結論
片倉コープアグリは、配合肥料と化成肥料を作り、全農に卸す会社だ。化粧品原料や飼料用リン酸も手がけ、渋谷には自社の賃貸ビルを持つ。筆者の結論は、今の値段はやや割高。時価総額は 92 億円と、自己資本 229 億円の 4 割だが、稼ぐ力がその帳簿の価値を支えていない。
問題は利益率の薄さだ。売上の 8 割を占める肥料は、2026 年 3 月期の営業利益がほぼゼロだった。原料を輸入に頼り、値上げが遅れる。しかも売上の 6 割以上が全農向けで、値段の主導権は握りにくい。
良い点もある。工場を 15 から 9 に減らす構造改革が動き、計画より早く費用を抑えた。渋谷のビルは満室に向かい、年 4 億円の営業利益を見込む。ただ、この賃料も利益に入っているので、不動産の含み益を別に数えると二重になる。
10 年後の中立は、純利益 13 億円台で、時価総額は今より少し大きい程度にとどまる。借入が重く、金利が上がるほど利益は削られる。楽観でも ROE は資本コストに届かない。含み益の厚さは、悲観の床を支える役にとどまる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、持ちたい事業ではない。売上の大半が、原料の値段と大口顧客の意向で決まる。その値段の差を取る商売で、何年たっても蓄える力が見えにくい。
一方で、帳簿の厚みは無視できない。自己資本の半分近くが、土地や建物、在庫だ。渋谷のビルは含み益が大きく、賃料は安定している。バリュー投資家は、ここに安全域を探すだろう。
だが、含み益が利益に入っているなら、値段に数えるのは 1 回だけだ。借入は純資産の半分近くあり、金利が上がるたびに利益が削られる。経営陣が資産を売ってでも借入を減らし、配当を超えて株主に戻す姿勢を見せなければ、帳簿の割安は縮まらない。
払える値段は、稼ぐ力から出す。10 年の中立でも、時価総額は今より少し大きい程度にとどまる。含み益は悲観の床として効くが、普段の価値の足しにはならない。この会社に必要なのは、含み益に頼る前の、本業の利益を厚くする実績である。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は 4 つある。肥料が売上の 8 割、化学品が 2 割弱、あとは賃貸ビルと水産エキスだ。
肥料は、配合肥料、化成肥料、ペースト肥料、育苗用の土を作る。売り先の中心は全農で、売上の 6 割以上を占める。原料も全農や商社から買う。大株主は全農が約 24%、丸紅が約 23% で、どちらも商売の相手でもある。
化学品は、化粧品の原料、飼料用のリン酸カルシウム、工業用リン酸、合成雲母(合成マイカ)を作る。肥料よりも利益率が高く、2026 年 3 月期は営業利益 3.7 億円。アジアでは出資先のインドネシアの販売会社を通じて、ハラール認証の化粧品原料を広げようとしている。
不動産は、2025 年 8 月に完成した渋谷のビルが主役になった。売上は前期の 2 倍近くに増え、営業利益は 1.8 億円。来期は 4 億円を見込む。
全社の営業利益は 5 億円と、売上 427 億円に対して薄い。2027 年 3 月期は 8 億円の見込みで、肥料はその中でなお 3.6 億円の赤字。工場の統合が終わるまで、肥料は黒字になりにくい。
優良さと弱いところ
堀と呼べるものは、薄い。肥料は全国の農協に届ける物流と、土壌分析の技術が武器だが、他社も同じ配合肥料を作り、値段は原料と競争で決まる。全農という大口に売上の 6 割以上を預けているため、値決めの力は弱い。
利益率は低位に張りついている。営業利益率は 12 年のうち最良の年でも 7%、多くは 3% 前後で、2024 年 3 月期は赤字だった。筆者がいちばん気にしているのは、この低い利益率が構造的なものか、改革で変えられるものか、だ。
改革は本物に見える。生産品目を絞り、肥料事業を本社の一括管理に改めた。2026 年 3 月期は営業利益が計画を 5,400 万円上回った。ただ、肥料の販売数量は計画に届かなかった。数量を失いながら工場を減らすのは危うい。
化学品は質が違う。化粧品原料や合成マイカは、品質と認証が参入障壁になる。ただし規模は売上 77 億円と小さく、全社の利益を引き上げるには力が足りない。
財務は、純有利子負債が 113 億円。純資産の半分近くで、営業利益の支払利息に対する倍率は 3 倍を切る。ROE の中央値は 10 年で 3.8% と、資本コストに遠く届かない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の肥料は、縮む市場だ。農家は減り、耕作地は減り、高齢化も進む。肥料の消費量は長期で目減りしている。筆者は、中立で 10 年に 1 割の数量減と見る。
