結論
日本パーカライジングは、金属の表面に防錆や潤滑などの機能をつける会社だ。薬剤を売り、受託で加工し、処理設備も作る。柱は自動車の塗装下地で、日系メーカー向けの世界シェアは同社調べで7割に達する。純現金は時価総額の3割近く(3 か月超の定期預金を足すと4割近く)あり、財務は盤石である。
筆者の結論は「ほぼ適正、見方によってはやや高め」だ。いちばんの理由は、成長が物価並みにとどまることにある。国内の自動車生産は縮み、電動化は熱処理の仕事の中身を変える。インドや東南アジアの伸びで穴は埋まるが、10年で営業利益が増えるのは4割ほどだ。事業の資本の稼ぎ(ROE)も資本コストをわずかに上回る程度で、高い倍率を払う根拠は弱い。
それでも下値は堅い。現金が厚く、自社株買いも動き出した。慎重な筋書きでも、時価総額は現金の分を割りにくい。上がるとすれば、医療機器や半導体など新しい分野が育ち、加工事業の採算が計画どおり戻る場合だ。その場合は営業利益が今の2倍に近づく。筆者は、そこまで行く確率を1割弱とみている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「よい事業だが、値段を払いすぎてはいけない会社」である。薬剤は顧客の生産ラインに組み込まれ、切り替えにくい。100年近く続いてきた技術の蓄積もある。借金はなく、現金は時価総額の3割近い。潰れる心配はほぼない。
ただ、オーナーの目で見ると物足りない点がある。稼いだ利益を、高い収益で再投資できる先が限られているのだ。過去10年のROEは資本コストを下回る年が多く、現金をためるほど資本の効率は落ちた。事業そのものの稼ぎ(現金を除いたROE)は資本コストと同じ程度にとどまる。この水準では、成長しても価値は大きく増えない。
だから筆者は、倍率を高くは置かない。価値を押し上げるのは、現金の戻し方が変わることと、加工の採算が戻ることの2つだ。自社株買いが続けば、前者は進む。安全域は、現金と堅い薬品の稼ぎが支える。しかし、今の値段はその安全域を、すでにほぼ織り込んでいる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、金属の「表面」だ。鉄やアルミは放っておくと錆びる。塗料もそのままでは乗らない。そこで、表面に薄い膜をつくる薬剤が要る。日本パーカライジングは、この膜の薬剤で国内首位と自任する会社である。1928年に米国の防錆技術を導入して創業し、いまは世界12の国と地域に拠点を持つ。
事業は3つに分かれる。薬品は売上の4割強を占め、営業利益では過半を稼ぐ主力だ。自動車ボディの塗装下地、鍛造用の潤滑剤、鋼板の防錆油、めっき液などを、自動車・鉄鋼・家電・缶のメーカーに売る。薬剤は種類が多く、顧客の生産ラインに合わせて調合する。加工は、顧客から部品を預かり、熱処理・めっき・防錆・塗装を請け負う事業で、売上の3割台半ばだ。装置は処理設備や粉体塗装機器の製造で、売上の2割ほど。受注の波が大きい。
このほか、表面処理技術を応用した医療機器を、新会社のParker MedTechで育てている。連結売上のうち国内が6割弱、海外が4割強だ。顧客の多くは自動車関連で、ここが強みであり、同時に最大の集中でもある。
優良さと弱いところ
優良さの中心は薬品にある。塗装下地の薬剤は、自動車メーカーが生産ラインごとに性能を確かめて採用する。一度入ると他社品へ切り替えにくい。会社は日系メーカー向けで世界シェア7割と説明する。第三者の裏づけは取れていないが、顧客と長く組んできた実績は確かだ。薬剤は完成車の原価に占める割合が小さく、メーカーは性能を落としてまで値切りにくい。ただし原料高の転嫁には時間がかかり、2026年3月期は薬品が減益になった。値決め力は強いが、絶対ではない。
弱いのは加工だ。熱処理やめっきの受託は、顧客の内製や海外への移転、同業との価格競争に左右される。前の中期計画では、加工が自動車減産と競争の激化で目標に届かなかった。営業利益率は10%前後で、薬品の16%より大きく低い。装置は受注の波が大きく、利益が安定しない。
