結論
巴工業は、化学品の専門商社と、遠心分離機(デカンタ)メーカーを一つに束ねた会社だ。売上の 7 割強が商社、利益の 3 分の 1 強が機械という構成になっている。筆者の結論は、今の値段はほぼ適正というものだ。事業の質は悪くないが、10 年で見ても利益の伸びは物価並みに近く、値段を上へ動かす材料に乏しい。
強みは二つある。一つは、シリカフュームや三酸化アンチモンのような、大手商社が手を出しにくい細かな商材で高いシェアを持つことだ。もう一つは、下水処理場に納めるデカンタで、国内の大都市の処理場の大半に入っていることだ。デカンタは納めたあとの保守が長く続き、これが機械の利益を支えている。財務は純現金で、自己資本比率は 7 割台と厚い。
伸びしろは三つに絞れる。半導体・AI 向けの機能材料と放熱材、インドや中国の石油化学向けデカンタ、そして工場の廃熱で発電する小型機だ。会社はこの 3 つで 10 年後に化学品 640〜700 億円、廃熱発電 100 億円以上を狙う。筆者は商社の薄い利ざやと、アンチモン相場の振れを割り引き、中立は会社の目標の下限あたりに置いた。
資本の使い方は改まりつつある。配当性向を 50% 以上へ上げ、純資産に対する配当率の下限も 5% と決めた。長く無借金だった財布も、新工場や買収に使い始める。ただ、利益に占める商社の比率が高く、倍率を高く置けるほどの堀ではない。値段は適正圏にあり、安全域は薄い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見たとき、この会社を長く持ちたいかと問えば、答えは「持てるが、安くなければ持たない」になる。機械の保守という長い収益と、純現金の厚い財布は好ましい。だが、利益の 3 分の 2 は、仕入先の方針ひとつで取り分が変わる商社が稼いでいる。
オーナーの手元に残る利益を考えてみる。利益は 40 億円前後だ。新工場の投資が続く間は、自由に使える分は多くない。経営は配当性向を 50% 以上へ上げ、純資産の 5% を最低限の配当にすると決めた。ためた現金を無理に積むより、返す姿勢だ。この点は評価できる。
経営の資本の使い方は、まだ試されていない。大きな買収で価値を壊した歴史は目立たないが、逆に、大きく成功した実績もない。戦略投資枠 30〜40 億円がどこへ向かうかで、評価は変わる。
安全域は薄い。中立で 10 年後の時価総額が今の 1.5 倍で、年にすると 4% ほどの値上がりと配当で、資本コストの 8% とほぼつり合う。悪い筋書きでも元本が大きく傷むほどではないが、良い筋書きでも今の値段から驚くほど上には行かない。見送りに近い、というのが筆者の感想だ。
何で稼ぐ会社か
巴工業の事業は、化学品を仲介する商社と、遠心分離機を作るメーカーの二つだ。2025 年 10 月期の売上は約 594 億円。商社が 441 億円、機械が 152 億円だった。営業利益は商社が 35 億円、機械が 18 億円で、売上の小さい機械が利益の 3 分の 1 強を稼ぐ。
化学品は、数万点を扱う専門商社だ。分野別では、鉱産(アンチモン、シリカフュームなど)が 139 億円、化成品が 105 億円、工業材料が 65 億円、機能材料が 52 億円、電子材料が 44 億円、合成樹脂が 36 億円になる。会社の説明では、利益の構成は無機系が 5 割、有機系が 3 割、半導体向けの部材が 2 割だ。商品知識のあるセールスエンジニアが顧客に張り付き、アフリカ・中東・東欧といった大手の少ない地域にも販路を持つ。在庫を持って安定して届ける、というのが商社としての売り物だ。
機械は、デカンタ型の遠心分離機が中心だ。液体の中の固体を、高速回転で分ける装置で、下水汚泥の脱水や石油化学、食品に使われる。納入は世界で 1 万 8000 台を超え、国内売上の 4 割強が下水・廃水向けだ。納入後の保守・部品が大きな収益源になる。売上の約 4 割は海外で、中国や東南アジアに強く、いまはインドを開拓している。2025 年に初受注したバイナリー発電(100℃ 以下の熱で発電する装置)や、スイスの超低温ベルト乾燥機の取り扱いが、次の柱の候補だ。
優良さと弱いところ
筆者の見立てでは、機械は堀が深く、商社は堀が浅い。両方を合わせて、ほどほどの堀、というのが妥当だ。
機械の堀は、納入実績と保守にある。「巴のデカンタ」と呼ばれるほど下水処理場で採用され、一度入ると保守と部品が何十年も続く。米シャープレス社の技術を引き継いだ耐久性が評価され、国内の大都市の処理場のほとんどに入っている。インドの塩ビ向け案件でも、競合は欧州の 1 社だけで、案件を分け合う形になっている。価格帯は 1000 万円から約 2 億円で、機械の営業利益率は 12% 前後と、会社全体を引き上げる。
商社の堀は、細かな商材での先行と、販路の広さだ。三酸化アンチモンは原料の大半が中国産だが、中国が輸出規制をかけた時も、供給元が中国以外から調達していて、巴は供給を切らさなかった。ただし商社は、仕入先が直接売ると決めれば中抜きされる。営業利益率は 8% 前後にとどまり、売上総利益 1 億円以上の商材を増やす、という会社の方針自体が、収益の振れを自覚している証拠だ。
