結論
扶桑化学工業は、半導体ウエハーを磨く研磨剤の原料で世界を押さえる会社だ。超高純度コロイダルシリカという極小のガラス粒子が主力で、世界シェアは 8 割を超えるとされる。もう 1 つの柱は、りんご酸などの果実酸だ。
筆者の結論は「事業は一級、値段は織り込み済み」。10 年後の本質価値は、今の時価総額を 2 割ほど下回る。会社が悪いのではない。AI 向けの追い風と、高い利益率の維持が、すでに今の値段に入っていると見るからだ。
強みは、顧客の工場に入り込んだ納入実績と、不純物をほぼ出さない製造技術だ。利益率は電子材料で 4 割に迫る。10 年で、研磨工程が増える先端半導体の需要を取り込めば、売上は今の 2 倍に届く。
弱みは、稼ぎがほぼ 1 つの製品に集まることだ。ここで中国勢や顧客の内製が品質を詰めてくれば、利益率と価格の両方が崩れる。独占に近い会社ほど、崩れ始めた時の落差が大きい。
財務は申し分ない。無借金で純現金があり、自己資本比率は 77% ある。400 億円の新ラインも自己資金で賄う。こうした会社に資本コスト 7% を当て、強気から弱気までの 5 つの筋書きで価値を測った。
どの筋書きでも、稼ぎの増えた分が倍率の低下で相殺されやすい。割安と言える水準ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、扶桑は「持ち続けたい事業」に入る。顧客の信頼で守られた原料を、世界で最も安定して供給している。需要は 10 年先まで伸びる公算が高い。
ただ、見るべき点は事業の質ではなく、払う値段との釣り合いだ。10 年先の利益を、控えめに積み上げても、高い倍率のまま保たれるとは限らない。成長が普通の速さに落ち着けば、倍率は縮む。
もう 1 つの関心は、資本の使い方だ。新ラインの 400 億円は、能力を増やす当然の手だ。だが追加の成長投資 500 億円が、研磨材とは別の分野の買収に使われれば、独占の稼ぎを薄める恐れがある。
安全域、つまり判断を誤っても傷が浅い余裕は、今の値段にはほとんどない。強気の筋書きが半分当たって、ようやく見合う水準だ。筆者は、事業を評価しつつ、値段には慎重になる。
逆に、半導体の谷で株価が大きく下がり、10 年の見通しが変わらないなら、話は別になる。この会社は、割安な時にこそ、持ちたいと思わせる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 2 つだ。直近の売上 769 億円のうち、電子材料が 54%、ライフサイエンスが 46% を占める。利益は電子材料に偏り、営業利益 188 億円のうち 159 億円がここから出ている。
電子材料の主役は、超高純度コロイダルシリカだ。水の中に浮かぶガラスの微粒子で、半導体のウエハーを鏡のように磨く CMP(化学機械研磨)の研磨液の主原料になる。顧客は研磨液メーカーで、その先に TSMC やサムスン、SK ハイニックスなどがいる。微量の金属が混ざるだけで半導体が不良になる。だから粒の大きさをそろえ、不純物を極限まで減らす技術が価値になる。ほかに、ウエハー洗浄に使う高純度の薬液や、樹脂の添加剤も手がける。
ライフサイエンスは、りんご酸、クエン酸、フマル酸などの果実酸と、それを使った食品向けの応用品だ。りんご酸は国内で唯一の製造会社で、世界でも首位級にいる。食品や飲料の味と保存に欠かせない原料で、需要は安定している。ただし中国産との価格競争があり、利益率は電子材料より低い。
売上は日本が 345 億円、アジアが 295 億円、北米が 121 億円だ。半導体の工場が集まる台湾・韓国・米国向けの電子材料が、海外の売上を押し上げている。
設備は京都、鹿島、大阪などにある。京都では 400 億円をかけて電子材料の新ラインを建て、2029 年 2 月の稼働を予定している。増産の投資が、今後 10 年の成長の土台になる。
優良さと弱いところ
最大の強みは、研磨材原料の世界シェアだ。8 割を超えるとされ、半導体の最先端工程では、扶桑の原料を使うのが標準になっている。顧客は、品質が少し変わるだけで歩留まりが落ちる。だから実績のある原料から乗り換えにくい。これが堀、つまり他社がまねできない強みの正体だ。
