結論
中国塗料は、船の船底に塗る防汚塗料を中心にした船舶塗料の専業に近い会社だ。世界ではノルウェーのジョットン、英国のヘンペルなどと並ぶ上位で、世界2位とされる。国内の船舶塗料では約6割を握るとされ、売上のうち大半を船舶用が占める。
筆者の結論は割高だ。理由は一つで、今の利益が船の新造ブームという山の上にあるからだ。2026年3月期の営業利益率は12.5%で過去最高圏にある。過去10年の純利益÷営業利益は低く、ROEの中央値も5%台にとどまる。この水準が10年続くとは見ない。
強みは確かにある。防汚塗料は船が走るほど燃費に効く。船主は多少高くても性能の良い塗料を選ぶ。補修用は運航中の船の数に比例するので、新造船の波に飲まれにくい。借金はなく、純現金が時価総額の1割を超える。株主への還元も厚く、配当と自社株買いで利益の5割ほどを戻している。
問題は、その強みの値段である。益率が5年前の水準へ半分戻るだけで、中立の10年後の時価総額は今を下回る。楽観でも今の値段を大きくは超えない。確率で重みをつけた価値は、今の時価総額より4割近く低い。造船の山と谷を見通せる人だけが、この値段を払える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は良い事業と良い値段の二つを分けて考えるべき会社だ。事業は悪くない。船主と造船所に長く使われ、借金がなく、利益を株主に戻している。
一方で、利益が景気に左右される。バリュー投資家が何より嫌うのは、山の利益を平均の利益と思い込むことだ。直近の益率は過去最高圏で、10年の中央値の2倍を超える。10年かけて平均に戻ると見るのが堅い。
資本の使い方は評価できる。借金に頼らず、増配と自社株買いを続け、大きな買収で価値を壊したこともない。筆者がオーナーなら、この点は安心して見ていられる。
堀は中程度だ。防汚の技術と造船所との関係は本物だが、同じ土俵に世界の大手が並ぶ。値段を決める力は、船主が燃費で得をする補修用にある。造船所向けでは弱い。
安全域は薄い。借金がないので床は堅く、純現金だけで時価総額の1割を支える。だが事業の稼ぐ力に払う値段として、今は先走っている。景気の谷で買えるかどうかが、ここでの勝負だ。
何で稼ぐ会社か
売上の大半は船舶用塗料だ。新造船の建造時に造船所へ納める塗料と、運航中の船を定期的にドックで塗り替える補修用の二本立てである。防汚塗料は船底に貝や藻が付くのを防ぐ。付くと水の抵抗が増えて燃料が増える。船主にとって、塗料代は燃料代の節約で戻ってくる。
造船所向けは、発注の波がそのまま出荷に出る。数年の受注残があるので、売上は先まで読みやすい。補修用は、世界の船の数が増えるほど安定して積み上がる。値段の交渉力は補修のほうが強い。
残りは、橋や工場の鉄骨に使う重防食塗料と、建築・一般工業用だ。国内が中心で、規模は船舶の三分の一ほど。益率は低い。
拠点は日本、韓国、中国、東南アジア、欧米に広がる。塗料は運ぶより現地で作ったほうが安いので、造船所の近くに工場を持つことが営業力そのものになる。2026年2月には、大日本塗料の中国子会社である迪恩特塗料(浙江)の持分を取得すると発表した。中国の造船所向けの供給力を増やす手当てだ。取得額と能力の細部は確かめられていない。
会社の中身を一言でいえば、造船所の足元に工場を構え、船の寿命の間ずっと塗料を売り続ける商売だ。
優良さと弱いところ
堀は、造船所と船主との長い付き合いと、防汚の技術にある。船底に塗る塗料は、効かなければ燃費が悪化する。造船所も船主も、実績のない塗料には簡単に乗り換えない。世界2位とされる位置は、一朝一夕では崩れない。
ただし堀は中程度だ。船舶塗料の大手は5社ほどに集まり、互いに同じ土俵で競る。造船所は大量に買うので、値段の交渉力はある。堀が強ければ過去10年のROEがマイナスや1%の年を何度も出さなかった。2018年から2023年にかけては、営業利益がほぼ消える年が続いた。
直近の益率は高い。ROEも11〜16%まで上がった。筆者は、この益率の半分は新造船の山の恩恵だと見ている。残りの半分は、高性能防汚の比率の上昇や値上げの定着で、10年残る可能性がある。
