結論
テクノスマートは、フィルムや金属箔に薬液を塗って乾かす装置をつくる専業メーカーだ。液晶ディスプレイ用の光学フィルム向けが主力で、電池向けも持つ。筆者の結論は 「やや割高」 である。手元の現金が厚い一方、稼ぎは受注の波に大きく振られるためだ。
この会社の売上は、完全な受注生産で決まる。顧客が工場を新設する年は売上が跳ね、止める年は半分に落ちる。2021年3月期は売上が前の期の半分まで縮んだ。逆に2025年3月期は営業利益率が16%まで上がった。平均すると稼ぎは悪くないが、年ごとの読みは難しい。
足元は、ディスプレイと機能性フィルムの受注が堅い。前期の受注は4割増え、受注残は237億円ある。反対に、電池向けのエネルギー関連は受注が6割減った。会社の今期予想は営業利益が3割以上減る見込みで、第1四半期の営業利益も6割減った。
財務は強い。純現金は82億円で、時価総額の4割にあたる。第4次中期経営計画は、このうち30億円以上をM&Aに使う枠を置いた。筆者がいちばん気にしているのは、この現金が買収で薄まるか、株主に戻るかである。
10年の見立ては、数量が緩やかに入れ替わり、価格は物価並みに上がり、利益率は今より少し下がる形を中心に置いた。
バリュー投資の観点から
まず、事業が10年後も理解できるかを考える。フィルムに膜を塗る装置は、液晶、電子部品、電池と、時代ごとに顧客の業界が入れ替わる。装置そのものは残るが、どの顧客が伸びるかは読みにくい。筆者は、わかりやすい事業とは言いにくいと見る。
資本の使い方は評価が割れる。配当は厚く、純資産配当率5%という下限も示した。これは株主にやさしい。一方で、現金100億円のうち30億円以上をM&Aに回す計画は、慎重に見たい。小さな会社の買収は、のれんの減損になりやすいからだ。
安全域は、純現金の厚さと、自己資本比率68%の財務にある。悲観の筋書きでも、会社が傷む心配は小さい。だが、稼ぎの源泉である受注が、顧客の気まぐれな投資計画に左右される点は動かない。バリュー投資の観点では、稼ぎの平均を低めに置き、現金は戻る分だけ数える姿勢で臨むのが妥当だ。
付け加えると、この会社の値打ちは「現金の何割が株主に届くか」で大きく変わる。純現金は時価総額の4割ある。経営が配当を厚くするだけでなく、使い道のない現金を返す姿勢を見せれば、評価は一段上がる。反対に、買収で寝かせれば、現金の価値は目減りする。筆者は、その見極めを経営の次の数年で確かめたい。
何で稼ぐ会社か
事業は一言で言えば、薄い膜をつくる機械の製造だ。ロール状のフィルムを走らせながら、液を均一に塗り、炉で乾かし、巻き取る。この「塗工乾燥装置」を、顧客ごとの仕様で設計し、据え付けて売る。生産拠点は滋賀県野洲市の事業所ひとつで、従業員は255人。本社は大阪にある。
売上の中身は、ディスプレイ部品向けが約5割、機能性フィルム向けが約3割弱、エネルギー関連(電池)が約2割弱だ。ディスプレイは液晶テレビやスマートフォンの光学フィルム、機能性フィルムは電子部品用の離型フィルムなどを指す。輸出は売上の5割強で、最大の販売先は商社の椿本興業である。構成比は4割弱を占め、最終の顧客は光学フィルムや電池のメーカーだ。
一台の値段が大きく、納入まで1年近くかかる。受注の時点で前受金が入り、完成と据え付けで売上になる。完全な受注生産なので在庫の山は積まず、受注を断る自由もある。第4次中計が「受注を選別して利益水準を保つ」と書くのは、その裏返しだ。
研究開発費は年1.5億円と小さい。その代わり、2025年に新しい実験棟とテスト機3台を整え、顧客が実際の材料で試せる場をつくった。大学やベンチャー向けの超小型テスト機も開発中で、新しい膜の分野に入り口を広げる狙いだ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、膜を均一に塗る技術と、顧客と一緒に仕様を詰める力にある。数ミクロンの膜を幅の広いフィルムに塗るには、液の流れ、乾燥の温度、フィルムの張力を同時に整える必要がある。長く付き合った顧客は、乗り換えの試験に時間と費用をかけたがらない。営業利益率は10〜16%を保ち、2025年3月期は16%に達した。
ただ、堀は深くない。有報は、電池向けと光学フィルム向けで国内・中国・韓国の価格競争が厳しいと書く。競合は国内の同業のほか、中国と韓国の装置メーカーだ。値段で決まる局面では、実績のある日本製でも受注を落とす。筆者は、この会社の利益率が20%を超える姿は想像しにくいと見る。
顧客の偏りも弱みだ。最大の販売先が商社とはいえ、売上の4割弱を一つの窓口に頼る。拠点は滋賀のひとつだけで、地震で止まれば代わりが無い。
資本効率は高くない。ROEは過去10年の中央値で8.6%、資本コストの9.0%に届かない年が多い。純現金が厚く、自己資本比率は68%と財務は安全だが、その分だけ資本は寝ている。中計は、ROEが資本コストを超えるのは2030年3月期以降だと自ら認めている。