資本効率は、この 10 年で大きく上がった。営業利益率は 3% 台から 9% に、ROE は 4% 台から 9% に届いた。純現金が 130 億円超あり、赤字の期もない。弱みは、規模が小さく、一つの商材や一つの大口案件の振れが利益に出やすいことだ。2026 年 10 月期の上期も、アンチモン相場の下落と競合の供給回復で、鉱産の売上が 12 億円ほど減った。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
巴工業の事業は、業種の中でも変わった位置にある。水処理の一部として遠心分離機が下水に使われるが、商社の収益は化学品の市況と、半導体の景気に左右される。業界ノートの水処理領域の前提(10 年の中立は市場が年 3〜5% 成長、悲観は国内公共投資の縮小で 1〜2%)は、機械の下水部分にだけ当てはめ、商社は別に考えた。
機械の需要は、国内の下水汚泥の処理更新が土台だ。人口が減るため、国内の台数は増えない。伸びるのは海外で、インドの塩ビ生産の拡大、中国の石油化学向けが当面の主戦場になる。世界のデカンタ市場は 3000 億円前後と推計され、欧州のアルファ・ラバルや GEA が大手だ。国内の下水では他社も参入するが、巴は大都市の処理場の大半に入り、石油化学の大型機でも実績がある。
化学品は、半導体・AI と建材・耐火物の二つの需要に分けて見るのが筋だ。半導体向けは、パワー半導体の材料や放熱材が、AI データセンターと電気自動車で伸びる。会社は 2030 年までに市場が倍になると説明する。建材・耐火物向けのシリカフュームは、国内の建設と鉄鋼が横ばいで、成長は海外のインドや東南アジア頼みだ。アンチモンは、中国の輸出規制で相場が跳ねたあと、競合の供給回復で下がり始めた。
10 年で負ける形は二つある。一つは、仕入先のメーカーが直販に切り替え、商社の取り分が薄くなること。もう一つは、中国の遠心分離機メーカーが、石油化学やインドで低価格機を持ち込み、保守の収益まで食い込むことだ。
資本政策と M&A
巴工業の資本政策は、いま方向を変えている最中だ。2025 年 12 月に発表した新中期計画では、配当性向の目標を 40% から 50% 以上へ上げ、純資産に対する配当率(DOE)の下限を 5% と決めた。3 年間で、配当と自社株買いに 80〜85 億円を当てる。
成長投資は、3 年で 75〜80 億円を見込む。柱は神奈川県綾瀬市の新工場だ。総額約 52 億円で、国の補助金 13.5 億円が付き、2027 年 10 月に動き出す。遠心分離機の生産能力を約 5 割増やす。これに加えて、海外展開・新商材・買収に 30〜40 億円の戦略投資枠を持ち、案件次第で積み増す。長く無借金だったが、必要なら有利子負債も使う、と明言した。
買収は、化学品でも機械でも、選択肢として検討するとしている。ただし中国の合成樹脂着色子会社を清算するなど、これまでは整理が先に立ってきた。筆者は、大型買収より小さな商材や事業の買い足しが中心になると見る。
株主の構成も動いている。2025 年 9 月に、銀行 3 行、月島ホールディングス、個人株主が株を売り出し、浮動株を増やした。同時に 9 億円を上限に自社株を買った。金融機関や取引先が持つ株は減りつつあり、株主の顔ぶれは入れ替わる途中にある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体と AI の波が、化学品の構成を変える。機能材料と電子材料は、いま約 100 億円だが、パワー半導体向けの材料と放熱材が 2030 年までに市場ごと倍になる。会社は 2035 年度に、この分野で 200 億円規模、化学品全体で 640〜700 億円を見込む。三酸化アンチモンやシリカフュームのような細かい商材で高いシェアを持つ商社は、成長する需要に乗りやすい。
機械は、インドの塩ビと中国の石油化学で大型案件が続き、受注残は過去最高水準にある。新工場で生産力が 5 割増え、売上は 3 年後に 200 億円、営業利益は 28 億円を目指す。バイナリー発電は、60 件超の引き合いがあり、10 年後に 100 億円以上の事業に育つ可能性がある。前の中期計画も、2 度の上方修正を経て最終目標を上回った。
財務は純現金で、配当性向を 50% 以上へ上げた。DOE の下限 5% があるため、利益が少し落ちても配当は切りにくい。資本政策が改まり、成長投資と株主還元を両立する局面に入った会社は、10 年で見れば今の倍率を保ったまま、利益を物価以上に伸ばせる。
慎重な見方
利益の 3 分の 2 を稼ぐ化学品は、商社の薄い利ざやだ。営業利益率は 8% 前後で、販管費が人件費で増えれば利益はすぐ細る。2025 年 10 月期は、化学品の売上が 1 割強伸びても化学品の営業利益は横ばいだった。2026 年の上期も、鉱産が 12 億円減った。アンチモンのような相場物は、中国の輸出規制が緩むたびに値が崩れる。
機械の海外の伸びは、納期の遅れで一部が来期に延びた。インドの案件は、欧州の 1 社と半分ずつ分け合う形で、価格競争が強まれば利益率は下がる。中国のメーカーがデカンタに本格参入すれば、保守の収益まで侵食されかねない。バイナリー発電は 2025 年に 1 台受注したばかりで、10 年後に 100 億円という目標は、まだ根拠が薄い。