財務は強い。借金はなく、自己資本比率は6割を超える。営業利益は支払利息の30倍を超え、金利が上がっても困らない。経営は、配当と自社株買いで株主に利益を戻す姿勢を明確にしている。弱みは、事業がほぼ船舶一本で、造船と海運の景気に左右される点だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
船舶塗料の世界市場は、約40億ドル台とされる。今後は年率6%台の成長が見込まれるという調査もあるが、これは物価の上昇を含む名目の数字だ。実質の数量は船の数の増加と船体の大型化で、年1%台の伸びが妥当と筆者は見る。
供給側は寡占だ。ジョットン、ヘンペル、アクゾノーベル、中国塗料、関西ペイントが主な顔ぶれで、どこも世界の造船所に工場を置く。ジョットンは中国の国有海運大手と合弁を持ち、中国では最大手とされる。
今は新造船の山にいる。2021年から2024年に積み上がった受注残が、2028年ごろまで出荷を支える。そのあとは、発注が谷に入る可能性が高い。ただ補修用は船の数に連動するので、谷でも新造用ほどは落ちない。
技術の分かれ目は二つある。一つは環境規制で、船主は燃費と排出を減らしたい。性能の良い防汚塗料には追い風だ。もう一つは、船体清掃や塗らずに済む船体の技術で、塗料の使用量を減らす圧力になる。造船の地理も動く。世界の新造船は中国と韓国に集中しており、日本の造船所向けに強い会社には向かい風になる。
資本政策と M&A
資本政策は株主還元に寄っている。2021年からの中計は、配当と自社株買いの合計で自己資本の5%以上、配当性向40%以上を掲げた。2026年3月期の実績は計画を大きく上回り、増配も続いている。2021年には自社株の買い付けも実施した。
大型の買収は少ない。2026年2月の浙江の工場取得も、小さな生産拠点の確保だ。会社は大きな買収で一気に伸ばすタイプではなく、造船所のそばに工場を足す地道な方式を続けてきた。
株主構成は信託銀行と海外の運用会社が中心で、親会社やオーナーの支配はない。広島銀行や今治造船が上位に並ぶのは、地元の取引関係による持ち合いだ。政策保有株の売却方針と含み益の大きさは確かめられていない。TOBの可能性を示す数字は見つからなかったが、独立企業として、買収されにくい構造ではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
世界2位の技術力は、環境規制の強まりとともに価値が上がる。燃費を減らしたい船主は、価格より性能で防汚塗料を選ぶ。高性能品の比率が上がれば、単価は物価を上回って上がり、益率の底上げが続く。補修用は船の数に比例し、新造の谷を埋める。
2026年3月期は、中計の目標だった営業利益110億円を大きく超える174億円を出した。ROEも10%を超え、借金なしでここまで来た。配当は4年で3倍に増え、自社株買いも続けている。会社は株主に利益を戻す姿勢が明確で、資本の使い方は信頼できる。
中国では浙江の工場を取得し、現地の造船所向けの供給力が増える。世界の新造船の大半は中国と韓国で作られるので、そこで取るシェアが10年後の売上の天井を決める。そのうえ会社は借金がなく、景気が悪い年も配当を維持できる余力がある。船隊が増え続けるなら、塗料の出荷は年1%台で積み上がる。今の益率の半分でも、純利益は10年後に今を上回る。
慎重な見方
今の益率は過去最高圏だ。10年の純利益の中央値は数十億円で、今の110億円はその数倍にあたる。2018年から2023年は、営業利益が消えかける年が続いた。ROEの中央値は5%台だ。この記録が、益率の戻りを裏付けている。
新造船の山は2028年ごろに終わる。そのあとは発注の谷が来て、造船所は塗料メーカーに値下げを迫る。造船所は大量に買うので、交渉力は買い手にある。船舶塗料の大手は5社で互いに競り、中国の現地メーカーも中位グレードで追い上げる。
日本の造船所に強い会社は、日本の造船の細りに連動する。国内で約6割のシェアは、縮む市場での6割だ。船体清掃や塗らずに済む船体の技術も、塗料の使用量を減らす向きに働く。
配当を厚く出すほど、自己資本は増えず、ROEは上がって見える。だが利益そのものは、数量と価格でしか増えない。10年の数量は年1%台、価格は物価並みで、益率が戻れば利益は今より小さい。今の値段は、山の利益を永遠に続くものとして払っている。
どちらに重みを置いたか
強気の見方には本物の根拠がある。世界2位の位置と、借金なしの財務、厚い還元だ。だが慎重な見方が突く論点のほうが重い。今の益率は10年の中央値の2倍を超え、受注残が切れる2028年ごろを境に戻る可能性が高い。
