結論
岩谷産業は、家庭用LPガスで国内首位に立つエネルギー会社だ。稼ぎはLPガス、産業ガス、素材の三本柱で、水素の先行投資も抱える。筆者の結論は、今の値段は、先に向けてはやや割高だ。計算上の本質価値は、今の時価総額を2割台半ば下回る。
最大の理由は、増やした資本が十分に稼いでいないことだ。2026年3月期の純利益は477億円だが、固定資産の売却益を除いた実力は350億円前後にとどまる。自己資本に対する稼ぎは8%弱で、資本コスト7.5%と変わらない。
LPガスは人口減とオール電化で、数量が毎年1〜2%ずつ細る市場だ。売上は値上げで保てるが、利益は配送網の維持費と制度の見直しに挟まれる。産業ガスは半導体向けのヘリウムなどで伸びる。ただ足元は市況の軟化で利益が落ちた。素材は豪州の鉱山を買い足したが、稼ぎは伸びていない。
中期計画は5年で4,700億円を投じ、営業利益650億円を狙う。ところが投資の見返りの目標は6%で、資本コストに届かない。筆者はここを最も重く見る。稼ぎが育たないまま内部留保だけが積み上がれば、株主の取り分は増えにくい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見るべき点は三つある。持ち続けたい事業か、経営は資本を上手に使うか、払う値段に安全域があるか、だ。
事業としては悪くない。LPガスの契約の粘りと、ヘリウムの調達力は本物の強みだ。ただしLPガスは数量が縮み、強みは「守る強み」にとどまる。10年後も存在はするが、今より強くなっているとは言いにくい。
経営の資本の使い方は、評価が割れる。買収で集める戦略は理にかなう。一方、水素への巨額投資は、見返りの目標が資本コストを下回る。稼いだ利益の約7割を社内に残し、自社株買いもしない。残した資本が8%を超えて稼がなければ、株主の価値は目減りする。
安全域は薄い。今の値段はPBR1倍、PER9倍で安く見える。しかしPERの分母である純利益は売却益で膨らんでいる。実力の350億円前後で割れば、PERは13倍に近づく。筆者は、水素の採算が見えるまで、強く買いたい値段ではないと見る。
オーナー利益、つまり設備投資を差し引いた後に株主が自由にできる稼ぎは、営業利益よりかなり小さい。配送網とステーションの維持に、毎年の投資が要るためだ。
何で稼ぐ会社か
岩谷産業は大阪に本拠を置くエネルギー・ガスの会社で、事業は大きく三つに分かれる。
一つ目は総合エネルギーだ。家庭や飲食店にLPガスを届ける小売と、販売店に卸す卸売がある。家庭用の国内シェアは首位で、LPガスの売上は2,179億円。石油製品、電力、水素ステーションの運営を含めたセグメントの売上は3,677億円、営業利益は135億円だ。
二つ目は産業ガス・機械。酸素や窒素のほか、半導体の製造に欠かせないヘリウムを扱う。ヘリウムの国内販売シェアは約5割、液化水素は外販市場の約7割を握ると、同社は説明している。ガスを使う機械や水素の充填装置もここに入る。売上は2,887億円、営業利益は154億円。
三つ目はマテリアル。豪州の自社鉱区でチタン鉱石やジルコンといったミネラルサンドを掘り、レアアース、ジルコニウム化合物、機能性フィルムを売る。売上は2,184億円、営業利益は116億円だ。食品などの「その他」が営業利益35億円を足す。
LPガスの稼ぎは、ガスを売ること自体より、ボンベと配管を家に残して毎月届け続けることから出る。いったん結んだ契約は簡単には切り替わらない。この粘りが、縮む市場でも利益を支える。
一方、水素は技術の先頭に立つ代わりに、まだ利益を生んでいない。国内の水素ステーションは52か所、米国に10か所を運営するが、車の利用は少なく、補助金に支えられている。岩谷の将来は、この大きな賭けが三本柱に並ぶ稼ぎに育つかにかかっている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、家庭用LPガスの顧客基盤にある。ボンベと配管が家に残り、検針と保安点検を毎月続ける仕組みは、横から奪いにくい。配送区域を重ねるほど1件あたりの配送費は下がる。東京ガスのLPガス部門の買収(2022年)や、2024年のアイエスジー買収は、この狙いの延長にある。
ヘリウムと液化水素にも強みがある。ヘリウムは米国とカタールから調達し、備蓄を倍に増やしている。2024年には同業への融通を止めるほど供給が逼迫した。調達力そのものが商品になるのは、この事業の面白いところだ。液化水素は外販市場の約7割を握り、先行者の利益を取りにいく構えだ。