利益率の高さも、堀の証拠になる。電子材料の営業利益率は 38% で、化学会社としては突出する。需要の波で売上が落ちた 2024 年 3 月期でも、全社で 19% を保った。
資本の使い方も堅い。借金に頼らず、自己資本比率は 77% ある。2024 年に累進配当、つまり減らさず維持か増やす方針を取り入れた。大型の投資は自己資金で賄い、財務を痛めていない。
弱みは 3 つある。1 つ目は、稼ぎの集中だ。1 つの製品群と少数の顧客に、利益の 8 割以上が乗る。2 つ目は、競合の追い上げだ。メルク、エボニックなどの海外勢や、中国の新興企業が研磨用シリカの品質を上げている。3 つ目は、顧客の動きだ。研磨液メーカーが 2 社目の調達先を育てれば、値段の交渉力が落ちる。
ライフサイエンスは堀が浅い。価格を市場に決められる事業で、全体の質を押し下げる。ただ、食品向けの安定収益として、半導体の波をならす役目は果たしている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の核心は、AI 向けの半導体投資だ。データセンター用の先端ロジックと HBM(高性能メモリ)は、作るほど研磨の工程が増える。回路の層が増えるたびに、ウエハーを磨く回数が増えるからだ。研磨液の使用量は、ウエハーの枚数より速く伸びる。
業界の見通しでは、半導体材料全体が 10 年で年率 6〜8% 伸びる。ただし、半導体の投資には 2〜4 年周期の山と谷があり、AI の追い風があっても波は消えない。2026 年は山の途中にある。次の谷で、材料各社の出荷は 3〜4 割落ちうる。
競争の形は、はっきりしている。超高純度のコロイダルシリカでは、扶桑がほぼ独走だ。海外では、メルクやエボニックなどが作るが、先端用では扶桑の品質が上だとされる。中国には、上海や蘇州の新興企業が控える。当面は中位の品質までだが、10 年では先端に迫る可能性がある。
顧客側にも動きがある。研磨液を作る富士フイルム、レゾナック、フジミインコーポレーテッド、CMC マテリアルズなどは、原料の調達先を分けたい。1 社への依存が、自社の供給リスクになるからだ。
果実酸の市場は成熟している。食品の量は人口とともに横ばいで、成長は海外の需要と新しい用途に頼る。中国の安い酸との競争が、価格の上昇を抑える。
規制面では、米中の半導体規制が中国向けの出荷に影響しうる。ただ、扶桑の売上の中心は台湾・韓国・米国向けで、直接の影響は限られる。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、自社株買いはない。2024 年 9 月に累進配当を導入し、16 期連続で配当を維持か増額している。配当性向は 2 割前後と低く、稼ぎの多くを投資に回す姿勢だ。
新中期計画「飛躍 2030」は、2030 年度に売上 1,200 億円、営業利益 360 億円を目指す。この 5 年間の営業キャッシュフロー 1,640 億円のうち、還元は 200 億円にとどまる。京都の新ラインに 400 億円、追加の成長投資に 500 億円を見込む。投資が先行する計画だ。
買収の実績は目立たない。ただ、追加の成長投資 500 億円の使い道は未定で、ここが資本配分の焦点になる。高い稼ぎ力を持つ会社が、買収で価値を落とす例は多い。
大株主は、壽世堂が約 16%、帝国製薬が約 9% で、創業の縁に連なる株主が厚い。乗っ取りの標的になる可能性は低く、経営は安定している。他方、株主に厳しい緊張感は生まれにくい。
純現金は 210 億円で、時価総額の 6% にとどまる。事業に要らない現金を切り分けるほどの額ではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI の計算基盤への投資は始まったばかりで、先端ロジックと HBM の生産は 10 年伸び続ける。回路が複雑になるほど研磨の工程は増える。研磨液の原料の需要は、ウエハーの枚数の伸びを超えて増える。
扶桑はこの原料で、世界シェア 8 割を超える。顧客の工場で長年の実績を積み、品質の記録を持つ。新しい納入先が参入するには、年単位の認定が要る。その間も扶桑は増産を続けられる。
