結論
artience は、印刷インキから出発した化学メーカーだ。今はインキのほか、接着剤、顔料、電池向けの材料まで手がける。筆者の結論は「やや割高」である。事業は悪くないが、稼ぐ力に比べて今の値段は先を払いすぎている。
強みは、顧客の工場に入り込む息の長い商売だ。食品の包装、液晶パネル、新聞の印刷と、売り先は広い。だが利益率は 10 年を通して 4〜6% にとどまり、株主のお金の稼ぎは資本コストに届かない年が多い。
今期は追い風がある。中東情勢で原料のナフサが急騰したが、値上げが通り、上期の営業利益は 3 割ふえた。ただし純利益には株の売却益が乗っている。中身は割り引いて読む必要がある。
賭けは、電池向けのカーボンナノチューブ分散体だ。会社は 2026 年に売上 400 億円という大きな目標を掲げた。今のところ、この目標は下回っている。ここが黒字に育たなければ、資本の使い方に疑問が残る。
10 年後の中立の時価総額は、今を 1 割弱上回るにとどまる。配当と自社株買いを足しても、年 4% ほどの収益にしかならない。資本コストの 8.0% には届かず、確率で重みづけた本質価値は今の値段より 2 割ほど低い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を「持ち続けたい会社」とは呼びにくい。理由は単純で、株主のお金の稼ぎが資本コストを超えた年がほとんどないからだ。
事業そのものは、つぶれる心配が薄い。顧客に入り込むインキと接着剤は、景気が悪くても一定の量が売れる。借金は軽く、財務の傷もない。問題は、稼ぐ力が足りないことである。10 年の ROE の中央値は 4.3% で、これでは自己資本を厚くするほど価値が薄まる。
評価の鍵は、経営が資本の配り方を変えられるかだ。政策保有株を売って自社株を買う動きは、正しい方向である。電池材料に資本を投じ続ける判断が報われるか。筆者はそこを最も厳しく見ている。
値段の面では、今の時価総額は自己資本の 0.9 倍だが、これは割安の根拠にならない。自己資本の稼ぎが資本コストに届かない会社は、帳簿の値より安く評価されて当然である。利益で見れば、今の値段は中立の筋書きでも 10 年の収益が資本コストに足りない水準だ。安全域は取れない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は四つある。どれも売上の 2 割台で、大きさはそろっている。
一つめはパッケージ関連だ。食品や日用品の包装フィルムに刷るインキ、フィルムを貼り合わせる接着剤、ラベル用の粘着剤、飲料缶の塗料を作る。海外の比重が高く、インドと東南アジアで広げている。
二つめはポリマー・塗加工関連だ。粘着テープや離型フィルム、ディスプレイ用の光学粘着剤など、薄い膜を塗って機能をつけた材料である。上期の営業利益率は 9% 台で、四つの中でいちばん高い。
三つめは色材・機能材関連だ。顔料と着色剤、液晶のカラーフィルタ用の材料、インクジェット用の材料、そして電池向けのカーボンナノチューブ分散体が入る。分散体は電池の電極に練り込み、電気を通しやすくする材料だ。この事業が全体の利益率を押し下げている。
四つめは印刷・情報関連だ。新聞、雑誌、チラシ向けのインキである。紙の市場は縮み、会社も縮小を前提に置いている。
海外の売上は 5 割を超える。原料は石油由来のものが多く、ナフサの値動きが利益に響く。値上げは原料高に遅れてついてくるため、利益は上期と下期でずれやすい。
優良さと弱いところ
堀は広くない。ただ、顧客に入り込む力は本物だ。
インキは色合わせと品質の保証が要る。食品の包装に使うものは、安全基準を満たした材料を安定して届けなければならない。ディスプレイ用の粘着剤は、パネルメーカーの工程に合わせて設計する。いったん採用されると、顧客は簡単に乗り換えない。だが同じ顔ぶれの競合が世界にいて、値段を自分で決められるほどの力はない。
筆者が弱いと見ているのは資本の稼ぎだ。10 年の ROE の中央値は 4.3% で、いちばん高い年でも 7% 台にとどまる。営業利益率は 4〜6% の帯から抜けられなかった。強い会社なら、原料高は値上げで吸収し、利益率は崩れない。この会社では、原料の波がそのまま利益の波になる。
一方で、経営は変わりつつある。政策保有株を売り、自社株を買い、ためこんだ自己資本を薄くしている。5 年で株数は 2 割近く減った。2029 年に ROE 10% という目標も掲げた。
ただし電池材料への投資は、まだ報われていない。会社自身も、売上が当初の目標を下回ったと認めている。資本をどこに投じるかという点で、経営の腕が試されている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の市場は、一つではない。伸びる分野と縮む分野が同居している。
包装は安定して伸びる。人口が増える国で、食品や日用品の包装の量がふえるからだ。会社の見方も「安定成長」である。世界の印刷インキ市場は、名目で年 3〜5% の成長が見込まれる。成長の中心は新興国で、国内は横ばいだ。
ディスプレイ向けは横ばいである。大型パネルは好調だが、下期は生産調整が見込まれる。一方、スマートフォンのカメラ用の撮像素子や、AI 向けの半導体は高成長で、顔料や粘着剤の新しい売り先になる。
