結論
ユニオンツールは、プリント基板に穴をあける超硬ドリルで世界首位の会社だ。自社推計で世界の3割を握る。筆者の結論は「割高」である。AIサーバー向けの注文は本物だが、今の値段はその山の利益を長く続くものとして払っている、と見る。
稼ぎ方は消耗品の商売だ。ドリルは使えば減るので、基板が作られる限り注文が続く。AIサーバー用の基板は層が多く、材料も硬い。穴の数が増え、刃の減りも速い。1枚あたりに使うドリルが増えるので、需要は基板の枚数以上に伸びる。2026年12月期の営業利益は前期の2倍近くを見込む。
ただ、この好況は会社だけのものではない。台湾や中国の同業も増産に走る。ユニオンツール自身も、2年で生産能力を大きく広げる計画を立てた。供給が足りない今は値段が強い。能力が出そろえば、値段は元に戻りやすい。
10年後の中立は、需要が今の水準で落ち着き、利益率は24%前後に戻る姿だ。純利益は今期予想の2割増ほどにとどまり、自己資本利益率(ROE)は1割強と、資本コストを少し上回る程度に落ち着く。2027年より先の伸びは、業種の名目の見通し(年3〜5%)を物価で割った実質で置いた。堀は広くない。技術と品質で首位を守る会社であり、独占ではない。
財務は申し分ない。無借金で、今春の公募で集めたお金は設備投資に回る。会社は強く、事業は良い。ただ、良い会社でも払う値段が高ければ報われない。今の時価総額は、強気の筋書きに近い絵を前提にしている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社は三つの問いで見る。10年後も事業は残るか。稼いだお金を、経営は賢く使うか。払う値段に余裕があるか。
一つ目は、おおむね合格だ。基板に穴をあける仕事は、電子機器がある限り残る。ドリルは消耗品なので、売上は使われた分に連動して続く。堀は広くないが、首位の品質と実績は簡単にはまねできない。
二つ目も、悪くない。無借金で、設備は自前の資金でまかなう。買収で資本を痛めることもしない。ただ、これまでのROEは低かった。現金をためるだけで使い道がなかったからだ。今回の大型投資が実を結ぶかを、筆者は見ていく。
三つ目が、いちばんの問題である。2026年に利益が跳ねることは分かっている。それでも、10年先の利益を月並みな筋書きで置けば、今の値段には届かない。強気の筋書きが実現して、はじめて値段に見合う。余裕のある値段ではない。
良い会社を、高い値段で買って得をすることは難しい。この会社は強い。だから、待つ価値がある会社だ、と筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
ユニオンツールの主力は、プリント基板用の超硬ドリルだ。基板にあける穴は、髪の毛より細いものも多い。そこに高速で正確に穴をあけられる刃が、同社の商品である。売上の大半がこのドリルで、筆者の推計では8割ほどになる。
顧客は、基板メーカーと半導体パッケージ基板のメーカーだ。売上の7割超は海外で、アジアが大きい。ドリルは使うたびに刃先が減る消耗品だ。基板の生産量が増えれば、注文も増える。機械を売ってそれきりの商売とは違う。
ほかに、金属加工用の超硬エンドミル、ねじを作る転造ダイス、直線運動の軸受などがある。工作機械も自社で設計する。刃物を作る機械まで自分で作るので、ドリルの品質をそろえやすい。これが首位を支える土台の一つだ。
拠点は新潟の長岡に集まる。1976年に長岡へ集約して以来、工場を足してきた。いまは第六工場の建設と見附工場の増設が進む。生産の中心を一か所に置くことで、品質の管理と技術の蓄積を同時に守ってきた会社だ。地方の一拠点で世界の基板メーカーに供給する、ものづくりの色が濃い会社である。
優良さと弱いところ
この会社のよさは、狭い分野で首位を守り続けた点にある。世界の3割を持つと自社は推計し、無借金で、営業利益率は2025年12月期で21%を超えた。長く続けた会社らしく、設備も人も自前で、外に頼る部分が少ない。
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、細い穴を正確にあける技術と、品質のばらつきの小ささだ。基板メーカーは1本の不良で何枚もの基板を失う。だから、実績のあるドリルを簡単には変えない。ただし、複数の仕入れ先を持つのが普通で、乗り換えが絶対に起きないわけではない。
弱みも書いておく。ドリルは大きな会社の看板商品ではなく、同じ形の商品を台湾や中国の会社も作る。しかも、売上の大半が1つの商品、1つの用途だ。基板の穴あけ方法が変われば、土台から崩れる。
資本効率は、ここ10年のROEが5〜8%台で、資本コストに届かない年が多かった。自己資本比率は9割と厚いが、それは現金をためてきた結果でもある。今期以降は利益が跳ねるので、ROEは大きく上がる。ただし、この跳ね上がりは好況の分を含む。常態とは見ていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要を引っ張るのは、AIサーバー向けの基板だ。生成AIの計算を担うサーバーは、基板の層が多く、載せる部品も多い。穴の数も多くなる。使う材料は硬く、ドリルの刃が減りやすい。同じ面積の基板でも、使うドリルは増える。
