結論
デクセリアルズは、スマホやパソコンの画面をつなぐ異方性導電膜(ACF)と、画面の反射を抑える反射防止フィルム(ARF)で世界首位に立つ素材メーカーだ。事業の質は高い。それでも利益で測った本質価値は今の時価総額に届かず、筆者は割高とみる。いちばんの理由は、光半導体の急成長がすでに高い倍率に入っていることだ。
稼ぎの土台は強い。ACFの世界シェアは約7割、ARFは9割超。営業利益率は3割を超え、自己資本利益率(ROE)は25%台と、化学メーカーの中では群を抜く。2026年3月期は営業利益381億円、純利益280億円だった。
伸びの源は光半導体だ。生成AI向けデータセンターの光トランシーバーに載る受光素子で、受注は急増し、設備はフル稼働と伝えられる。会社は中期計画を上方修正し、2029年3月期に事業利益630億円を掲げた。この計画は楽観の筋書きにほぼ重なる。中立は、その7〜8割の到達とみた。
成熟した本業は、物価並みの値上げが限度だ。ACFはスマホの台数が頭打ちで、ARFはパソコン向けが弱い。中立の10年後は、純利益が今の1.8倍、時価総額は約9,300億円(それまでの還元約2,400億円は別)で、今の約5,500億円を上回る。
総合は約+3%の適正。堀の強さと高いROEで倍率は同じ領域の他社より高く置いたが、光半導体という実績の浅い事業に期待が乗っていることと、悲観側(計34%)の落ち込みを確率で混ぜることで、今の値段とほぼ釣り合う。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、この会社は二つの顔を持つ。一つは、ACFとARFという、40年かけて築いた独占に近い事業だ。この部分は10年後も続くし、価格を決める力も強い。株主に残るお金(オーナー利益)も厚く、持ち続けたい事業である。
もう一つは、光半導体という期待の事業だ。数量は確かに伸びる。だが、競合が多く、単価は実質で下がり、固定費も重い。ACFのような独占の利益率が10年続くとは言い切れない。ここを、独占の続きとして見ない方がよい。
その差を、利益で測った価値に落とす。中立の10年後は、純利益が今の1.8倍。ROEは19%ほどに落ち着く。倍率は、堀が強いので化学の中では高い13倍台に置く。それでも、時価総額は約6,800億円、還元の約2,400億円を足しても、10年で今の1.7倍だ。年率では5%台にとどまる。
今の約5,500億円は、利益の1.8倍の成長と、高い倍率が続くことを、先取りしている。安全域がない。光半導体が計画どおりに伸びる楽観のときは今の値段を大きく上回るが、そうならなければ適正の範囲にとどまる。
筆者が気にするのは、収益性の高さが続くかどうかだ。ROEが25%の会社は、倍率が高くなるが、その分だけ、少しの減速でも評価が落ちる。事業は好ましいが、値段が決め手になる会社である。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は二つある。一つは電子材料部品。連結売上のおよそ6割、利益の6割強を占める。中核はACFだ。細かな導電粒子を混ぜた接着フィルムで、画面のガラス基板とフレキシブル基板を熱で押しつけると、上下だけが電気で通じる。1977年に量産を始め、今も世界のデファクト(事実上の標準)だ。近年はハイエンドスマホのカメラモジュール向けに、形を加工したACFが伸びている。ほかに二次保護ヒューズや、光半導体も入る。
もう一つは光学材料部品。売上の約4割、利益の約4割だ。ARFは、金属酸化膜を真空中で重ねて反射を抑えるフィルムで、ノートパソコンと車載ディスプレーの需要が大きい。光学弾性樹脂(SVR)は、画面とカバーガラスの隙間を埋め、見やすさと強度を上げる。
三つ目の柱を育てている最中だ。データセンターの光通信向けの光半導体、つまり光を電気に変える受光素子である。2024年にフォトニクスの子会社を立ち上げ、導波路型のフォトダイオードを開発した。800Gや1.6Tの光トランシーバーに載る。北海道の恵庭などで能力を倍にし、国内の新ラインは2026年4月から量産に入った。
顧客は集中している。商社のレスターが連結売上の3割強、日東電工が1割強だ。最終の需要先はスマホ、パソコン、車、データセンターの大手機器メーカーである。