電池はまだ読めない。電気自動車は、欧州で回復し、米国で停滞し、中国が市場を引っぱっている。電極に練り込む導電材は、中国の江蘇天奈科技(Cnano)や米国のキャボットなどが先行し、上位 5 社で世界の 7 割を握る。日本の会社が値段で勝つのは難しい。
紙の印刷は縮む。新聞、雑誌、チラシのインキは、デジタル化で数量が毎年減る。ここは利益を出しながら静かに畳む事業だ。
競争の形は分散的で、日系では DIC やサカタインクスが同じ市場にいる。今年は中東の情勢でナフサが 2 倍近くまで跳ね、原料の値上がり分は通期で 170 億円の見込みだ。値上げで吸収できるかが、この業界の腕の見せどころである。
資本政策と M&A
資本政策は、この数年で大きく変わった。
会社は政策保有株の売却を進め、2024 年に約 95 億円、2025 年に約 46 億円を売った。売却のお金で、1 回あたり 100 億円を上限とする自社株買いを続けている。総還元性向は 50% 以上が目標で、実際の株主還元はそれを上回る年もある。
財務は堅い。純有利子負債は時価総額の 1 割に満たず、自己資本比率は 57.5% ある。電池材料の設備には、日本政策投資銀行から約 65 億円を、利益の分配を返済にあてる契約で調達した。
筆頭株主は TOPPAN ホールディングスで、約 2 割を持つ。サカタインクスとは資本提携がある。買収の動きを示す材料は、今のところ確かめられていない。ただ、持ち分の大きい会社がいることは、価値が下がった時の下支えにも、少数株主の発言力を弱める要因にもなる。
10年の還元は、総還元性向50%以上の目標の上で、実績が上回る年もあることから75%とした。2026年1〜2月に取得ずみの約22億円は、今の株数に反映済みなので除いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
2026 年が転機になる。原料が高騰しても、会社は値上げを通し、上期の営業利益を 3 割ふやした。値上げを通せるなら、利益率はこれまでの 4〜6% の帯から抜けられる。ポリマー・塗加工はすでに 9% を超え、パッケージも 7% 近い。
電池向けのカーボンナノチューブ分散体は、立て直しが進む。体制を作り直し、欧州と中国で数量が伸びている。ここが黒字に変わるだけで、色材・機能材の利益は大きく動く。この分野の売上は、2023 年の 75 億円から、さらに何倍にもなり得る。スマートフォンのカメラ用素子や AI 向けの半導体に使う材料も、高成長の波に乗る。
資本の使い方は変わった。政策保有株を売り、自社株を買い、株数は 5 年で 2 割近く減った。2029 年の ROE 10% を達成すれば、ROE は資本コストを上回り、倍率は今より上がる。海外比率は 5 割を超え、インドと東南アジアの包装需要は人口とともに伸びる。10 年後の営業利益が今の 2 倍を超える姿は、十分に描ける。
慎重な見方
この会社の利益率は 10 年以上、4〜6% の帯にとどまってきた。今期の増益は、原料高に値上げが追いついたうえ、中東情勢で数量が増えた面がある。原料が落ち着けば、値下げの要求が戻ってくる。上期の純利益は、株の売却益が押し上げた数字で、稼ぐ力そのものではない。
電池材料は、いちばん危うい。2026 年に売上 400 億円というかつての目標は、遠い。中国の同業は規模が大きく、値段で攻めてくる。この分野の設備投資は、取り戻せるかわからない。2025 年にも減損損失を出しており、同じことが繰り返される恐れがある。
紙の印刷インキは、毎年縮んでいく。ディスプレイ向けも、大型パネルは下期に減速する。トルコ、インドなど、物価の高い国に拠点が多く、人件費と運搬費も重い。ROE の中央値は 4.3% で、資本の稼ぎは 10 年たっても資本コストに届かない。自社株買いで ROE を見せかけに上げても、価値は増えない。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分にも根拠があるが、どれも「これから」の話だ。利益率が 7% を超えて定着した実績は、この 10 年にない。慎重な言い分のほうが、数字に裏づけられている。
確率はやや悲観側に寄せた。中立でも、10 年の ROE は資本コストに届かない。電池材料の失敗と紙のインキの縮小が重なる悲観を、1 割強とした。楽観は、電池材料と電子材料が同時に育つ場合に限り、1 割弱にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 6,993 円3,279 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,554 円1,198 億円)。 今の値に割り戻すと 5,273 円2,473 億円、今との差 +3.6%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 14,690 円6,889 億円 | 4,051 円1,900 億円 | +268.2% | +13.9% | 1,312 円615 億円 |
| やや楽観 | 20% | 11,005 円5,161 億円 | 3,290 円1,543 億円 | +180.9% | +10.9% | 2,859 円1,341 億円 |
