結論
アイダエンジニアリングは、自動車や家電の部品をつくる金属プレス機で国内首位の専業メーカーだ。筆者の結論は「やや割安」である。事業の稼ぐ力は弱いが、時価総額の半分に当たる純現金が値段を支えている。
本業のプレス機は景気で受注が振れ、利益率は薄い。厚みがあるのは、売った機械の保守・部品・改造で稼ぐサービス事業だ。売上の4分の1ほどだが、利益の大半はここから出ていると推定する。
資本の使い方が最大の論点になる。ROEは長く5%前後で、資本コストに届いていない。新しい中期経営計画は、現預金を200億円まで圧縮して投資と還元に回すと明言した。実行されれば、余った現金は株主の手に戻る。筆者はこれを中立の前提に置いた。
10年の中立でもROEは資本コストにほぼ届く程度で、倍率は高く置けない。それでも、戻ってくる現金と配当を足すと、本質価値は今の時価総額を1割半ほど上回る。事業が優れているからではなく、現金が戻ってくる確実さを買う値段として、総合ではやや割安と見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社は「事業はわかりやすいが、資本の使い方に疑問が残る会社」だ。プレス機という仕事は理解しやすく、サービス収入という継続的な稼ぎもある。一方で、本業の利益率は薄く、景気の山でも10%を超えるのがやっとだった。
筆者が気にするのは、積み上がった現金と、低いROEである。現金は時価総額の半分を占めるが、これまで株主に十分戻ってこなかった。中計が掲げる200億円までの圧縮が実行されれば、本質価値のうち現金の部分は確実に手に入る。実行されなければ、その現金は事業の低い稼ぎに薄められ続ける。
安全域の面では、純現金と自己資本比率69%が下値を守る。悲観の筋書きでも、現金と売れる資産の合計は今の時価総額の半分近くに達する。ただ、事業そのものが優れているとは言いにくい。筆者がこの株に求めるのは、事業の成長ではなく、現金が株主に戻るという確実さだ。確信度は中程度に置く。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は二段構えだ。まず、自動車のボディ部品、モーターの鉄心、電子部品などを打ち抜く・成形するプレス機を売る。次に、納めた機械を長く使う顧客から、保守・部品・改造の仕事を継続して受ける。機械の売りきりと、その後の息の長い収入が組み合わさる。
プレス機は国内首位で、世界では独シュラーに次ぐ二番手とされる。売上は日本が約3分の1、米州が約3割弱で、残りを欧州・中国・アジアが分け合う。従業員は連結で約2,000人、海外の拠点網が保守の強みを支える。顧客は自動車部品メーカー、電機・モーターメーカー、金型を使う加工業者と幅広く、1社への依存は小さい。
近年は米国で買収を進めた。2025年に材料供給装置のHMSプロダクツを、続いてコイル送り装置などのダラス・インダストリーズを取り込んだ。プレス機に材料の供給・搬送装置を組み合わせ、生産ラインを丸ごと納める体制づくりだ。米州の自動化事業は現在の約50億円規模を、早期に約100億円へ倍増させる計画である。
プレス機本体だけでは薄利なので、ラインごと売ってサービスで稼ぐ形へ寄せる。筆者はこの方向を妥当と見る。
優良さと弱いところ
アイダの堀、つまり他社がまねしにくい強みは、国内首位の販売・保守網と、プレス機の精度・速度の技術にある。特に高速精密プレスは、モーター鉄心や電子部品の量産に欠かせず、顧客は一度入れた機械を長く使う。この顧客基盤が、利益率の高いサービスの土台になっている。
弱さも明らかだ。プレス機は受注生産の資本財で、自動車や電機の設備投資に左右される。2010年3月期には営業利益率がマイナス15.8%まで落ちた。中国の同業の追い上げも続き、汎用の機械では値段を自分で決めにくい。
資本効率は長年の課題である。過去10年のROE中央値は5.2%にとどまる。自己資本が866億円に積み上がり、うち純現金が324億円ある。事業に使いきれない現金が、収益性の低さをさらに薄めてきた。
筆者がいちばん気にしているのは、経営がこの現金を本当に使い切るかどうかだ。2025年に自社株買いと資本政策の見直しを打ち出し、2026年の中計でも還元を約束した。方向は正しい。あとは実績で確かめるしかない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
プレス機は、自動車と電機の設備投資に連動する成熟市場だ。台数は大きくは伸びず、世界で年1〜2%程度とみる。伸びる領域は、モーター鉄心向けの高速精密プレスと、サーボ駆動による省エネ・高精度の機械である。
競争の顔ぶれは、独シュラー、コマツ産機、独ブルーダラー、山田ドビー、中国勢などだ。市場全体の規模を示す信頼できる資料は見つからず、筆者は約6,000〜7,000億円と推定した。アイダの売上でのシェアは約8%だ。
足もとは弱い。2027年3月期の第1四半期は、高速プレスの減少で売上が17%減り、営業利益は6割以上落ちた。受注残も前期末で14%減っている。米国の関税が設備投資を鈍らせた面もある。一方で米州では買収の効果で売上が2割伸びた。