セグメントは、ここでは三つに分けて考える。ARF・SVR、ACFを中心とした電子材料、光半導体だ。光半導体の売上は開示がないため、決算の動きと中期計画から推定する。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、ACFとARFにある。ACFは世界シェア約7割、ARFは9割超。画面メーカーは、導電粒子の分散や接着の信頼性まで含めて認定している。性能が少し安い程度の代替品に、簡単には乗り換えない。この寡占は40年以上続いている。
価格を決める力も強い。営業利益率は2022年3月期以降、28〜36%で安定している。2017年3月期には5.6%まで落ちた時期もあったが、今は付加価値の高い品に中身が移り、当時より体質は良い。
資本効率は飛び抜けている。ROEは25%前後、借金はほぼなく、自己資本比率は66%。少ない元手で稼ぐ会社で、成長に必要な設備も営業のお金で賄っている。
弱点は三つある。第一に、事業の幅が狭い。ACFもARFも、画面というひとつの需要に偏る。スマホの台数が減り、パソコンが弱ければ、成長の余地は小さい。第二に、顧客と販売先が集中している。特定のスマホメーカーの採用動向に利益が左右される。第三に、光半導体はまだ実績が浅い。三菱電機、Coherent、住友電工など、光通信の部品で先を行く会社が並ぶ中で、ACFのような独占は築けていない。
経営は、中期計画で総還元性向60%を掲げ、配当は連結配当性向40%を目安にDOE7%を下限にした。資本の使い方は、数字の上では株主寄りだ。ただし光半導体への投資額が大きくなる中で、その採算が見えるまでは、評価に慎重さが要る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
画面の部材は、成熟した市場だ。スマホの台数は伸びず、パソコンは買い替えの周期で動く。ここで稼ぎを伸ばす力は、高機能品への入れ替え(カメラモジュール向けの加工ACF、車載の大型ディスプレー向けのARF)と、物価並みの値上げに限られる。デクセリアルズはこの市場でほぼ独占だから、需要が増えれば取れるが、増えなければ成長もない。
一方、光半導体は構造的に伸びる市場だ。生成AIの学習と推論で、データセンターの内部を結ぶ光トランシーバーの数が増える。通信の速度は800Gから1.6Tへ、さらに3.2Tへと上がり、一台に載る受光素子の性能要求も上がる。共同封止光学(CPO)という、チップの隣に光部品を置く形が広がれば、光素子の使い方も変わる。
競合は強い。光通信用の受光素子では、三菱電機が200G級のpin型フォトダイオードのサンプル出荷を始め、Coherent、住友電工、古河電工も開発している。価格は性能が上がるごとに崩れやすい。数量が伸びても、単価は実質でゆっくり下がる業界だ。デクセリアルズの強みは、ACFで培った微細な接合や材料の技術と、装置を持たない軽さにある。
循環にも注意がいる。半導体や光通信の投資は、2〜4年の周期で山と谷を繰り返してきた。AI投資が過熱すれば、在庫調整が来る。そのとき固定費の重い光半導体が足を引っ張る。ここが、今の高い利益率が崩れる最初の場所になりうる。
中国は、中位品から追い上げる。ACFでも、中国勢が中位品から入ってくる恐れがある。ただし先端品の認定には時間がかかり、10年のうちに首位が入れ替わるとは考えにくい。起きるのは値崩れで、数量を失うことではない。
資本政策と M&A
還元は厚く、方針も明確だ。中期計画の5年間は総還元性向60%を目安にし、配当は連結配当性向40%を目安に、DOE(自己資本配当率)7%を下限にした。5年で約800億円の還元になる。2025年11月には50億円の自社株買いと消却を決めた。
一方、成長投資の枠は大きい。ACFでは栃木の鹿沼に約300億円の新棟を建て、能力を1.5倍にした。光半導体は北海道の恵庭などで能力を倍にし、新ラインも立ち上げた。5年で最大1,800億円の投資枠を置く。営業のお金で賄える水準だが、光半導体の採算が見えないうちは、投資が先行する。
買収は大きなものがない。この会社の成長は、自前の開発と設備で行われてきた。今後も、光半導体では技術の補強のための小さな買収や提携はありうるが、大型の買収で価値を壊す心配は低い。
ガバナンスの面では、時価総額が約5,500億円と小さく、収益性が高い。10年以内に買収や非公開化の対象になる確率は、kabufu の推定で約16%と、無視できない。ただし実現すれば、プレミアムが乗る分、筋書きは上振れる。