資本効率は低い。ROEは過去10年、5〜10%の間にとどまる。原因は、現金と投資有価証券を厚くためてきたことだ。筆者はここを、この会社でもっとも改善の余地がある点と見ている。経営は2024年6月に青山雅之氏へ代わり、ROE8%以上を掲げて自社株買いを機動的に行う方針に変えた。変化は始まったばかりである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要を決めるのは、国内外の自動車と鉄鋼の生産だ。国内の自動車生産は人口減とともに緩やかに縮む。日系メーカーは海外へ生産を移しており、同社も追って拠点を広げてきた。インド・東南アジアは自動車の生産が伸びる地域で、ここへの薬剤供給が今後の成長の中心になる。中国は地場メーカーとの競争が激しく、日系の苦戦が続く。
電動化は逆風でもあり、追い風でもある。ボディの塗装下地は電気自動車でも要るので、薬品への影響は小さい。一方、エンジンやトランスミッションの部品は減り、熱処理や冷間鍛造用の潤滑剤の需要は変わる。電池や電動モーターに絶縁性や耐熱性を与える新しい処理は、新たな需要になりうる。会社は脱炭素関連の研究を増やしている。
競争の形は、薬品では少数の大手の勝負だ。世界ではヘンケルやケメタル、国内では日本ペイント・サーフケミカルズなどが同じ前処理剤で競う。加工は、地域の熱処理・めっき業者が多く、分散した競争になる。分かれ目は、顧客が海外で工場を立ち上げる時に、現地で同じ品質の薬剤と加工を出せるかどうかだ。ここは日本パーカライジングが築いてきた強みである。
資本政策と M&A
還元は、これまで控えめだった。配当性向は3割弱にとどまり、現金が残った。この姿は変わり始めている。2024年にPBRの水準を踏まえて配当を引き上げ、2026年5月には100億円を上限とする自社株買いを決めた。9月末までに約55億円を取得している。自己株は発行済株式の2割近くに達する。
第5次中期計画(2028年3月期まで)は、ROE8%以上、長期で10%以上を掲げる。政策保有株の縮減と、配当性向の引き上げ、自社株買いが手段だ。売上は2028年3月期に1,410億円、営業利益は175億円が目標である。ただし前の計画では営業利益が目標を1割ほど下回った。筆者は、目標をそのままは信じていない。
M&Aは、事業ポートフォリオを広げる手段として探索するとしている。2024年7月にパーカー加工を完全子会社にした。大型買収の実績は乏しい。パーカーコーポレーションの22.6%を持つなど、関連会社の持ち合いも残る。買収される側になる可能性は、独立した事業会社で大株主の支配がないため、特別に高くはない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
第5次中計の数字は、現実的な目標だ。薬品は原料高の転嫁が進めば、営業利益率が2025年3月期の17%台に戻る。インドと東南アジアで自動車の生産が伸び、日系メーカーの新工場に薬剤を納めるたびに、薬品の売上は積み上がる。海外の売上は今の4割強から、半分を超えてよい。
加工も変わる。パーカー加工を完全子会社にして、グループの営業力を一本化した。熱処理の工場を整理し、採算の悪い仕事を減らせば、利益率は10%から13%台へ上がる余地がある。装置は、顧客の海外工場の立ち上げで受注が積み上がる。
さらに、新しい分野がある。電池や電動モーター向けの絶縁処理、半導体関連の表面処理、医療機器の表面改質だ。会社はこれらを含む新規分野で、2030年に売上400億円を目指す。うまくいけば、全社の営業利益は今の2倍に迫る。
資本政策も、背中を押す。純現金が時価総額の3割近く(3 か月超の定期預金を足すと4割近く)あり、自社株買いの余力は大きい。ROEが8%を超えれば、倍率も上がってよい。今の値段は、この変化を織り込んでいない。
慎重な見方
成長の絵は、数字で見ると薄い。国内の自動車生産は減り続け、日系メーカーの海外生産が増えても、現地では中国や韓国の地場メーカーが伸びる。そちらでは日系の薬剤は採用されにくい。薬品の海外売上が伸びるのは、日系の新工場が続く間だけだ。
電動化は熱処理の仕事を確実に減らす。エンジンとトランスミッションの部品は、電気自動車では少なくなる。加工は前の計画でも目標に届かなかった。利益率は10%前後から動いていない。装置の好調は、大型案件によるもので、続くとは限らない。
