結論
田岡化学工業は、医薬・農薬の原料となる中間体、電子材料などの機能材、プラスチック用の添加剤を作る中堅の化学メーカーだ。住友化学が議決権の 5 割強を持つ上場子会社で、時価総額は 118 億円ほどと小さい。
筆者の結論は「適正」に近い。自己資本は 196 億円あり、純現金も 21 億円ある。財務は盤石だが、稼ぐ力の戻りは遅く、10 年の中立でも ROE は資本コストに届かない。安く見える株価は、資産が厚いことの裏返しにすぎない。
会社の今期予想は営業利益 3 億円と、前期の 20 億円から急に落ちる。配当も、総額で 5 億円ほどから 1 億円弱へ減らす計画だ。第 1 四半期は精密化学品の樹脂原料の販売が減り、営業利益が 8 割減った。
一方、強みは、顧客と組んで作る中間体の技術と、無借金に近い財務だ。親会社が上場子会社を完全子会社に戻す動きを進めており、買い取りの可能性も無視できない。ただ、その価格は小さな確率で、価値の中心には置かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に見るのは、普通の年に株主へ残る利益だ。当社の普通の年は営業利益 20〜30 億円で、純利益は 15〜20 億円ほどだろう。今の時価総額は、その利益の 6〜8 倍にすぎず、見かけは安い。
しかし、資本コストを稼げない会社の自己資本は、帳簿の額面では評価できない。10 年後の ROE は 7% 前後と、資本コストを下回る。それなら、純利益に 10 倍弱の倍率を掛けるのが筋で、PBR が 1 倍を割るのは当然の姿だ。
財務の強さは評価する。無借金に近く、景気の谷でも倒れない。ただ、親会社が支配する以上、余った現金は株主に戻るとは限らない。現金の半分は将来の使い方が決まらないものと見る。
安全域は小さい。親会社による完全子会社化の価格がプレミアム付きで出るなら、その可能性は魅力だが、今は材料ではない。
何で稼ぐ会社か
事業は 3 本柱だ。精密化学品事業は、医薬・農薬の中間体や樹脂原料を、顧客の注文に合わせて作る。親会社の住友化学向けが大きい。機能材事業は電子・光学用途の材料で、利益率が高い。樹脂添加剤事業は、ゴムやプラスチックの劣化を防ぐ薬品などを作る。
売上は 330 億円ほどで、精密化学品が 4〜5 割、樹脂添加剤が 3 割、機能材が 2〜3 割と見る。開示の内訳は取らず、この配分は推定だ。2022 年に組織を事業部制に改め、機能樹脂と化成品を樹脂添加剤に統合した。
工場は大阪の淀川工場が中心で、精密中間体の多目的設備を持つ。受注生産が多く、顧客の都合で数量が大きく動く。この性格が、利益の振れを大きくしている。
原料は石油化学品で、物価並みに上がる。値上げの転嫁は顧客との交渉で決まり、特に親会社向けでは遅れやすい。顧客の数は多くないため、1 件の注文の増減が工場の稼働率を左右する。
財務は強い。自己資本比率は 63% で、有利子負債はほぼゼロだ。景気の谷でも黒字を保てるのは、この財務の厚さによる。設備投資は年 10 億円台で、償却の範囲に収まっている。
優良さと弱いところ
技術の核は、複雑な有機合成を安全に量産する力だ。医薬・農薬の中間体は、品質の認証と顧客との長い共同開発で守られる。一度採用されると簡単には替わらない。機能材も同様に、顧客の工程に組み込まれた材料は切り替えが難しい。
ただ、堀(他社がまねできない強み)は広くない。最大の顧客が親会社の住友化学で、値段と数量は親会社の事情に左右される。受注生産の性格上、1 社の発注が減るだけで稼働率が大きく落ちる。2023 年 3 月期の営業利益は 4 億円まで落ちた。
経営の弱点は、親会社の下で資本の使い方が控えめなことだ。純現金が 21 億円まで積み上がっても、配当を前期の総額 5 億円ほどから 1 億円弱に減らす計画だ。株主に戻す姿勢は強くない。
救いは、財務の強さと利益が出る年の質の高さだ。2021 年 3 月期には営業利益率が 12.5% に達した。過去 10 年の ROE の中央値は 13% で、良い年の稼ぐ力は本物だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界は、医薬・農薬の原料、電子材料、樹脂添加剤という 3 つの別の市場に分かれる。医薬・農薬の中間体は、世界的に生産を中国やインドに移す動きが進み、日本の中堅は高度な品に絞って生き残る。国内の精密化学の市場は、名目で年 3〜4% の成長が見込まれる。物価が年 3% 上がるので、実質の数量はほぼ横ばいだ。
機能材は、電子・光学分野の需要に連動する。景気の波があり、2021 年に急に伸び、翌年に落ちた。長い目では、半導体や表示装置の高機能化が数量を押し上げる。筆者は中立で、機能材の数量が 10 年で 1.3 倍になると見る。
樹脂添加剤は成熟市場で、自動車やタイヤ向けのゴム薬品が主力だ。数量は横ばいで、値上げが利益を左右する。中国の増産で価格競争が続く。当社は国内の自動車・ゴム向けの固定客に支えられるが、数量の伸びは期待しにくい。
業界全体では、原料と電力の値上がりを顧客へ転嫁できるかが、利益率の分かれ目になる。特殊品ほど転嫁しやすく、汎用品ほど遅れる。当社は受注生産の特殊品が中心で、転嫁の力は中程度と見る。
資本政策と M&A
資本政策の核は親会社だ。住友化学は議決権の 50.61% を持ち、田中化学研究所や広栄化学など、他の上場子会社を株式交換で完全子会社に戻している。当社も同じ流れに入る可能性はあるが、現時点で発表はない。
余った現金の戻り方は 0.5 と置く。理由は、親子上場で少数株主に戻す動機が弱いこと、今期の配当を総額 5 億円ほどから 1 億円弱に減らすこと、純現金が過去数年で積み上がっていることだ。純現金は時価総額の 18% ある。
