結論
エスケー化研は、ビルや住宅の外壁に吹き付ける建築用の塗料と仕上塗材をつくる、国内最大手級の会社だ。売上は約1,100億円、営業利益は約120億円。借金はほとんどなく、自己資本比率は85%に達する。筆者の結論は、財布は厚いが稼ぎが伸びない会社で、10年の本質価値は今の時価総額を下回りやや割高、というものだ。
理由は資本の重さにある。この10年で自己資本はほぼ2倍になったが、営業利益は100億円台前半の枠から出ていない。2027年3月期は純利益が2割ほど減る予想で、一時の利益がかさ上げした前期の裏返しという面もある。国内の建築需要は人口とともに細り、物価の上昇を値上げで転嫁できるかが勝負になる。
強みは確かにある。外壁の塗り替えは数十年続く需要で、益率は10年を通じて10%台前半にとどまり安定している。筆頭株主の四国興産(約32%)を軸に経営も落ち着いている。ただ、現金と資産を事業で使い切れず、株主への還元も控えめだ。ROEは5〜7%で資本コストに届かない。この状態が続く限り、利益がたまるほど価値は薄まる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社の本質価値を決めるのは、稼いだ利益を何に使うかだ。エスケー化研は10年間、利益の大半を事業の中にためてきた。ためたお金が利益を生むなら良いが、営業利益は横ばいだった。ためた分の値打ちは、帳簿の額面より低いと見るのが筋だ。
事業そのものは良質だ。外壁の塗り替えは数十年続く需要で、無借金で益率も安定している。持ち続けて怖い会社ではない。ただ、人口が減る国内に利益が偏っている。物価の上昇を値上げで転嫁できれば名目の利益は保てるが、それ以上は伸びにくい。
安全域の考え方は二つある。一つは現金だ。純現金(定期預金を含む)は時価総額の7割強にあたり、悲観の場面でも床になる。もう一つは稼ぐ力で、利益を資本コストで割った値が基準になる。いずれも今の値段より低い。
経営が資本の使い方を変えれば、評価は上がる。配当や自社株買いの強化は、その第一歩になる。それまでは、安全域は十分とは言えないと考える。
何で稼ぐ会社か
事業の中心は、国内の建築用塗料と仕上塗材だ。外壁に吹き付けるリシン、スタッコ、タイル調の仕上塗材や、水性の外壁塗料、防水材、床材などを、全国の営業拠点と工場から工務店・ゼネコン・塗装店に売る。売上の大半は国内で、筆者は塗り替えと改修の比重が高いとみている。
仕上塗材は、乾いた後に外壁の表情を決める素材だ。ビルや住宅の外観のデザインに関わるため、設計者や施工店に名前が通っていることが営業力になる。製品の数が多く、毎年新製品を出して色や柄の選択肢を厚くしている。水性化に早くから取り組んだことも、環境規制への備えになっている。
海外は香港、中国、東南アジアに子会社13社がある。売上に占める割合は小さく、筆者の推定では1割弱だ。現地の工場と販売網を足場に建築需要を取り込む段階で、まだ利益の柱ではない。
従業員は約2,400人。工場は国内に7か所あり、設備投資は毎年続く。固定費は軽くない。利益は国内の数量と値上げの力で決まり、海外は先の伸びしろだ。
販売は特約店を通じた現場への営業が中心で、色見本や施工のサポートまで抱える。製品の数が多いほど在庫と設備が重くなる一方、施工店との結び付きが強みにもなる。
優良さと弱いところ
強みは、仕上塗材で国内最大手級という位置と、無借金の財務だ。外壁の仕上げは設計の段階で製品名が指定されることが多く、一度採用されると繰り返し使われやすい。営業益率は10年を通じて10.4〜13.7%の狭い枠に収まっており、値上げと原料高の波を比較的うまく乗り切ってきたことが分かる。
弱みは資本の使い方だ。純利益は90〜120億円なのに、自己資本は1,750億円まで積み上がった。営業利益は10年前の116億円から122億円へとほぼ動いていない。資産は2倍になったのに利益が増えていない。
売上に占める国内の比重が高く、人口減と新築着工の細りが構造的な逆風になる。海外は現地の競合や大手との競争が激しく、稼ぐ力はまだ弱い。価格を決める力は、日本ペイントや関西ペイントなどの大手と比べて突出してはいない。