この流れは2025年から強まり、同社は2026年12月期の営業利益予想を引き上げ続けている。台湾のドリルメーカーも、2026年は供給不足が続くとみている。足りないのは基板ではなく、ドリルの生産能力である。
競争は静かには終わらない。台湾や中国の同業が増産し、新しい工場を建てる。中国の会社は値段で攻め、品質も年々上がる。同社の優位は、細い径や硬い材料での寿命と精度にある。ここで差を保てるかが分かれ目だ。
代わりの技術にも目を向ける必要がある。基板の微細な穴では、レーザーによる穴あけが広がっている。ただ、層が多い基板の貫通穴は、いまも機械式のドリルが主役だ。AI基板で貫通穴が増えるうちは追い風だが、穴をあけない作り方が出てくれば逆風になる。
10年を通して見ると、需要は今の水準を土台にじわじわ伸びる。ただ、今の好況の勢いがそのまま続くとは考えにくい。能力増強が一巡したあとの値段と稼働率が、利益の水準を決める。
資本政策と M&A
2026年4月、同社は自己株式の処分による公募と、株主の売出しを行った。会社に入ったお金は約324億円で、使い道は決まっている。長岡の第六工場、長岡と見附の設備増設だ。時期は2027年から2028年末までである。
還元の方針は、連結業績とフリーキャッシュフローを見て、配当と自社株買いの二本立てで決める。2025年12月期の配当性向は4割弱だった。自社株買いは過去に大きくやった年もあるが、最近はほとんどない。
今回の調達には、二つの読み方がある。一つは、これから設備を増やす会社が、需要が強いうちに資金を確保したという読み方だ。もう一つは、株価が高いうちに持ち株を出したいという既存株主の思惑だ。売出しの分は株主が売ったもので、会社には入らない。筆者は、会社が自己資金で投資を賄う姿勢は評価する。
設備投資は、2026年が約105億円、続く2年で合計260億円超と報じられている。能力を5割ずつ増やす計画が実現すれば、そこから先の利益は大きい。ただ、同じ時期に同業も増やす。投資が実を結ぶかは、需要が続くかに懸かる。
M&Aはほとんど使わない会社だ。自前で作り、自前で増やす。買収で資本を傷つける心配が小さいのは、この会社の長所である。
還元は方針(配当と自社株買いの二本立て、2025年12月期の配当性向は4割弱)どおり。第六工場などの投資が済む2029年以降に利益のほとんどを返す前提で、中立は純利益の合計の約8割。悲観側は配当を維持する範囲(やや悲観で約450億円、悲観で約240億円)に置いた。
点検済み:中立の営業利益率23.7%は、会社の27・28年12月期予想(約30%)より低く、同じ文章で需要が落ち着いて利益率が24%前後に戻る姿を置いている。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIサーバーの基板は、層が増え、穴が増え、材料が硬くなっている。ドリルは1枚の基板に使う本数が増え、しかも刃が早く減る。需要は基板の枚数よりも速く伸びる。ユニオンツールはこの流れに最も近い会社だ。
同社は世界の3割を持ち、無借金で、利益率は2割を超えている。生産能力を2年で大きく増やす計画を立て、集めたお金は全額が設備に向かう。供給が足りない今の局面で、能力を持つ会社が勝つ。
細い穴と硬い材料では、ドリルの寿命と精度が価格より重い。基板メーカーは不良のコストを嫌うので、実績のあるドリルから簡単には離れない。AI向けの値段の強さは、一時的ではなく構造的だと考えられる。
長い目で見れば、データセンターの投資は続く。半導体パッケージ基板も大型化する。10年たっても、ドリルは基板の穴あけの主役であり続ける。利益は今期予想を大きく超えて育つ可能性がある。しかも、増えた利益は設備投資が一巡すれば、ほぼ還元に回る。資本効率の面でも、今の好況は大きな転換点になる。
慎重な見方
今の好況は、供給が足りない局面の値段で作られている。台湾のドリルメーカーが2026年も不足が続くとみるのは、各社が同時に増産に走っている証拠でもある。能力が出そろえば、需給はゆるむ。
ユニオンツールは1つの商品、1つの用途に偏る。基板の穴あけは、レーザーなど別の方法に置き換わる余地がある。AIの投資が一服すれば、利益は大きく落ちる。電子部品の設備投資は、過去も山と谷を繰り返してきた。2012年や2016年のように、営業利益が3割以上落ちた年は一度ではない。
同社自身の営業利益率は、2010年代のほとんどの期間で13〜17%だった。過去最高に近い3割を長く保てるとは限らない。2年で能力を2倍以上にする投資は、需要が続くことが前提で、外れれば固定費の重さが利益を削る。