| 中立 | 37% | 7,570 円3,550 億円 | 2,604 円1,221 億円 | +99.9% | +7.2% | 3,764 円1,765 億円 |
| やや悲観 | 24% | 3,443 円1,615 億円 | 2,004 円940 億円 | +7.0% | +0.7% | 1,307 円613 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,134 円532 億円 | 1,399 円656 億円 | −50.2% | −6.7% | 304 円143 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,993 円3,279 億円 | 2,554 円1,198 億円 | +87.6% | +6.5% | 9,547 円4,477 億円 |
今の株価時価総額 5,090 円2,387 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 7% 電池材料と電子材料が同時に育つ 利益 377 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 14,690 円6,889 億円
カーボンナノチューブ分散体が黒字に育ち、欧州と米国の工場がフルに回る。中国勢との値段の差は残るが、電池メーカーとの共同開発で高性能品の比率が上がる。スマートフォンのカメラ用素子や AI 向け半導体に使う材料も伸び、色材・機能材の営業利益率は 9% 台に上がる。
パッケージはインドと東南アジアで数量が 1.5 倍近くまで伸び、ポリマー・塗加工は光学材料で 9% の利益率を守る。営業利益は今の 2.6 倍、ROE は 12% 前後になる。
会社の掲げた 2029 年の ROE 10% が実現し、さらに先まで続く姿だ。ただし市場の大きさに対し、会社のシェアは 1 割に届かない。強気の筋書きでも、会社は景気と原料の影響を受ける素材メーカーのままである。
- パッケージ関連:数量 296(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.03(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,784 億円・営業利益 136 億円。売上 1784 億円・営業利益率 7.6%
- ポリマー・塗加工関連:数量 161(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.38(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,509 億円・営業利益 136 億円。売上 1509 億円・営業利益率 9.0%
- 色材・機能材関連:数量 129(出荷量(千トン・推定))× 価格 17(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(電池材料は値下がりを見込む))→ 売上 2,152 億円・営業利益 204 億円。売上 2152 億円・営業利益率 9.5%
- 印刷・情報関連:数量 172(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.36(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 923 億円・営業利益 65 億円。売上 923 億円・営業利益率 7.0%
- その他・調整:数量 5.5(出荷量相当(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 74 億円・営業利益 6 億円。売上 74 億円・営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 377 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.4 倍。全体の PER 17.44 倍、時価総額 6,575 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電池材料の黒字化と、撮像素子・半導体向け材料の拡大がそろう必要がある。会社は ROE 10% を掲げるが、この会社の 10 年の実績からは遠く、1 割に届かない確率とした。
やや楽観 20% 値上げが定着し、電池材料は損益が均衡する 利益 303 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 11,005 円5,161 億円
包装とポリマー・塗加工で値上げが定着し、原料の波に利益が左右されにくくなる。営業利益率は 7% 台後半まで上がる。電池材料は赤字を脱し、色材・機能材の利益率は 8% 近くに届く。
紙のインキは毎年縮むが、人員と設備を畳むペースが追いつき、利益は守られる。営業利益は今の 2.1 倍、ROE は 10% 近くになる。自社株買いと政策保有株の売却で、自己資本は膨らまない。
