結論
ツガミは小さな精密部品を削る自動旋盤の専業メーカーだ。筆者の結論は「割高」で、いちばんの理由は今の利益が景気の山にあることだ。
売上の約8割は中国向けで、スマートフォンや車載部品の加工機がよく売れている。営業利益率は28%と過去最高になり、直前の5年の中央値20%を大きく上回る。この水準が10年続くと見るのは強気にすぎる、と筆者は考える。
会社は強い。小径部品の加工という狭い領域で技術を磨き、中国に自前の工場と保守網を持つ。純現金が厚く、借金の心配もない。ただ、売上が一つの国に偏る。需要が電子機器と自動車に偏る。競合のシチズンマシナリーやスター精密、中国勢も同じ市場に大きな力を注いでいる。
10年後の中立は、利益が今とほぼ同じ名目額に落ち着く姿だ。物価で3割値上がりしても、利益率の戻りと実質の数量の伸び悩みで打ち消される。確率で重みづけした本質価値は今の時価総額の5割台半ばで、結論は割高になる。
悲観の筋書きでは、中国勢に市場を奪われ、利益はほぼ消える。その時も純現金が床になるが、床は今の値段の1割台にとどまる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ツガミは「わかりやすいが、もうけの持続性に疑問のある会社」だ。小さな部品を削る機械という事業は理解しやすく、現金も厚い。問題は、今の稼ぎを何年続けられるかである。
筆者がいちばん気にしているのは、利益率の山だ。28%という営業利益率は、5年前の倍近い。景気と中国の需要が重なった結果であり、過去10年を通して続いたことは一度もない。山の利益に高い値段を払うのは、安全域を自分で削る行為である。
資本配分は合格点に届かない。現金を積み上げたまま、配当性向は2割台にとどまる。積んだ現金を稼ぐ力のある事業に使うか、株主に返すかの方針が見えない。香港上場の子会社の少数株主を考えると、現金が親会社の株主に届くまでの道も遠い。
売上の8割が一つの国に偏る点も、オーナーとして持ち続けたいかどうかの分かれ目になる。中国の景気、人民元、米中の摩擦、地元の競合。一つの出来事が会社の屋台骨を揺らす。
逆に、強みも確かにある。小径・高精度の領域の技術、現地の生産と保守、そして借金のない財務だ。割安に買えるなら持つ価値がある会社だが、今の値段は山の利益を前提にしており、安全域が見えない。
何で稼ぐ会社か
ツガミの稼ぎ方は、細かい金属部品を高い精度で削る機械を売ることだ。主力は自動旋盤で、研削盤やマシニングセンタ、転造盤も持つ。顧客はスマートフォンなどの小型端末部品、車載カメラ、電動パワーステアリングやブレーキの部品、医療部品の加工業者だ。
地域の偏りが大きい。外部の顧客向けの売上の約8割が中国で、日本は5%ほどにすぎない。主な工場は新潟県長岡市、中国の浙江省と安徽省、インドのチェンナイにある。中国の子会社は香港市場に上場しており、売上の大半はこの子会社が稼ぐ。
機械を売ったあとの保守や部品、改造も収入になる。ただ、利益の主役はあくまで機械の新品の販売だ。受注は景気と顧客の設備投資に素直に連動し、好況で急に伸び、不況で急に縮む。
直近の変化は中国の伸びだ。2026年3月期は中国の売上が約2割増え、売上全体で1,291億円、営業利益で361億円になった。会社の予想では2027年3月期もさらに伸びる。
拡大の手は、自前の工場の増強とインドの新工場に向いている。設備投資は年20億円ほどと軽い。大型の買収で規模を広げる会社ではなく、現場の生産と販売を地道に増やす会社だ。セグメントは日本・中国・インド・韓国・その他の地域別で、製品別の利益は開示されない。
優良さと弱いところ
ツガミの堀、つまり他社がまねしにくい強みは、小径・高精度の加工という狭い領域での技術と、中国に根を張った生産・保守の体制にある。自前の工場が現地にあるので、納期とコストで輸入機に勝てる。
ただ、堀は深くない。同じ市場にシチズンマシナリー、スター精密がいて、いずれも中国での生産や販売に力を入れている。中国メーカーも自国の電子機器や自動車の産業とともに力をつけてきた。値段を自分で決められる会社ではなく、機能と納期で選ばれる会社だ、と筆者は見る。
資本効率は今は高い。ROEは21%で、資本コストをはるかに超える。だが過去10年の中央値は14%で、2016年には3%まで落ちた。今の水準は景気の山の姿だ。
利益率も同じで、営業利益率は5年前の16%から28%まで上がった。これは構造が変わったのか、山なのかが、この会社の評価のすべてを決める。筆者は、半分は構造の改善(高付加価値の機種)、半分は山と見る。
純利益が営業利益の5割に届かないのは、香港上場の子会社に少数株主がいるからだ。会社の稼ぎの一部は外の株主のものになる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
