結論
セントラル硝子は、フッ素の技術を軸にした中堅の化学・ガラス会社だ。半導体向けの特殊ガス、電池の電解液、麻酔薬や肥料、そして建築用・自動車用のガラスとガラス繊維を扱う。祖業のガラスに、フッ素化学という第二の柱を足して育ててきた。
稼ぎ頭は半導体ガスと医療・素材の化学品だ。電解液は中国勢の安値に押されて赤字が続く。ガラスは国内の需要が細るなかで、海外を畳んで黒字に戻した。筆者の結論は、今の値段には安全域が薄いというものだ。資本の稼ぎが長く資本コストに届かず、10 年後の中立でも稼ぐ力は大きく伸びないとみる。
光る材料はある。AI 向けの半導体需要で電子材料は伸び、直近は特殊ガスの値上げが利益を押し上げた。会社は 2030 年度に営業利益 200 億円を掲げる。ただ、前の中期計画は目標を大きく外した。電池の不振と投資計画の見直しが重なったためだ。
借金は軽く、配当も厚い。財務の傷みで安くなっている会社ではない。それでも利益の質を見ると、半導体ガスが伸びる分を電池とガラスが食う構図が 10 年続きやすい。確率で重みづけた本質価値は今の時価総額を 2 割ほど下回り、評価は「やや割高」だ。電池が黒字に転じ、半導体ガスのシェアを守れば、この差は縮まる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点でまず問うのは、10 年後もこの会社を持ちたいかだ。答えは事業ごとに分かれる。半導体ガスと麻酔薬は持ちたい。顧客に認められた品質と、規制で守られた市場が稼ぎを守るからだ。電解液とガラスは、持ちたい理由が見つからない。値段を自分で決められず、設備に資本を食われ続ける。
株主が自由に使える利益、つまりオーナー利益はいくらか。営業利益 100 億円に対して、設備の維持と成長への投資が重い。そのうえ純利益の約 5 割を配当に出すので、自己資本の積み上がりは薄い。資本の稼ぎが資本コストを下回る期間が長い会社に、PBR 1 倍は高い値段だ。
経営は、損の出る事業を畳む決断ができる。これは評価できる。一方、電池への投資で外した実績は、先を読む力に限界があることを示す。安全域の面では、財務は軽く、配当の下支えもあるので、悲観の深さは限られる。その代わり、上がり方も限られる。筆者は、確実に読める事業の割合が低いことを重く見て、確率を慎重な側に寄せた。
何で稼ぐ会社か
収益は 4 つの柱に分かれる。売上でいちばん大きいのはガラスで、全体の 4 割を占める。建築用と自動車用のガラス、そして断熱材や強化プラスチックの補強に使うガラス繊維だ。国内では AGC と日本板硝子が競合になる。需要は人口とともに緩やかに細る。会社は 2022 年に海外のガラス事業を整理し、国内に絞って黒字体質に戻した。
利益の面で目立つのは電子材料だ。半導体の製造工程で使うエッチングガスやクリーニングガス、成膜ガスを、フッ素化学の技術で作る。納めるのは台湾・韓国・日本のメーカーだ。回路パターンの倒れを防ぐ薬剤や、フッ素を使わない新しいレジスト関連の材料も育てている。売上は小さいが、営業利益率は 15% 前後と全体より高い。
ライフ&ヘルスケアは、吸入麻酔薬の医療化学品、冷媒や発泡剤に使う HFO などの素材化学品、被覆肥料からなる。麻酔薬は世界の病院で使われる定番品で、安定して稼ぐ。ただ後発品との競争が強まっている。エネルギー材料は、リチウムイオン電池に入れる電解液だ。中国の大手との合弁で、電解液の主原料を安く確保する形をとる。電気自動車の需要が伸び悩み、赤字が続いている。
セグメントは 2025 年度から、従来の化成品とガラスの 2 つから 5 つに細かく開示するよう変えた。利益の出どころが見えやすくなった。
優良さと弱いところ
優れているのは半導体向けのガスだ。顧客の工場で一度認定を受けると、品質の安定と供給の実績が堀になる。堀とは、他社がまねしにくい強みのことだ。ただ顧客は大手に限られ、価格の主導権は買い手が握りやすい。中国の化学メーカーが追い上げる中位グレードでは、堀は狭まっていく。
麻酔薬も堀はあるが、後発品が出て、むしろ守りの事業になった。HFO など素材化学品は、環境規制の追い風を受ける一方で、新興国のメーカーと競う。ガラスは設備の重い成熟事業で、堀は国内の供給網と顧客との付き合いにとどまる。電解液は、中国勢が汎用品の値段を決めている。ここで会社は規模で勝てない。
資本の稼ぎは長く低い。自己資本利益率(ROE)は過去 10 年の中央値で 4.7% と、資本コストを大きく下回ってきた。2023 年 3 月期は一度大きく跳ねたが、事業の整理に伴う一時の益で、実力ではない。今期の営業利益率は 6.9% で、化学の同業では中位だ。財務は軽い。自己資本比率は 62% で、純有利子負債は時価総額の 7% ほどにすぎない。
