結論
栗田工業は、半導体工場の超純水をつくる電子市場と、化学・食品・インフラ向けの一般水処理を両輪とする会社だ。装置・薬品・保守をひとまとめで売り、売上の7割超が薬品や保守の継続収入である。電子市場の世界シェアは約2割で、首位級だ。
筆者の結論は、堀は深いが、値段はやや割高、というものだ。確率で重みを付けた価値は、今の時価総額を1割半ほど下回る。
2026年3月期は半導体の好調で、売上も営業利益も過去最高になった。ただし純利益は2割強の減益だった。米国の水処理子会社の減損と、精密洗浄子会社の譲渡という、海外で広げた事業の後始末が重なったからだ。
会社は2027年3月期に、ROE14.9%への急回復を見込む。これを中立に入れても、10年後の時価総額は今の1.3倍にとどまる。今のPBRは2倍を超え、その先の稼ぐ力をかなり前取りしている。
統治は評価できる。指名委員会等設置会社で、社外取締役が5割を占め、増配は23期続く見通しだ。一方で、事業の切り出しをくり返す実行力の波が、価値の幅を広げている。
バリュー投資の観点から
オーナー利益の面では、薬品・保守という継続収益(サービス売上比率7割超)が新設の装置投資サイクルの波を均してくれるため、他の資本財企業よりキャッシュフローの振れが小さい事業構造を持つ。ただし研究開発や海外拠点の統合には相応の再投資が必要で、北米・欧州のM&Aで広げた事業の一部をのれん減損・譲渡で整理し直している現状は、過去の資本配分の判断が常に正しかったわけではないことを示す。バリュー投資の観点では、拡大そのものより、拡大した事業を本当に稼げる形に仕上げる実行力を注視すべきだろう。
堀の幅については、電子市場での世界シェア2割・首位級という地位と、装置・薬品・保守を一体で提供することで顧客の生産ラインに深く組み込まれる構造を評価できる。一般水処理市場でもオルガノとの実質複占という業界構造は簡単には崩れない。資本配分では、配当性向30〜50%という分かりやすい還元方針と政策保有株縮減の姿勢、指名委員会等設置会社への移行という統治体制の強化は評価できる一方、海外M&Aの後処理が繰り返される点はオーナー利益を見積もる上での不確実性として織り込む必要がある。安全域の判断では、今のPBR2.3倍超・PER50倍近い値段は、海外M&Aの整理が一巡した後の収益力回復(会社予想の2027年3月期ROE14.9%)をすでに先取りしており、その回復が計画どおりに進むかどうかに値段が大きく依存している。
何で稼ぐ会社か
収益はIFRSの開示上「電子市場」と「一般水処理市場」の2区分に分かれる。電子市場は半導体・電子部品工場で使う超純水の製造装置・薬品・保守サービスが中心で、ウェーハの微細化・大口径化とともに要求される純水の品質が年々厳しくなるほど、装置の入れ替えと薬品の消費量が増える構造にある。一般水処理市場は化学・食品・鉄鋼・自治体の上下水道など広い顧客層に対し、工業用水の前処理から排水処理・水の再利用までを装置・薬品・メンテナンスで一体提供する。2026年3月期の売上構成は電子市場がおよそ45%、一般水処理市場がおよそ55%で、サービス(薬品の消耗・保守点検という継続収益)の売上比率は7割を超え、新設の装置投資(フロー収益)が一巡しても業績の底が抜けにくい構造を作っている。
地域別では日本が5割弱、海外が5割強を占め、北米・欧州・アジアに拠点を広げている。北米は2019年の米U.S. Water Services・米アビスタテクノロジーズの買収で事業基盤を5年で5倍規模に拡大し、欧州は2023年の独BKG社・独仏瑞Arcade社グループ買収で電子産業向け水処理の現地製造拠点を得た。一方で2018年に出資した水道管劣化予測AIの米Fracta(クリタ・フラクタ・ホールディングス)は2026年3月期にのれんを減損し、精密洗浄子会社ペンタゴンは2026年5月に独AEQUITAグループへ譲渡することが決まるなど、海外で広げた事業の一部を整理する動きも同時に進んでいる。
優良さと弱いところ
電子市場では半導体向け超純水・水処理薬品で世界シェア約2割を握り首位級で、国内では一般水処理市場を含めてオルガノと並ぶ実質複占に近い地位にある。装置と薬品・保守を一体で提供することで顧客の生産ラインに深く組み込まれ、薬品の切り替えコストの高さがスイッチングコストとして働く。サービス売上比率7割超という構造は、新設投資の波(フロー収益)が沈んでも薬品・保守という継続収益(ストック収益)が業績を下支えする点で、同じ機械業種の資本財専業企業よりもサイクル耐性が高い。自己資本比率は60%台、純有利子負債も自己資本の2%程度とごく小さく、財務基盤は頑健で過去20年赤字の期はない。
