が軽くなるので、純利益の比率を上げて見直す。売却益と使途も確かめる。
- 営業利益が2期連続で会社計画を下回り、純利益が赤字になったら
- 財務特約の抵触を警戒し、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- テクポリマーや医療向けの売上が開示され、年2割以上で伸びたら
- インダストリーの数量と利益率を上方修正し、楽観・やや楽観に寄せる。
- 積水化学工業が持分を高める、または完全子会社化を提案したら
- 提示価格を本質価値と比べる。期待で価値は上乗せしない。
- エフピコが調達先を分散する方針を示したら
- ヒューマンライフの数量を下方修正し、やや悲観に寄せる。
- スチレンの価格が急騰し、転嫁が遅れたら
- その期の利益率が下がるが、数量が落ちない限り10年の見通しは変えない。
見ておくもの
- 営業利益と計画(2027年3月期31億円、中計45億円)の差
- 純有利子負債・支払利息と財務特約の状況
- エフピコ向け売上比率(16.2%)と保有株の推移
- インダストリー分野のセグメント利益率
- スチレンモノマー価格と転嫁の進み方
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(ROEがk以下なので上限は1÷k)から決め、今の株価やPBRは使っていない。資本コストは基本7.5%に循環+0.5%、値決め力+0.5%、借金+0.75%、寿命+0.25%を足した9.5%。ROEは5%前後で資本コストを大きく下回るため、PBR1倍割れは割安の根拠にしていない。エフピコ株は配当が利益に入っており、売却の方針と額が開示されていないので、価値には上乗せしていない(悲観の床にだけ入れた)。売上は数量×価格(物価並み1.34倍に近い1.27〜1.38)で積み、利益率は過去最高5.3%以下の4%台に置いた。利払いの増加(約7億円)は純利益の比率0.58に織り込んだ。悲観の床は稼ぐ力ではゼロに近く、売れる資産で置いた。リースは今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→11.43 倍・やや楽観 PER 9.5→11.43 倍・中立 PER 9→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。