値段は、原料で決まる。チッ素・リン酸・カリの原料はほぼ輸入で、中東情勢や為替、中国・ロシアの輸出規制のたびに跳ねる。メーカーは、全農との価格改定で後追いで転嫁する。2022 年の高騰期のように、遅れの時期には赤字になり、先に買った原料が値上がりすると一時的に益が出る。
業界は再編の途上だ。肥料の大手は、三井化学、住友化学、ジェイカムアグリ、そして片倉コープアグリなどが並ぶ。過剰な工場を減らす動きが各社で続く。当社の計画は、15 工場を 9 に絞り、配合肥料は 12 を 6 に、化成は 8 を 4 にする。
成長の芽は、土壌診断やバイオスティミュラント(作物の生育を助ける資材)だ。農家の減少を、一人あたりの提案で補う狙いである。ただ、売上に効くのはまだ先だ。
化学品は別の市場で、化粧品原料のアジア需要と、合成マイカの欧州の環境規制対応が追い風になる。リン酸は国内で縮む。
資本政策と M&A
還元は、配当性向 50% を目標にする。2026 年 3 月期は赤字でも前期並みの配当を維持し、2027 年 3 月期は増配を予想する。自社株買いは目立たない。
資本の使い道は、渋谷のビルと工場の再編だ。2030 年度までに、成長投資 50 億円、構造改革費用 60 億円、還元 22 億円を見込む。構造改革費用は 2026 年 3 月期に 19.8 億円を特別損失で計上し、残る引当金は約 14 億円だ。政策保有株は簿価で 3 割以上減らす目標を掲げる。
中長期戦略は、2030 年度に純利益 17 億円・ROE 6%、2034 年度に 20 億円・ROE 8% を掲げる。8% でも資本コストに届かないことは、会社も承知のはずだ。
TOB や非公開化の公表はない。全農と丸紅が合わせて約 46% を持つ構図は、少数株主には安定株主だが、売買の面では動きにくい。賃貸等不動産の時価は簿価を約 94 億円上回る。ただし賃料は利益に入っており、売却の方針は開示されていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
工場の統合は、計画どおりに進んでいる。2026 年 3 月期は特別損失が計画より 6.6 億円小さく、営業利益も計画を上回った。肥料は 2027 年度に赤字を抜け、2030 年度に営業利益 9 億円を見込む。固定費が下がれば、数量が減っても利益は戻る。
化学品は、化粧品原料と合成マイカがアジア・欧州で伸び、営業利益は 3.7 億円から 2030 年度に 13.6 億円を狙う。渋谷のビルは満室に向かい、年 4 億円の安定収益になる。
時価総額は 92 億円で、自己資本 229 億円の 4 割。賃貸等不動産だけで含み益は 90 億円を超える。仮に利益率が 4% に戻れば、純利益は 15 億円を超え、配当 50% で利回りも高くなる。全農と丸紅という安定株主が長期の取引を支える。構造改革のあとは、営業利益率が 5% 台に乗り、株主が評価し直す余地がある。借入も、政策保有株の売却と渋谷ビルの収益で減らせる。ROE 6% の目標は低すぎるが、達成すれば今の値段は大きく見直される。
慎重な見方
利益率が 12 年の最良の年でも 7%、多くは 3% 前後という事実を、軽く見ない。肥料は農家の減少で数量が減り、値段は原料と全農に決められる。工場を減らしても、数量が減ればその効果は消える。2026 年 3 月期も、肥料の販売数量は計画に届かなかった。
計画の 2030 年度の純利益 17 億円は、売上 520 億円・営業利益 27 億円が前提だ。これは過去の山である 2023 年 3 月期の水準に近く、あの年は肥料価格の急騰が追い風だった。普通の年に届く数字ではない。
借入は純資産の半分近い。金利が上がれば、支払利息が利益を削る。営業利益は支払利息の 3 倍に届かない。しかも 2024 年 3 月期は営業赤字だった。赤字は過去 20 年に 3 回ある。
含み益は事実だが、賃料は利益に入っており、売る方針は示されていない。取り出せない資産は、価値にならない。自己資本が厚くても、ROE が資本コストを下回れば、帳簿の価値は額面を割る。
どちらに重みを置いたか
事業の質で見れば、慎重な見方が優勢だ。利益率の低さと全農への依存、借入の重さは、構造的な問題として残る。改革の進みは評価できるが、中立は営業利益率 4% 前後にとどめた。確率は中立を最も厚く置き、悲観側にやや寄せた。不動産の含み益は、賃料が利益に入っているので二重に数えず、悲観の床としてだけ効かせた。10 年の差が小さなマイナスにとどまるのは、中立でも今の値段をわずかに上回る程度の利益しか見込めないためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,602 円144 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 477 円43 億円)。 今の値に割り戻すと 1,046 円94 億円、今との差 +1.4%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,610 円324 億円 | 868 円78 億円 | +334.0% | +15.8% | 358 円32 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,626 円235 億円 | 681 円61 億円 | +220.4% | +12.4% | 661 円59 億円 |