数量は、包装で年 3% 台、電子材料を含む色材・機能材で年 5% 台伸びる。値段は物価並みに上がる。強気ではあるが、電池材料で中国勢に値段で勝てるとまでは置いていない。
- パッケージ関連:数量 275(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.03(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,661 億円・営業利益 123 億円。売上 1661 億円・営業利益率 7.4%
- ポリマー・塗加工関連:数量 152(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.38(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,425 億円・営業利益 127 億円。売上 1425 億円・営業利益率 8.9%
- 色材・機能材関連:数量 109(出荷量(千トン・推定))× 価格 16(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(電池材料は値下がりを見込む))→ 売上 1,707 億円・営業利益 133 億円。売上 1707 億円・営業利益率 7.8%
- 印刷・情報関連:数量 166(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.36(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 890 億円・営業利益 56 億円。売上 890 億円・営業利益率 6.3%
- その他・調整:数量 5.5(出荷量相当(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 74 億円・営業利益 6 億円。売上 74 億円・営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 303 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.92 倍、時価総額 4,824 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:原料高を値上げで吸収できている足元の実績があり、電池材料の黒字化は会社の計画でもある。ただしこの 10 年の利益率の実績からは、一段高い水準を前提にしており、2 割とした。
中立 37% 中立:物価の分だけ伸び、利益率はわずかに上がる 利益 228 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 7,570 円3,550 億円
包装は数量が年 2〜3%、ポリマー・塗加工は年 1% で伸びる。紙のインキは年 2% 前後で縮む。電池材料は赤字を抜けるが、中国勢の値下げ圧力で値段は物価ほど上がらず、利益率は 5% 止まりだ。
全体の営業利益率は 6.5%、営業利益は今の 1.6 倍になる。物価の 3% に、実質の成長がわずかに乗った姿である。ROE は 7% 台で、資本コストにはなお届かない。
配当と自社株買いは純利益の 75% ほどを返し、自己資本は薄いまま保たれる。利益の増え方は着実だが、株主のお金の稼ぎは並の域を出ない。成長株ではなく、持ち続けても資本コスト並みを上回れない会社に落ち着く。
- パッケージ関連:数量 255(出荷量(千トン・推定))× 価格 6.03(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,538 億円・営業利益 105 億円。売上 1538 億円・営業利益率 6.8%
- ポリマー・塗加工関連:数量 142(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.38(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,328 億円・営業利益 110 億円。売上 1328 億円・営業利益率 8.3%
- 色材・機能材関連:数量 91.8(出荷量(千トン・推定))× 価格 15(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(電池材料は値下がりを見込む))→ 売上 1,419 億円・営業利益 71 億円。売上 1419 億円・営業利益率 5.0%
- 印刷・情報関連:数量 162(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.36(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 868 億円・営業利益 48 億円。売上 868 億円・営業利益率 5.5%
