結論
小池酸素工業は、鉄板を切る機械で国内の老舗であり、酸素やアセチレンなどの高圧ガスと溶接材料も売る会社だ。筆者の結論は、価値は今の時価総額の前後で、割安とも割高とも言い切れない、である。切断機の稼ぎは強いが、その利益が全体に伸びていかない構造がある。
2026年3月期の売上は556億円、営業利益は48億円。機械装置が売上の5割弱で、セグメント利益の7割強を稼ぐ。ガス事業は売上の3分の1強だが、利益率は7%に届かない。全社の費用が約19億円あり、利益はそこで目減りする。
中期経営計画は2027年3月期に経常利益63億円、ROE10%を掲げる。しかし会社の今期予想は経常利益53億円で、計画に届かない。機械装置の受注残が前期より3割近く減ったことも気にかかる。筆者は、10年後の中立で営業利益率は8%台、ROEは6%ほどと見る。
純現金は104億円と時価総額の3分の1に当たる。ただ配当性向は30%台で自社株買いもなく、この現金は株主に戻りにくい。価値の多くは、この戻りにくい現金を半分に割り引いた分で押し上げられている、と筆者は見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くない事業を持つ、資本の配分が弱い会社」と映る。
切断機の稼ぐ力は本物だ。機械装置のセグメント利益率は19%近い。ただし売上の4割強を占めるガスと溶接は、利益率が4〜7%と低く、全社の営業利益率は9%に届かない。さらに全社の費用が約19億円あり、稼ぎが目減りする。
本質価値は、10年後に株主の手元に残る利益で測る。筆者は、10年後の中立の純利益を45億円ほどと見る。今の35億円から、物価並みにしか伸びない姿だ。
資本の使い方に懸念がある。純現金104億円は時価総額の3分の1だが、配当性向は30%台で自社株買いもない。利益が積み上がる一方、ROEは6%台に沈む。持ち合いの日本酸素HD株も、58億円が寝ている。筆者は、現金と持ち合い株の価値を、半分ほどに割り引いて見る。
安全域は、純現金と持ち合い株の厚みにある。悲観でも資産の売却価値は時価総額の半分ほどに残る。だが、特別に安い値段ではない。
何で稼ぐ会社か
小池酸素工業は、金属を切る・溶かして付ける技術を、機械・ガス・材料の三つで売る。
機械装置は、ガス切断機やプラズマ切断機、ファイバーレーザー切断機を作る事業だ。2026年3月期は売上259億円、セグメント利益は48億円で、利益率は19%近い。自社開発のDBC方式を使った厚板向けのレーザー切断機(FIBERTEX)が主役で、建築鉄骨や橋梁、造船の加工現場が顧客になる。神鋼鋼板加工も12kW機を入れた。
高圧ガスは、酸素・窒素・アルゴンなどを充填して届ける事業だ。売上は198億円と全体の36%を占めるが、セグメント利益は13億円と利益率が低い。充填工場の再編と配送の合理化を進めている。切断機とガスをセットで売る一体販売が、会社の狙いである。
溶接機材は売上81億円で、利益は3億円にとどまる。仕入れ価格の上昇を転嫁しきれず、前期から半減した。その他の部門が大きく伸びたが、売上は19億円と小さい。
米国にも子会社があるが、海外売上の比率は開示から取れない。
機械の売上は検収基準で計上するため、納入が遅れると計上も遅れる。受注から売上までの時間差があり、受注残の動きは翌年の売上の先行指標になる。
優良さと弱いところ
小池酸素の強みは、切断機の技術と、ガスと機械を同じ顧客に売れる関係にある。機械は一度入れると、消耗品のガスやノズル、部品が続いて売れる。ガスの配送網は、地域の顧客との長い取引に支えられている。
弱みは三つある。第一に、機械装置の競争だ。厚板用レーザー切断機は中国などの新興メーカーが追いかけており、受注価格は下がりやすい。有価証券報告書も、競合激化による受注価格の低下をリスクに挙げた。第二に、ガス事業の利益率の低さだ。大手の産業ガス会社と比べて規模が小さく、物流費の上昇を価格に載せにくい。第三に、受注の動きだ。機械装置の受注残は前期から約26%減った。
資本効率は低い。過去10年のROEの中央値は3.8%で、今期の7.4%は山の水準にすぎない。自己資本比率は59%、純現金は104億円と財務は強いが、配当性向は30%台で自社株買いもなく、戻す力が弱い。
経営の評価は慎重だ。中計の初年度と2年目は、売上も利益も目標を下回った。全社の費用が約19億円と、機械装置の利益の4割にもなる点は、効率の悪さを映している。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
小池酸素の事業は、三つの別々の市場に分かれる。
機械装置は、造船・建築鉄骨・橋梁・建設機械などで鋼板を切る設備の市場だ。日本工作機械工業会によれば、2026年上期の工作機械受注は前年同期比35.7%増だった。ただし中心は半導体や電子部品向けで、厚板の切断機は別の波に乗っている。鋼板加工の人手不足は構造的な追い風だが、中国などの安い機械との競争は避けられない。