人の面では、平均年齢は42歳台、勤続は18年と長い。労使関係は安定している。技術者が定着していることが、顧客と仕様を詰める力を支えている。ただ、平均給与が前期比で7%ほど下がっており、利益が減る期に人件費も連動する構造が見える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の主役は、液晶ディスプレイ用の光学フィルムだ。液晶テレビは大型化が続き、幅2,500mm級のフィルムを塗れる装置の引き合いが出ている。ただ、液晶そのものは成熟した市場で、パネルの新工場は中国が中心になり、投資の波は読みにくい。会社自身も、ディスプレイ向けの受注は年70億〜110億円と、大きな幅で見ている。
伸びる側にいるのは、機能性フィルムだ。積層セラミックコンデンサー(MLCC)の製造に使う離型フィルムや、半導体周辺の薄膜がここに入る。前期の機能性フィルム向け受注は、前の期の3倍に膨らんだ。AIサーバーや車載の電子部品が増えれば、塗工の需要も続く、と筆者は見る。中計は年50億〜70億円を見込む。
電池向けは逆風だ。電気自動車の販売が各地で減速し、北米では電池工場の計画が見直された。前期のエネルギー関連の受注は6割減った。中計は年20億円まで落として見ている。一方で、ペロブスカイト太陽電池や全固体電池といった新しい分野は、利益率が下がっても取りにいくと言う。
全体として、この業界は顧客の設備投資の波に乗る商売だ。完全な受注生産なので、波はそのまま売上に映る。ドルと円は150円で動かさない前提だが、輸出が5割強あるため、現実には為替の影響も受ける。
言い換えれば、この業界で10年後も生き残る会社は、波の谷で固定費を守れる会社だ。完全な受注生産で在庫が無く、借金も薄いテクノスマートは、谷を越える体力はある。ただし、谷の年は配当を守ることで現金が減る。
資本政策と M&A
還元は配当が中心だ。方針は純資産配当率(DOE)5%以上を保ち、増配を意識するというものだ。前期の配当性向は6割弱で、配当に使った額は約10億円になる。自社株買いは、新しい中計に記載が見当たらない。
第4次中期経営計画(2026〜2028年度)の資金の使い道は具体的だ。現預金約100億円と3年の営業キャッシュフロー約55億円を原資に、手元に45億円を残し、借入の返済に20億円以上、成長投資に20億円以上、M&Aに30億円以上、配当に約30億円を充てる。
M&Aは200社超を調べて優先先を選んだと言う。のれんの償却後に赤字になる会社は対象外とする条件もつけた。ただ、買収の実績は乏しく、金額も小さくない。買収が価値を壊さないかが、資本配分の最大の関心事だ。
政策保有株は約28億円で、純資産の1割強になる。椿本興業や立花エレテックなど取引先の株が中心だ。株主は取引先の持株会や投資ファンドが目立つ。10年以内のTOBなど再編は、小さくない確率で起こりうる、と筆者は見るが、筋書きには入れていない。
投資の面では、前期の設備投資は4.7億円と小さい。滋賀の設備の更新が中心で、償却の範囲に収まる。新しい工場を建てる計画は無く、成長は設備でなくM&Aと研究開発に頼る形だ。今ある設備の償却は取得時の値段のままなので、物価が上がっても費用は増えない。更新の投資だけが膨らむ点は、10年の現金に効く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
機能性フィルム向けの受注は、前期に3倍に伸びた。MLCCや半導体周辺の薄膜は、AIサーバーや車載の電子部品の増加とともに、長く伸びる分野だ。光学フィルム向けも、テレビの大型化で幅広の装置の更新が進む。受注残は237億円と厚く、数年先の売上はすでに見えている。
利益率は、2025年3月期に16%まで上がった。完全な受注生産で価格を自分で決めやすく、会社は「受注を選別する」と明言している。無理に取らない分、利益率は守られる。第1四半期の営業利益が前年より大きく減ったのは、受注の端境期に過ぎない、と強気の見方は主張する。
財務も強い。純現金は82億円、自己資本比率は68%で、借金の負担は軽い。純資産配当率5%という下限を示した以上、配当の水準も守られる。M&Aの枠が活きれば、新しい膜の分野に入る足がかりにもなる。10年で見れば、電池の逆風が薄れ、新分野が加わる形で、利益はもう一段上を狙える。
小さな会社ほど、一件の大型受注が会社の姿を変える。受注残の中に新しい分野の案件が混じり始めれば、市場は10年後の姿を一段高く見直す。
慎重な見方
この会社の利益は、顧客の設備投資の波にそのまま乗る。2021年3月期は売上が半分に縮み、営業利益率は10%に落ちた。今期も営業利益が3割以上減る予想で、第1四半期は6割減だ。電池向けの受注は6割減り、再び戻る保証は無い。