- その他・調整:数量 5.5(出荷量相当(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 74 億円・営業利益 6 億円。売上 74 億円・営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 228 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 13.96 倍、時価総額 3,183 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の足元の増益と、10 年の利益率の実績との間をとった。数量は市場並みに伸び、利益率は 2026 年の会社予想(6.4%)に近い 6〜7% で止まる。最も起こりやすい形として最大の確率にした。
やや悲観 24% 電池材料が赤字のまま、原料高の転嫁が遅れる 利益 137 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 3,443 円1,615 億円
電池材料は、中国勢の値下げで利益が出ないまま、追加の投資と減損を繰り返す。色材・機能材の営業利益率は 2% 台に低迷する。包装は海外で伸びるが、原料高の転嫁が遅れ、利益率は 6% を割る。
紙のインキは年 3% のペースで縮み、固定費が重くなる。営業利益は今の 1.06 倍にとどまり、ROE は 4% 台で、この 10 年の中央値と変わらない。
数量は包装が年 1% 前後、ポリマーは横ばい。値段は物価に届かず、10 年で 3 割しか上がらない。売上は増えても利益が増えない、今の延長線の姿である。時価総額は今を下回り、配当と自社株買いを足しても資本コストに足りない。
- パッケージ関連:数量 229(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.85(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,337 億円・営業利益 78 億円。売上 1337 億円・営業利益率 5.8%
- ポリマー・塗加工関連:数量 129(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.10(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,172 億円・営業利益 82 億円。売上 1172 億円・営業利益率 7.0%
- 色材・機能材関連:数量 78.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 14(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(電池材料は値下がりを見込む))→ 売上 1,114 億円・営業利益 28 億円。売上 1114 億円・営業利益率 2.5%
- 印刷・情報関連:数量 145(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.20(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 758 億円・営業利益 34 億円。売上 758 億円・営業利益率 4.5%
- その他・調整:数量 5.0(出荷量相当(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 65 億円・営業利益 4 億円。売上 65 億円・営業利益率 6.0%
倍率:ROE 4.7% で k を大きく下回る。正当化 PER は 9.3 倍だが、ためた利益は額面より安く評価される水準で、構造的な負けに近い筋書きなので上限 12.5 倍の 7 割弱の 8.5 倍に置いた。稼ぐ力(純利益÷k)の 1712 億円より下に収まる。
確率:電池材料が赤字から抜けない、あるいは値上げの浸透が遅れる形は、この会社の 10 年の実績に近い。足元の追い風が一巡したあと利益率が元の帯に戻る姿で、起こりうる筋書きとして 24% とした。
悲観 12% 構造的な負け:電池材料は撤退し、紙のインキは急速に縮む 利益 66 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 1,134 円532 億円
電池材料は、中国勢との価格競争に負けて撤退し、設備の減損と事業の整理で 100 億円を超える損失を出す。紙のインキは毎年 5% 近いペースで縮み、拠点の統廃合が追いつかない。
包装は海外で伸びる余地を残すが、原料高を転嫁できず、利益率は 4% 台にとどまる。営業利益は今の 6 割に沈み、ROE は 2% 台まで下がる。
数量は、包装が今を下回り、紙のインキは今の 6 割に落ちる。会社は生き残るが、優良会社の評価は付かない。値段は稼ぐ力と自己資本の残る分で測り、今の自己資本の 0.25 倍に置いた。株主にとって、10 年の間価値が増えない、つらい展開である。
- パッケージ関連:数量 194(出荷量(千トン・推定))× 価格 5.40(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,047 億円・営業利益 47 億円。売上 1047 億円・営業利益率 4.5%
- ポリマー・塗加工関連:数量 110(出荷量(千トン・推定))× 価格 8.40(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 919 億円・営業利益 51 億円。売上 919 億円・営業利益率 5.5%