経営は安定しているが、資本効率への意識は高くない。配当を前の期に2倍近くに引き上げたことは前向きな変化だが、今期は減配の予想で、継続できるかは見極めが要る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建築用塗料は、成熟した市場だ。新築の着工は人口減で細る。一方で、築30年を超える建物が増え、外壁の塗り替えと補修の需要は底堅い。塗り替えは景気に左右されにくく、塗料の使用量は数十年単位でゆるやかに減る程度とみる。
構造の変化は二つある。一つは職人の不足だ。工事の担い手が減ると、施工量が頭打ちになり、塗り替えの工事が先送りされやすい。もう一つは原料と物流費の上昇だ。樹脂・顔料・溶剤は石油化学の市況に連動し、人件費も物価で上がる。値上げをどれだけ通せるかで益率が決まる。
競合は、日本ペイント、関西ペイント、大日本塗料、菊水化学工業などだ。大手は海外と自動車用に広がっており、国内の建築仕上塗材では専業のエスケー化研が強いと筆者は見ている。ただし、水性化・低VOC化への対応では各社が横並びになりつつあり、技術だけでは差がつきにくい。
世界の塗料市場は2030年に向けて年率6%台半ばで伸びる見通しだが、成長の中心は新興国の都市化と自動車だ。エスケー化研の国内中心の事業はその恩恵が小さい。海外の建築用で現地の需要をどこまで取り込めるかが、10年後の利益の上積みを決める。
資本政策と M&A
株主への還元は、配当が中心だ。会社は2023年11月に、配当性向ではなく総還元性向を物差しにし、目安を35%から45%に引き上げた。2026年3月期は配当を前の期のほぼ2倍にしたが、2027年3月期は元の水準へ戻す予想だ。自社株買いは2016年3月期を最後に大きなものはない。
M&Aで規模を拡大する会社ではない。成長は自前の工場と海外子会社への投資で進めてきた。財布には現金及び預金が1,052億円あり(うち現金同等物は457億円)、借金は30億円だけだ。株主への還元が小さいのは、事業投資を優先する方針による。
筆頭株主の四国興産が約32%を保有し、安定株主が厚い。政策保有株は、業績の上振れの時に売却を検討すると会社が説明している。保有する上場銘柄は2件で、大きな金額ではない。
TOB(株式公開買い付け)の可能性は、筆頭株主の持分が大きく、筆者は高くないとみる。同業が買収するにしても、対価の大きさと筆頭株主の判断が壁になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内の塗り替え需要は、築30年超の建物が増えて底堅い。外壁の仕上げは設計で製品名が指定されることが多く、最大手級の名前が通っていることが営業力になる。実際、営業益率は10年を通じて10〜14%の枠を守ってきた。
借金がほとんどなく、現金及び預金は1,052億円(うち現金同等物は457億円)ある。配当は2026年3月期に大きく引き上げられ、総還元性向の目安も45%に上げた。会社が資本の使い方を改め始めた兆しだ。余った現金が株主に戻れば、ROEは上がり、評価も上がる。
海外には13社の子会社があり、工場と販売網を整えた。東南アジアや中国の建築需要が伸びれば、10年後に利益の柱へ育つ余地がある。会社は無理なM&Aをしないので、買収の失敗で資本を損なう心配も小さい。
物価が上がる世界では、値上げを通せる会社が名目の利益を守る。国内最大手級の位置は、その力を支える。足元の減益予想は、原料高と人件費の上昇を先に織り込んだ結果で、底に近い。10年の営業益率は10%台前半へ戻るとみる。
慎重な見方
この10年で自己資本は864億円から1,748億円へ倍増したのに、営業利益は116億円から122億円へほぼ動いていない。資産が2倍になっても利益が増えない会社は、ためたお金の値打ちが額面より低い。ROEは5〜7%で、資本コスト7.25%に届かない。
国内の数量は構造的に減る。新築は人口減で細り、職人不足が塗り替えの工事も先送りさせる。物価の上昇を値上げで転嫁できなければ、益率は下がる。2027年3月期は純利益が2割減る予想で、益率は9.7%と1割を割り込む。
配当の大幅な引き上げは前期だけで、今期は元の水準に戻す。筆頭株主が約32%を持つ会社で、少数株主に厚く還元する動機は弱い。自社株買いは10年近く行っていない。現金が厚いことは、使い道を見つけられていないことの裏返しでもある。
