結論
ハマイは、LPガス(プロパンガス)のボンベに付ける弁を作る東京の老舗だ。売上の4割強がこの弁で、国内は5社の寡占。そのうち同社が6割ほどを握ると見られる。ほかに、産業ガス用の高圧弁、配管用の弁、府中の貸しビルと老人ホームの家賃収入がある。
筆者の結論は、今の値段はほぼ妥当というものだ。割安に見える理由は事業より財布にある。現金が約43億円、投資有価証券が約40億円ある。時価総額は98億円しかない。資産だけ見れば安い。ただ事業が縮み、資産は株主に戻る保証がないので、割り引いて見る。
ただし事業は伸びない。家庭向けLPガスの需要は減り、ボンベは大型化し、バルクと呼ぶタンク供給に移る流れもある。数量は10年で2割弱は縮むとみる。
値上げの力にも傷がある。2024年6月、公正取引委員会が同業5社の価格カルテルを認定し、同社に4.55億円の課徴金を命じた。今後は同業と価格を話し合えない。これまでの値上げの果実は、そのまま続かない可能性がある。
それでも、国内の寡占と再検査の需要は残る。水素向けの弁という芽もある。10年の中立では、純利益は年12〜13億円まで増えるが、資本の厚さを考えると倍率は低いままだ。差を生むのは稼ぎでなく、積み上がった現金と株をどう扱うかである。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ハマイは「事業は並み、財布は厚い」会社だ。
事業の質は悪くない。国内で寡占に近い立場にあり、ボンベの再検査という繰り返しの需要がある。10年後も弁は必要で、潰れる心配は小さい。ただ、数量は人口と世帯の減少で細り、値上げの果実もカルテルの認定で不透明になった。オーナー利益、つまり設備投資を引いて自由に使える利益は、年7〜9億円ほどだ。
財布はどうか。現金43億円と投資株40億円で、時価総額98億円の8割を占める。つまり、事業の部分には20億円ほどしか値段が付いていない計算になる。事業が止まっても、この資産が下値を支える。安全域は厚い。
問題は資本の使い方だ。使い道のない資金が事業の外にたまり、ROEは6%前後に低迷する。株主に戻る保証がない資産は、帳簿どおりには評価できない。筆者は、現金を半分から4分の3の価値で見る。
経営者にはカルテルの再発防止という宿題もある。信頼を取り戻せるかが、持ち続ける条件になる。
結論として、割安さの源は事業でなく、資産の厚さと、それがいつか株主に戻るという期待である。その確度は5割強と見る。
何で稼ぐ会社か
ハマイは1927年創業の浜井製作所を前身とする、バルブ専業のメーカーだ。本社は東京・品川、工場は府中と千葉の大多喜にある。連結の従業員は約290人。
売上は2025年12月期で127億円。内訳は5つある。LPG容器用バルブが55億円、高圧ガスバルブと設備機器が27億円、配管用バルブが22億円、黄銅削り粉の販売が18億円、不動産賃貸が6億円だ。
主力のLPG容器用バルブは、ボンベの口金に付いてガスの出し入れを止める弁だ。ボンベは法律で5年ごとの検査が義務づけられ、検査のたびに弁の点検や交換が出る。このため、新しいボンベが増えなくても、一定の需要が毎年生まれる。顧客はLPガスの販売会社やボンベの製造会社だ。大株主にミツウロコグループが並ぶように、販売会社とは持ち合う関係にある。
高圧ガスバルブは、産業ガスや消火設備の弁、半導体向けのガス弁などだ。韓国子会社のハマイコリアが半導体向けを受け持つ。水素向けでは、国内の自動車メーカーと燃料電池車の水素ボンベの弁を共同で開発し、水素ステーションの充填ノズルも一部で使われ始めた。
黄銅削り粉は、自社の加工で出る真ちゅうの削り粉を売る取引だ。相場の動きがそのまま売上に出るが、儲けは薄い。
不動産賃貸は、旧本社跡地の店舗ビルと、2017年に貸し始めた介護付き有料老人ホームだ。営業利益は約3.8億円で、全社の営業利益の3割を占める。賃貸物件の簿価は17.6億円だが、会社の算定する時価は62億円ある。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、市場の狭さそのものにある。LPガス容器用バルブの国内市場は2022年で約74億円とされ、同社を含む5社でほぼ全部を占める。ガスの安全に関わるため、認可と実績が要る。新しい参入者は現れにくい。
ただし、この寡占は健全な競争の結果ではなかった。公取委は、黄銅の値上がりを受けた2021年と2022年の値上げ合意をカルテルと認定した。1個あたりの目標価格や上げ幅まで具体的に決めていた。同社の課徴金は5社で最大の4.55億円だった。
筆者がいちばん気にするのは、この値上げの利益がどこまで残るかだ。同社の営業利益率は2021年の5%台から、2022年以降は9〜10%に上がった。値上げ合意の期間と重なる。今後は価格を話し合えず、取締役会改革やコンプライアンス室の新設も求められている。利益率が元に戻る可能性は、否定できない。
