結論
ナブテスコは、機械を「動かし」「止め」「開ける」部品の会社だ。産業用ロボットの関節に入る精密減速機、電車・航空機・トラックのブレーキと駆動、駅のホームドアとビルの自動ドアが稼ぎの柱になる。筆者の結論は割高である。事業は強いが、稼ぐ力が今の値段に追いついていない。
強みは本物だ。大きな負荷に耐えるロボット関節用の減速機(RV 減速機)では、世界の約 6 割を握るとされる。ところが利益率は 2022 年から 4 年続けて 4〜7% に沈んだ。2026 年の営業利益 326 億円の予想は急回復に見えるが、過去の山の水準に戻るだけのことだ。
油圧機器事業を手放し、自社株買いも始めた。経営が収益性の改善に本気で動いているのは確かである。それでも中立の筋書きでは、10 年後の時価総額は今を下回る。配当を足しても年 1% 台の増え方にとどまる。今の PER は 2026 年予想でも 22 倍で、利益率が 12% を超える世界を前提にした値段だ。
総合の差は 3 割半ばの割高になる。値段が正しくなるには、ヒューマノイドや中国での需要の爆発と、価格を守れる堀の両方が必要だと筆者は考える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い事業が一部にあるが、全体の稼ぐ力が弱い」と映る。長く持ちたいかを問えば、トランスポートと自動ドアは持ちたい。安全に直結し、保守で稼ぎ続けるからだ。減速機は、技術の優位が中国勢と人型ロボットに削られる可能性があり、10 年後の姿を見通しにくい。
株主に残る利益(成長のための再投資を引いた利益)の質も気になる。2025 年の ROE は 5.8%、ROIC は 4.4% で、資本コストを下回った。会社が持つ資本を使って、その資本コストに届かない利益しか出していない。これを直す手段が自社株買いと収益性の改善で、そこは前向きに見られる。
安全域の観点では、今の値段に余裕がない。今の PBR は 1.9 倍で、利益が計画どおり戻る前提がすでに入っている。計画が未達でも買える値段ではない。事業は悪くないが、払う値段が高い。これがバリュー投資の観点の結論である。
何で稼ぐ会社か
ナブテスコは 4 つの事業を持つ。2025 年 12 月期の売上は 3,079 億円で、これは油圧機器事業を除いた継続事業の数字だ。最大は自動ドアなどのアクセシビリティ事業(売上の約 36%)、次が航空・鉄道・商用車・舶用のトランスポート事業(約 33%)、精密減速機のコンポーネント事業(約 26%)と続き、包装機のマニュファクチャリング事業が約 6% を占める。
精密減速機は、ロボットの腕や腰を滑らかに、狂いなく動かす部品である。モーターの高速回転を落として大きな力に変える。ナブテスコの RV 減速機は自動車工場の溶接・搬送ロボットや半導体装置に入り、一度採用されると型式ごと認定を受けるので、簡単には替わらない。売上はこの事業の台数に素直に振れる。利益率は 2021 年の 16.6% から 2024 年の 4.1% まで落ちた。景気の波が最も大きい事業だ。
トランスポート事業は、航空機の操縦を担うアクチュエータ、鉄道車両のドアとブレーキ、トラックのエアブレーキ、大型船のエンジン制御からなる。どれも安全に直結し、保守部品の収益が続く。営業利益率は 13% 台と全事業で最も高い。アクセシビリティ事業は NABCO ブランドの建物用自動ドアと駅のホームドアで、国内の建物用自動ドアは 5〜6 割のシェアとされる。ただし利益率は 8% 台で、成長は国内の建設と駅の整備に左右される。
本社の費用が 96 億円と重い点も覚えておきたい。4 事業の営業利益の合計は 303 億円あるのに、本社費を引くと 207 億円まで減る。売上の 3% 強が本社に消える構造は、利益率を上げる余地でもあり、これまで上がってこなかった理由でもある。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、事業ごとに濃淡がある。いちばん強いのはトランスポートだ。航空機は認証、鉄道は車両ごとの設計採用、トラックは安全部品としての実績が参入を阻む。ホームドアと自動ドアも、設置後の保守を握れば簡単には替えられない。
減速機の堀は、見た目ほど厚くない。強みは素材ではなく、200 点を超える部品の組み合わせと熱処理、超精密加工の積み重ねにある。中国勢は急速に追っており、国産の RV 減速機が 2024 年に初めて外資のシェアを超えたという分析もある。価格はナブテスコの 5〜7 割とされる。品質の差が縮めば、堀は一気に薄くなる。筆者が気にしているのはこの点だ。
稼ぐ力は弱い。利益率は 2022 年から 4 年続けて 6% 前後以下で、資本の稼ぎを表す ROIC は 2024 年に 3.4%、2025 年に 4.4% だった。資本コストの 8.5% には遠い。中期計画は 2027 年に ROIC 10% 以上を掲げる。この 4 年の実績からは、かなり高いハードルだ。