弱みは、利益が市況に左右されやすいことだ。2026年3月期は、LPガスの市況要因だけで営業利益が約60億円減った。ヘリウムの値も軟化した。素材の豪州鉱区は収益性が落ちている。どれも会社の力では動かせない値段が、利益を決める。
もう一つの弱みは資本の使い方だ。ROEは10%台に見えるが、特別利益を除くと8%弱まで落ちる。水素は豪州の製造・輸入計画から撤退し、米国のステーション設備では減損も出した。先に張る分、外れた時の傷も出ている。自社株買いは、少なくとも過去10年以上ない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
LPガスは縮む市場だ。国内の需要は2024年に約1,226万トンで、人口減、オール電化、機器の省エネで年1.6〜1.7%ずつ減っている。工業用だけがわずかに増える。この市場で首位の岩谷は、守りながら集める立場にある。
競合は多い。アストモスエネルギー(出光興産と三菱商事のLPガス部門が統合。国内の販売シェアは約22%と同社が説明)、ENEOSグローブ、伊藤忠エネクスなどが並ぶ。地域の小さな販売店が多数あり、大手が買って集める動きが続く。値段を決める力は、輸入価格を握る元売り側に寄りやすい。
制度も変わった。2024年7月に過大な営業行為が制限され、2025年4月には料金を基本・従量・設備に分けて示す三部料金制が徹底された。無料の設備貸与で顧客を囲い込む慣行は使いにくくなる。粘りを支えてきた仕組みが、少し弱まる。
産業ガスは、日本酸素ホールディングス(大陽日酸)やエア・ウォーターと競る。半導体向けのヘリウム、特殊ガスは、AI向けの半導体投資で実質の数量が伸びる領域だ。ただ2026年3月期はヘリウムの市況が軟化し、利益が落ちた。
水素は、国内の水素ステーションの利用が少なく、官民の補助に支えられた立ち上がりの途中だ。トヨタとは液体水素の充填、三菱ふそうとは新しい充填技術の共同研究を進める。商用の需要が本格化する時期は読めない。
景気の位置は谷に近い。2027年3月期の会社予想は営業利益488億円と、回復を見込む。筆者は、10年かけても回復は途中までと見る。
資本政策と M&A
還元は控えめだ。配当は2026年3月期に中間・期末の年2回に分けて払い、中期計画の最終年度に配当性向20%以上(市況要因を除く純利益ベース)、減配しない累進配当を掲げる。自社株買いは、2015年3月期以降の記録では見当たらない。稼ぎの7割以上は社内に残る。
投資は大きい。中期計画「PLAN27」は5年で4,700億円を投じ、うち水素に1,780億円を振り向ける。水素の売上は920億円と、今の2倍以上を狙う。数値目標はROE10%以上、ROIC6%以上。このROICは資本コスト7.5%を下回る。
M&Aは小粒を重ねる路線だ。LPガスは東京ガスの部門やアイエスジー、産業ガスは米アスペン・エアーUS、水素は充填装置のトキコシステムソリューションズ(200億円弱)、素材は豪州のコバーン・リソーシズ(2025年12月)を買った。一方で豪州の水素計画からは撤退した。
政策保有株や不動産は売っている。2026年3月期は固定資産の売却益が約120億円、投資有価証券の売却益が約49億円出て、純利益を押し上げた。売却益は毎年は続かない。
買われる側になる可能性は低いと筆者は見る。時価総額が大きく、LPガス最大手を丸ごと買う会社は国内に見当たらない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
家庭用LPガスの首位は、縮む市場でも崩れない。東京ガスの部門やアイエスジーのように、販売店を買って配送区域を重ねるほど、1件あたりの利益は上がる。契約が粘るので、数量の減りは買収で埋まる。
伸びる柱もある。産業ガスは、AI向けの半導体投資でヘリウムや特殊ガスの数量が実質で伸びる。岩谷は同業に融通を止めるほど調達力があり、値上げもしやすい。備蓄を倍にしたのは、需要の先行きに自信がある証拠だ。
水素は、液化水素の外販で約7割を握る先行者だ。今は赤字でも、2030年代に商用車や産業用の需要が立ち上がれば、設備を持つ者が稼ぐ。ステーションの採算が悪いのは立ち上がりの途中だからだ。
素材も、豪州が3鉱区体制になり、供給能力は2倍超になる。鉱区が安定すれば、落ちた利益は戻る。2026年3月期は営業利益が383億円と谷にあり、会社予想は回復を見込む。
PLAN27の営業利益650億円が少し遅れて実現すれば、純利益は500億円を超える。10年後に純利益が740億円まで伸びる筋書きも、起きうる。その時の時価総額は、今の倍に近い。
慎重な見方
営業利益は、この10年で大きくは増えていない。2024年3月期の506億円がいちばん高く、2026年3月期は383億円まで落ちた。中期計画の650億円は、遠い。