- 色材・機能材関連:数量 61.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(電池材料は値下がりを見込む))→ 売上 813 億円・営業利益 12 億円。売上 813 億円・営業利益率 1.5%
- 印刷・情報関連:数量 121(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.80(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 583 億円・営業利益 17 億円。売上 583 億円・営業利益率 3.0%
- その他・調整:数量 5.0(出荷量相当(千トン・推定))× 価格 12(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 60 億円・営業利益 3 億円。売上 60 億円・営業利益率 5.0%
倍率:電池材料の撤退と紙のインキの急減が重なる構造的な負けで、優良ではなくなる姿。稼ぐ力(純利益÷k で約 825 億円)より低い水準とし、売れる資産の価値は確かめられていないので床には使わず、今の自己資本 2,660 億円に 0.2 倍を掛けた。(やや悲観の PER 8.5 倍を超えないよう、PBR を 0.25 から 0.2 に下げた)
確率:電池材料の撤退、紙のインキの急減、原料高の転嫁の失敗が重なる構造的な負けで、優良ではなくなる姿。10 年なら十分に起こりうる。電池材料の苦戦が現に進んでいるため、1 割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
パッケージ関連
食品・日用品の包装に使う液状インキ、ラミネート接着剤、粘着剤、缶用コーティング材。海外(インド・東南アジア)で伸ばしている。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 204 | 4.50 | 918 | 56 |
| 10 年後 中立 | 255 | 6.03 | 1,538 | 105 |
取り方:開示は金額だけなので、売上 918 億円を平均単価で割って出荷量を推定した。インキ・接着剤・粘着剤・缶用塗料の混合で 1 千トンあたり 4.5 億円と置き、出荷量は約 20 万トン。対象市場は今の値段で約 2 兆円、会社のシェアは約 5% 弱という見立て。営業利益は 2024 年の 54 億円と 2025 年上期の 25 億円から通期 56 億円と推定した。
ポリマー・塗加工関連
粘着テープ、離型フィルム、光学粘着剤、機能性コーティング、ポリマー。ディスプレイ・電子部品向けが厚い。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 129 | 7.00 | 901 | 76 |
| 10 年後 中立 | 142 | 9.38 | 1,328 | 110 |
取り方:売上 901 億円を、粘着・離型・光学材料・コーティングの混合の平均単価(1 千トンあたり 7.0 億円)で割り、出荷量を約 13 万トンと推定した。対象市場は約 1.2 兆円、シェアは約 7.5%。営業利益は 2024 年の 72 億円と 2025 年上期の 37 億円から通期 76 億円と推定した。
色材・機能材関連
顔料・着色剤、カラーフィルタ用材料、インクジェット材料、リチウムイオン電池向けのカーボンナノチューブ分散体。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目(電池材料は値下がりを見込む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 68.0 | 12 | 821 | 22 |
| 10 年後 中立 | 91.8 | 15 | 1,419 | 71 |
取り方:売上 821 億円を、顔料・着色剤・電子材料・電池材料の混合の平均単価(1 千トンあたり 12 億円)で割り、出荷量を約 6.8 万トンと推定した。対象市場は約 1.5 兆円、シェアは約 5.5%。営業利益は 2024 年の 34 億円と四半期の利益率(1〜4% 台)から 22 億円と推定した。電池材料は赤字とみられるが、会社は内訳を開示していない。
印刷・情報関連
新聞・雑誌・チラシ・商業印刷向けのインキ。国内が中心で、デジタル化により縮小している。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 202 | 4.00 | 810 | 48 |
| 10 年後 中立 | 162 | 5.36 | 868 | 48 |
取り方:売上 810 億円を、インキの平均単価(1 千トンあたり 4.0 億円)で割り、出荷量を約 20 万トンと推定した。対象市場は約 4,500 億円で、シェアは約 18% という見立て。営業利益は 2024 年の 49 億円と 2025 年上期の 21 億円から通期 48 億円と推定した。
その他・調整
どの区分にも入らない事業と、全社の調整。