資本効率は低い。ROE(自己資本に対する純利益の割合)は過去10年の中央値で3.3%、2025年12月期でも5.7%だ。原因は自己資本170億円に対し、事業で使っていない現金と有価証券が厚いことだ。営業利益率だけ見れば、10%近い水準は悪くない。
財務は鉄壁だ。自己資本比率は77%で、借金は実質ない。経営は慎重で、配当性向は3割前後にとどまる。株主への還元より内部留保を厚くする姿勢が長く続いた。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
LPガスの需要は、長い下り坂にある。家庭・業務用は2006年度をピークに約2割減り、人口減とオール電化、都市ガスへの切り替えで今後も細る。国内で約4割の世帯が使うとされるが、地方の高齢化が進む地域に偏る。
ボンベの数が減れば、再検査と交換の需要も減る。さらに、ボンベの大型化や、軽くて割れにくい樹脂製ボンベ(FRP容器)の普及は、弁の取り替えの回数を減らしうる。バルクと呼ぶ、大型タンクで供給する方式も増えている。バルク向けの弁は別の製品で、同社はこの需要の増加を取り込み始めた。
一方で、市場の構造は安定している。供給者は5社で、価格を自分で決める自由競争に移る。公取委の命令で情報交換が禁じられたため、これまで以上に価格競争が起きやすい。ただ、市場全体が74億円と小さく、値下げで需要が増えるわけでもない。各社が体力を削り合うメリットは小さい。
配管用バルブは、半導体製造装置と建設機械向けの需要が戻らず、2025年12月期は減収だった。ここは数量の景気循環が大きい。高圧ガスバルブは、消火設備向けと、ハマイコリアの半導体向けが伸びる。
水素は期待の分野だが、時間がかかる。燃料電池車の普及が遅れ、水素ステーションの数も限られる。筆者は10年で全社利益を変えるほどの規模にはならないと見る。ただ、技術の蓄積は高圧ガス弁の売上を底上げする。
資本政策と M&A
資本政策は、これまでは貯める経営だった。現金43億円に加え、投資有価証券が約40億円ある。うち約24億円は純投資の株式や投信で、約15億円は取引先との持ち合いだ。配当は2025年12月期で性向28%、2026年は増配予定だが、自社株買いはしていない。
中期経営計画は2026年が最終年度で、次の計画を準備中だ。有価証券報告書は「資本コストを意識した経営」を掲げた。ここに変化の兆しがある。2025年末には光通信系の投資ファンドが5%超を持つに至った。株主からの圧力が強まれば、還元は増えうる。
M&Aは目立たない。2023年に四国の代理店の事業を譲り受けたのが最近の例だ。買収で価値を壊すタイプではない。ただ、事業に使い道が少ない資金を、年に6〜7億円の設備投資と、有価証券の購入に回し続けている。
オーナーの色は強い。創業家の浜井家が個人で約11%を持ち、従業員持株会が16%、第一生命が8%を持つ。安定株主が厚く、敵対的な買収は起きにくい。逆に、少数株主が現金の使い方を決める手段は乏しい。
賃貸ビルは簿価17.6億円に対し時価62億円だ。ただしこれは家賃収入として利益に入っているので、売却益を別に数えない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社は、事業の価値より資産の価値のほうが大きい。時価総額98億円に対し、現金は43億円、投資有価証券は40億円、賃貸ビルの含み益は税引き後で30億円を超える。合計すれば時価総額を大きく上回る。事業が無料で付いてくる計算だ。
事業にも力がある。LPガス容器用バルブは5社寡占で、同社が6割を握る。再検査という需要が毎年出て、新規参入は難しい。値上げは実際に通り、営業利益率は10%近くまで上がった。
株主の圧力が変化を生む。光通信系ファンドが5%超を持った。中計の最終年度を迎え、次の計画では資本コストを意識した還元が前面に出る。配当は増える方向だ。自社株買いや大幅な増配が始まれば、PBR0.57倍は急速に動く。
成長の芽もある。水素ボンベの弁と充填ノズルは、燃料電池車と水素ステーションの普及で伸びる。消火設備向けと半導体向けの高圧弁も好調で、高圧ガス部門は前期比13%増だった。
ガス需要が減っても、バルク向けや輸出が補う。10年後も利益は増え、貯めた資産が株主に戻るなら、評価は大きく上がる。
慎重な見方
この会社は、事業の利益の質が悪く、資産も株主のものになりにくい。
まず事業だ。LPガスの需要は2006年度から約2割減り、今後も減る。ボンベの大型化、樹脂製ボンベ、バルクへの移行で、弁の個数はさらに減る。しかも、直近の値上げの一部はカルテルによるものだった。公取委は価格の話し合いを禁じた。価格競争が始まれば、営業利益率は10%から5%に下がりうる。
2026年の上半期は、売上が17.6%増えたのに営業利益は3.9%しか増えなかった。会社が期初に見込んだ営業利益6億円には届いていない。増収が利益になっていない証拠だ。