経営の規律には光と影がある。光は事業の選別だ。油圧機器を売り、鉄道ドアのイタリア子会社も手放した。影は管理の甘さで、2026 年 9 月には持分法適用会社の損益の計上漏れが見つかり、過年度の有価証券報告書を訂正した。金額の大きさは確かめられなかったが、持分法の利益が予想に入る会社として見過ごせない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ナブテスコの稼ぎは、工場の設備投資、航空機の生産、鉄道・駅の整備、船舶の改修という、景気の違う 4 つの波が重なって決まる。いまは 4 つが同時に上向いている。2026 年上期の売上は 16.8% 増で、精密減速機は 23.6% 増、営業利益は 2.6 倍になった。中国と韓国の自動車向けロボット、半導体装置向けが引っ張っている。
この上向きは、どこまで続くか。減速機の需要は工場の自動化とロボット化で、10 年単位では伸びる。人手不足が世界で進むからだ。ただ中国の設備投資は何度も反転してきたので、足元の勢いをそのまま 10 年先まで置くのは危うい。
競争は 3 方向から来る。ロボット関節の波動歯車ではハーモニック・ドライブ・システムズが強く、中負荷の領域では住友重機械工業が追う。下からは緑的諧波など中国勢が価格で攻める。横からは、人型ロボットの関節がダイレクトドライブや波動歯車を使い、RV 減速機の出番が少ないという問題がある。ナブテスコは小型の RVmini などで対抗する。
トランスポートでは、航空機のアクチュエータで Moog などの海外大手と、鉄道のブレーキとドアで Knorr-Bremse や Wabtec と戦う。アクセシビリティでは、欧州の dormakaba や ASSA ABLOY が海外の相手になる。いずれも世界のどこかで寡占が固まった市場で、価格を守りやすい反面、成長は市場並みにとどまる。
資本政策と M&A
資本の使い方は、ようやく攻めに転じた段階だ。自己資本比率は約 59% で、純現金は 284 億円と厚くはない。使い道は中期計画に書いてある。5 年で研究開発に約 400 億円、設備に約 450 億円、株主還元に 300 億円以上を回す。配当は自己資本の 3.5% を目安にし、そこに機動的な自社株買いを足す。格付け維持のため、自己資本比率 50% 以上は崩さない。
2026 年 7 月には 150 億円を上限に自社株買いを決めた。上限 400 万株で、取得は 11 月末まで、買った分は 12 月に消却する。同じ時期に油圧機器の 70% を 142 億円でイタリアの Comer Industries に譲り、残る 3 割は持分法で持つ。事業の入れ替えで得た資金を還元に回す流れは評価できる。
買収で大きく伸ばす会社ではない。売却で形を整えるのが今の基本だ。論点は、ROE が資本コストを超えるまで、還元と研究開発の配分を間違えないことだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ナブテスコは、減速機・航空・鉄道・ドアという、景気の違う安全部品を持つ。2026 年は全事業が増収で、予想の営業利益は前期の 1.6 倍になった。ここからが本番だと見る人は、中期計画の売上 4,000 億円・営業利益 420 億円は届く水準だと主張する。
精密減速機は、ロボットの数が増えるほど台数が伸びる。ヒューマノイドは波動歯車が主役でも、大きな力が要る関節には RV 型が残ると見る。2025 年末に出した小型減速機の RVmini が受け入れられれば、市場そのものが広がる。中国勢の品質の差は、寿命の面でまだ大きい。
自社株買いが始まったことも見逃せない。油圧機器を手放し、収益の薄い事業を整理した。本社費の 96 億円は、事業が縮んだ分だけ減らせる。利益率が 12% に乗れば、ROE は 14% を超え、倍率も 14 倍を超えうる。資本の配分が変わる局面は、会社の価値が最も上がる時だという見方である。
慎重な見方
2022 年から 2025 年まで、営業利益率は 4〜7% だった。市場は今、その傷が癒えたかのように値段を付けているが、2026 年の急回復は、景気の山と為替の追い風、持分法の利益の増加に支えられている。
減速機の競争は、悪い方向に動いている。中国製の RV 減速機は価格が 5〜7 割で、品質の差を急速に縮めている。顧客が調達先を複数に分ければ、値引きの圧力も強まる。ヒューマノイドは波動歯車とダイレクトドライブが主流で、RV の用途は広がりにくい。価格決定力が十分にあれば、4 年も低い利益率が続くはずがない。事業を整理しても、本社費が重い構造が残る限り、利益は伸びにくい。
中期計画の売上 4,000 億円・営業利益 420 億円は、あくまで参考値にすぎない。過年度の有価証券報告書の訂正まで出た。ROIC が 4% 台の会社が、資本コスト以上の価値を生むと期待するのは楽観にすぎない。今の PER 33 倍は、その期待そのものである。回復の途中で需要が反転すれば、利益は再び半分になり、今の値段は大きく崩れる余地がある。
どちらに重みを置いたか