高圧ガスは、成熟した国内の流通事業だ。需要は人口と製造業の稼働に連れて動き、数量は10年で1割弱減る。値段は物流費の上昇を理由に改定が進む。大手の産業ガス会社が価格の主導権を握るので、小池酸素は追随する立場にある。
溶接機材は、国内の製造・建設の稼働に連動し、仕入れ価格の上昇を転嫁できるかで利益が決まる。
循環の位置は、機械装置は山を過ぎて下りの入口にある。受注が前期より減り、受注残も薄くなった。ガスと溶接は景気の影響が小さい代わりに、伸びも小さい。
10年の見立てでは、機械装置は名目で年3〜5%の伸び(実質0〜2%)、ガスと溶接は人口減で数量が横ばいか微減と置く。物価の3%は価格に入れる。
資本政策と M&A
株主還元の方針は、配当性向30%以上だ。2026年3月期の配当性向は30.5%だった。年1回の配当で、自社株買いは確認できない。純現金が104億円あるのに、還元は慎重だ。
大きな特徴は、持ち合いだ。上場株式の政策保有が17銘柄ある。中でも日本酸素ホールディングスの株を105万株持ち、帳簿は58億円にのぼる。逆に日本酸素HDは当社の株主で、5.1%を持つ。高圧ガスの取引先として、共同出資も行う関係だ。株主には小池商事(6.4%)、小池化学(2.5%)と、小池の名を冠する会社も並ぶ。
日本酸素HDが買い手に回る可能性はゼロではない。ただ持ち分は5%にとどまり、具体的な開示はない。筆者は、10年の確率を重く見ない。
還元の置き方:10年の中立で純利益の合計の3分の1を配る。会社の方針に沿った形で、余った現金は積み上がり、株主に戻らない前提だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
切断機は、人手不足の時代にもっとも必要とされる自動化設備のひとつだ。DBC方式のファイバーレーザー機は厚板に強く、鉄骨や橋梁、造船で置き換えが進む。機械装置の利益率は19%近くあり、同業の汎用機メーカーを大きく上回る。受注は一時的に減ったが、2027年3月期の第1四半期は売上が4.5%増えており、底は固い。
高圧ガスと溶接も、価格改定が通れば利益率が上がる余地がある。充填工場の再編が終われば、固定費が下がり、ガスの利益率は7%台に戻る。
財務の厚みも強みだ。純現金は104億円で、時価総額の3分の1に当たる。中計が掲げたROE10%を、自己資本の圧縮や還元の強化で達成すれば、評価は一変する。日本酸素HD株の含み益も、いざという時に売れる資産だ。長く株を持つ安定株主がいるので、長期の投資ができ、買収の攻撃にも強い。
工作機械の業種全体も強い。受注は2026年に1兆7,000億円ほどの見通しで、回復が続くなか、切断機は取り残されていない。
慎重な見方
利益は機械装置の一本足で、全体の効率は悪い。ガスと溶接は売上の半分近くを占めながら、利益率が4〜7%と低く、人手も設備も食う。全社の費用も約19億円と重い。2027年3月期の会社予想は経常利益53億円で、中計の63億円に10億円足りない。第1四半期の営業利益も8.5%減っている。
機械装置の受注は前期比で5%減り、受注残は26%減った。中国などの安い機械との価格競争が強まれば、19%近い利益率は維持できない。有価証券報告書自身が、競合による受注価格の低下をリスクに挙げた。
純現金104億円は、経営者が戻す気のない現金だ。配当性向は30%台、自社株買いはゼロで、10年で純現金が6倍に積み上がった。ROEが長く3〜4%だったのは、この現金が使われなかったからだ。持ち合いの日本酸素HD株が58億円あるのも、同じ体質を映している。長く株を持つ株主が安定しているので、少数株主の声は通りにくい。
加えて、全社の費用が約19億円と、機械装置の利益の4割にもなる。この重い固定費を削れない限り、売上が伸びても利益は残らない。
どちらに重みを置いたか
強い方は慎重な見方だ。機械装置の利益率が山にあり、受注残が減っている点と、現金が戻りにくい点が重い。確率は中立に3割強、やや悲観と悲観に3割台を置き、現金の戻り方は半分に割り引いた。切断機の技術と財務の厚みは認めるが、効率の悪さを覆す根拠は、実績の側に足りない。
なお、現金の戻り方を0.5とした点が、価値を最も動かす。この値が1.0なら、価値は1割ほど上がる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,693 円569 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 642 円136 億円)。 今の値に割り戻すと 1,719 円363 億円、今との差 +17.0%、 期待の年率 +8.5%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 5,185 円1,096 億円 | 1,059 円224 億円 | +325.1% | +15.6% | 749 円158 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,824 円809 億円 | 837 円177 億円 | +217.3% | +12.2% | 1,025 円217 億円 |