経営の姿勢は、損の出る事業を整理するところに表れる。海外ガラスの撤退、不採算の PAC 事業からの撤退がその例だ。筆者はこの規律を評価する。ただし、台湾の工場や電池の増設計画を見直した事実は、先の読みを外した跡でもある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体向けの材料は、AI 投資を追い風にした成長産業だ。世界の半導体材料は年 5% 前後の実質成長が見込まれる。ただ、成長は先端品に集まる。セントラル硝子のガスは、成熟した製造工程に使う品が多く、市場の伸びを同じ速さでは取れない。国内ではエッチングガスやクリーニングガスで関東電化工業などと競合する。NF3 からはすでに撤退した。
電池の電解液は、競争の形がまるで違う。中国の電解液メーカーが規模で圧倒し、汎用品の値段は崩れた。高性能な電解液が要る電気自動車の需要が、米国と日本で盛り上がるのは 2028 年以降と会社も見ている。そこまで赤字に耐えられるか、需要が来たときに生き残っているかが勝負になる。中国合弁で原料を安く確保する手は打っているが、事業としての強さはまだ証明されていない。
医療・素材の化学品は、PFAS(有機フッ素化合物)の規制が転機になる。規制は既存のフッ素製品に逆風だが、フッ素を使わない代替品を先に出せれば追い風にもなる。肥料は、プラスチックの殻を使わない被覆肥料への切り替えが進む。
ガラスは、国内の建築・自動車向けが人口減で漸減する。原燃料と物流・人件費の上昇を価格に転嫁できるかが利益を左右する。高付加価値の長繊維と、運転支援に対応した自動車ガラスが、縮む市場の中の成長分だ。
資本政策と M&A
株主還元は手厚い。2025〜2027 年度は下限の配当額を決めており、今の純利益に対して約 5 割にあたる。過去には自社株買いも実施した。2022 年に旧村上ファンド系が大株主に現れたあと、会社は資本の効率に正面から向き合うようになった。
中期計画では、3 年間で 505 億円(うち成長投資 370 億円)の投資と、政策保有株の縮減、在庫の圧縮を打ち出した。財務の健全性を保ちながら、半導体・医療・電池の新製品に資本を回す。2030 年度に ROE 10% 以上を掲げるが、2027 年度の目標でも 8.7% にとどまる。
M&A は、大型の買収を想定していない。変わるのは事業の入れ替えのほうだ。損の出る事業を畳み、成長の見込める事業へ資本を寄せる。買収される側の可能性は、時価総額が小さく、物言う投資家が株主に現れた履歴があることから、ゼロとは言えない。ただ、会社が自ら売る意思を示した事実は確認できなかった。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体ガスは、AI 投資という長い追い風の真ん中にいる。直近の決算では、特殊ガスの原材料高を値段に転嫁でき、4〜6 月期の営業利益は前年の 2.5 倍に跳ねた。通期の予想も上方修正した。顧客に認められた品質は簡単に入れ替わらず、値上げが通る構造がすでに表れている。
電池の電解液は、底を打った。電気自動車の需要は地域で濃淡があるが、米国と日本で 2028 年以降に高性能品が必要になる。そこに向けて中国合弁で原料を確保し、赤字を縮めてきた。会社の計画どおり黒字化すれば、全体の営業利益は 50 億円分ほど押し上がる。
医療・素材は、PFAS 規制の下でフッ素を使わない製品を先に出せば、規制が参入障壁に変わる。ガラスは海外を畳んで黒字が続き、高付加価値のガラス繊維と運転支援向けガラスで利益を積める。
財務は軽く、配当の下限もある。成長投資の余力も十分だ。政策保有株の縮減で、資本効率は計画どおり改善する。2030 年度の営業利益 200 億円、ROE 10% は、いまの勢いの延長で届く数字だ。
慎重な見方
前の中期計画は、営業利益 140 億円の目標に対して実績は 106 億円、ROE は 12% の目標に対して 4.9% だった。電池の需要が読み外れ、台湾の工場など投資計画を見直した。同じことがまた起きないと言える材料はない。今の計画も、2027 年度の営業利益 130 億円は、足元の予想を大きく上回る。
電解液は、中国勢が規模と値段で優位にある。電気自動車の回復が 2028 年以降という前提も、確かな根拠のない期待だ。回復しても、高性能品の値段は汎用化の波に洗われる。赤字が長引けば、設備の減損が来る。
半導体ガスの値上げは、原材料高の転嫁にすぎず、需要の強さではない。中国の化学メーカーは中位グレードに迫っており、顧客の大手は値下げ圧力をかけ続ける。ガラスは国内の市場が縮み、原燃料と人件費の上昇を価格で取り返しきれていない。