会社は新工場に 52 億円を投じ、さらに有利子負債も使うと言う。これまで買収に慎重だった会社が、資本を広げる局面に入ると、中国の子会社清算のような整理がまた起きかねない。会社が掲げる利益 70 億円は 3 年で 3 割の増益で、商社の規模では挑戦的な目標だ。
どちらに重みを置いたか
機械の堀と財務の厚さは強気の見方に分があり、商社の薄さと相場への弱さは慎重な見方が当たっている。利益の 3 分の 2 が商社である以上、悲観の影響は大きい。確率は中立に最も厚く置き、悪い側にやや寄せた。商社の収益が相場や仕入先の方針に振れる点を、確率の側で表した。結果として、10 年後の中立は今の 1.5 倍、確率で重ねた価値は今の値段にほぼ並び、適正と出た。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/10 期)
確率で加重した株価時価総額 3,301 円970 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 990 円291 億円)。 今の値に割り戻すと 2,337 円687 億円、今との差 +20.3%、 期待の年率 +8.2%(資本コスト 7.2%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,155 円1,809 億円 | 1,221 円359 億円 | +279.6% | +14.3% | 590 円173 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,827 円1,419 億円 | 1,123 円330 億円 | +206.2% | +11.8% | 1,190 円350 億円 |
| 中立 | 36% | 3,854 円1,133 億円 | 1,000 円294 億円 | +149.8% | +9.6% | 1,748 円514 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,517 円446 億円 | 888 円261 億円 | +23.8% | +2.2% | 577 円170 億円 |
| 悲観 | 12% | 762 円224 億円 | 786 円231 億円 | −20.3% | −2.2% | 186 円55 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,301 円970 億円 | 990 円291 億円 | +120.8% | +8.2% | 4,291 円1,261 億円 |
今の株価時価総額 1,943 円571 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 10 年にわたり半導体・AI 材料とインド向けが想定を超えて伸びる 利益 100 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 6,155 円1,809 億円
半導体・AI 向けの材料が、パワー半導体と放熱材の需要に乗って 10 年で大きく育ち、市場が 2 倍になる中で当社もシェアを伸ばす。機械では、インドの塩ビと中国の石油化学向けの大型案件が続き、新工場で生産力が増えた分を売り切る。バイナリー発電も立ち上がり、機械全体の売上は今の 2 倍超になる。商社の基盤も、海外の新商材で物価を少し上回る。配当性向 50% 以上を守り、資本効率も上がる。巴工業にとって、ほぼ理想の 10 年だ。配当は DOE の下限を大きく上回り、純現金も保つ。会社の説明する 2035 年度の目標を、全部上回る形だ。
- 化学品・基盤(鉱産・化成品・工業材料・合成樹脂):数量 12,431(取り扱い商材の国内外の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 4.0%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 500 億円・営業利益 41 億円。市場 1.08 倍×シェア維持、利益率 8.2%
- 化学品・半導体AI材料(機能材料・電子材料):数量 10,080(半導体・パワー半導体・放熱材向け商材の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 3.1%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 311 億円・営業利益 39 億円。市場 2.1 倍×シェア 15% 増、利益率 12.5%
- 機械製造販売(デカンタ遠心分離機・保守・新製品):数量 3,040(遠心分離機本体・保守・関連機器の対象市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 11.8%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 359 億円・営業利益 54 億円。市場 1.6 倍×シェア 1 割増、利益率 15%