稼ぎの質も落ちている。2026年3月期の純利益が伸びたのは、固定資産の売却益のおかげだ。売却は毎年はできない。実力の350億円前後で見れば、自己資本に対する稼ぎは8%弱で、資本コストと同じだ。
水素は、豪州の製造・輸入計画から撤退し、米国の設備で減損を出した。国内のステーションは1日の利用が少なく、補助金が前提だ。5年で1,780億円を投じても、見返りの目標は資本コスト未満のROIC6%だ。
LPガスは、制度が逆風になる。2025年4月の三部料金制の徹底で、設備費を料金に上乗せして囲い込む手が使いにくくなる。数量は毎年1〜2%減り、その上に配送費と人件費の上昇が乗る。
還元は配当性向20%台で、自社株買いはない。稼ぎの7割が社内に残り、自己資本だけが積み上がる。10年で自己資本が7,000億円台に膨らんでも稼ぎが500億円台なら、ROEは7%を割る。市場が今のPBR1倍を保つ理由は乏しい。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分の中身は「稼ぎが戻る」で、慎重な言い分の中身は「戻っても資本コストを超えない」だ。筆者は後者がやや強いと見る。
ヘリウムや鉱区の回復は起こりうる。ただ、戻った利益が投資の増加に飲まれれば、自己資本に対する稼ぎは8%台を超えにくい。水素の採算も、まだ数字で確かめられない。
このため10年の確率は、楽観を7%と薄くし、やや悲観と悲観を合わせて37%に厚くした。中立は谷からの回復を素直に認めつつ、資本の稼ぎの低さを重く見て38%とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,595 円5,973 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 638 円1,469 億円)。 今の値に割り戻すと 1,703 円3,922 億円、今との差 −9.5%、 期待の年率 +5.6%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,803 円1.11 兆円 | 999 円2,300 億円 | +208.1% | +11.9% | 406 円935 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,672 円8,454 億円 | 825 円1,900 億円 | +138.9% | +9.1% | 810 円1,864 億円 |
| 中立 | 38% | 3,061 円7,046 億円 | 652 円1,500 億円 | +97.1% | +7.0% | 1,411 円3,248 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,404 円3,232 億円 | 521 円1,200 億円 | +2.2% | +0.2% | 481 円1,108 億円 |
| 悲観 | 12% | 696 円1,602 億円 | 348 円800 億円 | −44.6% | −5.7% | 125 円288 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,595 円5,973 億円 | 638 円1,469 億円 | +71.7% | +5.6% | 3,233 円7,442 億円 |
今の株価時価総額 1,883 円4,335 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 水素と産業ガスが花開き、投資が稼ぎに変わる 利益 739 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 4,803 円1.11 兆円
水素と産業ガスが花開く。商用車と産業用の水素需要が2030年代に立ち上がり、液化水素の先行者として岩谷が稼ぐ。半導体向けのガスは、AI投資で実質の数量が3割増え、値段も物価を上回って上がる。
素材は3鉱区体制が軌道に乗り、数量は45%増。LPガスは買収で集約が進み、数量の減りを2%にとどめる。
営業利益は約880億円。産業ガスと素材が7%の利益率に乗る。純利益は740億円、自己資本に対する稼ぎは9%で、資本コストをやや上回る。
投資が稼ぎに変わった形で、市場はPER11倍台まで評価する。それでも長く続くROEは、競争で薄れる分を差し引くと資本コストをわずかに超える程度にとどまる。
