結論
芝浦機械は、プラスチック製品を作る成形機と、金属を削る大型・超精密の工作機械を手がける老舗だ。筆者の結論は「割高」である。純現金は厚いが、稼ぐ力に比べて今の値段は高い。
看板の成形機は、中国の電池用フィルム装置の特需が終わり、前期は売上が3割近く減った。営業利益は44億円まで落ち、純利益は10億円にとどまる。過去10年のROEの中央値は5.5%で、資本コストを下回り続けてきた。
明るい材料もある。工作機械は光通信向けの超精密加工機が伸び、前期は利益が約3.5倍になった。欧州の成形機メーカーと米国の超精密機メーカーを相次いで買収し、次の柱を買う動きに出た。ただ、買収には純現金のかなりの部分を使う。
10年後の中立では、利益が今の平常の姿の3〜4倍に戻ると見る。それでもROEは資本コストにわずかに届かない。筆者は、確率で加重した本質価値は今の時価総額の7割弱とみる。大株主に海外ファンドが入り、資本効率の改善圧力は強まる。だが、利益が戻るまで待つ値段はまだ高い。
配当は3期連続で同額に据え置かれ、総額は約33億円だ。利益が落ちても守る姿勢は株主に優しいが、前期の純利益の3倍を超え、現金の取り崩しにつながる。筆者は、買収後に残る純現金と、平常の利益から見た稼ぐ力を重く見る。今の時価総額は、平常の利益のざっと30倍にあたる。利益が3〜4倍に戻って初めて見合う値段で、その回復は確実ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、芝浦機械は「悪くない会社だが、安くはない会社」と映る。事業は理解しやすく、財務も固い。だが、稼ぐ力は資本コストに届かない年が長く、利益の質に不安がある。
資本配分は、これからが試される。純現金の多くを、赤字の米国企業の買収に振り向ける。買収が実れば超精密の柱が育つが、高い値段を払う分、安全域は薄い。むしろ、自社株買いで自己資本を絞る方が、株主には確実な選択肢だったはずだ。
堀は狭く、深くない。大型機や超精密という技術の領域では強いが、成形機の中位機では価格競争から逃げられない。利益が景気と特需で大きく振れる点も、オーナーとして持ち続けるには気が重い。
安全域の面では、厚い純現金と自己資本が最悪の事態を防ぐ。しかし、今の時価総額は利益の回復をかなり織り込んでいる。確信度は低めに置く。
結局、見るべきは三つだ。第一に、買収の回収が現実的か。第二に、特需が剥げた後の平常の利益はいくらか。第三に、純現金が減った後の安全域はどれほどか。この三つが揃って初めて、バリュー投資家は値段に見合うと考える。今は、三つとも答えが出ていない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は二本立てだ。成形機は、プラスチックを溶かして型に流し込む射出成形機や、フィルムやシートを押し出す押出成形機を、自動車・電機・包装メーカーに売る。大きな機械が多く、受注を受けてから作る。売上の4分の3を占める最大の柱だ(前期)。
工作機械は、金属を高い精度で削る大型加工機と超精密加工機を売る。ナノ単位の精度で削る超精密加工機は、光通信の部品づくりに使われる。売上は成形機の4分の1ほどだが、利益率は前期に成形機を上回った。ロボットや電子制御機器の制御機械は小さく、前期は赤字だった。
芝浦機械は2017年に東芝グループを離れ、自立した。近年は、カンパニー制への移行と希望退職で固定費を減らす改革を進めている。さらに、成形機で欧州のLWBを、工作機械で米国のムーア社を買収した。どちらも機械の中身は本業の延長にある。ただ、ムーア社はまだ赤字の会社で、統合の成否は読みきれない、と筆者は見る。
最後に、前期の営業キャッシュフローがマイナスだった点に触れておく。在庫が売上の4割に及び、需要の波を在庫が吸い込む構造だ。
成形機と工作機械は、納めた機械が稼働する間、保守や部品の交換で収入が続く。ただ、収益の大半は新しい機械の販売にあり、景気と設備投資の波をまともに受ける。前期の売上1328億円のうち、成形機988億円、工作機械253億円、制御機械65億円、その他22億円という内訳だ。海外にはインド、タイ、東南アジア、北米、南米、欧州に拠点があり、インドでは増産を進めている。
優良さと弱いところ
芝浦機械の強みは、大きくて難しい機械を作る技術にある。大型の押出成形機や超精密加工機は、安い汎用機が簡単にまねできない領域だ。顧客と長く付き合い、保守・部品で稼ぐ面もある。
一方で、成形機は世界の上位企業ではない。市場は独アーブルクやエンゲル、中国の海天など大手の力が強く、上位5社で約2割を占めるにすぎない。中国勢は価格で攻め、中位機でも差を詰めている。