倍率:事業の純利益 100 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍。全体の PER 18.09 倍、時価総額 1,809 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体・AI 向け材料とインドの塩ビ向けデカンタが同時に想定を超える筋書き。10 年続けて当たる必要があり、8% に抑えた。
やや楽観 20% 会社の中期計画をほぼ達成し、その後も物価を上回って伸びる 利益 82 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 4,827 円1,419 億円
半導体材料は市場が約 8 割増え、シェアも少し上がる。機械は、インドと中国の石油化学向けが堅調で、保守収益も積み上がる。会社が掲げる 2028 年の売上 700 億円・営業利益 70 億円はおおむね達成され、その後も物価を上回る成長が続く。商社の基盤は市況に左右されつつも、売上総利益 1 億円以上の商材が増え、利益率は少し改善する。買収は小さなものが中心で、大きな失敗はない。機械はインドの塩ビ向けと中国の石油化学向けで、欧州の競合と案件を分け合いながら着実に受注を積む。配当性向は 50% を保ち、純現金で新工場の費用もまかなえる。会社の筋書きに近い、よく進んだ 10 年だ。
- 化学品・基盤(鉱産・化成品・工業材料・合成樹脂):数量 11,970(取り扱い商材の国内外の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 4.0%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 481 億円・営業利益 38 億円。市場 1.04 倍、利益率 7.8%
- 化学品・半導体AI材料(機能材料・電子材料):数量 8,400(半導体・パワー半導体・放熱材向け商材の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 2.8%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 236 億円・営業利益 27 億円。市場 1.75 倍×シェア 5% 増、利益率 11.5%
- 機械製造販売(デカンタ遠心分離機・保守・新製品):数量 2,850(遠心分離機本体・保守・関連機器の対象市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 11.1%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 316 億円・営業利益 45 億円。市場 1.5 倍×シェア 3% 増、利益率 14.2%
倍率:事業の純利益 82 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍。全体の PER 17.3 倍、時価総額 1,419 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期計画の達成が 3 年で見えてきており、前計画も 2 度の上方修正を経て超えた実績がある。やや楽観は中立より少し薄く 2 割とした。
中立 36% 中立:半導体材料と機械が伸び、商社の基盤は物価並みにとどまる 利益 69 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 3,854 円1,133 億円
半導体・AI 材料は、市場が実質で 4 割強増えるが、シェアは今のまま。機械は、海外の石油化学とバイナリー発電などの新製品で、市場が実質で 3 割強広がる。一方、商社の基盤は、国内の建材と鉄鋼が横ばいで、アンチモンの相場も落ち着き、物価の分しか伸びない。化学品全体で売上は 640 億円ほど、機械は 280 億円弱となり、全社の営業利益率は 10% 弱に収まる。会社の計画の下限あたりで着地し、大きな上ぶれも下ぶれもない 10 年だ。配当は性向 55% 前後で、自社株買いも少し混ぜる。純現金は新工場と小さな買収に使われ、じわじわ減る。
- 化学品・基盤(鉱産・化成品・工業材料・合成樹脂):数量 11,510(取り扱い商材の国内外の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 4.0%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 463 億円・営業利益 35 億円。市場横ばい×シェア維持、利益率 7.5%
- 化学品・半導体AI材料(機能材料・電子材料):数量 6,960(半導体・パワー半導体・放熱材向け商材の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 2.7%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 187 億円・営業利益 20 億円。市場 1.45 倍×シェア維持、利益率 10.5%