2029 年に京都の新ラインが動けば、供給は一段と増える。会社は 2030 年度に電子材料を 770 億円、営業利益を 360 億円まで伸ばす計画だ。計画は前の中計を毎回上回ってきた。実績が計画を超える会社の言葉は、割り引いて聞く必要がない。
価格も強い。先端品ほど不純物の基準が厳しく、値段の高い品が増える。物価が年 3% 上がる中で、価格転嫁は通りやすい。
財務は無借金で、新設備も自己資金で賄える。利益率が 4 割を保てば、10 年後の純利益は今の 3 倍に届く。10 年の中立でも、半導体の成長を取り込む力は十分にある。
慎重な見方
今の高い利益率は、独占に近い立場の上に乗る。独占は永遠には続かない。中国の新興企業は、研磨用シリカの品質を毎年上げている。10 年のうちに、先端品でも認定を取る企業が出てくる。
顧客も黙っていない。研磨液メーカーにとって、原料を 1 社に頼る状態は供給リスクだ。2 社目、3 社目の調達先を育てれば、値下げの圧力が確実にかかる。価格は物価ほど上がらず、実質では下がりうる。
売上の 5 割強が、少数の半導体向けに集中する。半導体の投資は 2〜4 年の周期で山と谷を作ってきた。次の谷では出荷が 3〜4 割落ち、400 億円の新ラインの減価償却が利益を押し下げる。
ライフサイエンスは中国産の果実酸との競争が続き、利益率は 1 割前後にとどまる。全体の質を引き下げる事業だ。
追加の成長投資 500 億円の使い道は未定だ。研磨材とは関係の薄い分野に使えば、稼ぎの質が落ちる。
倍率の面でも、10 年後に成長が普通の速さへ落ち着けば、今の高い評価は保てない。事業の質を認めても、値段は払い過ぎだ。
どちらに重みを置いたか
事業の質では強気の見方が勝つ。ただ、値段と利益率の持続性では慎重な見方の指摘が強い。独占に近い会社の利益率は、高いほど長く保つのが難しい。
確率は中立に 32% を置き、強気側(楽観・やや楽観)に 37%、慎重側(やや悲観・悲観)に 31% を割り振った。強気側の方が 6 ポイント厚いのは、半導体の需要が 10 年伸びる公算を重く見たためだ。一方、やや悲観を 20% と厚めにしたのは、顧客の調達分散と中国勢の追い上げが、10 年で価格を押し下げる筋書きとして現実的だからだ。
悲観は 11% にとどめた。先端品の認定という参入障壁は高く、全面的に崩れる可能性は低い。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,187 円5,488 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 721 円763 億円)。 今の値に割り戻すと 3,150 円3,333 億円、今との差 +9.4%、 期待の年率 +7.4%(資本コスト 7.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 13% | 9,387 円9,932 億円 | 1,134 円1,200 億円 | +265.3% | +13.8% | 1,368 円1,447 億円 |
| やや楽観 | 24% | 7,163 円7,579 億円 | 898 円950 億円 | +179.9% | +10.8% | 1,935 円2,047 億円 |
| 中立 | 32% | 5,706 円6,038 億円 | 709 円750 億円 | +122.8% | +8.3% | 2,053 円2,172 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,815 円1,920 億円 | 473 円500 億円 | −20.6% | −2.3% | 457 円484 億円 |
| 悲観 | 11% | 529 円560 億円 | 331 円350 億円 | −70.1% | −11.4% | 95 円100 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,187 円5,488 億円 | 721 円763 億円 | +105.1% | +7.4% | 5,907 円6,250 億円 |