| 中立 | 32% | 2,895 円612 億円 | 629 円133 億円 | +139.9% | +9.1% | 1,128 円238 億円 |
| やや悲観 | 22% | 972 円205 億円 | 473 円100 億円 | −1.7% | −0.2% | 318 円67 億円 |
| 悲観 | 12% | 743 円157 億円 | 213 円45 億円 | −35.0% | −4.2% | 115 円24 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,693 円569 億円 | 642 円136 億円 | +127.0% | +8.5% | 3,335 円705 億円 |
今の株価時価総額 1,469 円311 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 12% ファイバーレーザー切断機が世界で伸び、機械装置が会社の稼ぎ頭を広げる 利益 74 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 5,185 円1,096 億円
機械装置が成長の柱になる。DBC方式のファイバーレーザー切断機は、厚板・大板に強みがある。造船と建築鉄骨・橋梁で人手不足が進み、厚板の自動切断の置き換えが10年かけて広がる。米国子会社を足がかりに海外の売上も伸びる。
高圧ガスは、物流コストを価格に転嫁する改定が定着し、機械との一体販売で顧客を囲い込む。溶接機材も省エネ商材で薄利を脱する。
10年後の売上は950億円、営業利益率は11%台と、過去の山を超える。余った現金の一部は成長投資と株主還元に回り、評価も上がる。ここまで来れば、小池酸素は「ガス屋が持つ切断機部門」ではなく、切断機の会社がガスも売る姿として評価される。
- 機械装置(ガス・プラズマ・レーザー切断機):数量 375(当社の実質の取り分(切断機・関連サービスの市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 140(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 525 億円・営業利益 105 億円。実質1.45倍(造船・鉄骨・海外の拡販)、価格指数140
- 高圧ガス(産業ガス・医療ガスの充填と配送):数量 194(当社が売るガスの実質の量(今の値段基準の売上・億円))× 価格 140(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 271 億円・営業利益 20 億円。実質0.98倍、価格改定が通り価格指数140
- 溶接機材・その他:数量 109(当社が売る機材の実質の量(今の値段基準の売上・億円))× 価格 140(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 153 億円・営業利益 9 億円。実質1.1倍、省エネ商材で利益率が改善
倍率:事業の純利益 74 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。全体の PER 14.29 倍、時価総額 1,096 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:造船・鉄骨の更新需要と海外の拡販が10年続き、機械装置の利益率も2割に乗せる必要がある。足元の受注は前年を下回っており、連続して当たる確度は高くない。
やや楽観 22% 切断機は海外で着実に伸び、ガスは価格改定で踏みとどまる 利益 59 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 3,824 円809 億円
機械装置は、造船と鉄骨の更新需要が着実に続く。海外の売上も増えるが、競合が多く、利益率は19%に少し緩む。
高圧ガスは、充填工場の再編と配送の合理化でコストを抑え、価格改定も通る。ただし国内の需要は人口とともに細り、数量はやや減る。溶接機材は仕入れ価格の転嫁が進み、薄利ながら黒字を保つ。
10年後の売上は850億円ほど、営業利益率は10%ほど。中計の目標(ROE10%)には届かないが、配当性向30%以上は守られ、純現金は増え続ける。ただ、ガスと溶接の利益率が低いままなので、全体の効率は大きくは変わらない。