確率は中立に3割強を置いた。造船の循環で益率が下がる方向に、やや悲観と悲観を合わせて4割弱を置いた。借金がなく床が堅いので、悲観の確率は2割に届かない水準にした。強気側は、10年かけて値上げと高性能品が定着する場合に限り、合わせて3割弱とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,893 円1,933 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,235 円613 億円)。 今の値に割り戻すと 2,644 円1,313 億円、今との差 −24.0%、 期待の年率 +4.0%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 7,732 円3,839 億円 | 1,877 円932 億円 | +176.1% | +10.7% | 673 円334 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,815 円2,887 億円 | 1,589 円789 億円 | +112.7% | +7.8% | 1,481 円735 億円 |
| 中立 | 34% | 4,480 円2,224 億円 | 1,373 円682 億円 | +68.2% | +5.3% | 1,990 円988 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,319 円1,152 億円 | 930 円462 億円 | −6.6% | −0.7% | 812 円403 億円 |
| 悲観 | 14% | 615 円306 億円 | 616 円306 億円 | −64.6% | −9.9% | 172 円86 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,893 円1,933 億円 | 1,235 円613 億円 | +47.4% | +4.0% | 5,128 円2,546 億円 |
今の株価時価総額 3,480 円1,728 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 新造船の山のあとも高性能防汚が伸び、世界2位の地位を固める 利益 229 億円 · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 7,732 円3,839 億円
新造船の山は想定より長く続き、船主の環境規制対応で高性能な防汚塗料への切り替えが進む。世界2位の技術力が値段に反映され、単価は物価を上回って上がる。中国で取得した浙江の工場と既存拠点で供給力が増え、アジアの造船所向けのシェアを一段押し上げる。補修用は船隊の拡大とともに安定して増える。一般・工業用も重防食の需要を取り込み、利益率は上向く。会社は利益のおよそ半分を株主に戻し続け、借金なしの財務のまま、買収も小さく積み上げる。この筋書きでは、10年後の益率は今の水準を超える。ただ、そこへ届くには、受注残のあとも新造船の発注が続くことが条件になる。
- 船舶用塗料(新造船・補修・防汚):数量 118(出荷量(百万リットル))× 価格 1,740(1リットルあたり単価(円))→ 売上 2,055 億円・営業利益 308 億円。益率15.0%
- 一般・工業・重防食塗料:数量 25.2(出荷量(百万リットル))× 価格 2,100(1リットルあたり単価(円))→ 売上 529 億円・営業利益 53 億円。益率10.0%
倍率:事業の純利益 228 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 16.04 倍、時価総額 3,751 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新造船の山が長く続き、高性能防汚の採用も広がり、中国の新拠点も早く稼ぐ。好条件が重なる必要があり、確度は低い。