精密自動旋盤の世界市場は、日本の大手3社が長く上位を占めてきた。シチズンマシナリーが首位で、ツガミとスター精密が続く、というのが業界の見方だ。ただ、かつての集計であり、いまは中国・韓国・台湾の勢力が伸びている。
需要の中身は、スマートフォンなどの小型端末、車載部品、医療部品だ。電子機器は新機種の投資で波があり、自動車は電動化で部品の形が変わる。どちらも景気の影響を直接受ける。足元は中国のスマートフォンや車載の投資が強く、受注が押し上げられている。
工作機械全体の受注は、2026年上期に前年から約36%増え、通年で1兆7,000億円ほどとなる見通しだ。外需の7割強がAIデータセンター関連の半導体・電子部品向けなどで、中国と自動車向けは弱い、というのが業界の見方である。ツガミは中国向けが強い点で、業界の平均とは少し違う位置にいる。
競争の形は変わりつつある。シチズンマシナリーは中国の生産能力を増やしている。スター精密は中国の生産をタイに移し、中国の外から売る道を探る。ツガミは中国での存在感が大きく、その分、中国の景気や政治の影響を正面から受ける。
工作機械は受注の振れがきわめて大きい。2009年3月期の前後には利益がほぼ消え、営業利益率は1%台まで落ちた。10年という期間では、少なくとも1回は大きな谷が来ると見ておくのが自然だ。
資本政策と M&A
還元は控えめだ。配当は安定が基本で、2026年3月期の配当性向は2割台だった。2027年3月期は増配の予想である。自社株買いは「必要性・財務・株価を見て判断」とされ、定常の実績は見えない。
その結果、純現金は332億円まで積み上がった。時価総額の1割を超える。ただ、現金の一部は中国の子会社にあり、少数株主もいるため、全額が親会社の株主にそのまま戻るとは限らない。筆者はこの点を割り引いて見る。
買収は活発ではない。長岡の工場とインド、中国の生産設備に年20億円ほど投じ、地道に能力を増やしている。政策保有株はファナックやダイキン工業など小さく、資本の重しにはならない。
2026年5月に「資本コストや株価を意識した経営」の方針を出し、資本コストを上回るROEを安定して保つとした。数値の目標はなく、還元を大きく増やす約束もない。買収される側になる確率は小さくなく、kabufuの推計では10年以内のTOBや買収は15%ほどだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ツガミは、中国に自前の工場と保守網を持つ数少ない日本の精密工作機械メーカーだ。電子機器と車載の部品は、10年後も世界で作られ続ける。部品が小さく精密になるほど、ツガミのような専業の出番が増える。
利益率は構造的に上がった。高付加価値の機種を増やし、工場の生産性も上がった。過去5年の営業利益率は20%前後で、28%は山でも、20%台前半が新しい平常と考えるのは無理がない。
中国の電子機器と電動車の産業は、世界の供給の中心になっている。その加工機の需要は物価と同じ速さで伸び続ける。インドの新工場が立ち上がり、中国以外の売上も増える。
財務は純現金で、借金がない。不況が来ても投資を止めずに済み、競合が引くところで攻められる。会社が「資本コストを上回るROEを安定して保つ」と宣言した以上、積み上がった現金は還元に向かう。2027年3月期に増配を予想しているのは、その最初の一歩だ。
小径の精密加工は、次世代のスマートフォン、車載カメラ、医療機器と、用途が広がり続ける領域でもある。一つの用途が落ちても別の用途が支える。中国の顧客は品質と納期に敏感になり、安さだけの機械から実績のある機械へ移っていく。
慎重な見方
営業利益率28%は、過去10年で一度もなかった水準だ。5年前は16%、10年前は5%だった。景気と中国の需要が重なった山の利益を、そのまま続くものとして扱うのは危うい。
売上の8割が中国という偏りも重い。中国の景気が減速し、スマートフォンや車載の投資が落ち込めば、受注は急に縮む。米中の摩擦や輸出規制、人民元の動きは、会社が自分で変えられない。
競合も黙っていない。シチズンマシナリーは中国の生産を倍に増やしている。中国メーカーは自国の産業とともに技術を磨き、汎用の価格帯から高精度の領域へ上がってくる。値段を自分で決められる会社ではなく、競争が激しくなれば値下げに巻き込まれる。
資本政策にも疑問が残る。純現金は積み上がっても還元の方針が曖昧で、現金の一部は少数株主のいる中国の子会社にある。親会社の株主にとっては、見かけの現金ほど価値がない。
