結論
理想科学工業は、学校や役所の印刷室にある「リソグラフ」(孔版印刷機)と、高速インクジェットプリンター「オルフィス」の会社だ。本体を売り、インクなどの消耗品で長く稼ぐ。筆者の結論は割高。事業は堅いが、稼ぐ力が資本コストに届かず、今の値段にその余裕は見えない。
売上は 790 億円で、10 年前からほとんど動いていない。インクジェットは売上の 56% ほどまで育ったが、利益の厚い孔版は紙の書類が減るにつれて細る。営業利益率は 6% 台。自己資本は 688 億円と厚く、自己資本比率は 72% だが、それを稼ぎに変えられていない。ROE(自己資本利益率)は 6% 台である。
中立の筋書きでは、10 年後も売上は 900 億円台、純利益は 50 億円ほどだ。ROE は 6% 台のまま、資本コスト 8.25% に届かない。こうなると、利益に掛けられる倍率は 10 倍を超えない。今の時価総額 691 億円は、この筋書きより高い。
上振れの鍵は、インクジェットヘッドの外販と、学校向けのデジタル教材だ。ただ会社は次の中期計画を作らないと言っており、変化の速さは読みにくい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、良い事業と良い値段は別の話だ。孔版は、買い替えのたびにマスターとインクが売れる、良い仕組みの事業だった。しかしその市場は縮み続けている。オーナー利益、つまり再投資を引いた株主の取り分は、孔版の老朽化を新しい稼ぎで埋める分だけ目減りする。
インクジェットは、規模が伸びても利益率が低い。売上の 56% を占めるのに、利益への貢献は 3 割程度とみる。この部門が孔版並みの採算になるかが、10 年後の価値を決める。
資本の使い方は、守りに寄りすぎている。自己資本が 688 億円あるのに、ROE は 6% 台だ。稼いだ利益のほとんどは配当に回り、事業に必要な分以外の現金を成長に使う形が見えない。
安全域の面では、今の時価総額 691 億円は、自己資本と同じ水準にある。割安に見えるが、ROE が資本コストを下回る会社の簿価は、額面ほどの価値がない。筆者は、稼ぐ力から測った値段より、今の値段が高いと見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、紙に刷る機械とその消耗品だ。連結売上 790 億円のうち 773 億円が印刷機器で、不動産が 11 億円、その他が 6 億円。印刷機器は日本が 358 億円、海外が 416 億円で、海外のほうが大きい。欧州 196 億円、アジア 163 億円、米州 56 億円という内訳である。
孔版のリソグラフは、小さな穴をあけた原紙(マスター)にインクを通して刷る。1 枚あたりの印刷費が安く、学校のプリント、自治体の広報、選挙関連の印刷などに向く。機械を売ったあと、マスターとインクが毎年売れるのが収益の形だ。国内ではほぼ 7 割のシェアと会社は言う(会社の採用ページの記述で、第三者の数字は確認できなかった)。
インクジェットのオルフィスは、1 回の通過で紙全体を刷る高速機だ。レーザー方式の複写機より電気代と消耗品費が安いと訴える。売上に占める比率は過去 10 年で約 48% から約 56% に上がった。2024 年に設立した理想テクノロジーズは、このヘッドを自社の機械だけでなく外にも売る事業を担う。
製造は日本のほか中国・タイにもある。連結従業員は 2,865 人。不動産は賃貸ビルの収入で、利益は 6 億円ほどと小さいが、安定している。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、消耗品で長く稼ぐ形と、財務の堅さだ。孔版の顧客は一度機械を入れると、マスターとインクを買い続ける。自己資本比率は 72%、手元資金は有利子負債を引いても 96 億円残る。営業利益 51 億円は支払利息の 50 倍を超える。倒れる心配はほとんどない。
弱みは、稼ぐ力が資本の厚さに見合わないことだ。営業利益率は過去 10 年で 2% から 8% の間を動き、ROE の中央値は 5% 台。2026 年 3 月期の純利益 44 億円は、投資有価証券の売却益を含む。それを除いた実力はおよそ 39 億円である。
堀は孔版では強いが、市場そのものが縮む。紙の書類が減るのは社会全体の流れだ。インクジェットでは、複写機・レーザー大手や、エプソンなどのビジネス向けインクジェットとぶつかる。価格を自分で決める力は、孔版の消耗品にだけ残る。
経営は堅実で、無理な買収や借金に頼らない。一方、資本をどう使うかの姿勢は慎重すぎる。次の中期計画を作らず、長い目で運営するという方針は、短期の数字に振り回されない利点がある。しかし資本効率をいつまでに上げるかが見えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
孔版の市場は、日本の学校・自治体・官公庁が中心だ。紙のプリントや広報物の量が減るのに合わせて、市場は実質で年 3〜4% 縮んでいるとみる。今期の決算でも、日本の孔版販売が減ったことが減益の一因になった。
