結論
タダノは、移動式クレーンで世界3位級に入る日本の機械メーカーだ。工事現場を走るラフテレーンクレーンでは、海外向けで世界の4割を握ってきた。ここ2年でトラック搭載型クレーン、高所作業車、定置式クレーンの3事業を買い、売上は3,500億円規模に膨らんだ。
筆者の結論は、今の値段はおおむね妥当というものだ。中立の筋書きで10年後の時価総額は今とほぼ同じになる。強みの割に、買収を重ねた分だけ自己資本の稼ぎが薄く、割安とは言い切れない。
足元の利益は戻り途上にある。2025年12月期の営業利益率は5%台まで下がった。欧州の工場再編と米国の関税、買収費用が重なったためだ。再編費用は山を越え、関税の一部は還付された。筆者は、利益率が7%台まで戻る姿を中立と置く。過去の山である14%台には戻らないと見る。買った事業の利益率が本体より低いからだ。
本当の分かれ目は、買収した事業をどこまで磨けるかにある。うまくいけば自己資本の稼ぎが資本コストを超え、楽観の筋書きでは今の3倍を超える時価総額が見える。うまくいかず、中国の三一重工や徐工にシェアを削られると、利益はほとんど残らない。今の値段は、この両方を織り込んだうえでほぼ釣り合う水準だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、タダノは「いい事業だが、自己資本の稼ぎがまだ足りない会社」だ。クレーンは長く使われる道具で、部品と整備の収益が事業の下支えになる。顧客は景気で買い控えるが、売れなくなる商品ではない。10年先も事業が残る点に疑いはない。
問題は、事業の強さが資本の稼ぎに十分つながっていないことだ。過去10年のROEは中央値で5%台、資本コストの8.5%には遠い。強い堀があるなら、自己資本に対してもっと稼げるはずだが、そうなっていない。理由は、景気の振れ、欧州の赤字、そして買収で膨らんだ資産にある。
資本の使い方は評価が割れる。3件の買収は事業の幅を広げたが、払った額に見合う稼ぎが出るかはこれから決まる。筆者なら、買収の追加を待つよりも、今ある事業の利益率を上げる経営を見たい。
安全域はそこそこある。時価総額は今の自己資本を下回り、悲観でも資産の売却で一定の価値が残る。ただ、中立の筋書きでは10年後の価値が今の時価総額とほぼ重なる。つまり、割安だから買うという話ではなく、買収の成果が出るのを待てるかどうかが論点だ。
オーナーとして持ち続けたいかを聞かれれば、利益率が7%台に定着し、ROEが資本コストを超え始めた時に、初めて持ちたいと答える。今はその手前にある。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は建設用クレーンだ。2025年12月期の売上の約6割を占める。ラフテレーンクレーンは不整地を自走できる小回りの利く機種で、工事現場や発電所、データセンターの建設に欠かせない。大型のオールテレーンクレーンは欧州で作ってきたが、独バラシャイド工場を閉じ、生産を集約する再編を進めている。国内では移動式クレーンの首位で、5〜6割のシェアを持つとされる。
次の層が、ここ2年の買収で加わった事業だ。2024年に長野工業を買い、自走式クローラ高所作業車が加わった。2025年1月には米マニテックスを約1.2億ドルで買い、車両搭載型クレーンと高所作業車を北米と欧州に広げた。同年7月にはIHI運搬機械の運搬システム事業を取り込み、高層ビルや港湾で使う定置式クレーンにも入った。これらを足した事業が売上の約2割を占める。
もう1つの収益源が、部品・修理・中古車の事業だ。売上の約2割で、利益率は本体よりずっと高い。クレーンは一度買えば10年以上使われる。壊れれば現場が止まるので、純正部品と整備の需要が続く。台数が景気で振れても、この部分は粘る。
顧客は建設会社、レンタル会社、電力・プラント工事の会社だ。販売は代理店とレンタル会社を通す形が多く、売上の6割強は海外である。北米ではデータセンターの建設が追い風になり、国内は公共工事とインフラ更新が需要を支える。
優良さと弱いところ
堀は、ラフテレーンでの世界的なブランドと、世界中に張った部品・整備網だ。クレーンは故障が許されない道具で、使う側は実績のある銘柄を選びやすい。このため、メーカーを乗り換える費用が高い。部品と整備の高い利益率も、この堀から来ている。
一方で、値段を自分で決める力は強くない。上位は2025年時点でリープヘル、マニトワック(グローブ)、タダノの順で、その後ろに徐工、三一重工、中聯重科が並ぶ。中国勢は、まず自国と新興国の安い価格帯で伸び、いま中価格帯に上がってきている。入札で決まる案件も多く、景気が落ちると値引きで買い手に寄る。