2023年に指名委員会等設置会社へ移行し、独立社外取締役を4名・取締役の5割選任、指名・監査・報酬の3委員会すべてで社外取締役が委員長を務めるなど統治体制の整備は進んでいる。配当性向30〜50%を目安とした23期連続増配の実績も株主還元の規律を示す。弱点は、北米・欧州でのM&Aにより事業を広げた結果、米国の一般水処理子会社やクリタ・フラクタのように期待した統合効果が出ず、のれん減損や事業譲渡という後戻りが繰り返されている点で、資本配分の実行力そのものに改善の余地がある。また電子市場・一般水処理市場という2つの需要サイクルが異なる事業を抱えるため、半導体投資が沈んだ時にどこまで一般水処理の安定性が業績を支えられるかは、これまでの好況続きの実績だけでは測りにくい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電子市場は、ラピダス(北海道)・TSMC(熊本)など国内の半導体工場新設ラッシュとAIデータセンター投資を背景に、超純水・薬品・装置のいずれも需要が強い状態が続いている。国内の水関連市場は足元で年率4〜6%の拡大が見込まれ、電子市場セグメントはその上振れ側に近い成長を取り込みやすい事業である。10年の中立シナリオでは水資源の希少化・排水規制強化・半導体工場の恒常的な更新需要を背景に年率3〜5%の安定成長が見込まれる。
一般水処理市場は、国内の人口減少・財政制約による公共投資の鈍化という逆風を抱えつつ、化学・食品など既存顧客の設備更新と薬品・保守の継続収益が業績の底を支える構造で、電子市場より成長は緩やかだが振れも小さい。競合は国内ではオルガノとの実質複占、海外は欧米の水処理大手(ヴェオリア、スエズ系等)や、中国・韓国の水処理技術者の台頭が長期的な競争環境を変える要因になり得る。リーマン級の悲観では、民間の設備投資(半導体・化学工場の新設)が3〜5割減少する一方、既設プラントの薬品・保守という定期収益は相対的に落ちにくく、他の資本財企業より需要蒸発の深さはやや浅いと置く。10年の構造的な負け筋は、国内公共投資の縮小と水処理技術の海外勢によるシェア侵食、そして電子市場での次世代半導体プロセスへの対応遅れである。
資本政策と M&A
株主還元は配当を基本とし、配当性向30〜50%を目安に直近5年通算で判断する方式で23期連続の増配が見通されている。自己株式取得も上限を設けて機動的に実施し、政策保有株式は中長期の経済合理性を検証して縮減に努める方針を掲げる。M&Aは北米・欧州で積極的に行い、2019年の米U.S. Water Services等の買収で北米事業を5年で5倍規模に、2023年の独BKG・Arcade買収で欧州売上比率を1%未満から10%程度へ拡大する計画を進めてきた一方、2026年には米国の一般水処理子会社(クリタ・フラクタ・ホールディングス)のれん減損と精密洗浄子会社ペンタゴンの独AEQUITAグループへの譲渡という事業整理も行っており、拡大と撤退を繰り返しながら事業ポートフォリオを組み替えている。中期経営計画「PSV-27」(2023〜2028年3月期)はROE12%以上・ROIC10%以上・事業利益率16%を財務目標に置き、電子市場への重点配分と非中核事業の整理を両輪で進める方針である。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ラピダス・TSMC熊本など国内の半導体工場新設ラッシュとAIデータセンター投資は、ウェーハの微細化・大口径化が進むほど要求される超純水の品質・量を押し上げ、電子市場セグメントの装置更新需要と薬品の消費量を同時に拡大させる。電子市場での世界シェア2割・首位級という地位は、装置・薬品・保守を一体で提供する戦略によって簡単には崩れず、一般水処理市場でもオルガノとの実質複占という構造が価格決定力を支える。サービス売上比率7割超という継続収益の厚さは、半導体投資サイクルが落ち込む局面でも業績の底を支え、同じ機械業種の資本財専業企業より安定した収益力を発揮できる。
北米・欧州でのM&Aは2026年の一部整理を経て、むしろ本当に稼げる事業に絞り込まれた形に進化しつつある。精密洗浄子会社ペンタゴンの譲渡や米国の一般水処理子会社のれん減損は、過去の拡大の清算というより、電子市場への重点配分を鮮明にする前向きな事業整理と見ることができる。中期経営計画「PSV-27」が掲げるROE12%以上・事業利益率16%という目標は、2027年3月期の会社予想(ROE14.9%)がすでに示す回復ペースからみて実現可能性が高く、23期連続増配・自己株式取得という株主還元の規律と合わせて、電子市場の構造的な成長を取り切れば今の株価はむしろ割安な水準にとどまる。
慎重な見方
栗田工業の電子市場セグメントは、顧客である半導体メーカーの投資計画そのものに業績が直結する構造を抱えており、AIデータセンター投資の需要先読みが行き過ぎれば過剰設備・投資の一時停滞という形で跳ね返るリスクがある。一般水処理市場も国内の人口減少・財政制約による公共投資の鈍化という逆風を抱え、電子市場の好況が続く間は目立たないが、電子市場が落ち込む局面では一般水処理市場の安定性だけで業績を支えきれるかは実績が乏しい。