| 中立 | 34% | 1,829 円164 億円 | 515 円46 億円 | +127.1% | +8.5% | 797 円71 億円 |
| やや悲観 | 25% | 470 円42 億円 | 326 円29 億円 | −22.9% | −2.6% | 199 円18 億円 |
| 悲観 | 13% | 378 円34 億円 | 112 円10 億円 | −52.5% | −7.2% | 64 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,602 円144 億円 | 477 円43 億円 | +101.5% | +7.3% | 2,079 円186 億円 |
今の株価時価総額 1,032 円92 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 改革が計画どおり進み、肥料も黒字の定着 利益 26 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 3,610 円324 億円
構造改革が計画どおり進み、肥料は配合 12 工場から 6 工場へ、化成は 8 から 4 へ減って固定費が下がる。販売は全農の需要に沿って落ちず、肥料の数量は今と同じ水準を保つ。土壌診断とバイオスティミュラント(作物の生育を助ける資材)が提案型営業として根づき、肥料の利益率は 3.5% まで戻る。化学品は化粧品原料のハラール対応品と合成マイカがアジア・欧州で伸び、数量は 4 割増え、利益率は 11% に達する。渋谷のビルは満室で通年稼働し、賃料は物価並みに上がる。構造改革費用は出尽くし、政策保有株の売却と合わせて借入は減る。ただし 10 年間これが続く姿は、過去の実績から見て最良の部類だ。
- 肥料:数量 80.0(出荷量(万トン、推定))× 価格 6.15(1 万トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 492 億円・営業利益 17 億円。推定 80 万トン、改革で全品目が黒字化
- 化学品:数量 70.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 2.15(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 151 億円・営業利益 17 億円。化粧品原料・合成マイカの伸び
- 不動産:数量 3.5(稼働中の賃貸面積(千㎡、推定))× 価格 3.05(1 千㎡あたり年間賃料(億円・名目))→ 売上 11 億円・営業利益 7 億円。渋谷ビル満室・通年
- その他(水産エキスなど):数量 340(出荷量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業の純利益 26 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍。全体の PER 12.39 倍、時価総額 324 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:工場を 15 から 9 に絞る計画に加え、全農との価格改定のやり取りが円滑で、化粧品原料と合成マイカが伸びる。過去 10 年に営業利益率 6% を超えたのは 2023/03 期の 1 回だけで、連続して実現する確度は低い。
やや楽観 20% 計画に届かないが、利益率は 5% 台に乗る 利益 19 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,626 円235 億円
改革の効果は出るが、計画の 8 割ほどにとどまる。国内の農家の減少で肥料の数量は 5% ほど減るが、値上げは物価並みに通る。肥料は 2.8% の利益率で黒字を保つ。化学品は化粧品原料の伸びで数量が 25% 増え、利益率は 9.5% になる。渋谷ビルは通年稼働で営業利益が 4 億円を超える。借入は緩やかに減るが、金利が上がるため支払利息は今より重い。純利益は 20 億円近くまで戻り、配当性向 50% の方針に沿った配当が続く。それでも ROE は 7% に届かず、資本コストを下回ったままだ。倍率は低く、株価の上がり方は穏やかになる。