筆者が最も気にするのは資本の稼ぎ方だ。過去10年のROEの中央値は5%台で、資本コストを下回る年が多い。ROEは、自己資本に対して株主のために稼ぐ利益の割合だ。2024年の営業利益率は8%台まで戻したが、2025年は5%台に下がった。景気の山でも自己資本を十分に稼げた年は、2015年と2016年だけだ。
経営は2021年に創業家の外から入った氏家社長が率いる。丸紅出身で、買収を軸に事業の幅を広げてきた。攻めの姿勢は評価できるが、3件の買収を短期間に重ねた結果、のれんは16億円から178億円に増え、営業キャッシュフローは赤字になった。ここからは、買った事業を統合し、現金を稼ぐ段階に入れるかが問われる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
移動式クレーンの世界市場は、調査会社によって差はあるが、年に150億〜170億ドルの規模だ。このうち上位5社で4割ほどを分け合う。中国の三一重工、徐工、中聯重科は自国市場の大きさを武器に伸び、輸出も増やしている。欧州のリープヘルは大型機で強く、マニトワックは北米で強い。
景気の位置は、中国の不動産不況が続く一方、北米と中東、日本で需要が分かれる局面だ。2026年上期は、日本が大型工事で堅調、北米がデータセンター向けで好調だった。中東は情勢の悪化で出荷が遅れ、欧州は需要が戻りつつあるものの、受注環境は厳しい。クレーンは受注から出荷までが長く、利益が景気から半年から1年遅れて動く。
10年の構造としては、3つの流れを見る。1つめは電力網とデータセンター、再生可能エネルギーなど、重い設備を据える工事の増加だ。2つめは国内の人手不足で、少人数で動かせる機械への置き換えが進む点だ。3つめは電動化と遠隔化で、機種の値段が上がる一方、先行する技術が必要になる。
車両搭載型クレーンと高所作業車は、クレーンより市場が広く、競合も多い。パルフィンガーやヒアブが車載クレーンの主役で、高所作業車はJLGやジーニーなど米国勢が強い。タダノは後発だが、国内と北米で営業網を整えつつある。
物価が毎年3%上がる世界では、クレーンの値段も名目で上がる。ただし鋼材と人件費も同じだけ上がるので、利益率が自然に上がることはない。数量は実質で10年1.25倍程度と見る。2%台の年率だ。
資本政策と M&A
還元は配当性向30%を目安とする方針だ。2025年12月期は増配、2026年12月期は予想で減配となる。自社株買いの実績は確認できなかった。利益が谷に落ちる年があるため、配当は安定性を重んじる設計だ。
資本の使い方では、買収が主役になった。2024年から2025年に3件を実行し、有利子負債は約1,400億円、現金は約800億円と、財務は一気に重くなった。純有利子負債は自己資本の約3割で、まだ危険な水準ではない。ただし棚卸資産が増え続け、手持ちの現金が現金のまま残る期間は長くない。
筆者は、今後の焦点はM&Aの追加ではなく、買った事業の磨き込みだと見る。ブランドの統一、共同購買、共同開発が進めば利益率は上がる。逆に新しい買収を重ねると、のれんの減損や借金の増加でリスクが膨らむ。
買われる側の可能性も忘れられない。時価総額は今、自己資本を下回る。クレーンの再編は世界で進み、中国勢と欧州勢の再編に絡んだ買収の話が出てもおかしくない。TOBの確率は参考値で23%ほどだが、大株主の構成や防衛策は確認できていないので、価値には入れない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
買収した事業が本体の利益率に近づく。それだけで、利益は今の3倍に近い水準まで伸びる。
まず足元の売り上げの質が変わった。2026年上期は売価の改善と関税の還付で営業利益が大きく戻り、会社は通期で営業利益250億円を見込む。クレーンは受注から出荷まで長く、北米のデータセンター建設の需要は数年先まで見えている。電力網の更新や再生可能エネルギーの工事も、重い機械を長く必要とする。
次に、買収の成果が見え始める。マニテックスとPM・オイルアンドスチールの欧米の販売網に、タダノの営業網と購買力を重ねれば、車載クレーンと高所作業車は伸び代が大きい。IHI運搬機械の定置式クレーンは、国内の高層ビルと港湾の更新需要を取れる。
欧州は最大の改善余地だ。工場を絞った結果、固定費は軽くなった。赤字だった欧州が黒字に変わるだけで、全体の利益率は1ポイント以上動く。
