結論
不二精機は、プラスチックの精密な金型と、それを使った成形品を作る会社だ。金型では注射器やダイアライザー(人工透析の部品)など医療向けが主力で、成形品はタイとインドネシアで二輪車と四輪車の小さな部品を作る。筆者の結論は割高だ。いちばんの理由は、稼ぐ力が資本コストに届かないまま、借金の利息と海外の税が株主の取り分を削ることにある。
金型の技術は本物だ。CD ケースの金型で育ち、その需要が消えると医療へ軸足を移して生き残った。だが稼ぎの 3 分の 2 を占める成形品は、会社自身がコモディティ化、つまり誰が作っても同じになりつつあると認めている。営業利益率は 5% 台で、借金の利息と海外の税を払うと純利益は営業利益の半分になる。
自己資本の利益率は 6% 前後で、資本コストに届かない。EV 向けの新しい部品が育てば話は変わるが、その時期はまだ読めない。
10 年で見ると、医療の金型が下を支え、成形品の値下げ圧力が上を抑える。中立の筋書きでも利益は 10 年で 1.5 倍ほどにしかならず、今の時価総額はその先の伸びまで織り込んでいる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、技術はあるが値段を決められない会社だ。金型の精度は、作り手の腕と長年の経験の上に成り立つ。だがその金型で作る成形品は、買い手の自動車メーカーに値段を握られている。売上が増えても、利益率は 5% 台から抜け出せない。
筆者が評価するのは、市場が消えるたびに事業を組み替えてきた経営の粘りだ。CD ケースから医療へ、中国の撤退から東南アジアへ。会社がつぶれずに残ってきたのは偶然ではない。
だが株主にとっての価値は、稼いだ利益のうち自由に使える分で決まる。工場の更新と新しい部品の開発に利益の多くが回り、借金も残る。自己資本の利益率が資本コストを下回るうちは、今の値段に安全域、つまり値段と価値の間のゆとりがあるとは言えない。
値段に見合うかどうかは、EV 部品という読めない未来に賭けるかどうかで決まる。筆者はそこに大きな重みを置かない。
何で稼ぐ会社か
事業は二つある。一つ目は射出成形用の精密金型と成形システムで、2025 年 12 月期の売上は 31 億円、営業利益は 1.7 億円だった。一度に多くの部品を速く、ばらつきなく作れる長持ちの金型が強みだ。注射器、ダイアライザー、シャーレ、点滴用品などの医療向けと、食品のキャップや容器向けが中心になる。工場は愛媛の松山と中国の常州にあり、2025 年には高知の宿毛工場で設計と部品加工を厚くした。
二つ目は精密成形品で、売上 56 億円、営業利益 3.2 億円と稼ぎの柱だ。タイ、インドネシア、上海の工場で、Astemo などの二輪車向け部品や、Tier1、つまり自動車メーカーに直接納める大手部品会社向けのワイヤーハーネスの留め具などを作る。三重の鈴鹿工場では、樹脂に金属の端子を埋め込んだ EV 向けの複合部品を Tier1 と共同で開発し、2025 年から量産を始めた。
金型は一つずつ注文で作るので、大口の受注が入る年と入らない年で売上が大きく振れる。
2025 年 12 月期の全社の営業利益は 4.7 億円、純利益は 2.3 億円だった。
優良さと弱いところ
強みは、金型の精度と、需要の変化に合わせて事業を組み替えてきた粘り強さだ。1990 年代に CD ケースの金型で売上の半分を稼いだが、需要が消えると注射器の金型を開発し、医療へ移った。成形品でも、撤退と東南アジアへの集中で黒字を保てるようにした。
弱みは値決めの力だ。成形品の買い手は自動車メーカーと大手の部品会社で、毎年の値下げ要求が当たり前の世界にいる。小物の部品は競合が多く、会社もコモディティ化を認めている。金型も中国の作り手が力をつけ、値段の勝負に巻き込まれやすい。
財務も厚くはない。自己資本比率は 38% で、純有利子負債は 18 億円ある。会社は営業利益率 10% を最優先の目標に掲げるが、過去 12 年の最高は 8% だ。
経営の率を重んじる姿勢は前向きだが、それが数字になるのはまだ先だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
金型の需要は、それを使う最終製品の投資で決まる。医療の使い捨て製品は、高齢化と新興国の医療の広がりで数量が伸び続ける分野だ。中国の医療機器メーカーは生産を増やしており、2025 年の大口受注もそこから来た。一方で中国の金型メーカーも力をつけ、精度で劣らない製品を安く出し始めている。
成形品の主戦場である東南アジアの二輪車は、インドネシアとタイで年に数百万台が売れる大きな市場だ。まだエンジン車が中心で、電動化の影響は日本や中国より遅い。ただ 10 年の間には電動の二輪が広がり、エンジン周りの部品は減っていく。
四輪では EV 化で、高い電圧に耐える部品の需要が生まれる。金属と樹脂を組み合わせた部品は精度が要り、作れる会社は限られる。業界の数量は実質で年 1% 前後伸び、値段は自動車部品の値下げ要求で物価にやや届かない、というのが中立の姿だ。