過去 10 年の ROE は中央値 4.7% で、資本コストに届いた年はほとんどない。そこから劇的に変わる根拠が、計画の数字以外には見当たらない。資本の稼ぎが低いままなら、PBR 1 倍近い値段は払いすぎだ。
どちらに重みを置いたか
半導体ガスと医療化学品の質では強気の見方に分がある。一方、電池とガラスという重い事業が 10 年続く可能性と、計画を外してきた実績では、慎重な見方の指摘が的を射る。中立は、半導体ガスが育ち、電池が小さな黒字に届くところに置いた。ROE は資本コストを下回るので、倍率は上限より低い。確率は慎重な側に厚めに寄せ、やや悲観と悲観に合わせて 38% を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,877 円1,457 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,389 円592 億円)。 今の値に割り戻すと 4,430 円1,098 億円、今との差 −0.8%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 12,270 円3,042 億円 | 3,549 円880 億円 | +254.3% | +13.5% | 1,266 円314 億円 |
| やや楽観 | 20% | 9,305 円2,307 億円 | 3,065 円760 億円 | +177.1% | +10.7% | 2,474 円613 億円 |
| 中立 | 34% | 6,334 円1,570 億円 | 2,501 円620 億円 | +97.9% | +7.1% | 3,004 円745 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,796 円693 億円 | 1,896 円470 億円 | +5.1% | +0.5% | 1,126 円279 億円 |
| 悲観 | 14% | 1,496 円371 億円 | 1,331 円330 億円 | −36.7% | −4.5% | 396 円98 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,877 円1,457 億円 | 2,389 円592 億円 | +85.1% | +6.4% | 8,265 円2,049 億円 |
今の株価時価総額 4,465 円1,107 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 半導体ガスが育ち、電池が黒字化し、計画を上回る 利益 197 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 12,270 円3,042 億円
半導体向けのガスは、AI 向けの先端工場の増設に乗り、台湾・韓国での取引を広げる。米国にも販売網を築き、市場の伸びを上回って売上を伸ばす。値上げも通り、営業利益率は 15% を保つ。
電解液は、2028 年以降に電気自動車の需要が戻り、高性能品の受注で稼働が上がる。中国合弁の原料の優位も効いて黒字が定着する。医療・素材は、フッ素を使わない製品を先に出し、規制を追い風にして利益率が 14% まで上がる。ガラスは長繊維と運転支援向けガラスに増産投資が当たり、利益率が 5% に届く。
財務は軽いまま、配当を厚くしながら成長投資を続ける。会社が掲げる 2030 年度の営業利益 200 億円を超え、その後も伸びる 10 年になる。
- 電子材料(半導体用エッチング・クリーニング・成膜ガス、レジスト関連材料):数量 3.0(当社が競う半導体プロセス材料の市場(実質、億ドル)× 当社シェアで置いた当社の実質販売額(億ドル))× 価格 1.36(価格の指数(今を 1.0、名目))→ 売上 619 億円・営業利益 93 億円。益率 15%、シェア拡大
- エネルギー材料(リチウムイオン電池用電解液ほか):数量 4.5(電解液の年間販売量の推定(万トン、実質))× 価格 76(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 342 億円・営業利益 34 億円。益率 10%、黒字が定着
- ライフ&ヘルスケア(吸入麻酔薬・HFO 発泡剤・溶剤・被覆肥料):数量 12.0(販売重量の推定(万トン、実質。麻酔薬・素材化学品・肥料の合計))× 価格 52(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 620 億円・営業利益 87 億円。益率 14%