東証は PBR 1 倍割れの会社に改善を求めている。当社は 2026 年 5 月に「資本コストや株価を意識した経営」の対応を開示した。内容の細部は確認できていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
財務が盤石で、純現金が時価総額の 2 割近くある。この株は事業の価値に加え、資産の下支えがある。無借金に近い会社が、自己資本の 0.6 倍で買える。今期の営業利益 3 億円は谷で、受注生産の稼働率が戻れば、営業利益は 20 億円台に戻る。受注生産の会社は、谷の年に利益が大きく落ち、戻る年に大きく跳ねる。2025 年 3 月期と 2026 年 3 月期にすでに 19 億円、20 億円を出した。
機能材は伸びる。電子・光学の需要が戻れば、利益率の高いこの事業が全体を引き上げる。精密中間体の技術は、医薬・農薬の複雑な品で優位にある。
さらに、親会社が上場子会社を完全子会社にする流れが続く。田中化学研究所と広栄化学に続き、当社が対象になれば、プレミアム付きで株主は報われる。純現金と自己資本の厚さが、その価格の下支えになる。
総じて、悪い年にも赤字にならなかった会社だ。2023 年 3 月期の底でも黒字だった。下がる余地が小さく、上がる余地が大きい。
慎重な見方
今期の営業利益 3 億円、配当は 1 億円弱という会社の予想は、谷では済まない構造の変化を示すかもしれない。第 1 四半期は樹脂原料の販売減が主因で、顧客の発注が戻る保証はない。最大の顧客が親会社なので、数量も値段も親会社が決める。
純現金が厚くても、少数株主には戻らない。親会社は配当を減らす判断をしたばかりだ。利益が戻っても、ROE は 7% 前後にとどまり、資本コストの 8.5% に届かない。
精密中間体は、中国とインドの供給が増え、高度な品でも追い上げを受ける。受注生産の稼働率は 1 社の発注で崩れる。完全子会社化の期待は、買い手が親会社だけで価格を決められるので、大きなプレミアムにはなりにくい。
足元の悪化は第 1 四半期の営業利益が 8 割減と、すでに表れている。会社は理由を詳しく説明しておらず、一時の発注の波なのか顧客の見直しなのかは分からない。分からない以上、戻るという前提を置くのは危うい。
どちらに重みを置いたか
筆者は慎重な見方を少し強く見る。財務の強さは確かだが、稼ぐ力の戻りは遅く、現金は親会社の下で戻りにくい。そのため、中立の確率を 37% とし、楽観側は 3 割弱、悲観側は 3 割台半ばに置いた。親会社による買い取りの可能性は、やや楽観の確率に少しだけ織り込んである。会社が示す今期の見通しが、谷なのか構造の変化なのかは、次の 2 四半期で分かる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,780 円255 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 372 円53 億円)。 今の値に割り戻すと 1,077 円154 億円、今との差 +33.7%、 期待の年率 +10.3%(資本コスト 8.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,248 円609 億円 | 837 円120 億円 | +531.0% | +20.2% | 407 円58 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,944 円422 億円 | 628 円90 億円 | +343.2% | +16.1% | 714 円102 億円 |
| 中立 | 37% | 1,892 円271 億円 | 419 円60 億円 | +186.7% | +11.1% | 855 円123 億円 |
| やや悲観 | 23% | 471 円68 億円 | 105 円15 億円 | −28.6% | −3.3% | 132 円19 億円 |
| 悲観 | 12% | 356 円51 億円 | 0 円0 億円 | −55.8% | −7.8% | 43 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,780 円255 億円 | 372 円53 億円 | +166.9% | +10.3% | 2,151 円308 億円 |
今の株価時価総額 806 円115 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 機能材が伸び、利益率が 12% に戻る 利益 42 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 4,248 円609 億円
電子・光学の需要が戻り、機能材の数量が 10 年で 1.8 倍に伸びる。精密化学品も、医薬・農薬の高度な中間体で受注が増え、稼働率が上がる。
営業利益率は 12% 前後と、2021 年 3 月期の水準に並ぶ。医薬・農薬の中間体は、品質の認証で守られ、値段も保たれる。機能材の新しい用途も、顧客の共同開発で量産に入る。無借金のため利払いはなく、純利益は営業利益の 7 割になる。
株主への還元は、配当を中心に増える。親会社も、利益の戻りを見て、配当を引き上げる。設備投資は償却の範囲に収まり、現金も積み上がる。この筋書きでは、親会社の完全子会社化の可能性が高まる。
- 精密化学品:数量 1.2(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 顧客の発注 × 当社の採用)× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 231 億円・営業利益 21 億円。精密化学品:数量 1.15 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 9.0%