政策保有株や不動産の含み益は、目立つものがない。純現金もほぼゼロで、使い道のない現金を抱える会社ではない。資本の使い方は、成長投資と還元の両立で、いまのところ筋が通っている。
点検済み(費用点検):中立の純利益÷営業利益 0.73 は過去 5 期の中央値 0.64 より高いが、直近 2 期は 0.70・0.74、会社の予想(2027/03)は 0.71。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
光半導体は、この会社の姿を変える。データセンターでは、一つのサーバー棟の中に、光で結ぶ配線が大量に走る。通信の速度は800Gから1.6T、3.2Tへと上がり、受光素子の数も性能要求も増える。デクセリアルズの導波路型フォトダイオードは、200G級の信号に対応し、すでに受注が急増して設備はフル稼働だ。
会社は2029年3月期に事業利益630億円を掲げ、中期計画を上方修正した。この数字は希望ではなく、受注を根拠にしている。恵庭の能力倍増と新ラインがそろえば、光半導体の売上は数年で数倍になり、利益率も固定費が薄まって3割台半ばまで上がる。
ACFとARFの堀は揺らがない。ACFの生産能力は鹿沼の新棟で1.5倍になり、カメラモジュール用の加工ACFや車載ディスプレー向けが伸びる。ARFも、車載の大型画面で採用が増える。成長と高収益が同時に続くので、ROEは20%を超え、倍率も高い水準を保てる。
10年後には、光半導体が全社の利益の4割を占める。ACFで築いた接合の技術を、光部品に広げた会社として、別の評価を受ける。買収の対象になるなら、プレミアムが乗る。
慎重な見方
光半導体は、成長が見えても、利益は残らない市場だ。受光素子は競合が多く、三菱電機、Coherent、住友電工、古河電工が、同じ200G級を出している。顧客のトランシーバーメーカーは、複数の調達先から価格を競わせる。数量が伸びても、単価は実質で毎年下がる。
固定費の重さも問題だ。恵庭の能力倍増と新ラインで、減価償却と人件費が先に増えた。決算でも、成長投資の固定費増で、為替を除くと減益になった。AI投資に在庫調整が来れば、稼働率が落ちて利益率は一気に崩れる。半導体投資は2〜4年周期で山と谷を作ってきた。
本業の成長余地は小さい。スマホの台数は伸びず、パソコン向けのARFは弱い。ACFで中国勢の安い品が中位品を侵食すれば、単価が下がる。顧客は商社と一部の大手に偏り、1社の採用が変わるだけで利益が動く。
ROEが25%という高さは、その時点の最高の収益性を映したものだ。10年たてば、光半導体の投資を飲み込んで、自己資本は積み上がる。ROEは下がり、倍率も縮む。PERが20倍近い今の評価は、成長と高ROEの両方が続くことを前提にしている。どちらかが崩れれば、割高が表に出る。
どちらに重みを置いたか
どちらにも理があるが、慎重な見方がやや強い。堀は本物で、光半導体の数量も伸びるので、確率は悲観に偏らせすぎなかった。ただし、単価の実質的な下落と固定費の重さを考えると、計画どおりの楽観より、その7〜8割の到達が最も起こりやすい。確率は楽観12%・やや楽観22%・中立32%・やや悲観22%・悲観12%とした。中立の10年後の時価総額は今を上回るが、悲観側の落ち込みを混ぜた総合は今の値段とほぼ並び、適正に出る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,743 円9,622 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,367 円2,291 億円)。 今の値に割り戻すと 3,894 円6,525 億円、今との差 +27.3%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 9,419 円1.58 兆円 | 1,884 円3,156 億円 | +269.6% | +14.0% | 1,356 円2,272 億円 |
| やや楽観 | 22% | 7,807 円1.31 兆円 | 1,669 円2,797 億円 | +209.9% | +12.0% | 2,085 円3,493 億円 |