資本効率は弱い。過去10年のROEの中央値は5.5%で、資本コストを大きく下回る。自己資本比率は68%と厚く、財務は安全だが、資本を使い切れていない裏返しでもある。中計2026は営業利益率10%・ROE9.5%を目標にしたが、未達に終わる見込みだ。筆者がいちばん気にしているのは、改革の効果が出ないまま特需の反動に襲われたことだ。経営には、実績で信頼を取り戻す課題が残る。
工作機械の超精密加工機は、少数の高い技術力の会社だけが作れる分野だ。光通信の部品づくりに使われ、前期の営業利益を3.5倍に押し上げた。この領域が一時の流行で終わらず、技術の厚みとして続くかが、会社の質を左右する。成形機の側では、大型機・押出機の技術と、保守・部品の売上が下支えになる。ただし、前期の成形機の落ち込みが示すように、特定の用途への集中は弱みだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
成形機の需要は、世界の製造業と物価に連動する。自動車、電機、医療、包装と用途が広く、実質では年2〜3%ほどの緩やかな成長が普通だ。インドや東南アジアの伸びが追い風になる。ただ、前期の芝浦機械は、中国の電池用セパレーターフィルム装置の特需が剥落した。この特需は一過性で、同じ水準は戻らないと筆者は見る。
成形機の競争は価格がものを言う。中国の海天が量で攻め、日本勢は日精樹脂・住友重機械・ファナックが電動式で技術を競う。そこへ芝浦機械は大型機や押出機という狭い領域で戦う。
工作機械は、日本工作機械工業会によると2026年上期の受注が前年同期比で約36%増えた。中心はAIデータセンター向けの半導体・電子部品と自動化需要だ。芝浦機械の超精密加工機も、光通信向けで恩恵を受けた。ただし、中国は自給率を上げており、外需の4分の3を占める日本の工作機械産業は、いずれ中国の価格競争に直面する。
制御機械は、安川電機やファナックなど大手の領域で、芝浦機械は小さな存在にとどまる。
成形機の最大の市場は中国を含むアジアで、欧州が最も早く伸びるとされる。上位5社(アーブルク、エンゲル、ファナック、海天、ミラクロン)の合計シェアは約2割と、大手でも市場が分散している。電動化・省エネの流れでは、日本勢の技術力が強みになる。芝浦機械は、欧州の足場をLWBの買収で補い、インドの増産でアジアの需要を取りにいく。
資本政策と M&A
資本政策の軸は、買収で次の柱を買うことに移った。2025年12月に独LWB Steinlの8割を取得し、2026年5月には米ムーア社を企業価値1億5000万ドルで買うと決めた。ムーア社の直近の売上は3555万ドルで、営業は赤字だ。買収額は時価総額の約2割に当たる。
株主還元は、配当を3期連続で同額に据え置いている。総額は約33億円で、前期の純利益10億円の3倍を超える。利益が落ちても配当を守る姿勢は評価できるが、純現金の取り崩しが進む。
株主には海外ファンドのオアシスが約6.8%を持ち、ガバナンスの改善を求めている。2020年には村上世彰氏側のTOB(株式公開買い付け)を防衛策で退けた経緯もある。筆者は、資本効率への外圧が今後も続くと見る。買収と株主還元のどちらに現金を使うかが、これからの分かれ目だ。10年以内の買収・TOBの確率は14%程度と試算されている。
純現金は前期末で約319億円。現預金427億円に対し、有利子負債は約108億円だ。ここからムーア社に約225億円が出ると、残りは100億円を切る。配当を守りながら買収を進めると、余力はみるみる薄れる。次の一手が自社株買いなのか、さらなる買収なのかで、筆者の評価も変わる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電池装置の特需が剥げただけで、会社の地力は落ちていない。前期の成形機の営業利益は27億円と小さいが、これは特需の反動と買収費用が重なった底であり、本業の力はその上にある。欧州LWBが通年で加わり、インドの増産も効いて、成形機の売上は戻る。
工作機械はAIの追い風を受けて、前期に利益が3.5倍になった。光通信向けの超精密加工機は、データセンター投資が続く限り伸びる。米ムーア社の買収で販路が北米・欧州に広がり、航空・防衛・医療という安定した需要も取り込める。
資本政策の面でも変化が起きている。大株主に海外ファンドが入り、純現金の活用と資本効率の改善を迫っている。カンパニー制で固定費を絞った効果が出れば、営業利益率10%の目標も視野に入る。純現金は時価総額の4分の1を超え、悲観の局面でも守りは固い。10年の長い目で見れば、利益はいまの数倍に戻る余地が十分にある。
中国の電池装置の特需が一巡した後も、世界の電池・フィルム・包装向けの需要は残る。押出成形機で培った技術と、LWBの欧州販路が加われば、特需なしでも安定した受注が見込める。会社の歴史の中で、前期の純利益10億円は底に近い。
慎重な見方