次に資産だ。現金と有価証券が厚いことは事実だが、使い方を決めるのは創業家と従業員持株会、第一生命などの安定株主だ。少数株主には手出しができない。長年、内部留保を厚くしてきた会社が急に変わると考える根拠は薄い。実際、現金は43.6億円から43.0億円へほとんど増えていない。利益は設備と有価証券の購入に消えている。
最後に、水素は何年も待たされてきた。10年後に売上の足しになるかは不透明だ。
事業は縮み、資産は戻らない。PBRが1倍を割って当然である。
どちらに重みを置いたか
強いのは事業の寡占と資産の厚さだ。弱いのは、数量の縮小と、資産が株主に戻る保証のなさである。
筆者は、事業の評価を低く置き、資産には戻り方の割引を掛ける形で結論を出した。確率は中立の38%を中心に置き、悲観側(やや悲観26%、悲観12%)を、楽観側(やや楽観18%、楽観6%)より厚くした。価格競争の再開という具体的な悪材料があるためだ。
ただし資産の下支えは強い。悲観でも、現金と有価証券の一部と賃貸ビルの価値が残る。このため、悲観の値段も極端には下がらない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 2,542 円170 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 626 円42 億円)。 今の値に割り戻すと 1,603 円107 億円、今との差 +11.3%、 期待の年率 +8.2%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 3,644 円244 億円 | 1,044 円70 億円 | +225.3% | +12.5% | 281 円19 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,184 円213 億円 | 865 円58 億円 | +181.0% | +10.9% | 729 円49 億円 |
| 中立 | 38% | 3,046 円204 億円 | 671 円45 億円 | +158.0% | +9.9% | 1,413 円95 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,826 円122 億円 | 448 円30 億円 | +57.8% | +4.7% | 591 円40 億円 |
| 悲観 | 12% | 985 円66 億円 | 298 円20 億円 | −10.9% | −1.2% | 154 円10 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,542 円170 億円 | 626 円42 億円 | +119.9% | +8.2% | 3,168 円212 億円 |
今の株価時価総額 1,441 円97 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 水素と半導体が立ち上がり、値上げも保たれる 利益 17 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 3,644 円244 億円
水素向けの弁が自動車メーカーの量産に入り、水素ステーションの充填ノズルも増える。高圧ガス部門の個数は10年で6割増える。半導体向けも戻り、配管用は1割増える。
LPG容器用バルブは、バルクと輸出が補って個数の減りを8%にとどめる。同業との価格の話し合いは禁じられたが、5社寡占は崩れず、単価は物価並みの1.34倍まで上がる。
営業利益率は10.7%と、会社の目標の10%を超える。同社が掲げた「売上高営業利益率10%以上」を、水素の上乗せで初めて達成する筋書きだ。
現金は還元の強化で株主に戻る。配当に自社株買いが加わり、10年の還元は70億円に届く。
- LPG容器用バルブ:数量 482(出荷個数(万個))× 価格 1,407(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 68 億円・営業利益 8 億円。営業利益率 11.5%
- 配管用バルブ:数量 94.6(出荷個数(万個))× 価格 3,350(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 32 億円・営業利益 2 億円。営業利益率 6.0%
- 高圧ガスバルブ・設備機器:数量 107(出荷個数(万個))× 価格 5,360(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 57 億円・営業利益 6 億円。営業利益率 10.0%