海外は子会社13社を持つが、売上の1割弱にとどまり、利益への貢献は小さい。10年たっても国内に頼る構造は変わらない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方には根拠がある。国内最大手級の位置と無借金の安全性、足元の還元の変化だ。ただ、10年で資産が倍になっても営業利益が動かなかった事実は重い。慎重な見方の指摘のほうが強い。
確率は中立を軸に置き、悲観側(やや悲観と悲観)に38%、楽観側に28%を置いた。ROEが資本コストに届かないため、強気の筋書きでも倍率は上限の13倍台にとどまる。結果は現在の時価総額を下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 14,541 円1,962 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,680 円362 億円)。 今の値に割り戻すと 9,111 円1,229 億円、今との差 −8.7%、 期待の年率 +5.6%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 23,286 円3,141 億円 | 3,855 円520 億円 | +172.0% | +10.5% | 2,171 円293 億円 |
| やや楽観 | 20% | 18,897 円2,549 億円 | 3,262 円440 億円 | +122.0% | +8.3% | 4,432 円598 億円 |
| 中立 | 34% | 15,921 円2,148 億円 | 2,965 円400 億円 | +89.2% | +6.6% | 6,421 円866 億円 |
| やや悲観 | 26% | 10,299 円1,389 億円 | 2,224 円300 億円 | +25.5% | +2.3% | 3,256 円439 億円 |
| 悲観 | 12% | 6,738 円909 億円 | 1,112 円150 億円 | −21.3% | −2.4% | 942 円127 億円 |
| 加重平均 | 100% | 14,541 円1,962 億円 | 2,680 円362 億円 | +72.6% | +5.6% | 17,222 円2,323 億円 |
今の株価時価総額 9,980 円1,346 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 改修需要と値上げが噛み合い、国内も海外も利益が伸びる 利益 169 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 23,286 円3,141 億円
築 30 年を超える建物が増え、外壁の塗り替えと補修が国内の需要を支える。職人不足で工期が延びる中、現場で施工しやすい水性の仕上塗材と外壁塗料に注文が集まり、数量は今並みを保つ。原料高は値上げで全額を転嫁し、さらに高機能品の比率が上がって益率は 14% まで戻る。
海外は東南アジアと中国の現地工場を足場に、現地の建築需要を取り込んで数量がほぼ倍になる。益率は 1 割に乗る。会社は余った現金を設備と海外に使い、配当も増やす。
営業利益は今の 1.8 倍の水準になる。それでも ROE は資本コストに届かず、倍率は上限のそばにとどまる。
- 国内の建築用塗料・仕上塗材:数量 400(出荷量(千トン))× 価格 347(1キロあたり単価(円))→ 売上 1,386 億円・営業利益 194 億円
- 海外(香港・中国・東南アジア):数量 80.0(出荷量(千トン))× 価格 318(1キロあたり単価(円))→ 売上 254 億円・営業利益 25 億円
倍率:事業の純利益 157 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)664 億円。全体の PER 15.82 倍、時価総額 3,141 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の数量が横ばいで踏みとどまり、値上げが原価を上回って定着し、さらに海外が倍近くに育つ、という三つが重なる必要がある。実現すれば強いが、国内の数量が減らないこと自体が難しい。