工作機械全体は、AIデータセンター向けの需要で好調だ。日本の工作機械受注は2026年上期に前年から3割超伸びた。しかしプレス機は自動車向けが中心で、その恩恵は薄い。EVへの転換で金型・部品の需要が組み替わることも、10年の見通しに影響する。筆者は、プレス機の需要が景気の波を打ちながら、実質ではほぼ横ばいで進むと見る。
資本政策と M&A
還元の約束は、ここ数年でようやく明確になった。配当は純資産の3%を下限とする方針で、2026年の中期経営計画は5年で270億円(配当130億円・自社株買い140億円)の還元を掲げる。あわせて、適正なネット現預金を200億円とし、超える分を投資と還元に振り向ける。
M&Aは米国で動いている。2025年にHMSプロダクツ、続いてダラス・インダストリーズを買収し、ミシガン州に約53億円で新工場を建てて拠点を統合する。5年のM&A枠は100億円強で、規模は小さく、失敗しても致命傷にならない。
政策保有株は上場で20銘柄、約103億円ある。2025年度も一部を売却して資金化している。保有を減らす流れは続くとみる。
大株主は信託銀行が中心で、支配株主はいない。TOBで買われる可能性は、過去の統計で10年以内に2割ほどある。ただ、筆者はそれを前提にしない。
還元は方針(中計5年で270億円、配当は純資産の3%を下限)の範囲で、中立は10年の純利益の合計の約95%。現預金を200億円へ絞る分の余った現金124億円は、還元に入れず時価総額に足す形で表すので二重にしない。
点検済み(2026-10-19):中立の営業利益率 7.6%(過去 10 年の平均 約 7%)、還元(中計 5 年 270 億円に沿う)、余った現金 124 億円の二重が無いことを確かめた。ただし中立は会社目標の ROE 8% 台(過去 10 年は一度も届かず)に置いており、売上は過去 10 年ほぼ横ばいなので、この会社の中立は強気寄りで、割安の幅は小さめに読む。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
サービス事業の価値が、市場に十分評価されていない。納めたプレス機の保守・部品・改造は景気に左右されにくく、利益率も機械本体よりずっと高い。稼働中の機械が増えるほど、この収入は積み上がる。米国のHMSプロダクツとダラス・インダストリーズの買収で、材料供給装置を含む生産ラインを一括で売る体制ができた。ライン全体の受注は、機械単体より利益率が高く、顧客の囲い込みにもなる。
資本政策も転換点にある。現預金を200億円まで減らすと約束しており、5年で270億円の還元と合わせれば、時価総額の4割に当たる。ROEは中計の目標8%を超え、10年先には10%台へ上がりうる。
現金がこれだけ厚いのに、時価総額は純資産の7割強にすぎない。事業が多少うまくいくだけで、価値は大きく上振れする。米国向けの生産ラインが当たれば、事業の姿そのものが変わる。人手不足の中で、自動化とライン一括納入は顧客にとって合理的な投資で、需要は底堅い。
慎重な見方
稼ぐ力は何年も資本コストに届いていない。過去10年のROEの中央値は5%で、2023年3月期には営業利益率が2%台まで落ちた。プレス機は自動車と電機の設備投資に依存し、その自動車がEVへ転換して金型・部品の需要が組み替わる。今期の第1四半期は売上が17%減り、営業利益は6割以上落ちた。回復の兆しは見えない。
中国の同業が汎用機から高精度機へ進出すれば、値段を自分で決めにくい構造はさらに強まる。米国の買収も、規模が小さく、統合の効果が数字に出るまで時間がかかる。ミシガンの新工場53億円は、関税を避ける意図があるが、稼働は2028年度で先が長い。
還元の約束も、実績がまだない。中計は過去にも「ROE改善」を掲げたが、10年のROE中央値は5%のままだった。現預金が計画どおり減らず、買収や投資に使われて価値を落とす筋書きは十分にありうる。事業の稼ぎが薄いまま、現金だけが目減りする恐れがある。株価が純資産を下回る期間が長いのは、市場がこの実行力を信じていない証拠でもある。
どちらに重みを置いたか
現金の厚みとサービス事業の安定は、確かな強みだ。しかし本業の稼ぐ力は弱く、ROEが資本コストを超える年は少なかった。筆者は、還元の約束を実行力として一定程度は信じるが、事業の利益率を大きく伸ばす前提は置かない。中立は中計の目標に近い水準を置き、確率は中立に最も厚く、慎重側にやや寄せた。10年の本質価値は今の時価総額を1割半ほど上回り、結論はやや割安になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,065 円1,123 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 908 円493 億円)。 今の値に割り戻すと 1,604 円872 億円、今との差 +33.6%、 期待の年率 +9.5%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,176 円2,270 億円 | 1,196 円650 億円 | +347.2% | +16.2% | 537 円292 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,043 円1,654 億円 | 1,104 円600 億円 | +245.3% | +13.2% | 912 円496 億円 |