- 黄銅削り粉の販売:数量 2,860(取扱量(トン))× 価格 931(1トンあたりの販売価格(千円))→ 売上 27 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 1.5%
- 不動産賃貸:数量 13.0(賃貸床面積(千㎡))× 価格 53(1㎡あたりの年間賃料(千円))→ 売上 7 億円・営業利益 5 億円。営業利益率 66.0%
倍率:事業の純利益 16 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)34 億円。全体の PER 12.98 倍、時価総額 244 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:水素容器弁の量産、半導体向けの回復、LPG弁の値上げ維持が重なる必要がある。営業利益率が過去の山を上回る姿で、確度は高くない。
やや楽観 18% 水素が緩やかに伸び、寡占の利益が守られる 利益 14 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,184 円213 億円
LPG容器用バルブの個数は10年で12%減る。単価は物価の1.34倍に近い1.32倍まで上がる。再検査という繰り返しの需要と、バルク向けの弁がこれを支える。
高圧ガス部門は、消火設備向けと半導体向け、水素関連で個数が3割強増える。配管用は緩やかに戻る。
営業利益率は10%に乗せる。値上げの果実が残り、不動産賃貸の6.5割の利益率も守られる。
還元は増配が中心で、10年で58億円。現金は増配と一部の自社株買いで少しずつ戻る。
不動産賃貸は据え置きに近い。ハマイコリアの韓国・中国向けも緩やかに伸び、全体として今の寡占の利益が10年続く姿だ。この筋書きでは、同業との価格競争は起きても、市場が小さいため値下げ合戦にまでは進まない。
- LPG容器用バルブ:数量 461(出荷個数(万個))× 価格 1,386(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 64 億円・営業利益 7 億円。営業利益率 10.7%
- 配管用バルブ:数量 90.3(出荷個数(万個))× 価格 3,350(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 30 億円・営業利益 2 億円。営業利益率 5.3%
- 高圧ガスバルブ・設備機器:数量 90.2(出荷個数(万個))× 価格 5,360(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 48 億円・営業利益 4 億円。営業利益率 8.5%
- 黄銅削り粉の販売:数量 2,730(取扱量(トン))× 価格 931(1トンあたりの販売価格(千円))→ 売上 25 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 1.5%
- 不動産賃貸:数量 13.0(賃貸床面積(千㎡))× 価格 53(1㎡あたりの年間賃料(千円))→ 売上 7 億円・営業利益 5 億円。営業利益率 65.0%
倍率:事業の純利益 14 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)34 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 206 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:寡占と再検査の需要は10年続きやすい。値上げの一部が残り、水素・消火設備が伸びる筋書きには十分な根拠がある。
中立 38% 縮む市場で寡占を守り、利益は物価並みに伸びる 利益 13 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,046 円204 億円
LPG容器用バルブの個数は、世帯とガス需要の減少で10年に15%減る。単価は物価の1.34倍に届かず1.30倍にとどまる。カルテルの禁止で、値上げの交渉力を割り引いた。営業利益率は10%を保つ。
高圧ガス部門は、消火設備向けと半導体向けで15%増える。水素は小さな上乗せにとどまる。配管用は個数が横ばいで、利益率は4.5%。
不動産賃貸は、固定的な家賃で単価が1.2倍にとどまる。建物の修繕費が物価で増えるため、利益率は64%へ下がる。減価償却は取得時の値段のまま増えないが、建て替えの費用が将来のしこりになる。
全社の営業利益率は9.4%。過去12年の山である9.8%を下回る。純利益は12.8億円で、金利上昇による受取利息の増加(税引き後約0.7億円)を含む。
還元は性向を4割に引き上げ、10年で45億円。設備投資は年7億円前後で、償却を上回る分は現金から出る。