やや楽観 20% 値上げで原価を転嫁し、国内は微減、海外が伸びる 利益 141 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 18,897 円2,549 億円
国内の数量は 3% ほど減るが、値上げは物価をわずかに上回る。益率は 12.5% まで戻り、足元の落ち込みを取り返す。
海外は数量が 4 割ほど増え、赤字を出さない水準に乗る。会社は配当を厚めに保ち、自社株買いも小さく行う。営業利益は今の 1.5 倍近くだ。
筆者は、この筋書きが会社の力で届く上のほうの現実的な姿だと見ている。値上げの浸透と海外の黒字化が同時に進む前提で、新築の細りを塗り替えの需要が補う。ただし、資産の増え方は利益の伸びより速い。
それでも資産の厚みが重く、ROE は 5〜6%台にとどまる。財布の厚さを稼ぎに変えられない構図は変わらない。
- 国内の建築用塗料・仕上塗材:数量 388(出荷量(千トン))× 価格 337(1キロあたり単価(円))→ 売上 1,306 億円・営業利益 163 億円
- 海外(香港・中国・東南アジア):数量 65.0(出荷量(千トン))× 価格 318(1キロあたり単価(円))→ 売上 206 億円・営業利益 17 億円
倍率:事業の純利益 129 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)664 億円。全体の PER 14.66 倍、時価総額 2,549 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社が掲げてきた還元強化と、過去 10 年で営業益率が 10〜14% の狭い枠に収まってきた安定性から見て、上の筋書きの中では最も起こりやすい。
中立 34% 中立:数量は緩やかに減り、値上げで名目の利益を保つ 利益 120 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 15,921 円2,148 億円
国内の数量は 10 年で 5% ほど減る。新築は細るが、改修と塗り替えが下支えする。価格は物価並みの 1.34 倍に上がり、売上は国内を中心に 1.3 倍になる。
益率は 11% 前後にとどまる。人件費と物流費は物価で上がり、値上げで吸収し切れない分が削れるためだ。海外は数量が 1.3 倍に増え、益率は 7% 程度になる。
営業利益は今の 1.2 倍強にとどまる。会社は毎年それなりに配当を出すが、利益の多くを設備と資産に回し続ける。ROE は 5% 前後で推移する。
数量が減っても、名目の売上は物価で押し上げられる。ここが中立の骨格で、利益の水準は今の足元の予想から緩やかに戻るだけだ。大きな成長も、大きな崩れもない10年になる。
- 国内の建築用塗料・仕上塗材:数量 380(出荷量(千トン))× 価格 332(1キロあたり単価(円))→ 売上 1,260 億円・営業利益 139 億円
- 海外(香港・中国・東南アジア):数量 60.0(出荷量(千トン))× 価格 318(1キロあたり単価(円))→ 売上 191 億円・営業利益 13 億円
倍率:事業の純利益 108 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 7.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)664 億円。全体の PER 13.79 倍、時価総額 2,148 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の人口減と新築の細りに、値上げの転嫁と改修需要がほぼ釣り合う筋書きを中心に置いた。足元の会社予想の減益とも整合する。
やや悲観 26% 国内の数量が大きく縮み、益率が 1 割を割る 利益 86 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 10,299 円1,389 億円
国内の数量は 10 年で 15% 減る。新築の着工が細り、職人が足りないために塗り替えの工事も先送りされる。値上げは物価に届かず、競合との価格競争で 1.28 倍にとどまる。益率は 9% まで下がる。
海外は数量が伸びず、益率も 4% と薄い。営業利益は今より 2 割ほど少ない。工場と販売拠点の固定費が重い。