| 中立 | 34% | 2,150 円1,169 億円 | 1,030 円560 億円 | +164.8% | +10.2% | 1,081 円588 億円 |
| やや悲観 | 22% | 822 円447 億円 | 736 円400 億円 | +29.7% | +2.6% | 343 円186 億円 |
| 悲観 | 12% | 552 円300 億円 | 276 円150 億円 | −31.1% | −3.7% | 99 円54 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,065 円1,123 億円 | 908 円493 億円 | +147.5% | +9.5% | 2,973 円1,616 億円 |
今の株価時価総額 1,201 円653 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 米国の生産ライン一括納入が当たり、サービスも伸びる10年 利益 131 億円 · PER 16.6 倍 · 株価時価総額 4,176 円2,270 億円
米州の自動化事業が約250億円規模まで育ち、ミシガンの新工場がフル稼働する。プレス機に材料供給装置を組み合わせたライン一括の納入が主力になり、機械単体で値段を競う場面が減る。顧客は1社に集約して発注するので、保守・部品・改造の契約も増える。
モーター鉄心向けの高速精密プレスは、EVと省エネ家電の需要で伸びる。サーボプレスへの更新も進み、機械の単価と利益率が上がる。サービスは稼働台数の増加で10年で5割増え、利益率は2割を超える。
経営は200億円までの現預金圧縮と還元を計画どおり進める。ROEは12%台まで上がり、資本コストを明確に上回る。ただし中国勢の汎用機への進出は続き、普通の機械の値段は物価ほど上がらない。事業の稼ぎがようやく資本の厚みに見合う、最良の10年になる。
- プレス機械(高速精密・大型・サーボ):数量 689(世界のプレス機市場に占める当社の実質の取り分(推定市場規模 約6,600億円 × シェア。今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 923 億円・営業利益 60 億円。実質で3割増、価格指数134
- サービス(保守・部品・改造):数量 275(稼働中のプレス機の保守・部品・改造の実質の仕事量(今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 368 億円・営業利益 85 億円。稼働台数の増加で実質5割増
- FA・金型・その他:数量 190(自動化装置・金型・その他の実質の仕事量(今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 255 億円・営業利益 23 億円。米州の自動化事業が約2.6倍に
倍率:事業の純利益 129 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)124 億円。全体の PER 16.6 倍、時価総額 2,270 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国のライン一括納入・サービスの積み上がり・EV向けの高速プレスが同時にうまくいく必要がある。実現すれば強いが、受注の振れが大きい業種で、連続して当たる確度は高くない。
やや楽観 22% サービスと自動化が支え、ROEが中計の目標を上回る 利益 100 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 3,043 円1,654 億円
プレス機本体は実質で2割増にとどまる。EV向けの高速精密プレスの伸びが、自動車の金型・ボディ部品向けの伸び悩みを補う。サービスは稼働台数の増加で4割増え、利益率は2割を超える。
米州の自動化事業は約150億円規模に育ち、ライン一括納入の比率が増す。ミシガンの新工場は予定どおり2028年度に稼働し、関税の負担を抑える。5年で270億円の還元は実行され、現預金は200億円に近づく。
ROEは10%を超え、資本コストを上回って安定する。中計の目標8%は達成するが、それ以上の加速はない。プレス機の競争は続き、値段の主導権は握れないが、サービスと自動化が利益を底上げする。堅実に資本効率が改善する10年になる。
- プレス機械(高速精密・大型・サーボ):数量 636(世界のプレス機市場に占める当社の実質の取り分(推定市場規模 約6,600億円 × シェア。今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 852 億円・営業利益 43 億円。実質で2割増