事業の質については強気の言い分に分がある。ただ値段については、慎重な言い分が重い。中立の筋書きでも、営業利益率は 10% 前後にとどまり、10 年後の時価総額は今を下回る。強気が正しい筋書きは存在するが、それが実現するには、減速機の数量と価格の両方が長く続く必要がある。この 4 年の利益率の低迷を踏まえ、確率は中立に最も厚く置き、慎重な側のやや悲観にも同じ重さを残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 4,634 円5,401 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,725 円2,010 億円)。 今の値に割り戻すと 3,450 円4,021 億円、今との差 −17.2%、 期待の年率 +4.3%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 9,701 円1.13 兆円 | 2,656 円3,096 億円 | +196.6% | +11.5% | 1,236 円1,440 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,063 円8,232 億円 | 2,136 円2,490 億円 | +120.8% | +8.2% | 1,840 円2,144 億円 |
| 中立 | 34% | 4,838 円5,639 億円 | 1,661 円1,936 億円 | +56.0% | +4.5% | 2,210 円2,575 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,055 円2,396 億円 | 1,411 円1,645 億円 | −16.8% | −1.8% | 832 円970 億円 |
| 悲観 | 12% | 945 円1,101 億円 | 1,069 円1,246 億円 | −51.7% | −7.0% | 242 円282 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,634 円5,401 億円 | 1,725 円2,010 億円 | +52.6% | +4.3% | 6,359 円7,412 億円 |
今の株価時価総額 4,166 円4,856 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 減速機の優位が続き、全事業で利益率が 14% に届く 利益 604 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 9,701 円1.13 兆円
減速機の優位が続き、数量も大きく伸びる。ヒューマノイド向けの小型減速機が量産に乗り、中国でも日本製の信頼性を評価する顧客が残る。精密減速機の売上は今の 2 倍半に近づき、利益率は 17% まで戻る。航空機は生産の拡大と保守の積み上がりで伸び、ドアは海外とホームドアが成長を支える。本社費は事業が大きくなっても増えにくく、全社の営業利益率は 14% に届く。自社株買いが毎年続き、ROE は 16% 近くまで上がる。会社が掲げる中期計画の延長線を、10 年かけて実現した姿である。資本を稼ぐ力が資本コストをはっきり上回る、同社にとって最も良い 10 年になる。
- 精密減速機(コンポーネント):数量 51.0(精密減速機・関連部品の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 39(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,999 億円・営業利益 340 億円。営業利益率17.0%
- 航空・鉄道・商用車・舶用(トランスポート):数量 82.5(対象の輸送機器向け部品・システムの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 24(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,990 億円・営業利益 358 億円。営業利益率18.0%
- 自動ドア・ホームドア(アクセシビリティ):数量 138(自動ドア・ホームドアの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 13(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,831 億円・営業利益 229 億円。営業利益率12.5%
- 包装機(マニュファクチャリング):数量 23.0(対象の包装機(ウエットな内容物の充填)の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 12(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 277 億円・営業利益 39 億円。営業利益率14.0%
倍率:事業の純利益 604 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍。全体の PER 18.72 倍、時価総額 11,307 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:減速機の優位、ヒューマノイドの取り込み、本社費の圧縮、航空の長期成長がすべて揃う必要があり、確度は高くない。
やや楽観 20% 収益性が改善し、利益率は 12% 台で定着する 利益 480 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 7,063 円8,232 億円