| 中立 | 32% | 6,864 円1.15 兆円 | 1,461 円2,447 億円 | +172.2% | +10.5% | 2,664 円4,463 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,963 円4,964 億円 | 1,088 円1,823 億円 | +32.5% | +2.9% | 891 円1,493 億円 |
| 悲観 | 12% | 392 円656 億円 | 560 円938 億円 | −68.9% | −11.0% | 114 円191 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,743 円9,622 億円 | 1,367 円2,291 億円 | +132.5% | +8.8% | 7,110 円1.19 兆円 |
今の株価時価総額 3,058 円5,123 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 楽観:光半導体が全社の利益の4割を稼ぐ 利益 697 億円 · PER 22.6 倍 · 株価時価総額 9,419 円1.58 兆円
光半導体は、通信速度が3.2Tへ進み、共同封止光学が広がる中で、受光素子の出荷を10年で8倍強に伸ばす。単価は性能の向上で実質では下がるが、名目では今の2割ほど高い。利益率も3割台半ばを保ち、全社の利益のおよそ4割を稼ぐ。ACFは加工ACFと車載向けで数量が1割強伸び、ARFは車載の大画面に採用が広がる。ROEは20%を超え、堀を保ったまま成長を続ける。買収の対象になるなら、プレミアムが乗る分だけ上振れる。競合との差は、200G級を先に量産へ載せた経験と、ACFで培った微細接合の技術にある。10年の間にトランシーバーメーカーの調達先として定着し、顧客の集中も分散していく。大型の買収は要らず、投資は営業のお金で賄える。還元は総還元性向60%の方針を続ける。
- 光学材料(反射防止フィルム・光学弾性樹脂):数量 360(ARF・SVR を使う機器の台数(百万台、実質・推定))× 価格 2.15(1 百万台あたりの売上(億円、名目))→ 売上 774 億円・営業利益 224 億円。数量1.20倍・価格1.37倍、利益率29.0%
- 電子材料(ACF・保護ヒューズなど):数量 1,800(ACF を使う機器の台数(百万台、実質・推定))× 価格 0.46(1 百万台あたりの売上(億円、名目))→ 売上 828 億円・営業利益 331 億円。数量1.12倍・価格1.37倍、利益率40.0%
- 光半導体(フォトニクス):数量 450(受光素子の出荷数(百万個、実質・推定))× 価格 2.80(受光素子 1 百万個あたりの売上(億円、名目))→ 売上 1,260 億円・営業利益 428 億円。数量8.18倍・価格1.19倍、利益率34.0%。受光素子は性能が上がっても競争で実質の単価が下がるため、物価並みには上げない
倍率:事業の純利益 697 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 16.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.6 倍。全体の PER 22.64 倍、時価総額 15,780 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画の延長線上で、光半導体の数量も単価も強気に置く筋書き。実績が浅いので確率は1割強にとどめた。
やや楽観 22% やや楽観:光半導体が大きな柱に育つ 利益 590 億円 · PER 22.2 倍 · 株価時価総額 7,807 円1.31 兆円
光半導体は、10年で出荷が6〜7倍になる。単価は性能の向上で実質は下がるが、大崩れはしない。利益率は3割ほどを維持する。ACFとARFは、物価並みの値上げと車載での採用で、利益を守る。10年後の全社の純利益は、今の2倍を超える。ROEは20%近くで、堀も残る。倍率は、成長の持続性が評価されて化学の中では高い水準を保つ。競合の追い上げはあるが、先に量産へ入った経験で受注を保ち、トランシーバーメーカーの調達先として定着する。顧客の集中も少しずつ分散する。大型の買収は要らず、還元は方針どおり続く。ACFでは鹿沼の新棟で能力が増え、加工ACFが利益を支える。優良さは保たれる。