- 機械製造販売(デカンタ遠心分離機・保守・新製品):数量 2,565(遠心分離機本体・保守・関連機器の対象市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 10.7%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 276 億円・営業利益 37 億円。市場 1.35 倍×シェア維持、利益率 13.5%
倍率:事業の純利益 69 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.4 倍、時価総額 1,132 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中立は会社の 2035 年度の目標(化学品 640〜700 億円)の下限あたり。商社の薄い利ざやと相場の振れを割り引き、中心に最も厚く 36% を置いた。
やや悲観 24% 商社の取り分が薄くなり、機械の海外は価格競争に巻き込まれる 利益 49 億円 · PER 8.9 倍 · 株価時価総額 1,517 円446 億円
アンチモンなどの相場物は下がったまま戻らず、仕入先の一部が直販に動いて、商社の取り分が薄くなる。半導体材料の市場は伸びても、競合が増えてシェアを少し失う。機械は、インドで欧州の競合と価格で競り合い、中国の低価格機が石油化学の一部に入り込んで、利益率が下がる。商社の販管費は人件費で増え続け、全社の営業利益率は 8% 台に戻る。会社の目標には届かないが、赤字になるほどではない停滞の 10 年だ。配当は DOE の下限 5% が支え、純現金は新工場で目減りする。商社としての地位は保つが、成長株とは見られなくなる。
- 化学品・基盤(鉱産・化成品・工業材料・合成樹脂):数量 10,935(取り扱い商材の国内外の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 3.9%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 426 億円・営業利益 28 億円。市場 0.95 倍×シェア 3% 減、利益率 6.6%
- 化学品・半導体AI材料(機能材料・電子材料):数量 5,760(半導体・パワー半導体・放熱材向け商材の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 2.5%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 147 億円・営業利益 13 億円。市場 1.2 倍×シェア 5% 減、利益率 8.5%
- 機械製造販売(デカンタ遠心分離機・保守・新製品):数量 2,280(遠心分離機本体・保守・関連機器の対象市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 10.2%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 233 億円・営業利益 26 億円。市場 1.2 倍×シェア 5% 減、利益率 11%
倍率:ROE 8.2%。RONIC = 8.0% + 1/2 ×(8.2 − 8.0)= 8.1%、g 4.0% から正当化 PER = 12.7 倍。商社の薄利と海外の価格競争で超過の稼ぎが先で消える筋書きなので、上限の 7 割の 8.9 倍に置いた。
確率:アンチモンのような相場物の下落が続き、機械のインド案件も価格競争に入る想定。商社の収益の振れの大きさを、この筋書きの確率に反映して 24% と厚めにした。
悲観 12% 仕入先の直販化と中国勢の台頭で、商社も機械も構造的に負ける 利益 28 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 762 円224 億円
主要な仕入先が直販に切り替え、アンチモンの相場は崩れ、商社の取り分が構造的に薄くなる。機械は、中国のメーカーが低価格のデカンタで石油化学とインドに入り、保守の収益も奪われて、シェアが 2 割下がる。新工場の償却と人件費が重く、全社の営業利益率は 6% まで落ちる。バイナリー発電などの新製品は、思うような規模にならない。配当は DOE の下限を守るが、利益は今を大きく下回り、普通の小さな商社兼メーカーとして扱われる。純現金は新工場と減損で大きく減り、財務の余裕も薄れる。この筋書きでも事業は存続し、赤字には落ちない。
- 化学品・基盤(鉱産・化成品・工業材料・合成樹脂):数量 9,784(取り扱い商材の国内外の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 3.6%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 354 億円・営業利益 18 億円。市場 0.85 倍×シェア 1 割減、利益率 5.0%