- 機械装置(ガス・プラズマ・レーザー切断機):数量 331(当社の実質の取り分(切断機・関連サービスの市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 137(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 453 億円・営業利益 86 億円。実質1.28倍、価格指数137
- 高圧ガス(産業ガス・医療ガスの充填と配送):数量 188(当社が売るガスの実質の量(今の値段基準の売上・億円))× 価格 137(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 257 億円・営業利益 18 億円。実質0.95倍、価格指数137(物価並みを少し下回る)
- 溶接機材・その他:数量 104(当社が売る機材の実質の量(今の値段基準の売上・億円))× 価格 137(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 143 億円・営業利益 8 億円。実質1.05倍、価格指数137
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。全体の PER 13.06 倍、時価総額 808 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の目標(ROE10%)には届かないが、機械装置の受注が持ち直し、利益率が2割弱を保つという堅い見立て。
中立 32% 中立:切断機は薄く伸び、ガスは横ばいで、現金だけが積み上がる 利益 45 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,895 円612 億円
機械装置は、足元の高い利益率が少し緩む。FY2026の受注は前年を下回り、受注残も3割近く減った。造船・鉄骨の需要は続くが、中国などの安価なレーザー機との競争で、値上げの一部しか通らない。
高圧ガスは、国内の需要が人口とともに細り、数量は1割弱減る。価格は物価並みに上がるが、配送費の上昇で利益率は6%台にとどまる。
10年後の売上は770億円、営業利益率は8%台で、今の水準とほぼ同じだ。利益は物価並みにしか伸びず、純現金だけが積み上がる姿になる。中計の目標(ROE10%)は、10年たっても届かない。
- 機械装置(ガス・プラズマ・レーザー切断機):数量 290(当社の実質の取り分(切断機・関連サービスの市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 388 億円・営業利益 68 億円。実質1.12倍、価格指数134(物価並み)。利益率は山の18.7%から少し緩む
- 高圧ガス(産業ガス・医療ガスの充填と配送):数量 184(当社が売るガスの実質の量(今の値段基準の売上・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 246 億円・営業利益 16 億円。実質0.93倍(人口減)、価格指数134
- 溶接機材・その他:数量 99.4(当社が売る機材の実質の量(今の値段基準の売上・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 133 億円・営業利益 7 億円。実質横ばい、価格指数134
倍率:事業の純利益 44 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 612 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの工作機械の見通し(受注は名目年3〜5%、実質0〜2%)を機械装置に当て、成熟したガス事業は数量が小さく減る想定。足元の受注減と1Qの減益は、山を過ぎた姿と読む。
やや悲観 22% 安い切断機に押され、機械装置の利益が半分になる 利益 19 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 972 円205 億円
機械装置の受注が落ち、受注残の減少が売上に表れる。競合の安い厚板用レーザー機に押され、値上げが通らず、価格は物価を下回る。利益率は13%まで下がる。
高圧ガスも数量が1割以上減り、配送費の上昇を転嫁しきれない。溶接機材は薄利のまま赤字に近づく。
10年後の売上は620億円で、営業利益は27億円ほど。配当は守るが、利益が細るので純現金は増えにくい。受注残の薄さが売上に表れるのは、早ければ数年のうちだ。余った現金の一部は、立て直しの費用に使われる。全社の費用を減らす構造改革が必要になるが、動きは遅い。
- 機械装置(ガス・プラズマ・レーザー切断機):数量 233(当社の実質の取り分(切断機・関連サービスの市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 125(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 291 億円・営業利益 38 億円。実質0.9倍、価格指数125(競争で物価を下回る)