新規分野の400億円は、種まきの段階だ。医療機器は承認と販売網の壁が高い。半導体や電池向けは、専業の大手が先にいる。第4次中計では営業利益が目標を1割下回り、ROEも届かなかった。目標と実績の差を見れば、計画を割り引くのが筋だ。
現金が厚いのは安心だが、それは稼ぐ力ではない。事業の稼ぎだけで測ると、ROEは資本コストとほぼ同じで、価値は帳簿から増えない。今の値段は、すでに十分である。
どちらに重みを置いたか
薬品の堅さと現金の厚さは本物で、慎重な筋書きでも大きくは崩れない。一方、成長が物価並みにとどまり、事業の稼ぎが資本コストに近いという指摘も当たっている。筆者は後者がやや強いとみて、確率を中立の周りにやや厚く置き、慎重な側へわずかに寄せた。楽観は新規分野と加工の改善が両方進む必要があり、1割弱にとどめた。悲観は、自動車の空洞化と値下げ競争が重なる場合で、1割とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,678 円2,862 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 884 円945 億円)。 今の値に割り戻すと 1,991 円2,128 億円、今との差 +11.9%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 4,521 円4,832 億円 | 1,163 円1,243 億円 | +219.3% | +12.3% | 512 円547 億円 |
| やや楽観 | 21% | 3,525 円3,768 億円 | 1,020 円1,090 億円 | +155.3% | +9.8% | 954 円1,020 億円 |
| 中立 | 38% | 2,909 円3,109 億円 | 929 円993 億円 | +115.6% | +8.0% | 1,459 円1,559 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,601 円1,711 億円 | 778 円831 億円 | +33.6% | +2.9% | 523 円559 億円 |
| 悲観 | 10% | 731 円781 億円 | 408 円436 億円 | −36.0% | −4.4% | 114 円122 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,678 円2,862 億円 | 884 円945 億円 | +100.1% | +7.2% | 3,562 円3,807 億円 |
今の株価時価総額 1,780 円1,902 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 9% 新規分野と加工の改善がそろい、海外も伸びる 利益 253 億円 · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 4,521 円4,832 億円
インドと東南アジアで自動車の生産が伸び、日系メーカーの新工場に薬剤が入り続ける。薬品の販売量は今の1.3倍になり、原料高の転嫁も進んで営業利益率は18%台へ上がる。加工はパーカー加工との一本化で採算の悪い仕事を減らし、利益率が13%まで戻る。
電池や電動モーター向けの絶縁処理、半導体関連の表面処理、医療機器の表面改質が育ち、会社が掲げる新規分野の売上400億円を超える。国内の自動車生産が縮んでも、海外と新分野が穴を埋めて余りある。装置は顧客の海外工場の立ち上げで受注が積み上がる。
自社株買いと配当が続き、ROEは10%台になる。売上は2,100億円台、営業利益は300億円近くに達する。10年で、この会社が「成長する表面処理の会社」に変わる姿だ。
- 薬品(表面処理薬剤):数量 191(薬剤の販売量(千トン。化成処理剤・潤滑剤・防錆油・めっき液の合計の推定))× 価格 560(薬剤 1kg あたりの平均単価(円))→ 売上 1,070 億円・営業利益 198 億円。海外と新分野で数量が伸びる