- 化学品・半導体AI材料(機能材料・電子材料):数量 4,560(半導体・パワー半導体・放熱材向け商材の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 2.3%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 104 億円・営業利益 6 億円。市場 0.95 倍×シェア 15% 減、利益率 6.0%
- 機械製造販売(デカンタ遠心分離機・保守・新製品):数量 1,900(遠心分離機本体・保守・関連機器の対象市場(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 8.6%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本))→ 売上 163 億円・営業利益 13 億円。市場 1.0 倍×シェア 2 割減、利益率 8%
倍率:ROE 5.3% が k 7.25% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 12.5 倍まで。構造的に取り分が縮み利益が先で細る筋書きなので、稼ぐ力の上限の約 6.4 割の 8.0 倍に置いた。
確率:仕入先の直販化と、中国の遠心分離機メーカーの低価格攻勢が重なる複合の筋書き。起きれば戻りにくいが、同時に起きる確度は高くなく 12% にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
化学品・基盤(鉱産・化成品・工業材料・合成樹脂)
シリカフューム・三酸化アンチモンなどの無機材料、コーティング向けなどの化成品、建材・耐火物向けの工業材料、輸入・再生の合成樹脂を仕入れて売る商社事業。
| 数量取り扱い商材の国内外の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定) | 価格実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 11,510 | 3.0% | 345 | 26 |
| 10 年後 中立 | 11,510 | 4.0% | 463 | 35 |
取り方:2025 年 10 月期の化学工業製品販売の売上 441 億円のうち、機能材料・電子材料(96 億円)を除いた鉱産 139・化成品 105・工業材料 65・合成樹脂 36 億円の合計 345 億円。対象商材の流通市場は、同じ商材を扱う専門商社(稲畑産業・蝶理・長瀬産業などの化学品部門)の取扱規模から約 1.15 兆円と推定し、巴のシェアを約 3% とした。営業利益は商社全体の 35.1 億円を、基盤 7.4%・半導体材料 10% で分けた推定(開示なし)。数量は実質の市場、物価は価格に入れた。
化学品・半導体AI材料(機能材料・電子材料)
パワー半導体向けの機能材料、半導体組立・検査向けの電子材料、AI 向け放熱材。会社が次の柱と位置づける成長分野。
| 数量半導体・パワー半導体・放熱材向け商材の流通市場(億円、今の値段で測った実質。推定) | 価格実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 4,800 | 2.0% | 96 | 10 |
| 10 年後 中立 | 6,960 | 2.7% | 187 | 20 |
取り方:機能材料 52 億円と電子材料 44 億円の合計 96 億円(2025 年 10 月期)。取り扱う商材の市場は、半導体材料の流通のうち巴が扱う層を約 4800 億円、シェアを約 2% と推定した。会社は 2030 年までに放熱材などの市場が約 2 倍になると説明している。営業利益は開示がなく、商社全体の 35.1 億円から基盤分を引いた約 10% の推定。
機械製造販売(デカンタ遠心分離機・保守・新製品)
下水・石油化学・食品向けのデカンタ型遠心分離機の製造・保守に、バイナリー発電装置、超低温ベルト乾燥機、水素濃度センサの販売が加わる。
| 数量遠心分離機本体・保守・関連機器の対象市場(億円、今の値段で測った実質。推定) | 価格実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。10 年で 1.34 倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 1,900 | 8.0% | 152 | 18 |
| 10 年後 中立 | 2,565 | 10.7% | 276 | 37 |
取り方:機械事業の 2025 年 10 月期の売上 152.4 億円・営業利益 18.4 億円(会社開示)。世界のデカンタ市場は約 20 億ドル(約 3000 億円)との調査があり、石油掘削向けなど巴が扱わない用途を除いた、下水・産業向けの本体と保守、国内の周辺機器を合わせて約 1900 億円を対象市場とし、当社の比率を約 8% とした。売上の約 6 割が国内、約 4 割が海外。
リスクと懸念