インクジェットの高速機は、オフィスや印刷会社の小ロットが主戦場だ。複写機・レーザープリンターの大手が、同じ顧客に機械を売る。エプソンはヘッドの外販を始めており、その外販市場は 1,000 億円規模と同社が説明していた(2020 年時点)。ヘッドの外販は理想テクノロジーズの狙いと重なり、競争も激しい。
循環の位置では、景気の波より構造の変化が効く。インクジェットは本体販売が海外で弱く、今期は減収要因になった。一方で、フィリピンの販売店の事業を引き継ぎ、現地の販売網を直接持つ。この負担は 2027 年 3 月期の一時費用とのれん償却になる。
筆者が気にするのは、紙の印刷そのものが細る中で、同社が選んだインクジェットが「伸びる市場」ではなく「奪い合う市場」である点だ。教育向けのデジタル教材は、孔版の顧客との接点を保つ試みで、成否はまだ見えない。
資本政策と M&A
還元は安定配当と、機動的な自社株買いだ。配当は据え置きで、2027 年 3 月期も同額を予定する。総額は 31 億円で、純利益の 7 割ほどに当たる。自社株買いは今期 15 億円で、取得した株は原則として消却する。
来期の自社株買いは 2 億円が上限で、規模は小さい。厚い財務に比べて、資本効率を上げる意欲は控えめに見える。
大株主は、資産管理会社の理想社が 15.7%、理想教育財団が 8.5%。羽山尚氏が創業家関係者として 5.6% を持つという大量保有報告もある。創業家系の安定株主が厚く、買収に向けた圧力はかかりにくい。
政策保有株は、毎年検証して縮減する方針だ。今期は売却益 7 億円を計上した。M&A は大型の買収より、販売店の承継のような小口が中心である。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
孔版は消耗品で稼ぐ事業なので、機械が減っても既存の顧客の消耗品が残る。市場が縮んでも、国内の約 7 割というシェアが利益の底を支える。学校向けのデジタル教材デジパルは、その顧客との接点を長く保つ。
インクジェットは売上の過半を占めるまで育った。理想テクノロジーズがヘッドを外に売れば、機械の販売台数に頼らない収益が生まれる。欧州で新ブランド Integlide の受注が始まり、海外の本体販売の弱さを補う余地がある。
そのうえ財務は実質無借金で、自己資本比率は 72%。金利が上がれば、手元資金の利息が増える。今期の利益は売却益で押し上げられているが、実力の 39 億円が 50 億円を超える水準まで戻る余地はある。会社が中期計画を作らず長期視点で運営するのも、短期の数字で無理をしない堅実さの表れである。孔版の消耗品が下支えし、インクジェットが育てば、10 年後の営業利益率が 8% を超える形は十分ありうる。
慎重な見方
孔版の市場は、紙の書類の減少で構造的に縮む。国内の孔版販売の減少は今期の減益の一因になっており、学校のデジタル化が進めば減り方は速まる。シェアが高くても、市場そのものが小さくなる事業に将来の稼ぎは預けられない。
インクジェットは売上の過半を占めるのに、利益への貢献が小さい。複写機・レーザー大手や、エプソンなどが同じ顧客を狙い、価格競争が避けられない。ヘッドの外販も、エプソンなど先行する大手と競う分野だ。海外の本体販売は今期に減った。
資本効率も弱い。ROE は 6% 台で、自己資本 688 億円が働いていない。会社は次の中期計画を作らないと言っており、資本効率をいつまでに上げるかの約束がない。自社株買いも来期は 2 億円が上限と小さい。
今の時価総額は自己資本とほぼ同じだが、ROE が資本コストを下回る会社の簿価は額面ほどの価値がない。来期は販売店の承継で一時費用とのれん償却が出て、営業利益は 49 億円に減る見込みだ。収益力は上向く兆しより、下向く兆しのほうが多い。
どちらに重みを置いたか
孔版の縮みという確かな事実と、インクジェットの採算がまだ低いことから、慎重な見方に分がある。強気の見方は財務の堅さと消耗品の強さを挙げるが、それは「倒れない」理由であって、「資本コストを上回って稼ぐ」理由ではない。確率は中立に最も重く寄せ、その下に厚みを持たせた。上振れは、ヘッド外販と教育向けが同時に当たる形に絞り、確率を低くした。結論は割高である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,134 円708 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 505 円315 億円)。 今の値に割り戻すと 853 円533 億円、今との差 −23.4%、 期待の年率 +3.9%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,107 円1,316 億円 | 842 円526 億円 | +165.0% | +10.2% | 236 円147 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,527 円954 億円 | 641 円400 億円 | +94.8% | +6.9% | 434 円271 億円 |