北米・欧州でのM&Aは、2019年の米国買収から始まり事業規模を拡大してきたが、2026年3月期には米国の一般水処理子会社(クリタ・フラクタ・ホールディングス)のれん減損と精密洗浄子会社ペンタゴンの譲渡が同時に発生し、過去の買収が期待した統合効果を生まなかった事例が積み重なっている。経営が資本を上手に配分できているかという点では、拡大と撤退を繰り返す実行力そのものに疑問符が付く。今の株価はPBR2.3倍超・PER50倍近い水準で評価されており、これは2027年3月期の会社予想(ROE14.9%への急回復)という単年度の計画をかなり強く織り込んだ値段であり、その計画が計画どおりに進まなければ、業績が落ちる前に倍率の圧縮だけで株価が大きく下がる場面が起こりやすい。中国・韓国の水処理技術者の台頭も、10年という長い期間で見れば無視できない競争要因になる。
どちらに重みを置いたか
電子市場での複占的な地位とストック収益の厚さという事業の実力については強気の見方に説得力があるが、海外M&Aの整理が繰り返されている経営の実行力と、2 つの異なる需要サイクルを抱える複雑さについては慎重な見方の指摘にも分がある。本質価値の計算では、中立の 10 年後の時価総額は今の 1.3 倍にとどまり、確率の加重では今を 1 割半ほど下回り、総合ではやや割高になった。会社予想の ROE 15% 近くへの回復を入れても、資本コストを超える新しい投資の稼ぎは先で薄れるとみたので、正当化 PER の 8 割に置いた中立は PER 12 倍ほどになる。確率は中立に最も重みを置きつつ、電子市場の成長機会を踏まえてやや楽観側も厚めにし、経営の実行力への懸念は資本コストでなく悲観側の確率を少し厚くして表した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 12,109 円1.30 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,263 円2,422 億円)。 今の値に割り戻すと 7,934 円8,491 億円、今との差 +12.5%、 期待の年率 +7.4%(資本コスト 6.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 24,249 円2.60 兆円 | 3,243 円3,471 億円 | +289.7% | +14.6% | 2,749 円2,942 億円 |
| やや楽観 | 21% | 18,343 円1.96 兆円 | 2,738 円2,930 億円 | +198.8% | +11.6% | 4,427 円4,738 億円 |
| 中立 | 31% | 13,795 円1.48 兆円 | 2,347 円2,512 億円 | +128.8% | +8.6% | 5,004 円5,356 億円 |
| やや悲観 | 24% | 5,441 円5,823 億円 | 1,914 円2,049 億円 | +4.3% | +0.4% | 1,765 円1,889 億円 |
| 悲観 | 14% | 1,784 円1,910 億円 | 1,262 円1,351 億円 | −56.8% | −8.1% | 427 円456 億円 |
| 加重平均 | 100% | 12,109 円1.30 兆円 | 2,263 円2,422 億円 | +103.7% | +7.4% | 14,372 円1.54 兆円 |
今の株価時価総額 7,055 円7,551 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 10年にわたり半導体市場の複数世代の投資を電子市場が取り切る 利益 1,297 億円 · PER 20.0 倍 · 株価時価総額 24,249 円2.60 兆円
10年間でAI・先端半導体・国内工場新設という複数の投資波が重なり、電子市場は市場規模1兆5,800億円・シェア23%まで拡大し、営業利益率22.5%の高水準を維持する。一般水処理市場も電子市場向けの水インフラ更新に押し上げられ、市場規模2兆3,000億円・シェア17%・営業利益率16%まで改善する。北米・欧州のM&Aは2026年の整理を経てむしろ電子市場に集中した効率的な事業構成になり、オルガノとの差をさらに広げる。無借金に近い財務と自社株式取得・増配を両立させながら、栗田工業にとって最も理想的な10年になる。
- 電子市場(半導体向け水処理):数量 15,823(世界の電子(半導体)関連水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質))× 価格 30.9%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 4,889 億円・営業利益 1,100 億円。今の値段で測った市場1.58兆円×シェア23%、営業利益率22.5%