収益性の改善が会社の計画より遅れながら、10 年かけて実現する。精密減速機は数量が 5 割増え、中国勢にシェアを少し譲りつつも高負荷の領域は守る。航空機と鉄道は市場を上回って伸び、ドアも海外で利益率が改善する。営業利益率は 12% 台で定着し、本社費はコスト抑制で売上の 2% 台に下がる。自社株買いと配当で稼ぎの半分以上を株主に返し、ROE は 12% 台に上がる。海外の自動ドアでは欧州勢と並ぶ規模を得て、ホームドアは国内の更新が終わっても海外の新設で伸びる。堅実な改善が積み上がる、投資家にとって気持ちのよい 10 年である。
- 精密減速機(コンポーネント):数量 44.9(精密減速機・関連部品の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 37(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,651 億円・営業利益 248 億円。営業利益率15.0%
- 航空・鉄道・商用車・舶用(トランスポート):数量 78.8(対象の輸送機器向け部品・システムの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 23(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,836 億円・営業利益 309 億円。営業利益率16.8%
- 自動ドア・ホームドア(アクセシビリティ):数量 135(自動ドア・ホームドアの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 13(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,737 億円・営業利益 200 億円。営業利益率11.5%
- 包装機(マニュファクチャリング):数量 22.5(対象の包装機(ウエットな内容物の充填)の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 12(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 262 億円・営業利益 35 億円。営業利益率13.5%
倍率:事業の純利益 480 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍。全体の PER 17.15 倍、時価総額 8,232 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率の改善が会社の計画より遅れつつ、10 年かけて実現する筋書き。実現性は比較的ある。
中立 34% 中立:事業は堅いが、稼ぐ力は計画に届かない 利益 370 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 4,838 円5,639 億円
事業の安全部品としての粘りと、競争による値引きが釣り合う。精密減速機は数量が 3 割半ば増えるが、中国勢にシェアを少し譲り、価格の伸びは物価を下回る。航空機は市場並みに伸び、鉄道は国内の更新と海外の車両需要が続く。自動ドアは国内の人口減を、海外とホームドアが補う。営業利益率は 10% 台前半で、過去の最高(約 12%)には届かない。本社費は物価で増えて利益率を押し下げる。配当と自社株買いで利益の 6 割を返し、ROE は 10% 近くと資本コストをわずかに上回る程度。優良とは言えないが、悪くもない、地味な 10 年になる。
- 精密減速機(コンポーネント):数量 40.5(精密減速機・関連部品の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 34(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,384 億円・営業利益 173 億円。営業利益率12.5%
- 航空・鉄道・商用車・舶用(トランスポート):数量 75.0(対象の輸送機器向け部品・システムの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 22(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,684 億円・営業利益 261 億円。営業利益率15.5%
- 自動ドア・ホームドア(アクセシビリティ):数量 132(自動ドア・ホームドアの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 12(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,632 億円・営業利益 171 億円。営業利益率10.5%
- 包装機(マニュファクチャリング):数量 22.0(対象の包装機(ウエットな内容物の充填)の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 12(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 257 億円・営業利益 32 億円。営業利益率12.5%