| 中立 | 38% | 1,182 円738 億円 | 535 円334 億円 | +54.2% | +4.4% | 652 円407 億円 |
| やや悲観 | 24% | 732 円457 億円 | 376 円235 億円 | −0.4% | 0.0% | 266 円166 億円 |
| 悲観 | 10% | 353 円220 億円 | 160 円100 億円 | −53.9% | −7.5% | 51 円32 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,134 円708 億円 | 505 円315 億円 | +47.3% | +3.9% | 1,639 円1,024 億円 |
今の株価時価総額 1,113 円695 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% ヘッド外販と教育向けが当たり、インクジェットが主役になる 利益 92 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,107 円1,316 億円
インクジェットが孔版に代わる稼ぎ頭になる筋書きだ。理想テクノロジーズが他社向けにヘッドを売り、本体は欧州の新ブランド Integlide が広がる。学校向けのデジタル教材デジパルが、孔版の顧客である小学校との接点を保つ。孔版の市場は減るが、学校と自治体の需要が粘り、減り方は年 2〜3% にとどまる。
本体の台数が増え、インクの売上が後から積み上がる。ヘッドの量産で原価が下がり、インクジェットの営業利益率は 9% まで上がる。孔版は固定費を抱えたまま、値上げで 11% を守る。全社の営業利益率は 9.5% となり、会社が 1990 年代に出した水準に近づく。
還元も厚くなる。利益が伸びる自信と、余った現金を戻す姿勢が重なり、自社株買いが続く。ROE は 11% 台に乗る。理想科学が「長く続く消耗品の会社」として評価される、最も良い 10 年である。
- インクジェット(オルフィス):数量 5,200(当社が競う高速・ビジネス向けインクジェットの市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質))× 価格 15.0%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 780 億円・営業利益 70 億円。営業利益率9.0%
- 孔版(リソグラフ)・消耗品ほか:数量 374(孔版・簡易印刷の市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質))× 価格 97.2%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 364 億円・営業利益 40 億円。営業利益率11.0%
- 不動産・その他:数量 100(指数(今を 100、実質))× 価格 0.23(物価の倍率(10 年 1.34 倍)× 当社売上の水準)→ 売上 23 億円・営業利益 1 億円。営業利益率3.5%
倍率:事業の純利益 92 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.88 倍、時価総額 1,190 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:インクジェットの外販・欧州の新ブランド・教育向けが同時に当たり、孔版の落ち込みも緩やかにとどまる必要がある。3 つが揃う確率は低いので 8% にとどめた。
やや楽観 20% インクジェットが孔版の減りを補い、利益はゆっくり増える 利益 68 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,527 円954 億円
孔版の減りをインクジェットがほぼ埋める筋書きだ。本体販売は海外で伸び、インクの売上が積み上がる。ヘッド事業は他社向けの量が少しずつ増え、開発費を分け合える。孔版は学校・自治体で使われ続けるが、紙の配布物が減り、市場は 10 年で 3 割弱縮む。
値段は物価にほぼ沿って上がる。インクジェットの営業利益率は 7%、孔版は 10% 台半ばで、全社では 8% に届く。2023 年に出した水準が定着する形だ。
還元は純利益の 7 割台で続く。ROE は 8% 台にとどまり、資本コストにわずかに届かない。事業は安定するが、資本の使い方が劇的に変わるわけではない。堅実な 10 年である。
- インクジェット(オルフィス):数量 4,600(当社が競う高速・ビジネス向けインクジェットの市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質))× 価格 14.6%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 670 億円・営業利益 47 億円。営業利益率7.0%