| 数量出荷量相当(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 5.0 | 10 | 50 | 6 |
| 10 年後 中立 | 5.5 | 13 | 74 | 6 |
取り方:連結売上 3,500 億円との差の約 50 億円を置いた(5 千トン相当・1 千トンあたり 10 億円の便宜上の置き方)。営業利益は連結 208 億円との差で、2025 年上期は 3 億円の黒字だった。
リスクと懸念
電池材料が黒字に育たない
電池向けのカーボンナノチューブ分散体は、会社の成長の中心に置かれてきたが、売上は当初の目標を下回っている。中国の同業は規模が大きく、値段で攻めてくる。設備の投資額は大きく、取り戻せないまま減損になれば、利益の柱の一つを失う。
原料高を転嫁しきれない
原料の多くは石油由来で、中東情勢でナフサは 2 倍近くに跳ねた。会社は通期で約 170 億円の原料高を見込み、値上げとコストダウンで吸収する構えだ。顧客が値上げを受け入れなくなれば、利益率が先に崩れる。値上げは原料高に遅れてつくため、下期のほうが重い。
紙の印刷インキの縮小
新聞・雑誌・チラシ向けのインキは、デジタル化で毎年数量が減る。売上の 2 割強を占め、営業利益率も 5% 台と高くない。縮むペースが想定より速いと、設備と人員の整理が追いつかず、固定費が利益を食う。
利益の質:売却益と為替が純利益を動かす
今期の純利益には、政策保有株の売却益が大きく乗っている。トルコなど物価の高い国の為替差損益も振れる。2025 年は減損損失を出し、純利益は営業利益の半分に落ちた。純利益の数字をそのまま稼ぐ力とは読めない。
資本の稼ぎが資本コストに届かない
10 年の ROE の中央値は 4.3% で、資本コストを大きく下回る。会社は 2029 年に 10% を掲げるが、原料と為替の波がある素材の事業で、この水準を守れるかは確かでない。政策保有株の売却が一巡したあとは、還元の原資が細る。
物価の高い国の人件費と運搬費
上期の営業利益を押し下げた要因は、原材料の 55 億円に次いで、人件費や運搬費などの経費の 37 億円だった。トルコ、インドなど、物価の高い国に拠点が多く、経費は利益の足を引っぱり続ける。値上げと現地での効率化が追いつくかが分かれ目だ。
今後の分かれ目
- 電池向けカーボンナノチューブ分散体の損益が黒字に転じ、売上が中計の水準に近づいたら
- 色材・機能材の利益率の前提を上げ、楽観・やや楽観の確率を引き上げてよい。
- 電池材料で追加の減損か設備の整理が出たら
- 色材・機能材の利益率の前提を下げ、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- ナフサが落ち着いたあとも、値上げが戻らず利益率が保たれたら
- 原料の波を値上げで吸収できる力があるとみて、パッケージとポリマー・塗加工の利益率を上げる。
- 値上げが通らず、営業利益率が 5% 台に戻ったら
- 中立の利益率の前提を下げ、確率を悲観側へ寄せる。
- 政策保有株の売却が一巡し、自社株買いが止まったら
- 還元の前提を下げる。利益そのものは変わらず、本質価値の変化は小さい。
- 筆頭株主の TOPPAN ホールディングスが持ち分を増やす、または再編の話が出たら
- 買い手がつく確率を見直す。ただし本質価値は事業の稼ぐ力で決まり、買収の上乗せは筋書きに入れていない。
見ておくもの
- 色材・機能材の営業利益率(特に電池材料の黒字化の時期と、減損の有無)
- パッケージとポリマー・塗加工の営業利益率(原料高の転嫁の度合い)
- ナフサ価格と値上げの実施状況
- 印刷・情報関連の数量の減り方
- 純利益に占める売却益と減損の大きさ(営業利益との差)
- 総還元性向、自社株買いの実績、政策保有株の売却残
倍率と資本コストの決め方
4 区分ごとに市場 × シェア(実質)と価格指数で 10 年を積み、利益率から営業利益を出した。資本コストは基本 7.5%+quality 0.5%(市況 0.25、値決め力 0.25)の 8.0%。中立の倍率は ROE 7.4%、RONIC と g 4% から出した正当化 PER 12.0 倍と、ROE が k 以下のときの上限 12.5 倍の約 9 割(11.3 倍)に置き、今の PER や同業の倍率には寄せていない。中立の 10 年は今の時価総額を 1 割弱上回るだけで、配当を足しても年 4% ほどの収益になる。総合が 2 割ほどの割高に出たのは、今の値段が 2026 年の会社予想(営業利益 230 億円)への回復を先に払う形で、中立の 10 年がそれを大きく上回らないためで、倍率を下げて合わせたのではない。悲観は稼ぐ力より低い今の自己資本の PBR で測り、過去の PBR の底からは置いていない。リースは小さいとみて、新リース会計基準の影響は限定的とし、数字は家賃を費用に入れた今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5%(市況・原料の波 +0.25、値決め力の弱さ +0.25)を足して 8.0%。電池材料の失敗や大株主の存在は k に足さず、筋書きと確率で表した。事業が傾いてはおらず、上乗せはしない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.25%。