倍率:事業の純利益 370 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.24 倍、時価総額 5,639 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:事業の安全部品としての粘りと、競争による値引きが釣り合う中心の筋書き。最も厚く置いた。
やや悲観 24% 中国勢に価格を削られ、利益率が 7% 台に戻る 利益 226 億円 · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 2,055 円2,396 億円
中国勢が減速機の中位品に広がり、顧客が調達先を複数にして値引きを迫る。ナブテスコの減速機のシェアは約 18% から 15% に下がり、利益率は 9% に戻る。人型ロボットの関節で RV 減速機の出番が少ないことも響く。航空・鉄道は堅調でも、全体の足を引っ張るのは本社費の重さだ。営業利益率は 7% 台に戻り、ROE は 7% 弱にとどまる。自社株買いは細々と続くだけで、会社が掲げた ROIC 10% は一度も達成されないまま終わる。事業は残るが、市場は優良企業として扱わなくなる。10 年を通して、減速機の数量は伸びても、利益は伸びない。売上の増加が利益に結びつかない、もどかしい 10 年である。
- 精密減速機(コンポーネント):数量 36.1(精密減速機・関連部品の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 30(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,089 億円・営業利益 98 億円。営業利益率9.0%
- 航空・鉄道・商用車・舶用(トランスポート):数量 69.4(対象の輸送機器向け部品・システムの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 21(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,464 億円・営業利益 190 億円。営業利益率13.0%
- 自動ドア・ホームドア(アクセシビリティ):数量 126(自動ドア・ホームドアの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 12(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,520 億円・営業利益 129 億円。営業利益率8.5%
- 包装機(マニュファクチャリング):数量 21.0(対象の包装機(ウエットな内容物の充填)の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 11(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 232 億円・営業利益 24 億円。営業利益率10.5%
倍率:ROE 6.6% が k 7.5% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 12.5 倍まで。中国勢の値下げで減速機の利益率が戻らず、ROE が k を下回る筋書き。稼ぐ力(純利益 ÷ k)から、上限の 8.5 割の 10.6 倍に置いた。
確率:中国勢が減速機の中位品に広がり、顧客が調達を複数化して利益率が元に戻る筋書き。慎重な言い分が強いので、強気側より少し厚くした。
悲観 12% 構造的に負け、普通の部品メーカーになる 利益 58 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 945 円1,101 億円
中国勢が品質でも追いつき、顧客は複数の調達先で価格を競わせる。精密減速機のシェアは約 11% まで落ち、人型ロボットの関節からも外れる。航空機部品でも新規の機種に乗り遅れ、鉄道・舶用の更新も競合に取られる。数量は伸びず、価格は物価を大きく下回る。全社の営業利益率は 2% 台まで下がり、本社費をまかなえなくなる。配当は手元の現金と保有資産の売却でしのぎ、自社株買いは止まる。ROE は 2% 台に落ちる。世界首位の減速機という評価は失われ、競合の多い普通の部品メーカーに落ち着く、同社にとって最も厳しい 10 年である。自動ドアと鉄道は事業として残るが、会社全体を支える力にはならない。利益が細っても配当は当面維持し、遊休資産の売却で賄うため、還元は 1,246 億円にとどまる。
- 精密減速機(コンポーネント):数量 30.0(精密減速機・関連部品の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 22(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 663 億円・営業利益 20 億円。営業利益率3.0%