今の株価時価総額 2,880 円3,047 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 13% AI 需要が先端工程を押し広げ、独走がさらに強まる 利益 483 億円 · PER 20.5 倍 · 株価時価総額 9,387 円9,932 億円
AI の計算基盤への投資が 10 年続く。先端ロジックと HBM の生産が増え、研磨工程の回数も増える。扶桑の出荷量は 10 年で 2.4 倍になる。
先端品の比率が上がり、単価は物価を上回って 1.4 倍になる。電子材料の利益率は 42% まで上がり、京都の新ラインも早期に満稼働する。
ライフサイエンスは、海外の需要と新しい用途で数量が伸び、利益率も 12% まで上がる。
追加の成長投資は、研磨材に近い事業の買収と増産に使われ、稼ぎの質を落とさない。純利益は今の 3 倍強になり、配当も大きく増える。独走の立場は、10 年先まで保たれる。
- 電子材料(超高純度コロイダルシリカ・半導体用薬品):数量 67.2(出荷量(千トン・製品ベース。推定))× 価格 2.07(1 トンあたり平均単価(百万円/トン))→ 売上 1,392 億円・営業利益 585 億円。数量 2.40 倍・単価 1.40 倍・営業利益率 42%
- ライフサイエンス(りんご酸などの果実酸・応用品):数量 69.0(販売量(千トン・推定))× 価格 0.79(1 トンあたり平均単価(百万円/トン))→ 売上 546 億円・営業利益 66 億円。数量 1.15 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 483 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 12.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.5 倍。全体の PER 20.53 倍、時価総額 9,916 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:先端ロジックと HBM の投資が 10 年続き、新ラインも満稼働になる筋書き。顧客の調達分散が進んでも、扶桑の先端品の優位が崩れない前提が要る。前提が重く、確率は 1 割強にとどめた。
やや楽観 24% 半導体の成長を取り込み、高い利益率を保つ 利益 381 億円 · PER 19.6 倍 · 株価時価総額 7,163 円7,579 億円
半導体の需要が普通以上に伸び、出荷量は 10 年で 2 倍強になる。先端品の比率が上がり、単価は物価をやや上回る。
電子材料の利益率は 40% を保つ。新ラインの減価償却が増えても、増産の効果が上回る。
ライフサイエンスは、数量が少し伸びて利益率も 11.5% に上がる。
会社が掲げる 2030 年度の計画(営業利益 360 億円)は、ほぼ達成される。その後は、普通の速さで伸びる。10 年で純利益は今の 2.7 倍になる。
顧客の調達分散は一部で起きるが、先端品では扶桑の品質が標準であり続ける。中国勢は中位の品質にとどまり、扶桑の主戦場には届かない。還元は増配が中心で、財務の余裕も保たれる。
- 電子材料(超高純度コロイダルシリカ・半導体用薬品):数量 57.4(出荷量(千トン・製品ベース。推定))× 価格 2.01(1 トンあたり平均単価(百万円/トン))→ 売上 1,155 億円・営業利益 462 億円。数量 2.05 倍・単価 1.36 倍・営業利益率 40%
- ライフサイエンス(りんご酸などの果実酸・応用品):数量 66.0(販売量(千トン・推定))× 価格 0.77(1 トンあたり平均単価(百万円/トン))→ 売上 510 億円・営業利益 59 億円。数量 1.10 倍・単価 1.31 倍・営業利益率 11.5%
倍率:事業の純利益 381 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.6 倍。全体の PER 19.62 倍、時価総額 7,475 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社計画に近い道筋。半導体の需要が普通以上に伸び、先端品の優位が保たれる。計画を毎回上回ってきた実績を考え、確率を厚めに置いた。