- ガラス(建築用・自動車用ガラス、ガラス繊維):数量 22.8(販売重量の推定(万トン、実質。板ガラス・自動車ガラス・ガラス繊維の合計))× 価格 34(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 780 億円・営業利益 39 億円。益率 5%
倍率:事業の純利益 197 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍。全体の PER 15.42 倍、時価総額 3,038 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体ガスの成長、電池の黒字化、ガラスの高付加価値化が 10 年のあいだに全部そろう必要がある。前の計画を外した実績もあり、確率は低く置く。
やや楽観 20% 半導体ガスが主軸になり、電池が小さく黒字化する 利益 161 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 9,305 円2,307 億円
半導体ガスは市場の伸びに沿って堅調に伸び、利益率は 14% を保つ。特殊ガスの値上げが定着し、中国勢の追い上げも中位品に限られる。
電解液は電気自動車の回復で稼働が上がり、小さな黒字に転じる。医療・素材は HFO などの高付加価値品が麻酔薬の後発品の影響を打ち消し、利益率は 13% に達する。ガラスは価格転嫁が進み、長繊維の増産も効いて利益率は 4.5% に上がる。
会社の計画のうち、半導体ガスと医療の分は届き、電池とガラスは計画より遅れる。ROE は資本コストをようやく超えるが、稼ぎは大きく膨らまない。
- 電子材料(半導体用エッチング・クリーニング・成膜ガス、レジスト関連材料):数量 2.8(当社が競う半導体プロセス材料の市場(実質、億ドル)× 当社シェアで置いた当社の実質販売額(億ドル))× 価格 1.33(価格の指数(今を 1.0、名目))→ 売上 566 億円・営業利益 79 億円。益率 14%
- エネルギー材料(リチウムイオン電池用電解液ほか):数量 3.9(電解液の年間販売量の推定(万トン、実質))× 価格 72(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 281 億円・営業利益 21 億円。益率 7.5%、小さな黒字
- ライフ&ヘルスケア(吸入麻酔薬・HFO 発泡剤・溶剤・被覆肥料):数量 11.6(販売重量の推定(万トン、実質。麻酔薬・素材化学品・肥料の合計))× 価格 50(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 578 億円・営業利益 75 億円。益率 13%
- ガラス(建築用・自動車用ガラス、ガラス繊維):数量 22.5(販売重量の推定(万トン、実質。板ガラス・自動車ガラス・ガラス繊維の合計))× 価格 34(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 756 億円・営業利益 34 億円。益率 4.5%
倍率:事業の純利益 161 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.25 倍、時価総額 2,294 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電池が小さく黒字化し、半導体ガスが計画の線で伸びる。会社の計画の下限に近い筋書きで、実現する見込みは中程度にある。
中立 34% 半導体ガスは堅調、電池は小さな黒字、ガラスは低空飛行 利益 120 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 6,334 円1,570 億円
半導体ガスは、市場の成長を追って売上を伸ばすが、先端品の比率が低く、シェアはわずかに下がる。値段は物価並みに上がり、利益率は 12.5% に落ち着く。
電解液は、2028 年以降の需要回復で量が増え、小さな黒字に届く。ただ中国勢の汎用化で単価は名目でも上がらず(物価の 1.34 倍に遠く及ばない)、利益率は 5% にとどまる。医療・素材は、麻酔薬の後発品の影響を HFO などが埋め、利益率は 11.5%。ガラスは国内の需要減を高付加価値品で補うが、原燃料の転嫁も追いつかず、利益率は 3.6% 前後にとどまる。
会社の 2030 年度の目標には届かず、10 年後に営業利益 150 億円台に落ち着く。配当は下限を保ち、自己資本は緩やかに積み上がる。ROE は資本コストをわずかに下回る 7% 台で、大きな変化のない 10 年になる。
- 電子材料(半導体用エッチング・クリーニング・成膜ガス、レジスト関連材料):数量 2.5(当社が競う半導体プロセス材料の市場(実質、億ドル)× 当社シェアで置いた当社の実質販売額(億ドル))× 価格 1.30(価格の指数(今を 1.0、名目))→ 売上 486 億円・営業利益 61 億円。益率 12.5%