前期の営業利益は44億円、純利益は10億円。今期の会社予想も営業利益は同じ水準で、第1四半期は営業赤字だった。中計2026の目標は大きく外れ、特需が剥げたら何も残らない構造が明らかになった。過去10年のROEの中央値は5.5%で、資本コストを下回り続けている。
成形機は価格競争の世界だ。中国の海天などは量と価格で攻め、中位機の領域に食い込んでいる。電池装置のような一回限りの特需に頼ってきたことが、むしろ地力の弱さを物語る。工作機械の超精密加工機も、光通信向けの需要の波に乗っているだけで、持続性は読めない。
買収も心配だ。赤字の米国企業に企業価値1億5000万ドルを払う。回収には長い時間がかかり、のれんの減損のリスクもある。前期の営業キャッシュフローはマイナスで、在庫は売上の4割に及ぶ。純現金は、買収と配当で急速に減っていく。今の値段は、この先の回復をあまりに多く織り込んでいる。
配当の総額は約33億円で、前期の純利益の3倍を超える。買収と配当を続ければ、純現金の厚みは数年で消える。大株主が還元を求める状況では、経営が買収に傾けば対立も生む。工作機械の好調も、前期の1期だけの結果である。
どちらに重みを置いたか
特需の反動で業績は大きく落ちたが、工作機械の好調と買収による広がりは本物だ。ただ、成形機の利益の質と、赤字の企業を高く買う資本配分に不安が残る。筆者は、中立で利益が平常の3〜4倍に戻るまでは認めた。それでもROEは資本コストにわずかに届かないと見る。確率は、楽観・悲観の両側にほぼ同じ厚みで配り、中立にやや寄せた。10年の本質価値は今の時価総額の7割弱で、結論は割高になった。
特に、純現金のうち買収に向かう分は、安全域として数えられないと考えた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,546 円1,549 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,897 円449 億円)。 今の値に割り戻すと 4,323 円1,023 億円、今との差 −9.5%、 期待の年率 +5.9%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 14,388 円3,403 億円 | 3,230 円764 億円 | +269.0% | +13.9% | 2,114 円500 億円 |
| やや楽観 | 22% | 9,651 円2,283 億円 | 2,312 円547 億円 | +150.5% | +9.6% | 2,632 円623 億円 |
| 中立 | 34% | 6,568 円1,554 億円 | 1,843 円436 億円 | +76.2% | +5.8% | 2,860 円676 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,776 円420 億円 | 1,361 円322 億円 | −34.3% | −4.1% | 627 円148 億円 |
| 悲観 | 12% | 902 円213 億円 | 846 円200 億円 | −63.4% | −9.6% | 210 円50 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,546 円1,549 億円 | 1,897 円449 億円 | +76.8% | +5.9% | 8,443 円1,997 億円 |
今の株価時価総額 4,775 円1,129 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 成形機が再び稼ぎ頭に戻り、超精密加工機も育つ 利益 220 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 14,388 円3,403 億円
電池向けの特需に頼らず、成形機が自動車・医療・包装の底堅い需要を取りこぼさない。欧州のLWBが販路を広げ、インドの増産も利益に寄与する。工作機械では、光通信やデータセンター向けの超精密加工機が広がり、米国のムーア社の買収で北米・欧州の販路が開く。制御機械も自動化需要で黒字が定着する。カンパニー制による固定費の圧縮が利益率の底上げにつながり、中計2026が掲げた営業利益率10%に届く。大株主の求める資本効率の改善にも応え、配当と自社株買いが厚くなる、会社にとって最も良い10年だ。この筋書きでは、成形機の営業利益が200億円を超え、会社の利益水準は前期の5倍以上になる。株主還元も、10年間で800億円を超える。ただし、そこまで連続して当たるのは難しく、確率は低めに置く。