金型の業界は中小の作り手が多く、日本では後継ぎの不足で廃業も続く。精度の高い金型を作れる会社が減れば、残った会社の値決めの力は少し戻る。反対に、中国の作り手は設備の更新が速く、汎用の金型では日本勢をすでに上回る。
資本政策と M&A
配当は 1 株あたりの額を固定した安定配当で(年 0.6 億円弱)、配当性向は 25% 前後だ。利益が年ごとに振れるので、性向ではなく額で決める方針を取る。節目の年の記念配当の余地は残すが、大きな自社株買いの予定はない。
資本は工場の整備に回ってきた。2023 年に鈴鹿工場、2025 年に高知宿毛工場を立ち上げ、借入を短期から長期に組み替えた。2019 年には板金プレスの秋元精機工業を買い、2025 年には東北プレス工業と資本業務提携を結んだ。会社を丸ごと売るような話は出ていない。持ち合い株は少なく、資本は事業に集中している。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金型の技術は医療で生きている。注射器やダイアライザーの需要は、高齢化と新興国の医療の広がりで伸び続ける。2025 年には中国の医療機器メーカーから大口を 2 件取り、金型の売上は 2 割増えた。一つ取れば何年も使われる長寿命の金型は、顧客の工場に深く入り込む。
EV 向けの複合部品も芽が出ている。高い電圧に耐える精度が要るので競合が少なく、大手の Tier1 2 社から開発案件を受けた。量産が軌道に乗れば、成形品のコモディティ化を抜け出す道になる。
会社は規模より利益率を優先すると明言し、営業利益率 10% を目標に毎年 1% ずつの改善を求める。2025 年は粗利率が 20.7% まで上がった。率の改善が続けば、今の利益は過小に見えるはずだ。
借金も怖くない。純有利子負債は EBITDA の 2 倍前後で、2025 年には借入を長期に組み替え、現金も増えた。拠点の整備がひと段落した今、これからは投資の回収の時期に入る。会社が率を最優先にすると言う以上、利益は売上より速く伸びるはずだ。
慎重な見方
利益の 3 分の 2 は、誰でも作れる小物の自動車部品から来ている。会社自身がコモディティ化を認めた事業で、自動車メーカーの値下げ要求は毎年来る。東南アジアの二輪車が電動化すれば、エンジン周りの部品の仕事は減る。
金型は受注の波が大きい。2024 年の金型の営業利益は 0.8 億円しかなく、大口が入った 2025 年に倍増しただけだ。中国の金型メーカーが力をつければ、医療向けでも値段の勝負になる。
営業利益率 10% の目標は、過去 12 年で一度も届いていない。借金は 18 億円あり、借り換えで利息が増える。海外の税も重く、純利益は営業利益の半分しか残らない。EV 部品は時期が読めず、研究開発の費用だけが先に出ていく。
値段が多少安くても、株主の取り分が増える道筋は細い。拠点の投資が続けば、借金はむしろ増える。安く見えても、それは事業の弱さの裏返しにすぎない。資本コストを下回る会社に、ためた利益の分の値段を払う理由はない。
どちらに重みを置いたか
金型の技術と経営の粘りは認めるが、慎重な見方のほうが筋が通っている。成形品の値下げ圧力は構造的で、EV 部品はまだ数字になっていない。確率は中立を最も重くし、悲観側を楽観側よりやや厚くした。利益率 10% の目標は、実績が出るまで中立には入れない。医療の金型が下を支える分、悲観の重みは過度に上げていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 462 円37 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 82 円7 億円)。 今の値に割り戻すと 264 円21 億円、今との差 −15.8%、 期待の年率 +5.7%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 864 円70 億円 | 111 円9 億円 | +210.4% | +12.0% | 78 円6 億円 |
| やや楽観 | 20% | 677 円55 億円 | 99 円8 億円 | +147.1% | +9.5% | 155 円13 億円 |
| 中立 | 40% | 509 円41 億円 | 86 円7 億円 | +89.6% | +6.6% | 238 円19 億円 |
| やや悲観 | 22% | 192 円16 億円 | 70 円6 億円 | −16.4% | −1.8% | 58 円5 億円 |
| 悲観 | 10% | 114 円9 億円 | 37 円3 億円 | −51.8% | −7.0% | 15 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 462 円37 億円 | 82 円7 億円 | +73.3% | +5.7% | 544 円44 億円 |