- 加工(受託の熱処理・めっき・防錆):数量 324(受託の処理量(千トン換算。部品の重量ベースの推定))× 価格 210(処理 1kg あたりの平均加工料(円))→ 売上 680 億円・営業利益 89 億円。採算改善で利益率13%
- 装置(処理設備・塗装機器):数量 230(納入する設備の件数(件。大小の案件を平均した換算))× 価格 1.68(1 件あたりの平均金額(億円))→ 売上 386 億円・営業利益 31 億円。海外の立ち上げ需要を取る
倍率:事業の純利益 246 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)500 億円。全体の PER 17.61 倍、時価総額 4,832 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:薬品の海外拡大、加工の採算改善、新規分野の立ち上がりの3つが同時に進む必要がある。計画が前回未達だった実績もあり、1割未満に抑えた。
やや楽観 21% 薬品が着実に伸び、加工も少し戻る 利益 206 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 3,525 円3,768 億円
薬品は海外の伸びで販売量が今の1.2倍近くになり、営業利益率は17%まで戻る。原料高は時間をかけて価格に転嫁される。国内の自動車生産は縮むが、鉄鋼や家電、缶など自動車以外の顧客が下支えする。
加工は、採算の悪い拠点の整理が進み、利益率が12%近くへ上がる。電動化で駆動部品の熱処理は減るが、電池や電動モーター向けの新しい処理が部分的に補う。装置は受注の波を残しつつ、海外案件で平均すると今の水準を保つ。
新規分野は育つが、全社の利益への寄与は一部にとどまる。自社株買いは計画どおり進み、ROEは9%まで上がる。第5次中計の目標が数年遅れで実現する、堅実な10年だ。
- 薬品(表面処理薬剤):数量 173(薬剤の販売量(千トン。化成処理剤・潤滑剤・防錆油・めっき液の合計の推定))× 価格 548(薬剤 1kg あたりの平均単価(円))→ 売上 951 億円・営業利益 162 億円。海外の新工場で数量増
- 加工(受託の熱処理・めっき・防錆):数量 318(受託の処理量(千トン換算。部品の重量ベースの推定))× 価格 204(処理 1kg あたりの平均加工料(円))→ 売上 648 億円・営業利益 76 億円。採算改善が進む
- 装置(処理設備・塗装機器):数量 219(納入する設備の件数(件。大小の案件を平均した換算))× 価格 1.66(1 件あたりの平均金額(億円))→ 売上 362 億円・営業利益 24 億円。海外案件が下支え
倍率:事業の純利益 199 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)500 億円。全体の PER 16.42 倍、時価総額 3,768 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の伸びと値上げの定着で薬品が計画に近づく筋書き。新規分野は限定的でも採算の改善だけで届くため、楽観より厚く置いた。
中立 38% 成長は物価並み。薬品が支え、加工と装置は横ばい 利益 176 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 2,909 円3,109 億円
国内の自動車生産は縮み、日系メーカーの海外生産が増える。薬品の販売量は、国内が1割ほど減り、海外が3割強増えて、全体では1割増になる。価格は物価並みに上がり、営業利益率は16%台で落ち着く。原料高の転嫁は遅れながらも続く。
加工は、電動化で熱処理の需要が細り、処理量が5%ほど減る。価格は物価並みに上がるが、競争で利益率は10%台前半にとどまる。装置は今の水準が大型案件で押し上げられていたため、件数がやや減り、利益率は5%台へ戻る。
全社の営業利益は200億円強で、今より4割ほど増える。薬品の利益が6割強を占める姿になる。配当と自社株買いは利益の6割台半ばで、純現金は大きくは減らない。ROEは7%台と、資本コストをわずかに上回る程度だ。