中国勢の追い上げは確かに続く。それでも、ラフテレーンの世界4割という実績と、部品・整備の網は簡単に崩れない。電動クレーンと遠隔操作で先行すれば、値段を保ったまま差を広げられる。営業利益率が10%台に乗り、自己資本の稼ぎが資本コストを超える姿は十分にありうる。
慎重な見方
買収で膨らんだ資本に見合う稼ぎは、おそらく出ない。利益率はなかなか戻らず、中国勢に価格を押される。
ここ6年を見ても、営業利益率は最高で8%台にとどまる。2025年の5%台は一時的な落ち込みではなく、買収で低利益の事業が増えた結果として定着する恐れがある。関税の還付も一度きりで、2026年上期の利益の戻りはその分が大きい。
中国勢の脅威は、いま中価格帯に及ぼうとしている。三一重工や徐工は国内で数を作り、コストの学習が速い。新興国で先に取られたシェアは戻らない。欧州でもリープヘルとマニトワックが大型機を押さえ、タダノの赤字が続けば、再編の費用がまた出る。
買収の統合には、想像以上に時間がかかる。3件を短期間で買ったため、ブランド統一や共同購買に手が回らず、営業キャッシュフローは赤字、棚卸資産は積み上がっている。これは運転資金が増えているだけで、稼ぎが現金にならない証拠だ。のれんが増えた分、減損のリスクも抱える。
さらに、クレーンは景気に敏感な道具だ。次の景気後退で、受注が落ち、販売在庫の調整が重なると、営業赤字の年が来る。過去にも2021年3月期は赤字だった。割安に見える自己資本も、稼ぐ力が資本コストを下回るなら、帳簿の通りには評価できない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、利益率の改善が確かに進んでいる点と、買収した事業の伸び代が大きい点で説得力がある。一方、慎重な見方は、2018年以降、利益率が10%を超えた年がなく、買収の成果を測る材料がまだ出ていない点で重い。
どちらかが決定的に強いとは言えない。筆者は、売価の改善と関税の戻りは認めつつ、中国勢の価格圧力と買収の消化の遅れを軽く見ない。確率は中立に3割強を置き、慎重側の合計を楽観側の合計より少し厚くした。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 2,605 円3,323 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 564 円719 億円)。 今の値に割り戻すと 1,623 円2,070 億円、今との差 +27.9%、 期待の年率 +9.6%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,777 円7,368 億円 | 941 円1,200 億円 | +429.3% | +18.1% | 672 円857 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,066 円5,186 億円 | 776 円990 億円 | +281.6% | +14.3% | 1,065 円1,359 億円 |
| 中立 | 32% | 2,635 円3,362 億円 | 612 円780 億円 | +155.9% | +9.9% | 1,039 円1,325 億円 |
| やや悲観 | 24% | 853 円1,088 億円 | 353 円450 億円 | −5.0% | −0.5% | 289 円369 億円 |
| 悲観 | 12% | 706 円900 億円 | 157 円200 億円 | −32.0% | −3.8% | 103 円132 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,605 円3,323 億円 | 564 円719 億円 | +149.7% | +9.6% | 3,169 円4,042 億円 |
今の株価時価総額 1,269 円1,619 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 買収が実を結び、利益率10%台に定着する 利益 464 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 5,777 円7,368 億円
10年後、タダノのクレーン売上は今の2倍に達し、シェアは9.5%まで上がる。北米のデータセンターと電力の工事が長く続き、ラフテレーンの強さが大型機にも広がる。欧州は黒字に戻り、固定費の軽い体制で稼ぐ。
車載クレーンと高所作業車は、マニテックスとPMの網にタダノの営業力が乗り、シェアが3%を超える。IHI運搬機械の定置式クレーンも、国内の更新需要を取る。部品・整備は保有台数の増加で厚みを増し、全体の営業利益率は10%を超える。