- 光学材料(反射防止フィルム・光学弾性樹脂):数量 352(ARF・SVR を使う機器の台数(百万台、実質・推定))× 価格 2.13(1 百万台あたりの売上(億円、名目))→ 売上 750 億円・営業利益 210 億円。数量1.17倍・価格1.35倍、利益率28.0%
- 電子材料(ACF・保護ヒューズなど):数量 1,780(ACF を使う機器の台数(百万台、実質・推定))× 価格 0.46(1 百万台あたりの売上(億円、名目))→ 売上 810 億円・営業利益 316 億円。数量1.11倍・価格1.35倍、利益率39.0%
- 光半導体(フォトニクス):数量 360(受光素子の出荷数(百万個、実質・推定))× 価格 2.70(受光素子 1 百万個あたりの売上(億円、名目))→ 売上 972 億円・営業利益 311 億円。数量6.55倍・価格1.14倍、利益率32.0%。受光素子は性能が上がっても競争で実質の単価が下がるため、物価並みには上げない
倍率:事業の純利益 590 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 15.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.2 倍。全体の PER 22.17 倍、時価総額 13,080 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:光半導体が競合に勝ち続け、ACFの堀も守られる筋書き。中立の隣として、次に起こりやすい姿だ。
中立 32% 中立:光半導体が育つが、ACFは成熟で横ばい 利益 511 億円 · PER 22.2 倍 · 株価時価総額 6,864 円1.15 兆円
光半導体は、10年で出荷が5〜6倍になる。AIの投資は山と谷を作りながら伸びるが、競合も多く、単価は実質で2割弱下がる。利益率は3割にとどまる。ACFは数量が1割弱の伸びに収まり、物価並みに値上げできるが、利益率は少し下がる。ARFは車載の採用が増えるが、パソコン向けの弱さで差し引きになる。10年後の純利益は今の1.8倍、ROEは19%ほどに落ち着く。堀は10年先も続くが、光半導体は独占ではなく、競争の中で稼ぐ事業として定着する。光半導体の競争は続くが、ACFとARFの首位は保たれる。大型の買収は行わず、還元は総還元性向60%の方針で続く。光半導体への投資は営業のお金で賄える。優良さは保たれるが、成長の質は「独占」から「競争の中の成長」へ変わる。
- 光学材料(反射防止フィルム・光学弾性樹脂):数量 345(ARF・SVR を使う機器の台数(百万台、実質・推定))× 価格 2.11(1 百万台あたりの売上(億円、名目))→ 売上 727 億円・営業利益 196 億円。数量1.15倍・価格1.34倍、利益率27.0%
- 電子材料(ACF・保護ヒューズなど):数量 1,750(ACF を使う機器の台数(百万台、実質・推定))× 価格 0.45(1 百万台あたりの売上(億円、名目))→ 売上 788 億円・営業利益 299 億円。数量1.09倍・価格1.34倍、利益率38.0%
- 光半導体(フォトニクス):数量 300(受光素子の出荷数(百万個、実質・推定))× 価格 2.60(受光素子 1 百万個あたりの売上(億円、名目))→ 売上 780 億円・営業利益 234 億円。数量5.45倍・価格1.10倍、利益率30.0%。受光素子は性能が上がっても競争で実質の単価が下がるため、物価並みには上げない
倍率:事業の純利益 511 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.1% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 15.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.2 倍。全体の PER 22.23 倍、時価総額 11,360 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:光半導体の数量は伸びるが、単価の下落と競争で利益率は上がらない。本業は成熟、という最も起こりやすい姿。