電子機器の設備投資は新機種の波に左右され、自動車は電動化で部品の形そのものが変わる。需要の中身が偏っているので、どちらかが崩れると受注に直接響く。ツガミの強みである小径の精密領域も、顧客が安い機械で十分と判断すれば、値段で勝負する市場に変わる。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分には理がある。小径の高精度という領域の技術と、中国の現地の体制は本物だ。だが、今の利益を10年先まで続くものと見る説得力は弱い。筆者は、利益率が過去5年の中央値あたりへ戻る姿を中立に置き、確率は楽観側と悲観側をほぼ同じにした。中国への偏りと景気の山を重く見て、悲観側にやや厚く置いている。10年後の本質価値は今の時価総額の5割台半ばで、結論は割高になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,644 円3,076 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,061 円954 億円)。 今の値に割り戻すと 4,569 円2,115 億円、今との差 +3.0%、 期待の年率 +7.0%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 12,424 円5,752 億円 | 2,949 円1,365 億円 | +246.6% | +13.2% | 1,845 円854 億円 |
| やや楽観 | 22% | 9,721 円4,500 億円 | 2,527 円1,170 億円 | +176.2% | +10.7% | 2,695 円1,247 億円 |
| 中立 | 30% | 8,072 円3,737 億円 | 2,316 円1,072 億円 | +134.2% | +8.9% | 3,116 円1,443 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,242 円1,038 億円 | 1,663 円770 億円 | −12.0% | −1.3% | 859 円398 億円 |
| 悲観 | 14% | 713 円330 億円 | 648 円300 億円 | −69.3% | −11.1% | 191 円88 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,644 円3,076 億円 | 2,061 円954 億円 | +96.3% | +7.0% | 8,705 円4,030 億円 |
今の株価時価総額 4,435 円2,053 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 12% 電子機器と電動車の需要が続き、利益率が高いまま定着 利益 266 億円 · PER 20.2 倍 · 株価時価総額 12,424 円5,752 億円
中国の電子機器と電動車の産業が世界の供給の中心であり続け、精密加工の需要は実質で伸びる。ツガミは現地の工場と保守で顧客をつなぎとめ、中国向けの取り分は今より3割ほど増える。小径・高精度の機種の比率が上がり、営業利益率は25%前後で定着する。インドの工場が立ち上がり、中国以外の取り分も5割増える。競合は価格で攻めるが、高付加価値の領域では技術の差が残る。積み上がった現金は、会社が掲げた資本コストを上回るROEの方針に沿って厚く還元される。10年にわたり、景気の谷が浅く済む、会社にとって最も都合のよい筋書きだ。
- 中国向け(精密自動旋盤・研削盤など):数量 1,393(中国向けの実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100))→ 売上 1,867 億円・営業利益 467 億円。実質 +3% 年、価格は物価並み
- 中国以外(日本・インド・韓国・欧州ほか):数量 389(中国以外の実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100))→ 売上 521 億円・営業利益 104 億円。インド・欧州の立ち上がりで実質 +4% 年
倍率:事業の純利益 262 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 25.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 20.23 倍、時価総額 5,560 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中国の需要の波、利益率の定着、インドの立ち上がりが10年そろう必要がある。起これば強いが、重なる確度は高くない。