- サービス(保守・部品・改造):数量 256(稼働中のプレス機の保守・部品・改造の実質の仕事量(今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 343 億円・営業利益 72 億円。実質4割増
- FA・金型・その他:数量 153(自動化装置・金型・その他の実質の仕事量(今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 205 億円・営業利益 14 億円。実質で約2倍
倍率:事業の純利益 98 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)124 億円。全体の PER 15.57 倍、時価総額 1,654 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の還元と米国の自動化事業の拡大がほぼ計画どおり進む筋書き。サービスの積み上がりは堅い。ただしプレス機本体の需要は成熟していて、大きくは伸びない。
中立 34% 中立:サービスが稼ぎを支え、ROEは資本コストにほぼ届く 利益 75 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 2,150 円1,169 億円
プレス機本体は実質で1割増にとどまる。自動車向けは伸び悩み、EV向けの高速精密プレスとサーボ化の更新が穴を埋める。価格は物価並みに上がり、中国勢との競争で利益率の改善は小幅にとどまる。
サービスは稼働台数の増加で3割増え、利益率は約2割を保つ。米国の自動化事業は買収と新工場の効果で約2倍になる。ただし統合には時間がかかり、利益への貢献は限られる。
還元は中計どおり進み、現預金は200億円に近づく。ROEは8%台で、資本コストにほぼ並ぶ。事業の稼ぎは薄いまま、現金が株主に戻って価値を支える。堅い会社が堅いまま続く、地味な10年だ。
- プレス機械(高速精密・大型・サーボ):数量 583(世界のプレス機市場に占める当社の実質の取り分(推定市場規模 約6,600億円 × シェア。今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 781 億円・営業利益 27 億円。実質で1割増、価格は物価並み
- サービス(保守・部品・改造):数量 238(稼働中のプレス機の保守・部品・改造の実質の仕事量(今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 319 億円・営業利益 61 億円。実質3割増
- FA・金型・その他:数量 124(自動化装置・金型・その他の実質の仕事量(今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 166 億円・営業利益 8 億円。実質7割増
倍率:事業の純利益 73 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)124 億円。全体の PER 14.26 倍、時価総額 1,169 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の目標(ROE8%以上)に届く程度で、それ以上は見込まない。プレス機の市場が成熟していることと、過去の中計が目標未達に終わった実績から、中心の筋書きを堅実側に置いた。
やや悲観 22% 中国勢の追い上げとEV転換で、稼ぐ力がさらに細る 利益 46 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 822 円447 億円
中国の同業が汎用の高精度機まで進出し、プレス機本体の値段が物価に届かなくなる。自動車のEV転換で、金型・ボディ部品の設備投資が先送りされる。プレス機の台数は実質で1割減り、利益率は1〜2%に落ちる。
サービスは機械の更新が進まず、稼働台数の伸びも鈍って、10年で1割強の増加にとどまる。第三者の部品業者との競争で利益率も下がる。米国の自動化事業も、関税や設備投資の先送りで伸びが小さい。
還元は配当中心に縮み、自社株買いは計画の半分程度で終わる。ROEは5%台で、資本コストを下回る。それでも事業が崩れるわけではなく、現金とサービスの収入が会社を支え続ける。辛抱の10年だ。
- プレス機械(高速精密・大型・サーボ):数量 477(世界のプレス機市場に占める当社の実質の取り分(推定市場規模 約6,600億円 × シェア。今の値段基準・億円))× 価格 125(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 596 億円・営業利益 9 億円。実質1割減、競争で価格は物価に届かない
- サービス(保守・部品・改造):数量 210(稼働中のプレス機の保守・部品・改造の実質の仕事量(今の値段基準・億円))× 価格 130(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 273 億円・営業利益 46 億円。実質15%増、利益率は低下