- 一般水処理市場:数量 22,965(国内外の一般産業用水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質))× 価格 22.8%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 5,236 億円・営業利益 838 億円。今の値段で測った市場2.30兆円×シェア17%、営業利益率16%
倍率:事業の純利益 1,297 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.9% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.0 倍。全体の PER 20.01 倍、時価総額 25,953 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の間に半導体プロセスの複数世代の転換(先端ロジック・先端メモリ・国内工場の相次ぐ稼働)を連続して取り切る必要があり、実現すれば非常に強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 21% 電子市場の高成長が成長の主軸として定着 利益 1,023 億円 · PER 19.2 倍 · 株価時価総額 18,343 円1.96 兆円
電子市場は市場規模1兆4,700億円・シェア21.5%まで拡大し、営業利益率20%を10年近く維持する。先端半導体の国内生産拠点が複数稼働し、超純水・薬品の需要が構造的に積み上がる。一般水処理市場も市場規模2兆1,200億円・シェア16%・営業利益率15%まで伸び、電子市場向けの水インフラ投資が後押しする。北米・欧州のM&A整理は完了し、残った事業は着実に稼働率を上げる。配当性向30〜50%・政策保有株縮減の方針を維持しながら、PSV-27で掲げたROE12%以上を上回る水準で成長が続く10年になる。
- 電子市場(半導体向け水処理):数量 14,698(世界の電子(半導体)関連水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質))× 価格 28.9%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 4,248 億円・営業利益 850 億円。今の値段で測った市場1.47兆円×シェア21.5%、営業利益率20%
- 一般水処理市場:数量 21,159(国内外の一般産業用水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質))× 価格 21.5%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 4,549 億円・営業利益 682 億円。今の値段で測った市場2.12兆円×シェア16%、営業利益率15%
倍率:事業の純利益 1,023 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.0% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.2 倍。全体の PER 19.19 倍、時価総額 19,631 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子市場の需要が業界の主役として定着するという、業種ノートの10年楽観寄りの想定。
中立 31% 中立:電子市場は構造的に大きくなるが一般水処理は緩やかな縮小圧力 利益 809 億円 · PER 18.3 倍 · 株価時価総額 13,795 円1.48 兆円
10年後の電子市場は市場規模1兆3,400億円・シェア20.5%に構造的に拡大するが、一般水処理市場は国内の人口減少・財政制約による公共投資縮小の影響を受け、市場規模1兆8,900億円・シェア15.5%にとどまり成長は緩やかになる。営業利益率は電子市場18%・一般水処理市場14%で、過去の好況期からやや落ち着く。北米・欧州のM&Aは電子市場への重点配分として機能するが、特別な超過成長は一巡し、オルガノとの実質複占という業界構造の中で「普通に強い優良企業」としての評価に収まる10年になる。電子市場・一般水処理市場のいずれも、過去の好況期のような特別な超過成長は一巡し、業種全体として「普通に強い優良企業」の範囲に収まる10年になる。