- 成形機事業(射出成形機・押出成形機など):数量 1,532(世界の成形機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 140(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 2,145 億円・営業利益 214 億円。実質成長年4.5%に欧州LWBの上乗せ。価格指数140
- 工作機械事業(大型・超精密加工機):数量 368(世界の大型・超精密加工機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 140(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 515 億円・営業利益 62 億円。超精密・大型加工機が年3.8%、ムーア社も黒字化
- 制御機械・その他(ロボット・電子制御機器):数量 130(ロボット・制御機器の市場で当社が得ている実質の取り分(今の値段基準・億円))× 価格 135(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 176 億円・営業利益 11 億円。ロボット・制御の自動化需要を取り込む
倍率:事業の純利益 220 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍。全体の PER 15.47 倍、時価総額 3,403 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:成形機の特需が戻り、ムーア社の買収も軌道に乗り、中計の10%目標を超える必要がある。連続して当たる確度は高くない。
やや楽観 22% 欧州と米国の買収がなじみ、利益率が改善する 利益 164 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 9,651 円2,283 億円
成形機は世界の需要の伸びを素直に受けて育ち、欧州のLWBも統合が進む。電池向けの特需は戻らないが、成形機の利益率は一桁後半に回復する。工作機械は超精密加工機が伸び、ムーア社も数年遅れで黒字になる。制御機械は小さな黒字が定着する。会社が事業部制をやめてカンパニー制に変えた効果で、利益率は緩やかに上がる。中計の10%には届かないが、ROEは資本コストを上回り、還元も増える。会社の計画のうち、半分ほどが実る姿である。この筋書きでは、会社の中計が描いた形の半分ほどが実る。営業利益は200億円強まで戻り、ROEは資本コストを上回る。10年の還元も、純現金を守りながら厚くなる。
- 成形機事業(射出成形機・押出成形機など):数量 1,404(世界の成形機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 137(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,923 億円・営業利益 163 億円。実質成長年3.6%にLWBの上乗せ、価格指数137
- 工作機械事業(大型・超精密加工機):数量 321(世界の大型・超精密加工機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 137(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 440 億円・営業利益 44 億円。実質成長年2.4%、ムーア社の黒字化は遅れ気味
- 制御機械・その他(ロボット・電子制御機器):数量 113(ロボット・制御機器の市場で当社が得ている実質の取り分(今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 151 億円・営業利益 7 億円。緩やかな改善、黒字が定着
倍率:事業の純利益 164 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.92 倍、時価総額 2,283 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:LWBとムーア社の買収が計画に近い形で実り、カンパニー制の費用削減も効く姿。大株主からの圧力が資本効率の改善を後押しする余地も見込んだ。
中立 34% 中立:成形機は中位の地位を保ち、利益率は緩やかに戻る 利益 124 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 6,568 円1,554 億円