やや悲観 22% やや悲観:光半導体は利益が薄く、ACFも中国勢に押される 利益 321 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 2,963 円4,964 億円
光半導体は出荷が3倍強に伸びるが、競合の増加で単価が崩れ、利益率は2割台半ばに下がる。固定費の重さが残り、投資の回収に時間がかかる。ACFは中国勢が中位品を押さえ、数量は横ばい、単価は物価に追いつかない。ARFも、パソコン向けが弱く、利益率が下がる。10年後の純利益は、今の1.1倍強にとどまる。ROEは14%ほど。倍率も、化学の平均に近づく。光半導体で投資を回収できず、減損を迫られる局面も出る。顧客の集中が続き、1社の方針で数量が動く。還元は続くが、成長投資の枠は絞られる。ACFとARFの堀は残るので、事業の存続に疑いはないが、優良さは薄れる。
- 光学材料(反射防止フィルム・光学弾性樹脂):数量 320(ARF・SVR を使う機器の台数(百万台、実質・推定))× 価格 1.95(1 百万台あたりの売上(億円、名目))→ 売上 624 億円・営業利益 137 億円。数量1.07倍・価格1.24倍、利益率22.0%
- 電子材料(ACF・保護ヒューズなど):数量 1,600(ACF を使う機器の台数(百万台、実質・推定))× 価格 0.42(1 百万台あたりの売上(億円、名目))→ 売上 672 億円・営業利益 222 億円。数量1.00倍・価格1.25倍、利益率33.0%
- 光半導体(フォトニクス):数量 190(受光素子の出荷数(百万個、実質・推定))× 価格 2.40(受光素子 1 百万個あたりの売上(億円、名目))→ 売上 456 億円・営業利益 109 億円。数量3.45倍・価格1.02倍、利益率24.0%。受光素子は性能が上がっても競争で実質の単価が下がるため、物価並みには上げない
倍率:ROE 13.9%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k 7%+残る割合 2/3×(13.9−7.2)=11.7%、長期の成長率 g 3.75%から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=19.4 倍。光半導体の利益が薄く ACF も中国勢に押されるが、ROE は k を上回るので 1÷k を下限とし、14.55 倍に置いた。
確率:成長を期待された事業が、利益の薄い競争市場に変わる筋書き。半導体の循環と中国勢の追い上げを重く見て、2割強を置いた。
悲観 12% 悲観:構造的に負け、光半導体もACFも利益を失う 利益 117 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 392 円656 億円
光半導体では、競合に単価を崩され、増設した設備の稼働も上がらず、利益がほぼ消える。ACFでは、中国勢と別の接合技術に中位品を奪われ、数量が1割強減る。ARFも、画面の仕様が変わって需要を失う。全社の純利益は、今の4割ほどの水準にとどまる。ROEは7%で、もう優良な会社とは言えない。この場合、1割強の確率を置く。測るのは自己資本の0.6倍で、借金がないため、それ以下には下がりにくい。光半導体の失敗で投資の回収ができず、大きな減損も出る。中国勢との競争で中位品の数量を失い、顧客の集中が重くのしかかる。借金がないので財務は傷まないが、成長の物語は終わる。この場合は買収の対象になる可能性が高まるが、筋書きでは織り込んでいない。
- 光学材料(反射防止フィルム・光学弾性樹脂):数量 270(ARF・SVR を使う機器の台数(百万台、実質・推定))× 価格 1.70(1 百万台あたりの売上(億円、名目))→ 売上 459 億円・営業利益 69 億円。数量0.90倍・価格1.08倍、利益率15.0%
- 電子材料(ACF・保護ヒューズなど):数量 1,400(ACF を使う機器の台数(百万台、実質・推定))× 価格 0.36(1 百万台あたりの売上(億円、名目))→ 売上 504 億円・営業利益 111 億円。数量0.88倍・価格1.07倍、利益率22.0%
- 光半導体(フォトニクス):数量 90.0(受光素子の出荷数(百万個、実質・推定))× 価格 1.60(受光素子 1 百万個あたりの売上(億円、名目))→ 売上 144 億円・営業利益 7 億円。数量1.64倍・価格0.68倍、利益率5.0%。受光素子は性能が上がっても競争で実質の単価が下がるため、物価並みには上げない