- 電子市場(半導体向け水処理):数量 13,358(世界の電子(半導体)関連水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質))× 価格 27.6%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 3,687 億円・営業利益 664 億円。今の値段で測った市場1.34兆円×シェア20.5%、営業利益率18%
- 一般水処理市場:数量 18,902(国内外の一般産業用水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質))× 価格 20.8%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 3,932 億円・営業利益 551 億円。今の値段で測った市場1.89兆円×シェア15.5%、営業利益率14%
倍率:事業の純利益 809 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.3 倍。全体の PER 18.25 倍、時価総額 14,764 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの10年中立シナリオ(国内水関連市場年率3〜5%拡大)に、電子市場の成長をやや高めに、一般水処理市場の成長をやや低めに割り当てた中心シナリオ。
やや悲観 24% 一般水処理市場の縮小と海外競争の強まりでシェアがじわり侵食される 利益 572 億円 · PER 10.2 倍 · 株価時価総額 5,441 円5,823 億円
国内の人口減少・財政制約が本格化し、一般水処理市場は市場規模1兆7,400億円・シェア14.5%まで低下、営業利益率12%にとどまる。電子市場も中国・韓国の水処理技術者の台頭で競争が強まり、市場規模1兆1,900億円・シェア19%・営業利益率15%に下がる。北米・欧州のM&A整理後も新たな成長の柱を見いだせず、PSV-27で掲げたROE12%以上の目標には届かない10年になる。それでも電子市場での技術的な優位の一部は保たれ、配当は規模を縮小しつつ継続される。それでも薬品・保守という継続収益の比率は大きく崩れず、無借金に近い財務を保ちながら、PSV-27で描いた成長の多くを取り切れない停滞型の10年として業績が積み上がっていく。
- 電子市場(半導体向け水処理):数量 11,869(世界の電子(半導体)関連水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質))× 価格 25.5%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 3,027 億円・営業利益 454 億円。今の値段で測った市場1.19兆円×シェア19%、営業利益率15%
- 一般水処理市場:数量 17,448(国内外の一般産業用水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質))× 価格 19.5%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 3,402 億円・営業利益 408 億円。今の値段で測った市場1.74兆円×シェア14.5%、営業利益率12%
倍率:ROE 8.8%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC = k 6.75% + 残る割合 1/2 ×(8.8 − 7.50)= 8.2%、長期の成長率 g 4.0% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)= 14.5 倍。半導体投資が停滞し、海外の整理が長引く筋書き。ROE は k を上回るが、先で薄れる稼ぎを多めに見て、上限の 割の 10.2 倍に置いた。
確率:国内公共投資の縮小が本格化し、欧米・中国・韓国の水処理技術者の台頭が電子市場にも及ぶ想定。業種ノートの弱めのレンジに相当。 海外M&Aの後処理が続く実行の不確かさは資本コストに足さず、この筋書きの確率を少し厚くして表した。
悲観 14% 電子市場・一般水処理の双方で構造的に優位性を失う 利益 217 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,784 円1,910 億円
中国・韓国の水処理技術者が電子市場にも食い込み、栗田工業の世界シェアは14%まで低下する。国内の公共投資縮小と自治体財政の制約で一般水処理市場のシェアも11%まで下がり、電子市場は市場規模1兆1,950億円・営業利益率7%、一般水処理市場は市場規模1兆7,000億円・営業利益率7%まで落ち込む。北米・欧州のM&Aは十分な統合効果を生まず、追加の減損・事業譲渡が起きる可能性もある。超純水・水処理薬品の技術的な優位性は一部残るが、かつての「複占的な地位」という評価は市場から外れ、普通の水処理機器メーカーとして評価されるようになる10年になる。