- 高圧ガス(産業ガス・医療ガスの充填と配送):数量 174(当社が売るガスの実質の量(今の値段基準の売上・億円))× 価格 125(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 218 億円・営業利益 10 億円。実質0.88倍、価格指数125
- 溶接機材・その他:数量 89.5(当社が売る機材の実質の量(今の値段基準の売上・億円))× 価格 125(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 112 億円・営業利益 3 億円。実質0.9倍、価格指数125
倍率:事業の ROE 3.4% が k 7.75% を大きく下回り、ためた利益は額面未満の価値。構造的に伸びない筋書きで、稼ぐ力(純利益 ÷ k)に近づけず、9.5 倍に置いた。
確率:中国などのファイバーレーザー機との価格競争と、造船の受注の一服が重なる想定。受注残が3割減っている今、十分ありうる。
悲観 12% 切断機の競争力を失い、ガスも縮む 利益 −5 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 743 円157 億円
機械装置で、顧客が中国などの切断機に切り替える。DBC方式の差別化は薄れ、受注は半減する。固定費が重く、営業利益はほぼ消える。
高圧ガスは、大手の産業ガス会社に顧客を取られ、充填工場の稼働が下がる。溶接機材は赤字になる。造船・鉄骨の工事が減れば、材料とガスの出荷も同時に落ちる。
10年の累計でも利益はほとんど残らず、配当は減らされる。評価は稼ぐ力ではなく、持っている資産の価値で決まる。日本酸素ホールディングス株などの持ち分と、ガス設備の売却価値が、床を支える。株主総会で資本政策を問う声が強まっても、安定株主が多く、動きは鈍い。
- 機械装置(ガス・プラズマ・レーザー切断機):数量 181(当社の実質の取り分(切断機・関連サービスの市場規模 × シェア、今の値段基準・億円))× 価格 112(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 203 億円・営業利益 8 億円。実質0.7倍、価格指数112(値崩れ)
- 高圧ガス(産業ガス・医療ガスの充填と配送):数量 158(当社が売るガスの実質の量(今の値段基準の売上・億円))× 価格 112(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 177 億円・営業利益 4 億円。実質0.8倍、価格指数112
- 溶接機材・その他:数量 79.5(当社が売る機材の実質の量(今の値段基準の売上・億円))× 価格 112(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 89 億円・営業利益 1 億円。実質0.8倍、価格指数112
倍率:切断機の競争力を失い、ガスも縮んで稼ぐ力はほぼ消える。純現金は運転資金と配当に食われるため、売れる資産の税後を床にした(約 157 億円)。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:機械装置の受注が構造的に失われ、ガスも縮むという二重の負けが必要。過去にも赤字期(2014年3月期、2021年3月期)があり、起こりうる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
機械装置(ガス・プラズマ・レーザー切断機)
鋼板を切る切断機(ガス切断機・プラズマ切断機・ファイバーレーザー切断機)の製造・販売と、保守・部品。造船・鉄骨・橋梁・建設機械が顧客。
| 数量当社の実質の取り分(切断機・関連サービスの市場規模 × シェア、今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 259 | 100 | 259 | 48 |
| 10 年後 中立 | 290 | 134 | 388 | 68 |
取り方:有価証券報告書の機械装置セグメント(売上258.5億円・利益48.3億円)を置いた。市場規模とシェアは開示が無く、台数も取れないので、売上を実質の取り分として置く。価格は物価の指数(今=100)、rev_factor=0.01で億円に換算する。数量は実質で、物価は価格の側に入れた。
高圧ガス(産業ガス・医療ガスの充填と配送)
酸素・窒素・アルゴンなどの高圧ガスを充填し、顧客に配送して売る事業。切断機との一体販売も進める。
| 数量当社が売るガスの実質の量(今の値段基準の売上・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 198 | 100 | 198 | 13 |