- 航空・鉄道・商用車・舶用(トランスポート):数量 63.8(対象の輸送機器向け部品・システムの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 19(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,217 億円・営業利益 110 億円。営業利益率9.0%
- 自動ドア・ホームドア(アクセシビリティ):数量 120(自動ドア・ホームドアの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 11(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,327 億円・営業利益 66 億円。営業利益率5.0%
- 包装機(マニュファクチャリング):数量 20.0(対象の包装機(ウエットな内容物の充填)の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質))× 価格 10(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 201 億円・営業利益 12 億円。営業利益率6.0%
倍率:減速機の堀が崩れ、トランスポートの利益だけが残る構造悲観。稼ぐ力はほぼ消えるので、純現金+売れる資産の税後を床にした。約 1,100 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:減速機で優位を失い、人型ロボットの関節からも外れ、本社費も減らせない複合の下振れ。10 年なら起こりうるので 1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
精密減速機(コンポーネント)
産業用ロボットの関節や半導体装置・工作機械に入る精密減速機と、関連の駆動部品。
| 数量精密減速機・関連部品の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 30.0 | 26 | 793 | 54 |
| 10 年後 中立 | 40.5 | 34 | 1,384 | 173 |
取り方:世界の精密減速機(RV・波動歯車・中国勢を含む)と関連部品の需要を約 4,500 億円(30 億ドル)と推定し、会社の売上 793 億円をそのシェア約 17.6% とした(開示は無く、ハーモニック・ドライブ・システムズや住友重機械工業の規模からの推定)。数量は今の値段で測った実質の市場にし、物価の分は価格(シェア × 150 円 × 物価の倍率)に入れた。営業利益 54 億円は 2025 年の実績。
航空・鉄道・商用車・舶用(トランスポート)
航空機の操縦用アクチュエータ、鉄道車両のドアとブレーキ、トラックのエアブレーキ、大型船のエンジン制御。
| 数量対象の輸送機器向け部品・システムの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 60.0 | 17 | 1,005 | 136 |
| 10 年後 中立 | 75.0 | 22 | 1,684 | 261 |
取り方:航空・鉄道・商用車・舶用で当社が戦う部品・システムの世界需要を約 9,000 億円(60 億ドル)と推定し、会社の売上 1,005 億円をそのシェア約 11.2% とした(鉄道ドアの国内約 7 割、ブレーキの国内約 5 割という開示を踏まえた粗い推定)。数量は実質、物価の分は価格に入れた。営業利益 136 億円は 2025 年の実績。
自動ドア・ホームドア(アクセシビリティ)
NABCO ブランドの建物用自動ドアと、駅のホームドア。海外の建物用ドアも含む。
| 数量自動ドア・ホームドアの世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 120 | 9.23 | 1,107 | 91 |
| 10 年後 中立 | 132 | 12 | 1,632 | 171 |
取り方:建物用の自動ドアとホームドア、海外の建物用ドアの世界需要を約 1.8 兆円(120 億ドル)と推定し、会社の売上 1,107 億円をそのシェア約 6.2% とした。国内では 5〜6 割のシェアでも、世界ではホームドアが約 2 割、海外の建物用はまだ小さい。数量は実質、物価の分は価格に入れた。営業利益 91 億円は 2025 年の実績。
包装機(マニュファクチャリング)
レトルト食品などの充填・包装機。食品工場の省人化に使われる。
| 数量対象の包装機(ウエットな内容物の充填)の世界需要額(億ドル、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 20.0 | 8.70 | 174 | 22 |
| 10 年後 中立 | 22.0 | 12 | 257 | 32 |
取り方:ウエットな内容物(レトルトなど)の充填包装機という得意分野の世界需要を約 3,000 億円(20 億ドル)と推定し、売上 174 億円をそのシェア約 5.8% とした。数量は実質、物価の分は価格に入れた。営業利益 22 億円は 2025 年の実績。
リスクと懸念
中国勢による減速機の価格攻勢