- エネルギー材料(リチウムイオン電池用電解液ほか):数量 3.2(電解液の年間販売量の推定(万トン、実質))× 価格 68(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 218 億円・営業利益 11 億円。益率 5%、単価は汎用化で名目も横ばい
- ライフ&ヘルスケア(吸入麻酔薬・HFO 発泡剤・溶剤・被覆肥料):数量 10.8(販売重量の推定(万トン、実質。麻酔薬・素材化学品・肥料の合計))× 価格 48(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 518 億円・営業利益 60 億円。益率 11.5%
- ガラス(建築用・自動車用ガラス、ガラス繊維):数量 22.0(販売重量の推定(万トン、実質。板ガラス・自動車ガラス・ガラス繊維の合計))× 価格 33(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 726 億円・営業利益 26 億円。益率 3.6%
倍率:事業の純利益 120 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 1,548 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体ガスの堅調、電池の底打ち、ガラスの低利益率の継続という、業種ノートの中心的な見方に合わせた中心の筋書き。
やや悲観 24% 電池の赤字が長引き、ガスとガラスの利益率も下がる 利益 74 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 2,796 円693 億円
電池の赤字が長引き、電解液は需要が戻っても中国勢の価格に引きずられて利益が出ない。減損を避けるため、新規の投資は止まる。
半導体ガスは、中国勢が中位品を取り始めて値上げが通りにくくなり、利益率は 10% に下がる。ガラスは国内市場の縮小に加え、転嫁の遅れで利益率が 2.5% まで下がる。医療・素材は、麻酔薬の後発品の競争が強まり利益率が 9.5% に下がる。
全体の営業利益は今の水準にとどまり、物価の分だけ実質では目減りする。下限の配当は守るが、成長投資の余力は乏しい。資本の稼ぎは資本コストを大きく下回る 10 年になる。
- 電子材料(半導体用エッチング・クリーニング・成膜ガス、レジスト関連材料):数量 2.1(当社が競う半導体プロセス材料の市場(実質、億ドル)× 当社シェアで置いた当社の実質販売額(億ドル))× 価格 1.24(価格の指数(今を 1.0、名目))→ 売上 387 億円・営業利益 39 億円。益率 10%
- エネルギー材料(リチウムイオン電池用電解液ほか):数量 2.4(電解液の年間販売量の推定(万トン、実質))× 価格 62(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 149 億円・営業利益 0 億円。収支ほぼ均衡
- ライフ&ヘルスケア(吸入麻酔薬・HFO 発泡剤・溶剤・被覆肥料):数量 10.0(販売重量の推定(万トン、実質。麻酔薬・素材化学品・肥料の合計))× 価格 45(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 445 億円・営業利益 42 億円。益率 9.5%
- ガラス(建築用・自動車用ガラス、ガラス繊維):数量 20.5(販売重量の推定(万トン、実質。板ガラス・自動車ガラス・ガラス繊維の合計))× 価格 31(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 636 億円・営業利益 16 億円。益率 2.5%
倍率:ROE 4.8%。RONIC = 8.25% + 1/2 ×(4.8 − 8.25)= 6.5%、g 4.0% から正当化 PER = 9.1 倍。やや悲観は構造的な負けの筋書きなので、これを上限に取らず 7.5 倍に置いた(中立の PBR より低い)。
確率:電池の赤字が長引き、ガラスの転嫁も遅れる筋書き。過去 10 年の低い資本効率の延長にあたり、実績に照らして起きやすい。
悲観 14% 電池事業の撤退と、中国勢による半導体ガスの侵食 利益 −40 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,496 円371 億円