- 総合エネルギー(LPガス・石油製品・水素ほか):数量 123(国内LPガス販売量(万トン)。石油・電力・水素などの売上は同じ量で割った単価に含める)× 価格 39(LPガス1トンあたりの総合エネルギー売上(万円/トン、名目))→ 売上 4,828 億円・営業利益 222 億円
- 産業ガス・機械:数量 3.8(対象市場(国内の産業ガス・関連機械に、米国・アジアの自社拠点の市場を足した推定。実質・千億円)× シェア)× 価格 1.40(値段の指数(2026/03期=1、名目))→ 売上 5,254 億円・営業利益 368 億円
- マテリアル:数量 3.2(対象市場(ミネラルサンド・ジルコニウム化合物・機能性フィルム・金属素材の取扱領域。実質・千億円)× シェア)× 価格 1.40(値段の指数(2026/03期=1、名目))→ 売上 4,434 億円・営業利益 310 億円
倍率:事業の純利益 739 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍。全体の PER 14.82 倍、時価総額 10,952 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:水素の需要立ち上がりと産業ガスの伸びが同時に来る筋書き。PLAN27の目標が遅れて届く形だが、過去の下方修正を考え、7%と薄くした。
やや楽観 18% 産業ガスと鉱物が伸び、LPガスの縮みを補う 利益 613 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 3,672 円8,454 億円
産業ガスと鉱物が伸び、LPガスの縮みを補う。産業ガスは半導体向けで数量が2割増え、利益率は6.5%。素材は3鉱区で数量が3割増え、利益率は6.4%に乗る。
LPガスは数量が5%減にとどまり、総合エネルギーの営業利益率は4.3%。営業利益は約740億円、純利益は610億円。
水素は黒字になるが、投資の額に比べ稼ぎは小さい。自己資本が7,900億円まで膨らむため、ROEは8%を割る。
市場は、伸びてはいるが資本の増え方が速すぎる会社と見て、PERは10倍台前半にとどまる。強気の見方が当たっても、倍率は大きくは上がらない。
- 総合エネルギー(LPガス・石油製品・水素ほか):数量 119(国内LPガス販売量(万トン)。石油・電力・水素などの売上は同じ量で割った単価に含める)× 価格 39(LPガス1トンあたりの総合エネルギー売上(万円/トン、名目))→ 売上 4,680 億円・営業利益 201 億円
- 産業ガス・機械:数量 3.5(対象市場(国内の産業ガス・関連機械に、米国・アジアの自社拠点の市場を足した推定。実質・千億円)× シェア)× 価格 1.37(値段の指数(2026/03期=1、名目))→ 売上 4,746 億円・営業利益 308 億円
- マテリアル:数量 2.8(対象市場(ミネラルサンド・ジルコニウム化合物・機能性フィルム・金属素材の取扱領域。実質・千億円)× シェア)× 価格 1.37(値段の指数(2026/03期=1、名目))→ 売上 3,889 億円・営業利益 249 億円
倍率:事業の純利益 613 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍。全体の PER 13.59 倍、時価総額 8,331 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:産業ガスと素材が計画どおりに伸びる良い筋書き。水素の採算は未達のまま、という条件を付け、2割弱とした。
中立 38% 縮むLPガスを値上げで支え、稼ぎは物価並みに伸びる 利益 519 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 3,061 円7,046 億円
LPガスの国内需要は10年で1割強縮む。岩谷は買収で販売店を集め、数量の減りを7%にとどめる。値段は物価に沿って上がり、総合エネルギーの売上は4,600億円ほどになる。利益率は4%。配送の効率化は進むが、料金制度の見直しで小売の上乗せは増えない。
産業ガスは、半導体向けのヘリウムと特殊ガスが市場を押し上げる。数量はシェアの微増を含めて12%増え、売上は4,300億円、利益率は6%に戻る。素材は3鉱区体制が軌道に乗り、数量は2割増。ただ鉱物の実質価格は上がらず、利益率は6%どまりだ。
営業利益は約630億円。中期計画の650億円に、10年かけてたどり着く形だ。純利益は520億円で、実力の350億円前後から物価並みに伸びるだけになる。内部留保が積み上がり、ROEは7%を割る。水素は黒字化するが、投じた資金の稼ぎは資本コストに届かない。