- 薬品(表面処理薬剤):数量 162(薬剤の販売量(千トン。化成処理剤・潤滑剤・防錆油・めっき液の合計の推定))× 価格 536(薬剤 1kg あたりの平均単価(円))→ 売上 867 億円・営業利益 143 億円。海外が国内の縮小を上回る
- 加工(受託の熱処理・めっき・防錆):数量 308(受託の処理量(千トン換算。部品の重量ベースの推定))× 価格 201(処理 1kg あたりの平均加工料(円))→ 売上 619 億円・営業利益 65 億円。電動化で処理量が細る
- 装置(処理設備・塗装機器):数量 207(納入する設備の件数(件。大小の案件を平均した換算))× 価格 1.61(1 件あたりの平均金額(億円))→ 売上 333 億円・営業利益 18 億円。大型案件の反動で件数減
倍率:事業の純利益 169 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)500 億円。全体の PER 15.44 倍、時価総額 3,109 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:薬品の堅さと海外の伸び、加工の伸び悩み、国内の自動車縮小がほぼ釣り合う筋書き。中心に最も厚く置いた。
やや悲観 22% 自動車の空洞化と値下げ競争で、加工と装置が痩せる 利益 108 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 1,601 円1,711 億円
国内の自動車生産が想定より速く縮み、電動化で駆動部品の熱処理が大きく減る。加工の処理量は今の8割まで落ち、顧客の内製化も進んで利益率は6%に下がる。装置は大型案件が続かず、件数が2割減り、利益率は3%になる。
薬品も楽ではない。インドや東南アジアでは、中国や韓国の地場メーカーが伸び、日系以外の薬剤が採用される。販売量は伸びず、価格も物価に届かない。営業利益率は13%台へ下がる。
営業利益は今の8割ほどに減る。受取配当や持分法の利益、現金の利息が、利益の下支えになる。配当は維持するが、自社株買いは細る。ROEは5%前後で、資本コストを下回る10年になる。
- 薬品(表面処理薬剤):数量 147(薬剤の販売量(千トン。化成処理剤・潤滑剤・防錆油・めっき液の合計の推定))× 価格 512(薬剤 1kg あたりの平均単価(円))→ 売上 753 億円・営業利益 102 億円。数量が伸びず、価格も物価未満
- 加工(受託の熱処理・めっき・防錆):数量 259(受託の処理量(千トン換算。部品の重量ベースの推定))× 価格 188(処理 1kg あたりの平均加工料(円))→ 売上 486 億円・営業利益 29 億円。熱処理が大きく減る
- 装置(処理設備・塗装機器):数量 184(納入する設備の件数(件。大小の案件を平均した換算))× 価格 1.56(1 件あたりの平均金額(億円))→ 売上 287 億円・営業利益 9 億円。大型案件が途切れる
倍率:事業の ROE は約 5% で k 7% 以下。ためた利益は額面未満の価値なので PER は 1÷k=12.9 倍が頭で、稼ぐ力(事業の純利益÷k)の約 9 割にあたる 12.77 倍に置いた。余った現金は今の 0.75 倍で足している。
確率:国内の自動車生産の縮小が速まり、海外でも地場メーカーとの競争で薬品の伸びが鈍る筋書き。前回計画の未達の実績から、楽観寄りよりやや厚く置いた。
悲観 10% 構造的に負け、優良な表面処理会社ではなくなる 利益 45 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 731 円781 億円
国内の自動車生産は大きく縮み、日系メーカーは海外の現地調達を進める。海外では、中国と韓国の地場メーカーが薬剤を値下げして取りに来る。薬品の販売量は今の8割に落ち、価格も物価に届かず、利益率は9%まで下がる。
熱処理とめっきの受託は、顧客の内製化と電動化で処理量が4割減る。拠点を閉じる費用がかさみ、利益はほぼ消える。装置は受注が細り、赤字すれすれになる。インドや医療機器への投資は回収できず、約400億円の減損を出す。