自己資本の稼ぎは12%まで上がり、資本コストを大きく超える。この筋書きでは、買収が成功例に変わった会社として評価される。
- 建設用クレーン:数量 224(世界の移動式クレーン市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 19(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 4,277 億円・営業利益 449 億円。シェア9.5%、営業利益率10.5%
- 車載クレーン・高所作業車・運搬機械:数量 300(世界の車載クレーン・高所作業車・定置式クレーン市場(億ドル、実質、推定))× 価格 6.43(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,930 億円・営業利益 193 億円。シェア3.2%、営業利益率10.0%
- 部品・修理・中古車ほか:数量 96,000(稼働中の自社クレーン保有台数(台、推定))× 価格 111(1 台あたりの年間の部品・整備・中古売上(万円))→ 売上 1,061 億円・営業利益 191 億円。保有台数96,000台、営業利益率18.0%
倍率:事業の純利益 464 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.88 倍、時価総額 7,368 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:買収の統合・欧州の黒字化・中国勢の抑え込みが全部そろう必要がある。揃う確率は低いので1割にとどめた。
やや楽観 22% 統合が進み、利益率9%で安定する 利益 354 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 4,066 円5,186 億円
10年後、世界のクレーン市場は実質で1.3倍近くまで広がり、タダノのシェアは9%を保つ。中国勢に取られる分を、北米と日本の大型案件でほぼ取り返す。欧州の赤字は消え、営業利益率は9%に乗る。
車載クレーンと高所作業車は、共同購買の効果で利益率が改善する。部品・整備の事業は保有台数の増加とともに厚みを増す。
買収の統合は想定より時間がかかるが、のれんの減損は避ける。自己資本の稼ぎは10%に届き、資本コストをわずかに超える。
株主への還元は純利益の4割ほどを保ち、配当は景気の谷でも大きく崩れない。ただ、中国勢の価格圧力は残り、強気の筋書きのように利益率が10%台に乗るまでは届かない。筆者は、この姿を買収の成果が一定は出た姿と見る。
- 建設用クレーン:数量 208(世界の移動式クレーン市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 18(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 3,763 億円・営業利益 339 億円。シェア9.0%、営業利益率9.0%
- 車載クレーン・高所作業車・運搬機械:数量 280(世界の車載クレーン・高所作業車・定置式クレーン市場(億ドル、実質、推定))× 価格 6.03(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,688 億円・営業利益 144 億円。シェア3.0%、営業利益率8.5%
- 部品・修理・中古車ほか:数量 92,000(稼働中の自社クレーン保有台数(台、推定))× 価格 111(1 台あたりの年間の部品・整備・中古売上(万円))→ 売上 1,017 億円・営業利益 173 億円。保有台数92,000台、営業利益率17.0%
倍率:事業の純利益 354 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.65 倍、時価総額 5,186 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:売価の改善と関税の戻りは足元で確認でき、買収の統合も一定は進む。強気の見方に近い位置で、確率を厚めに置いた。
中立 32% 利益率は7%台、自己資本の稼ぎは資本コスト並み 利益 257 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 2,635 円3,362 億円