やや楽観 20% 中国の新工場と補修需要で量が伸び、利益率は高めを保つ 利益 177 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 5,815 円2,887 億円
新造船の発注は高い水準から緩やかに落ちるが、すでに積み上がった受注残と、船隊の拡大に伴う補修需要が出荷を支える。中国の浙江の工場が立ち上がり、現地の造船所向けの供給が安定してシェアがじわりと上がる。高性能な防汚塗料の比率が上がり、単価は物価をやや上回る。利益率は今より下がるが、2023年以前の水準には戻らない。配当と自社株買いを合わせた還元は利益の半分ほどで続く。この筋書きは、会社の中計の方針がそのまま10年続く場合に近い。大きな失敗も、大きな飛躍もない。国内の重防食など一般用は、人口減で数量が伸びず、船舶の益率の上振れが全体の利益を引っ張る。
- 船舶用塗料(新造船・補修・防汚):数量 109(出荷量(百万リットル))× 価格 1,668(1リットルあたり単価(円))→ 売上 1,825 億円・営業利益 237 億円。益率13.0%
- 一般・工業・重防食塗料:数量 24.0(出荷量(百万リットル))× 価格 2,055(1リットルあたり単価(円))→ 売上 493 億円・営業利益 42 億円。益率8.5%
倍率:事業の純利益 176 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 15.14 倍、時価総額 2,759 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界2位の位置と国内の厚い顧客基盤、受注残の厚みが、緩やかな上振れの根拠になる。ただし今の益率は過去最高で、上へ行く余地は限られる。
中立 34% 造船の波を越え、利益率は今より下がって落ち着く 利益 138 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 4,480 円2,224 億円
船舶塗料は船の数よりも、運航中の船の船体を守る補修需要が下支えする。出荷量は10年で1割強増え、単価は物価並みに上がる。新造船は今が山で、その後は谷を挟む。利益率は今の過去最高圏から落ち着き、10年平均では11%台の船舶と7%の一般・工業用になる。中国の新拠点は量を支えるが、値決め力を一段変えるものではない。還元は利益の5割台を続け、自己資本は緩やかに増える。ROEは8%台に落ち着く。この筋書きでは、数量の伸びは船の数の増加に近い。大きな買収も、大きな失敗も置かない。10年後も借金なしの財務は続く。
- 船舶用塗料(新造船・補修・防汚):数量 101(出荷量(百万リットル))× 価格 1,608(1リットルあたり単価(円))→ 売上 1,618 億円・営業利益 186 億円。益率11.5%
- 一般・工業・重防食塗料:数量 22.9(出荷量(百万リットル))× 価格 2,010(1リットルあたり単価(円))→ 売上 460 億円・営業利益 32 億円。益率7.0%
倍率:事業の純利益 137 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 14.23 倍、時価総額 2,044 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残で当面の出荷は支えられるが、益率が過去最高圏にあり、平均への戻りを織り込んだ中心の筋書き。
やや悲観 25% 造船の谷と中国勢の値下げで、利益率が昔の水準へ戻る 利益 75 億円 · PER 11.3 倍 · 株価時価総額 2,319 円1,152 億円
新造船の発注が谷に入り、造船所向けの値下げ要求が強まる。中国の現地メーカーが中位グレードで攻め、補修用でも競争が厳しくなる。出荷量は今と同水準にとどまり、単価は物価ほどには上がらない。船舶の利益率は8%に下がり、一般・工業用も4%に落ちる。2010年代の水準に近いが、借金がなく赤字にはならない。還元は5割に落とすが、配当は守る。ROEは資本コストを下回り、自己資本の厚みが利益を薄める。この筋書きでは、会社は赤字にはならず、配当も続ける。ただ、利益が横ばいから減少に向かい、PERの上限が下がる。国内の一般用も、公共工事の頭打ちで数量が縮み、船舶の落ち込みを補えない。