- 肥料:数量 76.0(出荷量(万トン、推定))× 価格 5.98(1 万トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 454 億円・営業利益 13 億円。改革の効果が計画の 8 割
- 化学品:数量 62.5(出荷量(千トン、推定))× 価格 2.10(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 132 億円・営業利益 12 億円
- 不動産:数量 3.3(稼働中の賃貸面積(千㎡、推定))× 価格 3.05(1 千㎡あたり年間賃料(億円・名目))→ 売上 10 億円・営業利益 6 億円
- その他(水産エキスなど):数量 323(出荷量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業の純利益 19 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 235 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画は 2030 年度に営業利益 27 億円と高く、達成実績はこれから。2026/03 期は計画を営業利益で上回った一方、販売数量は計画未達で、半分程度の達成が現実的な線とみる。
中立 34% 改革は進むが、利益率は 4% 前後にとどまる 利益 14 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,829 円164 億円
中立では、肥料の数量は 10 年で 1 割減る。農家の高齢化と耕作地の減少が背景だ。工場の統合は計画どおり進み、肥料の利益率は 2% に戻る。それでも 2023/03 期の山の利益率には届かない。化学品は数量が 12% 増え、利益率は 8% で落ち着く。渋谷ビルは 6 億円規模の営業利益を生む。減価償却は今の設備の分はそのままで、建て替えと新設の分だけ物価の上がった値段で増える。そのため、会計上の利益は見かけ物価で膨らむが、更新の投資は償却より多く現金が出ていく。純利益は 13 億円台。配当性向 50% を守れば、借入の返済は遅れる。
- 肥料:数量 72.0(出荷量(万トン、推定))× 価格 5.89(1 万トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 424 億円・営業利益 8 億円。数量 1 割減・利益率 2%
- 化学品:数量 56.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 2.06(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 115 億円・営業利益 9 億円
- 不動産:数量 3.3(稼働中の賃貸面積(千㎡、推定))× 価格 2.96(1 千㎡あたり年間賃料(億円・名目))→ 売上 10 億円・営業利益 6 億円。賃料の上がりは物価よりやや遅い
- その他(水産エキスなど):数量 323(出荷量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業の純利益 14 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.0% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 164 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:改革は実行段階に入っており、2026/03 期の構造改革費用は計画より小さかった。ただ、肥料は原料価格の転嫁が遅れる商売で、全農という大口が価格を決める力も強い。山を連続して取れる確率は低く、中立は計画より低めに置く。
やや悲観 25% 値上げが通らず、肥料の赤字が残る 利益 7 億円 · PER 6.3 倍 · 株価時価総額 470 円42 億円
改革を進めても、肥料は農家の減少で数量が 15% 減り、値上げが物価に追いつかない。原料高の転嫁が遅れて、利益率は 1% に届かない。化学品はリン酸の需要が弱く、数量は横ばい。値上げは物価の 3 分の 2 の速さにとどまる。渋谷ビルは稼働するが、金利上昇で借入の利払いが増え、純利益は 7 億円ほどに低迷する。配当は 5 割の方針を保てず、減らす。政策保有株の売却で借入を返し、安全は保つが、成長のための投資は絞られる。全農との取引は続き、大きな離反は起きないが、価格改定は常に後手に回る。2027 年 3 月期の予想にある営業利益 8 億円にも届かない年が出る。筆者は、これを中立より少し悪い、現実的な負け方とみる。