営業利益は40億円弱まで細り、配当は減らす。それでも借金はなく、受取配当と現金の利息が最後の支えになる。ブランドと技術は残るが、もはや優良な会社とは言えない10年後の姿だ。
- 薬品(表面処理薬剤):数量 118(薬剤の販売量(千トン。化成処理剤・潤滑剤・防錆油・めっき液の合計の推定))× 価格 460(薬剤 1kg あたりの平均単価(円))→ 売上 541 億円・営業利益 49 億円。値下げ競争で数量と価格が落ちる
- 加工(受託の熱処理・めっき・防錆):数量 194(受託の処理量(千トン換算。部品の重量ベースの推定))× 価格 165(処理 1kg あたりの平均加工料(円))→ 売上 321 億円・営業利益 3 億円。受託が4割減る
- 装置(処理設備・塗装機器):数量 138(納入する設備の件数(件。大小の案件を平均した換算))× 価格 1.44(1 件あたりの平均金額(億円))→ 売上 199 億円・営業利益 0 億円。受注が細り損益ゼロ
倍率:10 年の構造的に負ける筋書き。純利益は 45 億円(ROE 2%)に細り、稼ぐ力(事業の純利益÷k+余った現金)は 700 億円台。値は今の自己資本 2,018 億円に 0.387 倍を掛けた。投資の減損で自己資本は積み上がらない。
確率:国内の自動車が空洞化し、海外で薬剤が値下げ競争に巻き込まれ、新規分野と海外投資が不発に終わる組み合わせ。現金が厚く倒産は遠いので1割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
薬品(表面処理薬剤)
自動車ボディの塗装下地処理剤、冷間鍛造用の潤滑剤、鋼板の防錆油、めっき液などの薬剤の製造・販売。営業利益の過半を稼ぐ主力。
| 数量薬剤の販売量(千トン。化成処理剤・潤滑剤・防錆油・めっき液の合計の推定) | 価格薬剤 1kg あたりの平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 147 | 400 | 589 | 94 |
| 10 年後 中立 | 162 | 536 | 867 | 143 |
取り方:薬品の売上 589 億円(2026年3月期)を、薬剤全体の平均単価(価格の欄の値)で割って逆算し、販売量を約 14.7 万トンとした。開示ではなく推定。国内と海外の内訳は開示がなく、全社の海外比率(4割強)を目安にした。
加工(受託の熱処理・めっき・防錆)
顧客の部品を預かり、熱処理・めっき・防錆・塗装を請け負う受託加工。自動車の駆動部品が中心。
| 数量受託の処理量(千トン換算。部品の重量ベースの推定) | 価格処理 1kg あたりの平均加工料(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 324 | 150 | 486 | 47 |
| 10 年後 中立 | 308 | 201 | 619 | 65 |
取り方:加工の売上 486 億円を、熱処理・めっき・防錆の平均加工料(価格の欄の値)で割って逆算し、処理量を約 32 万トンとした。開示ではなく推定。
装置(処理設備・塗装機器)
表面処理の設備や粉体塗装機器の設計・製造。顧客の新工場や増設の案件ごとに受注する。
| 数量納入する設備の件数(件。大小の案件を平均した換算) | 価格1 件あたりの平均金額(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 230 | 1.20 | 276 | 21 |
| 10 年後 中立 | 207 | 1.61 | 333 | 18 |
取り方:装置の売上 276 億円を、1 件あたり平均約 1.2 億円と置いて逆算し、約 230 件とした。案件の大小で幅が大きく、推定である。2026年3月期は大型案件で前期より14%増えた。
リスクと懸念
自動車への集中と電動化
売上の多くが自動車関連だ。電気自動車ではエンジンやトランスミッションの部品が減り、熱処理や鍛造用の潤滑剤の需要が細る。ボディの塗装下地は残るが、新たな処理が追いつくまでの間、加工の稼働率が下がる恐れがある。
加工事業の採算