成形機は世界の成形機市場の緩やかな成長に乗り、欧州LWBが通年で加わって売上が増える。電池向けの特需は戻らず、利益率は特需前に近い水準にとどまる。工作機械では、データセンターや航空・エネルギー向けの超精密・大型加工機が堅調に伸び、ムーア社の売上も加わる。制御機械は小さな黒字に戻るだけだ。会社全体の営業利益率は7%台で、中計2026が目指した10%には届かない。ROEは資本コストにわずかに届かず、自己資本の厚さがそのまま重しになる。配当は利益に合わせて少し増える。中立では、営業利益は170億円ほどで、前期の4倍に戻る。それでも成長の半分は物価によるもので、実質の稼ぐ力が大きく変わるわけではない。10年間の配当と自社株買いは、純利益の半分強にとどまる。
- 成形機事業(射出成形機・押出成形機など):数量 1,295(世界の成形機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,735 億円・営業利益 121 億円。実質成長年2%にLWBの通年寄与、価格指数134(物価並み)
- 工作機械事業(大型・超精密加工機):数量 310(世界の大型・超精密加工機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 134(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 415 億円・営業利益 35 億円。実質成長年2.1%にムーア社の売上を上乗せ。価格指数134
- 制御機械・その他(ロボット・電子制御機器):数量 96.0(ロボット・制御機器の市場で当社が得ている実質の取り分(今の値段基準・億円))× 価格 130(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 125 億円・営業利益 3 億円。実質成長年1%。小さな黒字に戻る
倍率:事業の純利益 124 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.53 倍、時価総額 1,554 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:成形機の利益が特需前の水準に戻り、工作機械の好調が続く姿が中心。中計2026の未達で経営への信頼は割り引くが、構造改革の効果も認めた。
やや悲観 20% 中国勢の安い機械に押され、利益が伸びない 利益 56 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 1,776 円420 億円
電池向けの特需は完全に剥落し、成形機は中国勢との価格競争に巻き込まれる。海天など中国の大手が欧州・インドでも台頭し、LWBの買収効果は限定的になる。工作機械は光通信向けの需要が一服し、ムーア社の黒字化も遅れる。制御機械は競争で収支がとんとんにとどまる。営業利益率は4%前後に下がり、ROEは資本コストを大きく下回る。それでも成形機・工作機械の事業そのものは続き、配当は現在の水準が保たれる。技術は残るが、稼ぐ力が細った凡庸な機械メーカーの姿である。この筋書きでは、営業利益は70億円台にとどまり、前期の水準を少し上回るだけだ。自己資本は減らず、還元は現在の配当の水準を保つのが精一杯になる。
- 成形機事業(射出成形機・押出成形機など):数量 1,087(世界の成形機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 125(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 1,359 億円・営業利益 54 億円。実質成長年1%。中国勢との競争で価格指数125
- 工作機械事業(大型・超精密加工機):数量 246(世界の大型・超精密加工機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 125(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 308 億円・営業利益 15 億円。実質成長年-0.3%台。光通信向けの需要が一服
- 制御機械・その他(ロボット・電子制御機器):数量 78.0(ロボット・制御機器の市場で当社が得ている実質の取り分(今の値段基準・億円))× 価格 120(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 94 億円・営業利益 0 億円。競争で価格が伸びず収支とんとん
倍率:ROE 4.3% が k 8% を大きく下回り、PER は 1÷k = 11.4 倍まで。利益率 4% 前後で稼ぐ力が細る筋書きで、事業の純利益 56 億円を k で割る稼ぐ力から、上限の 6.6 割の 7.5 倍に置いた。
確率:特需の反動が一巡しても成形機の利益率が戻らず、買収の統合も遅れる姿。直近の2期連続の期待外れを重く見た。