やや楽観 22% 中国の需要は堅調、利益率は20%台前半で定着 利益 207 億円 · PER 19.8 倍 · 株価時価総額 9,721 円4,500 億円
中国の電子機器と車載の需要は、景気の波を挟みながらも実質で緩やかに伸びる。ツガミは現地の工場で納期に強みを保ち、中国向けの取り分は今より15%ほど増える。高付加価値の機種の比率が上がり、営業利益率は23%前後で落ち着く。インドと欧州も伸び、中国以外の取り分は3割増える。競合のシチズンマシナリー、スター精密、中国勢との競争は続くが、シェアを大きく失うことはない。還元は少しずつ増え、純利益の6割台半ばが株主に戻る。景気の谷は来るが浅く、10年後は利益が今より2割ほど増えた姿になる。インド工場の立ち上がりが中国の落ち込みを一部補い、会社全体の売上は物価の伸びを少し上回る。経営は現金の使い道を示し、投資と還元のバランスが改善する。
- 中国向け(精密自動旋盤・研削盤など):数量 1,187(中国向けの実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 132(名目の価格指数(今=100))→ 売上 1,567 億円・営業利益 360 億円。実質 +1.4% 年、価格はやや物価未満
- 中国以外(日本・インド・韓国・欧州ほか):数量 337(中国以外の実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100))→ 売上 452 億円・営業利益 84 億円。実質 +2.7% 年
倍率:事業の純利益 204 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 23.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 19.75 倍、時価総額 4,269 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中国向けの取り分が緩やかに伸び、利益率が過去5年の中央値より少し上で保たれる姿。山のあとに構造の改善が一部残るという見方に当たる。
中立 30% 中立:利益率は5年の中央値あたりへ戻り、利益は今と同じ名目額 利益 170 億円 · PER 19.3 倍 · 株価時価総額 8,072 円3,737 億円
10年後の利益は、名目で今とほぼ同じ額に落ち着く。物価の分で売上は3割増えるが、実質の数量は伸び悩む。中国向けの取り分は今の水準を保つのがやっとで、現地の競合との値段の競争で価格は物価に少し届かない。営業利益率は過去5年の中央値に近い20%前後へ戻る。インドと欧州は伸びるが、会社全体への効きは小さい。10年のうちに景気の谷が1回は来て、そこから戻った水準で10年目を迎える。還元は純利益の6割台半ばまで高まり、現金の積み上がりは止まる。ごく普通に強い専業メーカーとして、山を越えた先に落ち着く10年だ。
- 中国向け(精密自動旋盤・研削盤など):数量 1,032(中国向けの実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 130(名目の価格指数(今=100))→ 売上 1,342 億円・営業利益 289 億円。実質 0% 年(山の水準を保つ)、中国の競争で価格は物価に届かない
- 中国以外(日本・インド・韓国・欧州ほか):数量 324(中国以外の実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100))→ 売上 434 億円・営業利益 74 億円。インド・欧州で実質 +2.3% 年
倍率:事業の純利益 166 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 19.32 倍、時価総額 3,467 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:今の利益が山であること、売上の8割が中国であること、競合が中国で力を入れていることを合わせた中心の姿。景気の山を平らにならすと、この水準に収まる。
やや悲観 22% 中国勢と競合に押され、利益が景気の谷の水準に戻る 利益 77 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 2,242 円1,038 億円
中国の電子機器と車載の設備投資が一服し、競合が価格で攻める。シチズンマシナリーは中国の生産を増やし、中国メーカーも精度を上げる。ツガミの中国向けの取り分は今の4分の3に縮み、価格も物価に届かない。営業利益率は14%まで下がり、過去の谷(2024年3月期の16%を下回る水準)に近づく。インドと欧州も伸び悩む。技術と現地の体制という事業の中身は残るが、もはや高い利益率を稼ぐ会社ではない。純現金は配当と自社株買いで少しずつ減る。ROEは資本コストを下回り、ためた利益が額面の価値に届かない姿になる。中国以外の売上が伸びても会社全体を支えるには小さく、営業利益は今の4割ほどに縮む。経営はコストを削って利益率を守ろうとするが、需要の減少には追いつかない。