10年後、世界の移動式クレーン市場は実質で1.25倍ほどに広がる。タダノのシェアは8.5%で横ばいだ。北米のデータセンター需要は取るが、新興国で中国勢にシェアを削られる。
欧州は黒字に戻るが、利益率は低いままだ。車載クレーンと高所作業車は、市場の伸びに乗って規模は大きくなるが、利益率は7%にとどまる。部品・整備は16%と高い利益率を保つ。
全社の営業利益率は7%台、純利益は250億円台に乗る。自己資本の稼ぎは資本コストと同じ水準にとどまり、市場は買収の成果を認めるとも認めないともいえない評価を続ける。
- 建設用クレーン:数量 200(世界の移動式クレーン市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 17(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 3,417 億円・営業利益 239 億円。シェア8.5%、営業利益率7.0%
- 車載クレーン・高所作業車・運搬機械:数量 260(世界の車載クレーン・高所作業車・定置式クレーン市場(億ドル、実質、推定))× 価格 5.43(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,411 億円・営業利益 99 億円。シェア2.7%、営業利益率7.0%
- 部品・修理・中古車ほか:数量 88,000(稼働中の自社クレーン保有台数(台、推定))× 価格 111(1 台あたりの年間の部品・整備・中古売上(万円))→ 売上 973 億円・営業利益 156 億円。保有台数88,000台、営業利益率16.0%
倍率:事業の純利益 257 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.08 倍、時価総額 3,362 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気と慎重の議論の落としどころ。足元の利益改善は認めるが、過去の利益率の高さは再現しないと見る。
やや悲観 24% 中国勢が中価格帯に及び、利益率は5%を割る 利益 128 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 853 円1,088 億円
10年後、中国の三一重工と徐工が中価格帯のラフテレーンを取り始め、タダノのシェアは7%まで下がる。値引きで対抗するが、利益率は5%を切る。
車載クレーンと高所作業車の統合は進まず、利益率は4%にとどまる。部品・整備は高い利益率を保つが、保有台数の伸びが鈍り、全体の利益を支えきれない。
営業利益率は5%を割り、純利益は130億円ほどにとどまる。自己資本の稼ぎは資本コストを下回る。この水準では、積み上げた自己資本を帳簿の通りに評価できなくなる。
配当は性向30%の目安を守れても、利益そのものが細るため総額は増えない。欧州が黒字になっても、他の地域で価格を割る分が上回る。買収の成果が見えないまま、次の景気後退を迎える形だ。
- 建設用クレーン:数量 184(世界の移動式クレーン市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 14(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 2,589 億円・営業利益 104 億円。シェア7.0%、営業利益率4.0%
- 車載クレーン・高所作業車・運搬機械:数量 240(世界の車載クレーン・高所作業車・定置式クレーン市場(億ドル、実質、推定))× 価格 4.82(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,158 億円・営業利益 46 億円。シェア2.4%、営業利益率4.0%
- 部品・修理・中古車ほか:数量 84,000(稼働中の自社クレーン保有台数(台、推定))× 価格 107(1 台あたりの年間の部品・整備・中古売上(万円))→ 売上 901 億円・営業利益 126 億円。保有台数84,000台、営業利益率14.0%
倍率:ROE 4.4% が k 以下で、PER は 1÷k = 11.8 倍まで。稼ぐ力(純利益÷k)から、上限の 7 割台の 8.5 倍に置いた。中国勢の値引きで利益が細った姿に、帳簿の自己資本をそのまま評価しない。純有利子負債 594 億円を足した EV÷営業利益は 9.9 倍。
確率:中国勢の価格圧力は構造的で、すでに新興国で表れている。買収の統合の遅れも重なりうるため、強気の側の合計を少し上回る確率を置いた。