中立 32% 電子材料が成長を引っ張り、利益率は今の水準に落ち着く 利益 308 億円 · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 5,706 円6,038 億円
半導体の投資は、波を打ちながら年 6〜8% 伸びる。先端工程の増加を加え、扶桑の出荷量は 10 年で 1.75 倍になる。
単価は物価並みの 1.34 倍。電子材料の利益率は 38% で、今の水準を保つ。新ラインの償却増と、顧客の調達分散による値下げ圧力が、利益率の上昇を止める。
ライフサイエンスは数量が 1 割弱の増加、単価は中国産との競争で 1.28 倍にとどまり、利益率は 11% 前後。
追加の成長投資は、増産と研究開発に回る。独走は続くが、顧客の第 2 の調達先が少しずつ育つ。純利益は今の約 2.2 倍になる。
- 電子材料(超高純度コロイダルシリカ・半導体用薬品):数量 49.0(出荷量(千トン・製品ベース。推定))× 価格 1.98(1 トンあたり平均単価(百万円/トン))→ 売上 972 億円・営業利益 369 億円。数量 1.75 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 38%
- ライフサイエンス(りんご酸などの果実酸・応用品):数量 64.8(販売量(千トン・推定))× 価格 0.76(1 トンあたり平均単価(百万円/トン))→ 売上 489 億円・営業利益 54 億円。数量 1.08 倍・単価 1.28 倍・営業利益率 11.0%
倍率:事業の純利益 308 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.0 倍。全体の PER 19 倍、時価総額 5,852 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の需要が普通に伸び、扶桑が先端品の優位を保つ筋書き。強気と慎重の言い分の落としどころ。
やや悲観 20% 顧客の調達分散と中国勢の追い上げで、価格と利益率が下がる 利益 157 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,815 円1,920 億円
半導体の需要は伸びるが、扶桑のシェアは 8 割から 6 割台へ下がる。出荷量は 10 年で 1.35 倍にとどまる。
単価は物価の伸びを大きく下回り、1.2 倍。電子材料の利益率は 28% まで下がる。新ラインが稼働するころには、増産分の一部が競争で押し戻される。
ライフサイエンスは、中国産の酸に押されて利益率が 9% に落ちる。
追加の成長投資の成果も薄い。純利益は今と同じ水準で、10 年を終える。独走の会社が、普通の優良な素材会社の水準へ戻る筋書きだ。
中国勢は中位品で大きくシェアを取り、先端品でも一部の認定を得る。顧客は価格交渉で強気になり、扶桑は値下げと引き換えに数量を守る。財務は無借金のまま保たれ、配当は維持される。
- 電子材料(超高純度コロイダルシリカ・半導体用薬品):数量 37.8(出荷量(千トン・製品ベース。推定))× 価格 1.78(1 トンあたり平均単価(百万円/トン))→ 売上 671 億円・営業利益 188 億円。数量 1.35 倍・単価 1.20 倍・営業利益率 28%
- ライフサイエンス(りんご酸などの果実酸・応用品):数量 62.4(販売量(千トン・推定))× 価格 0.72(1 トンあたり平均単価(百万円/トン))→ 売上 449 億円・営業利益 40 億円。数量 1.04 倍・単価 1.22 倍・営業利益率 9.0%
倍率:ROE 約 6.5% で、k の 7.5% に届かない。ためた利益が額面未満の価値になるので、PER は 1÷k の約 13.3 倍を上限とみる。利益の伸びも止まるため、そこからさらに下げて 11 倍。
確率:顧客が 2 社目の調達先を育て、中国勢が中位から先端手前まで品質を上げる筋書き。10 年という長さで、価格の押し下げは現実的な流れ。
悲観 11% 先端品でも調達先を奪われ、独走が崩れる 利益 42 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 529 円560 億円