- 孔版(リソグラフ)・消耗品ほか:数量 346(孔版・簡易印刷の市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質))× 価格 94.4%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 326 億円・営業利益 34 億円。営業利益率10.5%
- 不動産・その他:数量 100(指数(今を 100、実質))× 価格 0.23(物価の倍率(10 年 1.34 倍)× 当社売上の水準)→ 売上 23 億円・営業利益 1 億円。営業利益率3.0%
倍率:事業の純利益 68 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 822 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:インクジェットの黒字化は会社の長年の課題で、うまく進む可能性は十分ある。ただ孔版の減りも確実なので、中立より低い 20% とした。
中立 38% 中立:売上は横ばい、利益は今の延長で資本効率は低いまま 利益 50 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,182 円738 億円
売上は物価の分だけ名目で伸びるが、中身は入れ替わる筋書きだ。インクジェットは実質で 5% ほど増え、売上の 6 割を超える。孔版は実質で 3 割強減り、売上の 3 割台に下がる。値段は物価並みか、競争でやや下回る。
営業利益率は 6.5% 前後で今と変わらない。インクジェットは規模が増え 5% まで改善するが、孔版の固定費負担が重くなり、改善分を食う。金利の上昇で、手元の現金から入る利息が年 1 億円ほど増える。
配当は今の水準を保ち、自社株買いは小さく続く。ROE は 6% 台で、資本コストを下回ったままだ。優良な財務は残るが、稼ぐ力は物価の上昇にようやく追いつく程度。穏やかで、あまり報われない 10 年になる。
- インクジェット(オルフィス):数量 4,200(当社が競う高速・ビジネス向けインクジェットの市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質))× 価格 14.1%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 594 億円・営業利益 30 億円。営業利益率5.0%
- 孔版(リソグラフ)・消耗品ほか:数量 326(孔版・簡易印刷の市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質))× 価格 94.4%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 308 億円・営業利益 29 億円。営業利益率9.5%
- 不動産・その他:数量 100(指数(今を 100、実質))× 価格 0.23(物価の倍率(10 年 1.34 倍)× 当社売上の水準)→ 売上 23 億円・営業利益 1 億円。営業利益率3.0%
倍率:事業の純利益 50 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.3% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 606 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:インクジェットは伸びるが、孔版の減りとほぼ釣り合う。会社が中期計画を作らず、長期の視点で運営すると言っていることも、急な改善を見込みにくくする。最も重い 38% とした。
やや悲観 24% 価格競争と孔版の急減で利益が縮む 利益 28 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 732 円457 億円
インクジェットが値下げ競争に巻き込まれ、孔版も思ったより早く縮む筋書きだ。学校でのデジタル配布が進み、孔版の実質の市場は 10 年で 4 割減る。インクジェットは中国・東南アジアの安い機種と大手の同等品に挟まれ、値段は物価に追いつかない。
営業利益率は 4% 台に下がる。販売会社の整理や、フィリピンなどで買い取った事業の償却が重しになる。名目の売上は今と同じ水準で、物価の分だけ中身が痩せる。
配当は据え置きに近いが、自社株買いは止まる。ROE は 3% 台にとどまる。事業は続くが、「理想科学ならでは」の強みが見えなくなる。
- インクジェット(オルフィス):数量 3,680(当社が競う高速・ビジネス向けインクジェットの市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質))× 価格 13.7%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 504 億円・営業利益 13 億円。営業利益率2.5%