有報は国内・中国・韓国の価格競争が厳しいと書く。中国と韓国の装置メーカーが力を付ければ、光学フィルム向けでも日本の優位は薄れる。生産拠点は滋賀のひとつだけ、売上の4割弱は一つの商社に頼る。構造的な弱みが多い。
資本配分にも不安が残る。第4次計画は、ROEが資本コストを超えるのは2030年3月期以降と自ら認めた。手元の現金から30億円以上をM&Aに回す計画は、実績が乏しい会社が踏み込む領域だ。のれんの減損になれば、現金の価値が削られる。配当は5%の下限を守るために、利益を上回る額を出す年も出てくる。受注を選ぶ姿勢も、売上の縮小を招きかねない。
要するに、現金が厚いことは安心材料ではあっても、稼ぐ力の証明ではない。受注の波と価格競争、拠点の集中を考えれば、資本コストを超える稼ぎを10年続けるのは簡単ではない。
どちらに重みを置いたか
事業は波が大きく、堀は深くない。この点は慎重な見方が強い。一方で、純現金の厚さと、機能性フィルムという伸びる分野の存在は、強気の見方に分がある。筆者は、中立に今と同じ水準の利益を置き、悲観側に厚めに確率を配った。現金は半分だけ戻ると見た。10年の本質価値は今の時価総額の 8割 ほどで、結論は やや割高 になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,700 円310 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,005 円115 億円)。 今の値に割り戻すと 1,934 円222 億円、今との差 +12.5%、 期待の年率 +8.0%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,783 円664 億円 | 1,654 円190 億円 | +332.4% | +15.8% | 595 円68 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,916 円450 億円 | 1,306 円150 億円 | +203.6% | +11.7% | 1,044 円120 億円 |
| 中立 | 38% | 3,083 円354 億円 | 1,045 円120 億円 | +140.0% | +9.1% | 1,568 円180 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,010 円116 億円 | 784 円90 億円 | +4.3% | +0.4% | 395 円45 億円 |
| 悲観 | 12% | 504 円58 億円 | 348 円40 億円 | −50.4% | −6.8% | 102 円12 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,700 円310 億円 | 1,005 円115 億円 | +115.4% | +8.0% | 3,705 円426 億円 |
今の株価時価総額 1,720 円198 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 機能性フィルムと新分野が加わり、受注が一段高い水準に定着する 利益 39 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 5,783 円664 億円
機能性フィルムの設備投資が10年続く。MLCCや半導体周辺の薄膜の需要が伸び、受注は今の1.5倍の規模で定着する。ディスプレイ向けも、大型テレビや車載の更新で今の水準を保つ。電池向けは、ペロブスカイト太陽電池や全固体電池の装置が加わり、再び伸びる。
超小型テスト機が大学やベンチャーの入り口になり、新しい膜の分野を開く。装置の単価は物価を上回って通る。営業利益率は16%まで上がり、2020年3月期の山18.5%に迫る。売上は350億円を超える。
配当は純資産配当率5%を守りながら、利益の伸びとともに増える。M&Aは小さな成功にとどまり、のれんの減損は出ない。ROEは13%台に乗り、資本コストを超える。
- ディスプレイ部品関連(光学フィルム塗工装置):数量 15.1(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 9.80(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 148 億円・営業利益 25 億円。実質1.05倍・ライン単価1.40倍。大型テレビの更新と車載ディスプレイが重なる
- 機能性フィルム関連塗工機器:数量 16.7(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 7.00(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 117 億円・営業利益 20 億円。実質1.5倍。MLCC・半導体周辺の薄膜が伸び続ける