- 肥料:数量 68.0(出荷量(万トン、推定))× 価格 5.71(1 万トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 389 億円・営業利益 3 億円。数量 15% 減・転嫁が遅れる
- 化学品:数量 50.0(出荷量(千トン、推定))× 価格 2.00(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 100 億円・営業利益 6 億円
- 不動産:数量 3.2(稼働中の賃貸面積(千㎡、推定))× 価格 2.85(1 千㎡あたり年間賃料(億円・名目))→ 売上 9 億円・営業利益 5 億円
- その他(水産エキスなど):数量 306(出荷量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業の ROE は 2.6% で、資本コスト 8.25% を大きく下回る。稼ぐ力(純利益÷k)から見て、PER の上限 10.8 倍より低い 6.3 倍に置いた(上限の 5.8 割。構造的に利益の質が低い筋書きなので、7 割へは引き上げない)。
確率:肥料は原料の輸入価格と為替に左右され、全農との価格改定が遅れる局面が過去にも赤字を生んだ。2024/03 期は営業赤字、2026/03 期は特別損失を出しており、この筋書きの確率は低くない。
悲観 13% 改革が裏目に出て、全農への依存が仇になる 利益 −3 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 378 円34 億円
改革の途中で数量を失い、肥料の数量は 3 割近く減る。主要顧客の全農が調達先を分散し、値引きを求める。原料高の転嫁も遅れ、肥料は恒常的に赤字になる。化学品も需要が弱い。渋谷ビルの賃料だけが安定収益として残るが、本業の損失を埋められない。減損で自己資本は減り、配当は大きく削る。稼ぐ力で測れば価値は小さく、持っている不動産と売れる資産の価値が床になる。ただし清算されない限り、その価値を少数株主が取り出す手段は限られる。借入の返済のため、不動産や政策保有株を売る選択もありうるが、安く売らされるおそれがある。経営陣が改革の失敗を認め、事業の売却や縮小に動けば、床の価値に近づく。
- 肥料:数量 57.6(出荷量(万トン、推定))× 価格 5.27(1 万トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 304 億円・営業利益 −3 億円。数量 3 割減・赤字
- 化学品:数量 42.5(出荷量(千トン、推定))× 価格 1.77(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 75 億円・営業利益 2 億円
- 不動産:数量 3.0(稼働中の賃貸面積(千㎡、推定))× 価格 2.50(1 千㎡あたり年間賃料(億円・名目))→ 売上 8 億円・営業利益 4 億円
- その他(水産エキスなど):数量 272(出荷量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円
倍率:事業の ROE は赤字で資本コストを大きく下回る。稼ぐ力(純利益÷k)ではなく、純現金と売れる資産の税後を床とみて、今の自己資本 229 億円に 0.17 倍を掛けた(床の 40 億円と同程度)。純有利子負債 113 億円を足した EV で見ても営業利益がほぼ無く倍率は意味を持たないので、稼ぐ力でなく売れる資産の床(約 40 億円)で測った。
確率:工場の統合で供給力が落ち、主要顧客の全農が調達先を変える、または原料高で赤字が連続する筋書き。過去 20 年に赤字の期が 3 回あり、小さくない確率で置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
肥料
配合肥料・化成肥料・ペースト肥料・育苗用の土と、肥料の周辺事業(海外・物資・プラント設計)。
| 数量出荷量(万トン、推定) | 価格1 万トンあたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 4.40 | 352 | 0 |
| 10 年後 中立 | 72.0 | 5.89 | 424 | 8 |
取り方:出荷量は開示がなく、売上 351.6 億円を 1 万トンあたり 4.4 億円(1 トン約 4.4 万円の配合肥料が中心)で割った推定。数量は実質、物価と原料高は 1 万トンあたり売上に入れた。
化学品
化粧品原料、飼料用リン酸カルシウム、工業用リン酸、合成マイカ。
| 数量出荷量(千トン、推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 50.0 | 1.54 | 77 | 4 |