- 船舶用塗料(新造船・補修・防汚):数量 87.5(出荷量(百万リットル))× 価格 1,500(1リットルあたり単価(円))→ 売上 1,312 億円・営業利益 105 億円。益率8.0%
- 一般・工業・重防食塗料:数量 21.1(出荷量(百万リットル))× 価格 1,920(1リットルあたり単価(円))→ 売上 405 億円・営業利益 16 億円。益率4.0%
倍率:ROE 5.3% は k 8.0% に届かず、ためた利益は額面未満の価値。価値は稼ぐ力(純利益÷k)までで、PER の上限 1÷k=12.5 倍よりずっと下の 11.25 倍に置いた。借金はないが、造船の谷で利益が戻らない構造の筋書きなので 7 割へ引き上げない。
確率:益率が10年の中央値を大きく上回っている今は、新造船の谷と値下げで元の水準へ戻る方向に厚みを置く。借金がなく、崩れ方は穏やか。
悲観 14% 日本の造船の細りと中国勢の攻勢で、主力の船舶塗料が値崩れする 利益 26 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 615 円306 億円
日本の造船所の発注が長期で細り、国内で約6割あるシェアが主力の土台ごと縮む。中国・韓国の造船所では、現地資本と欧州の大手に押されて採用が減る。防汚でも、塗らずに済む船体や船体清掃の技術が広がり、単価の引き下げ圧力が続く。出荷量は2割減り、単価は物価に追いつかない。船舶の利益率は4%、一般・工業用は2%まで落ちる。財務は借金なしで耐えるが、稼ぐ力の落ち込みが大きく、評価は資産価値に近づく。この筋書きでは、財務の強さだけが救いになる。事業の稼ぐ力は大きく落ち、再建には数年かかる。国内の一般用も、人口減と公共工事の縮小で数量が減り、船舶の落ち込みを補えない。配当は利益に合わせて大きく減る。
- 船舶用塗料(新造船・補修・防汚):数量 70.0(出荷量(百万リットル))× 価格 1,380(1リットルあたり単価(円))→ 売上 966 億円・営業利益 39 億円。益率4.0%
- 一般・工業・重防食塗料:数量 19.5(出荷量(百万リットル))× 価格 1,800(1リットルあたり単価(円))→ 売上 351 億円・営業利益 7 億円。益率2.0%
倍率:主力の稼ぐ力が崩れる筋書きで、利益が薄く PER は意味を持たない。価値は今の自己資本 955 億円(売掛金・在庫・工場が主で、中身は現金ではない)に 0.32 倍を掛けた。稼ぐ力(純利益÷k=約 325 億円)より低く、純現金 216 億円の床(floor_assets_oku)よりは大きい水準で、やや悲観の PER 12.0 倍を超えない。借金なしなので EV÷営業利益は見ない。
確率:主力が造船の循環と顧客交渉力に左右される単一事業で、構造的な負けを置く。借金が無く床は堅いため、確率は2割に届かない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
船舶用塗料(新造船・補修・防汚)
造船所に納める新造用と、運航中の船の塗り替えに使う補修用。船底の防汚塗料が主力で、世界2位とされる。
| 数量出荷量(百万リットル) | 価格1リットルあたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 87.5 | 1,200 | 1,050 | 150 |
| 10 年後 中立 | 101 | 1,608 | 1,618 | 186 |
取り方:セグメント別の開示は確かめていない。売上の大半が船舶用との記述と、世界の市場が約6,400億円(43億ドル×150円)でシェア約2割という目安から、全社売上1,394億円の75%を船舶用と推定した。単価は船舶用で1リットルあたり約1,200と置いて(円)数量を逆算(百万リットル×円/リットル×0.01=億円)。益率14.3%は、全社の営業益率12.5%と、一般・工業用が低いことから推定。
一般・工業・重防食塗料
橋や工場の鉄骨に塗る重防食塗料と、建築・一般工業用の塗料。国内が中心で、船舶の約3分の1の規模。
| 数量出荷量(百万リットル) | 価格1リットルあたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 22.9 | 1,500 | 344 | 34 |