- 総合エネルギー(LPガス・石油製品・水素ほか):数量 116(国内LPガス販売量(万トン)。石油・電力・水素などの売上は同じ量で割った単価に含める)× 価格 39(LPガス1トンあたりの総合エネルギー売上(万円/トン、名目))→ 売上 4,581 億円・営業利益 183 億円
- 産業ガス・機械:数量 3.2(対象市場(国内の産業ガス・関連機械に、米国・アジアの自社拠点の市場を足した推定。実質・千億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(2026/03期=1、名目))→ 売上 4,332 億円・営業利益 260 億円
- マテリアル:数量 2.6(対象市場(ミネラルサンド・ジルコニウム化合物・機能性フィルム・金属素材の取扱領域。実質・千億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(2026/03期=1、名目))→ 売上 3,512 億円・営業利益 211 億円
倍率:事業の純利益 519 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 6,918 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:縮む市場の首位が値上げと買収で守り、成長部門が物価並みに伸びる標準の筋書き。資本の積み上がりが重く、中心はやや慎重な位置に置いた。
やや悲観 25% 市況と制度に削られ、利益が増えない 利益 343 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 1,404 円3,232 億円
市況と制度に削られ、利益が増えない。LPガスは数量が12%減り、三部料金制の徹底で小売の利益率が3.2%まで下がる。ヘリウムは供給が増えて値が崩れ、産業ガスの利益率は5%どまり。
素材は豪州の鉱物の値が実質で下がり、数量は横ばい。値段の指数は物価の伸びを下回る。営業利益は約430億円で、今の水準から物価並みに増えない。
純利益は340億円。ROEは5%を割り、水素の投資には減損が出る。自己資本は7,250億円と積み上がったまま、稼ぎがついてこない。市場は資本の効率の低さを嫌い、PBR0.55倍まで下げる。
- 総合エネルギー(LPガス・石油製品・水素ほか):数量 110(国内LPガス販売量(万トン)。石油・電力・水素などの売上は同じ量で割った単価に含める)× 価格 38(LPガス1トンあたりの総合エネルギー売上(万円/トン、名目))→ 売上 4,206 億円・営業利益 135 億円
- 産業ガス・機械:数量 3.0(対象市場(国内の産業ガス・関連機械に、米国・アジアの自社拠点の市場を足した推定。実質・千億円)× シェア)× 価格 1.30(値段の指数(2026/03期=1、名目))→ 売上 3,940 億円・営業利益 197 億円
- マテリアル:数量 2.2(対象市場(ミネラルサンド・ジルコニウム化合物・機能性フィルム・金属素材の取扱領域。実質・千億円)× シェア)× 価格 1.25(値段の指数(2026/03期=1、名目))→ 売上 2,730 億円・営業利益 126 億円
倍率:事業の純利益343億円・事業 ROE 4.7% は k 7.5% 以下なので、上限は 1÷k=11.8倍。ROEが資本コストを大きく下回り、投じた資本が稼ぎに変わらない筋書きなので、上限の約7割とした。EV÷営業利益は約14倍。上限の約7割の8.2倍に置いた。
確率:制度の見直し、ヘリウムの値崩れ、鉱物市況の弱さが10年続く筋書き。水素の失敗まではいかない形で、慎重な見方を反映し、中立に次ぐ25%とした。
悲観 12% LPガスの縮みが加速し、水素の投資を回収できない 利益 182 億円 · PER 7.6 倍 · 株価時価総額 696 円1,602 億円
構造的に負ける。オール電化と脱炭素でLPガスの数量が22%減り、値段も物価ほど上がらない。小売の利益率は2.4%まで落ちる。
水素の需要は立ち上がらず、国内外のステーションは追加の減損を出して縮小する。ヘリウムは調達先が増えて値が崩れ、産業ガスの数量は5%減。素材は3鉱区の収益が戻らず、数量が15%減って利益率は3.5%だ。
営業利益は約250億円、純利益は180億円。自己資本は5,800億円まで減損と評価損で細り、ROEは3%。優良会社とは見られなくなる。
倍率は自己資本の0.4倍まで下がる。ただし配送網、鉱区、LPガス契約という実物の資産が床になり、これ以上は落ちにくい。