- エネルギー関連機器(電池向け):数量 4.0(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 17(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 67 億円・営業利益 8 億円。実質1.2倍。ペロブスカイト・全固体電池が育つ
- 電子部品関連・その他:数量 17.3(当社の取り分(実質、億円・今の値段基準))× 価格 140(名目の価格指数(今=100))→ 売上 24 億円・営業利益 2 億円。実質1.5倍
倍率:事業の純利益 38 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)37 億円。全体の PER 16.43 倍、時価総額 664 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:機能性フィルムの高成長が10年続き、電池と新分野も同時に育つ必要がある。完全な受注生産で外れる年も多いため、8%に抑える。
やや楽観 20% フィルム向けが電池の落ち込みを補い、利益率は10年の上の方で安定 利益 28 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 3,916 円450 億円
機能性フィルム向けが伸び、電池向けの落ち込みを補う。ディスプレイ向けは今よりやや減るが、更新需要が下支えする。装置の単価は物価並みに通り、営業利益率は14%前後と、過去10年の上の方で落ち着く。
売上は290億円ほど、営業利益は40億円ほどになる。会社の以前の目標(240億円・28億円)を上回る形だ。M&Aは1件か2件で、大きな失敗はしない。
配当は純資産配当率5%を保ち、自己資本は270億円台に増える。ROEは10%前後で、資本コストをやっと上回る。
10年の終わりでも、受注の波は残るが、谷は浅くなる。顧客が電池の一本足から、電子部品と光学の複数に広がった結果だ。
- ディスプレイ部品関連(光学フィルム塗工装置):数量 13.7(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 9.52(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 130 億円・営業利益 20 億円。実質0.95倍・単価1.36倍
- 機能性フィルム関連塗工機器:数量 14.4(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 6.80(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 98 億円・営業利益 15 億円。実質1.3倍
- エネルギー関連機器(電池向け):数量 2.6(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 16(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 43 億円・営業利益 4 億円。実質0.8倍
- 電子部品関連・その他:数量 13.8(当社の取り分(実質、億円・今の値段基準))× 価格 134(名目の価格指数(今=100))→ 売上 19 億円・営業利益 1 億円。実質1.2倍
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)37 億円。全体の PER 14.86 倍、時価総額 450 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残が厚く、機能性フィルムは前期に3倍に伸びた。電池の落ち込みを補って利益率が上の方にとどまる形。可能性は軽くない。
中立 38% 受注は入れ替わりながら横ばい。利益率は今より少し緩む 利益 21 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 3,083 円354 億円
電池向けは中計の年20億円水準まで細り、ディスプレイ向けも今のピークから少し縮む。かわりに機能性フィルムが年60億円ほどに伸び、全体の受注は今と同じ程度の水準で入れ替わる。装置の単価は電池とディスプレイで競争のため物価を少し下回って上がる。
営業利益率は12.5%に落ち着く。人件費と材料の上昇が続く一方、価格競争で値上げに限りがあるためだ。売上は240億円ほど、営業利益は30億円ほどで、今とほぼ同じ名目額になる。実質では3割目減りしている。
配当は純資産配当率5%が下限になり、自己資本は260億円台に増える。ROEは8%ほどで、資本コストに届かない。M&Aは小さな案件にとどまり、可もなく不可もない。普通に堅い専業として10年を終える。