- 機能材:数量 1.0(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 電子材料の需要 × 当社のシェア)× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 193 億円・営業利益 29 億円。機能材:数量 1.80 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 15.0%
- 樹脂添加剤:数量 0.7(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 150 億円・営業利益 14 億円。樹脂添加剤:数量 1.10 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 9.0%
倍率:事業の純利益 42 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)11 億円。全体の PER 14.16 倍、時価総額 609 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:機能材の拡大と精密化学品の回復が重なる良い筋書き。2021 年 3 月期に営業利益率 12.5% を出した実績がある。ただし、顧客が親会社に偏るため低く置いた。
やや楽観 20% 機能材が育ち、利益率は 9% 台に戻る 利益 31 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 2,944 円422 億円
機能材は 10 年で 1.5 倍に伸び、全体の利益率を押し上げる。精密化学品は一時の落ち込みから戻り、数量は 5% ほど増える。
営業利益率は 9% 台まで回復する。会社の 2028 年 3 月期の予想より、はるかに高いが、2023 年 3 月期の谷から 2026 年 3 月期に 20 億円へ戻した実績がある。
配当は利益に応じて戻り、10 年で 90 億円が株主へ渡る。電子・光学の高機能材は顧客の工程に組み込まれるので、一度採用されると数量が積み上がる。親会社が完全子会社化に動く場合は、この筋書きに近い価値が付く。
- 精密化学品:数量 1.1(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 顧客の発注 × 当社の採用)× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 211 億円・営業利益 15 億円。精密化学品:数量 1.05 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 7.0%
- 機能材:数量 0.8(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 電子材料の需要 × 当社のシェア)× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 161 億円・営業利益 21 億円。機能材:数量 1.50 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 13.0%
- 樹脂添加剤:数量 0.7(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 144 億円・営業利益 12 億円。樹脂添加剤:数量 1.05 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 31 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)11 億円。全体の PER 13.29 倍、時価総額 422 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:機能材の伸びと精密化学品の落ち着きで利益が戻る筋書き。親会社による買い取りの可能性もここに少し織り込む。
中立 37% 利益は戻るが、ROE は資本コストに届かない 利益 21 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,892 円271 億円
今期の落ち込みは受注の谷で、数年のうちに戻る。精密化学品の数量は 5% 減、機能材は 1.3 倍、樹脂添加剤は横ばいになる。
値段は物価並みの 1.3 倍に上がるが、原料と電力も同じだけ上がる。営業利益率は 6.6% で、2026 年 3 月期の 6.2% とほぼ同じ水準だ。
配当は利益の 3 割強にとどまり、10 年で 60 億円ほどになる。大きな成長はないが、財務の強さで着実に積み上がる姿だ。親会社も、現状の持ち分を維持する。無借金の財務が保たれ、現金は少しずつ積み上がる。設備は更新の投資が要るが、償却の範囲に収まる。
- 精密化学品:数量 1.0(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 顧客の発注 × 当社の採用)× 価格 1.30(値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 185 億円・営業利益 8 億円。精密化学品:数量 0.95 倍 × 価格 1.30 倍、営業利益率 4.5%
- 機能材:数量 0.7(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 電子材料の需要 × 当社のシェア)× 価格 1.32(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 137 億円・営業利益 15 億円。機能材:数量 1.30 倍 × 価格 1.32 倍、営業利益率 11.0%