倍率:構造的な負け(光半導体の採算割れ、ACF の中位品の喪失)でもう優良ではなくなった姿。純利益は約 120 億円で ROE は 7% 弱と k に届かないので、価値は稼ぐ力(純利益÷k≒1,610 億円)の約 4 割とし、売れる資産の側から今の自己資本 1,094 億円に 0.6 倍を掛けて置いた。
確率:構造的な負けが起きる確率は1割強。光半導体の失敗と中国勢の追い上げが重なる筋書き。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
光学材料(反射防止フィルム・光学弾性樹脂)
画面の反射を抑えるARFと、画面の隙間を埋めるSVR。ノートパソコンと車載ディスプレーが主な需要。ARFは世界シェア9割超。
| 数量ARF・SVR を使う機器の台数(百万台、実質・推定) | 価格1 百万台あたりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 300 | 1.57 | 472 | 143 |
| 10 年後 中立 | 345 | 2.11 | 727 | 196 |
取り方:光学材料部品の売上472億円・セグメント利益143億円(有報)。ARFとSVRを使うノートPC・車載・タブレットなどの機器台数を、同社の売上と供給のシェアから3億台分と推定し、売上をこれで割って1台あたりの値を出した。数量は実質、価格は物価3%込みの名目で動かす。
電子材料(ACF・保護ヒューズなど)
画面とフレキシブル基板をつなぐ異方性導電膜ACFが中核。ハイエンドスマホのカメラモジュール向けの加工ACFが伸びる。ACFの世界シェアは約7割。
| 数量ACF を使う機器の台数(百万台、実質・推定) | 価格1 百万台あたりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,600 | 0.34 | 538 | 215 |
| 10 年後 中立 | 1,750 | 0.45 | 788 | 299 |
取り方:電子材料部品の売上667億円・利益250億円から、光半導体の推定(売上130億円・利益35億円)を引いた残りがACFなど。ACFを使うスマホ・タブレット・パソコン・車載・カメラモジュール等の機器の出荷を約22億台、同社のシェア約7割で16億台と推定し、売上で割って1台あたりの値を出した。
光半導体(フォトニクス)
データセンターの光トランシーバーに載る受光素子(フォトダイオード)。2024年に子会社を設け、800G・1.6T向けを増産中。
| 数量受光素子の出荷数(百万個、実質・推定) | 価格受光素子 1 百万個あたりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 55.0 | 2.36 | 130 | 35 |
| 10 年後 中立 | 300 | 2.60 | 780 | 234 |
取り方:売上は開示がない。電子材料部品が前期比10.4%増だったこと、固定費増で利益率が約27%に下がったこと、中期計画の成長領域の構成比から約130億円と推定した。個数は、800Gトランシーバーに載る受光素子(1台に8個前後)の市場のうち同社が取る分を5,500万個と置き、売上で割って単価を出した。
リスクと懸念
光半導体の単価下落と固定費の重さ
受光素子は競合が多く、数量が伸びても単価は実質で下がりやすい。恵庭の増設と新ラインで固定費が先に増えており、稼働が落ちれば利益率が一気に崩れる。今の評価は、この事業の成功をかなり織り込んでいる。今の評価は、この事業の成功をかなり織り込んでいる点が、いちばん大きな不安だ。
半導体・AI投資の循環
光半導体もACFの先のスマホも、投資や買い替えの周期で動く。AI投資が一服してトランシーバー各社が在庫を調整すれば、数量と稼働が同時に落ちる。2〜4年周期の調整が、10年の間に何度か来る。過去にも、スマホと半導体の投資の周期で、利益が大きく振れた時期がある。
顧客と販売先の集中
商社のレスターが連結売上の3割強、日東電工が1割強を占める。最終の需要先も、少数の大手スマホ・パソコン・車・通信機器メーカーに偏る。1社の採用や仕様が変わるだけで、利益が動く。相手の方針転換が、価格交渉力にも響く。