- 孔版(リソグラフ)・消耗品ほか:数量 288(孔版・簡易印刷の市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質))× 価格 91.5%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 264 億円・営業利益 21 億円。営業利益率8.0%
- 不動産・その他:数量 100(指数(今を 100、実質))× 価格 0.22(物価の倍率(10 年 1.34 倍)× 当社売上の水準)→ 売上 22 億円・営業利益 0 億円。営業利益率2.0%
倍率:ROE 3.6% が k 8.25% を大きく下回り、ためた利益は額面以下の価値。成長を見込めず、稼ぐ力(純利益 ÷ k)から 8.0 倍に置いた。上限 1÷k の 11.8 倍の 7 割を引き上げていない。
確率:複写機・レーザー大手とエプソンなどが同じ市場を狙い、価格が上がらない形は十分ありうる。教育のデジタル化で孔版が急に減る形と合わせて 24% とした。
悲観 10% 両方の事業で構造的に負ける 利益 −7 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 353 円220 億円
孔版の市場が実質で 6 割縮み、インクジェットも値下げ競争で赤字になる筋書きだ。学校や役所が紙の印刷を急に減らし、リソグラフの買い替えが止まる。孔版のインク・マスターを買う顧客が減れば、固定費だけが残る。
インクジェットは大手の同等品と中国製に押され、値段は物価の 1.15 倍にとどまる。ヘッドの外販も伸びない。営業損益は赤字に落ち、販売会社の再編や在庫の評価損が出る。
自己資本は減損で 60 億円ほど減る。配当は大きく削られ、事業は縮小か売却の話に近づく。このときの価値は、稼ぐ力ではなく、現金と売れる土地・在庫に頼ることになる。
- インクジェット(オルフィス):数量 3,200(当社が競う高速・ビジネス向けインクジェットの市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質))× 価格 12.5%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 400 億円・営業利益 −12 億円。営業利益率-3.0%
- 孔版(リソグラフ)・消耗品ほか:数量 192(孔版・簡易印刷の市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質))× 価格 84.5%(実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 162 億円・営業利益 3 億円。営業利益率2.0%
- 不動産・その他:数量 100(指数(今を 100、実質))× 価格 0.21(物価の倍率(10 年 1.34 倍)× 当社売上の水準)→ 売上 21 億円・営業利益 0 億円。営業利益率0.0%
倍率:営業赤字で稼ぐ力はほぼ消える。純現金と売れる資産の税後 220 億円を床とし、PBR は今の自己資本 688 億円で割った 0.32 倍に置いた。
確率:孔版が消え、インクジェットの価格競争に負ける形は、10 年なら起こりうる。ただ財務が厚く赤字が長く続く前に手を打てるので 10% にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
インクジェット(オルフィス)
高速インクジェットプリンター「オルフィス」と、そのインク・保守。売上の約 56% を占める成長事業で、ヘッドの外販も担う。
| 数量当社が競う高速・ビジネス向けインクジェットの市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,000 | 10.9% | 435 | 12 |
| 10 年後 中立 | 4,200 | 14.1% | 594 | 30 |
取り方:会社はインクジェットと孔版の売上・利益を分けて開示していない。印刷機器 773 億円のうち、決算説明資料にある売上構成比約 56% から 435 億円とした。市場規模 4,000 億円は、当社が競う高速機とビジネス向けの規模の推定で、シェアは約 10.9%。利益は印刷機器のセグメント利益 48 億円のうち 12 億円と推定した(孔版が利益の大半を稼ぐとの見立て)。数量は今の値段で測った実質で、物価の分は価格に入れた。
孔版(リソグラフ)・消耗品ほか
孔版印刷機「リソグラフ」と、マスター・インクなどの消耗品。学校・自治体・官公庁が中心の国内の稼ぎ頭。
| 数量孔版・簡易印刷の市場規模(億円、推定、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 億円あたりの当社売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 480 | 70.4% | 338 | 36 |
| 10 年後 中立 | 326 | 94.4% | 308 | 29 |