値段の面でも、中国の会社の技術が上がっている。値段を下げて仕入れ先に食い込む動きは、AI向けでも起こる。今の時価総額は、この山の利益を長く続くものとして支払っている。
どちらに重みを置いたか
需要が強いことは確かで、その点では強気の見方が正しい。ただ、10年という期間では、供給不足の値段も、3割の利益率も、続かない可能性のほうが高い。慎重な見方の指摘は、好況の裏にある同業の増産と設備負担の重さを突いている。
確率は中立を中心に置き、強気側を3割強、慎重側を3割台半ばとした。需要の強さは、中立の売上の水準にすでに入れてある。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 10,617 円2,068 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,947 円769 億円)。 今の値に割り戻すと 7,604 円1,481 億円、今との差 −39.8%、 期待の年率 +1.4%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 27,834 円5,423 億円 | 7,211 円1,405 億円 | +177.3% | +10.7% | 3,504 円683 億円 |
| やや楽観 | 22% | 15,659 円3,051 億円 | 5,194 円1,012 億円 | +65.0% | +5.1% | 4,588 円894 億円 |
| 中立 | 32% | 10,747 円2,094 億円 | 4,383 円854 億円 | +19.7% | +1.8% | 4,842 円943 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,944 円574 億円 | 2,310 円450 億円 | −58.4% | −8.4% | 1,156 円225 億円 |
| 悲観 | 14% | 2,156 円420 億円 | 1,232 円240 億円 | −73.2% | −12.3% | 474 円92 億円 |
| 加重平均 | 100% | 10,617 円2,068 億円 | 3,947 円769 億円 | +15.2% | +1.4% | 14,564 円2,837 億円 |
今の株価時価総額 12,640 円2,463 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% AI基板の穴が増え続け、首位の能力増強がそのまま売上になる 利益 305 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 27,834 円5,423 億円
AIサーバー向けの基板は、10年を通して層も穴の数も増え続ける。ドリルの需要は、基板の枚数を超えて伸びる。ユニオンツールが増やした能力は、そのまま売上に変わる。
最も細い径や、硬い材料向けの高い値段のドリルで、同社の寿命と精度の差が決め手になる。値段は物価並み以上に上がり、シェアも3割から3割強へ広がる。利益率は3割に達する。
このとき利益は今期予想の2.5倍ほどに育つ。株主への還元も大きい。強い好況が10年続く筋書きだが、その中でも値段は物価を少し上回る程度にとどまる。同業も増産するので、これ以上の値上がりは見込まない。
- プリント基板用ドリル:数量 860(世界のPCBドリル市場(実質・億円)× 同社シェア)× 価格 140(価格指数(2025年12月期=100。物価3%なら10年で134))→ 売上 1,204 億円・営業利益 373 億円。市場 2610 億円×シェア 33%(実質)。価格は今を100とした指数
- エンドミル・転造ダイス・その他:数量 108(対象市場(実質・億円)× 同社シェア)× 価格 140(価格指数(2025年12月期=100))→ 売上 151 億円・営業利益 23 億円。市場 4500 億円×シェア 2.4%(実質)
倍率:事業の純利益 305 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.8 倍。全体の PER 17.78 倍、時価総額 5,423 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI投資が10年途切れず、能力増強も需要が埋める必要がある。実現すれば強いが、同業も同時に増やすので連続で当たる確度は高くない。
やや楽観 22% AI向けが今の水準を土台に伸び、シェアも保つ 利益 192 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 15,659 円3,051 億円