商社の取り分が仕入先に左右される
化学品の利益は、仕入先との契約と相場に支えられている。仕入先が直接販売に切り替えたり、競合が供給を回復したりすれば、取り分は一気に薄くなる。2026 年 10 月期の上期も、アンチモンの相場下落と競合の供給回復で、鉱産の売上が 12 億円ほど減った。商社は営業利益率が 8% 前後と薄く、少しの変化が利益に大きく出る。
中国産原料への依存と輸出規制
三酸化アンチモンの原料は中国産が大半を占める。中国が輸出規制をかけた時は、供給元が中国以外から調達していたため巴は供給を切らさなかった。ただ、規制が長引けば調達コストが跳ね、緩めば相場が崩れる。どちらに動いても、利益の振れにつながる。
機械の海外案件の遅れ
2026 年 10 月期は、海外向けの一部が来期へ延び、機械の売上予想を 8 億円下げた。インドや中国の大型案件は、納期や許認可で期ずれしやすく、利益の山谷を作る。インドの塩ビ向けは欧州の 1 社と分け合う構図で、価格競争が強まれば利益率が下がる。
新工場と新事業の投資負担
綾瀬の新工場は総額約 52 億円で、2027 年 10 月に動き出す。需要が想定に届かなければ、減価償却が利益を圧迫する。バイナリー発電や超低温ベルト乾燥機は、まだ受注が少なく、10 年後の売上 100 億円という目標は実績の裏付けが薄い。
買収の実行力
中期計画は、化学品でも機械でも買収を選択肢に挙げ、戦略投資枠を 30〜40 億円置く。大きな買収の実績は乏しく、中国の合成樹脂着色子会社は清算した。規模に見合わない買収で、のれんの減損を出せば、堅い財務の信頼が崩れる。
人件費の上昇
会社は賃金を年 5% 以上引き上げる方針で、販管費は人件費中心に増えている。2025 年 10 月期は、化学品の売上が 1 割強増えても営業利益は横ばいだった。値上げで吸収できなければ、利益率は上がらない。
中国メーカーの参入
デカンタ型遠心分離機は、石油化学やインドで低価格機が入りやすい分野だ。中国のメーカーが品質を上げて入り込めば、新規の本体だけでなく、保守・部品の収益まで取られる。巴は米シャープレス社の技術を引き継いだ耐久性で守るが、価格差が開けば維持しにくい。
今後の分かれ目
- 機能材料・電子材料の売上が毎期 1 割を超えて伸び、放熱材の取り扱いが本格化したら
- 半導体・AI 材料の市場前提を上方へ直し、やや楽観・楽観の確率を上げる。
- アンチモンの相場が下落を続け、鉱産の営業利益が 2 期連続で減ったら
- 商社の基盤の利益率を下げ、やや悲観の確率を上げる。
- インド・中国の大型案件が受注・納入され、機械の営業利益が 28 億円へ向かって積み上がったら
- 機械の市場とシェアの前提を引き上げ、楽観寄りに確率を移す。
- バイナリー発電の受注が年 10 台を超えたら
- 機械の新製品の売上を中立から引き上げる。受注が 1 桁のまま足踏みするなら、新製品の寄与は見ない。
- 戦略投資枠で大型の買収を発表し、のれんが大きく積まれたら
- 資本効率の悪化と減損の恐れを見て、やや悲観の確率を厚くする。小さな商材の買い足しなら、判断を変えない。
- 主要な仕入先が直販に切り替えたとの開示が出たら
- 商社の収益構造が崩れるとみて、悲観側へ確率を移す。
見ておくもの
- 化学品の鉱産・工業材料・機能材料・電子材料の分野別売上
- 機械事業の受注高・受注残と海外向けの売上
- アンチモンなどの相場と中国の輸出規制
- 新綾瀬工場の進み具合と稼働後の生産能力
- バイナリー発電・超低温ベルト乾燥機の受注件数
- 戦略投資枠の使い道(買収の有無)と配当性向・DOE
倍率と資本コストの決め方
3 つのセグメント(基盤の商社・半導体 AI 材料・機械)で、対象市場(実質)×シェアと物価並みの価格(10 年 1.34 倍)で売上を積み、利益率は事業の構造から置いた。倍率は、正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)(k 7.25% = 基本 7.5% + quality +0.5%、g 4%、残る割合 1/2)から出し、中立は 1÷k の床で 12.5 倍とした。今の PER 15 倍近い値や過去の倍率には合わせていない。最後に今の時価総額と比べた。純現金 134 億円は、新工場・戦略投資・商社の運転資金に回るので、余った現金として分けていない。今期予想(営業利益 59 億円)と会社の 2028 年目標(70 億円)をどこまで信じるかで価値が動く点は残る。自己資本は 2025 年 10 月期の 427 億円から、利益の積み上げと還元で流した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→18.09 倍・やや楽観 PER 12.6→17.3 倍・中立 PER 12.5→16.4 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.5% = 8.0%。商社の仕入先依存や買収の実行力は k に足さず、悲観側の確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.25%。