| 10 年後 中立 | 184 | 134 | 246 | 16 |
取り方:有価証券報告書の高圧ガスセグメント(売上197.7億円・利益13.1億円)を置いた。数量は開示が無いので売上を実質の量として置く。国内の成熟需要で、人口と製造業の稼働に連動する。価格は物価の指数(今=100)、rev_factor=0.01で億円に換算する。
溶接機材・その他
溶接機・溶接材料などの機材の販売と、その他の事業(セグメント上は別だが、規模が小さいので合算した)。
| 数量当社が売る機材の実質の量(今の値段基準の売上・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 99.4 | 100 | 99 | 6 |
| 10 年後 中立 | 99.4 | 134 | 133 | 7 |
取り方:溶接機材(売上80.9億円・利益3.2億円)とその他(売上18.5億円・利益2.9億円)を合算した。数量は開示が無いので売上を実質の量として置く。価格は物価の指数(今=100)、rev_factor=0.01で億円に換算する。
リスクと懸念
機械装置の山と受注残
利益の7割強を稼ぐ機械装置は、2026年3月期の受注が前年の94.8%、受注残は73.5%に減った。造船・鉄骨の需要が一服すれば、19%近い利益率を保てない。2010年代にも営業利益率が3%台まで下がった時期がある。
新興メーカーとの価格競争
厚板用のレーザー切断機では、中国などの安い機械が追いかけている。有価証券報告書も競合激化による受注価格の低下をリスクに挙げた。差別化が薄れると、機械装置の利益率は大きく下がる。
ガス・溶接の低い利益率
高圧ガスは売上の36%を占めながら利益率は7%に届かない。物流費・人件費の上昇を転嫁しきれず、溶接機材は前期にセグメント利益が半減した。この二つが全社の営業利益率を9%未満に抑えている。
戻らない現金と持ち合い
純現金104億円と日本酸素HD株58億円は、時価総額の半分に当たる。しかし配当性向は30%台で自社株買いもなく、少数株主に戻る保証がない。小池の名を冠する会社など安定株主が多く、改善を迫る力も弱い。
全社の費用の重さ
セグメント利益の合計は約68億円だが、全社の費用が約19億円あり、営業利益は48億円に目減りする。この費用が物価で増え続ければ、利益率の回復は遠のく。
中計の未達
中計は2027年3月期に経常利益63億円、ROE10%を掲げる。会社の今期予想は経常利益53億円で、第1四半期の営業利益も8.5%減った。目標の未達が続けば、資本政策を見直す声が強まる可能性はあるが、現状は動きが乏しい。
今後の分かれ目
- 機械装置の受注残が2年続けて増える
- 利益率19%近い稼ぎが続く証拠になり、強気側の確率を引き上げる材料になる。
- 自社株買いや配当性向の大幅な引き上げが発表される
- 余った現金の戻り方が1.0に近づき、本質価値が現金の分だけ上がる。
- 機械装置の営業利益率が15%を割る
- 新興メーカーとの競争が利益に表れた形で、やや悲観側の筋書きに近づく。
- 日本酸素ホールディングスがTOBや持ち分の引き上げを行う
- 少数株主にはプレミアムの機会になる。高圧ガス事業の統合が進み、評価の軸が変わる。
- 高圧ガスの営業利益率が8%を超える
- 充填工場の再編と価格改定が実を結んだ証拠で、全社の利益率の天井が上がる。
見ておくもの
- 機械装置の受注高・受注残(四半期)
- 高圧ガス・溶接機材のセグメント利益率
- 配当性向と自社株買いの有無、持ち合い株の売却
- 中計の最終年度(2027年3月期)の達成度と次の中計の資本政策
- 日本工作機械工業会の月次受注、造船・鉄骨の工事量
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(PBR 0.67倍)を見ずに、その時点の事業のROEと資本コスト7.75%から正当化PERを出し、上位の筋書きは上限の8.5割、中立は式の9割に置いた。余った現金60億円は、事業の純利益から利息分を除いて別に足し、戻り方0.5を掛けた。やや悲観は稼ぐ力、悲観は純現金・持ち合い株・ガス設備の売却価値の床(約157億円)で置いた。数量は実質、価格は物価1.34倍が基本で、競争のある筋書きだけ下げた。日本酸素HD株の配当は利益に入っているので、価値には二重に足していない。過去や同業の倍率は使っていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.98→14.29 倍・やや楽観 PER 10.11→13.06 倍・中立 PER 9.68→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.75% = 8.25%。中計の実行の不確かさは k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。