- FA・金型・その他:数量 95.0(自動化装置・金型・その他の実質の仕事量(今の値段基準・億円))× 価格 130(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 124 億円・営業利益 4 億円。実質で約3割増にとどまる
倍率:ROE 5.1% が k 7.75% を下回り、新しく投じるお金の稼ぎも資本コストに届かない。PER の上限 1÷k = 11.8 倍に対し、稼ぐ力の質が低いので約 7 割の 8.0 倍に置いた。やや悲観は中立の PER を下回る。
確率:自動車設備投資の弱さが続き、プレス機の値段競争が強まる。今期第1四半期の急減速と受注残の14%減が示す、現実にありうる筋書きで、確率は厚めに置いた。
悲観 12% プレス機の稼ぎが構造的に崩れ、優良さを失う 利益 8 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 552 円300 億円
中国・アジアの同業が高速精密プレスまで技術を追いつかせ、アイダの得意な領域でも価格競争が起こる。自動車のEV化で、金型・ボディ部品の設備投資は長く停滞する。プレス機本体は実質で3分の1が減り、価格も物価の伸びに届かず、営業赤字に落ちる。
サービスも新規の機械が売れなければ稼働台数が減り、縮小に向かう。米国の買収は期待した効果が出ず、のれんなどの減損を迫られる。政策保有株の売却と現金で配当は守るが、自社株買いは止まり、現預金は赤字と失敗した投資で目減りする。
技術の堀が侵食され、もう優良企業とは言えなくなる。それでも売れる資産と現金は残り、会社の価値は資産に近づく。
- プレス機械(高速精密・大型・サーボ):数量 345(世界のプレス機市場に占める当社の実質の取り分(推定市場規模 約6,600億円 × シェア。今の値段基準・億円))× 価格 110(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 380 億円・営業利益 −11 億円。実質で約3分の1減、価格も物価に届かない
- サービス(保守・部品・改造):数量 165(稼働中のプレス機の保守・部品・改造の実質の仕事量(今の値段基準・億円))× 価格 115(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 190 億円・営業利益 23 億円。稼働台数の減少で縮小
- FA・金型・その他:数量 58.0(自動化装置・金型・その他の実質の仕事量(今の値段基準・億円))× 価格 115(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 67 億円・営業利益 −1 億円。買収効果がほぼ消える
倍率:稼ぐ力はほぼ消えるので、純現金と売れる資産の税後を床にした。約 300 億円とみた。PBR はこの額を今の自己資本 866 億円で割った値。
確率:中国・アジア勢の高精度機への技術的な追いつきと、自動車のEV化による設備投資の長い停滞が重なる必要がある。10年という期間ではありうるが、サービス収入が残るため確率は1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
プレス機械(高速精密・大型・サーボ)
自動車のボディ部品、モーター鉄心、電子部品などを打ち抜く・成形するプレス機の設計・製造・販売。国内首位で、世界でも指折りの専業。
| 数量世界のプレス機市場に占める当社の実質の取り分(推定市場規模 約6,600億円 × シェア。今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 530 | 100 | 530 | 14 |
| 10 年後 中立 | 583 | 134 | 781 | 27 |
取り方:決算短信の販売実績でプレス機械は約530億円(連結売上786億円の約67%)。世界のプレス機市場は約6,600億円と推定し(出典となる市場資料は見つからず、競合の売上から見積もった)、シェア約8%。営業利益は開示がなく、全体57億円からサービス事業の推定利益を引いて14億円とした。rev_factor=0.01で億円に換算する。
サービス(保守・部品・改造)
納入したプレス機の保守・部品供給・改造・オーバーホール。機械を長く使う顧客から継続して受ける収入で、利益率はプレス機本体より高い。
| 数量稼働中のプレス機の保守・部品・改造の実質の仕事量(今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 183 | 100 | 183 | 40 |
| 10 年後 中立 | 238 | 134 | 319 | 61 |
取り方:決算短信の販売実績でサービス売上は約183億円(約23%)。営業利益の開示はなく、部品と保守の収益性を踏まえて約22%、40億円と推定した。台数の伸びは、稼働中の機械の増加と米国の買収先の取り込みで決まる。
FA・金型・その他
プレス機に材料を送る・製品を運ぶ自動化装置(HMSプロダクツ・ダラス・インダストリーズを含む米州の事業)、金型、産業用ロボットなど。