- LPG容器用バルブ:数量 445(出荷個数(万個))× 価格 1,365(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 61 億円・営業利益 6 億円。営業利益率 10.0%
- 配管用バルブ:数量 86.0(出荷個数(万個))× 価格 3,350(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 29 億円・営業利益 1 億円。営業利益率 4.5%
- 高圧ガスバルブ・設備機器:数量 76.8(出荷個数(万個))× 価格 5,360(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 41 億円・営業利益 3 億円。営業利益率 7.5%
- 黄銅削り粉の販売:数量 2,600(取扱量(トン))× 価格 931(1トンあたりの販売価格(千円))→ 売上 24 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 1.5%
- 不動産賃貸:数量 13.0(賃貸床面積(千㎡))× 価格 53(1㎡あたりの年間賃料(千円))→ 売上 7 億円・営業利益 4 億円。営業利益率 64.0%
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)34 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 186 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:寡占と再検査の需要は残るが、家庭向けLPガスは細り、価格の話し合いが禁じられて単価の伸びが物価を下回る。落としどころとして最も自然な姿。
やや悲観 26% 価格競争が始まり、利益率が7%台まで下がる 利益 9 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,826 円122 億円
同業5社が価格を自由に決めるようになり、LPG容器用バルブの単価は1.20倍にとどまる。物価の1.34倍に届かない分だけ、利益が削られる。個数も25%減る。ボンベの大型化と樹脂製ボンベ、バルクへの移行が重なる。
営業利益率は7%へ下がる。配管用は半導体装置と建機の需要が戻らず、個数が1割減る。
全社の営業利益は10億円まで減り、今より少し小さくなる。それでも不動産賃貸の3億円台が下支えする。
還元は減る。10年で30億円。現金は設備投資と有価証券の購入に回り、株主には戻りにくい。
水素は小さな試作にとどまり、半導体向けの高圧弁も他社に価格で負ける。会社は固定費の重さに苦しむが、無借金なので潰れることはなく、配当は減らしつつ続ける。この筋書きは、構造的な悪化ではなく、寡占の旨味が薄れる穏やかな下りである。
- LPG容器用バルブ:数量 393(出荷個数(万個))× 価格 1,260(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 50 億円・営業利益 4 億円。営業利益率 7.0%
- 配管用バルブ:数量 77.4(出荷個数(万個))× 価格 3,250(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 25 億円・営業利益 1 億円。営業利益率 3.0%
- 高圧ガスバルブ・設備機器:数量 66.8(出荷個数(万個))× 価格 5,200(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 35 億円・営業利益 2 億円。営業利益率 5.0%
- 黄銅削り粉の販売:数量 2,470(取扱量(トン))× 価格 931(1トンあたりの販売価格(千円))→ 売上 23 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 1.0%
- 不動産賃貸:数量 13.0(賃貸床面積(千㎡))× 価格 51(1㎡あたりの年間賃料(千円))→ 売上 7 億円・営業利益 4 億円。営業利益率 62.0%
倍率:ROEは約3.5%で資本コストを大きく下回る。上限の1÷k(約12.1倍)の約73%の8.8倍に置いた。個数が減る構造と価格競争の下で、利益の質は低い。
確率:公取委の命令で情報交換が禁じられ、価格競争の再開は現実的。2026年上半期に増収でも営業利益が計画を下回ったことが、利益率の脆さを示す。
悲観 12% LPG弁が価格競争と需要減で稼げなくなる 利益 4 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 985 円66 億円