- 総合エネルギー(LPガス・石油製品・水素ほか):数量 97.5(国内LPガス販売量(万トン)。石油・電力・水素などの売上は同じ量で割った単価に含める)× 価格 35(LPガス1トンあたりの総合エネルギー売上(万円/トン、名目))→ 売上 3,441 億円・営業利益 83 億円
- 産業ガス・機械:数量 2.7(対象市場(国内の産業ガス・関連機械に、米国・アジアの自社拠点の市場を足した推定。実質・千億円)× シェア)× 価格 1.15(値段の指数(2026/03期=1、名目))→ 売上 3,154 億円・営業利益 126 億円
- マテリアル:数量 1.9(対象市場(ミネラルサンド・ジルコニウム化合物・機能性フィルム・金属素材の取扱領域。実質・千億円)× シェア)× 価格 1.05(値段の指数(2026/03期=1、名目))→ 売上 1,949 億円・営業利益 68 億円
倍率:事業の純利益182億円・事業 ROE 3.1% は k 7.5% 以下なので、上限は 1÷k=11.8倍。水素・鉱区への投資が稼ぎにならない筋書き。配送網などの実物資産が土台として残るので利益は大きくは崩れない。EV÷営業利益は約18倍。上限の約6割の7.6倍に置いた。
確率:水素の失敗とLPガスの縮みの加速が重なる、構造的な負けの筋書き。会社の財務は堅いので1割台前半とし、慎重な見方で厚めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
総合エネルギー(LPガス・石油製品・水素ほか)
家庭・業務用のLPガス小売と販売店向け卸売が柱。石油製品、電力、水素ステーションの運営も含む。
| 数量国内LPガス販売量(万トン)。石油・電力・水素などの売上は同じ量で割った単価に含める | 価格LPガス1トンあたりの総合エネルギー売上(万円/トン、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 125 | 29 | 3,677 | 135 |
| 10 年後 中立 | 116 | 39 | 4,581 | 183 |
取り方:LPガスの売上2,179億円(民生1,788億円・工業378億円)を、国内需要約1,226万トンの約10%にあたる約125万トンと推定して割ると1トン17万円台。残りの約1,500億円(石油製品・電力・水素・海外)は同じ量で割った単価に混ぜた。販売量は開示がなく推定。数量は人口減とオール電化で縮み、物価の分は価格に入れた。
産業ガス・機械
酸素・窒素・ヘリウム・液化水素などの産業ガスと、ガスを使う機械・水素の充填装置。半導体向けが成長の軸。
| 数量対象市場(国内の産業ガス・関連機械に、米国・アジアの自社拠点の市場を足した推定。実質・千億円)× シェア | 価格値段の指数(2026/03期=1、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.9 | 1.00 | 2,887 | 154 |
| 10 年後 中立 | 3.2 | 1.34 | 4,332 | 260 |
取り方:個別のガスの販売量は開示がない。対象市場を実質で約2.0兆円と推定し、シェア14.4%で売上2,887億円に合わせた。ヘリウムの国内シェアは約5割、外販水素は約7割(いずれも自社調べ)。数量は市場の伸びとシェアの両方、値段の指数は物価とガスの需給で動く。
マテリアル
豪州の自社鉱区のミネラルサンド(チタン鉱石・ジルコン)、レアアース、ジルコニウム化合物、機能性フィルム、金属素材。
| 数量対象市場(ミネラルサンド・ジルコニウム化合物・機能性フィルム・金属素材の取扱領域。実質・千億円)× シェア | 価格値段の指数(2026/03期=1、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.2 | 1.00 | 2,184 | 116 |
| 10 年後 中立 | 2.6 | 1.34 | 3,512 | 211 |
取り方:鉱物と素材の取扱量は開示がない。対象市場を実質で約1.8兆円と推定し、シェア12.1%で売上2,184億円に合わせた。豪州は2鉱区から3鉱区へ(コバーン・リソーシズの買収)で、ミネラルサンドの供給能力は2倍超になる見込み。値段の指数は鉱物の市況と物価で動く。
リスクと懸念
LPガスの数量が想定より速く縮む
国内のLPガス需要は年1.6〜1.7%ずつ減っている。オール電化の補助や脱炭素の政策が加速すれば、この減り方は速まる。首位の岩谷は市場の縮みをまともに受ける。買収で数量を補えても、買う値段が高ければ、稼ぎは増えない。