今の株価時価総額 314 円25 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% EV 部品が育ち、利益率 8% に届く 利益 6 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 864 円70 億円
鈴鹿工場で Tier1 と開発してきた EV 向けの複合成形品が、2030 年前後に量産の柱になる。樹脂に金属の端子を埋め込む部品は高い電圧に耐える精度が要り、競合が少ないので利益率が高い。金型は中国やアジアの医療機器メーカーから注射器・ダイアライザーの大口が続き、工場は埋まり続ける。会社が掲げる営業利益率 10% には届かないが、8% 近くまで上がる。それでも借金の利息と海外の税が重く、自己資本の利益率は資本コストの手前で止まる。株主に戻る額も、配当を少しずつ増やす程度にとどまる。それでも利益が今の 2 倍半になるので、株主の取り分は大きく増える。
- 射出成形用精密金型及び成形システム:数量 125(金型の納入面数(面・推定))× 価格 0.41(1 面あたりの売上(億円・名目。成形システムを含む))→ 売上 51 億円・営業利益 5 億円。125 × 単価 0.408(今の 1.36 倍)、営業利益率 9.0%
- 精密成形品その他:数量 7.5(成形品の出荷個数(億個・推定))× 価格 13(1 億個あたりの売上(億円・名目))→ 売上 100 億円・営業利益 7 億円。7.5 × 単価 13.266(今の 1.32 倍)、営業利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍。全体の PER 12.22 倍、時価総額 70 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:EV 向けの複合成形品が量産で利益を出し、医療の金型も大口が続くという二つがそろう必要がある。EV の普及の遅れで時期が読めないので軽く置いた。
やや楽観 20% 医療の金型が下支えし、率が少し上がる 利益 5 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 677 円55 億円
金型は医療と食品容器の需要に支えられ、大口の波はあっても年平均で数量が 1 割強増える。成形品はタイとインドネシアの二輪車が底堅く、EV 向けの部品が少しずつ上乗せされる。自動車メーカーの値下げ要求は続くが、組み立てを含む複雑な部品へ移ることで、単価の目減りを抑える。営業利益率は 7% 近くまで改善する。借り換えで利息は増えるが、利益の伸びがそれを上回る。配当は今の額を軸に少しずつ増える。会社の掲げる利益率 10% には届かないが、改善の方向ははっきりする。自己資本の利益率は 7% 台まで上がる。
- 射出成形用精密金型及び成形システム:数量 118(金型の納入面数(面・推定))× 価格 0.40(1 面あたりの売上(億円・名目。成形システムを含む))→ 売上 47 億円・営業利益 4 億円。118 × 単価 0.399(今の 1.33 倍)、営業利益率 7.5%
- 精密成形品その他:数量 7.0(成形品の出荷個数(億個・推定))× 価格 13(1 億個あたりの売上(億円・名目))→ 売上 90 億円・営業利益 6 億円。7.0 × 単価 12.864(今の 1.28 倍)、営業利益率 6.8%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.2% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 55 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金型の医療向けへの転換は 20 年の実績があり、利益率の改善の方針も具体的だ。今の延長より少し良い筋書きとして中立の半分の重みを置いた。
中立 40% 金型は堅調、成形品は値下げ圧力と綱引き 利益 3 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 509 円41 億円
金型は医療向けが中心のまま、大口の受注の波を繰り返しながら 10 年で数量が 1 割ほど増える。中国の金型メーカーとの競争で、値上げは物価にやや届かない。成形品はタイとインドネシアの二輪車と四輪の小物部品が主力で、数量は 1 割強増える。だが自動車メーカーと Tier1 の値下げ要求は毎年あり、単価は物価ほど上がらない。EV 向けの部品は育つが、全体を変えるほどではない。営業利益率は 6% 弱にとどまり、借金の利息と海外の税で純利益は営業利益の半分になる。配当は今の額を軸に少し増えるだけで、自己資本は積み上がる。ROE は 6% 前後で、資本コストとの差は縮まらない。
- 射出成形用精密金型及び成形システム:数量 110(金型の納入面数(面・推定))× 価格 0.39(1 面あたりの売上(億円・名目。成形システムを含む))→ 売上 43 億円・営業利益 3 億円。110 × 単価 0.39(今の 1.3 倍)、営業利益率 6.0%