悲観 12% 成形機の中位機を中国勢に奪われ、買収も実らない 利益 4 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 902 円213 億円
中国勢が電池装置と成形機の特需を足場に、中位機から順に市場を奪う。成形機の実質の取り分は縮み、価格も競争で物価の伸びに届かない。ムーア社の買収は高い値段を払ったまま統合が進まず、のれんの減損で資産を傷める。工作機械の超精密加工機は特需が剥落し、制御機械の赤字も残る。営業利益はほぼゼロとなり、配当を維持しつつ現金を取り崩す。自己資本は厚いが、稼ぐ力は消えかかる。事業の売却や再編が現実味を帯びる10年である。この筋書きでは、会社の稼ぐ力は残らず、純現金も使い切られる。株主還元は10年間で約200億円にとどまり、事業の売却や外部資本の参加が現実味を帯びる。
- 成形機事業(射出成形機・押出成形機など):数量 840(世界の成形機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 105(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 882 億円・営業利益 4 億円。中国勢に中位機を奪われ実質で15%縮小、価格指数105
- 工作機械事業(大型・超精密加工機):数量 228(世界の大型・超精密加工機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円))× 価格 105(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 239 億円・営業利益 0 億円。超精密の特需が剥落、ムーア社の買収も実らず縮小
- 制御機械・その他(ロボット・電子制御機器):数量 52.0(ロボット・制御機器の市場で当社が得ている実質の取り分(今の値段基準・億円))× 価格 100(名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる))→ 売上 52 億円・営業利益 −3 億円。事業を縮小し赤字が残る
倍率:中国勢に中位機を奪われ、買収も実らない筋書き。稼ぐ力はほぼ消えるので、純現金と売れる資産の税後を床にした。約 210 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:中国勢がAIと電池装置の特需を足場に、成形機の中位機まで本格的に取りに来る筋書き。10年の間に起きる確度は小さくない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
成形機事業(射出成形機・押出成形機など)
プラスチック製品や電池用フィルム・シートを作る射出成形機・押出成形機の販売と、保守・部品・周辺装置。欧州のLWBを含む。
| 数量世界の成形機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 989 | 100 | 989 | 27 |
| 10 年後 中立 | 1,295 | 134 | 1,735 | 121 |
取り方:成形機事業の売上 988.5 億円(前期比 -28%、中国の電池用セパレーターフィルム装置の特需が反動減)と営業利益 27.4 億円をそのまま置いた。世界の成形機市場は調査会社で 100〜220 億ドルと幅があり、当社のシェアは数%に満たないと推定。価格は物価の指数(今=100)、rev_factor=0.01 で億円に換算する。
工作機械事業(大型・超精密加工機)
大型マシニングセンタや、光通信部品などを数ナノメートルの精度で削る超精密加工機の販売と、保守・部品。米ムーア社を含む。
| 数量世界の大型・超精密加工機市場で当社が得ている実質の取り分(市場規模×シェア、今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 253 | 100 | 253 | 21 |
| 10 年後 中立 | 310 | 134 | 415 | 35 |
取り方:工作機械事業の売上 252.8 億円(前期比 +19%、中国の光通信向け超精密加工機が牽引)と営業利益 20.7 億円をそのまま置いた。市場規模×シェアは開示がなく、実質の取り分として売上を置いた。価格は物価の指数(今=100)。 数量の伸びは業種ノートの受注額 年3〜5%(名目)を物価で割った実質で置いた(ムーア社の上乗せを含め10年中立 約2%/年)。
制御機械・その他(ロボット・電子制御機器)
産業用ロボットや電子制御機器の制御機械事業と、その他の小さな事業。