- 樹脂添加剤:数量 0.7(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段))× 価格 1.30(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 133 億円・営業利益 9 億円。樹脂添加剤:数量 1.00 倍 × 価格 1.30 倍、営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)11 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 271 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:精密化学品の谷が長引かず、機能材が少し伸びる中心の筋書き。会社が予想する 2028 年 3 月期の営業利益 10 億円は谷の延長と見て、10 年では普通の水準に戻ると置く。
やや悲観 23% 精密化学品が縮み、利益率は 3% 台 利益 9 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 471 円68 億円
精密化学品の数量が 2 割減る。親会社の調達見直しや、中国・インドの追い上げが重なる。値段も物価に追いつかず、利益率は 2% に落ちる。固定費の重い設備が遊び、減価償却の負担が利益を削る。機能材の成長も、顧客の需要が弱いため、伸びない。
機能材は横ばい、樹脂添加剤は数量が 1 割減る。営業利益は 12 億円ほどで、2026 年 3 月期の 6 割にとどまる。
配当は 1 億円弱の水準が続き、現金は積み上がるが、親会社の下で使い道は決まらない。純現金は時価総額の 2 割ほどで下支えになるが、株主に戻る額は少ない。設備の更新も後ろ倒しになり、競争力が少しずつ落ちる。
- 精密化学品:数量 0.8(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 顧客の発注 × 当社の採用)× 価格 1.25(値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 150 億円・営業利益 3 億円。精密化学品:数量 0.80 倍 × 価格 1.25 倍、営業利益率 2.0%
- 機能材:数量 0.5(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 電子材料の需要 × 当社のシェア)× 価格 1.25(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 100 億円・営業利益 7 億円。機能材:数量 1.00 倍 × 価格 1.25 倍、営業利益率 7.0%
- 樹脂添加剤:数量 0.6(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段))× 価格 1.20(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 110 億円・営業利益 5 億円。樹脂添加剤:数量 0.90 倍 × 価格 1.20 倍、営業利益率 4.5%
倍率:ROE 3.3% は k 8% を大きく下回る。構造的に負けた筋書きで、1÷k=11.8 倍の 6 割弱の 7.0 倍に置いた。余った現金は 0.75 倍の 11.3 億円を戻り方 0.5 で足した。
確率:受注生産の弱さが出て、最大の顧客の発注が戻らない筋書き。今期の予想営業利益 3 億円が、数年は続く形だ。
悲観 12% 最大の顧客を失い、工場が遊ぶ 利益 −1 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 356 円51 億円
精密化学品の受注が半減する。親会社が調達先を絞り、他の顧客も代替が進む。工場の稼働率は大きく下がり、固定費を回収できない。新しい顧客を探しても、認証の取り直しに数年かかる。その間も人件費と電力は物価並みに上がり続ける。
機能材と樹脂添加剤も数量が 3 割減り、値段も下がる。営業損益は赤字になり、設備の減損が出る。人員の整理と工場の統合も避けられず、一時の費用が出る。
財務が強いので倒産はしないが、株主の取り分は縮む。売れる資産から負債を引いた額が、価値の目安になる。親会社が支配する以上、清算されずに事業が細っていく形が最もありそうだ。純現金の多くは損失の穴埋めと減損に使われ、株主の手元には残らない。
- 精密化学品:数量 0.5(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 顧客の発注 × 当社の採用)× 価格 1.15(値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 86 億円・営業利益 −2 億円。精密化学品:数量 0.50 倍 × 価格 1.15 倍、営業利益率 -2.0%
- 機能材:数量 0.4(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 電子材料の需要 × 当社のシェア)× 価格 1.15(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 64 億円・営業利益 2 億円。機能材:数量 0.70 倍 × 価格 1.15 倍、営業利益率 3.0%