AI向けの需要は、今の水準を土台に、世界の基板産業より速く伸びる。同社は能力の増強をやり遂げ、シェアを3割強で保つ。値段は物価並みに上がる。
利益率は2027年の予想よりやや低い27〜28%で落ち着く。能力が増えた分の償却や人件費が重いが、高い技術の商品が全体の質を支える。
利益は今期予想の5割増ほどに届く。設備投資が一巡したあとは、稼いだお金を還元へ回せる。ROEは1割台半ばに乗る。強気の筋書きほどの勢いはないが、今の好況が一時の山でなかったと分かる姿だ。台湾や中国の同業が増産しても、細い径と硬い材料では同社の品質が選ばれ続ける。値段は物価並みを保ち、顧客の乗り換えも限られる。
- プリント基板用ドリル:数量 612(世界のPCBドリル市場(実質・億円)× 同社シェア)× 価格 134(価格指数(2025年12月期=100。物価3%なら10年で134))→ 売上 820 億円・営業利益 230 億円。市場 1970 億円×シェア 31%(実質)。価格は今を100とした指数
- エンドミル・転造ダイス・その他:数量 98.9(対象市場(実質・億円)× 同社シェア)× 価格 134(価格指数(2025年12月期=100))→ 売上 133 億円・営業利益 19 億円。市場 4300 億円×シェア 2.3%(実質)
倍率:事業の純利益 192 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.89 倍、時価総額 3,051 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の伸びが世界の基板産業を上回り、首位のシェアも保つ想定。AI向けの需要が定着する、比較的ありうる上振れ。
中立 32% 需要は2027年の水準で落ち着き、利益率は24%前後に戻る 利益 144 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 10,747 円2,094 億円
AIサーバー向けの需要は2027年までに一段上がり、その後は年4%ほどの実質の成長に落ち着く。同社は世界の3割を保つ。ただ、台湾や中国の増産で、値段は物価を少し下回る伸びにとどまる。
利益率は、今の3割から24%前後へ戻る。理由は二つある。増えた設備の償却が重くなること、品不足の値段が正常な水準に戻ることだ。それでも、2025年12月期の21%よりは高い。
純利益は今期予想の2割増ほどになる。設備投資が一巡した2029年以降は、稼いだお金のほとんどを株主に返せる。ROEは11%ほどで、資本コストの8.5%を少し上回る。
- プリント基板用ドリル:数量 521(世界のPCBドリル市場(実質・億円)× 同社シェア)× 価格 130(価格指数(2025年12月期=100。物価3%なら10年で134))→ 売上 677 億円・営業利益 173 億円。市場 1740 億円×シェア 30%(実質)。価格は今を100とした指数
- エンドミル・転造ダイス・その他:数量 90.2(対象市場(実質・億円)× 同社シェア)× 価格 134(価格指数(2025年12月期=100))→ 売上 121 億円・営業利益 16 億円。市場 4100 億円×シェア 2.2%(実質)
倍率:事業の純利益 144 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍。全体の PER 14.54 倍、時価総額 2,094 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:今期予想の需要が実質で定着し、その後は年4%ほど伸びる想定。同業の増産で値段は物価を少し下回る。需要の強さと同業の追い上げが拮抗する落としどころ。
やや悲観 22% 2027年以降に需給がゆるみ、新設備の償却が利益を削る 利益 54 億円 · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 2,944 円574 億円
2027年以降、AI向けの基板投資が一服する。同時に、同業が増やした能力が市場に出てくる。ドリルの需給はゆるみ、値段は物価の伸びに追いつかなくなる。
同社は第六工場などの設備を作った直後で、稼働率が上がらない。固定費が重く、利益率は17%まで落ちる。世界のシェアも、価格で攻める同業に少しずつ削られ、3割を割る。
利益はピーク時の半分以下に戻る。配当は維持するが、稼ぎは設備のコストに食われる。ROEは資本コストを下回り、優良な会社とは言いにくい姿になる。2020年代前半の落ち込みで見た、需要の波に飲まれる姿の再来である。
- プリント基板用ドリル:数量 317(世界のPCBドリル市場(実質・億円)× 同社シェア)× 価格 115(価格指数(2025年12月期=100。物価3%なら10年で134))→ 売上 365 億円・営業利益 62 億円。市場 1170 億円×シェア 27%(実質)。価格は今を100とした指数