LPガスの家庭需要が想定より速く縮み、弁の個数は10年で45%減る。しかも5社が価格を削り合い、単価は1.05倍にとどまる。黄銅などの原材料の上昇を転嫁できず、LPG弁の営業利益率は1%まで落ちる。
配管用と高圧ガスの弁も、半導体向けが戻らず、利益がほとんど出ない。水素は立ち上がらない。
残るのは不動産賃貸の3億円ほど。全社の営業利益は4億円まで減る。
ここで効くのが資産だ。現金と有価証券、賃貸ビルを売れば、事業が傾いても一定の価値が残る。ただし少数株主は処分を決められず、実際に戻る額は割り引く。還元は10年で20億円にとどまる。
- LPG容器用バルブ:数量 288(出荷個数(万個))× 価格 1,103(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 32 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 1.0%
- 配管用バルブ:数量 64.5(出荷個数(万個))× 価格 2,875(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 19 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 0.0%
- 高圧ガスバルブ・設備機器:数量 56.8(出荷個数(万個))× 価格 4,800(1個あたりの平均納入価格(円))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。営業利益率 2.0%
- 黄銅削り粉の販売:数量 2,340(取扱量(トン))× 価格 834(1トンあたりの販売価格(千円))→ 売上 20 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 0.5%
- 不動産賃貸:数量 12.0(賃貸床面積(千㎡))× 価格 47(1㎡あたりの年間賃料(千円))→ 売上 6 億円・営業利益 3 億円。営業利益率 56.0%
倍率:稼ぐ力(純利益3.9億円÷k)は約47億円で、資産の価値(床)より小さい。値付けは今の自己資本171億円に0.386を掛けた約66億円で、純現金・有価証券・賃貸ビルを売って得られる額の約6割にあたる。
確率:LPガスの需要が想定より速く縮み、価格競争が長引く構造的な負け。ただし寡占と再検査の需要は一定残るため、確率は1割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
LPG容器用バルブ
家庭・業務用のLPガス容器(ボンベ)に付ける弁。国内の5社寡占で、再検査のたびに交換需要が出る。
| 数量出荷個数(万個) | 価格1個あたりの平均納入価格(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 524 | 1,050 | 55 | 6 |
| 10 年後 中立 | 445 | 1,365 | 61 | 6 |
取り方:2025年12月期の部門売上55.04億円を、2021〜22年の値上げ合意で目標とされた1個あたりの価格水準(九百円台)からの上昇を踏まえ、平均を千円強として個数に直した推定(約524万個)。営業利益は部門別の開示がないため、バルブ事業の営業利益8.38億円を各部門に10%・3.5%・7%・1.5%で配分した推定。
配管用バルブ
工場・建物の配管に使う黄銅などの汎用バルブ。半導体製造装置向けと建設機械向けが中心。
| 数量出荷個数(万個) | 価格1個あたりの平均納入価格(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 86.0 | 2,500 | 22 | 1 |
| 10 年後 中立 | 86.0 | 3,350 | 29 | 1 |
取り方:2025年12月期の部門売上21.53億円を平均を2千円台半ばとして個数に直した推定(約86万個)。半導体装置向け・建機向けの需要が戻らず前期比6.5%減。営業利益はバルブ事業の営業利益8.38億円を配分した推定(利益率3.5%)。
高圧ガスバルブ・設備機器
産業ガスや消火設備に使う高圧弁、水素・燃料電池向けの弁。韓国子会社ハマイコリアが半導体向けを担う。
| 数量出荷個数(万個) | 価格1個あたりの平均納入価格(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 66.8 | 4,000 | 27 | 2 |
| 10 年後 中立 | 76.8 | 5,360 | 41 | 3 |
取り方:2025年12月期の部門売上26.71億円を平均を4千円として個数に直した推定(約67万個)。消火設備向けと値上げで前期比13.1%増。営業利益は配分した推定(利益率7%)。
黄銅削り粉の販売