- 樹脂添加剤:数量 0.5(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段))× 価格 1.10(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 79 億円・営業利益 1 億円。樹脂添加剤:数量 0.70 倍 × 価格 1.10 倍、営業利益率 1.0%
倍率:赤字で稼ぐ力がなく、価値は売れる資産と負債の差で決まる。今の自己資本 196 億円に PBR 0.26 を掛けた額(約 51 億円)を、売れる資産の税後に合わせて置いた。
確率:最大の顧客である親会社の調達の見直しと、中国の中間体の追い上げが重なる構造的な負け。無借金のため倒産ではなく、規模の縮小に向かう。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
精密化学品
医薬・農薬の中間体、樹脂原料。顧客の注文に合わせて作る。
| 数量当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 顧客の発注 × 当社の採用 | 価格値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 1.00 | 150 | 7 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 1.30 | 185 | 8 |
取り方:開示の内訳は取らず、売上 332 億円の 45% を推定した。出荷額を 150 円で割った億ドル相当を数量とした。営業利益率は 4〜5% と見て配分した推定。
機能材
電子・光学用途の材料。利益率が高い。
| 数量当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 電子材料の需要 × 当社のシェア | 価格値段の指数(2026 年=1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.5 | 1.00 | 80 | 8 |
| 10 年後 中立 | 0.7 | 1.32 | 137 | 15 |
取り方:売上の 24% を推定した。営業利益率は 10% 前後と見て配分した推定。
樹脂添加剤
ゴムやプラスチックの劣化を防ぐ薬品などの汎用に近い品。
| 数量当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段) | 価格値段の指数(2026 年=1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 1.00 | 102 | 8 |
| 10 年後 中立 | 0.7 | 1.30 | 133 | 9 |
取り方:売上の残り(31%)を推定した。営業利益率は 7% 前後と見て配分した推定。全体の営業利益 20.5 億円から調整 -2 億円(本社費)を除いて配分した。
リスクと懸念
受注生産の稼働率
精密化学品は受注生産で、1 社の発注の増減が工場の稼働率を大きく動かす。今期の営業利益予想が 3 億円まで落ちるのは、その振れの大きさを表している。
最大の顧客が親会社
住友化学向けの比率が高く、値段と数量は親会社の事情に左右される。親会社の調達方針が変われば、売上が大きく動く。
中国・インドの中間体の追い上げ
医薬・農薬の中間体は、中国とインドの供給が増えている。高度な品に絞って生き残る戦略だが、差が縮めば価格が下がる。
現金が少数株主に戻らない
純現金が積み上がっても、親会社の下では使い道が決まりにくい。今期は配当を総額 5 億円ほどから 1 億円弱に減らす計画だ。
原料と電力の値上がりの転嫁
原料と電力は物価並みに上がる。転嫁が遅れると、利益率が数ポイント動く。親会社向けは特に交渉が難しい。
完全子会社化の価格
親会社が完全子会社化に動いても、価格は親会社が主導する。少数株主に十分なプレミアムが付くとは限らない。
今後の分かれ目
- 第 2 四半期以降に精密化学品の売上が前年を上回り、営業利益が回復する
- 今期の落ち込みは谷だったことになる。中立以上の確率を引き上げる。
- 配当が今期の 1 億円弱から引き上げられる、または自社株買いが発表される
- 現金の戻り方を 0.75 以上に見直す。
- 住友化学が株式交換や TOB(公開買付け)を発表する
- 買い取り価格を確かめる。純現金と自己資本の厚さを考えると、プレミアムが十分かが分かれ目だ。
- 機能材の売上が 2 期続けて 2 割以上伸びる
- 楽観・やや楽観の確率を引き上げる。利益率が構造的に上がる証拠になる。
- 2027 年 3 月期の営業利益が 3 億円を下回る
- やや悲観と悲観の確率を引き上げる。受注の谷でなく構造の弱さを示す。
見ておくもの
- 四半期ごとの営業利益と精密化学品の売上
- 配当の水準と親会社の完全子会社化の動き
- 機能材の売上の伸び
- 純現金の水準と使い道
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から置いた。ROE が資本コスト(k=8%)に届かない筋書きでは、上限は 1÷k=11.8 倍で、利益の質が並以下なので上限の 6〜8.5 割に置いた。今の株価や過去の PER・PBR は見ていない。数量は用途別の推定、価格は物価並みの 1.3 倍を基本にした。親会社による買い取りの価格は織り込まず、やや楽観の確率に少しだけ反映した。悲観の床は自己資本の PBR でなく、売れる資産と負債の差から置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.9→14.16 倍・やや楽観 PER 10.4→13.29 倍・中立 PER 9.5→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。