電池事業は需要が戻らず、中国勢との価格差が埋まらない。会社は電解液から撤退し、設備の減損と撤退費用で大きな損が出る。
半導体ガスは、中国勢が中位品から先端品へ上がり、台湾・韓国の顧客が地元調達に切り替える。値段が下がり、シェアも失って利益率は 4% まで落ちる。ガラスは国内の需要減と原燃料高で赤字に沈む。医療・素材も麻酔薬が後発品に押され、利益率が 4% に下がる。
配当は下限を維持できず減額される。それでも財務は軽く、残る資産の価値と、土地・投資有価証券の売却で、会社が崩れることはない。優良という評価が外れ、売れる資産で値がつく 10 年になる。
- 電子材料(半導体用エッチング・クリーニング・成膜ガス、レジスト関連材料):数量 1.5(当社が競う半導体プロセス材料の市場(実質、億ドル)× 当社シェアで置いた当社の実質販売額(億ドル))× 価格 1.12(価格の指数(今を 1.0、名目))→ 売上 247 億円・営業利益 10 億円。益率 4%、シェア低下
- エネルギー材料(リチウムイオン電池用電解液ほか):数量 1.5(電解液の年間販売量の推定(万トン、実質))× 価格 55(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 82 億円・営業利益 −20 億円。益率 -25%、撤退
- ライフ&ヘルスケア(吸入麻酔薬・HFO 発泡剤・溶剤・被覆肥料):数量 8.6(販売重量の推定(万トン、実質。麻酔薬・素材化学品・肥料の合計))× 価格 40(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 344 億円・営業利益 14 億円。益率 4%
- ガラス(建築用・自動車用ガラス、ガラス繊維):数量 18.5(販売重量の推定(万トン、実質。板ガラス・自動車ガラス・ガラス繊維の合計))× 価格 29(1 トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 527 億円・営業利益 −5 億円。益率 -1%、赤字
倍率:電解液の撤退と減損で赤字になるので、稼ぐ力では値が付かない。売れる資産の税後(今の自己資本 1,236 億円の約 3 割)に置いた。PBR は今の自己資本に掛けた。
確率:電池事業が撤退に追い込まれ、中国勢が半導体ガスの中位品を侵食し、ガラスも赤字になる複合の筋書き。重なる確度は低いが、前の計画の失敗を考えて無視しない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子材料(半導体用エッチング・クリーニング・成膜ガス、レジスト関連材料)
半導体製造のエッチング・クリーニング・成膜に使うフッ素系の特殊ガスと、レジスト関連材料、SiC ウエハなどの新製品。
| 数量当社が競う半導体プロセス材料の市場(実質、億ドル)× 当社シェアで置いた当社の実質販売額(億ドル) | 価格価格の指数(今を 1.0、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.7 | 1.00 | 262 | 40 |
| 10 年後 中立 | 2.5 | 1.30 | 486 | 61 |
取り方:売上 262 億円を 150 円/ドルで割った 1.75 億ドルを、当社が競う分野の市場約 40 億ドル(推定)の約 4.4% とみた。開示が無いので市場とシェアは推定。10 年は市場が実質で年 4〜5% 伸び、シェアは中国勢の追い上げで少し下がる。価格は物価に近く、原料高の転嫁分を含む。
エネルギー材料(リチウムイオン電池用電解液ほか)
リチウムイオン電池向けの電解液(ナトリウムイオン電池用や次世代電極向けを含む)。
| 数量電解液の年間販売量の推定(万トン、実質) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.7 | 70 | 121 | −33 |
| 10 年後 中立 | 3.2 | 68 | 218 | 11 |
取り方:売上 121 億円を、1 トンあたり約 70 万円の平均単価(推定)で割って約 1.7 万トンとした。開示は無く推定。電気自動車の回復で量は増えるが、中国勢の汎用化で単価は物価ほど上がらず、実質では下がる。
ライフ&ヘルスケア(吸入麻酔薬・HFO 発泡剤・溶剤・被覆肥料)
吸入麻酔薬などの医療化学品、HFO・発泡剤・溶剤などの素材化学品、被覆肥料。
| 数量販売重量の推定(万トン、実質。麻酔薬・素材化学品・肥料の合計) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 11.0 | 37 | 410 | 62 |
| 10 年後 中立 | 10.8 | 48 | 518 | 60 |