- 中国向け(精密自動旋盤・研削盤など):数量 774(中国向けの実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 120(名目の価格指数(今=100))→ 売上 929 億円・営業利益 130 億円。実質 −2.5% 年、価格は競争で物価に届かない
- 中国以外(日本・インド・韓国・欧州ほか):数量 246(中国以外の実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 125(名目の価格指数(今=100))→ 売上 308 億円・営業利益 37 億円。実質 −0.5% 年
倍率:ROE 6.8% が k 7.75% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 11.1 倍まで。利益率が谷へ戻り、稼ぐ力の質も落ちるので、上限の 7.7 割の 8.5 倍に置いた。
確率:電子機器・車載の投資が一服し、中国現地の競争が強まる。10年のうちに大きな谷を経験する会社として、起こりやすい姿。
悲観 14% 中国で構造的に市場を失い、優良さが消える 利益 8 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 713 円330 億円
中国メーカーが精密自動旋盤の高精度の領域にも届き、中国政府の自給の方針と補助金がそれを後押しする。米中の摩擦や輸出規制で、日本の機械を使う中国の顧客が減る。ツガミの中国向けは半分以下に縮み、価格も競争で物価の伸びに届かない。固定費の重い工場と販売網が残り、営業利益率は4%に落ちる。中国以外の売上も伸びない。もはや優良な専業メーカーとは言えず、事業の価値は手元の現金と売れる資産が中心になる。ただ、財務に借金がないので、会社が行き詰まることはない。工場の稼働率が落ち、人員の整理や拠点の統合に追われる10年になる。配当と自社株買いは、利益がほぼ出ない中で、手元の現金や保有株の売却から払う形になる。 還元の合計は10年の純利益の合計を大きく超えるが、その分は現金から払い、売れる資産の床の計算でも同じ額を引いている。
- 中国向け(精密自動旋盤・研削盤など):数量 464(中国向けの実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 105(名目の価格指数(今=100))→ 売上 487 億円・営業利益 19 億円。実質が半分以下に縮み、価格も物価に届かない
- 中国以外(日本・インド・韓国・欧州ほか):数量 207(中国以外の実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 115(名目の価格指数(今=100))→ 売上 238 億円・営業利益 12 億円。実質 −2% 年、固定費の重さで利益率が落ちる
倍率:中国で構造的に市場を失い、稼ぐ力がほぼ消える筋書き。純現金と売れる資産の税後を床にした。約 330 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:売上の8割が一つの国にあり、中国の産業政策・自給率の上昇・米中の摩擦のどれかが強く出れば起こりうる。10年という期間では無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
中国向け(精密自動旋盤・研削盤など)
中国の電子機器・自動車・医療部品の加工業者向けに、中国の自前の工場で作る精密自動旋盤などを売る。保守と部品も含む。
| 数量中国向けの実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,032 | 100 | 1,032 | 300 |
| 10 年後 中立 | 1,032 | 130 | 1,342 | 289 |
取り方:有報で中国向けの外部売上は連結の79.9%(約1,032億円)。営業利益 361 億円の配分は開示がなく、中国の利益率が高い前提で 300 億円(29%)と推定。市場規模×シェアの形で、シェアの分を数量に入れ、物価の分は価格指数に入れた。
中国以外(日本・インド・韓国・欧州ほか)
日本、インド、韓国、その他の地域向けの自動旋盤など。インドはチェンナイの工場が立ち上がり、成長の余地がある。