ACFとARFが画面という一つの需要に偏る
スマホの台数は頭打ちで、パソコン向けのARFは弱い。ディスプレーの方式が変わったり、画面を貼り合わせる技術が変わったりすれば、接合の需要そのものが減る恐れがある。その場合、ACFとARFの首位はあまり意味を持たなくなる。
中国勢の追い上げ
先端品の認定には時間がかかるが、中位品では中国勢がフィルムを安く出し始める可能性がある。数量を失うよりも、値崩れの形で利益を削る。10年の悲観の筋書きでは、中位品の侵食を置いた。その場合、守れるのは先端品の利益率だけになる。
開示の薄さと実績の浅さ
光半導体の売上と利益は、決算で単独に開示されていない。計画が大きく上方修正されたが、新事業のため検証できる実績が短い。数字の読み違いが起きやすい。このため、数字の読み違いを避けるために、中立の確率を厚めに置いた。
今後の分かれ目
- 光半導体の売上が単独で開示され、計画の7割以上で進んでいると確かめられたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし倍率は成長を先取りしているので、割高の幅が縮むだけで、割安にはなりにくい。
- トランシーバー各社の在庫調整が始まり、光半導体の稼働が落ち始めたら
- やや悲観の確率を上げる。固定費の重さから、利益率は数量の落ち込み以上に悪化する。
- ACFのスマホ向け数量が下がり続け、加工ACFと車載向けの増加でも補えなくなったら
- 本業の堀が壊れたのではなく、需要が減っただけと判断する。中立の数量を下げ、10年の純利益を1割ほど引き下げる。
- 200G級受光素子で、大手の光通信部品メーカーとの競争に勝ち、量産の採用が増えたら
- 光半導体が独占に近い立場を築く可能性が出る。強い堀を持つ事業が二つになるので、中立の倍率を上限に近づけてよい。
- 中国勢のACF・ARFが、大手の画面メーカーの認定を通り始めたら
- 中位品の値崩れが始まる合図。10年のやや悲観・悲観の確率を厚くする。
- 買収や非公開化の提案が出たら
- プレミアムが乗るので、短期の価値は上がる。ただし本質価値そのものは変わらない。
見ておくもの
- 光半導体の出荷と事業利益の動き(決算説明資料。単独の開示が増えるか)
- 恵庭・新ラインの稼働率と歩留まり
- ACF・ARFの数量(スマホ・パソコン・車載の出荷と採用)
- 電子材料部品の営業利益率(3割台後半を保てるか)
- データセンター投資と光トランシーバー各社の在庫調整
- 中期計画の進捗と、2027年3月期の通期予想(営業利益385億円)
- 総還元性向60%の運用と自社株買い
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROEから式(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g))で上限を出し、利益の質に応じて上限の85〜90%に置いた(中立・楽観)。今のPER約20倍は参照していない。資本コストは基本7.5%+quality−0.25%(循環+0.25、値決め−0.5)の7.25%。ROEがkを上回る筋書きは1÷kを下限にし、やや悲観もその付近に置いた。悲観は稼ぐ力と売れる資産で置き、過去のPBRの底からは置いていない。純現金はほぼゼロ(純有利子負債−2億円)で、余った現金は分けていない。利払いの変化は0で、純利益に足していない。金額は今の形(IFRSではなく日本基準の営業利益)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 20.02→22.64 倍・やや楽観 PER 19.14→22.17 倍・中立 PER 18.18→22.23 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.25%(循環 +0.25、値決め −0.5)を足して 7.25%。ACF・ARF は景気で大きくは振れず無借金だが、光半導体は半導体投資の循環につながり、小型で買い手の動きにも振れやすい。光半導体の立ち上げの遅れや顧客の集中は k に足さず、やや悲観・悲観の確率と利益率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 7.00%。