- ディスプレイ部品関連(光学フィルム塗工装置):数量 12.8(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 9.10(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 117 億円・営業利益 16 億円。実質0.89倍(中計の年70〜110億円の中心90億円を今の売上で割った値)、単価は競争で1.30倍
- 機能性フィルム関連塗工機器:数量 12.0(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 6.70(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 80 億円・営業利益 11 億円。実質1.08倍(中計の年50〜70億円の中心)、単価は物価並み1.34倍
- エネルギー関連機器(電池向け):数量 1.8(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 16(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 2 億円。実質0.55倍(中計の年20億円)、単価は競争で1.30倍
- 電子部品関連・その他:数量 11.5(当社の取り分(実質、億円・今の値段基準))× 価格 134(名目の価格指数(今=100))→ 売上 16 億円・営業利益 1 億円。実質横ばい
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)37 億円。全体の PER 14.01 倍、時価総額 327 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中計(年の受注見通し)と、過去10年の利益の平均を組み合わせたもっとも起こりやすい形。受注が分野を入れ替えながら横ばいに近い姿を、3割台後半に置いた。
やや悲観 22% パネル投資と電池の両方が細り、価格競争で利益が削られる 利益 10 億円 · PER 6.4 倍 · 株価時価総額 1,010 円116 億円
ディスプレイ向けのパネル投資が細り、電池向けは戻らない。中国・韓国の装置メーカーが価格で入り込み、日本製の単価は物価の伸びに届かない。受注残が一巡すると、売上は180億円ほどまで縮む。
営業利益率は8%に落ちる。完全な受注生産で固定費の重さが利益を直撃する。研究開発や滋賀の設備の償却は物価に連動せず、売上が減る分だけ重く感じる。
配当は純資産配当率の下限を守るために、利益を上回る年も出る。M&Aには踏み込めず、現金は食われる。ROEは4%台に下がる。事業は残るが、もう優良とは呼べない水準だ。
株主にとっては、現金の厚さが最後の救いになる。ただし使い道は経営が決めるので、戻る額は限られる。
- ディスプレイ部品関連(光学フィルム塗工装置):数量 10.8(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 8.54(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 92 億円・営業利益 8 億円。実質0.75倍・単価1.22倍。パネル投資が細り、中国勢に価格で押される
- 機能性フィルム関連塗工機器:数量 10.0(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 6.25(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 62 億円・営業利益 6 億円。実質0.9倍・単価1.25倍
- エネルギー関連機器(電池向け):数量 1.2(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 14(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 17 億円・営業利益 1 億円。実質0.35倍
- 電子部品関連・その他:数量 9.2(当社の取り分(実質、億円・今の値段基準))× 価格 120(名目の価格指数(今=100))→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。実質0.8倍
倍率:ROE 約4% が k 8% を大きく下回り、ためた利益は額面を大きく割る。RONIC = k + 1/2 ×(4% − k)から正当化 PER 約 7.9 倍。価格競争で稼ぐ力が細る構造的な負けの筋書きなので、約 8 割の 6.4 倍に置いた。