| 10 年後 中立 | 22.9 | 2,010 | 460 | 32 |
取り方:全社売上の残り25%(344億円)を一般・工業・重防食と推定。単価は重防食の比率が高いので1リットルあたり1,500と置き(円)、数量を逆算。益率9.9%は国内の成熟需要で船舶より低いという推定。全社の営業利益174億円に合わせ、本社費など約−10億円を調整に置いた。
リスクと懸念
新造船の山の終わりと益率の戻り
今の益率は過去最高圏にあり、10年の中央値の2倍を超える。受注残が切れる2028年ごろから発注が谷に入れば、造船所は値下げを迫る。益率が戻る速さが、10年の利益と今の値段のずれを決める。
日本の造船の細り
国内の船舶塗料で約6割を握るとされるが、世界の新造船は中国と韓国に集中する。日本の造船所向けが縮むと、国内の6割という強みが小さな市場の6割に変わる。海外の造船所でどこまで広げられるかが分かれ目になる。
中国勢の追い上げと値下げ
中国の現地メーカーが中位グレードで追い上げ、世界の大手も中国の造船所に工場を置く。ジョットンは中国の国有海運大手と合弁を組んでいる。浙江の工場取得も、中国での競争が激しいことの裏返しだ。
塗料使用量を減らす技術
船体清掃や、塗らずに済む船体の技術が広がると、防汚塗料の使用量が減る。環境規制は高性能品の追い風だが、塗料そのものの需要を減らす逆風にもなる。どちらが勝つかは10年では読み切れない。
原材料と為替
樹脂・顔料・溶剤は石油化学の市況で動き、値上げが遅れると益率が削られる。海外売上の比率が高く、為替は1ドル150円で固定して考えているが、現実には円高の年に益率が下がる。
事業の集中
売上の大半が船舶で、造船と海運の景気に利益が左右される。重防食など他の事業は規模が小さく、船舶の谷を埋められない。過去には営業利益がほぼ消える年が何年も続いた。
今後の分かれ目
- 2028年以降の新造船の発注が大きく落ち込んだら
- 益率の戻りが早まる。やや悲観側に確率を寄せる。
- 高性能防汚塗料の比率が上がり、補修用の単価が物価を上回って上がり続けたら
- 益率の底上げが続くとみて、やや楽観側に重みを移してよい。
- 浙江の工場が立ち上がり、中国の造船所向けのシェアが明確に上がったら
- 数量の上振れとして、中立から楽観へ確率を移す。
- 日本の造船所の発注が長期で細る兆しが出たら
- 国内シェアの価値が縮む。悲観側の確率を上げる。
- 中国勢が中位グレードで値下げを広げ、補修用でも単価が下がり始めたら
- 値決め力が弱いとみて、悲観の筋書きに寄せる。
- 配当と自社株買いの比率が下がり、大型買収に使われ始めたら
- 資本の使い方の評価を見直す。買収の中身で判断する。
見ておくもの
- 新造船の受注残の推移と、2028年以降の発注量
- 船舶用塗料の補修・新造別の出荷と単価
- 浙江の工場の稼働とシェアの変化
- 営業利益率(船舶と一般・工業用)の動き
- 配当・自社株買いの方針と、手元の現金の使い道
倍率と資本コストの決め方
船舶と一般・工業用の2区分を、出荷量(実質)×単価(円/リットル、物価込みの名目)で積んだ。セグメントの開示は見ておらず、売上の75%を船舶と置いた推定(市場約6,400億円・シェア約16%、世界2位2割の目安と近い)。利益率は今の過去最高圏から、10年の中央値とのあいだに置き、船舶の益率を中立で11.5%とした。k は基本 7.5%+quality 0.5%(循環)の 8.0%。倍率は正当化 PER の上限で決め、今の PER 16.7 倍・PBR 1.9 倍は最後に比べただけ。利払いは純現金なので、受取利息の増加を純利益に +4 億円入れた。店舗や倉庫を借りて営む会社ではないが、新リース会計基準で営業利益・負債の形が変わる点は、10年後の数字を今と同じ形でそろえて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.06→16.04 倍・やや楽観 PER 13.05→15.14 倍・中立 PER 13.05→14.23 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5%(造船・海運の循環 +0.5)を足して 8.0%。値決め力・借金・寿命は 0。船舶一本という集中や中国勢との競争は k に足さず、筋書きと確率で表した。