中国勢が先端品の認定を取り、顧客も調達先を 3 社以上に分ける。扶桑のシェアは半分近くまで下がり、出荷量は今を下回る。
単価は名目でも 1 割弱下がり、電子材料の利益率は 12% に落ちる。400 億円の新ラインは、半分も使われない。
ライフサイエンスも、価格競争で利益がほとんど出ない。全社の営業利益は今の 3 分の 1 以下になる。
新ラインの減損で自己資本は削られる。配当は残るが、増やす余地はない。もう優良な独走企業ではなく、設備を抱えた素材会社になる。
追加の成長投資は、新しい稼ぎを生まないまま使われる。研究開発で先端品に追いつこうとしても、顧客の認定は競合に先を越されている。経営は縮小と資産の整理を迫られる。
- 電子材料(超高純度コロイダルシリカ・半導体用薬品):数量 26.6(出荷量(千トン・製品ベース。推定))× 価格 1.41(1 トンあたり平均単価(百万円/トン))→ 売上 374 億円・営業利益 45 億円。数量 0.95 倍・単価 0.95 倍・営業利益率 12%
- ライフサイエンス(りんご酸などの果実酸・応用品):数量 57.0(販売量(千トン・推定))× 価格 0.68(1 トンあたり平均単価(百万円/トン))→ 売上 387 億円・営業利益 23 億円。数量 0.95 倍・単価 1.15 倍・営業利益率 6.0%
倍率:稼ぐ力(純利益 約 42 億円 ÷ k)は 560 億円で、純現金と売れる資産の税後(約 560 億円)と並ぶ。その額を今の自己資本 1,172 億円で割った 0.48 倍を置いた。ためた利益には掛けていない。
確率:米中の対立で中国勢が国産化を加速し、先端品の認定も取る。扶桑のシェアが 5 割を切る。認定という参入障壁は高く、全面的に崩れる確率は低いとみて 1 割強。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子材料(超高純度コロイダルシリカ・半導体用薬品)
半導体ウエハーの研磨液の原料となる超高純度コロイダルシリカと、洗浄用の高純度薬品など。全社の利益の大半を稼ぐ。
| 数量出荷量(千トン・製品ベース。推定) | 価格1 トンあたり平均単価(百万円/トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 28.0 | 1.48 | 415 | 159 |
| 10 年後 中立 | 49.0 | 1.98 | 972 | 369 |
取り方:出荷量は非開示。売上 415 億円を、超高純度品の単価が 1 キログラムあたり千数百円とする推定で割り、約 2.8 万トンとおいた。数量は半導体の研磨工程の増加(実質)、価格は名目の値段。市場規模 × シェアでは、調査会社の市場推計が扶桑の売上より小さく使えない。営業利益 159 億円は決算短信のセグメント値。 業界の名目年 6〜8% の見通しは、物価の分(年 3%)を除いた実質 3〜5% に、先端工程の増加(研磨工程数)を加えて出荷量に置いた。
ライフサイエンス(りんご酸などの果実酸・応用品)
りんご酸・クエン酸・フマル酸などの果実酸と、食品・飲料向けの応用開発品。需要は安定するが、中国産との価格競争がある。
| 数量販売量(千トン・推定) | 価格1 トンあたり平均単価(百万円/トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 0.59 | 354 | 38 |
| 10 年後 中立 | 64.8 | 0.76 | 489 | 54 |
取り方:売上 354 億円を、果実酸と応用品の平均単価が 1 トンあたり 59 万円とする推定で割り、約 6 万トンとおいた。営業利益は非開示で、全社 188 億円から電子材料 159 億円を引いた約 29 億円に本社費の戻し分を加えた推定。国内は人口で横ばい、海外と新用途で伸びる。
リスクと懸念
稼ぎが 1 つの製品群と少数の顧客に集まる
利益の 8 割以上を超高純度コロイダルシリカが稼ぐ。顧客も研磨液メーカーの数社に偏る。1 社が調達先を分けるだけで、価格の交渉力は落ちる。この集中が、独占に近い高い利益率の裏にある最大の弱点だ。