加工の営業利益率は10%前後にとどまる。前の中期計画では、自動車減産と競争の激化で売上目標に届かなかった。拠点の整理や価格改定が遅れれば、利益率は計画の13%台に届かない。
海外での競争
日系メーカーの海外工場に薬剤を納める限りは強い。しかし中国や韓国、インドでは地場メーカーが伸び、日系以外の薬剤が採用される。現地メーカーとの価格競争で、数量も価格も伸びない場合の影響は大きい。
原料高の転嫁の遅れ
薬剤の原料は石油化学品や金属塩で、市況の影響を受ける。2026年3月期は薬品が原料高で減益になった。転嫁は顧客との交渉に時間がかかり、遅れた期間は利益率が下がる。
経営計画の達成力
前の中期計画では営業利益が目標を1割ほど下回り、ROEも届かなかった。今回も営業利益175億円とROE8%以上を掲げるが、計画どおりに進む保証はない。新規分野の売上400億円も、種まきの段階にある。
現金と持ち合い株の使い道
純現金は厚いが、稼ぐ力は生まない。買収に使って価値を壊したり、持ち合い株として眠らせたりすれば、ROEは上がらない。自社株買いを続けるかどうかが、資本効率を左右する。
装置の受注の波
装置は大型案件の有無で売上が大きく動く。2026年3月期は前期より増えたが、翌期以降の反動は避けにくい。利益率は3%前後と5%台の間で振れ、全社の利益の安定を損なう。
今後の分かれ目
- 日系メーカーのインド・東南アジアの新工場が相次いで立ち上がる
- 薬品の販売量と装置の受注が同時に積み上がり、楽観に近づく。海外売上が半分を超える展開になる。
- 電気自動車の普及が想定より速く進む
- 駆動部品の熱処理と鍛造用の潤滑剤が細り、加工の採算が悪化する。薬品の塗装下地は残るため、全社の傷は加工に集中する。
- 加工の拠点整理が進み、利益率が13%台に近づく
- 全社の営業利益が200億円を超える道が開き、中立からやや楽観の側へ移る。
- 自社株買いが毎年続き、配当性向も引き上げられる
- 現金が減り、ROEが8%を超える。事業の稼ぎに対する評価が上がり、慎重な筋書きの確率が下がる。
- 現金を使った大型の買収が失敗する
- 現金が減損で消え、ROEが下がる。現金の厚さが下値を支えるという前提が崩れ、悲観の筋書きが近づく。
- 中国・韓国の地場メーカーが海外で日系の薬剤を置き換える
- 薬品の価格と数量が同時に落ちる。営業利益の6割近くを担う主力が傷むため、慎重な筋書きの確率を上げる。
見ておくもの
- 加工事業の営業利益率(10%台前半から13%台へ上がるか)
- 薬品事業の海外売上と、インド・東南アジアの新工場向けの納入
- 自社株買いの実施額と、配当性向の引き上げ
- 日本と主要国の自動車生産台数、電気自動車の比率
- 新規分野(医療機器・半導体・電池向け)の売上と、Parker MedTech の承認・販売
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見る前に、セグメントごとの数量と価格の積み上げと、事業のROEから決めた。中立は事業のROEが資本コストとほぼ同じなので、PERは1÷kの12.9倍になった。結果はほぼ適正〜やや高めで、今の値段に近い。これは現金が時価総額の3割近くあり、事業の倍率が現金を除いた分に付くためで、今に寄せたわけではない。悲観は過去の安値でなく、稼ぐ力と現金から置いた。確率は慎重な側に少し寄せた。なお新リース会計基準(2028年3月期から)で営業利益と純有利子負債の形は変わるが、10年後の数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.4→17.61 倍・やや楽観 PER 13.4→16.42 倍・中立 PER 12.9→15.44 倍・やや悲観 PER 11.5→12.77 倍・悲観 PBR 0.36→0.387 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25% を足して 7.75%。事業は傾いていないので extra は 0。新規分野の立ち上がりの不確実性は k に足さず、楽観側の筋書きだけに入れた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.00%。