- エンドミル・転造ダイス・その他:数量 81.9(対象市場(実質・億円)× 同社シェア)× 価格 120(価格指数(2025年12月期=100))→ 売上 98 億円・営業利益 10 億円。市場 3900 億円×シェア 2.1%(実質)
倍率:ROE 4.3% が k 8% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 11.8 倍まで。新設備の償却で利益率が落ち、稼ぐ力(純利益 ÷ k)で測る。構造的に負けた側の筋書きなので、上限の 8.5 割の 10.62 倍にした(7 割へは引き上げない)。
確率:AI投資の一服と同業の能力増強が重なり、需給がゆるむ。電子部品の設備投資は過去も山と谷を繰り返してきたため、強気側と同程度に起こりうる。
悲観 14% 穴あけの技術が変わり、あるいは同業が追いついて堀を失う 利益 18 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 2,156 円420 億円
基板の穴あけの技術が大きく変わる、あるいは中国の同業が品質で追いつき、値段を決める力を失う。この2つのどちらかが起きる筋書きだ。
AI基板で貫通穴が減る、レーザーなど別の方法が層の多い基板にも広がる、といった変化が考えられる。同社は大きな設備を作ったばかりで、設備の価値が下がり、損失も出る。
シェアは2割程度に縮み、値段は今の水準から上がらない。利益率は1桁に落ちる。稼ぐ力はほとんど消え、値段を支えるのは手元の現金と、売れる土地や設備だけになる。配当は当面維持するので、手元の現金を取り崩して払うことになる。
- プリント基板用ドリル:数量 242(世界のPCBドリル市場(実質・億円)× 同社シェア)× 価格 100(価格指数(2025年12月期=100。物価3%なら10年で134))→ 売上 242 億円・営業利益 19 億円。市場 1100 億円×シェア 22%(実質)。価格は今を100とした指数
- エンドミル・転造ダイス・その他:数量 74.0(対象市場(実質・億円)× 同社シェア)× 価格 105(価格指数(2025年12月期=100))→ 売上 78 億円・営業利益 5 億円。市場 3700 億円×シェア 2.0%(実質)
倍率:穴あけの技術が変わる、または同業が追いつく筋書き。稼ぐ力は純利益 18 億円ほどで、資本コストで割っても 20 億円強にしかならない。そのため、手元の現金と売れる設備・土地の税後の床を値段にした。約 420 億円。PBR はこの床を、今の自己資本(2025 年 12 月期末の 800 億円)で割った値。
確率:穴あけ技術の置き換え、または中国勢の品質が追いつき値段を決める力を失う。電子部品の10年では起こりうる。quality の寿命の理由とは別に、ここで確率に反映した。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
プリント基板用ドリル
プリント基板に穴をあける超硬ドリル。AIサーバー向けなどの高多層基板・半導体パッケージ基板に使う消耗品。
| 数量世界のPCBドリル市場(実質・億円)× 同社シェア | 価格価格指数(2025年12月期=100。物価3%なら10年で134) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 330 | 100 | 330 | 76 |
| 10 年後 中立 | 521 | 130 | 677 | 173 |
取り方:同社推計の世界シェア約3割から市場を約1,100億円と置いた(総売上402億円のうち、ドリルを約8割の約330億円と推計。開示は地域別のみ)。営業利益は全社87億円を、エンドミル等より利益率の高いドリルへ多く配分。 AI 向けの段差(会社予想の 2027 年まで)は実物の需要として残し、その後の年 4% 前後の伸びは名目の市場なので物価(8 年で 1.27 倍)で割った実質で置いた(10 年中立 約 4.7%/年)。
エンドミル・転造ダイス・その他
金属加工用の超硬エンドミル、転造ダイス、ローラーガイド、自社設計の工作機械など。
| 数量対象市場(実質・億円)× 同社シェア | 価格価格指数(2025年12月期=100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 72.0 | 100 | 72 | 11 |
| 10 年後 中立 | 90.2 | 134 | 121 | 16 |
取り方:総売上402億円からドリル分を引いた約72億円。対象市場は約3,600億円、シェア約2%と推計。営業利益率は15%と置き、地域別の「その他」の利益率が低いことを踏まえ控えめにした。
リスクと懸念
AI投資の一服と需給のゆるみ