確率:ディスプレイ向けは成熟、電池は逆風で、有報も価格競争の厳しさを認めている。単一拠点・単一窓口の会社として、悪い方に寄りやすい。
悲観 12% 中韓勢に追い抜かれ、受注が細って稼ぐ力が消える 利益 1 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 504 円58 億円
中国・韓国勢が光学フィルム向けでも技術的に追いつき、日本の優位が消える。ディスプレイ向けの受注は半分近くに縮み、電池向けはほとんど出なくなる。価格は物価の伸びを大きく下回る。
営業利益率は1%台まで落ち、電池と電子部品の分野は赤字になる。生産拠点が滋賀に一つなので、固定費を削る余地も小さい。
手元の現金と政策保有株、滋賀の土地・建物が、この会社の価値を支える。配当は下限を守れず、大きく減らす。資本コストを稼げない資産株になる筋書きだ。
筆者は、この筋書きの確率を低くは置けないと見る。装置の専業は、顧客が一つ離れると崩れ方が速い。
- ディスプレイ部品関連(光学フィルム塗工装置):数量 7.9(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 7.70(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 61 億円・営業利益 1 億円。実質0.55倍・単価1.10倍。光学フィルム向けでも中韓勢に追い抜かれる
- 機能性フィルム関連塗工機器:数量 7.2(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 5.50(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 1 億円。実質0.65倍
- エネルギー関連機器(電池向け):数量 0.5(年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定)× 価格 13(1ラインあたりの売上(億円・名目))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。実質0.15倍・赤字
- 電子部品関連・その他:数量 6.9(当社の取り分(実質、億円・今の値段基準))× 価格 110(名目の価格指数(今=100))→ 売上 8 億円・営業利益 0 億円。実質0.6倍・赤字
倍率:稼ぐ力はほぼ消えるので、売れる資産の税後を床にした。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:中国・韓国勢が光学フィルム向けでも追いつき、10年の受注が細る形。単一製品に近い装置の専業としては、起こりうる。5%の下限は超え、1割強に置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ディスプレイ部品関連(光学フィルム塗工装置)
液晶テレビやスマートフォンの光学フィルム(偏光板など)に薬液を塗り、乾かす装置。売上の約5割を占める主力。
| 数量年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定 | 価格1ラインあたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14.4 | 7.00 | 101 | 17 |
| 10 年後 中立 | 12.8 | 9.10 | 117 | 16 |
取り方:有報の最終製品別売上(ディスプレイ部品関連機器)100.76億円を、1ライン平均7億円と置いた推定で14.4本とした(開示は金額のみ)。価格は『1本あたりの売上(億円)』で物価の指数を掛ける。営業利益は全社30.0億円(開示は単一セグメント)を、価格競争の強さに応じて配分した推定。
機能性フィルム関連塗工機器
積層セラミックコンデンサー用の離型フィルムなど、電子部品や半導体周辺の薄膜を塗る装置。前期の受注が3倍に伸びた成長分野。
| 数量年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定 | 価格1ラインあたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 11.1 | 5.00 | 56 | 8 |
| 10 年後 中立 | 12.0 | 6.70 | 80 | 11 |
取り方:有報の機能性フィルム関連塗工機器 55.49億円を、1ライン平均5億円と置いた推定で11.1本とした。営業利益の配分は推定。
エネルギー関連機器(電池向け)
リチウムイオン電池の電極を塗る装置が中心。ペロブスカイト太陽電池や全固体電池の装置にも広げようとしている。