| 数量ロボット・制御機器の市場で当社が得ている実質の取り分(今の値段基準・億円) | 価格名目の価格指数(今=100。物価3%の分だけ上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 86.8 | 100 | 87 | −5 |
| 10 年後 中立 | 96.0 | 130 | 125 | 3 |
取り方:制御機械 65.0 億円(前期比 -20%、国内の電子制御機器の売上減で営業赤字 4.9 億円)とその他 21.8 億円(営業利益 0.2 億円)を合わせて置いた。価格は物価の指数(今=100)。
リスクと懸念
特需の反動と受注の振れ
成形機は中国の電池用フィルム装置の特需に利益を依存し、反動で前期の営業利益は69%減った。受注生産の資本財は景気の山と谷が大きく、今回の工作機械の好調も、データセンター投資が一服すれば続かない。
中国勢の価格競争
成形機では海天など中国の大手が量と価格で攻めている。工作機械でも中国の自給率向上で外需が細りうる。当社が強いのは大型・超精密という狭い領域で、中位機の領域が侵食されるとシェアが落ちる。
買収の統合と減損
米ムーア社の買収額は企業価値で1億5000万ドル、直近の営業は赤字だ。欧州LWBも統合の途上にある。想定どおりの利益が出なければ、のれんの減損と現金の流出が重なる。買収額は時価総額の約2割に及ぶ。
低い資本効率
過去10年のROEの中央値は5.5%で資本コストを下回り続けた。自己資本比率は68%と厚く、資本を使い切れていない。中計2026の目標が未達で、経営の実行力に対する信頼が揺らいでいる。
在庫とキャッシュフロー
前期の営業キャッシュフローは約87億円の流出で、在庫は売上の4割に及ぶ。需要が落ちると在庫が重荷になり、純現金の取り崩しが早まる。配当を守る姿勢も、利益が戻らなければ重くなる。
大株主との関係
海外ファンドのオアシスが6%台を保有し、ガバナンスの改善を求めている。過去には村上世彰氏側のTOBを退けた経緯もある。還元の拡大や再編に動けば追い風だが、対立が深まれば経営の混乱も招く。
今後の分かれ目
- 電池向け以外の成形機の需要が回復し、成形機の営業利益率が2桁近くに戻る
- 会社の中立の想定を上回り、ROEが資本コストを上回る水準に定着する
- 中国の海天など大手が欧州・インドでも成形機のシェアを大きく伸ばす
- 成形機の中位機の価格が下がり、利益率が回復しないまま低位で固定される
- 米ムーア社が黒字化し、北米の航空・医療・防衛向けに販路が広がる
- 工作機械事業が会社の第二の柱として確立し、収益の偏りが薄まる
- ムーア社の統合が進まず、のれんの大きな減損が出る
- 自己資本と純現金の目減りで、安全域が一段薄くなる
- データセンター・光通信の投資が一服し、超精密加工機の受注が急に減る
- 工作機械の利益が前期の水準から大きく落ち、会社全体の回復が遅れる
- 大株主の求めで、純現金の一部が自社株買いに回る
- 自己資本が圧縮されROEが改善し、資本効率を理由にした評価の見直しが起こりうる
見ておくもの
- 日本工作機械工業会の月次受注(外需比率・データセンター向けの持続性)
- 成形機事業の営業利益率の推移(特需前の水準に戻るか)
- 米ムーア社の黒字化と統合の進み具合
- LWB・インドの増産が成形機の売上に寄与する度合い
- 自社株買いの有無と純現金の水準、大株主の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに、その時点のROEと資本コスト8%(基本7.5%に、循環・値決め力・寿命の調整+1.25%)から正当化PERを出した。中立はROEが資本コストにわずかに届かず上限が1÷kとなるので、1÷k × ROE÷k(0.92)× 0.9 の9.5倍にした。やや悲観は稼ぐ力で、悲観は純現金(買収後)と売れる資産の税後の床で測った。過去や同業の倍率は使っていない。工作機械の数量は業種ノートの名目の受注の伸び(年3〜5%)を物価1.34倍で割った実質で置いた(10年中立 年2%、ムーア社の上乗せを含む)。純現金は買収と運転資金に充てるので、余った現金として分けず、自己資本に含めたままにした。リースは小さいので、10年後の数字も今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.61→15.47 倍・やや楽観 PER 9.69→13.92 倍・中立 PER 9.5→12.53 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.25% = 8.75%。買収の統合や大株主との関係は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.00%。