純利益は 90 億円を割り、ROE は 4% 弱まで下がる。無借金の安全性は保たれるが、稼ぐ力は資本コストに遠く届かない。
会社は設備投資を続けざるを得ず、利益が減っても資産は減らない。ためた現金は残るが、それを使い切る場面は来ない。
- 国内の建築用塗料・仕上塗材:数量 340(出荷量(千トン))× 価格 317(1キロあたり単価(円))→ 売上 1,077 億円・営業利益 97 億円
- 海外(香港・中国・東南アジア):数量 50.0(出荷量(千トン))× 価格 296(1キロあたり単価(円))→ 売上 148 億円・営業利益 6 億円
倍率:ROE 4.6%は k 7.25%に遠く届かず、価値は稼ぐ力(純利益÷k)の範囲。無借金の質を考えて稼ぐ力 13.3 倍の 7.5 割の 10.0 倍に置いた。余った現金は 0.75 倍で見た。
確率:国内の建築需要の縮みに、職人不足による施工量の減少が重なる筋書き。足元で益率が 1 割を割り込む予想が出ていることから、可能性は高いとみる。
悲観 12% 国内の需要の縮みと価格競争で、優良さを失う 利益 30 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 6,738 円909 億円
国内の数量は 10 年で 3 割減る。新築の細りと職人不足が重なり、塗り替えの工事も大きく先送りされる。日本ペイントや関西ペイントなどの大手が値引きで攻め、価格は物価の半分ほどの伸びにとどまる。益率は 5% まで下がる。
海外は数量が伸びず、固定費を賄えない赤字が続く。会社は工場の整理と減損に追い込まれ、利益は今の 4 分の 1 になる。
配当は小さく、自社株買いもない。現金と投資有価証券は残るが、事業の稼ぐ力は低い。それでも、現金と売れる資産が床になる。
工場や在庫、売掛金は事業が縮めば価値が落ちるので、床には数えない。残るのは現金と有価証券だけだ。
- 国内の建築用塗料・仕上塗材:数量 280(出荷量(千トン))× 価格 285(1キロあたり単価(円))→ 売上 797 億円・営業利益 40 億円
- 海外(香港・中国・東南アジア):数量 35.0(出荷量(千トン))× 価格 261(1キロあたり単価(円))→ 売上 91 億円・営業利益 −2 億円
倍率:利益が小さくなる年なので PBR。床は今の自己資本 1,748 億円に 0.52 倍を掛けた約 909 億円で、現金と投資有価証券の床(915 億円。抜けていた定期預金などは半分だけ数えた)とほぼ同じ。工場・在庫・売掛金の価値は見ない。EV÷営業利益は意味を持たない。
確率:構造的な負けは、国内の数量が 3 割減り、競合の値引きで価格が物価に届かず、海外が赤字のまま残る、という複数の事態が重なる。可能性は低いが、10 年の利益が横ばいだった実績からゼロにはできない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内の建築用塗料・仕上塗材
吹付けの仕上塗材・外壁塗料・防水材などを国内の工務店・ゼネコン・塗装店に売る中核事業。
| 数量出荷量(千トン) | 価格1キロあたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 248 | 990 | 116 |
| 10 年後 中立 | 380 | 332 | 1,260 | 139 |
取り方:連結売上 1,097 億円のうち海外を約 1 割(推定)として国内を 990 億円とした。会社は出荷量を開示していないので、建築用仕上塗材・塗料の平均単価を キロ単価 250 前後(円換算)と置き、出荷量を 40 万トンと逆算した。益率 11.7% は連結の営業利益 122 億円から海外分の約 6 億円を引いて割り当てた。
海外(香港・中国・東南アジア)
香港・中国・インドネシア・マレーシア・タイ・シンガポールなどの子会社 13 社が現地で売る建築用塗料。
| 数量出荷量(千トン) | 価格1キロあたり単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 45.0 | 237 | 107 | 6 |
| 10 年後 中立 | 60.0 | 318 | 191 | 13 |