- 電子市場(半導体向け水処理):数量 11,951(世界の電子(半導体)関連水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質))× 価格 18.8%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,247 億円・営業利益 157 億円。今の値段で測った市場1.20兆円×シェア14%、営業利益率7%
- 一般水処理市場:数量 17,038(国内外の一般産業用水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質))× 価格 14.8%(実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,522 億円・営業利益 177 億円。今の値段で測った市場1.70兆円×シェア11%、営業利益率7%
倍率:ROE 5.5% が k 6.75% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値。PER は 1÷k = 13.3 倍が上限で、目減りは ROE÷k = 0.73 に比例するので、上限 × 0.73 × 0.9 の 8.8 倍に置いた(やや悲観の 10.2 倍より低い)。構造的に利益率が戻らず、ROE が k を下回る筋書き。
確率:中国・韓国の水処理技術者が電子市場の中位〜上位工程にも食い込み、かつ国内公共投資の構造的縮小が同時に来る複合シナリオ。優位性の喪失は一度始まると10年で後退しやすいため低頻度だが無視できない確率を置いた。 海外M&Aの後処理が続く実行の不確かさは資本コストに足さず、この筋書きの確率を少し厚くして表した。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子市場(半導体向け水処理)
半導体・電子部品工場向けの超純水製造装置・水処理薬品・保守サービス。ウェーハの微細化・大口径化に伴い要求純水の品質が上がるほど需要が強まる。
| 数量世界の電子(半導体)関連水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 9,250 | 20.0% | 1,850 | 296 |
| 10 年後 中立 | 13,358 | 27.6% | 3,687 | 664 |
取り方:半導体向け超純水・水処理で世界シェア約2割・首位級という解説(日経ビジネス)から、2026年3月期の電子市場売上を45%強(約1,850億円)と推定し、市場規模を9,250億円へ逆算した。 数量は今の値段で測った市場規模(実質)にし、物価の分は価格(シェア × 物価の倍率)に入れた。今の価格はシェア 20%。
一般水処理市場
化学・食品・鉄鋼・自治体等向けの工業用水の前処理・排水処理・水再利用の装置・薬品・保守。国内中心だが北米・欧州・アジアにも拠点を持つ。
| 数量国内外の一般産業用水処理市場(装置・薬品・保守、億円、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場に対する当社売上の比率(=シェア × 物価の倍率。3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14,533 | 15.0% | 2,180 | 287 |
| 10 年後 中立 | 18,902 | 20.8% | 3,932 | 551 |
取り方:一般水処理市場は電子市場より分散的で栗田工業のシェアは15%程度と推定。2026年3月期の一般水処理市場売上(約55%・約2,180億円)から市場規模を逆算した。 数量は今の値段で測った市場規模(実質)にし、物価の分は価格(シェア × 物価の倍率)に入れた。今の価格はシェア 15%。
リスクと懸念
顧客の半導体投資計画への連動
電子市場セグメントの業績は半導体メーカーの投資計画そのものに直結し、ラピダス・TSMC関連投資の先読みが行き過ぎれば、AI投資懸念の後退と同時に装置・薬品需要が一気に落ち込むリスクがある。電子市場の受注高は四半期ごとの値動きが大きく、業績予想の修正が相次ぐ可能性がある。
海外M&Aの統合リスク
2026年3月期には米国の一般水処理子会社(クリタ・フラクタ・ホールディングス)のれん減損と精密洗浄子会社ペンタゴンの譲渡が重なった。北米・欧州で積極化してきたM&Aが期待した統合効果を生まない事例が今後も起こりうる。
国内公共投資の縮小