取り方:印刷機器 773 億円から、インクジェットの 435 億円を引いた残りを孔版・消耗品ほかとした。会社の自己申告のシェア約 7 割から、市場を 480 億円と推定した(第三者の数字は確認できていない)。利益は印刷機器の 48 億円から、インクジェットの 12 億円を引いて 36.4 億円とした推定。数量は今の値段で測った実質。
不動産・その他
賃貸ビルの収入と、その他の小さな事業。不動産は安定した利益、その他は赤字。
| 数量指数(今を 100、実質) | 価格物価の倍率(10 年 1.34 倍)× 当社売上の水準 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.17 | 17 | 3 |
| 10 年後 中立 | 100 | 0.23 | 23 | 1 |
取り方:不動産 10.6 億円(利益 6.4 億円)とその他 6.1 億円(損失 3.7 億円)の合計。数量は実質の指数で横ばい、価格は物価並みに上がる。
リスクと懸念
孔版の市場が思ったより早く縮む
孔版は学校・自治体・官公庁の紙の印刷が中心で、今期も国内の孔版販売の減少が減益の一因になった。デジタル配布が速く進めば、利益の厚い事業から先に細る。利益の源をインクジェットで埋め切れなければ、全社の稼ぐ力が落ちる。
インクジェットの採算が上がらない
売上の 56% を占めるのに、利益への貢献は小さいと推定される。複写機・レーザー大手やエプソンなどが同じ顧客を狙い、値段が物価に追いつかない形が続けば、育てる意味が薄れる。ヘッド事業の立ち上げ費用も重い。
為替と海外の事業
海外が売上の 5 割強を占め、米ドル・ユーロに対する円高が利益に響く。中国・タイの製造拠点にはカントリーリスクがある。海外の本体販売は今期に減っており、欧州の新ブランド Integlide が立ち上がるまでの谷が心配だ。
資本効率が上がらない
自己資本 688 億円に対し、ROE は 6% 台。会社は次の中期計画を作らず、自社株買いも来期は 2 億円が上限と小さい。創業家系の安定株主が厚く、外からの圧力もかかりにくい。この状態が続けば、株価は低い倍率に留まる。
販売店の承継に伴う負担
フィリピンの販売店の事業を引き継いだ。2027 年 3 月期は一時費用とのれん償却で営業利益が 49 億円に減る見込みだ。承継した事業が育たなければ、のれんの減損に進む可能性がある。
原材料の上昇
インクなどの原材料にはナフサ由来の石油化学品が使われる。中東情勢で原料が上がれば、消耗品の原価が上がる。会社は来期の計画に上昇を織り込んだと説明している。値上げで転嫁できるかが問われる。
今後の分かれ目
- ヘッド事業が他社向けの大口を獲得し、外販の売上が見えてきたら
- インクジェットの利益が機械の台数に左右されにくくなる。楽観・やや楽観の確率を上げる。
- 孔版の国内販売の減少が年 2 桁に加速したら
- 孔版の縮みが想定より速い。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 会社が新しい中期計画を出し、ROE や還元の目標を示したら
- 資本効率が動く手がかりになる。目標が実行されるかを見て、倍率の前提を見直す。
- インクジェットの営業利益率が 5% を超え、2 期続けて保たれたら
- 全社の営業利益率が 7〜8% で定着する可能性が高まる。やや楽観の確率を上げる。
- 大きな自社株買いや政策保有株の大規模な売却が示されたら
- 還元が増え、ROE が上がる方向に動く。楽観側の確率を上げる。
- フィリピン事業などののれんの減損が出たら
- 買収の失敗の兆しとして、やや悲観側に重みを移す。
見ておくもの
- 孔版の国内販売の前年比(学校・自治体向けの減り方)
- インクジェットの売上と利益率、ヘッド外販の開始と大口の受注
- 新しい中期計画の有無、ROE・還元の目標
- 海外の本体販売と、為替(ドル・ユーロ)の影響
倍率と資本コストの決め方
インクジェットと孔版を、それぞれ実質の市場規模 × シェアと、物価の分を乗せた価格で積み上げた(市場規模は推定で、孔版のシェアは会社の自己申告)。10 年後の純利益に、利益ベースの正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g) を当てた。k は基本 7.5% に quality +1.0% で 8.5%、g は事業の成長に合わせて 3〜4%、堀は弱いので残る割合は 1/3。ROE が k を下回る中立・やや悲観は、上限 1÷k の 11.8 倍を超えない。やや悲観は稼ぐ力(純利益 ÷ k)、悲観は純現金+売れる資産の床で測った。今の株価・PER・PBR、過去の倍率は根拠にしていない。純現金 96 億円は運転資金の範囲とみて、余った現金には分けていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12→12.88 倍・やや楽観 PER 10→12.12 倍・中立 PER 9.5→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.0% = 8.5%。孔版の縮小と競争は k に足さず、筋書きと確率で表す。