| 数量中国以外の実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 259 | 100 | 259 | 61 |
| 10 年後 中立 | 324 | 134 | 434 | 74 |
取り方:連結売上1,291億円から中国向けを引いた259億円。営業利益は残りの61億円(24%)と推定。海外比率94.9%のうち中国が79.9%なので、日本の外部売上は約5%、インド・韓国・欧州ほかが約15%。
リスクと懸念
中国への売上の偏り
外部向け売上の約8割が中国で、日本は5%ほど。中国の景気、産業政策、米中の摩擦、人民元の動きのどれかが悪化すれば、会社全体の受注が同時に落ちる。分散がきかない。
利益率が山にあること
営業利益率は28%と過去最高で、直前の5年の中央値は20%。受注は景気で大きく振れる。2009年3月期の前後には利益がほぼ消えた。山の利益を前提にした見方は、谷で大きく崩れる。
中国勢と日本の競合
シチズンマシナリーは中国の生産能力を増やし、スター精密は中国から外へ生産を移す。中国メーカーは自国の産業の成長とともに技術を磨く。ツガミが強い精密の領域にも、いずれ価格競争が及ぶ。
需要の偏り
顧客は電子機器(スマートフォンなど)と自動車の部品加工業者に偏る。新機種の投資の波と、自動車の電動化による部品の形の変化が、受注の振れを大きくする。医療部品は小さく、偏りを薄めるほどではない。
少数株主と現金の置き場所
中国の子会社は香港市場に上場しており、利益の一部は外の株主のものになる。純現金の一部は現地にあり、親会社の株主に戻るまでに配当の送金や税の制約がありうる。見かけの純現金より価値は低い。
還元方針の曖昧さ
配当性向は2割台で、自社株買いの定常の実績が見えない。資本コストを上回るROEを保つとの方針はあるが、数値の目標がない。現金が積み上がる一方でROEが下がる可能性が残る。
今後の分かれ目
- 中国の電子機器・車載の設備投資が急に一服し、受注が前年から3割以上落ちる
- 営業利益率が10%台前半まで下がり、利益は今の半分以下になる。純現金が支えるので行き詰まりはしない。
- シチズンマシナリーや中国メーカーが、ツガミの強い高精度の領域で値下げを始める
- 価格が物価の伸びを下回り、利益率が構造的に下がる。堀が思ったより浅かったことになる。
- 会社が数値の還元目標(総還元性向の引き上げなど)を示し、自社株買いを定常化する
- 積み上がった現金が株主に戻り、ROEが上がる。中立の自己資本の積み上がりが小さくなる。
- 米中の摩擦や輸出規制が強まり、日本製の機械が中国で使いにくくなる
- 中国向けの売上が大きく減り、悲観の筋書きに近づく。中国以外の売上が薄めるには小さすぎる。
- インドの新工場が立ち上がり、中国以外の売上が倍近くに伸びる
- 中国への偏りが薄まり、利益の質が上がる。10年の確率を楽観側へ寄せる材料になる。
- 他社が買収を提案し、TOBが現実になる
- 少数株主の多い中国子会社の扱いが論点になる。親会社の株主にとっては、現金の価値が見直される機会になりうる。
見ておくもの
- 日本工作機械工業会の月次受注(外需・中国向けの動き)
- ツガミの四半期の受注と営業利益率(28%の持続性)
- 中国の電子機器・車載の設備投資の動き
- シチズンマシナリーとスター精密の中国での生産・販売の動き
- 配当性向と自社株買いの方針(還元の目標の有無)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(PER 約15倍)を見ずに、その時点のROEと資本コスト7.75%(基本7.5%に、循環・値決め力・寿命の調整+1.5%)から式で置いた。中立は式の上限の9割で、ROEがkを上回るので下限の1÷kが効いている。やや悲観はROEがk以下で1÷kを上限とし、悲観は純現金と売れる資産の床にした。今の値段が半分でも倍でも、価値の数字は変わらない作りだ。中立は利益率を過去5年の中央値へ戻す形で、山の利益をそのまま延ばしていない。純現金は時価総額の1割を超えるため、250億円を余った現金として分け、戻り方は0.5とした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.6→20.23 倍・やや楽観 PER 11.7→19.75 倍・中立 PER 11.3→19.32 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.5% = 9.0%。中国への売上の偏りは k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 7.75%。