悲観 12% 構造的に値決め力を失い、買収は減損に 利益 32 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 706 円900 億円
10年後、中国勢がラフテレーンの価格帯をほぼ取り、タダノのシェアは5.5%まで落ちる。クレーン事業は赤字を脱せず、欧州だけでなく世界で固定費を回収できない。
買収した事業ものれんの減損に追い込まれ、車載クレーンと高所作業車は赤字寸前、運搬機械は売却や縮小を迫られる。部品・整備だけが利益を出すが、保有台数の伸びが止まり、全体を支える力はない。
営業利益率は2%を割り、純利益はほぼ消える。事業の稼ぐ力はなくなり、価値は工場や在庫などの資産を売った時の手取りで測るしかない。
配当は最低限にとどまり、借り換えの金利が上がる中で財務の余裕も細る。手持ちの現金を運転資金と借金の返済に回すため、新しい投資や還元に使える分はほとんど残らない。10年で優良企業の座を失う、最も厳しい姿だ。
- 建設用クレーン:数量 168(世界の移動式クレーン市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 11(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,857 億円・営業利益 0 億円。シェア5.5%、営業利益率0.0%
- 車載クレーン・高所作業車・運搬機械:数量 220(世界の車載クレーン・高所作業車・定置式クレーン市場(億ドル、実質、推定))× 価格 4.02(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 884 億円・営業利益 13 億円。シェア2.0%、営業利益率1.5%
- 部品・修理・中古車ほか:数量 80,000(稼働中の自社クレーン保有台数(台、推定))× 価格 103(1 台あたりの年間の部品・整備・中古売上(万円))→ 売上 823 億円・営業利益 91 億円。保有台数80,000台、営業利益率11.0%
倍率:中国勢に値決めの力を奪われ、稼ぐ力はほぼ消える。純現金+売れる資産の税後を床にした。約 900 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。純有利子負債 594 億円を足した EV ÷ 営業利益は 25 倍だが、利益が谷まで落ちた年なので、値は床の資産で測り、EV の倍率は参考にしない。
確率:中国勢が高価格帯まで及び、景気の谷が重なる複合の筋書き。資本財では10年で優位を失う例が繰り返されており、無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建設用クレーン
ラフテレーン・オールテレーン・トラッククレーンなど移動式クレーンの製造販売。
| 数量世界の移動式クレーン市場(億ドル、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 160 | 13 | 2,073 | 90 |
| 10 年後 中立 | 200 | 17 | 3,417 | 239 |
取り方:2025年12月期の売上3,495億円のうち建設用クレーンは59.3%(約2,073億円)。調査会社の推計で世界の移動式クレーン市場は年150億〜170億ドル(GM Insights 2025・同社試算でタダノのシェア7.9%)。今の値段で160億ドルとして、シェア8.6%から逆算した。利益は欧州の赤字約33億円と再編費用を含む約90億円(4.3%)と推定。
車載クレーン・高所作業車・運搬機械
車載クレーン(Manitex・PM)、高所作業車(長野工業・Oil & Steel)、IHI運搬機械由来の定置式クレーン。
| 数量世界の車載クレーン・高所作業車・定置式クレーン市場(億ドル、実質、推定) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 200 | 3.81 | 762 | 38 |
| 10 年後 中立 | 260 | 5.43 | 1,411 | 99 |
取り方:車載クレーン11.6%・高所作業車8.6%・運搬機械1.6%の合計約762億円。この領域の世界市場は車載クレーンと高所作業車を中心に約200億ドル規模と推定(開示なし・筆者の見積り)し、シェア約2.5%から逆算。利益は買収費用と統合途上を含め約38億円(5%)と推定。
部品・修理・中古車ほか
純正部品・整備・中古クレーンの販売。