加工で出る黄銅(真ちゅう)の削り粉を売る取引。利益は薄く、相場に連動する。
| 数量取扱量(トン) | 価格1トンあたりの販売価格(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,600 | 695 | 18 | 0 |
| 10 年後 中立 | 2,600 | 931 | 24 | 0 |
取り方:2025年12月期の「その他」売上18.07億円(黄銅削り粉が中心)を、取扱量2,600トン×1トン約70万円の推定で分けた。取扱量の増加と価格上昇で前期比8.5%増。利益は薄く、営業利益率1.5%と置いた(配分した推定)。
不動産賃貸
東京都府中市の店舗用ビルと介護付き有料老人ホームを貸す。バルブ事業とは独立した安定収入。
| 数量賃貸床面積(千㎡) | 価格1㎡あたりの年間賃料(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 13.0 | 44 | 6 | 4 |
| 10 年後 中立 | 13.0 | 53 | 7 | 4 |
取り方:2025年12月期の賃貸収入5.77億円と賃貸事業の営業利益3.84億円(開示)。賃貸床面積は開示がないため13千㎡と置き、年間賃料を1㎡あたり約44千円として売上に合わせた推定。賃料は長期の定期借家が中心で改定が遅く、10年の価格は物価の1.34倍でなく1.2倍と置く。
リスクと懸念
価格競争の再開
公取委の命令で同業との価格の話し合いが禁じられた。LPG弁の営業利益率は10%から5%台へ下がりうる。市場が74億円と小さく、各社の体力勝負になれば利益が一気に削れる。AIエージェントによる代替は関係しない。
LPガス需要の構造的な縮小
家庭用のLPガスは2006年度から約2割減った。人口減、オール電化、ボンベの大型化、樹脂製ボンベ、バルクへの移行で、再検査の弁の需要は細る。10年で個数が15%減ると中立に置いた。
黄銅(真ちゅう)の値動き
主原料の黄銅は、2021〜22年に高騰して値上げ合意の引き金になった。転嫁が遅れる局面では利益率が下がる。黄銅削り粉の売上18億円も相場に連動する。
半導体・建機向けの回復の遅れ
配管用バルブは半導体装置と建機向けが戻らず、2025年12月期は減収だった。2026年上半期も営業利益は期初計画を大きく下回った。市況が戻らなければ利益が伸びない。
資産が株主に戻らない
現金と有価証券は時価総額の8割にあたるが、使い方は安定株主が決める。創業家と持株会、第一生命で約3割を持つ。利益が有価証券の購入に消え続けるなら、帳簿の価値は評価されない。
ガバナンスとコンプライアンス
カルテルで最大の課徴金を受けた。再発防止の実効性が問われる。次の不祥事があれば、取引先からの信頼と顧客離れに響く。
水素の事業化の遅れ
燃料電池車用の水素容器弁と水素ステーションの充填ノズルは、普及の遅れで売上に結びつくのが遅い。開発費は年2.8億円かかり続ける。
今後の分かれ目
- 次期中期経営計画で、総還元性向の引き上げや自社株買いが明記されたら
- 資産の戻り方を1.0に近づけて見直す。楽観・やや楽観の確率を厚くする。
- LPG容器用バルブの売上が2期連続で減り、営業利益率が8%を割ったら
- 価格競争が始まったとみて、やや悲観・悲観の確率を厚くする。
- 水素ボンベ用の弁が自動車メーカーの量産に採用され、受注金額が開示されたら
- 高圧ガス部門の数量を引き上げ、楽観の確率を上げる。
- 純投資目的の有価証券の購入がさらに増え、現金が積み上がらない状態が続いたら
- 資産の戻り方を0.5へ下げる。割安さは縮む。
- LPG容器の再検査制度が見直され、検査の周期が延びたら
- 弁の交換需要が減る。中立の個数を下げ、やや悲観の確率を厚くする。
見ておくもの
- LPG容器用バルブの部門売上と営業利益率(半期ごと)
- 次期中期経営計画の還元方針(総還元性向・自社株買い)
- 現金と純投資有価証券の残高の推移
- 水素関連の量産受注の開示
- 黄銅の価格と製品値上げの転嫁の状況
倍率と資本コストの決め方
今の株価は見ずに、部門ごとの個数×単価で10年後の利益を積んだ。個数は人口とLPガス需要の縮小から中立で0.85倍、単価は物価の1.34倍より低い1.30倍に置いた(カルテル禁止で値決めの力を割り引いた)。倍率はROEが資本コストを下回るため、1÷k(約12倍)の約85%に置いた。余った現金は戻り方0.75で足した。今の時価総額と比べたのは最後。新リース会計基準の影響は小さい(賃借の工場は少ない)。10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→12.98 倍・やや楽観 PER 11→12.5 倍・中立 PER 10.3→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。