| 数量年間の納入ライン数(本)。開示がないため推定 | 価格1ラインあたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.3 | 12 | 40 | 4 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 16 | 28 | 2 |
取り方:有報のエネルギー関連機器 39.57億円を、1ライン平均12億円と置いた推定で3.3本とした(電池向けは大型ラインが多い)。電池向けは価格競争が厳しいとされ、利益率は低めと推定。
電子部品関連・その他
電子部品向けの塗工機器と、乾燥機・熱処理機・保守などのその他。
| 数量当社の取り分(実質、億円・今の値段基準) | 価格名目の価格指数(今=100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 11.5 | 100 | 12 | 1 |
| 10 年後 中立 | 11.5 | 134 | 16 | 1 |
取り方:電子部品関連塗工機器 2.79億円とその他 8.74億円の合計 11.53億円を、当社の取り分(実質、億円・今の値段基準)として置いた。数量は実質、価格は物価の指数(今=100)、rev_factor=0.01で億円に換算する。
リスクと懸念
受注の波
完全な受注生産で、顧客の設備投資がそのまま売上になる。2021年3月期は売上が前の期の半分に縮んだ。今期の会社予想も営業利益は3割以上減る。波の大きさが、この会社の最大のリスクだ。
電池向けの低迷
電気自動車の減速で、エネルギー関連の受注は前期に6割減った。北米では電池工場の計画が見直されている。中計は年20億円まで落として見ており、戻るかは不透明だ。
中国・韓国勢の価格攻勢
有報は、電池向けと光学フィルム向けで国内・中国・韓国の価格競争が厳しいと書く。日本製の優位が薄れれば、単価と数量の両方が崩れる。
拠点と販売先の集中
生産拠点は滋賀事業所ひとつで、地震で止まれば代わりが無い。売上の4割弱は商社の椿本興業を通す。窓口の取引条件が変われば影響が大きい。
M&Aで現金が薄まる
中計は30億円以上のM&A枠を置いた。実績が乏しい会社の買収は、のれんの減損になりやすい。現金の価値が削られるリスクがある。
ROEの低さ
過去10年のROEの中央値は8.6%で、資本コストに届かない年が多い。会社も、資本コストを超えるのは2030年3月期以降と認めている。
今後の分かれ目
- 機能性フィルム向けの受注が、前期の高さを数年保つ
- 受注残が積み上がり、売上と利益が上振れる。中立より上の筋書きに近づく。
- 電池向けの受注が回復し、ペロブスカイトや全固体電池の装置が加わる
- エネルギー関連が再び柱になり、利益率の改善が進む。
- 中国・韓国の装置メーカーが光学フィルム向けでも日本勢を上回る
- ディスプレイ向けの数量と単価が下がり、悲観の筋書きに近づく。
- 30億円規模のM&Aを実行する
- 成功すれば新分野の足がかりになるが、失敗すれば現金の一部とのれんを失う。
- 自社株買いや増配を明確な方針として打ち出す
- 余った現金が株主に届く前提が強まり、現金の評価が上がる。
- 滋賀事業所が地震などで長く止まる
- 受注残の納入が遅れ、顧客が他社に移る可能性がある。
見ておくもの
- 四半期の受注高と受注残(機能性フィルムとエネルギー関連の別)
- 営業利益率と、会社予想の修正
- M&A枠30億円の使い道と、自社株買いの有無
- 中国・韓国の装置メーカーの動向と価格
- 純資産配当率5%の維持
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価に寄せず、10年後の ROE と資本コスト 8%(基本 7.5% + 循環・値決め・寿命の +1.5%)から式で出した正当化 PER の約 8〜9 割に置いた。今の株価は見ていない。数量は実質で、会社の中計の分野別の受注見通し(年の幅)を今の売上で割って置き、価格は物価の 1.34 倍を基本に、競争が厳しい電池とディスプレイは少し下回らせた。会社の今期予想(営業利益が3割以上減る)は出発点にせず、過去10年の利益の中央値をまたぐ形で10年を組んだ。余った現金は、会社の必要手許資金45億円を純現金から引いた37億円とし、戻り方は M&A 枠を考えて 0.5 とした。本社賃借は小さく、新リース会計基準の影響は軽い。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.4→16.43 倍・やや楽観 PER 11.1→14.86 倍・中立 PER 10→14.01 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.5% = 9.0%。M&A の実行や受注の波は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.00%。