取り方:売上 410 億円を、販売重量 11 万トン(推定)で割った平均単価で置いた。開示が無く推定。量は麻酔薬の後発品と肥料の入れ替えで横ばい、単価は HFO など高付加価値品の比率が上がり、物価をやや下回って上がる。
ガラス(建築用・自動車用ガラス、ガラス繊維)
建築用・自動車用のガラスと、断熱材や補強材に使うガラス繊維。
| 数量販売重量の推定(万トン、実質。板ガラス・自動車ガラス・ガラス繊維の合計) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 24.0 | 25 | 596 | 28 |
| 10 年後 中立 | 22.0 | 33 | 726 | 26 |
取り方:売上 596 億円を、販売重量 24 万トン(推定)で割った平均単価で置いた。開示が無く推定。国内の建築・自動車向けは人口減で量が減る。単価は物価に近いが、高付加価値の長繊維とガラスの構成比で一部上乗せされる。
リスクと懸念
電池の電解液が赤字から抜けられない
電解液は中国勢が規模で上回り、汎用品の値段は崩れている。会社は電気自動車の回復を 2028 年以降と見ているが、時期は読めない。赤字が長引けば設備の減損と、新規投資の凍結につながる。
半導体ガスの値上げが一時的な転嫁にとどまる
直近の増益は、原材料高を販売価格に乗せた効果が大きい。需要の強さによる値上げとは性質が違う。原料が落ち着けば、顧客の大手は値下げを求めてくる。
中国勢による中位品の追い上げ
半導体向けの材料では、先端品は日本勢が優位でも、中位グレードは中国メーカーが追い上げる。シェアを失えば、市場が伸びても売上が伸びない。
国内ガラスの縮小とコスト転嫁の遅れ
建築・自動車向けのガラスは、人口減で量が細る。原燃料・物流・人件費が上がる中で、価格に転嫁しきれないと、黒字の幅が消える。今期の予想もその影響を織り込んでいる。
計画を外してきた実績
前の中期計画は、営業利益・ROE ともに目標に大きく届かなかった。今の計画も、2027 年度の営業利益 130 億円は足元の予想を上回る。目標の達成度を割り引いて見る必要がある。
PFAS 規制で既存のフッ素製品が逆風を受ける
フッ素化学が強みの会社にとって、PFAS の規制は両刃になる。代替品の開発が間に合わなければ、既存の発泡剤や溶剤、含フッ素の機能品が使えなくなる。
今後の分かれ目
- 電解液の事業が、四半期で黒字に定着したら
- やや楽観・楽観の確率を上げる。電気自動車の回復と合わせて、赤字の根が断たれたかを見る。
- 半導体ガスの値上げが、原料価格が落ち着いたあとも維持されたら
- 値決め力が本物と判断し、中立の利益率の置き方を上げる。逆に値下げ要求が出たら、やや悲観に寄せる。
- 電解液の増設や新拠点の投資を決めたら
- 需要の回復に先走った投資になっていないかを確認する。回収の見込みが薄ければ、やや悲観の確率を上げる。
- 中国勢が半導体ガスの顧客認定を取ったと伝わったら
- 中位品のシェア低下の始まりとみて、悲観側の確率を上げる。
- ガラスの値上げが原燃料高に追いつかず、営業赤字の四半期が出たら
- ガラス事業の構造改革の再開を想定し、やや悲観の筋書きに重みを移す。
- 次の中期計画で、2030 年度の営業利益 200 億円の目標が下方修正されたら
- 計画の信頼性がさらに下がったと見て、中立の前提を下げる。
見ておくもの
- 電子材料の営業利益率と、特殊ガスの値段の動き
- エネルギー材料の四半期損益と、電気自動車向けの受注
- ガラスの原燃料の転嫁と、国内の販売数量
- 中期計画 2027 年度の目標(営業利益 130 億円・ROE 8.7%)との距離
- 政策保有株の縮減と、株主還元の方針(下限配当の改定)
倍率と資本コストの決め方
電子材料は市場規模 × シェア、他 3 事業は販売重量 × 単価で積み、数量は実質、価格は物価 3% 込みの名目で置いた。資本コストは基本 7.5% に quality(循環 +0.5・値決め力 +0.25・借金 0・寿命 0 で +0.75%)を足した 8.25%。倍率は利益ベースの正当化 PER を上限に、楽観 9 割、やや楽観 8.5 割、中立 9 割で置き、やや悲観は上限を取らず、悲観は売れる資産で置いた。今の株価・過去の PBR は参照していない。最後に今の時価総額と比べた差は -19.4%(やや割高)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.4→15.42 倍・やや楽観 PER 10.9→14.25 倍・中立 PER 10.5→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。