取り方:海外の売上は開示が見つからなかったため、連結売上の約 1 割弱(推定)として 107 億円とした。単価は国内よりやや低い キロ単価 237 前後(円換算)と置き、出荷量を 4.5 万トンと逆算した。益率 5.6% は新興国の建築用塗料の中位の収益性として推定した。
リスクと懸念
国内の数量が構造的に縮む
国内の売上の比重が高く、新築の着工は人口減で細る。塗り替えが下支えするとはいえ、職人不足で施工量が頭打ちになれば、数量は10年で1〜3割減りうる。値上げで名目の売上を保てても、固定費が重く益率が削れる。
原料高と人件費を価格に転嫁し切れない
樹脂・顔料・溶剤は石油化学の市況に連動する。2027年3月期の営業益率は9.7%まで下がる予想で、値上げが追いついていないことを示す。競合の大手が値引きに動けば、転嫁はさらに難しくなる。
資本が利益を生まない
10年で自己資本は2倍になったが、営業利益は横ばいだ。ためたお金の使い道が見つからなければ、ROEは5%前後にとどまる。会社が還元を強めない限り、この状態は続く。
海外の投資が実らない
子会社13社を持つが、売上の1割弱で利益の貢献は小さい。現地の競合や大手との競争が激しく、固定費を賄えない年が続けば、減損や撤退に追い込まれる。
筆頭株主と少数株主の距離
四国興産が約32%を保有し、安定株主が厚い。経営が資本効率を高めたり、配当を厚くしたりする外からの圧力は弱い。TOBによる評価の見直しも起きにくい。
還元の継続性
2026年3月期の配当は大きく引き上げられたが、2027年3月期は元の水準に戻す予想だ。引き上げが一度きりなら、資本の使い方が変わったとは言えない。
今後の分かれ目
- 配当や自社株買いが総還元性向45%の目安を超えて安定的に行われたら
- 余った現金の戻り方を高く見直し、中立〜やや楽観側に確率を移す。
- 2027年3月期の営業益率が9%台から10%台へ戻ったら
- 値上げの転嫁力を評価し、やや楽観の確率を上げる。
- 国内の出荷量が前年比で2期続けて3%以上減ったら
- 数量の縮みが構造的と判断し、やや悲観と悲観の確率を上げる。
- 海外の子会社が黒字に転じ、売上の2割に近づいたら
- 海外を利益の柱とみて、楽観側の筋書きの確率を上げる。
- 海外子会社の減損や工場の閉鎖が出たら
- 資本の使い方への評価を下げ、悲観側の確率を上げる。
- 筆頭株主が持分を動かす、または他社が買収を持ちかけたら
- TOBの価格が本質価値を上回るかを確かめ、戻り方の見立てを見直す。
見ておくもの
- 2027年3月期の営業益率(9.7%の予想)と四半期の推移
- 国内の出荷量と値上げの浸透度
- 配当と自社株買いの総還元性向(目安は45%)
- 海外子会社の黒字化と売上比率
- 現金及び預金の水準(1,052億円)と投資有価証券の売却
- 筆頭株主・四国興産の持分の動き
倍率と資本コストの決め方
セグメントは国内と海外の2つで、出荷量(実質)×単価(物価込みの名目、中立で10年1.34倍)で積んだ。国内の出荷量は中立で5%減、海外は1.3倍に置いた。倍率は利益ベースで、ROEがkを下回るので正当化PERは1÷k=13.3倍が上限になり、中立は質に応じて9割の12.0倍に置いた。今のPER約11倍・PBR0.77倍は最後に比べただけで寄せていない。定期預金を含む現金1,022億円(現金及び預金1,052億円−借金30億円)のうち、運転資金と設備の余力として約137億円を引いた885億円を余った現金とし、戻り方は0.5にした。なお、新リース会計基準(2028年3月期から)の影響は、国内の店舗賃借が小さいので無視でき、10年後の数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.67→15.82 倍・やや楽観 PER 12→14.66 倍・中立 PER 12→13.79 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality 0 を足して 7.5%。国内の人口減や筆頭株主の持分の厚さは k に足さず、悲観側の確率と筋書きの低い倍率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 7.25%。