| 10 年後 中立 | 56.0 | 2.06 | 115 | 9 |
取り方:出荷量は開示がなく、売上 76.8 億円を 1 千トンあたり約 1.5 億円(化粧品原料と合成マイカの高い単価、リン酸の低い単価の平均)で割った推定。
不動産
渋谷の賃貸ビル(KCA SHIBUYA bldg.)と既存の賃貸物件。
| 数量稼働中の賃貸面積(千㎡、推定) | 価格1 千㎡あたり年間賃料(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.5 | 2.28 | 6 | 2 |
| 10 年後 中立 | 3.3 | 2.96 | 10 | 6 |
取り方:渋谷ビルは 2025 年 8 月完成で、2026 年 3 月期は半年あまりの稼働。賃貸面積は開示がないため、売上 5.69 億円と満室後の営業利益見込みから推定した。
その他(水産エキスなど)
連結子会社の水産エキスの製造・販売。
| 数量出荷量(トン、推定) | 価格1 トンあたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 340 | 0.01 | 4 | 0 |
| 10 年後 中立 | 323 | 0.01 | 5 | 0 |
取り方:売上 3.76 億円を、1 トンあたり約 110 万円で割った推定。規模が小さく、全体への影響は限られる。
リスクと懸念
全農への依存
売上の 6 割以上が全農向けで、原料も全農から買う。全農が調達先を分けたり、価格改定で値下げを求めたりすれば、肥料の利益は一気に消える。大株主でもあるため交渉力は読みにくい。
原料の輸入価格と為替
チッ素・リン酸・カリの原料はほぼ輸入。中東情勢や輸出規制で急騰し、転嫁が遅れると赤字になる。2026 年 3 月期の予想には、中東情勢の影響が織り込まれていない。
工場の統合で数量を失う
15 工場を 9 に絞る途中で、供給が細ったり、顧客が他社に移ったりするおそれがある。2026 年 3 月期は、肥料の販売数量が計画に届かなかった。
借入と金利の上昇
有利子負債は 139 億円。短期借入金が 90 億円と多い。借り換えのたびに金利が上がり、営業利益 5 億円に対して支払利息の重さが増す。
国内需要の縮小
農家と耕作地の減少で、国内の肥料の使用量は長期で減っている。土壌診断などの新サービスで補う計画だが、売上に効くまでには時間がかかる。
不動産の含み益が取り出せない
賃貸等不動産の時価は簿価を約 94 億円上回るが、賃料は利益に入っており、売却の方針は示されていない。市況が悪化すれば含み益は縮む。
今後の分かれ目
- 肥料の営業利益が 2028 年 3 月期までに黒字に転じ、計画の 2030 年度 9 億円へ向かったら
- 楽観・やや楽観の確率を上げる。工場の統合で固定費が実際に下がった証拠になる。
- 全農が調達先を分散した、または肥料の販売数量が 2 期続けて計画を下回ったら
- 悲観・やや悲観の確率を上げる。数量の減りが構造的だと判断する。
- 渋谷ビルが満室で営業利益 4 億円を上回り、借入が減り始めたら
- 純利益の下振れが小さくなる。含み益の売却の方針が出れば、悲観の床だけでなく中立にも足してよい。
- 中東情勢で原料が高騰し、転嫁が遅れたら
- 中立の肥料の利益率 2% を下げ、やや悲観に寄せる。
- 政策保有株の売却で借入を返し、配当性向 50% を超える還元に踏み込んだら
- 資本の使い方の評価が上がる。倍率は式のままだが、還元の額が増える。
見ておくもの
- 肥料の販売数量と、セグメント利益の黒字化の時期
- 全農向けの売上比率と、価格改定の幅
- 有利子負債と支払利息、営業利益の利払いに対する倍率
- 工場の統合の進み具合と、構造改革引当金の取り崩し
- 渋谷ビルの稼働率と賃料、賃貸等不動産の売却方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から出した。ROE が資本コストを下回る筋書きは、PER の上限を 1÷k とし、利益の質に応じて上限の 5.8〜9 割に置いた。今の PER・PBR や同業の倍率は使っていない。今の PBR 0.4 倍の安さには引かれず、悲観の床だけ売れる資産で測った。数量は実質、物価の 1.34 倍は価格にだけ入れた。償却は今の設備は据え置き、新設と建て替えの分だけ物価で増やした。リースは小さく、新リース会計の影響は軽い。数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.7→12.39 倍・やや楽観 PER 9→12.12 倍・中立 PER 8.1→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。