| 数量自動化装置・金型・その他の実質の仕事量(今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 73.0 | 100 | 73 | 3 |
| 10 年後 中立 | 124 | 134 | 166 | 8 |
取り方:連結売上から、プレス機械とサービスを引いた残りを73億円と置いた(決算短信の表の差額)。米州の自動化事業は約50億円規模で、買収の効果で伸びている。利益は小さいと推定し3億円とした。 数量は実質で置いた(米州の自動化事業の買収効果を含む)。
リスクと懸念
受注の循環と足もとの急減速
プレス機は自動車・電機の設備投資に連動する受注生産品だ。2026年3月期末の受注残は前期比14%減で、2027年3月期の第1四半期は売上が17%減、営業利益が6割以上落ちた。回復の時期が遅れれば、通期の営業利益57億円の予想も下振れうる。
自動車のEV転換
EVは車体の部品点数や構造が変わり、プレス加工と金型の需要が組み替わる。一方でモーター鉄心向けの高速精密プレスは追い風になる。どちらが勝つかで、プレス機本体の台数と利益率が大きく動く。
中国・アジアの同業の追い上げ
汎用機では中国勢が価格で攻め、高精度機への技術的な追いつきも進む。アイダは国内首位でも、世界では独シュラーに次ぐ二番手とされ、値段を自分で決められる立場にはない。
資本政策が実行されないリスク
中計は現預金を200億円に圧縮し、5年で270億円を還元すると約束した。しかし過去の中計も、ROEの改善を掲げながら中央値は5%のままだった。現金が買収や設備投資に回り、価値を落とす場合もある。
米国の買収の統合と関税
HMSプロダクツとダラス・インダストリーズの統合は始まったばかりで、規模は小さい。ミシガンの新工場53億円は2028年度の稼働で、効果が出るまで3年ほどかかる。米国の関税が設備投資を抑えれば、米州の伸びも止まる。
政策保有株と相場の影響
政策保有の上場株が約103億円ある。売却益は純利益を押し上げるが、毎年は続かない。2025年度に純利益が16.5%減ったのも、この売却益が減ったことが一因だ。株価が下がれば、自己資本も目減りする。
今後の分かれ目
- 現預金の圧縮が計画どおり進み、自社株買い140億円が実行される
- 余った現金が株主に戻り、ROEは8%台へ上がる。本質価値の現金の部分が確実に実現する
- 2027年度以降も受注の回復が遅れ、第1四半期の減益が通期に広がる
- 営業利益は2026年3月期の水準を割り込み、中立の筋書きの出発点が下がる。ROEの改善も先送りされる
- 米州の自動化事業が約100億円へ倍増し、ライン一括納入が定着する
- プレス機本体の薄利を、自動化とサービスが補う。利益率が上がる上振れの筋書きに近づく
- 中国・アジアの同業が高精度の高速プレスでも価格競争を仕掛ける
- アイダの得意領域でも値段が下がり、利益率が悪化する。悲観の筋書きに近づく
- 現預金が買収や大型の設備投資に使われ、200億円の圧縮が先送りされる
- 余った現金が株主に戻らず、価値が目減りする。中計の約束が信用を失う
- 他社がアイダに買収提案をする、または資本提携が起こる
- 資産の価値を反映した値段で買収される可能性がある。ただしこれを前提にはしていない
見ておくもの
- 日本鍛圧機械工業会の月次受注(自動車向け・電機向けの動き)
- アイダの四半期の受注高と受注残、営業利益率
- 自己株式の取得の発表と、現預金(ネット)の水準
- 米州の自動化事業の売上(約50億円から約100億円への道筋)
- サービス売上の比率と伸び
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(PER15倍・PBR0.74倍)や過去・同業の倍率を見ずに、その時点のROEと資本コスト7.75%(基本7.5%に循環+0.5%・値決め力+0.25%・寿命+0.25%)から正当化PERを出し、楽観〜中立は上限の8〜8.5割に置いた。中立はROEが資本コストにほぼ並ぶので、PERの上限は1÷kとした。純現金324億円は時価総額の50%で、中計が示す適正な200億円を引いた124億円を余りとして分けた。やや悲観は稼ぐ力の質を割り引き、悲観は純現金・政策保有株・土地の税後300億円の床で測った。10年後も今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。過去や同業の倍率は使っていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→16.6 倍・やや楽観 PER 12.4→15.57 倍・中立 PER 11.8→14.26 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.0% = 8.5%。同じ領域では、受注の振れの大きい総合工作機械(+1.0〜1.2%)と並ぶ水準に置いた。米国の買収の統合や還元の実行の不確かさは k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.75%。