| 数量稼働中の自社クレーン保有台数(台、推定) | 価格1 台あたりの年間の部品・整備・中古売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 80,000 | 83 | 660 | 108 |
| 10 年後 中立 | 88,000 | 111 | 973 | 156 |
取り方:売上の約19%(約660億円)。稼働保有台数は推定で約8万台、1台あたり年82.5万円の部品・整備・中古売上として積んだ(開示なし)。利益率は本体より高く約16%(約108億円)と推定。
リスクと懸念
中国勢の価格攻勢が中価格帯に届く
三一重工・徐工・中聯重科は自国で量を作り、新興国で先にシェアを取っている。いまは中価格帯に上がる途中で、ラフテレーンの本丸に及べば、値引きで利益率が削られる。新興国で失ったシェアは戻りにくい。
買収した事業の統合が進まない
長野工業、マニテックス、IHI運搬機械の3件を2年足らずで取り込んだ。ブランド統一や共同購買が遅れれば、低い利益率のまま規模だけが残る。のれんは16億円から178億円に増えており、減損の種にもなる。
欧州事業の赤字が続く
2025年12月期の欧州の営業損失は33億円だった。独バラシャイド工場の閉鎖と生産の集約で費用は山を越えたが、2026年上期も欧州クレーンの受注環境は厳しい。黒字化が遅れると、全体の利益率の戻りが止まる。
景気の山谷と受注の振れ
クレーンは設備投資の遅れに敏感で、受注の落ち込みが利益に出るまで半年から1年かかる。2021年3月期は営業赤字だった。棚卸資産は1,700億円を超え、景気が崩れると在庫の調整が一気に損益に響く。
関税・為替・中東など外部要因
米国の関税は2025年に利益を圧迫し、2026年上期は還付が営業利益を押し上げた。この還付は一度きりで、戻りを実力と見誤りやすい。中東の出荷延期や、ドル円・ユーロ円の振れも利益を動かす。
キャッシュ化の遅さ
2025年12月期の営業キャッシュフローは赤字で、棚卸資産と売上債権が重い。受注から現金になるまでの日数も長くなっている。借り換えの金利が上がる世界では、利払いの増加も利益を圧迫する。
今後の分かれ目
- 欧州のクレーン事業が通年で黒字に転じたら
- 全社の営業利益率が1ポイント近く動く。強気の筋書きの確率を上げてよい。
- 中国勢が欧米のオールテレーン・ラフテレーンの入札で価格を割り込んだら
- 中価格帯への侵食が本格化したとみて、慎重な筋書きの確率を上げる。
- 買収した3事業のうち1つで大きな減損が出たら
- 統合の遅れが現実になった合図だ。のれんの残りも点検が要る。
- 営業キャッシュフローが黒字に戻り、棚卸資産が減り始めたら
- 買収後の運転資金の重さが一時的だったと確認でき、資本の稼ぎの改善に近づく。
- 他社からの買収提案や資本提携の話が出たら
- 自己資本を下回る時価総額は、買い手にとって魅力的に映りうる。ただし、価値は事業の稼ぎで測り、提案価格には寄せない。
- 北米のデータセンター・電力向けの需要が急に冷えたら
- 北米が伸びを支える前提が崩れ、中立の売上と利益率を下げて見直す。
見ておくもの
- 欧州クレーン事業の損益(通年での黒字化)
- 営業キャッシュフローと棚卸資産・CCC(受注から現金化までの日数)
- ブランド統一・共同購買などの統合成果の開示
- 中国勢の欧米・新興国での価格と受注
- 北米のデータセンター・電力向けクレーンの受注
- のれんの残高と減損の有無
倍率と資本コストの決め方
数量は世界の移動式クレーン市場(実質)×シェア、価格はシェア×150円×物価の倍率で積んだ。利益率はセグメントごとの構造から置き、過去の山には寄せていない。倍率は利益ベースの正当化PERで、中立はROEが資本コストに近いため上限の約85%の10倍に置いた。今の株価・過去のPER・PBR・同業の倍率は根拠にしていない。利払いの変化と事業ごとの税の差は純利益÷営業利益の比に収めた。2028年以降のリース会計の変更は、10年後の数字を今と同じ形(家賃を営業費用に入れる形)にそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.2→15.88 倍・やや楽観 PER 10.7→14.65 倍・中立 PER 10→13.08 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.0% = 8.5%。中国勢の価格圧力と買収の消化の遅れは k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.75%。