中国勢の品質向上と国産化
中国の新興企業は、研磨用シリカの品質を毎年上げている。10 年のうちに、先端品の認定を取る企業が出る可能性がある。中国の半導体メーカーが国産材料を優先すれば、扶桑の中国向けの販売は先に減る。
半導体の投資循環と新ラインの償却
半導体の投資は 2〜4 年の周期で山と谷を作る。谷では出荷が 3〜4 割落ちうる。京都の新ライン 400 億円は 2029 年に動き出し、減価償却が先に利益を押し下げる。需要の谷と重なると、利益の減りが大きくなる。
追加の成長投資 500 億円の使い道
新中計は、使い道の決まっていない成長投資を 500 億円見込む。研磨材と縁の薄い分野の買収に使えば、独占の稼ぎを薄める。買収の実績に乏しい会社が、大きな案件を判断するリスクがある。
ライフサイエンスの価格競争
りんご酸などの果実酸は、中国産の安い品との競争が続く。国内の食品需要は人口とともに横ばいで、数量の伸びは小さい。利益率は電子材料の 3 分の 1 以下で、全社の質を引き下げる。
大株主の厚い持ち合いと経営の緊張感
創業の縁に連なる株主が厚く、経営は安定している。一方、株主に厳しい指摘が入りにくい。資本配分の判断が内向きになれば、還元の手薄さ(還元 200 億円)や投資の失敗が見過ごされる。
今後の分かれ目
- 中国の新興企業が、先端ロジック向けの研磨用シリカで主要顧客の認定を取る
- 独走の前提が崩れ始める合図。やや悲観・悲観の確率を引き上げ、電子材料の利益率を 28% 側で見る。
- 京都の新ラインが 2029 年に計画どおり稼働し、半年以内に高い稼働率に届く
- 先端品の需要が供給を上回る証拠。楽観・やや楽観の確率を引き上げてよい。
- 半導体の投資が谷に入り、電子材料の出荷量が 3 割以上落ちる
- 新ラインの償却と重なり、利益が先に傷む。10 年の見通しが変わらないなら、割安に近づくかを見る好機になる。
- 追加の成長投資が、研磨材から遠い分野の大型買収に使われる
- 資本配分の質が下がる。独占の稼ぎを薄めるので、中立の倍率を引き下げる方向で見直す。
- 累進配当に加えて、自社株買いを含む還元の拡大が示される
- 資本の使い方の評価が上がる。純現金が増える局面では、余った現金を切り分けて評価し直す。
- 主要な研磨液メーカーが、扶桑の原料の使用比率を公に下げる
- 調達分散が価格に出る初期の兆候。やや悲観の筋書きの確率を厚くする。
見ておくもの
- 電子材料の四半期の営業利益率と、出荷量の動き
- 京都新ラインの建設進捗と稼働時期(2029 年 2 月予定)
- SEMI など業界団体による半導体材料市場の見通しの更新
- 中国の研磨用シリカメーカーの先端品の認定状況
- 追加の成長投資 500 億円の使い道と、還元方針の変更
倍率と資本コストの決め方
数量は研磨工程の増加(実質)、価格は物価 3% を基本にした名目で、電子材料から積み上げた。倍率は式(正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g)、k 7%、g 4.0%、残る割合は強い堀の 2/3)の上限の 8〜9 割に、利益の質を見て置いた。今の株価・今の PER・過去や同業の倍率は、倍率を決める根拠に使っていない。今の時価総額 3,386 億円は最後に比べただけで、価値の数字は株価が倍になっても半分になっても動かない。10 年中立の ROE は約 10.7% で、過去の中央値を超えない。利益の積み上げに使った純利益÷営業利益は 0.72〜0.76 で、過去の 0.73 に近い。利払いの変化(10 年で約 +4 億円)は純利益の比に含めた。リースは重要でなく、新リース会計の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.5→20.53 倍・やや楽観 PER 15.8→19.62 倍・中立 PER 14.7→19 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality 0 を足して 7.5%。個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 7.00%。