- 精密成形品その他:数量 6.4(成形品の出荷個数(億個・推定))× 価格 13(1 億個あたりの売上(億円・名目))→ 売上 80 億円・営業利益 5 億円。6.4 × 単価 12.5625(今の 1.25 倍)、営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 3 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 41 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金型の医療向けは底堅いが受注に波があり、成形品はコモディティ化が進んでいるというのが会社自身の認識だ。両方を足した今の延長として最も重く置いた。
やや悲観 22% 二輪の EV 化と値下げで利益が細る 利益 2 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 192 円16 億円
東南アジアの二輪車に電動化が広がり、エンジン周りの小物部品の数量が減る。中国の部品メーカーが安値で入り込み、成形品の単価は物価に大きく遅れる。金型は医療の大口が途切れ、工場の稼働が落ちる年が増える。EV 向けの複合成形品は EV の普及の遅れで量産が小さいままで、研究開発の費用だけが残る。営業利益率は 4% を割り、借金の利息を払うと純利益は今を下回る。配当は今の額を何とか保つ。自己資本は増えても、それを生かす事業が見えず、株主の取り分は細っていく。借金の返済も進まず、利息の負担が残る。工場の稼働を保つため、採算の低い注文も取らざるを得なくなる。
- 射出成形用精密金型及び成形システム:数量 95.0(金型の納入面数(面・推定))× 価格 0.37(1 面あたりの売上(億円・名目。成形システムを含む))→ 売上 35 億円・営業利益 1 億円。95 × 単価 0.366(今の 1.22 倍)、営業利益率 4.0%
- 精密成形品その他:数量 5.6(成形品の出荷個数(億個・推定))× 価格 12(1 億個あたりの売上(億円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 3 億円。5.6 × 単価 11.859(今の 1.18 倍)、営業利益率 4.0%
倍率:ROE 3.4% と資本コストを大きく下回り、利益が細っていく筋書きなので、PER は上限 10.8 倍の 7 割の 7.5 倍に置いた。稼ぐ力(純利益÷k)は約 19 億円だが、利益が減り続ける途中にあるので、それより低く見た。
確率:成形品は会社自身がコモディティ化を認めており、東南アジアの二輪車にも電動化の波が来る。金型の大口が途切れる年も過去にある。中立の半分強の重みを置いた。
悲観 10% 成形品が赤字に転じ、稼ぐ力を失う 利益 0 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 114 円9 億円
二輪車の電動化と中国勢の安値で、タイとインドネシアの成形品の仕事が大きく減る。工場の稼働が落ち、固定費を賄えずに成形品は赤字に転じる。金型も医療の大口が途絶え、中国の金型メーカーとの価格競争に巻き込まれる。EV 向けの部品は量産に届かず、鈴鹿工場の投資が重荷として残る。営業利益はほぼゼロになり、借金の利息を払うと赤字が続く。過去に CD ケースの需要が消えた時と同じく、事業の組み替えに何年もかかる。配当は減り、自己資本は赤字で少しずつ削られていく。工場を閉じるか売るかの判断を迫られ、事業の規模は今より小さくなる。
- 射出成形用精密金型及び成形システム:数量 80.0(金型の納入面数(面・推定))× 価格 0.33(1 面あたりの売上(億円・名目。成形システムを含む))→ 売上 26 億円・営業利益 0 億円。80 × 単価 0.33(今の 1.1 倍)、営業利益率 0.0%
- 精密成形品その他:数量 4.5(成形品の出荷個数(億個・推定))× 価格 11(1 億個あたりの売上(億円・名目))→ 売上 50 億円・営業利益 1 億円。4.5 × 単価 11.055(今の 1.1 倍)、営業利益率 1.0%
倍率:営業利益がほぼゼロで純利益は赤字なので PER は使えない。純現金は無く、工場と設備は自動車部品の仕事を失えば売っても値が付きにくい。今の自己資本 37 億円に PBR 0.25 倍を掛け、海外の工場と金型の技術に残る値打ちだけを見た。純有利子負債 18 億円を足した EV÷営業利益は 100 倍を超えるが、営業利益がほぼゼロのためで、利益の倍率では測らず資産で見た。
確率:東南アジアの二輪の電動化、中国勢の値下げ、医療の大口の途絶が同時に起きる筋書き。過去にも CD ケースの需要が消えて赤字が続いた経験があり、1 割を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