小売の制度変更で粘りが薄まる
2024年7月に過大な営業行為が制限され、2025年4月には三部料金制が徹底された。設備費を料金に混ぜて囲い込む手が使いにくくなり、顧客の切り替えが増えうる。小売の収益性は2026年3月期に改善したが、制度の影響が本格化するのはこれからだ。
水素の投資が回収できない
水素は5年で1,780億円を投じる計画だ。豪州の製造・輸入計画からは撤退し、米国のステーション設備では減損が出た。国内のステーションは利用が少なく、補助が前提だ。需要の立ち上がりが2030年代後半にずれれば、投資は長く稼げない。
市況に利益が振られる
LPガスの輸入価格、ヘリウム、ミネラルサンドの値は、会社の力で動かせない。2026年3月期はLPガスの市況要因だけで営業利益が約60億円減った。ヘリウムの市況軟化と豪州鉱区の収益性低下も重なった。利益は大きく振れ、読みにくい。
資本が積み上がり、稼ぎが追いつかない
配当性向は20%台で、自社株買いは見当たらない。自己資本が積み上がる一方で、中期計画のROIC目標は6%と資本コストを下回る。投資の見返りが低いまま内部留保が増えれば、1株あたりの価値は増えにくい。経営が還元を厚くするか、投資の質を上げるかが問われる。
売却益で利益が実力より良く見える
2026年3月期の純利益は、固定資産の売却益約120億円と投資有価証券の売却益約49億円に支えられた。これを除く実力は350億円前後だ。売るものが減れば、利益の見かけは下がる。投資家が見かけの利益で判断すると、値段を見誤る。
半導体の循環と中国経済
産業ガスの成長は半導体向けに寄る。半導体の設備投資が止まれば、ヘリウムや特殊ガスの数量が減る。会社は2026年3月期の予想を、中国経済の減速とヘリウムの軟化を理由に引き下げた。循環の谷では利益が大きく下がる。
今後の分かれ目
- ヘリウムの値が戻り、産業ガス・機械の営業利益率が6%を超えて定着したら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただ、増えた利益が自己資本の積み上がりを上回るか(ROEが8%台を超えるか)を別に確かめる。
- LPガスの国内販売量の減りが年2%を超える年が続いたら
- 10年のやや悲観・悲観の確率を厚くする。総合エネルギーの利益率が3%台に落ちる筋書きに重みを移す。
- 水素事業の売上が目標の920億円に向けて伸び、事業の損益が黒字になったら
- 投資が稼ぎに変わる兆しと見て、楽観側の確率を上げる。逆に追加の減損が出たら、構造的な負けの確率を上げる。
- 豪州3鉱区の収益性が回復し、素材の営業利益率が6%を超えたら
- 素材の利益が増える中立以上の筋書きに重みを移す。回復しなければ、素材の稼ぎは中立の6%を下回るとみる。
- 配当性向の大幅な引き上げや、自社株買いの実施で総還元が稼ぎの4割を超えたら
- 自己資本の積み上がりが止まり、ROEが資本コストに近づく。中立の倍率を上げる余地が出る。
- 数千億円規模の大型買収が発表されたら
- 買収の値段と見返りが資本コストを超えるかを見る。高値づかみなら悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- LPガスの国内販売量と、小売の1件あたりの利益
- ヘリウムの市況と、産業ガス・機械の営業利益率
- 水素事業の売上と損益(減損の有無)、ステーションの稼働
- PLAN27の進捗(営業利益650億円との差、ROIC6%の達成度)
- ミネラルサンドの鉱区別の収益(コバーン買収後の統合)
- 還元方針の変更(配当性向、自社株買い)
倍率と資本コストの決め方
筋書きは今の株価を見る前に、セグメントごとの数量と価格の積み上げで置いた。純利益は営業利益の約9割とし、金利上昇による利払いの増加(10年で約54億円の税前)を引いた。2026年3月期の純利益は売却益で膨らんでいるので、実力は350億円前後として使った。ROEが資本コスト7.5%を下回る筋書きでは、倍率を資本コストの逆数の11.8倍より低く置いた。今のPER9倍・PBR1倍には寄せていない。新リース会計基準(2028年3月期から)でBSの形が変わるが、数字は今と同じ形(賃借料を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.9→14.82 倍・やや楽観 PER 10.4→13.59 倍・中立 PER 10→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.50%。