AIサーバー向けの基板投資が止まれば、ドリルの注文も先に落ちる。同業が同時に増やした能力が市場に出ると、値段が崩れる。今の営業利益率は3割に近いが、2010年代の実績は13〜17%だった。山の利益を常態とみると、判断を誤る。
大型投資の回収
長岡の第六工場など、2年で260億円超という設備投資が控える。能力を5割ずつ増やす計画だが、需要が追いつかなければ稼働率が下がり、固定費の負担が利益を削る。投資の時期は需要の山に重なるため、回収の難しさが大きい。
台湾・中国の同業の追い上げ
台湾のドリルメーカーは増産を進め、中国の会社は値段で攻める。品質の差が縮めば、値段を決める力を失う。ドリルは形が似た商品で、基板メーカーも複数の仕入れ先を持つのが普通だ。シェアの3割は固定ではない。
穴あけ方法の置き換え
微細な穴では、レーザーによる穴あけがすでに使われている。層の多い基板の貫通穴は、いまも機械式のドリルが主役だが、基板の作り方が変われば穴の数が減る。売上の大半が1つの用途に偏る会社にとって、この変化は致命傷になりうる。
単一事業・単一用途の集中
売上の大半が基板用ドリルで、顧客は電子機器と半導体の基板に集まる。海外比率は7割を超え、アジアの基板メーカーに頼る。特定の顧客や地域で投資が止まると、全社の利益が一度に落ちる。分散の効く余地は小さい。
還元と資本の使い方
配当性向は4割弱で、自社株買いは最近ほとんどない。ためた現金が厚くなり、ROEが長く低かった歴史がある。大型投資のあと、稼いだお金を株主へ返すのか、再び現金をためるのかが問われる。方針の変更が遅れると、ROEは資本コストを下回る。
今後の分かれ目
- AIサーバー向けの基板投資が2028年以降も二桁で伸び続ける
- ドリルの需要は今の想定を超え、能力増強が全部売上に変わる。強気の筋書きに近づき、利益は今期予想の3倍規模へ向かう
- 台湾・中国の同業の増産が一巡し、ドリルの需給がゆるむ
- 値段が下がり、営業利益率は2割を割る。やや悲観の筋書きに近づく
- 層の多い基板でも、レーザーなどの別の穴あけが主流になる
- 機械式ドリルの需要は縮み、同社の売上の土台が崩れる。悲観の筋書きで、手元の現金と売れる資産が値段の床になる
- 第六工場の稼働後も、受注が能力に追いつかない
- 稼働率が上がらず、償却が利益を削る。投資の回収が遅れ、ROEが資本コストを下回る期間が長くなる
- 設備投資が一巡した後、配当と自社株買いを大きく増やす
- 自己資本が膨らまず、ROEが1割を超えて安定する。資本政策の改善が、株主の取り分を押し上げる
- 同社が基板メーカーや材料会社との提携、または他社への出資を進める
- 需要の確保には役立つが、買収で資本を傷つければ、ROEの改善を打ち消す
見ておくもの
- 日本プリント回路工業会(JPCA)や台湾基板協会の月次の生産額・AIサーバー向け比率
- ユニオンツールの四半期ごとの営業利益率と受注の動き
- 長岡第六工場・見附工場の稼働時期と、能力増強の進み方
- 台湾Topointなど同業の増産の発表と、中国メーカーの品質と値段
- 配当と自社株買いの方針、設備投資が一巡した後の還元の増減
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(2026年12月期の予想に対して2桁の高いPER)を見ず、10年後の ROE と資本コスト 8%(基本 7.5% に、循環・寿命の +1.0%)から正当化 PER を出して置いた。楽観・やや楽観・中立は、自己資本を今の1,124億円に期間の利益を足し還元を引いた流れで置いたROE(楽観19.7%・やや楽観13.9%・中立11.1%)から、正当化 PER(RONIC = k + 1/2 ×(ROE − k))を出し、上限の 9 割に置いた。景気の振れと寿命は k の quality に入れてあるので、倍率では二重に引かない。やや悲観は ROE が資本コスト以下なので 1÷k を上限に稼ぐ力(純利益 ÷ k)で測り、悲観は稼ぐ力ではなく手元の現金と売れる設備・土地の税後の床で置いた。今の好況の利益は、10年先の純利益には持ち込まず、中立では2027年の水準を実質で保つ姿にとどめた。純現金は 2025 年末で 164 億円、時価総額の約 6%。今春の公募で約 324 億円が入ったが、全額が設備投資に決まっているので余った現金は分けず、自己資本の出発点だけ公募後の 1,124 億円にした。2026〜27年の利益は会社予想で高く決まっているため、期間の純利益の合計は、滑らかな伸びで置いた検査の目安より大きくなる。自己資本の流れはその分を入れて置いた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.0% = 8.5%。大型投資の回収など個別の不確かさは k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。