射出成形用精密金型及び成形システム
医療(注射器・ダイアライザー等)と食品容器向けの精密金型と、周辺機器を組み合わせた成形システム。
| 数量金型の納入面数(面・推定) | 価格1 面あたりの売上(億円・名目。成形システムを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 103 | 0.30 | 31 | 2 |
| 10 年後 中立 | 110 | 0.39 | 43 | 3 |
取り方:面数の開示は無いので、医療・食品向けの多数個取りの金型と成形システムの平均単価を 1 面約 3,000 万円と置き、セグメント売上 30.89 億円から年 103 面と推定した(推定)。数量は実質、物価は単価に入れる。
精密成形品その他
タイ・インドネシア・上海などで作る二輪・四輪向けの小物の樹脂部品と、EV 向けの複合成形品。
| 数量成形品の出荷個数(億個・推定) | 価格1 億個あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 5.6 | 10 | 56 | 3 |
| 10 年後 中立 | 6.4 | 13 | 80 | 5 |
取り方:個数の開示は無いので、留め具や保安部品などの小物の平均単価を 1 億個あたり約 10 億円と置き、セグメント売上 56.29 億円から年 5.6 億個と推定した(推定)。
リスクと懸念
成形品のコモディティ化と値下げ要求
稼ぎの 3 分の 2 を占める成形品は小物の自動車部品で、会社もコモディティ化を認めている。自動車メーカーと Tier1 の値下げ要求は毎年あり、単価は物価ほど上がらない。中国の部品メーカーが東南アジアに入れば、値段の勝負はさらに厳しくなる。
東南アジアの二輪車の電動化
成形品の主力はタイとインドネシアの二輪車向けで、今はエンジン車が中心だ。電動の二輪車が広がれば、エンジン周りの部品の数量が減る。電動化の速さは各国の補助金と電池の値段しだいで、読みにくい。
金型の大口受注の波
金型は一つずつの注文で作るので、大口が入る年と入らない年で利益が倍も違う。2024 年の金型の営業利益は 0.8 億円で、大口が入った 2025 年に倍増した。中国の医療機器メーカーの投資が止まれば、工場の稼働が落ちる。
EV 部品の立ち上がりの遅れ
鈴鹿工場で開発する EV 向けの複合部品は、利益率の高い新しい柱として期待される。だが EV の普及が遅れれば量産は小さいままで、研究開発の費用と工場の固定費だけが残る。2025 年の研究開発費は約 1.9 億円で、営業利益の 4 割に相当する。
借金の利息と海外の税
純有利子負債は 18 億円あり、借り換えのたびに金利が上がる。海外の子会社の税も重く、純利益は営業利益の半分ほどしか残らない。利益が細る年には、利息と税が株主の取り分を大きく削る。
中国の拠点の政治のリスク
金型の工場の一つは中国の常州にあり、成形品も上海で作る。現地の責任者との関係は良好とされるが、日中の関係が悪化すれば取引や送金に影響が出うる。
今後の分かれ目
- EV 向けの複合部品の量産が年 10 億円を超えたら
- 成形品のコモディティ化を抜け出す道が見えたとみて、楽観側の筋書きの重みを上げる。
- 営業利益率が 7% を 2 年続けて超えたら
- 利益率の改善の方針が実を結んだとみて、中立の利益率を引き上げる。
- タイやインドネシアで電動の二輪車の比率が急に上がったら
- エンジン周りの部品が減るとみて、やや悲観の筋書きに重みを移す。
- 金型の大口受注が 2 年続けて途切れたら
- 医療の需要の取り込みが弱まったとみて、金型の数量を下げる。
- 借金を減らして純現金に転じたら
- 利息の負担が消え、資本コストの借金の上乗せを外す。
見ておくもの
- 金型の受注残と大口の有無
- 成形品の営業利益率
- EV 向け複合成形品の売上
- タイ・インドネシアの二輪車の販売台数と電動の比率
- 純有利子負債の推移
倍率と資本コストの決め方
倍率は ROE が k 8.25% を下回るので 1÷k の 10.8 倍を上限とし、利益の質に応じてその 7〜9 割強に置いた。悲観は今の自己資本に PBR を掛け、過去の PBR の底は使っていない。今の PER・PBR は見て比べただけで、倍率の根拠にしていない。会社の営業利益率 10% の目標は、実績が無いので楽観の側にだけ一部を入れた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→12.22 倍・やや楽観 PER 9.5→12.12 倍・中立 PER 9→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% + quality 1.75%。黒字が続き存続の懸念はないので上乗せはしない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.25% → 8.25%。