国産の RV 減速機が 2024 年に外資のシェアを超えたという分析がある。価格はナブテスコの 5〜7 割とされ、中位品から削られる。品質の差が縮めば、堀は一気に薄くなる。会社の利益の回復が早く進むほど、顧客はその値段に敏感になり、値引きを迫る材料も増える。
人型ロボットの関節で RV の出番が少ない
人型ロボットの関節は、波動歯車やダイレクトドライブが主流とされる。ロボットの数が増えても、RV 減速機の台数が比例して増えるとは限らない。小型減速機の RVmini が受け入れられるかが分かれ目で、2026 年の販売開始後の採用実績が試金石になる。
設備投資の景気と中国への依存
2026 年の急回復は、中国と韓国の自動車向けロボットと半導体装置の投資に支えられた。中国の設備投資は何度も反転してきた。回復が一服すれば、減速機の営業利益は短期間で半分になりうる。2022 年以降の 4 年がまさにその例だった。
利益率が上がり切らない可能性
4 事業の営業利益の合計は 303 億円あるのに、本社費の 96 億円が引かれて 207 億円になる。事業の入れ替えが終わっても、本社費が減らなければ、中期計画の利益率 10.5% は遠い。物価で人件費が増える世界では、本社費を減らすこと自体が簡単ではない。
持分法の利益と会計の訂正
2026 年 9 月、持分法適用会社の TMT マシナリー(出資 33%)の損益の計上漏れが見つかり、過年度の有価証券報告書を訂正した。油圧機器の 30% も持分法で持つ。持分法の利益が予想に入る分、利益の質を確かめる必要がある。通期の予想にこの種の利益がどれだけ入るかは、決算のたびに見ておきたい。
航空機・鉄道の長い開発サイクル
航空機のアクチュエータは機種ごとの採用で決まる。次の機種に乗り遅れると、10 年先に影響が出る。鉄道は車両メーカーの採用と国内の更新計画に左右され、案件が大きく振れる。どちらも納入までに数年かかり、受注の失敗が業績に出るのは先になる。
国内の人口減と自動ドアの成長
自動ドアは国内で 5〜6 割のシェアでも、国内の建設は人口減で伸びにくい。成長は海外の建物用ドアとホームドアに頼るが、海外では欧州の大手との競争が厳しく、利益率は 8% 台にとどまる。ホームドアは国内の更新が一巡したあと、海外で受注を伸ばせるかが課題になる。
今後の分かれ目
- 中国製の RV 減速機が、高負荷の領域でも日本製の採用を奪い始めたら
- 減速機のシェアと価格の想定を引き下げ、10 年のやや悲観・悲観の確率を上げる。
- 人型ロボットが年間数十万台規模で量産に入り、RVmini が主要メーカーに採用されたら
- 10 年の楽観・やや楽観の確率を上げ、減速機の数量の想定を引き上げる。
- 営業利益率が 2 期続けて 10% を超え、本社費が売上の 2% 台に下がったら
- 利益率の改善が構造になったとみて、中立の営業利益率を引き上げる。
- 中国の設備投資が 2 四半期連続で減り、減速機の受注が落ち込んだら
- 2026 年の上方修正は山だったとみて、10 年のやや悲観の確率を上げる。
- 自社株買いが 150 億円で終わらず、数百億円の追加枠が発表されたら
- 資本配分が本格的に変わったとみて、ROE の想定を上方修正し、やや楽観側の確率を上げる。
- 航空機の主要機種で採用を失った、または大型の受注を得たら
- トランスポート事業の 10 年の数量と利益率の想定を、それぞれ下方・上方に動かす。
見ておくもの
- 精密減速機の受注・売上と、中国・韓国のロボット向けの動向
- 全社の営業利益率と本社費(2027 年の 10% 超が達成できるか)
- 中国勢の RV 減速機のシェアと価格
- 自社株買いの追加と、DOE を超える還元の有無
- 航空機の生産レートと鉄道・ホームドアの受注残
倍率と資本コストの決め方
数量は世界市場(実質)× シェア、価格は物価並みの上昇で積み、営業利益率を事業ごとに置いて、最後に今の時価総額と比べた。資本コストは基本 7.5% に quality +0.5% を足した 8.0%。純現金は 284 億円(時価総額の 5% 台)で 1 割に満たず、余った現金は分けていない。ROE が資本コストに近いので中立の PER は 1÷k(12.5 倍)の近くに置き、楽観は上限の 9 割、やや楽観は 8.5 割に置いた。やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k)、悲観は純現金+売れる資産の床(約 1,100 億円)で測った。IFRS の会社なのでリースはすでに負債に載っており、2028 年 3 月期の基準変更の影響を受けない(12 月決算なので、形の変更もない)。今の PER・PBR に合わせた置き方はしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.9→18.72 倍・やや楽観 PER 13→17.15 倍・中立 PER 11.3→15.24 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.5% = 8.0%。訂正報告や減速機の競争は k に足さず、やや悲観・悲観の筋書きと確率に入れた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。