一般水処理市場は自治体の上下水道・公共インフラ更新需要にも支えられるが、人口減少と財政制約により公共投資が縮小すれば、電子市場の好況ほど目立たない形でじわりと業績の下支え力が弱まる。自治体財政の制約が強まれば、更新投資そのものの着手が遅れ、業績の下支え力が緩やかに弱まっていく。
海外水処理技術者の台頭
中国・韓国の水処理技術者が電子市場の中位工程や一般水処理市場での競争力を強めれば、栗田工業の複占的な地位が長期的に侵食されるリスクがある。現時点では最先端領域には及んでいない。価格競争力のある中位性能帯からの侵食が進めば、栗田工業の高い営業利益率を維持する前提が崩れやすくなる。
倍率の圧縮
今のPBR2.3倍超・PER50倍近い水準は、2027年3月期の会社予想(ROE14.9%への急回復)という単年度の計画をかなり強く織り込んでおり、その計画が計画どおりに進まなければ業績が落ちる前に倍率の圧縮だけで株価が大きく下がる場面が起こりやすい。
政策保有株式の縮減ペース
政策保有株式は中長期の経済合理性を検証して縮減に努める方針だが、縮減が計画より遅れれば資本効率(ROE・ROIC)の改善ペースにも影響する。保有先企業との関係維持を優先し縮減が後回しになれば、資本効率の改善を評価する投資家の見方が厳しくなる可能性がある。
電子・一般水処理の異なるサイクルの併存
電子市場と一般水処理市場は需要サイクルの性質が異なり、どちらか一方が好況の間は目立たないが、両方が同時に沈む局面での業績の底を実績データだけで測るのは難しい。好況が続く電子市場の実績だけで一般水処理市場の下支え力を過大評価するリスクがある。
今後の分かれ目
- ラピダス・TSMC関連の半導体工場新設投資がさらに加速し、電子市場の需要が会社の想定を上回ったら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。ただし倍率が既に高いため、価値の伸び以上に株価が先行していないかは別に確認する。
- 半導体メーカーの投資計画が大きく見直されたら
- やや悲観・悲観側の筋書きに重みを移す。電子市場の受注高・営業利益率を四半期ごとに確認する。
- 北米・欧州で追加のM&A整理(新たなのれん減損・事業譲渡)が起きたら
- 経営の資本配分の実行力への懸念を強め、やや悲観側の確率を上げる。逆に整理が一巡し電子市場への集中が進めば楽観側に寄せる。
- 中国・韓国の水処理技術者が電子市場や一般水処理市場でシェアを獲得し始めたら
- シェア前提を下方修正し、長期の悲観側の確率を上げる。
- 2027年3月期の会社予想(純利益507億円・ROE14.9%)が計画どおり実現したら
- PSV-27の目標達成に確度が高まったとみて、中立〜やや楽観の確率を上げる。
- 政策保有株式の縮減が計画より加速し、自己株式取得の規模が拡大したら
- 資本効率(ROE・ROIC)の改善ペースが速まるとみて、倍率の前提をやや上方修正する。
見ておくもの
- 電子市場・一般水処理市場の四半期ごとの売上・営業利益率
- ラピダス・TSMC等国内半導体工場の投資計画の進捗
- 北米・欧州子会社の追加のれん減損・事業譲渡の有無
- 政策保有株式の縮減額・自己株式取得の実施状況
- オルガノ・海外水処理大手の国内外でのシェア動向
倍率と資本コストの決め方
電子市場・一般水処理市場の実質の市場規模×シェアと物価並みの価格で売上を積み上げ、利益ベースの正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)(RONIC は k を超える分の半分が残る値、k 6.75%(基本 7.5% に quality 0%)・g 4%)を引いた。中立は上限の 8 割(楽観 9 割、やや楽観 8.5 割、やや悲観 7 割)。悲観は ROE が資本コストを下回るので、稼ぐ力(純利益÷k)の上限に ROE÷k を掛けて目減りさせた 8.8 倍に置いた(やや悲観の 10.2 倍より低い)。最後に今の時価総額と比べた。今の PER 50 倍近い値(減損で純利益が沈んだ年の値)や過去の倍率には寄せていない。2027年3月期の会社予想をどこまで信用するかで本質価値が大きく変わる、という不確実性は残る。自己資本は 2026年3月期(減損で純利益 160 億円)からでなく、会社予想の 507 億円から利益が積み上がる流れで置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.53→20.01 倍・やや楽観 PER 14.81→19.19 倍・中立 PER 13.08→18.25 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0% = 7.5%。海外 M&A の整理など実行力の懸念は k に足さず、悲観側の確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 6.75%。